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Neverwinter Nights - Deekin in Halkeginia-44


「待って。……それじゃあ、あの小屋をこっそり調べてきてもらえる?
 中に誰かいるかどうかと、その人が悪者かどうか、あと宝物みたいなのや魔法の品物がないかとか……」

ディーキンは、口々に質問を浴びせて来ようとする仲間たちとはしゃぎまわるクア・エラドリンたちとを手で制すと、そう指示を出した。

《怪物招来(サモン・モンスター)》の持続時間は短いのだ。
もたもたしていたら、何もしてもらわないうちに効果が切れてしまう。

「ははあ、偵察ね。オーケー、任せて!」
「こっそり……ってことは、みんなとお喋りできないのね。つまんないな~」
「なになに、あなたたちって義賊? それとも悪者退治の最中とか?」

妖精めいた少女たちは、無邪気に笑ってはしゃぎ続けながらも従順に指示に従い、早速偵察の準備を始めた。
くるくると飛び回る彼女たちの体が仄かに発光し始めたかと思うと、瞬く間に透き通った色とりどりの光の球体状に、その姿を変える。

『偵察だから、もっと光の量を落とさなきゃね』
『向こうに付いたら役割分担しましょ、私は魔法の品物を探すわ』
『みんな、しーっ! 静かにしなきゃ、こっそり探せないでしょ』

そんなことを話しながら体から発する光の量を落していくと、非実体の形態に変化した彼女らはほとんど目に見えなくなった。
おしゃべりを中断すると、そのまま音もなく飛行して、小屋の方へと向かって行く。

ディーキンはその様子を見守りながら、満足そうに頷いた。

クア・エラドリンにはさほどの強さはないが、無邪気でおしゃべり好きな性格に反して、非常に優れた隠密性を有している。
彼女らは非実体の光球形態をとることができ、その状態ではほとんど目には見えないし、音も立てない。
それでいて馬と同じくらい速く、完璧な飛行機動性で飛び回って移動し、壁などの固体を自由に通り抜けて進むこともできるのだ。

しかも《魔法の感知(ディテクト・マジック)》や《悪の感知(ディテクト・イーヴル)》の疑似呪文能力を自在に使える。
それらの能力で、小屋に入る前に中の様子をある程度探ることもできるだろう。

よって偵察役には、まさにうってつけの人材であるといえよう。
召喚しておける時間は2分弱ほどだが、3人がかりで小屋ひとつざっと調べる程度ならそれで十分に過ぎるはずだ。

「ちょ……、ちょっとディーキン、あの子たちは一体……、」

「待ってルイズ、今は調査の時間なの。お話は後だよ。
 偵察役が行ったの。みんな打ち合わせ通り、周りを警戒して!」

ディーキンが小さいが鋭い声でそう注意すると、みんなはっと我に返った。
慌てて散開すると、めいめい小屋の様子を伺いやすい茂みに身を隠しながら、周囲を警戒する。

ディーキンは仲間たちが散らばっていく前に、抜け目なく全員に対して《伝言(メッセージ)》の呪文を発動しておいた。
これがあれば、離れて散開していても密かに連絡を取り合うことができる。



適当な茂みに身を隠しながら、フーケはいささか混乱気味の頭で思い悩んでいた。

学生どもなど、トライアングルだろうがシュヴァリエだろうが百戦錬磨のメイジである自分の敵ではない。
この間はドットクラスの学生相手に決闘で勝ったようだが、平民の使用人など問題外である。

亜人の使い魔は風変りな先住魔法を使ったり、詩歌や器楽の優れた才能を持っていたりはするようだが、所詮はガキだろう。
他の奴らと連携したり小細工をしたりする暇もなく叩き潰せば、どうとでもなる。

―――ついさっきまでは、確かにそう思っていたのだが。

あの亜人、今度はこともなげに、伝説の妖精みたいな連中を召喚して使役するわけのわからない呪文を使って見せやがった。
ただのガキにしては、いくら何でも並外れた技や呪文が次々に飛び出してきすぎてやしないだろうか?

(もしかしてあの亜人、下手に手出ししたらヤバい奴なんじゃないだろうね)

エルフや吸血鬼のように、見た目によらない強さや危険さを持つ亜人というのはいるものだ。
本人はコボルドだといっているそうだがこちらで見られるコボルドとは明らかに別の種族だし、強さも同程度とは限らない。

とはいえ、どんな変わった技や魔法を持ち合わせていようが、使う間もなく叩き潰せば問題ないはずだ。

その考えは変わってはいない、変わってはいないが……。
相手があまりに予測し難い存在で、正体や手の内がまるで見通せないことが、フーケの胸中に一抹の不安を生じさせていた。

(……この場でこいつらを始末するほうが楽か、それとも一旦返して盗み直すほうが安全か……)

実に難しくかつ重要な問題で、悩ましい。

とはいえ、今の段階ではいくら考えてみても、正確なところがわかるはずもないのも確かだ。
今後の状況の推移を見て臨機応変に対応するしかないと腹をくくって、フーケは気を引き締め直した。

(なあに、腕が立とうがなんだろうが、結局このガキどもはみんな私を疑っちゃいない。
 ちょろい連中さ、ヘタを踏まなきゃなんとでもなるよ!)

とにかく今は、あの亜人のガキが宝物の使い道をちゃんと調べられることを祈っておこう。
ここまで面倒なことをしておいて、結局収穫なしだったというのではたまらない……。



(もしフーケがいたら、今度こそ私が捕まえてやるわ!)

小屋に比較的近い茂みに隠れながら、ルイズはその胸の内で熱意の火をめらめらと燃やしていた。
彼女は正直なところ、昨夜からいささかフラストレーションが溜まっているのだ。

フーケの巨大ゴーレムを撃退するのに、自分がまるで役に立てなかったことは悔しかった。
そのゴーレムを破壊するのに、まがりなりにも自分の使い魔であるディーキンが主人を差し置いてキュルケと協力したことも不満だった。
今朝の会議でも、自分よりディーキンのほうが断然目立っていたし、有力な情報を持ってきたのはミス・ロングビルだった。

ルイズは何も、ことさらに他人の功績を妬んだり、僻んだりしているわけではない。
ただ、メイジなのに魔法が使えないという劣等感はある。
ディーキンやエンセリックの助力によって自分の力の性質はある程度分かってきたとはいえ、長年抱いてきたその思いはやはり根強く残っているのだ。
だからこそ、自分も貴族らしく働きたい、周囲の者の役に立って認めらるようになりたいという気持ちは人一倍強かった。

それにディーキンによれば、彼の慕う“ボス”という男は、偉大な業績を遺した英雄なのだという。

そんなに詳しく聞いたわけではないが、今まで聞いた限りの話では、その人物は平民の戦士なのだろう。
平民の戦士に一体どれほどの力があるというのか、そんなに大きな功績がたてられるものなのかと、いささか胡散臭くも思った。
でも、少なくとも人格的には、きっと尊敬できるような人物なのだろう。
その人の話をする時、ディーキンはいつも、心底憧れているといった様子で目を煌めかせているから。

(私だって、やってみせるんだから……)

ルイズには、今でもディーキンが自分にちゃんと敬意を払って、尊重してくれていることはわかっている。
今回の件で役に立てなかっただとか、そんなことでディーキンが失望したりしないのも理解している。
だが主人としては、その男には負けたくない、自分の使い魔から自分もそれ以上に認められたい、という気持ちは当然ある。

そうでなくとも、貴族としては、力や働きにおいても、精神性の面においても、平民に劣るわけにはいかない。
何も平民を見下しているからではなく、それが貴族として、高貴な地位に立ち他人を導いていくべき者としての、当然の義務だと彼女は信じている。

ましてや、自分の両親は……、特に母親は、生ける伝説とまで謳われたほどの力を持ち、数々の偉大な功績を遺した英雄なのだ。
その両親の名にかけても、平民の英雄に後れを取るわけにはいかないと息巻いていた。

(あんたの“ボス”がどれほどの人なのかは知らないけど、私だって……!)

自分の価値を証明する機会を渇望するルイズは、フーケがここに姿を現してくれることを期待していた。



しばし緊張した時間が流れたが、それもそう長くは続かなかった。
ものの1分も経つか経たないかのうちに、小屋へ向かったクア・エラドリンたちがディーキンの下へ戻ってくる。
そうして、口々に報告した。

『中には、だぁれもいないわよ?』
『全然使ってる様子が無いの。あ、でも、一度くらいは誰か入ったみたいね』
『そうそう、すごい宝物が置いてあったものね!』

「オオ……、そうなの?」

とディーキンは意外さ半分、喜び半分のといった感じの声を上げた。
てっきりこの小屋は外れかと思っていたが、どうやら本当にフーケの宝の隠し場所だったらしい。

「ええと、じゃあもう少し詳しく話してくれる?」

ディーキンがそう促すと、3人はまた口々に、思いつくままにいろいろな報告を始めた。

『チェストの中に杖があって、魔力を感知したらすごい眩しかったのよ! あんなのは初めてだわ』
『それに、魔力はなかったけど、なんだか変な形の珍しい金属の棒みたいなのもあったわね』
『他にはガラクタばっかり! ぜんぜん手入れされて無いし。本当、ほこりがついて洋服が汚れちゃうような格好で入らなくてよかった!』

「ふうん……?」

ディーキンはそれを聞いて、不思議そうに首を傾げた。
その杖と金属の棒みたいなものは、おそらく学院から盗み出されたというお宝だろう。
しかし、ミス・ロングビルが樵から聞いた話によれば、フーケは日常的にこの小屋に盗んだ宝物を隠しているらしいとのことだったが……。

(他の宝物は、もうみんな売りに出しちゃったのかな?)

だとしても、ろくに出入りした様子がなかったというのはやはり妙な話だ。

あるいはフーケはこの小屋を利用していることを悟られないために、毎回巧みに痕跡を消しているのだろうか?
それほど用心深い者が、樵に何度も目撃されたことに気が付かないなんてあり得るのだろうか?

「ンー……、ねえ、小屋の中には何か罠みたいなものはなかった?
 扉とか、床とか、杖の置き場所とかに……」

なんだかよくわからないがとにかく不審な状況なので、念を入れてそう質問してみる。

『ええ? さあ……、私、罠には詳しくないから』
『私たち、この格好だと扉とか箱とか通り抜けちゃうから、普通の罠はあっても引っかからないもんね』
『まあ、魔法の罠はないんじゃない? あの杖以外からは魔力とか感じなかったし』

「うーん、そうだよね……」

ディーキンは顔をしかめて、ちょっと頬を掻きながら考え込んだ。
何か不自然なのは間違いないが、どうにもよくわからない。

自分たちは、何か大事なことを見落としてでもいるのだろうか。
だとしたら、本当は一体何に警戒するべきなのか?

『―――調査の結果は?』

その時、やや離れた茂みに隠れていたタバサから、風に乗せてそんな質問の言葉が運ばれてきた。

ディーキンははっとなって、少し首を振ると思案を打ち切った。

とにかく、お宝は見つかったのだ。
あれこれ細かいことを考えるのは、回収を済ませてからでもいいだろう。

念のため、罠がないかなどはこちらでも調べてからにするとして……。
その前に、ひとまずこのおしゃべりで陽気な少女たちには、もう帰ってもらってもいいだろう。
どうせ持続時間もそろそろ切れるのだし、これ以上いてもらう用事もあるまい。

そう考え、丁重にお辞儀をして礼を言うと、彼女らに別れを告げた。

「アア、ディーキンはあんたたちに感謝するよ。
 来てくれてありがとう。もう、帰ってもらっても大丈夫なの」

『あらもう? せっかく物質界に来たのに、残念ね~』
『また呼んでね、きっとよ!』
『じゃ、バ~イ!』

少女たちは口々に別れを告げると、ぱあっと細かな光の粒子状になって、跡形もなく消え去った。

「もちろんなの。じゃあね、お姉さんたち」

まあ彼女たちのほうがディーキンより年下という可能性も微粒子レベルで存在しているかもしれないが、こまけぇこたぁいいんだよ。

ディーキンはそうしてクア・エラドリンたちを帰還させると、ひとまず全員に、彼女らの調査結果を説明することにした。
小さな声で囁き、先程かけた《伝言》の呪文を介して仲間たちにメッセージを送る。

「―――ええと、みんな聞こえる?
 とられた宝物は中にあったみたいだよ。でも、フーケはいないみたいだね。
 ディーキンが罠がないか確かめてから小屋の中の宝物を回収するから、みんなはそのまま見張りを続けていてほしいの。
 ……聞こえてたら、小さい声で返事をして。ディーキンには、それでわかるからね」

『……あなたは、罠を調べることもできるの?』

他の面々からはすぐに了解の返事が返ってきたが、タバサだけは好奇心をそそられたのか、そう質問してきた。

「もちろん。ディーキンには自信が……、まあ、その、ちょっとはあるの、たぶん。
 なんせコボルドは、罠に詳しい種族だからね!」

『……そう。じゃあ、任せる』

コボルドが罠に詳しい種族だというのは、本当のことである。

腕力と耐久力に劣る小柄なコボルドは、身を守るのには主に姑息な策略や、数の力、魔法の力、そして罠の力に頼るのだ。
種族の守り神であるカートゥルマクも罠を好み、それを使うことを大いに奨励している。
だから、コボルドの部族には罠作りを専門にするエキスパートが大勢いるし、その洞窟は大抵、大量のトラップで守られている。
特にガラクタ同然の材料から罠を組み上げる手腕においては、おそらくコボルドに勝る種族はないだろう。

もっとも、ディーキンは特に罠作りや罠外しの専門家というわけではない。
前の主人の下では最初コボルドの族長になるための教育を受けていたから、いちおう若干の知識や訓練は与えられてはいる。
待ち伏せを仕掛けたり、防御陣地を築いたり、的確に罠を張ったりしてコボルドの民を守る方法は、族長が知っておかなければならないことなのだ。
とはいえ、それは随分と昔のことだし、当時は族長になどなりたくもなかったから、やる気もさっぱり起きなかった。
純粋に技量だけを頼りに罠を見つけようとするには、自分の力量は何とも頼りないものでしかない。

だがそれは、様々な工夫や魔法の力で、ある程度は補うことができよう。
罠の有無を確認する手順については、コボルドの洞窟で学んだことのほかに、冒険者としての活動中にも色々と先人の知恵的なものを学習しているのだ。
ディーキンは一応周囲を警戒しながら茂みから出て、ささっと素早く小屋の傍へ近づいた。

まず、小屋の外周をぐるっと回って角度を変えながら、《魔法の感知》で内部の魔力をくまなく確認してみる。
結果は先程のクアたちの報告にあったとおり、強烈な魔力の反応がひとつあっただけで、その他の魔力源はなかった。

これでひとまず、魔法的な罠が無いことは確かめられたわけだ。
それにしても、この反応からすると『守護の杖』とやらはデルフリンガーと同じで、エピック級のマジックアイテムかアーティファクトらしい。
まあ、相当な伝統のある魔法学院の秘宝だというのだから、そのくらいな物であってもおかしくはないだろうが。

次に、機械的な罠の有無を調べにかかろう。
荷物袋から変わったデザインのコンパスを取り出すと、合言葉を唱えて起動させる。
針がくるくると回転し始めると同時に体に魔法的な力が浸透してきて、ディーキンは自分の中である種の感覚が冴え渡っていくのを感じた。

これでディーキンは、しばらくの間は本職のローグにも引けを取らないほどに確かな精度で罠を発見できるようになった。

この『商人のコンパス』は、アンダーダークで呪いに囚われたアヴァリエル(有翼エルフ)の国を探索したときに手に入れた、ユニークな魔法の品である。
合言葉を唱えて起動させることで、一日に数回、使用者に《罠発見(ファインド・トラップス)》の呪文と同様の恩恵を与えてくれるという優れ物なのだ。

これは、本来は強欲だったのが呪いにかかって性格が反転し、財産をすべて手放そうとしていたアヴァリエルの商人から譲り受けた貴重な品だ。
後にその呪いは解けたものの、彼らはすぐにアンダーダークを去っていってしまったため、今日まで返却の機会が無かった。
そのため、今でもディーキンが預かって有効に活用している。

ディーキンは早速荷物袋からレンズを取り出すと、それを使って注意深く扉の周囲を調べ始めた。

十分な時間をかけて小屋の周辺や扉に罠が無さそうなのを確認すると、念には念を入れて扉からいったん離れる。
それから、毎朝影術の《従者の群れ(サーヴァント・ホード)》で作成している『見えざる従者』たちのうちの一体に命じて、扉を開けさせた。

これなら、万が一見落としがあって何か罠が発動しても、まず自分は巻き込まれずに済むわけだ。

幸い見落としは無かったようで、何事もなく扉が開いた。
さらに続けて、従者たちに命じてそこらに転がっている手頃な大きさの岩を小屋の中まで押して運ばせ、一通り中を転がして回らせる。

人間の体重と同じくらいの重量の岩を小屋の中に転がさせても、何も罠が発動しないことを確かめてから、ディーキンはようやく小屋の中に入った。



「………」

タバサは、ディーキンが入念な調査をしている様子を、やや離れた場所からじっと観察していた。

彼が何をしているのかすべてわかったわけではないが、どうやら自分の技術と魔法と、それにいろいろな道具などを組み合わせて活用しているようだ。
しかもそれを過信せずに、たとえ見落としがあっても可能な限りリスクを避けられるような工夫もしているらしい。
その姿は慎重だが自信にあふれていて、こうした仕事に手慣れていることを感じさせた。

(私には、あんなことはできない)

魔法の罠の有無を『ディテクト・マジック』で調べることはできる。
だが、機械的な罠に関する知識や経験はほとんどない。
以前にある任務で、狩人の作った罠を少し見たりいじったりしたことがある程度だ。
せいぜい、不自然な様子が無いどうかをざっと目で見て、素人判断するくらいしかできまい。
しかも自分は視力が悪いので、細かい部分を目視で詳しく調べるのは得意とは言えない。

何分、命がけの戦いにいつ身を投じねばならないかわからないような生活をしているのだ、限られた時間で学べることには限界がある。
自分はメイジだから、強くなる上では魔法の力とそれを活用する腕とを磨く方が賢明で、そういったことに詳しくないのは仕方がない。
別に出来ないからと言って何でもないし、これまでは意識したことさえなかったのだが……。

(どうして、あの子には……)

タバサはまた、自分の心に何か暗く不快な感情が滲み出してくるのを感じていた。

(……いけない)

だが、それに深く身を委ねるほど彼女は衝動的でも賤しくもない。
すぐにそんな考えを振り払って、気持ちを切り替える。

今は、目の前の任務に集中しよう。
自分はいつも、そうして生き抜いてきたのだから。



「あらあら、タバサったら、こんな時でも熱心にディー君を見つめて……」
「ミ、ミス・タバサは、先生をそういう意味で見ているのではないと思います、けど……」

キュルケとシエスタは、小声でそんなことを言いながら、少し大きめの茂みに2人で揃って身を隠していた。
ちなみにこの2人が一緒なのは、ある程度小屋の傍にあって身を隠すのに適当な茂みの数が足りなかったからである。

キュルケは小屋の中にフーケがいないと聞いて少し気が抜けたのか、のんびりした様子でタバサの方など微笑ましく見つめている。
シエスタは生真面目にクロスボウなど構えて周囲を警戒し続けていたのだが、そう言われると気になるのかタバサやディーキンの方に目が行っていた。

確かに、さっきからタバサはじいっとディーキンが作業する様子を見つめている。
なにかに執心しているようにも、見えなくはない。

(ま、まさか本当に、ミス・タバサは、先生に……?)

別に、ミス・タバサが先生に対してどんな感情を持っていようと、自分が口を挟む筋合いではない。
自分はあくまで彼に敬慕の念を抱いているのであって、交際に口出しなど畏れ多いことである。
そう思ってはいるのだが、何故かどうにも気持ちがそわそわして、落ち着かなかった。

キュルケはそんなシエスタの様子を、タバサの方を見つめながらも楽しそうに横目で伺う。

(この子も面白い子よねえ。平民なのにギーシュと決闘をして勝っちゃうし。
 かと思ったら、ディー君を先生とか言って、こんなところにまでついて回って……。
 一体、何の先生だっていうのかしら?)

こんな任務の最中に緊張感のない態度だと怒ったり呆れたりする者もいるだろうが、キュルケは自分の感情に素直なだけなのである。
ルイズやシエスタのように常に生真面目に堅苦しい態度をとってことに当たるのは、彼女の性に合わない。
命のかかった任務であろうと余裕を持って楽しんでこなす方が性に合っているし、リラックスして臨んだ方が実力も発揮できるタイプなのだ。

キュルケはこれで、キュルケなりに真面目にやっているつもりなのであった。
まあ、既にフーケやお宝のことよりも、自分の好きな色恋沙汰の話の方に主要な関心が移っているのは否定できなかったが。

(実際のところ、この子はディー君と、どういう関係なのかしらね?)



ディーキンは小屋に入ると、内部を念入りにレンズで調べて、チェストなどに罠が無いことを確認していった。
ついでに、誰かが頻繁にここに出入りした形跡があるかどうかも、注意して見ていく。

(ウーン……、やっぱり、よく使われてるような様子はないね)

情報通りに宝物がこの小屋に隠されていた一方で、情報とは違って最近頻繁に小屋が使用されていると思しき形跡はなかった。

何とも奇妙な話だが、それにどういう意味があるのかはさっぱりわからない。
まあひとまず、今はおいておいて、後でルイズたちにも意見を求めてみよう。

そうして、いよいよ宝物を回収するべくチェストを順に開いてみた。

最初に見つけたのは、奇妙な形をした、杖なのかどうかもよく分からない棒状の代物だった。
来る前に聞いた話からすると、きっとこれが『破壊の杖』なのだろう。
チェストから取り出してみたとき、予想したよりずっと軽くて少し驚いた。

宝のひとつを回収したことを《伝言》で皆に伝えると、続けてもう片方の杖が入っていると思しきチェストを開いてみる。

その中には、印形やルーンが無数に彫り込まれた、木製の長杖が入っていた。
おそらくこれが『守護の杖』なのだろう。
そしてまず間違いなく、これが強烈な魔力の発生源だ。

(……ンン? なんか、どこかで見たか聞いたかしたような杖だけど……)

ディーキンは首を傾げると、杖をひっくり返して調べ回しながら、少しの間記憶を探ってみた。
じきに思い当たって、はっと目を見開く。

「オオ……!?」

まさか、これは名高い『あの』杖か?

いや、間違いあるまい。
見た目は自分が知っている通りだし、魔力の強さも本物だ。

しかしなぜ、この杖がこんなところに……?

(確かおじいさんは、友だちが置いていったって言ってたけど……)

そうするとその人物は、自分と同じようにレルムの世界から来た者なのだろうか?
それとも、たまたま太古の昔にこの世界にもたらされたか何かしたこの杖を持っていただけなのだろうか……?

そんな風にあれこれ考え込んでいた時、小屋の入り口に誰か人の来た気配がした。

「! ……誰?」

外でみんなが見張っているからまさかフーケではないとは思うが、一応警戒して扉の方から飛び退いて身構えると、外の人物を誰何した。
同時に『見えざる従者』たちに指示を出し、扉に内側からつっかい棒をかませて押さえておかせる。

「私ですわ。宝が見つかったと聞いて、学院長秘書として確認に参りましたの」

その声を聞いたディーキンは小さく息を吐いて緊張を解くと、従者たちに扉を開けさせて彼女を迎え入れた。
そして、先程見つけた2本の杖を差し出す。

「どうも、ロングビルお姉さん。
 宝物の杖は、ほら、両方ともここにあるよ」

杖をちらりと見て、ロングビルはにっこりと微笑んだ。

「まあ、無事に見つかってよかったわ」

「………? そうだね」

ディーキンは、そんな彼女の態度に妙な違和感を感じて、不思議そうに首をひねった。

昨夜からの彼女の苦労が報われて、こうして無事に目的の宝物を発見できたのだ。
これで学院長秘書としての面目も立つし、格段の働きを認められて、おそらく褒章も出るだろう。

それにしては、なんだか興奮とか喜びとかの反応が薄すぎやしないか?

こういう場合、歓喜して杖に飛びついて、確かに本物かどうかをひっくり返して念入りに調べ回すというのが普通の反応じゃないだろうか。
なのに彼女はちらっと見ただけで、杖に手を伸ばそうともしないのだ。

(お姉さんは見つかった杖が本物かどうか、確認しにここに入って来たんじゃないの?)

杖をちらりと見ただけで、本物かどうかわかるとでもいうのだろうか。
それとも、ただ事務的にやっているだけで実はこの探索にあんまり気のりもしていなかったのだろうか。
これまではあまりそんな風には見えなかったが……。

そんなディーキンの疑念をよそに、ロングビルが彼を促す。

「さあ、使い魔さん。あなたにはその杖の使い方を調べられるのでしょう?
 さっそく、やってみてくださいな」

「えっ?」

それを聞いて、ディーキンはますます困惑した。

確かにさっき調べようとは申し出たが、こんな場所で今発見したばかりの杖をいきなり調べ始めろというのか?
冒険者なら、手に入れた宝物の鑑定などは冒険が終わってからゆっくりとやるのが普通なのだが……。

「……ええと、ロングビルお姉さん?
 学院に持って帰ってからでもいいんじゃないかな、調べてる間にフーケが戻ってくるかもしれないよ?」

「いえ、いえ。確かに、フーケがいつここに戻ってくるかもしれませんわね。
 だからこそ、今すぐに調べるべきなのですわ。疲れているでしょうし、申し訳ありませんけれど」

それからロングビルは、順を追って自分の考えを説明していった。

宝はこうして回収できたが、もうひとつの目的であるフーケの捕縛も果たしたい。
今学院に帰ったら、フーケを待ち伏せしてとらえる絶好の機会を逸してしまうかもしれない。
なぜなら、ここは宝の隠し場所なのだから、いずれ遠からずフーケは戻ってくるだろう。
その時に宝がなくなっているのに気が付いたら、隠し場所が露見したとわかって、ここには二度と戻ってこなくなるはずだ。

「……ですから、このままこの周辺に網を張って、フーケが現れるまで待ち伏せしましょう。
 その時に、杖の使い方が分かっていれば頼もしい戦力になります。
 実はさっき外で軽い打ち合わせをしまして、すでにあなたの主人であるミス・ヴァリエールたちも賛成してくれているのです。
 杖を調べている間は、彼女たちがフーケの接近を見張っていてくれますわ」

「アア、なるほど。そうだね……」

ディーキンはあいまいな返事を返しつつ、いろいろと考えを巡らした。

確かに、今の話は筋が通っているようには思える。
しかし、さっき彼女が宝を見たときの不自然な反応がどうにも引っかかった。

この小屋の状況が、情報提供者である樵の話とは不自然に食い違っているという件もそうだ。
そういえば、その樵とやらの話を持ってきたのも、このミス・ロングビルだったか……。

(まさか、この人が……?)

彼女がフーケ、もしくはその内通者ということはありえないか?
ディーキンは、昨夜の襲撃から始まるこれまでの経緯を今一度を思い返してみた。

(……うーん)

ひとたび疑念を持って考え始めてみると、その可能性は十分にあるということがすぐにわかった。

昨夜、巨大ゴーレムによって宝物庫の壁が不自然なほどの短時間のうちに崩されたこと。
内部に入り込んでいた彼女なら、壁に細工をすることは容易かっただろう。
宝物庫内のメッセージは、事件後宝物庫内に調べに入った時に人目を盗んで書いたか、あるいは事前にもう書いてあったのかもしれない。

彼女が巨大ゴーレムが宝物庫を襲ったときにコルベールと一緒にいたという事実は、完全なアリバイとはいいがたい。
ディーキンが現在までに知る限りの知識でも、この世界の魔法やマジックアイテムをうまく組み合わせて事前に細工をしておけば何とかできるだろう。
冒険者は、往々にしてそういった類の工夫を凝らすやり方には詳しい。メイジの怪盗も、大概そうだろう。
それに、たとえ彼女自身のアリバイが本物だったとしても、彼女がフーケ本人ではなく内通者なのだという可能性は依然として残っている。

彼女はいろいろと理屈をこねて、ここにシルフィードに乗って来るのを渋っていた。
あの時は彼女の意見にも一理あると思って特に疑念も持たなかったが、疑ってかかるのならば戦力や機動力を削ぐためとみることも可能だろう。

目撃者の樵の話とこの小屋の様子には、いささかつじつまの合わない部分があるという点。
実はそんな目撃者など最初からいなくて、話がまったくのでっち上げだったと考えればおかしくはなくなる。

宝を発見した時の反応が薄かったのは、最初からそこにあることを知っていたから。
相手がたかが使い魔、亜人の子ども(実際はそうではないけれど)だと思って、つい芝居が手抜きになっていたのかもしれない。

わざわざ盗み出した杖のある場所に案内したのは……、
今の彼女の要求や先ほどの会議で彼女の質問した内容から考えると、杖の完全な使い方を調べさせるためか?

(ウーン、でも、そうだとは限らないし……)

確かに彼女を疑う要素は十分にあるが、それは彼女が犯人だという証拠ではない。
疑い始めれば誰でも怪しく思えてくるものだし、それらは単なる偶然、自分の邪推で、実は潔白なのかもしれない。

調べようと思えば、たとえばシエスタに頼んで、あるいは自分で、彼女に《悪の感知》を試してみることはできる。
しかし悪だからと言って必ずしも犯罪者だということにはならないし、逆に悪ではない犯罪者などもいる。
この状況では、やってみたところであまり役には立たないだろう。

《思考の感知(ディテクト・ソウツ)》で彼女の思考を読んでみれば、あるいはわかるかもしれない。
だが、もしも呪文が抵抗されたら、問題が起きるだろう。
思考を探る魔法はハルケギニアでは知られていないようだが、抵抗されれば少なくとも、何か魔法を掛けられたくらいのことはわかるはずだ。

そうでなくとも、罪があると確定しているわけでもない相手の思考をむやみに探るのは、あまり褒められたことではあるまい。
相手の目の前で悪意だの思考だのを探る呪文を唱えるというのは、お前を疑っているぞと宣言するようなものだ。
疑って調べ回しておいて、もしも相手が潔白だったら、大変な失礼にあたる。

なによりも、疑わしい態度はあるにせよ、ディーキンの目にはロングビルがそれほど悪い人物のようには見えなかった。
少なくとも、今の時点では嫌いな人だとはいえない。そして、この冒険に同行してくれた大切な仲間でもある。
無闇に嫌疑をかけて問い詰めたり、疑って調べ回したりは、感情的にもあまりしたくはない。

「……どうしました?」

「……アア、いや。ディーキンは、ちょっと別のどうでもいい考え事をしてたんだよ。
 ずいぶん待たせたみたいだね、ディーキンはあんたにお詫びするよ」

ロングビルがなかなか動かないディーキンをいぶかしんで声をかけてきたので、すぐにそう返事をすると無邪気そうな微笑みを取り繕った。

ルイズらに自分の考えを伝えて相談したいとも思ったが、この状況ではちょっと難しそうである。
何か理由をでっち上げてこの場を離れるのは疑われる危険があるし、《伝言》の呪文ではロングビル自身にも話が伝わってしまう。
それにルイズやシエスタは隠し事が下手そうだ、教えたらきっと顔や態度に出るだろう。

本当なら慎重に考えてから行動を決めたいところではあるが、ロングビルに自分の疑念を悟られてはまずい。
もし本当に彼女が犯人だとすると、提案をむやみに拒絶したりあまり長々と考え込む様子を見せたりすれば、警戒を強められてしまう。

ディーキンは、こちらでは『守護の杖』と呼ばれている『魔道師の杖(スタッフ・オヴ・ザ・マギ)』にちらりと目をやった。

この強力なアーティファクトの使い方を彼女に教えるべきか否か。
この場で彼女を問い詰めたり調べたりするべきか否か。

エンセリックも今はいないし、ここは自分の判断でどうするかを早急に決断しなければ……。


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