あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

るろうに使い魔-44


 チェレンヌ邸襲撃からその後、さらに時間が経過した。
 刃衛達による強襲が再度やってこないか剣心達は警戒していたが、結果的にはそういうこともなく無事に事なきを得る運びとなった。
 朝日が昇る頃になって、もう厳重警護を解いても良さそうだと判断したアニエスは、そのまま剣心とタバサ、そしてシルフィードを連れ、一度王宮へと戻る事となった。
「ここで待機してくれ」
 王宮の応接室の一部屋へ案内された剣心達は、アニエスにそう言われ、そこで待つことになった。剣心は目を閉じて座して待ち、タバサは本を読んで暇を潰す中、それを見かねたシルフィードはきゅいきゅい喚いた。
「ねえ、折角お近づきになれたんだし、もっと話に花を咲かせてもいいんじゃないのね?」
 どうやら、全然会話しない二人を見て業を煮やしたらしい。前々から剣心の事は気にかけていたシルフィードにとって、これは二人を近づける絶好の機会だと思ったのだ。
(あんなミイラ男なんかより、こっちのおちびの方がずっとお姉さまを任せられるのね)
 それなら、と剣心はタバサではなくシルフィードを見て言った。
「そう言えばイルククゥ殿。お主とはどうにも最初に会った気がしないのでござるが、どこかでお会いしなかったでござるか?」
 ギクッ、とシルフィードは体を仰け反らせる。
「べ、べべつにそそそんな事はははないのねね。気のせいなのね」
「それにシルフィードはどうしたでござる? てっきりイルククゥ殿と一緒に来るものだと思ったでござるが…」
 またまたギクッ、とシルフィードは仰け反らせた。ふと無意識にタバサの方を見るが、彼女は我関せずといった風で本を読んでいる。
 そんなわけで、この回答にはシルフィード本人が答えるしかない。
「えっと、シルフィードは今忙しいのね。重大な使命を思い出したって、この前言ってたのね」
「見苦しくねえか、その言い訳」
 今度はデルフが口を挟む。暫く奇妙な空気が流れた。
 どう言い繕うか、う~~ん…と頭を悩ませるシルフィードに、コンコンと扉をノックする音が聞こえた。そしてその次には、扉が開かれた。
 扉を開けたのはアニエスだった。そしてアニエスを従えるように、アンリエッタが部屋に入ってきた。



            第四十四幕 『都合と理由』



「お久しぶりですわ。ルイズの使い魔さん」
 アンリエッタはまず初めにそう言って、優雅に会釈した。
「此度の活躍の報、アニエスから聞いております。貴方には本当にお世話になりっぱなしですわね」
 優しい笑みを浮かべて、アンリエッタは今度はタバサ達の方を向いた。
「貴方は…確かあの時の、ルイズのお友達の方ですわね。貴方にも重ね重ね、お礼の方を申し上げます」
 一国の女王陛下が、わざわざお礼を言いに来る。それはこの国の貴族から見ればなんとも羨ましい光景であろう。
「あの…所で、貴方は何者なのでしょうか? その制服から留学生とお見受けいたしますが、この国の人ではありませんよね? ガリアから来た人ですか?」
 アンリエッタが不思議そうに尋ねてきたが、タバサは本を閉じ、そしてアニエスの方を向いて言った。
「…事情は聞かないはず」
「そうですが…せめて充分なお礼をしたいのです。ご家族の方にも、大変名誉なことをしたのだとわたくしから申し上げたいのですが…」
「そんな人はいない」
 タバサは冷淡にそう告げる。その目には一切の色が消え失せていた。
 尋常じゃない雰囲気に一瞬呑まれかけたアンリエッタは、何か事情があるのだろうと思い、追求をやめた。
「分かりました。では貴方には約束通り報酬の方を支払いましょう」
 目を伏せてアンリエッタはそう言った。本当はもっと色々とお礼をしたかったのではあるが、
この国の人間ではない上に明確な家柄も分からぬ以上、ここまでがしてあげられる限界でもあった。
 悲しそうな顔をしたアンリエッタは、今度は剣心の方へと向き直った。
「貴方にも、出来れば充分なお礼を差し上げたいのですが…やはり受け取っては下さらないのですか?」
「拙者も、特に必要ないでござる」
 剣心はニッコリ微笑んでそう言った。アンリエッタは小さくため息をついた。
「本当ならば、貴方にはこの国の貴族になる資格だってあるのですよ。昨今の上流階級の人達に比べれば、貴方の成し遂げた成果には、それだけの価値があるのです」
 しかし、それでも剣心は首を横に振った。
「拙者は只の流浪人で使い魔。それ以上のものなど望まぬ。望むとすれば、早くこの国にも本当の平和が訪れて欲しい、それだけでござるよ」
「……耳が痛いお言葉ですわ」
 アンリエッタは、剣心のその顔に眩しさを覚えた。今、剣心のように本当にこの国のことを考えている人はどのくらいいるのだろう。そう思うとやり切れなくなるのだ。
 そういった感情から振り切るように、アンリエッタは話題を変えた。
「分かりました…そう言えばルイズはどうしています? 無茶な頼みだとは分かってはいますが、今はあの子や貴方達位しか頼れる人がいないから…」
 剣心はそれを聞いて少し言葉を詰まらせた。まさか全財産すって働いているなんてとても言えない。
「あの子から報告の手紙など受け取るのですが、何分せっかちなところがあるから心配で…」
「ま、まあ大丈夫でござるよ」
 取り敢えず、剣心はそう言うしか無かった。それでも少しは安心したのか、アンリエッタは胸を撫で下ろした。
「貴方がそう仰るのなら、きっと大丈夫なのでしょうね」
 するとここでアニエスが、そろそろ本題の方を…とアンリエッタに促した。
「そうね」と、それに頷いたアンリエッタは、今度は厳粛な表情で、剣心達に向き直った。
「それでは、貴方達をお呼びした理由に移りましょう。此度の件で起こったこと、その敵の正体のこと、詳しくお聞かせくださいまし」



 剣心は話した。黒笠の正体、心の一方について。そしてこれまでの経緯、そのあらましを。
 心の一方の能力を聞いたアンリエッタは、俄かには信じがたいような表情をした。
「目だけで相手の動きを止める? でもそんな魔法が…」
「確かにそのお気持ちは分かりますが、私も一度喰らいその身に体験いたしました。ですのでこの話は本当です」
 アニエスが剣心の話を、体験談を交えてそう補足する。アンリエッタはため息をついた。
「それでは、いくらメイジを投入しても勝てないはずですわ」
「けど、見た感じ刃衛の他にも協力者はいる。それだけは確かでござる」
 剣心はさらにそう付け加える。よくよく考えれば幾ら強いとは言え、全くの異国の地で、正体不明を隠し通す事は刃衛にだって不可能に近い。
 恐らく、暗殺を補助する協力者や、事前に情報を与える内通者がいて、それで初めて成り立つはずなのだ。
 協力者は、最後にやって来たあの男…がそれにあたるだろう。あの男が内通者も兼ねているのか、それと他にも別の人間がいるのか…。そこまでが剣心の推理だった。
 内通者…と聞いて、アンリエッタは少し心当たりがありそうな表情をした。
「分かりました。貴重な情報どうもありがとうございます。今の今までこういった話すら出てこなかったものですから」
 アンリエッタは再度会釈すると、今度は自分たち以外誰も見てないか辺りを見回し、確認すると、改めて剣心とタバサの顔を見合わせた。
「つきましてはお願いが…。厚かましいことは分かってはおりますが、出来れば引き続き依頼の続行をお願いしてもよろしいでしょうか? 今は身内でさえ頼れる人が余りいないもので…」
 そう言って、タバサの目を見て尋ねた。タバサはアンリエッタの懇願の目を前にしても、相変わらずの無表情で通していたが、やがてポツリとこう呟いた。
「…この事件に関することであれば、わたしは別に」
 それを聞いたアンリエッタは、嬉しそうに頬を緩ませた。
「ありがとう。わたくしにはもう、貴方達以外に魔法を使う者が信用できませんの…」
 寂しそうな表情をして、アンリエッタはそう呟いた。
 それをまた振り切るかのように、アンリエッタは表を上げると、今度はタバサ達にこう言った。
「お疲れでしょう? 今夜は忙しかったですから、もうお休みになって下さいな。聞きたいことがあれば、アニエスが相手を致しますので」
「きゅい、わたしも疲れたのね。早く帰って一眠りしたいのね…」
 シルフィードが、眠そうに目をゴシゴシとこすってそう言った。タバサも小さく欠伸をすると、フラフラと立ち上がって部屋を出た。
無理もない。幾ら強いとは言えまだ子供だ。丸一日起きているのは精神的にもかなり辛かったはずだろう。
 タバサとシルフィードが、アニエスに連れられて退室するのを見届けると、剣心は改めてアンリエッタの方を向いた。
「姫殿…じゃなくて陛下殿でござるか。実はここで話しておきたいことがあるでござるが…」
「アンリエッタで大丈夫ですわ。何なら縮めて『アン』とお呼びしてもよろしいですわ」
 努めてニッコリと微笑みながら、アンリエッタはそう言った。彼女もこの時間まで起きているのは、心身ともに辛いのはわかる。
本当はこんな時間に話すことではないのかもしれない。
 けど、話さなくてはいけない。これを逃したら、また何時話せる機会があるか…少なくとも、この国の上に立つアンリエッタには、ちゃんと話しておかなければならない。
 そうこうする内、タバサ達を見送ってきたアニエスが帰ってきた。アンリエッタは剣心の表情を見て、小さくため息をこぼしながらソファに腰掛けた。
「まだ何か、お話することが?」
「あの時は、色々あって話せなかったでござるが…この国の未来に関わる重要な事ゆえ、話しておきたいでござるよ」
 アンリエッタは、それを聞いて小さく目を瞑った。
「分かりました。詳しくお聞かせください…」
「それと、この話をするにあたって、少し信じられないような話も含まれているでござるが、それでも信じて聞いてくれるでござるか?」
「異世界とかのことですか? でしたらオールド・オスマンに少しお聞き致しましたし、それにもう、ここまで来て滅多なことでは驚いたりしませんわ。どうぞ、お話ください」
 それを聞いて、剣心はゆっくりと口を開いた。



「シシオ・マコト……」
 数十分後、話を聞いたアンリエッタはそう呟いた。
「その人が、此度の戦いの元凶だと……?」
 剣心は、コクリと頷いた。その目には昔の情景の炎が宿っていた。
 志々雄真実。
 かつて幕末の頃、剣心がまだ人斬り抜刀斎であった頃…。影の人斬りを受け継いだもう一人の暗殺者。
 そして最終的に、己の剣と信念を死の淵ギリギリまで交え合った男だった。
 何故奴が生きてこの世界にいるのかは分からないが、あの時見せつけられた野望と信念は今でも変わってはいなかった。恐らく奴はまだ自分との決着を望んでいるのだろう。
そして、これがアンリエッタにとって重要なことであるが…奴はいずれこの国を乗っ取りに来ること、それだけの力があることをアンリエッタに伝えた。
「しかし、今のアルビオンの皇帝はオリヴァー・クロムウェルでは?」
「恐らく奴の配下の一人でござろう。今のアルビオンを本当に指揮っているのは、まず間違いなく志々雄真実でござる」
 あの男が、大人しくこのままでいるとは思えない。恐らくカモフラージュのつもりなのだろう。
 決起する時まで姿を見せず、名を隠し、のらりくらりとしながらも力を貯め、一斉蜂起した時に一気にその名を世界に轟かす。あの男ならそれくらいはやりかねない。
 だからこそ、今の内に手は打たなければならない。そう思って、剣心はアンリエッタに話したのだった。
「……そうですか」
 話を聞き終えたアンリエッタは、一旦顔を伏せた。その声は少し震えている。
 それは間違いなく、怒りからくる震えであった。
(その人が…彼を…アルビオンを…あまつさえあんな事まで…)
「…陛下殿?」
 何かを感じた剣心が、アンリエッタの表情を伺う。しかしその前にアンリエッタは席を立った。
「どうも貴重なお話ありがとう。貴方もお疲れでしょう? 今日はゆっくり休んでくださいな」
「…済まないでござる」
 暗に一人にして欲しい、そう取った剣心は、何も言わずに部屋を出ることにした。
 アニエスと二人になったアンリエッタは、朝日が昇る窓を見つめながら尋ねた。
「例の案件、どうなりました?」
「ここに、全て記しております」
 そう言ってアニエスは懐から数枚の紙を取り出し、アンリエッタに渡した。
 あの夜…死体になったウェールズを操り、アンリエッタを拐かそうとした事件の時、誰が手引きをしていたのかその詳細が書かれていた。
 暫くその調査表と睨めっこしていたアンリエッタだったが、やがてそれらから目を離すと、少し項垂れた様子で椅子に座った。
「おおよそ七万エキュー…これは彼一人の手で賄える金額ではありませんね」
「他にも、このようなものがあります」
 そう言ってアニエスは、別の紙をアンリエッタに手渡す。それを見て疑問符を浮かべる。
「…これは?」
「アカデミーの被害届です。何でも幾つかの貯蔵品を盗まれたとか…。時期が丁度、事件が頻発に起こり始めたのと重なりましたので、関連性は高いかと」
『アカデミー』の名前を聞いて、アンリエッタは尚更首をかしげた。魔法を別のベクトルで見、独自の実験を進めることで有名な機関であるが、
そこでの発明品は正直一般大衆から見たらガラクタ同然で見向きもされないものばかりだ。
 リストの一番下、ヴァレリーという水のスクウェアメイジが作ったという『魔力を強化する秘薬』にこそ目がいったが、そこに書かれているリスク…
『魔力と同時に精神に異常を来す』を見て、結局は使えない失敗作だとわかると、アンリエッタは見るのを止めた。
「レコン・キスタは国境を越えた貴族の連盟と聞き及びます…が」
「随分と泥棒染みたことを、今の雲の上の人たちはするのね。まあ、上に立つのがそもそも貴族ではないらしいですから、何とも皮肉な連盟ですね」
 取り敢えず、これで剣心の言っていた内通者の尻尾が掴めたのだ。
「金でしょう。彼は黄金が好きな男…そのお金で祖国を…わたくしを売ろうとしているのです」
未だに信じたくないという思いがあるが、もうそれを言っている状況でも無かった。
 モット伯を始め、数多の貴族を殺してきた『人斬り』。その幇助をしていたのなら、法的にも裁かなければいけない。
例え親しかった身内といえども…。
「計画の方はどうなさいます? 未だ向こうが人斬りというカードを抱えている状況では、少し…いや、かなり危険だと思われますが…」
「時間がもうありませんの。このまま泳がせておいたら逃げられる可能性が高い。当初の予定通り、明日計画に移しましょう」
「御意」
 それを聞いたアニエスは、深く一礼をして退室した。一人残されたアンリエッタは、顔を俯かせながら震える声で呟いた。
「わたくしは、あの夜起こったこと全てを許しませぬ。国も、人も、全てです。ええ、決して」
 アンリエッタは思い返していた。最愛の人の事を…更に無理矢理に蘇らせて、自分の恋心を弄ばれたことを…。
アンリエッタは、剣心から聞いた男の名…一生忘れぬだろう怨敵の名を呟いた。
「……シシオ・マコト…ッ!!」
 朝日が完全に顔を出す、その光を受けながら剣心は王宮を出た。
「あっ、おちび。こっちなのね~~!」
 見ると、もうとっくに帰ったと思ったタバサとシルフィードが、手を振って待っていた。
「あれ、帰ったのではなかったでござるか?」
「場所が分からない」
「……学院の?」
 えっ…? と聞き返す剣心に、シルフィードが「違う!」と補足する。
「ほら、『魅力の酒場』だっけ? あそこにきゅるきゅる置いてきたからって、お姉さまそこに泊まるつもりなのね!!」
 成程、だから待っていたのか…。剣心は、そんな律儀なタバサを見て少し微笑んだ。
「こっちでござるよ」
 人混みが溢れ始める中、剣心とタバサ、そしてシルフィードは歩き始めた。



 さて、『魅惑の妖精』亭では…。
 客もぼちぼちと店を出る中、一人机に突っ伏して飲んでいる客がいた。キュルケである。
「タバサぁ~~あんた今何処にいるのよぉ…」
 普段魅力的な彼女とは程遠い姿がそこにはあった。すっかりへべれけになってしまったのか、身体はぐったりしていて悪酔いの表情が出ていた。
 これはこれでそそられるものがあったが、人も少なくなった今の状態では、彼女に絡んでくる輩も出てこなかった。
「あんたさぁ…一体いつまで泊まるわけ?」
 呆れ顔で顔を出したのは、給仕をしているルイズだった。
 あれからいつもそうだ。タバサがいなくなったあの晩から、何かにつけてキュルケはタバサを探しに行った。そして見つからないとなるとこうやって夜遅くまでやけ酒をするのだ。
 普段のキュルケなら、信頼しているタバサにそこまでしないだろう。けど軍が動き出すかもしれない緊迫した状況に、事の発端が自分とあれば、流石に放ってはおけないようであった。
「全部ツケとか言わないでよ。ていうかあんたに奢る金なんてこれっぽっちも…」
「タバサぁ~~~」
 はぁ…とルイズはため息をつく。それと同時に少し感心もした。キュルケでもこんな一面があるんだなーと。余程タバサを大事にしているのだろう。
 そんな彼女を見ていると、どうしても自分まで悲しくなってしまう。
(ケンシン…)
 今何処にいるんだろう? このまま帰ってこないなんてないよね?
 今やそんな想いがグルグルと渦巻いていた。
 確かに…剣心は強い。そして優しいし、困った事があれば全力で相談に乗ってくれる。
 でも、彼は輪を作りながらも、そこに決して踏み込んではこない。まるでいつ自分が消えてもいいように…。
「でも…どうしてこんな気持ちになるんだろ…?」
 最近、彼を見るとすごい胸がドキドキするようになった。最初はそんなことはなかったのに、アルビオンで旅を経てからはその想いは芽生え、一緒に暮らすことで徐々に大きくなっていった。
 だからこそ、彼が何も言わず、そして何も告げずにいなくなることが、ルイズにとってこれ以上ない不安にもなった。
 もし自分がキュルケの立場だったら、恐らく自分もこうやってやけ酒を煽っていたかもしれない。そう思うと今のキュルケを笑えなかった。
「けど、毎日これは止めてほしいわね。もうそろそろ上がりたいのに…」
 そう言って一旦背伸びして、ルイズは改めて辺りを見回した…その時だった。
 コンコン、と裏口を叩く音が聞こえてくる。その音にハッとルイズは振り向いた。
慌ててパタパタと走り去るルイズの音に、キュルケも虚ろな目を開けた。
「何、どうしたの?」
 キュルケもまた、ルイズの後を追っていった。それを気にすることなく、ルイズは裏口のドアを開ける。
 ガチャリ。という音と共に扉は開かれて、そこにいたのは…。
「……ケンシン」
「おお、ルイズ殿!」
 若干懐かしむような声で、剣心は言った。考えてみれば剣心と働く時間帯が変わってから、こうやってまともに会話をするのは久しぶりだった。
 何だか、急に学院で暮らしていたあの頃に戻ったようで、ルイズは思わず俯いてしまう。
「あ、ダーリン! 帰ってきたの……――」
 その後ろから現れたキュルケが、剣心を見てそう言いかけたが、その隣からひょっこり現れた少女の姿に、思わず目を見開いた。
「タバサ!! もう探したのよ!!」
 そう言うなや否や、いきなりキュルケはタバサに抱きついた。タバサもまた、特に抵抗せずにそれを受け入れる。
「ずーっと色んなとこ回ってさ…何かあったんじゃないかと思うとさ…本当にもう、心配したんだから…」
「…御免なさい」
 抱きつきながらキュルケはポロポロと涙を零す。いつも快活な彼女がこんな風に泣きじゃくる姿を見ると、急に愛おしさがタバサの中にこみ上げてきた。
 そんな二人を微笑ましげに見つめていた剣心は、ふと俯いたままのルイズを見て、困ったように頬をかいた。
(やっぱり、怒ってるんでござろうなあ…)
 こうやって会話するのも久方ぶりなのだ。余り危険なことに巻き込みたくなかったから遠ざけてしまったが、ルイズの性分からすれば怒り狂っていてもおかしくなかった。
「あの…ルイズ…殿…?」
「……………」
 しかしルイズは俯いたまま、何も答えようとはしなかった。怒っているのか、そんなに怒っているのか?
 何とも気まずそうな空気が場に流れた後、不意にルイズは剣心の顔を上げた。
「……おかえり」
「―――おろ!!?」
 この言葉を聞いて誰よりも驚いたのは剣心だった。あんなに放っていたのに…最悪『爆発』の一つでも喰らう覚悟でいたからこそ、この対応に凄く疑問を覚えた。
「お、怒ってないでござるか…」
「そりゃあ、怒ってるわよ。何で私を放ってどっか行っちゃうのとかさ、何でタバサをそんな気にするのとかさ…色々言いたいことはあるわよ……でもさ…」
 ここでルイズが…今まで見せたことのないような汐らしい表情をして剣心に言った。
「あんたの顔見たら…なんか…そんなことが凄くどうでも良く感じちゃったのよ。何ていうか…帰ってきてくれたんだな…って」
 ルイズも、最初は剣心に会った時には出会い頭に『爆発』の一発でも入れてやろうかと考えていたのだが、結局剣心の笑顔を見た瞬間、怒りとかの前に嬉しさがこみ上げてきたのだ。
 こうやって、また自分に向かって笑ってくれる剣心を見ると、他のことが凄くどうでも良くなる。我ながら甘いとは思うけど…でもそれは理屈じゃないのかもしれない。
「どうせ今回のことも話したくないんでしょ? 百歩…いや二百歩譲ってそこは妥協するわよ。でもね…」
 ここでルイズが、いつもの調子を見せながら剣心に向かって指を突き立てた。
「私の許可無しに、勝手にいなくなるのだけは許さないんだからね! 分かった?」
 それを受けて、剣心はやれやれといった表情をした。でも少し、朗らかな顔も見せていた。
「了解でござるよ」
「……よし」
 今日は、久々に剣心とルイズは一緒の時間に寝た。当たり前のことだったのに、別に隣で寝ているわけでもないのに、それがとてつもなく嬉しくて、ルイズは幸せそうな表情で眠りについていた。


新着情報

取得中です。