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Neverwinter Nights - Deekin in Halkeginia-38


~~♪


深夜の魅惑の妖精亭に、耳に心地の良い歌声と、美しいリュートの音色とが静かに響いている。

ディーキンが今披露している詩歌は、竜退治の英雄行に出かける勇者とその周囲の人々にまつわる異世界の物語だ。
だが事前に宣言していた通り、恋愛物語的な要素も強いものだった。

物語の主人公はエロルという名で、とある辺境の地の若き領主。
婚約者である良家の姫君レツィアとの結婚を間近に控えたエロルは、突如領地に現れた緑竜から己が民を救うべく、自ら立ち上がる事を決意するのだ。

彼はまず、いかなる攻撃も通じぬ竜を打ち倒し得る武具を求めて、親友でもある近衛兵ベルガーひとりを連れて探索行に出る。

途中で、2人は領地の民が事あればみな頼りにするという森に棲む善き魔女に出会い、彼女から助力を受ける。
最初は彼女の若さと魔女という肩書きに疑いの目を向けるエロルも、やがて彼女の深い叡智や善良さを知り、敬意を抱くようになっていく。
そして苦しくも温かさのある旅の末に、ついにエロルは竜の厚い鱗をも貫けるという黄金の槍を手にした。

次に来るのは、魔女とエロルとの別れの場面。

魔女もまた旅を通してエロルに惹かれており、別れる前に自分の気持ちを彼に告げるのだ。
孤独な暮らしで人との深い交わりに慣れていない若い魔女の、不器用ながらも真摯で情熱的な求愛。
エロルはそれを聞いて辛そうな顔をするが、故郷に残してきた婚約者に対する自分の気持ちを説明する。
自分は故郷と領民だけではなく、彼女を助けたいからこそ自ら命を懸けようと決めたのだと。

初めての恋が破れた魔女は深く悲しむが、最後には笑顔でそれを受け入れる。
そして、これからはあなたのことを兄と思って慕おうと言い、エロルのために夜も寝ずに作った護符を渡して彼を静かに見送る……。



「んん~~……、トレビアン」

先程までの喧騒もぴたりと止み、客も店の少女たちも、みなうっとりした様子で物語に耳を傾けている……。
店の奥の方からそれを見て、スカロン店長は組んだ掌を頬に寄せて目を輝かせながら、腰をカクカク振って嬉しそうにしていた。

スカロンは、その女性的な口調に反して筋骨逞しい男性的な体格をしていた。
シエスタと同じ艶のある金属光沢の黒髪にオイルを塗って撫でつけ、さらにぴかぴかに輝かせている。
大きく胸元の開いた紫のサテン地のシャツからは同じく艶のある黒い胸毛をのぞかせ、鼻の下と見事に割れた顎には小粋な黒ひげを生やしている。

彼もまたアアシマールらしく印象的な容貌の持ち主だが、美しいと思うかどうかは人によってかなり好みが分かれそうだ。
そんな姿の男が腰を振る様子は人によってはかなり異様に感じられただろうが、今はみな歌に夢中で気に留めるものもいないようだった。

「ディーキンちゃん、本当に素敵ねえ。
 店の女の子がかすんじゃうくらい、お客さんのハートを掴むのがじょうずだわん」

横の方で、スカロンの娘のジェシカが同じようにディーキンの方を見ながら、父の言葉に満足そうに頷いた。

「そうね、シエスタが初めてあの子を連れてきたときには、いろいろな意味で心配したけど……。
 あの子が毎日うちで働いてくれたら、これまで自慢にしてきた魔法人形の演奏も、お払い箱になっちゃうわね」

ジェシカの容貌は、父親と同じく艶のある金属光沢の長いストレートの黒髪に、太い眉。
シエスタとは大体同じくらいの年だろうか、飛び抜けて美人というほどではないが、愛らしく、全身から華やいだ活発そうな雰囲気を漂わせていた。
豊かな胸の谷間を強調するような胸元の開いた緑のワンピースを着ていて、奔放というほどではないが、解放的な印象を受ける。

彼女もまたアアシマールのようだが、高貴さよりも親しみやすさが前面に出ていて、すっかり街娘に溶け込んでいる。
その雰囲気や装いなどから見ても、少なくともシエスタほど秩序寄りな性格ではなさそうだった。

(いえ、それどころか、私たちのサービスもなくてもいいくらいになるかもね……)

ジェシカはそう、心の中で呟いた。

なにせ普段は下心丸出しで来ている客たちが、酒や料理はおろか、目当てだったはずの給仕の少女たちにまで目もくれずに聞き入っているのだ。
曲の雰囲気に当てられたのか、普段はガードが固い少女たちの幾人かがうっとりして客に寄り掛かったり、腕を組んだりしてくれているのにもかかわらず。
一旦演奏が終われば曲の雰囲気の余韻も手伝って、店の少女たちとの『束の間の恋』に、また一層熱心に精を出しはじめるのだろうが……。

ジェシカは同じように静かに曲に聞き入りながらも、内心僅かに苦笑して肩を竦めた。

(……まあ、あの子がすごく上手なのは確かだけどさ)

ジェシカが他の少女たちほど歌の世界にのめり込めなかったのは、ここまでの話の筋書きに納得がいかず、あまり感情移入できなかったからだった。
何もせずに故郷で待っているだけの婚約者よりも、命懸けで彼を助けた魔女の方にこそ見返りを求める権利があろうというものだ。

(そんなにそのエロルだかが好きなら、身を引くとか妹としてだとか綺麗事言ってないで押し倒しなさいよ、まったく……)

本当に無我夢中で好きなら押し倒せるはずだ、というのがジェシカの見解である。
彼女は小さく溜息を吐くと、ディーキンの主人だという貴族の少女と一緒に夢中になって歌に聞き入っているシエスタの方を見て、肩を竦めた。

あんたも、好きな相手にはいつまでも遠慮してないでさっさと積極的に行かないと、取り逃がしちゃうんだから。



―――そんなスカロンやジェシカの思惑をよそに、物語は続く。



 勇ましきエロル、緑深き森の地の大公

 今こそ、愛する人に別れを告げて旅立たん
 己の民を脅かす、おぞましき緑竜を討たんがため

『我は、今こそ槍とならん。
 戦うために放たれて、飛び往くことが槍の定め。
 槍は折れる事など恐れはせぬ。
 さらば、ふるさと。
 さらば、愛する人よ』

 憂いるレツィア、エロルの婚約者たる美しき姫君

 今、愛しき人の旅立ちを見送らん
 与えられるものもなく、ただ力になれぬ己の身を嘆く

『そうして、あなたは行ってしまう。
 私にはそれを、止めることもできない。
 あなたの、力となることも』

 ……



魔女とエロルの別れの場面も終わり、ディーキンが今歌っているのは、今度は決戦を間近に控えて故郷に戻ったエロルとレツィアとの別れの場面である。

レツィアには魔女とは違い、彼を助ける力もなければ、与えられるものもない。
これまでも毎日、胸の締め付けられるような思いをしながら、ただ愛する人の無事を祈ることしかできなかった。

これ以上、そんな日々には耐えられない。
けれど、彼を引き留めることもできない。

だから彼女は、戦いに赴くエロルに、誓いの言葉と明日に残る契りとを求める。



『ああ、どうか、必ず戻るといってください。
 槍として死なず、私の下へ戻ると約束してください』

 エロルは力強く恋人を抱き締めると、その額に口付けた
 彼女を、なんとか安心させたかった
 いよいよ別れるという時になって、彼女の悲しむ顔を見たくはなかった

『愛しき人よ、ならば、我は誓おう。
 再び戻りし日には、永久の契りを果たさんことを』

 エロルには、絶対に戻るとは誓えなかった
 内心では既に半ば、覚悟を決めていたのだ
 二度と戻れぬかもしれぬと

 だから、戻った時のことを誓った
 そんな日が、果たして来るかどうかもわからないままに

 そんな空々しい誓いの言葉には、レツィアも騙されない
 彼女はなおも悲しげな顔で、婚約者を問い詰めた

『ならばなぜ、今ここで抱こうと、言ってくれないのですか?』

 ……



レツィアは、空約束に終わるかも知れぬ婚約者の言葉だけでは満足できない。

私には、あなたに与えられるものがなにもない。あなたの力になることもできない。
だから、せめて私自身を与えたい。少しでも、あなたの慰めになれると思いたい。
そうして自分の中に、確かに愛し合った印を残していってほしい。
だから、来ないかもしれない明日ではなく、今ここで愛してほしい―――。

エロルも愛する人からの熱意を込めた誘いに、一度は振り向いて彼女に手を伸ばしかける。
だが彼は葛藤の末、結局は婚約者を抱き締めることなく、再び背を向けてしまう。



(……どうして?)

演奏にじっと聞き入っていたタバサは、そんな疑問を抱いた。

先程からずっと本も開かずに、食い入るようにディーキンの演奏する姿を見つめている。
彼女を知るものがその姿を見れば、歌にひどく夢中になっているのは明らかだった。

(なぜ、好きな人に背を向けるの?)

魔女に対して、あれほど切なげに婚約者に対する想いを語っていたというのに。
ましてや、これが最後かもしれないというのに。
なぜ? どうして、それほど好きな相手を腕に抱かない?

余程に感情移入しているのか、無表情ながらも瞳がやや切なそうに潤んでいる。
そんなタバサの疑問に答えるかのように、ディーキンが切々としたエロルの返答を歌い出した。




『愛しい人よ、許してくれ。

 あなたをこの腕に抱いたなら、私の勇気は萎えてしまうだろう。
 あなたを二度と、離したくなくなってしまう。
 あなたの下から離れては、生きていけなくなる。

 だから、どうか背を向けることができた今のうちに、このまま行かせておくれ。
 民に対する、私の義務を果たすために』

 ……



「…………」

タバサは、その答えに完全に満足したわけではなかった。
だが、この英雄の気持ちを、少しは理解できたような気がした。

レツィアは自分の気持ちに従い、自分のために愛を求めた。
だがエロルは自分の気持ちを抑え、民のために愛に背を向けて勇気を取ったのか。

(……私は……、どっちなんだろう?)

タバサはふと、そんな事を考えた。
自分の心は、レツィアとエロルのどちらの方により近いのだろうか?

何年か前の、まだ戦いとは無縁だった頃の自分ならば、間違いなく姫君の方だったろう。
その頃の自分は、勇者に憧れるよりも勇者に助けられる囚われの少女に憧れるような少女だったから。
愛する英雄の無事をただ祈って、彼が戻って自分を迎えに来てくれるのを待つ姫君に自分を重ね合わせたはずだ。

けれど、今の自分なら、そんなことはしない。
無事に戻って来てくれるかもわからない英雄をただ待って何もしないでいるなんて、そんな自分は許せない。
たとえ竜を相手では敵わなくとも、自分も間違いなく戦いに行くだろう。

(でも、私には、彼のような選択はできない……)

自分には姫君のようにただ待っているような選択はできないが、不特定多数の民のために命を捨てて戦う道も選べそうにない。
今、母国からの命令に従って命がけの任務に務めているのも、ひとつには身内である母の命を守るため、そしてもうひとつには自分の復讐のため。
たまに請われて人助けをするくらいのことはあっても、普段からそのために戦っているわけではない。
決して、任務をこなすことで多くの人々を守りたいからとか、そんな立派な気持ちから命を懸けているわけではないのだ。

ましてや、愛する人に背を向けてまで義務に生きるなんて。
貴族として、タバサにもそのような生き様が誇り高いものだという思想はあったが、どうしても納得しきれない。
姫君のようにただ祈って待つ道は選べないけれど、この場面では、むしろ彼女の方に感情移入してしまう。

そうだ、今の自分は姫君ではない。
けれど、英雄でもない。
じゃあ、一体今の自分は……、なんなのだろう?

所詮は物語のこと、そんなことを真剣に考えても埒もないとはタバサにもわかっている。
だというのに、なぜかその考えは、なかなか頭を離れてくれなかった。



さておき、歌の世界と自分の思索とに深くのめり込んでいるタバサをよそに、物語はさらに続く。



『愛しき人よ、君にひとつ、頼みがある。
 戻りしその時には、どうかすぐに、暖かい食事で迎えてはくれまいか。
 竜退治で骨を折った後には、君の手料理が恋しくなっているであろうから』

 姫君は、成すべきことを得て歓喜した

『愛する方よ、ならば約束します。
 あなたが戻られるその日まで、私は待ちましょう。
 その日まで、毎日あなたのために、手料理を用意しておきましょう。
 あなたのお好きな豚のあばらの煮込み、柔らかい鳥の足、ローズマリーのスープ、それに……』

 ……愛し合う恋人は、そうして未来に夢を託した
 大事を前にして、未だその行方も分からぬままに―――――

 ……



結局レツィアがエロルのためにできることは、彼のために毎日、料理を作ること。

そんなものは所詮、おまじないに過ぎない。
だが、実際に神が声を掛けてくれなくても、神々への信仰が人々の心の支えとなるように。
毎日料理を作り続けて待つ限り、彼はいつか戻ると彼女は信じる事ができるはずだ。

だが、彼がもし、永遠に戻らなかったら?
その行為はまじないから、彼女を縛る呪いへと変わってしまうのではないだろうか?

だとしても、永遠の愛などが都合のいい幻想に過ぎないのと同じように、永遠に解けない呪いもない。
いつか、彼女は新しい相手と幸せを見つけられるはずだ。
まじないは、ただその日まで彼女の心を支え続ける、儀式でさえあればよいのだ……。
エロルはそう、考えたのであろう。

それを裏付けるように、この後、親友である近衛兵と別れたはずの魔女が姿を現し、自分たちも共に戦おうと申し出てくる。

だがエロルは、近衛兵には自分がいない間婚約者の身を守ってくれるようにと命じ、同行を断った。
自分が戻らなかったときにはこの友人と、という気持ちがあったのに違いない。
魔女には、あなたは領民にとってなくてはならない人だから、これからも人々の願いを聞き届けてやってほしい、と頼んでやはり後に残す。

そうしてエロルはついに旅立ち、ただ一人で竜の棲む森の奥深くへと分け入っていく……。



(ディー君ってば、無邪気な子供みたいな顔をして、こんな歌も上手に歌えるのね)

キュルケもまた、感心してうっとりと歌に聞き入っていた。

ただ、彼女はジェシカと同じでそこまで深く歌の世界に入り込んではいないらしく。
時折周囲の客たちや自分の連れの様子を横目で眺めては、僅かに苦笑したりもしていた。

いい年をして子供のように熱中している客の男たちや、しばし仕事も忘れてうっとりと聞き入っている給仕たち。
頬を紅潮させ、目をきらめかせて真面目に聞き入っているルイズやシエスタ。
それに、意外なほどに夢中になっているらしい自分の親友……。

(まったく……、みんな素直なものよねえ。
 男ってものは大体、こういう話が大好きなのかしら)

男たちは英雄の覚悟に憧れや共感を抱くのか。
あるいは単に、帰りを待ってくれる姫君がいるというシチュエーションが男の夢なのか。
給仕たちも、いつか白馬の王子ならぬ英雄が迎えに来てくれるのを待つということにロマンを感じたりしているのだろうか。
ルイズは、大方貴族として自分の義務のために愛も命も顧みないエロルの姿に憧れているのだろう。
シエスタのことはまださほどよく知らないが、性格的にはかなり規律を重んじる性質らしいからルイズと似たようなものなのだろう。
タバサは、切なそうな様子からすると姫君に惹かれているのだろうか。そんなロマンチックなところがあるとは知らなかった。

キュルケ自身はといえば、この物語の登場人物たちの行動にはいささか不満であった。

特にレツィアだ。
キュルケはああいう、トリステインの貴族によくあるお行儀だけ良くて行動力の足りない女は好かないのだ。

自分なら、誘いを拒んで出ていこうとする恋人はしがみ付いてでも引き留めて、愛を受け容れさせるだろう。
いやそもそも、家で待つなんてしないで自分も一緒に戦いに行く。ツェルプストーは軍人の家系なのだ。女だって戦える。

毎日料理を作って待つ? そんないじくらしいことなんてしていられるものか。
自分には恋人がもし帰らなかったら、何年も待てる自信はない。
一年は待てるだろう。三年でも待てるかもしれない。でも、五年待てるとは思えない。
そんな自分など想像もつかない。きっと、そのうちに昔の約束にはきっぱりとけじめをつけて、新しい恋を探しに行く。

エロルは確かにいい男(キュルケにとっては英雄かどうかよりも大事なことだ)なのだろうが、女を見る目がない。
魔女や近衛兵のように、聞き分けのよすぎる態度も好きじゃない。
自分なら友人の命が危ないかもしれないという時に、断られようと力にならずにはいられない。

まあ、これは物語なのだから、と言ってしまえばそれまでだが。

(だけど、微熱じゃなくて、いつか体が焼き尽くされるような激しい恋に身を焦がしたら……。
 私もそんな気持ちになったりするのかしら? ……まさかねえ)



「――――うん、今日はここまでにするよ。
 竜退治の行方と、その後のみんながどうなったかについては、また別の夜にね」

ディーキンはそういって丁寧にお辞儀をすると、長い演奏をひとまず終えた。

あちこちから、今すぐに続きをとせがむ声が上がるが、時間を考えるとどの道、どこかで一旦演奏を区切らねばならなかった。
それに、自分の演奏だけで店じまいまで引っ張って、また店の売り上げに悪影響を与えるようなことはしたくない。

ディーキンは観衆を上手く宥め、物語を伴わない短く軽快な楽しい音楽などをアンコール代わりに2、3曲披露することで演奏を切り上げた。

その後はもらったたくさんのおひねりの半分以上を、観客へのお礼と店への還元を兼ねて皆に酒と食事を振る舞うのに費やし。
あちこちの席を回って大勢のお客や給仕らと知り合い、仲良くなって、楽しい一夜を明かしたのであった……。


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