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暗の使い魔‐12


ルイズ達がフーケを捕まえた晩の翌朝である。学院内はある二つの要因でちょっとした騒ぎになっていた。
まず一つは、シエスタが学院に戻ってきた事である。給仕する平民達は、誰もが彼女の復帰を驚き喜んだ。
中でも最も喜んだのはマルトーである。彼はシエスタから官兵衛の活躍を聞くと、自分の事のように喜んだ、そして。
「カンベエ!カンベエ!お前がシエスタを取り戻してくれたんだって!オマケにどデカイゴーレムをぶっ飛ばしたとか!
もう我慢ならねぇ!接吻させろい!」
「接吻は勘弁してくれ!小生にそっちの趣味は無い!」
と、こんな感じである。またもや官兵衛は厨房中の英雄として祭り上げられてしまった。
そして二つ目はルイズ達の活躍である。
昨晩、学院に彼女達が引っ張ってきたのは、なんと土くれのフーケ本人と破壊の杖ではないか。
もう二度と捕まらないか、王宮衛士隊が何とかすると思っていた教師陣は、その出来事に目をむいて驚いた。
しかし、オスマンとコルベールだけは何やら納得したように、笑いながら頷いていた。

暗の使い魔 第十二話 『動き出す物語』

朝早く、学院長室にはオスマンとコルベールと、ルイズら4人の姿があった。
ルイズ達は、フーケを捕まえた一部始終をオスマンに報告していた。
「ふむ、まさかミス・ロングビルがフーケじゃったとはな。美人だったものでなんの疑いもせずに秘書に採用してしまった」
「おいおい」
官兵衛が呆れた声を上げた。
隣に控えたコルベールがオスマンに問う。
「一体どこで採用されたんですか?」
「街の居酒屋じゃ。彼女は給仕をしておっての。ついついこの手がお尻を撫でてしまってな。
それでも怒らないので秘書にならないかと、言ってしまった」
「まさか、それだけですか?」
コルベールがそう呟くと、オスマンは目を見開いてカァ――――ッと怒鳴った。
年寄りとは思えない迫力だが、この状況ではなんとも間が抜けていた。
「だって魔法が使えるというんじゃぞ?その上わしを男前だのなんだの媚を売り売り。惚れてる?とか思うじゃろ?」
「死んだほうが良いのでは?」
コルベールはボソリと呟く。オスマンは重々しく咳をして誤魔化した。
しかし不意に何かを思い出したのか、コルベールは手をポンと打ちあからさまにオスマンに同調し始めた。
「(この先生もダマされて何か喋ったな?)」
美人はただそれだけでいけない魔法使いですな!と冷や汗を垂らしながら笑うコルベール。
そんな彼を官兵衛はじっとみていた。オスマンとコルベールの誤魔化しに全員がジトッと白い目を向けていた。
「さてと、君たちはよくぞフーケを捕らえ、破壊の杖を取り戻してくれた。
そのテンカイとやらは気になるが、君達の活躍は十分に目覚ましいものじゃ!」
オスマンがニッコリと笑うと、官兵衛を除く三人が恭しく礼をした。
天海は現在手配の真っ只中であるそうだ。フーケは衛士に引き渡され、破壊の杖も元通りということである。
うんうんとオスマンが頷く。
その後オスマンは、ルイズとキュルケに『シュヴァリエ』の爵位申請を。
タバサには『精霊勲章』の授与申請を王宮にしておいた、と伝えた。三人の顔が輝く。
しかしルイズはその後浮かない顔をすると。
「オールド・オスマン。その、カンベエには何も無いんですか?」
官兵衛をちらりと見ながらそう言った。
「残念ながら彼は貴族ではない」
「別に構わんよ」
官兵衛が拘った様子も無くそう言い放つ。
ルイズはなにやら納得が行かない様子だったが、官兵衛のさっぱりとした様子を見て思いなおしたようであった。
そして、オスマンはぽんぽんと手を打つと一向に向き直り。
「さてと、今夜は『フリッグの舞踏会』じゃ。『破壊の杖』も元に戻ったことじゃし、心置きなく執り行えるの」
そう言った。キュルケが嬉しそうに表情を輝かせた。
「今夜の主役は君達じゃ。用意をしてきたまえ。せいぜい着飾るのじゃぞ」
三人は礼をしてドアへ向かう。しかし官兵衛は立ち止まり、オスマンに向き合ったままだ。
ルイズが心配そうに見るが、官兵衛が大丈夫だと小さく頷くのを見ると、静かに退室した。
オスマンが官兵衛に向き合う。
「何か、私に聞きたいことがおありのようじゃな」
「ああ、差し支えなければ。色々とお願いしたい事もある」
「言ってごらんなさい。出来るだけ力になろう。君に爵位は授けられんが、せめてものお礼じゃ」
そういうと、オスマンはコルベールに退室を促した。
コルベールは、何やらワクワクと官兵衛の話に期待の色を輝かしていたようだが、そう言われると渋々退室した。
それを確認すると、官兵衛は口を開いた。
「まずは小生から一つ詫びがある。勝手に学院の名を使わせてもらったことだ。」
官兵衛はまずモット伯との交渉のことについて詳しく話した。
勝手に自分を使者と名乗らせてもらった事である。
オスマンはただただそれを静かに聞いていたが、やがて重々しく咳をすると、口を開いた。
「うむ。ミス・ヴァリエールから話は聞いておるよ。あの娘を助けてくれたんじゃろう?」
オスマンは穏やかに言う。
「確かに学院の名を騙ったのはいただけん。相手は王宮の勅使じゃ。もしもの事があれば君にも君の主人にも類が及ぶ。
そうじゃろう?」
オスマンは諭すように官兵衛に言った。まあな、と官兵衛は頭を掻く。
しかしオスマンはじゃが、と付け加えるとニッコリ微笑み。
「あの娘を救い出してくれてありがとう、カンベエ殿」
そう言った。意外な言葉に官兵衛は少々驚いた。
まさか貴族にとってなんでもない平民の娘を救い出して、礼を言われるとは思いもよらなかったのだ。
「実はモット伯には私も困っておった。若い娘を好き勝手に引き抜いては傍に仕えさせる。
何を言おうにも相手は王宮勅使じゃ。中々手が出しづらい。」
オスマンが辛そうに言う。
「それをお主は救い出してくれた。平民とはいえ、学院の者をむざむざ差し出してしまった私らの過ちを、
見事お主が体を張って正してくれたのじゃ。これに礼をいわずしてなんとする」
そういうとオスマンは立ち上がり、官兵衛の手を握った。
「重ね重ね礼を言うぞい。ありがとうカンベエ殿」
驚いていた官兵衛だが、すぐにオスマンに微笑み返した。
「礼といえばもう一つあったな。破壊の杖を取り戻してくれた件についてじゃ」
「ああ、小生もアレについて聞きたい。オスマン殿、アレは一体何処で手に入れたんだ?なぜ学院の宝物庫に?」
「ふむ、あれは今から30年程前のことじゃ」
そういうと、オスマンは目を閉じ、懐かしむようにそれを語りだした。
「30年前、森を散策していた私はワイバーンに襲われた。そこを救ってくれたのがあの杖の持ち主じゃった。
年若い青年じゃった。彼は見たことも無い数々の武器であっというまにワイバーンを倒してしまったんじゃ。
宙を舞う数多の武器が猛烈に火を噴いた。私は呆気にとられたよ。その彼が持っていた武器の一つが……」
「破壊の杖か……」
官兵衛の言葉にオスマンは静かに頷いた。
「その後、私は彼を命の恩人として迎え入れた。すぐに仲良くなっての。その際彼から破壊の杖を譲り受けたんじゃ。」
「成程な、でソイツは今どこに?」
「それがの、彼はある日旅にでると言い出し、それっきりなんじゃ。元の居場所に帰ると言っておった。」
オスマンが残念そうに呟いた。そうか、と官兵衛が頷く。そして官兵衛はもっとも重要な事をオスマンに尋ねた。
「で、そいつの名前は?」
「名前か。珍しい名前じゃった。確か……」
オスマンが記憶を探るように、ゆっくりと言葉を口にした。
「マゴイチ、サイカ・マゴイチじゃ」
官兵衛は、心臓の鼓動が早くなるのを感じた。彼は静かに言葉を紡ぐ。
「間違い、ないんだな?」
オスマンが真剣な顔つきで、うむと頷いた。官兵衛は冷静に心を落ち着けると、オスマンに言った。
「そいつは、小生の元いた世界からやってきたんだ。雑賀孫市、そいつは無事小生の世界に戻ってる。
現雑賀衆の、恐らく先代をつとめていた頭領だ」
「サイカシュウ。先代頭領じゃと。そして今君は元いた世界といったかね?」
「ああ、信じてはもらえないかも知れないが、小生はこことは全く違う世界から来たんだ」
「何と」
オスマンは目を細めると、真剣な眼差しで官兵衛を見つめた。
じっくりと見据え、それを終えると成程な、と呟いた。
「彼も同じじゃった。その出で立ち、立ち振る舞い。そしてその眼。
ここハルケギニアの理とは違う、どこか違う世界から来た者のものじゃったのか」
オスマンは納得したように頷いた。そして、次に官兵衛の手に浮かんだルーンを指差した。
「これはの。ガンダールヴのルーン。かつて始祖ブリミルが使役した伝説の使い魔のルーンじゃ」
「伝説だと?」
官兵衛が目を丸くする。
「そうじゃ。伝説では、ガンダールヴはありとあらゆる武器を使いこなしたそうじゃ。心当たりはあるかね?」
そういえば、と官兵衛がある出来事を反芻する。破壊の杖、狙弾カワセミを持った時だ。
その使い方や名称、さらには予備弾の有無まで容易く理解できた。あの時カワセミに煙幕弾を細工出来たのもその為だ。
官兵衛はその事をオスマンに話した。するとオスマンはゆっくりと首を振った。
「やはりそうか……」
「どうして小生がそんな大それたものに。やはり小生がそれだけ大物で――」
「それは私にもわからん、何かの気まぐれか、或いはなにか特別な理由があるのかもしれん。お主がその別の世界から
呼び出されたようにな。」
官兵衛の言葉をスルーして言葉を続けるオスマン。
「とにかく、私たちはお主の味方じゃ。ガンダールヴよ」
オスマンは何か言いたげな官兵衛を抱きしめた。
「お主がどういう理屈でこちらに呼び出されたか。私なりに調べるつもりじゃ。でも何もわからなくても恨まんでくれよ?
何、こっちの世界も住めば都じゃ。嫁さんだって探してやるぞい」
「いや、嫁さんもいいが。どっちかと言うと小生こいつをなんとかして欲しいんだが」
そういうと官兵衛は己の手枷をスッとオスマンに差し出した。それを見てオスマンは怪訝な顔をした。
「なんじゃ?好きで付けとるんじゃあないのか?」
「そんな訳あるかっ。だれが好きでこんな鉄球に名前なんか付け……いいや違う。好きで手枷なんか付けてるんだっ」
官兵衛がオスマンに食って掛かる。まあまあとオスマンが宥めると。
オスマンはふむ、と少々考える素振りをした後、こう言った。
「んじゃあそんな物騒なもん外してしまえ」
「出来たらとっくにやってるわ!全く、鍵を自由に外せる魔法でもあればいいんだがな!」
「あるぞい」
「そうだろう!そんな都合のいい魔法……って、何だって?」
官兵衛の時間と思考が一瞬停止した。
「だから。あるぞい。鍵を外す魔法」
オスマンが耳元でそっと呟いた。
官兵衛の思考が、ゆっくりゆっくりと動いた。ある?何が?マホウ。カギハズスマホウ。アル。
その瞬間、官兵衛は叫んだ。
「なっ何だってェ――――――――――ッ!?」
学院中に響きそうな大声で、官兵衛は驚愕の叫び声をあげた。
「落ち着くんじゃカンベエ殿」
「マホウ!カギ!ハヤク!」
なぜか片言になりながら、官兵衛はズイズイと枷をオスマンに差し出した。
興奮で汗が噴出する。官兵衛はただただ必死だった。そんな官兵衛の勢いに引きながら、オスマンは杖を取り出す。
「ほれ。じゃあ今かけるぞい」
「おう!」
オスマンが短くルーンを唱える。『アンロック』。鍵を外す魔法を唱え、杖をふるった。
瞬間、ガチャリと音が鳴り、官兵衛の手枷がガランガランと床に転がり、はしなかった。
そのまま変わらずであった。アレ?とオスマンが首をひょいと傾げる。
「えーっと……ちょっと待ってて」
オスマンがそそくさと部屋の扉に近づく。と、静かにある人物の名を呼んだ。
「ゴホン!コッパゲ君、いるんじゃろ?おーいコッパゲ君」
「だーれがコッパゲですか!このセクハラ学院長!」
バンと扉が開かれる。とそこには退室したはずのコルベールが青筋を浮かべながら立っていた。
「ほれ、やっぱりいた」
コルベールがあっと言いながら顔を伏せる。どうやら会話を盗み聞きしていたようだ。
「オ、オールド・オスマン?これは……」
「そんな細かい事は良いから!ほれ、早くこっちに来ておくれ!」
盗み聞きを弁明しようとするコルベールを、オスマンは無理やり連れてきて官兵衛の前に立たせた。
「ホレ!やってくれ」
「?何をですか?」
疑問符を浮かべながらコルベールは首を傾げる。
「『アンロック』じゃよ!失敗しちゃったから!ハヤク!」
「ははあ成程。学院長も御年ですかな。」
ハハハと笑いながら、コルベールは意識を官兵衛の枷に集中させルーンを唱える。真剣な眼差しと手つきで杖を振るった。
次の瞬間!何も起こらなかった。
「お、おい?」
官兵衛がフルフル震えながら、二人を交互に見やった。
コルベールが冷や汗をかきながら、あれおっかしーなーと頭を掻いた。
「ミ、ミセスシュヴルーズあたりに頼みましょう!彼女は確か『アンロック』得意だったような、そうでないような……」
「う、うむ。っていうかこの枷。うちの宝物庫より頑強なんじゃあ……」
「シッ!」
しかし官兵衛はその言葉を聞き逃さなかった。
「ほ、宝物庫より頑丈……?」
希望が絶望へと変わる。そして、それ程強固な封印を施した人物に官兵衛は心当たりがあった。忘れもしないあの面構え。
自分をいつも面白がり、全力で嫌がらせしてくるあの人物。
「ぎょ、刑部めぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!」
官兵衛は歯軋りした。あの空の向こうで誰かがヒヒヒと笑った気がした。畜生と官兵衛は枷をガチャガチャ動かす。
しかしそんな事で外れるわけが無い。官兵衛は手を下に下げ、ゆっくり天井を仰ぐと。
「何ァ故じゃああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
肺の空気が続く限り、お決まりの台詞を叫んだ。

所変わり、ここは日ノ本・大阪城。
分厚い雲が天を覆い、風が吹き荒れる。
そんな気候の中、天守に続く門扉の前にある二人の男が居た。
「なんだ刑部。妙に機嫌がいいな」
前髪を鋭角に尖らせた、銀髪の青年が、傍に控える男に尋ねた。
「いやなに。今どこぞで誰かが不幸を味わっておるのが感じられてな。ヒヒヒッ!」
浮遊する輿に座りながら、刑部こと大谷吉継は心底楽しそうに笑った。
大谷吉継。豊臣軍内で、軍師・竹中半兵衛に次ぐほどの知恵者である男だ。
彼は、その実力と信頼から、豊臣のあらゆる実務を一手に引き受ける。
そんな常に多忙な彼が、珍しくのんびり空を見上げて笑っている。
その様子を、青年が怪訝そうな顔で見ていた。
「……まあいい、それよりも行くぞ」
「どこぞへ遠出か?三成」
三成と呼ばれた前髪の青年。彼は豊臣秀吉の左腕をつとめる武将。秀吉の忠実なる懐刀、石田三成であった。
「少し気になる事案が発生した」
「ほう、左様か。してそれは?」
三成の言葉に、刑部はとぼけたような口調で問いかける。
それを気にした素振りも見せず、三成は続ける。
「貴様も耳にはしている筈だ。あの男に、異変が起きた」
「ほう?アレにか」
刑部は口調を変えず、心底愉快そうに言った。
三成は、苦虫を噛み潰したような表情で、続けた。
「あれは、あの男は、非常に不快だ。必要以上に私に関わり、常にこの魂《こころ》を苛む。だが!」
鞘におさめた刀を翻し、三成は言い放つ。
「決して、不要ではない……!」
やや昂ぶりを抑えながらの声色だった。
それを聞き、刑部は珍しく口を閉ざす。
「勘違いするな!あくまで秀吉様の天下泰平の為に必要なだけだ!私にとっては煩わしい悪鬼に他ならん!」
「あいわかった、わかったァ」
三成をまあまあと宥める刑部。
彼は輿の上から、その黒い眼で静かに三成を見つめた。
「ならば行こう。あやつの治める地、四国へな」
刑部の言葉に三成が、弾丸の如き勢いで飛び出した。
門扉をくぐって彼方へ消える三成。
やれやれと肩を落とし、刑部は輿をふわりと高く浮かび上がらせる。
そして三成の後を追うように、ジェット機もかくやという勢いで、空を疾走した。
「ふむ、暗に続きあやつもか……。どうにもコウニモ、不幸の星流れよの。ヒヒヒヒヒッ」
刑部は、疾空しながら口元を緩めた。引きつるような笑い声が、包帯の奥から漏れ出る。
大谷がやがて、空の彼方に米粒のように消え去ると、後には誰も残らなかった。
そこには天高く聳える権力と力の象徴、大阪の巨城がどっしりと佇んでいた。

「まあ、そう落ち込むなって相棒!」
「これが落ち込まずにいられるか……。畜生、なんで小生はいつもこうなんだ」
官兵衛は、アルヴィーズの食堂の上にある大ホール、そこのバルコニーの枠にもたれながらワインをかっくらっていた。
あの後、学院長の命で多くのメイジが官兵衛の手枷を外そうと、手を尽くした。
度重なるアンロックの試行、しかし誰も外す事は出来ない。
次に、錬金を駆使して鍵を作り、こじ開けようとした。
しかしこれも無駄。不思議な呪いによって鍵がボロボロに崩れ落ち、鍵穴に入りすらしなかった。
官兵衛の手枷は、対になった鍵でしか解除出来ないよう、大谷吉継の渾身の呪いが掛かっていたのだ。
官兵衛は気落ちしたまま、フリッグの舞踏会に出席したのだった。
話し相手にデルフリンガーを肩に担ぎながら、官兵衛はぼんやりとホール内を眺める。
そこでは、煌びやかな衣装に身を包んだ貴族達が、優雅にダンスを楽しんでいる。
全く人の気も知れずに、と官兵衛はごちた。
そんな官兵衛だが、この時の彼は身なりが整っていた。
見ると、服装の汚れが取り除かれ、着込んだ甲冑も綺麗に磨かれている。
髪の毛も最低限短く整えられ、長かった前髪がこころなしか短くなっている。後ろで束ねていた髪の毛もなくなっていた。
官兵衛は平民が使う風呂――といってもサウナに近いものだったが、そこを利用して身体の汚れを綺麗さっぱり洗い流したのだ。
枷のせいもあり、あまり満足に服や体を洗うことは出来なかったが、それでも幾分かマシにはなった。
枷さえなければ、少なくとも奴隷に間違われる事はないだろう。
髪の毛を整えてくれたのはシエスタだった。
彼女は帰って来たばかりで忙しいにも関わらず、官兵衛の為に散髪を請け負ってくれた。
曰く、お世話になったことで少しでも何らかのお手伝いをしたい、との事であり、彼はそれを快く受け入れた。
結果として官兵衛は見違えるほどの格好になった。
そんな官兵衛の傍には、先程まで派手なドレスを着たキュルケがいた。
整った官兵衛の姿を見るなり、これでもかというほどのアプローチをかけてきたキュルケ。
しかしパーティが始まると、すぐにホールの中へと引っ込んだ。今では多数の男子生徒に囲まれ、談笑を楽しんでいる。
タバサは黒いドレス姿で、机の上の料理と格闘している真っ最中であった。
幼いながらもその整った顔立ちは、普段ないドレス姿と相まって周囲の目を引いた。
しかし、ひたすら食べ物に集中するその姿勢が、それらをなんとも台無しにしていた。
そんな風に皆が思い思いのパーティを楽しんでいた、その時であった。
「ヴァリエール公爵が息女、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール嬢のおな~り~!」
突如、扉に控えた衛士がルイズの到着を告げる。ゆっくりと重厚な扉が開き、ルイズが姿を現す。
純白のドレスに身を包み、桃色の髪をバレッタで纏め上げた姿であった。
肘までの長手袋が良く似合う、いかにも名家の令嬢といった面立ちであった。
楽師が、主役が揃うのを見届けると、一斉に演奏を始める。ホールでは皆々が優雅に踊りを楽しみ始めた。
そんな雰囲気の中、ルイズの美貌に見せられた男子生徒達が彼女に群がった。
次々とルイズにダンスの申し入れをする生徒らだったが、ルイズはそれらの全てを断る。
そして、バルコニーにて寂しく食事をとる官兵衛を見つけると、ゆっくりと歩み寄ってきた。
落ち込み気味の官兵衛の前に立ち、腰に手をあてながらルイズは首をかしげる。
「楽しんでるみたいね」
「とんでもない、ヤケ酒だ」
官兵衛がつまらなそうに返す。
ルイズの姿を見て、デルフリンガーがかちゃかちゃと。「馬子にも衣装じゃねえか」とのたまった。
ルイズが剣をキッと睨むと、デルフは独りでに鞘に収まり、口を閉ざした。
「なるほど、身なりを整えれば結構ましになるじゃないか」
「何よそれっ」
「冗談だ冗談。そう怒るなご主人様」
官兵衛が笑って言う。ルイズは頬を膨らませた。
腕を組んだそんなルイズの容姿は、怒っていても気品に溢れている。
さしずめ女神様だな、と官兵衛は考えたところで彼は頭を振った。
「(いやいや、女神様にしちゃ小さすぎるな。うん)」
勿論年齢の話である。口が裂けても胸について言及してはいけない。
官兵衛はなにやら気恥ずかしくなって、持っていたワインをぐいっと仰いだ。
「で、お前さんこんな所で油売ってていいのか?」
「何よ?」
「さっき随分とお誘い受けてたじゃあないか。踊ってきたらどうだ?」
官兵衛が顎でホールの中をしゃくりながら言った。しかしルイズは答えずに、官兵衛にすっと手を差し出した、そして。
「踊ってあげてもよくてよ?」
目を逸らしながら、気恥ずかしそうにルイズが言った。そんな態度のルイズに一瞬官兵衛は固まった。
「おいおい。どうした急に」
しかしルイズは答えず、目を逸らしたままだった。
「小生のこの枷で、あそこに入れるもんなのか?」
明らかに足に引っかかりそうな鉄球をみて言う。
「大丈夫よ、私がフォローするわ」
「いやしかしだな……」
そんな煮え切らない態度を見かねて、ルイズが口調を強くした。
「もう!ここまで言わせないでよ」
やや怒ったように言うルイズ。彼女は仕方無しに一歩下がり、官兵衛に向き合うと。
「わたくしと一曲踊ってくださいませんこと。ジェントルマン」
ドレスの裾を恭しく両手で持ち上げ、膝を曲げて一礼した。
「相棒」
いつの間にか鞘から顔を出したデルフリンガーが官兵衛に促す。
呆気に取られていた官兵衛だったが、照れ隠しにやれやれと肩をすくめると。
「喜んで、だ」
静かにルイズの手をとってダンスの輪へと向かった。

「異国の踊りは初めてだ」
「私に合わせて」
官兵衛は両腕でルイズの手を握り、ルイズはもう片手を官兵衛の肩に。
足元に転がる鉄球を上手く足で動かしながら、官兵衛とルイズは器用にステップを踏んだ。
ぎこちないが初めて踊る異国のダンスは、官兵衛にとって中々悪い物ではなかった。
ルイズもそんな官兵衛の心情を悟ったのか、なにやら居心地良さげに、澄ました顔でステップを踏む。
周囲とは全く違った様相の踊りだったが、不思議と様になっていた。
「カンベエ、信じてあげるわ」
「何をだ?」
「あんたが別の世界から来たって事」
軽やかにステップを踏みながらルイズが言った。
やっぱり信じてなかったのか、と官兵衛は内心思った。
しかしそんなルイズに、そうか、と官兵衛も優雅にステップを踏みながら短く返した。
「ねぇ、やっぱり元の世界に帰りたい?」
「そうだな。何としてでも」
「そう、そうよね。その……テンカが懸かってるんだものね」
ルイズがやや俯きながら言う。官兵衛はそんなルイズの言葉に目を丸くしながら続けた。
「まあ天下も大事だが、何より残してきた連中も多い。大事な部下も、友人もな。それに……」
官兵衛はそこまで言うと、一瞬顔を伏せた。
その言葉にハッと官兵衛を見やるルイズ。見ると官兵衛はどことなく寂しそうに遠くを見やっていた。
若干心ここにあらずといった様子である。そんな官兵衛の様子を見ていると、ルイズは官兵衛が異様に遠くに感じられて。
「カンベエ」
知らず知らずの内に声をかけていた。
「あん?」
官兵衛がじっとルイズを見つめる。いつもより短く切り詰められた前髪。その隙間から、知的な眼差しと、精悍な造りの顔が見えた。
ルイズは慌てて目を逸らした。自分の心臓が高鳴るのを感じる。
普段とは違う使い魔の表情にルイズはどう答えたらいいかわからず、気がつけば。
「あ、ありがとう」
知らず知らずの内にそんな言葉を口にしていた。
「……? 何がだ?」
「あ、えっとその……ゴ、ゴーレム退治の時。助けてくれて、ありがとう」
頬をうっすらと染めながら、ルイズはしどろもどろになりながら言った。
「なんだそんな事か。気にするな」
官兵衛は薄っすらと笑いかけると。
「まあどうしても小生に礼をしたいっていうのなら、食事の量をもっと多くしてもらいたいがなっ」
恥ずかしがっていたルイズが、それを聞いてフッと笑う。官兵衛もそれにつられてニッと笑った。
いつしかテンポの速くなった曲の中、二人は楽しげに踊りを楽しんでいた。
バルコニーに立てかけられたデルフリンガーが、騒がしく声を上げた。
「おでれーた!主人のダンスをここまでつとめる使い魔なんてそういねーや!」
しかも枷つきで、と感心しながら。デルフは、今度のガンダールヴはとんでもねえと思いながら、同じ言葉を繰り返す。
この日、官兵衛は鉄球につまずく事も、鎖に絡まる事も無く楽しい時間を過ごし続けた。
彼の持つ不運も、この日だけは彼の楽しいひと時を許してくれた。そう思える時間であった。
夜空に浮かぶ月がいつまでも美しく、ホールで踊る二人を照らしていた。

第一章 召喚!不運の軍師、異世界へのいざない 完



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