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Neverwinter Nights - Deekin in Halkeginia-42


トリステイン魔法学院で『土くれ』のフーケによる盗難事件が発覚した、その翌朝。

緊急会議が招集されて宝物庫に集まった教師たちは、呆然としたり、慌てふためいたり、憤慨したりと、今更のように大騒ぎしていた。
犯行が休日の夜に、それもごく短時間のうちに行われたために騒動に気付かず、今朝まで事件のことを知らなかった教師も多いようだ。

「『土くれ』のフーケだと……。
 ええい、下賤な盗賊風情が、魔法学院にまで手を出すとは! 我々をナメくさりおってッ!」

「衛兵は何をしていたのだ、むざむざと賊を侵入させて、職務怠慢ではないか!」

「いいや、賊とはいえメイジ相手では平民の衛兵などではどうにもならんのは仕方あるまい。
 それよりも当直だ、当直の貴族は誰だったのだね?」

「そうだ! ……ミセス・シュヴルーズ!
 勤務表によれば、当直はあなただったのではありませんかな?」

皆、宝物の奪還や犯人の捕縛に向けて建設的な意見を出すでもなく、責任の所在ばかりを追求している。
その槍玉に挙げられたシュヴルーズは、青くなって震え上がった。
メイジだらけの学院に押し入る賊などいるはずがないからと当直をサボり、宝物庫が破られた時には自室でぐっすり寝ていたのである。

もっとも、それはたまたま昨夜が彼女の当番だったというだけの話である。
貴族である自分たちが来るはずもない賊のために夜通し窮屈で居心地の悪い詰所にいる必要などないと、大概の教師が日常的にサボっていたのだ。
その事を学院長のオールド・オスマンから指摘されると、皆きまり悪そうに押し黙った。

「ごほん……、まあ、そういうことじゃよ。責任の所在など追及しておっても埒が明かん。
 わしも含め、油断しておった皆の責任であるとしか言いようがないからのう。
 それよりも今話し合うべきは、フーケとやらをいかにして捕え、奪われた宝物を取り戻すかじゃよ」

教師たちは皆、顔を見合わせて頷くと、真剣な表情で学院長の次の言葉を待った。
オスマンは窮状を救われて感激のあまり抱きついてきたシュヴルーズをやんわりと引きはがしつつ、コルベールの方に顔を向ける。

「ではまず、犯行の現場に居合わせたという者たちに話を聞こうかの。
 コルベール君と……、他にも何名かが、一緒に目撃したと聞いておるが?」

コルベールは頷いて前に進み出ると、自分の後ろにいる者たちを示し、彼女らにも前へ出るように促した。

彼の後ろには、ルイズ、キュルケ、タバサが大人しく控えていた。
その更に後ろの隅っこの方では、ディーキンが宝物庫の中の品々を興味深げに端から順に眺めている。
それにシエスタも、ディーキンの隣で畏まっていた。

「はい。目撃したのは私と、この5名です」

もちろん、コルベールは平民を人間扱いしないような、傲慢で偏狭な思想の持ち主ではない。
使い魔で亜人の身であるディーキンも数に入っているのは、これまでにディーキンがコルベールに与えた印象がそれだけ強かったからであろう。

「それと……、ここにはおられませんが、ミス・ロングビルも一緒でした」

「うむ」

オスマンは思案気に髭を撫でながら頷いた。

彼の秘書であるミス・ロングビルは自発的に志願して、夜も明けきらぬうちから本件に関する聞き込み調査に出てくれているのだ。
残念ながらフーケの姿は誰も見ていないが、盗み出したお宝の奇妙な杖を2本も持っているはずだから、それは人目についているかもしれない。
そのあたりを手掛かりに、近隣の農家などを回って情報を集めよう、というのである。

そんな彼女の機知と行動力とには、オスマンやコルベールらも感心していた。

「彼女はこのような非常時でも実に仕事が的確で、行動も早いのう……。
 まだ若くて経験も浅いというのに、まったく感心なことじゃ。
 わしら教師陣も、少しは見習わねばなるまいぞ?」

オスマンは改めてそんな訓戒めいたことを言っておいてから、ルイズらのほうに視線を移した。
特に、ディーキンをじっと興味深げに見つめている。
その視線に気が付いたディーキンは、軽く首を傾げて曖昧な微笑みを返した。

「……さて。では、君らの中から誰か、詳しく説明してくれるかね?」

ルイズら女子生徒たちは互いに顔を見合わせると、促すようにコルベールのほうを見た。
目撃者の中には教師がいるのだから、普通に考えて彼が説明するのが一番いいのではないだろうか。

しかし、コルベールは肩を竦めて、小さく首を振った。

「いや。君たちのほうが現場により近かったし、上空から見ていたから私よりもよく分かっているだろう。
 実際のところ、私は君たちがどうやってあの巨大なゴーレムを倒したのかも、まだよくわかっていないんだよ」

巷で有名な盗賊の、堅固な学院の宝物庫を殴り抜いたほどのゴーレムを学生が倒したという話に、他の教師たちがざわめきだす。
オスマンも、やや意外そうに眼をしばたたかせた。

「……なんと。あの宝物庫を破るほどのゴーレムを、倒したというのかね。
 それは確かに、君らの方から詳しい話を聞きたいものじゃな」

教師一同から注目を浴びたルイズらは、しかしきまりの悪そうな様子で、また顔を見合わせた。

実際のところ、自分たちはたまたま学校外から帰ってきたところで事件現場に出くわしただけで、フーケの姿を見たわけでも何でもない。
こんな事態だから、正直に説明しても遅くまで夜遊びしていた件で強く咎められることはあるまいが、特に有用な情報が提供できるとも思えない。
それに、ゴーレムをどうやって破壊したのかといわれても、正確なことは……。

3人がそんな風に困っていると、それまで首をかしげて様子を静観していたディーキンがつと進み出た。

「アー、もしよかったら、ディーキンがご説明するよ」

一部の教師から、使い魔風情がでしゃばるな、といった非難の声が、ディーキンとその『主人』であるルイズとに向けられる。
しかし、他の教師らからこの非常時にそんなことにこだわっている場合ではないと批判されて、それらの教師たちは居心地悪そうに押し黙った。

ディーキンはここ数日でいろいろな教師の下へ挨拶に回ったし、授業中も他のどの生徒にも劣らず真面目に勉強していた。
また、中庭や食堂などで休み時間に演奏をしたりして、大いに人気を博してもいた。
そのため、教師らの中にもディーキンに好意的な者がすでに大勢いるのだ。

キュルケやタバサもまた、それに賛同する声を上げる。

「そうね、ディー君ならお喋りも上手だし。うまく説明してくれると思うわ」

「適任」

ゴーレムを破壊するにあたって重要なサポートをしてくれたディーキンなら、一番よくことの成り行きを把握していることだろう。
ルイズやシエスタは、立場上みだりな発言は控えているようだが、表情を見る限りではやはり賛同しているようだ。

「ふむ……。君たちがそう言うのなら、わしは一向に構わんよ。
 では話を頼もうかの、ディーキン君」

ディーキンは嬉しそうにこくこくと頷いた。
それから少しばかり芝居がかったお辞儀をすると、胸を張って、自分たちと巨大なゴーレムとの遭遇と戦闘とを、活き活きと語り始める。

ディーキンの言葉はただの説明に留まらず、とても鮮明なイメージと叙事詩めいた臨場感を持っていた。
ごく短い話ではあったが、皆それに惹き込まれて、熱心に聞き入っている。
腕利きのバードは、優れた記憶力と素晴らしい表現力とを兼ね備えているのだ。

もちろん、話の中心となるのはキュルけやタバサらの活躍である。
詩人は自分自身のことを歌うのではなく、自分が見た英雄の武勲を歌うのだから。
まあ、今は説明のために話しているのだから、自分の使った《調和の合唱(ハーモニック・コーラス)》に関しても軽くは触れたが。

ディーキンがその技量を揮ってキュルケやタバサらとゴーレムとの戦いを語る間、聴衆は皆、実際にその場に立っているかのような錯覚を覚えた。
彼らは風竜の背に乗って飛びまわり、巨大なゴーレムによる地面や空気の振動を感じ、その体から発する土の匂いを嗅ぐことさえできた。
吟遊詩人がその魅惑的な語りを終えると、やっと周囲に薄暗い宝物庫の壁が戻ってくる。
それでもしばらくの間は、誰もが幻想の世界の余韻に浸っているようで、しんと静まっていた。

ややあって、オスマンが重々しく口を開く。

「……うむ。大変よく分かった」

その途端、ようやく歌の魔力から解放されたように、皆が顔を見合わせてざわめきだした。
オスマンは顔を綻ばせて、ディーキンとルイズらの顔を順に見つめていった。

「いや、よいものを聞かせてもらったわい。
 昨夜の君たちの格別の働きぶりが、実によくわかった。大手柄じゃ。
 教師一同、君たちに感謝し、大変誇りに思っておるぞ」

「いえ、ミス・ヴァリエールの使い魔のお蔭ですわ。
 さっきの話ではずいぶん控えめでしたけど、この子がいなければどうにもならなかったんですから」

キュルケは誇らしげに胸を張って髪をかき上げながらも、ディーキンの手柄にも言及するのを忘れなかった。
目を細めて屈みこむと、前に立っているディーキンの頭を撫でる。
同じく先ほどの話で主役であったタバサはといえば、キュルケの言葉に同意するように小さくひとつ頷いただけで、あとは無反応であった。

シエスタは大人しくしながらも、自分のことのように嬉しそうに顔を輝かせている。
ルイズの方は、何とも微妙な顔をしていた。
自分の使い魔が手柄を立てたのは誇らしいが、自分はろくに役に立てなかったので、やや嫉妬めいた悔しい思いも持っているのだ。

当のディーキンは、褒められたり撫でられたりには目を細めてくすぐったそうにしながらも、素直に喜んでいた。
その一方で、手柄云々に関しては、申し訳なさそうに肩をすくめてはっきりと首を横に振った。

「いや……、ディーキンは、何も手柄は立ててないと思うの。
 みんなで頑張って戦ったのは確かだけど、フーケっていう人には逃げられたし、手がかりも何も見つけられなかったからね」

ゴーレムを壊したところで、術者に逃げられてしまっては何の意味もない。
昨日の戦いは確かにちょっとした物語のタネにもできるような華々しいものではあったが、実際上は完全な失敗だったと言わざるを得まい。

「いやいや、咄嗟の状況で最前の判断などはできなくても仕方あるまい。逃げられてしまったというのは結果論じゃ。
 思いがけず出くわした危険な賊に恐れず立ち向かった、その勇気だけでも大したものじゃよ」

オスマンはそう労いながらも、改めて現状を顧みて、小さく溜息を吐いた。

「……とはいえ、確かに今の話の中にはフーケを捕える手掛かりになりそうなものはなかったのう。
 後は、ミス・ロングビルの調査の結果を待つしかないか……」

(ウーン……、どうしようかな?)

ディーキンは教師たちが打つ手がなく困っている様子を見て、はたして今、この時点で何かするべきだろうかと考え込んだ。

昨夜招請して頼みごとの内容を伝え、送り出したラヴォエラはまだ戻ってはいない。
そんなに早く用件を終えて戻れるとはディーキンも思っていないし、おそらくまだ時間がかかるだろう。

彼女が用件を終えて戻って来てさえくれれば、間違いなく真相を明らかにして犯人を見つけ出してみせるだけの自信はある。
しかし、あまり遅くなると宝物を売却処分されてしまったりして面倒なことになるかもしれない。
成功の確証はないが、昨日検討していた《念視(スクライング)》などの手段を試してみることをここで申し出るべきだろうか……。

そんな風に思案を巡らしているところへ、ちょうどよくミス・ロングビルが戻ってきた。

「ただいま戻りましたわ」

「おお。ちょうど良いところに戻って来たのう、ミス・ロングビル。
 思ったより早かったが、調査はもう済んだのかね?」

「いえ、予定していたすべての聞き込みを終えたというわけではありませんわ。
 ですが、有力そうな情報が入りましたので、早急にお知らせしようと調査を切り上げて戻って参りましたの」

皆の注目が集まる中、ロングビルはその有力情報について簡潔に説明していく。

何でも、ここ最近、近くの森の廃屋に怪しげな人物が出入りするのを見かけたという樵がいたらしい。
その男はいつも人目をはばかるようにローブなどを着込んで顔や姿を隠しており、頻繁に小屋へ大荷物を運びいれたり、運び出したりする。
そしてそういった荷物の中には、何やら高価そうな絵画やワイン、宝飾品らしきものなどがちらりと見えたこともあった……、と。

「……おそらくその不審人物はフーケで、件の廃屋は一時的に盗品を隠しておくための彼の隠れ家なのではないかと。
 もしそうであれば、そこに盗み出された杖が運び込まれた可能性は高いと思いますわ」

「ふむ……」

ロングビルの話が終わると、オスマンはしばしの間、じっとその情報を検討してみた。

確かに、その人物は不審だ。
フーケの可能性は、かなりありそうに思える。
たとえそうではなかったとしても、別の犯罪者かも知れない。

(なんにせよ、調査してみるだけの価値はあるかの)

そう結論すると、オスマンは目を鋭くしてロングビルに尋ねた。

「……その場所は、ここから近いのかね?
 君か、君が話を聞いたというその樵に、そこへ案内してもらうことはできるかの?」

「はい、馬を飛ばせば2、3時間程度の距離かと思いますわ。
 場所は聞いておきましたので、私が案内できます」

「よし、それだけわかれば十分に調査できますぞ!
 学院長、すぐに王室へ報告しましょう。その場所へ衛士隊を差し向けてもらわなくては!」

オスマンはそう提案したコルベールに顔を向けると、目を剥いて一喝した。

「馬鹿者奴! 王室なぞに報告して決定を待っておっては時間がかかり過ぎるわ、その間にフーケに逃げられたらなんとする気じゃ。
 仮に助力を仰ぐにしても、せめてその場所が本当にフーケの隠れ家かどうかくらい確かめてからでなくては話にもならんわ!
 ……第一、これは魔法学院の問題じゃ。当然我らの手で解決せねばならぬ。
 身にかかる火の粉も振り払えず、安易に王室に解決を丸投げしておるようでは、貴族として面目が立たんではないか!」

普段の好々爺然とした姿からは想像もつかないような迫力と威厳であった。

学院長の宣言に教師たちが困ったように顔を見合わせたり、恥ずかしげに俯いたりする中、ルイズとシエスタは力強く頷いていた。
キュルケは少しばかり肩を竦めてから頷き、タバサは無関心そうにしながらもこくりと小さく頷く。
情報をもたらした当のロングビルは、学院長の宣言になにやら満足げに微笑んでいた。

ディーキンはというと、そんな皆の様子を順に見つめながらどこか楽しそうにウンウンと頷きつつ、羊皮紙にメモなどを取っていた。
後でまた、この件を歌や物語の題材にしようと思っているのであろう。

オスマンはひとつ咳払いをすると、皆を見渡す。

「……では、調査に赴く有志を募るとしよう。我こそはと思う者は、杖を掲げよ」

そういわれて、教師たちが困ったように顔を見合わせる中……。

「はいは~い、ディーキンは冒険者なの! こういうのはディーキンが行くよ!
 ええと、杖は……、これでいい? 他にも杖っぽいのは、いろいろ持ってるけど……」

真っ先にどこからともなく取り出した杖を目いっぱい背伸びして掲げたのは、当然のごとくディーキンであった。

いきなり亜人の使い魔が立候補したことに周囲の教師達が驚き、ざわめく。
中には使い魔の分際でと思っているのか、明らかに不快そうな様子の教師もいるが、先程の話の件があるので口には出さなかった。

そうなると当然、使い魔だけを行かせるわけにはいかぬとルイズも杖を掲げ、続いてキュルケやタバサも同行を申し出る。
さらにはシエスタも、恐縮そうにしながらも進み出て、どうか同行させてくださいと頼み込んだ。

そこまで話が進むと、ようやく教師の中からも声を上げる者が出てきた。

「あ、あなたたちは生徒ではありませんか!
 これ以上、危険なことに首を突っ込むのは止めて、教師に任せなさい!」

「平民が同行して何の役に立つというのかね!
 生徒や平民に任せるくらいならば、私が行こうではないか!」

亜人の使い魔から始まって、生徒や平民までが手を上げるのを見て、教師としての義務感に駆られたものか。
あるいは、単に参加者の数が増えてきたのでそれに勇気を得て同調したものか。
先程のディーキンの話を聞いて、魔力を増幅できるという彼の能力をあてにしている者もいるかもしれない。

一人、また一人と声を上げる者が増えてくるが、そこでオスマンが口を挟んだ。

「待ちなさい、そんなに大勢で行っても埒が明かん。
 必要以上の多人数でゾロゾロ移動しておっては何かと時間もかかり、フーケにも気取られやすくなろう。
 ここは、最初の方で名乗り出た君らに頼むこととしよう。昨夜の襲撃に居合わせた顔ぶれでもあることじゃ、丁度よかろう」

オスマンはそう言って、ディーキン、ルイズ、キュルケ、タバサ、シエスタ、それに案内役のロングビルの6人を指名した。

「馬鹿な! 平民などよりも、教師を加えるべきではありませんか!」

そう不平の声を上げた教師を、オスマンがじろりと睨む。

「そう思うならば、率先して平民よりも先に手を上げるべきではなかったかね、ギトー君?
 人の尻馬に乗って名誉のおこぼれにあずかろうなどという発想の者では、凶賊を捕縛するにあたってはいささか頼りないのう」

「な……、私は決して、そのような気など……!」

「そうかの? では、君の主張するように生徒や平民や使い魔などには任せず、一人で行ってくれるかね?」

そういわれると、ギトーはぐっと言葉に詰まってしまった。

普段教壇では『風』のスクウェアメイジとしての力量を誇り、風こそは最強の属性だと自負しているが、理論と実戦との違いくらいはわかっている。
ましてや世間を騒がす凶悪な盗賊と、実際に渡り合ってみせる自信など無かった。
実のところ、彼はオスマンの指摘したとおり、実際にフーケの巨大ゴーレムを破壊した実績のある生徒や使い魔の能力をあてにしていたのだ。

オスマンは鼻白んだ様子でそんなギトーから視線を外すと、ディーキンらの方に顔を向けた。

「我々は皆、犯罪者の捕縛などに関しては専門外じゃ。このような状況下では、教師も生徒も大して変わるまい。
 ましてや君たちは取り逃がしたとはいえ、昨夜既に賊を一度撃退しておる。後れを取ることはあるまい」

それからオスマンは、彼女らの能力の高さについて順番に評価していった。

「まず、ミス・タバサは若くしてシュヴァリエの称号を持つ騎士である」

この言葉には教師たちも、また彼女の親友であるキュルケも初耳だったらしく、驚いていた。
シュヴァリエは貴族の称号としては最下位だが、金では買えず、世襲もできないだけに、純粋な実力の証となるのである。
タバサ自身は特に反応もせず、無感動そうにしている。

「ミス・ツェルプストーは、ゲルマニアの優秀な軍人を数多く輩出した家系の出じゃ。
 彼女自身も炎の魔法の優れた使い手であることは、昨夜の活躍で十二分に証明されておるな」

キュルケが得意気に髪をかきあげる。
ルイズも負けじと胸を張った。

「ミス・ヴァリエールは、名門ヴァリエール公爵家の令嬢じゃ。
 昨夜の襲撃に際しては真っ先にゴーレムを止めようとしてくれたと聞いておる。貴族の誉れじゃ。
 しかも、その使い魔は―――」

それからオスマンは、ディーキンとシエスタの方に視線を移す。

「……もちろん、素晴らしい能力の持ち主であることは先程の話で証明されておるな。
 それにもまして、我らの誰よりも早く杖を掲げ、助力を申し出てくれた高貴な精神の持ち主であることを忘れてはならん」

「ンー……、エヘヘ……」

ディーキンは場を弁えて口は挟まないでいるものの、ベタ誉めされてもじもじと照れている。
オスマンは最後に、ディーキンの後ろの方で畏まっているシエスタに目をやった。

「彼女は、シエスタという名の学院のメイドじゃ。
 先日グラモン家のギーシュと決闘をして引き分けたほどの剣の使い手であることは、覚えている者もいよう。
 その時の態度も名誉に悖らぬ、実に見事なものであった。
 万が一にも生徒らの身に危険が及んだ時には、必ずや彼女らを守ってくれるものと期待しておる」

シエスタはそれを聞くと、ハッと顔を上げて、驚いたようにオスマンの顔を見つめた。
まさか、学院長ほどの人物が、自分のような平民の使用人の名を覚えていてくれたとは……。

「異論のある者、この5名よりも優れた働きができると主張する者は、前に出たまえ」

しばらく待って誰も名乗り出ないのを確認すると、オスマンは改めて選ばれた5人に向き直った。

「魔法学院は、諸君らの努力と貴族としての義務に期待する」

ルイズとタバサとキュルケは、真顔になって直立すると、杖にかけて誓ってから恭しく一礼した。貴族の作法なのであろう。
ディーキンは少し首を傾げたが、自分も手にした杖でその動作を真似すると、竜族の守護神であるイオに誓った。
シエスタは使用人としての作法でスカートの裾をつまんで御辞儀をすると、自分の祖先にかけて誓った。

オスマンはそれを見て満足そうに頷くと、ミス・ロングビルに軽く頭を下げる。

「では、ミス・ロングビル。この子らの案内を、よろしくお願いしよう」

「はい、お任せください。ところで……」

ミス・ロングビルこと『土くれ』のフーケは、御辞儀を返すと上目遣いにオスマンを見つめた。
心の中で、舌なめずりをしながら。

「ん、何かね?」

「いえ、出かける前に宝物の杖の使用法をお聞きできないかと思いまして。
 宝物は強力なマジックアイテムなのでしょう?
 もしフーケがその場にいて、杖を使って来たら危険ですから、使うための手順などを判別できるようにしておくべきかと。
 それに、私たちが取り戻せれば、フーケを捕縛する際に杖を役立てることもできますわ」

フーケはそういい終えると、期待に胸を膨らませてオスマンの返事を待った。

意気込んでいるガキどもには悪いが、それさえ聞き出せれば今回の仕込みの目的はこの場で達せられるのだ。
もし今この場で杖の使い方を聞き出せたなら、後はこいつらをまったく無関係の廃屋に案内して、自分の見込み違いだったということにするまでだ。
お宝はほとぼりが冷めてからゆっくりと隠し場所から回収して、換金するなり、自分の手元に置いて使うなりすればよい。

本物の杖は一応、事前に見繕っておいたそれとは別の小屋に隠してある。
もし仮に本命のあるそちらに案内した方が都合が良さそうな話の流れになったとしても、臨機応変に対応できる。
昨夜はゴーレムをあっさり倒されたとはいえ、それはあのゴーレムが攻撃にまったく対応も再生もできない自動操縦だったからだ。
ちゃんと自分が操作をして対応したり、不意を打ったりすれば、たかが生徒や小柄な亜人ごときを自分が始末できないはずがあるまい。
無論、自分は殺人鬼ではないから、こいつらを始末しなくても済む状況なら無理に戦うまでもない。

万が一話がまずい方向に進んでどうにもならなさそうになったなら、最悪、実際に一旦杖を返してやってもいいのだ。
フーケは十分すぎるほどの余裕を持って、そう考えていた。
せっかく盗み出した杖は惜しいが、自分の正体さえばれなければ大事はない。

(なあに、自分はまだまったく疑われちゃいないんだ。
 一度返して警戒が厳しくなったとしても、また盗み出す機会くらいどうとでもして見つけてやるさ!)

「うーむ……、そうじゃな……」

オスマンはしばし躊躇ったが、確かに杖に関する情報の有無は大きいだろう。
生徒らの身の安全が掛かっているとあっては是非もない。
じきに重々しく頷くと、口を開いて杖に関する説明を始めた……。


(よしよし……、これだけわかりゃあ、十分売り物になる。
 感謝するよ、エロジジイ!)

オスマンの説明を聞き終えたフーケは、内心で快哉の叫びをあげた。

『破壊の杖』の方は、杖のあちこちを変形させて、銃のようにして使うらしいということだった。
そうするとやはりコルベールの考えた通り、マジックアイテムではない武器の一種なのかもしれない。

詳細は自分にも自信が無く、危険なので、緊急事態にならない限り絶対に使おうとはしないようにと念を押されたが……。
言われずとも、フーケにも実際に使う気はない。
買い手の前で扱い方を軽く説明できる程度にだけわかれば、それで十分なのだ。

そして『守護の杖』の方は、なんと手に持っているだけで自分に掛けられた大概の呪文の効果を防げるのだという。
絶対に防げるわけではなく、特に腕の立つメイジの呪文は防げない事もしばしばあるらしいが、それでも十分素晴らしい能力だろう。
必ずや素晴らしい高値で売れる……、いや、自分の手元において使ってもいいかもしれない。

ただ残念なことには、杖には他にも何か能力があるのだがその使い方はオスマンも知らず、本来の持ち主である友人しかわからないという話だった。
その能力もわかれば天井知らずの値が付くかもしれないのに、何とも口惜しい。

(まあ、このエロジジイにもわからないってんじゃあ、仕方がないね……)

とにかく聞くべきことはこれで聞き出せたのだ、もう用は無い。
あとはこいつらを何もない偽の廃屋に案内して、結局フーケの手掛かりは掴めなかった、ということにすれば……。

フーケがそう考えていたところに、横合いから生徒の使い魔だという妙な亜人が口を挟んだ。

「ええと、宝物の使い方がわからないの?
 それだったら、もしその宝物を取り戻せたら、ディーキンが使い方を調べてあげるよ――」


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