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暗の使い魔‐15


翌朝。朝もやの中、ルイズと官兵衛そしてギーシュは、馬の背に荷物と鞍をくくりつけていた。
その片手間に、これからの旅路について話し合う。
ちなみに官兵衛の乗る馬は、二人の馬に比べて一回りほど大きく立派なものが用意されていた。
官兵衛の引き摺る鉄球は、並みの男では持ち上げる事すら敵わない。
そんな鉄球をくくりつけられた官兵衛が騎乗するとなると、馬も通常のものでは満足に長距離を走る事は出来なかった。
「お願いがあるんだが……」
準備の途中、ギーシュが困ったように二人に言葉を投げかけた。どうした、と官兵衛が振り返る。
「僕の使い魔を連れて行きたいんだ」
「お前さんの使い魔?」
官兵衛が怪訝な顔で答えた。
「連れて行きたいなら行きゃあいい。どこにいるんだ?」
官兵衛があたりを見回す。しかしそれらしい影はどこにも見当たらない。
ギーシュはにやっと笑うと、地面を叩いた。すると地面の土が盛り上がり、その山の中から茶色い巨大な生物が顔を出した。
「こいつは……」
官兵衛はこの生物に見覚えがあった。たしかヴィリエに決闘を挑んだ時、ギーシュが抱えてた生き物だ。
ギーシュがすさっと屈み、それを抱きしめる。
「ヴェルダンデ!ああ!僕のかわいいヴェルダンデ!」
ヴェルダンテは嬉しそうにギーシュにすり寄る。
「あんたの使い魔ってジャイアントモールだったの?」
ルイズが小熊ほどもあるヴェルダンデを見て言った。
「そうだ。ああヴェルダンデ、きみはいつ見ても可愛いね。困ってしまうね。どばどばミミズはいっぱい食べてきたかい?」
ギーシュがにへら顔で頬ずりするのを見て、ルイズはドン引きした。官兵衛もなにやら可哀想なものを見る目になる。
いくら可愛いとはいえ、ギーシュの使い魔に寄せるその愛情は異常であった。
「ギーシュ。使い魔とのスキンシップの所悪いけど、そのモグラは連れて行けないわ」
「ど、どうしてだね!」
ルイズの言葉にギーシュがいきりたって言う。
「だって私達、これからアルビオンに行くのよ?地中を進む生き物なんて連れて行けないわ」
ギーシュの顔が瞬く間に絶望に染まった。
「そ、そんな……。お別れなんて寂しすぎるよ……。ヴェルダンデ……」
へなへなと地面に崩れ落ちるギーシュ。そんな彼をよそに、官兵衛は巨大モグラを眺めた。
「(モグラ、モグラか……)」
官兵衛はヴェルダンデを見つめていると、いつしか穴倉に置いてきた人懐っこいモグラの事を思い出した。
サイズは大分違うが、あいつもこんなつぶらな瞳をしていて可愛かったなぁ。
発掘作業中いつでも傍に居て、ちょこちょこ付いて来て。
天下を取ると、いつしか約束してきたが元気にしているだろうか。
そんな事を思い浮かべながら、官兵衛はしんみりとヴェルダンデの頭を撫でた。
「ああ、可愛いな……。確かにこいつは可愛い……」
「な、なによカンベエ。まさかあんたまで……」
ルイズは顔を引きつらせながら、そんな男二人の様子を眺めていた。
と、突如ヴェルダンデが鼻をヒクつかせ、ルイズに覆いかぶさった。
「ちょ、ちょっと!」
ルイズの体中を鼻でまさぐるヴェルダンデ。
ルイズは振りほどこうと地面をのた打ち回るも、小熊程もあるジャイアントモールに拘束されてはたまらない。
「ああ、美少女と戯れるヴェルダンデもまた可愛らしいなぁ。絵になるじゃあないか。はっはっは……」
「お前さん。戦ったあの夜、鉄球でもくらったか?」
どこか的外れな感想を述べるギーシュ。そんな彼を真剣に官兵衛は心配した。
「ちょっと!少しは助けなさいよ!きゃあっ!」
ちなみに官兵衛が助けないのは、鬱憤が溜まっている所為である。
そうこうしている内に、ヴェルダンデはルイズの右手の薬指に光る水のルビーに鼻を摺り寄せる。
「この!無礼なモグラね!姫様に頂いた指輪に鼻をくっつけないで!」
「成程指輪か。ヴェルダンデは宝石が好きだからね」
「ほう、随分賢いじゃないか」
官兵衛が感心したように言う。
「そうさ、彼はすごいんだよ。貴重な鉱石や宝石を僕のために見つけてきてくれるんだ」
「マジか!それじゃあ一攫千金も夢じゃあないな……!よければ今度小生にも貸してくれ!」
そんな間の抜けた会話をしている、その時だった。
突如一陣の風が吹きぬけ、ルイズに覆いかぶさるヴェルダンデが吹き飛ばされた。
「ヴェ、ヴェルダンデェーーーーッ!」
ギーシュが、風が飛んできた方向を見て絶叫する。朝もやのなかから長身の羽帽子の貴族が現れた。

暗の使い魔 第十五話 『ワルド』

「貴様アァァァァァァァァッ!」
どこぞの凶王の如く、目から血涙を流しながらギーシュは激高した。
薔薇の造花を振るおうとしたが、先に杖を抜いた羽帽子の貴族が即座にそれを吹き飛ばす。模造の花びらが宙を舞った。
「僕は敵じゃない。姫殿下より、君達に同行することを命じられてね。君達だけではやはり心もとないらしい。
しかし、お忍びの任務であるゆえ、一部隊つけるわけにもいかぬ。そこで僕が指名されたって訳だ」
長身の羽帽子の貴族が、帽子を取ると一礼した。
「女王陛下の魔法衛士隊、グリフォン隊隊長、ワルド子爵だ」
しかしそんな相手を気にした素振りもなく、ギーシュは尚のこと吼える。
「ザンメツしてやるッ!末に広がる十六裂きにッ!」
「落ち着けお前さんっ!味方だ、味方!というか、どこで覚えたその言葉!」
拳を構え、ずんずん突き進むギーシュを官兵衛が全身を使って抑える。
その勢いに、若干引き気味に答えるワルド。
「す、すまない。婚約者が、モグラに襲われているのを見て見ぬ振りは出来なくてね」
「婚約者?」
官兵衛は首を捻った。とりあえずギーシュをバックドロップで沈め、官兵衛はワルドに向き合う。
「ワルドさま……」
ルイズが立ち上がり、震える声で言った。
「久しぶりだな!ルイズ!僕のルイズ!」
「お久しぶりでございます」
ワルドはルイズに駆け寄り、その身体を抱え上げた。ルイズも思わず頬を染める。
「相変わらず軽いな君は!まるで羽のようだね!」
「お恥ずかしいですわ……」
出やがったよ貴族特有の芝居がかったやり取りが、と官兵衛は思った。
正直こういった演劇は、嫌な思い出が蘇る。主に、元居た世界の南蛮宗教の演劇を思い出すのだ。
ここが異世界じゃなかったら、ステージを提供してやるのになぁ、と官兵衛はぼやいた。
「彼らを紹介してくれたまえ」
ワルドはルイズを下ろすと、再び帽子を目深にかぶりながら言った。
「あ、あの……、ギーシュ・ド・グラモンと、使い魔のカンベエです」
ルイズは地面でのびてるギーシュと、官兵衛を指しながら言った。
「はじめまして、だ」
官兵衛は気だるげに挨拶した。
正直官兵衛は、この羽帽子の貴族が気に入らなかった。
実力、地位、人気、全てを持っている。握手など求めてきたら、その隙に左手でグサリとしてやりたいくらいだ。
「君がルイズの使い魔か。まさか本当に人とは思わなかったよ」
気さくな感じで話しかけてくるワルドであった。しかし官兵衛はぶっきらぼうに接する。
「僕の婚約者がお世話になっているよ」
「そうかい、小生も随分世話になってるよ。あの娘っ子にはな」
何やら嫌味ったらしくルイズに向けて官兵衛が言う。それを聞いてルイズはフンとそっぽを向いた。
そんなやりとりを見て、ワルドは目を瞬きさせると、豪快に笑った。
「あっはっは!仲がいいようで何よりだよ!」
ワルドが口笛を吹く。すると、もやの中からグリフォンが現れた。
ワルドはひらりと華麗にグリフォンに跨ると、ルイズに手招きした。
「おいで、ルイズ」
ルイズはそれを見て、ためらう様に俯いたが、やがて顔を上げると静かにワルドの手を取った。
いつの間にか目覚めていたギーシュも、う~んと唸ると周囲を見渡して首をかしげた。
「あれ?僕はいったい何をしてたんだっけ?」
「ほれ、さっさとしないと置いてかれるぞ」
官兵衛の言葉にギーシュは慌てて馬に跨る。そして最後に官兵衛が馬に跨ると、一向は出発した。
「では諸君!出撃だ!」
官兵衛はいつの間にか仕切っているワルドを忌々しく思いながら、馬を走らせた。

学院長室の窓から出発する一行を、アンリエッタは見つめていた。手を組み、目を閉じて祈る。
「彼女達にご加護をお与え下さい。始祖ブリミルよ……」
そんな厳かな雰囲気をぶち壊すかのように、隣ではオスマンが鼻毛を抜いていた。
「見送らないのですか?オールド・オスマン」
「ほほ、姫、見ての通り、この老いぼれは鼻毛を抜いておりますのでな」
アンリエッタが額に手をやった。そこへ、激しいノックとともに、慌てた様子のコルベールが現れた。
「いいい、一大事ですぞ!オールド・オスマン!」
「君はいつでも一大事ではないか。どうしたのかね?」
「チェルノボーグの牢獄から、フーケが脱獄したそうです!門番の話では、さる貴族を名乗る妖しい人物に眠らされたと!
また、どうやら他の囚人を伴って脱獄した様子で!」
コルベールが一気にまくしたてるのを、まあまあとオスマンが宥める。アンリエッタが蒼白になった。
「わかったわかった。その件については後で聞こうではないか」
オスマンがコルベールに退室を促すと、コルベールは渋々いなくなった。アンリエッタは机に手をつき、ため息をついた。
「さる貴族……。間違いありません!アルビオン貴族の暗躍ですわ!」
しかし、アンリエッタの勢いを意に介さず、オスマンは鼻毛を抜きつづける始末。
「どうしてそのような余裕の態度を。トリステインの未来がかかっているのですよ」
「すでに杖は振られたのですぞ。我々にできる事は待つことだけ。違いますかな?」
「そうですが……」
アンリエッタは居ても立ってもいられないといった様子である。
「なあに彼ならば、道中どんな困難があろうとも、やってくれますでな」
「彼とは?あのギーシュが?それともワルド子爵が?」
オスマンが首を振った。
「まさか、あのルイズの使い魔の青年が?彼はただの平民ではありませんか!」
「姫は始祖ブリミルが用いた、最強の使い魔、ガンダールヴをご存知かな?」
「ええ、それが何か?」
アンリエッタは突如ふられた話題に首を捻った。そして、やや黙考の末、オスマンを見つめて言った。
「まさか、彼が?」
オスマンは喋りすぎたとばかりに目を瞑った。
「いやなに、彼はそのガンダールヴ並みに使える、と。そういう事ですじゃ」
はあ、とアンリエッタが口を開ける。
「加えて彼は異世界からやってきたのです。我々の想像も及ばない世界からのう」
「異世界?そんなものが……」
「無いとは言い切れますまい。現に彼は、あのような枷を負いながらも、顔色一つ変えずに様々な事をやってのけました。
我々とは、思考も行動も違う。そんな彼ならば、やってくれると信じておりますでな。余裕の態度もその所為なのですじゃ」
アンリエッタは遠くを見るような目になると、目を瞑り微笑んだ。
「ならば祈りましょう。異世界から吹く風に」

トリステインより馬で二日の距離にある港町ラ・ロシェール。
この港町こそ、現在ルイズ達が目指している、アルビオンへの玄関口であった。
固い岩肌に囲まれたこの町は、常に人口の十倍以上の人間がひしめく。商人、軍人、旅人、そして少なからずのならずもの達。
そんな町の裏通りを、人知れず歩き回る人影が二人いた。
脱獄した盗賊・土くれのフーケと、戦国の武将・長曾我部元親である。
「やれやれ、脱獄に成功したはいいけど、動きづらいったらありゃしないよ」
フーケが物陰に隠れながら愚痴を言う。逃げ出したフーケを捕らえるために、表通りには厳戒な封鎖がなされているのだ。
「どうやってアルビオンに渡ったものかねぇ」
それに対して元親は答えず、隣に座り、涼しい顔で武器の手入れをしている。
元親の手には、身の丈を遥かに超える巨大な槍。槍の穂先には、舟艇を固定する碇のようなものが、存在を誇示する。
長曾我部元親の自慢の得物、碇槍であった。

長曾我部元親は四国の地を治める武将である。
彼が突然にこの世界に放り出されたのは、約一週間前のことであった。
彼は、豊臣と毛利の間に怪しい動きがあるという情報を、雑賀衆頭領・雑賀孫市から手に入れた。
四国の長曾我部は、故あって豊臣の石田と親交がある。
しかしながら、長年西の海の覇権を争って睨みあって来た宿敵・毛利元就とは未だに敵対している。
彼は毛利と問いただそうと思い、船を出した。
いや、『それ』は船と呼ぶには語弊があるだろう。その山をおもわせる巨大なモノは。
それは、国の財政が傾くどころか火の海に沈むほどの資金、それをつぎ込んだ元親の最高傑作。
最高の技術、そして最高の漢の浪漫を凝縮させた、この世に二つとない代物。
元親は、百の鬼を束ねて海を制覇する、そんな想いを込めてその最高傑作をこう名づけた。
海賊要塞・百鬼富嶽、と。
百鬼富嶽には最新鋭のカラクリ兵器も積んであった。戦の準備は万端、と意気込んでいた長曾我部軍。その時だった。
なんと、彼の操る移動要塞・百鬼富嶽の上空に、暗黒の空間が姿を現したのだ。
星が煌き、宇宙空間を思わせるそれは、要塞全てを飲み込まんと迫ってきた。
混乱する長曾我部軍。得体の知れない現象におののいた彼らは、元親の指示のもと脱出を決意。
乗組員が逃げ切り、脱出は元親を残すのみとなった時、彼はその空間に飲み込まれてしまったのだ。

「で、気がついたら一人ハルケギニアにいたって?ハハハッ!冗談はやめておくれよ!」
「ウソじゃねえっ!海の男はウソなんかつかねえっ!」
「嘘じゃなかったら変だよアンタ!だいたい、移動する城?そんな馬鹿げたもん、作る発想も技術も、このハルケギニアには無いよ!」
フーケに話しても笑うだけで、信じて貰えなかった。

その後、右も左もわからず、町や村をさ迷っていた彼は、ふとした事である騒ぎを起こす事になる。
彼が首都トリスタニアを歩いていると、そこには配下をぞろぞろと引き連れた貴族。
いかにも偉そうなその貴族は、道の真ん中を堂々と闊歩する元親を見るなり、因縁をつけてきたのだ。
この世界のルールを知らない元親は、そんな貴族に即座に喧嘩をふっかけた。
配下のメイジを殴り倒し、その貴族に碇槍を突きつけた。その結果、魔法衛士隊がやってきた。
流石の戦国武将も、魔法の手ごわさと汎用性を知らなければ不覚を取る。
元親は、『くもの糸』という魔法で幾重にも縛り上げられた上、スリープクラウドをくらいお縄となった。
そしてフーケとともに脱獄し、今に至るわけである。
その様に、この世界で行くアテのない彼は、フーケに付き合い、警備の厳重なトリステインから一時撤退する計画を立てた。そのためアルビオンという大陸に渡ろうとしていたのだ。

「全く、貴族に喧嘩売るなんて何考えてるんだい」
「テメェが言うな。だいたい何だ、貴族だの何だか知らねえが、田舎モンがよ」
フーケは、元親から詳しく話を聞くなり、呆れ果てた。よもや貴族に喧嘩をふっかけて牢に入れられる奴が居ようとは。
最もそれを言えば自分も、散々貴族相手に盗みを働いた挙句捕まったクチだが。フーケは苦笑しながら元親の話を聞いていた。
「それよりも、だ」
槍を手にしながら、元親はつまらなそうにフーケに尋ねる。
「アルビオンって大陸に渡るにしちゃあ海が見当たらねぇぜ?潮の香りも漂ってこねぇ。ここが港町か?」
元親は心底がっくし来たように肩を落とした。
元親は、武将であると同時に、海賊団を率いる海の男でもあった。彼は当初、大陸に渡ると聞いて内心ウキウキしていたのだ。
こちら側に来て初めての海。一週間そこらとはいえ、潮風が恋しい。
そんな彼だったが、進めど進めど一向に海になど辿り着かない。むしろ険しい山道を登る一方である。
いい加減痺れを切らして、元親はフーケに尋ねた。するとフーケは。
「何言ってるんだい?海なんか越えないよ?」
彼にとって衝撃的な一言を言い放った。
「んだと!?」
元親は目を見開き、フーケにくってかかる。
「バカ言うんじゃねぇ。じゃあどうやってアルビオンとやらに渡るんだ」
「あんたアルビオンを知らないのかい?」
フーケが呆れたように元親に言った。元親が知るか、と声を上げようとしたその時である。元親の右目が鋭く煌いた。
同時にフーケも、異様な気配を感じてあたりを見回す。
裏通りにちゃきり、ちゃきりと刀の唾鳴り音のようなものが響き渡った。
音の方角に目を向ける二人。聞けば、唾鳴り音とともに、ガシャガシャと甲冑の擦れる音まで聞こえてくる。
その音は、闇の中から真っ直ぐ此方に向かってきていた。
「もうお出ましかい。早いね連中は」
フーケが舌打ちしながらそう言った。この状況で、二人が警戒するべき相手は二種類いた。
一つは、脱獄したフーケらを捕らえようとするトリステインの衛士達。
そしてもう一つ、それは秘密を知ったフーケ達を始末しようと目論む貴族の連盟。
「レコン・キスタ……!」
「その通りだ」
驚くほど淡々とした声が、暗闇の奥から響いてきた。
「察しがいいな」
と、今度はフーケの背後から同じような声が聞こえてくる。
「だが、もう遅い」
元親の頭上から三つ目の声が響くと同時に、元親は後ろに飛びすさった。
元親がいた箇所に、黒い影とともにズドン!と刀の先端が振り下ろされた。
地面の岩盤が砕け、僅かな岩片が飛び散る。まともにくらったら一刀両断にされかねない、強烈な一撃であった。
「モトチカ!」
フーケが、突如屋根から降ってきた黒い影に土の弾丸を放った。
影が、土の弾丸を顔面に喰らい吹っ飛ぶ。するとフーケの背後から、ひゅっと風切り音が響いた。
振り返ると、背後の影から白刃の刃が打ち下ろされようとしていた。しかしフーケは動かない。
ガキンと鈍い音がして刃が受け止められる。見ると、いつの間にか練成されていた鉄の壁が、フーケの背後を守っていた。
即座にその場から退避するフーケ。すると、鉄の壁を裂いて、白刃の薙刀がフーケのいた地面を貫いた。
「んなっ!?」
フーケは目を見開いて驚愕した。仮にもこの自分が練成した鋼鉄を、いともたやすく剣で切り裂くとは。
そのまま地面に刺さった刃目掛けて、錬金を唱えるフーケ。しかし、相手の薙刀は土くれに変化しない。
どうやら、強力な固定化が施されているらしい。自分の錬金を跳ね除けるとは、どれ程強力な使い手の固定化だろう。
さすが、革命を起こすだけあって、レコン・キスタはメイジが揃っている。フーケは悔し紛れに唇を噛んだ。
「チィッ!」
と、突如元親が苦しそうな声を上げた。見ると、先程土弾をくらわせたはずの影が起き上がり、元親と鍔迫り合いをしていろ。
元親が気合を込めて相手の薙刀を弾き返す。と、相手の顎に強烈な蹴りを喰らわせた。
そのまま槍を振り回し、相手を薙刀ごと彼方に突き飛ばす。
「おいフ-ケ!逃げるぞ!」
「ああ!」
フーケがルーンを唱え、杖を振り下ろす。すると、地鳴りとともに地面が盛り上がり始める。
見る見るうちに屋根の高さまでのゴーレムが出来上がった。ゴーレムの肩に乗る二人。それを見上げる三人の刺客。
フーケと元親は、岩で出来た足場に飛び乗ると、屋根づたいに駆け出した。

「奇襲は失敗だな」
「追わないのか?」
「いや、時間だ」
三人の男は、獲物を追おうともせず、ただ静かに立ち尽くしていた。
三人はもとより長々交戦するつもりは無い。速やかに奇襲をかけ、一撃で仕留める手はずであった。
しかしそれが、予想以上の人物に出会い手間取ったため、深追いをやめたのだ。
「絶望に、押しつぶされていなかったな」
「しぶといな」
「全くだ」
取り逃がした眼帯の男を思い浮かべながら、三人は淡々と呟く。そこへ、闇の中から一人の仮面の貴族が現れた。
三人が貴族に向き合う。
「逃したか、まあいい。流石は土くれだな。それより――」
仮面の貴族は三人を一瞥すると、静かに言った。
「連中が、じきにこのラ・ロシェールに辿り着く。手はずはいいな?」
「心得た」
「承知した」
「行くぞ」
それぞれが言葉を呟くと、三人は即座に跳躍。三メイルはある岩の屋根に飛び乗り、駆け出した。夜空に月が浮かび上がる。
もうすでに、連中は入り口に差し掛かっている頃だろう。第一段階は傭兵集団にまかせてある。
あとは、あの三人をどう動かすかだ。仮面の貴族は、そんな事を考えると、人知れず呟いた。
「どんな手を使ってでも、求めてみせる。必ずな……」
短く、静かに笑う男の影が、風に吹かれると同時に霞のように消え去った。

「や、やっと着いた。どうなってるんだ、君も、あのワルド子爵も……。化け物か……」
官兵衛達は、途中何度も馬を使い潰して、二日掛かるラ・ロシェールまでの距離を一日で走破した。
すでに日は落ち、二つの月が夜道を照らす。
ちなみにルイズとワルドはグリフォンに騎乗しているため疲れ知らずであり、遥か先にまで行ってしまっている。
慣れない長時間の乗馬のためか、ギーシュが馬の上でへばりながら先程のような言葉を愚痴る。
しかし、肩に鉄球を担いだ官兵衛は、平然とした顔で先を見やっていた。
「まあ、もうじき着く。馬での長旅とは一先ずおさらばだ」
官兵衛は、疲れ果てたギーシュを落ち着けようとそう言った。
最もこの程度の事でへばっていては密使など務まらないのだが。
ましてや、目的地は今にも滅びそうな王朝の陣中である。おまけに、いつ貴族派の妨害にあうかも知れない。
拙速を尊ぶのは当然であった。そう考える官兵衛であったが、ギーシュも秘密を握っている以上、捨て置くわけにはいかない。
やれやれと、馬を止めると、官兵衛は懐から水の入ったポーチを取り出し、ギーシュに投げてやった。
ゴクゴクと喉をならして水を飲むギーシュを尻目に、官兵衛は目の前の道を険しい顔で眺めていた。
目前には、険しい崖に挟まれた、ラ・ロシェールへと続く山道が続いていた。
官兵衛は用心した。高所、そして遮る物のない夜道。奇襲を行うには最適の地形と言えた。
武将としての勘が警鐘を鳴らす。
(迂回するか?しかし一本道だ……)
迂回すれば町に入るまでどれほど時間がかかるか知れない。ここは慎重に馬を進める事を選んだほうがいい。
官兵衛は即座にそう判断すると、水を飲んでいるギーシュに告げた。
「お前さん、杖を構えておけ」
「ぷはぁっ!一体どうしたね?」
ボトルから口を離し、ギーシュが言われるままに杖を取り出す。
官兵衛達が合図し、二人は慎重に馬を進めた。官兵衛の唯ならない様子に、手綱を握る手に力が篭るギーシュ。
やがて渓谷に挟まれるようにして町明かりが見えた。と、その時である。
崖の上から、二人目掛けて何本もの松明が投げ入れられた。
「うわあっ!」
驚いた馬が前足を高々と上げる。ギーシュが馬から放り出され、悲鳴をあげた。
官兵衛は、松明が投げ入れられると同時に馬の背を蹴って飛び上がった。
すると、スココンと、何本かの矢が馬の足元の地面に突き刺さる。
「奇襲だ!」
ギーシュが叫びながら立ち上がろうとした。しかし官兵衛が大声でそれを制す。
「あのゴーレムを出せ!」
官兵衛の声にハッとすると、ギーシュは薔薇の造花を振るった。
瞬く間に青銅のワルキューレが練成され、ギーシュの盾となる。
それと同時に、無数の矢が唸りをあげてズガガガッ!とワルキューレに突き刺さった。
「うわっ!」
ギーシュは青ざめた顔でその光景を見ていた。
官兵衛は、空中で身を捻ると、力任せに鉄球を蹴り飛ばす。鉄球が崖の岩肌に激突し、地震の如き揺れを引き起こした。
すると、崖上で男達の悲鳴が聞こえ、大勢が情けなく転がり落ちてきた。
官兵衛はずしんと地面に着地すると、岩肌に埋まった鉄球をぐいと引き寄せた。
がらがらと岩壁が崩れ落ち、鉄球が手元に戻ってくる。
「これで全部……じゃあなさそうだな」
官兵衛が気だるげに呟いた。
するとその言葉の通り、今度は反対側の崖から矢が飛んでくる。
官兵衛が咄嗟に手枷を構えた。だが、次の瞬間であった。
突如、官兵衛の目前の空気がゆらぎ、小型の竜巻が発生したのだ。
竜巻が飛来する矢を巻き込み、あさっての方角に弾き飛ばす。
「大丈夫か!」
官兵衛は声の方角を見やる。見ると、グリフォンに跨ったワルドが杖を掲げていた。
ワルドは次々に飛んでくる矢を風の魔法で逸らしながら、こちらに駆けてくる。
「た、助かった……」
ギーシュが安堵のため息をついてよれよれと立ち上がった。
官兵衛が、第二波の矢が飛んできた方向を睨む。
何故かもう矢は飛んでこない。そんな不自然な奇襲を、官兵衛は怪しんだ。
「夜盗か山賊の類か?」
ワルドの呟きに、ルイズがはっとした声で言った。
「もしかしたら、アルビオン貴族の仕業かも……」
「貴族なら、弓は使わんだろう」
ワルドがそう否定する。その時、夜風の音に紛れて、バッサバッサと羽音が聞こえた。
すると、崖の上から悲鳴が聞こえ、またもや大勢の男達が落下してくる。
何かしらの魔法を受けたのか、所々焼け焦げた跡や擦り傷で、満身創痍であった。
官兵衛は男達の受けた魔法の痕跡と、羽音から、即座にアタリをつけた。
そして、その答えを示すように、月をバックに見慣れたシルエットが空に現れた。
ルイズが驚き声を上げる。
「シルフィード!」
そう、それは確かにタバサの操る風竜、シルフィードであった。
シルフィードが砂埃を舞い上げながら、その巨体を着地させる。
すると、その背中からキュルケが飛び降り、髪をかきあげながら言った。
「お待たせ」
「何であんたがここにいるのよ!」
ルイズは声を張り上げながら、得意げに佇むキュルケに食ってかかった。
「だって。今朝方、起きてみれば貴方達、馬で旅支度してるじゃない。
気になったからタバサに頼んで後をつけてもらったのよ」
見ればシルフィードの上で、タバサはパジャマ姿で本を読んでいる。恐らくは、寝起きを叩き起こされたのだろう。
「お前さんも、随分と難儀するな」
同情の言葉をタバサに掛ける官兵衛。タバサは官兵衛をチラリとみやると、気にした風も無く再び本に目を戻した。
「あのねツェルプストー。これはお忍びなのよ?」
「お忍び?だったらそう言いなさいな。わからないじゃない!」
キュルケが手を広げて言った。
「とにかく、感謝しなさいよね。あんた達を襲った連中を捕まえたんだから」
キュルケは、崖の上から落ちてきた男達を指差した。男達は皆一様に鎧を着込み、弓矢や剣を携えている。
顔や腕についた生々しい傷跡が、歴戦の傭兵である事を窺わせた。成程、確かにこいつら自身はメイジではない。
だが、だからといってこの襲撃に貴族派が絡んでいないとは限らない。かく乱のために兵を雇う事は十分にあり得た。
ギーシュが近寄り尋問する。
「君達、一体何者かね?どうして僕らの命を狙ったんだい?」
ギーシュはさっと髪をかき上げ、左手を胸に仰々しく当てたポーズをとりながら、右手で杖を突きつけた。
先程まで矢に怯えていたにも関わらず、自分の安全が確保された途端、キザに振舞うギーシュ。
そんなギーシュを見て、傭兵一団は目をぱちくりさせる。キュルケは呆れて手をすくめた。
「答えたまえ。さもなくば僕の青銅のゴーレム、ワルキューレが黙っていないよ」
ギーシュが優雅に杖を振るう。模造の花びらがこぼれ、地面に舞い落ちる。しかしゴーレムはいつまで経っても現れない。
先程、矢を防ぐ為に精神力を全て使い切ってしまったのであった。
ギーシュは滝の様に汗を流しながら、傭兵一団から目を逸らした。
男達は、微かに笑みを浮かべると、こりゃ丁度いいとばかりに嘘八百を並べ立て出した。
曰く、自分達はただの物取りである。襲うなら誰でも良かった。貴族とは思わなかった、等々。
そんな、いかにもな回答を聞くと、ギーシュは満足したのか杖をおさめ、ワルドに告げた。
「子爵、あいつらはただの物取りだ、と言っています」
「ふむ……、なら捨て置こう」
ワルドがそう言うと、男達はほっとしたように顔を見合わせた。これであのおっかない雇い主にどやされないで済む、と。
だが、その時であった。
ズドン!と地震のような地鳴りがして大地が揺れた。傭兵一団が、どわあっと慌てふためいた。
見ると、官兵衛が鉄球を地面に打ち下ろし、ギロリと男共を見据えている。
官兵衛は無表情で、ゆっくり一歩一歩と傭兵達に近づいた。
「な、なんでぇ」
傭兵の筆頭格と思われる男が、そんな官兵衛に対して恐る恐る口を開いた。
だが官兵衛は答えず、淡々とした口調でただ一つの質問を投げかけた。
「お前さん、右と左どっちだ?」
「は?」
男が首を傾げた。
「残すほうの足だよ」
官兵衛が、変わらず無表情で言った。しかし、その眼光は鋭い。その言葉に、傭兵の頭は青ざめた。
官兵衛が手枷ごと鉄球を構えると、地面に一直線に振り下ろす。轟音がラ・ロシェールの荒野に響き渡った。
「ひぃぃぃっ!」
男達は恐怖した。
官兵衛が鉄球を振り下ろした箇所には、直径3メイル、深さは1メイルはあろうクレーターが出来上がったのだ。
こんな凄まじいものを喰らったら、足どころの騒ぎではない。
「右か左か。選ぶんだな」
「ひ!言います!洗いざらい白状します!」
歴戦の傭兵はいとも容易く、雇い主の情報を漏らした。
傭兵一味を雇ったのは、仮面の男。崖下に馬が通りかかったら襲えといわれていた事。他にも雇われた連中が居る事。
頭とその連中は、情報の洗いざらいを吐いた。それを聞くと、官兵衛は静かに頷き、ワルドを見据えて言った。
「だ、そうだ子爵」
「ふむ、アルビオン貴族派の仕業かもしれない、ということか」
ワルドは顎に手をやり、しばしの黙考の後に全員に告げた。
「ひとまずその白い仮面の男とやらが気になるが、先を急ごう。今日はラ・ロシェールに一泊して明日の朝にアルビオンへ渡る。」
ワルドは颯爽とグリフォンに跨ると、ルイズを抱きかかえて駆け出した。
ワルド以外の全員はしばし官兵衛の行動に呆気にとらわれていたようだが、すぐに気を取り直した。
「すごい!すごいわダーリン!頼もしい!やっぱりあんなヒゲよりダーリンね!」
キュルケが官兵衛に抱きつこうとしてきた。ワルドに対して嫌悪感を露にするキュルケ。
先程キュルケがワルドに言い寄っていたのが見えた。大方あしらわれたか何かしたのだろう。
それほどでもない、と鼻を鳴らしながらも、官兵衛はしてやったりという表情をした。
「すまない、僕がもっとちゃんと尋問しておけば……」
ギーシュが申し訳無さそうに官兵衛に言った。しかし官兵衛は首を振り静かに、気にするな、と呟いた。
官兵衛達は、馬と風竜に乗り込むと、即座にワルドのグリフォンを追った。



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