あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

暗の使い魔‐10


ずしりと大地が地震のように揺れる。そこら中に倒れ伏していた衛士達が起き上がり、逃げ惑う。
30メイルはあろうかという圧倒的質量の土塊が、館の入り口にいる官兵衛達の元へ迫ってきた。
「ゴーレム!」
シエスタが怯えた様子で叫んだ。土のメイジの力で作られたその怪物は、平民にとって正に恐怖の象徴。
何人たりとも逆らえない絶対的力の表れであった。そんな物が今自分たちの元へと迫ってくるのだ。
「トライアングルクラスのゴーレム。間違いねぇ」
デルフがボソリと呟く。シエスタは官兵衛の手を握る。
「やっぱり出やがったか!」
官兵衛が静かに舌打ちをする。
「カ、カンベエさん!」
「とりあえず逃げるぞ!」
官兵衛がシエスタの手を引いて駆け出した。
幸いな事に、ゴーレムは館を一直線に目指しており、二人には無関心なようだった。
館の入り口から門までは約400メイル。その距離を二人は一気に駆け抜ける。
が、その時。
「きゃっ!」
シエスタが足を取られその場に転倒した。
二人の手が離れる。彼女が抱えていた筒が地面に転がった。
あろうことか、二人はゴーレムと館の対角線上に止まってしまったのだ。
「シエスタ!」
官兵衛が叫び駆け寄る。どうやらシエスタは足を挫いたらしく、その場で辛そうに足首を押さえた。
そうしている間にも、ゴーレムは段々と迫ってくる。
やがてゴーレムの起こす振動で、立つのが難しいほどに近くにゴーレムが迫った。
「官兵衛さん。に、逃げて……!」
震える声でシエスタが言う。
官兵衛は、迫り来る土塊と動けないシエスタを交互に見比べた。
「(逃げるだと……?)」
シエスタを置いて一目散に逃げ去る。そうすれば少なくとも自分だけは巨人の下敷きにならずとも済む。
十分に逃げ切ることができるだろう。
逆にここで少しでも動けないシエスタを気にかけでもすれば、間に合わず、たちまち二人とも土塊の下敷きだ。
背負って逃げようとしたところで、この手枷では間に合わない。この状況では、一人逃げる以外に選択肢は無かった。
「畜生め!」
官兵衛はシエスタを置いて駆け出す。そう彼の選択はそれしか無い。官兵衛はわき目も触れず一直線に。
「えっ!?」
ゴーレムに向かって駆け出したのだ。
「一体何を?カンベエさん!」
大木程はあろう巨大な足が、ずしんと大地を鳴らして官兵衛に迫る。
巨大な像にアリが挑むが如き力の差。それに、官兵衛は鎖を構えながら突進していった。
「相棒!どうする気だ?」
デルフの言葉に、官兵衛は鉄球を短く持ち、それをゴーレムの軸足に向かって振りかぶりながら答えた。
「ぶちのめす!」
次の瞬間、官兵衛はそのまま目前の土塊を豪快に打ちのめした。左右斜めからの鉄球の強烈な一撃が、嵐のように襲い掛かる。
そう、彼の頭にはそれしか無かった。か弱いメイド一人を置き去りにして逃げ去るなど、彼の思考には元より無い。
そんな後味の悪い選択肢を選ぶくらいなら、彼は足掻いて足掻いて足掻き通す。目の前の障害などぶち破る。
それが戦国武将、黒田官兵衛であった。
ゴーレムの足が、ボコンボコン!と削れて粉々に弾け飛ぶ。
信じ難いことに、ゴーレムの全体重を支える足の、膝から下が一瞬で消し飛んだ。
支えきれなくなった片足がぐしゃりと潰れる。
グラリと巨像の体がよろめき、ゴーレムは、ずどおん!と、背後に倒れこんだ。
土埃が空高く舞い上がる。
ゲホゲホと埃にむせながら、シエスタは目の前の光景を信じられないといった顔で見ていた。
「ヒュー!やるね相棒!」
「まあな、こんなもんだ!シエスタ!無事か?」
官兵衛が再びシエスタに駆け寄る。
シエスタが唖然としながらコクリと頷く。よし、と官兵衛は言うと、そのまま動けないシエスタの傍にしゃがみ込み。
「ひゃあ!」
そして軽々とその体を抱え、肩に担いだ。ずり落ちないよう脚をしっかりと両腕で押さえ、官兵衛は門に向かって疾走する。
「か、カンベエさん!あのっ!」
シエスタがあたふたしながら顔を赤らめた。
「ああ?後だ後!今はあいつから少しでも離れる!」
そんな彼女の様子に少しも気付かず、官兵衛は走り続ける。
そして、ようやく門までたどり着くと、二人は館の方角を見やった。
ゴーレムは、官兵衛にやられた脚を修復し、再び立ち上がろうとしていた。
庭の土が盛り上がり、そのままゴーレムの脚として再生する。
そして何事も無かったかのように立ち上がると、再び館に向かって歩き出した。
荒く息をつく官兵衛。ここまでくれば安心だ、とシエスタに伝える。シエスタが半ば放心したように呟く。
「一体あれは何なんでしょう?あんなにおおきなゴーレム初めて見ました」
「土くれのフーケの仕業だ」
「土くれのフーケってあの、最近辺りを騒がしている大盗賊ですか?」
とんでもない人物の名前に驚愕するシエスタ。
「兎に角学院に帰るぞ。後のことは何とでもなる」
自分は目的を果たしたのだ。伯爵には悪いが、これ以上あんなバカでかいものと一戦交える気にはならない。
何よりシエスタを無事送り届けなければならない。
然るべき人間に現場を任せて自分達はとっととトンズラだ、そう思っていた。
しかし、その時であった。
蹄の音を激しく鳴らしながら、街道の奥から一頭の馬がこちらに駆けてきたのは。


暗の使い魔 第十話 『モット伯邸の戦い』


「カンベエ!」
自分を呼ぶ聞きなれた声に、官兵衛は首を傾げた。
馬がひずめの音を立てて二人の傍に停止する。そして馬上から、馬を操っていた人間がひょっこりと顔を出した。
その人物に、官兵衛は思わず声を上げる。
「ルイズ!」
魔法学園から馬を駆けさせ、官兵衛を追ってきたのだ。
桃色の髪をなびかせながら、ルイズが馬から降りて駆け寄ってきた。
そして官兵衛の近くにくるやいなや怒鳴り散らした。
「このバカ使い魔!なんで一人でこんな所まで来てるのよ!」
ポカポカと拳で叩きながら、ルイズは言う。
「だぁっ!叩くな!仕方無いだろう、急ぎの用があったんだ」
「急ぎって何よ、フーケを捕まえるなら私が来るのを待ってれば、って――」
そこまで喋って、ルイズは異変に気付いた。モット伯邸の敷地内を堂々と踏み荒らすその巨躯に。
「あれは!フーケのゴーレム!」
ゴーレムを見上げながら、ルイズは叫んだ。
「どうして?襲撃は明日のはずじゃ」
唖然としながら、ルイズが言う。
「目くらましだろう。よくよく考えりゃあ向こうさんが律儀に約束を守る必要は無いんだからな」
それに対して、きわめて冷静に、官兵衛が答える。
だが官兵衛は、この襲撃に引っかかる点があった。自分がこの館にやってきて立て続けに襲撃が起こった事である。
一回目は、館に侵入しようとした所で殺人者が一足先に現れ。
次に、自分が館から出ようとしたところでゴーレムが現れた。まるで示し合わせたかのように。
今回の一連の襲撃。一体どの様な意図があるのだろうか。
「(或いは小生の不運が移ったか?)」
官兵衛がそんな事を考えている、その時であった。
「おいお前さん!」
不意にルイズが馬で門をくぐり館の敷地内へと駆け出した。官兵衛が咄嗟に声を掛けるが、彼女は見向きもしない。
ゆっくりと歩みを進めるゴーレム。その後ろでルイズが杖を構えた。
「待て!何する気だ!」
馬から降り、ルイズが落ち着いたように杖を構えた姿勢で、詠唱を開始する。そしてゴーレムの背中目掛けて杖を振り下ろす。
その瞬間、ぼこんとゴーレムの肩が小さく弾けた。魔法は命中したが、その効果は巨像の表面を小さく削ったに過ぎなかった。
そんな魔法を気にも留めず、ゴーレムは悠々と歩く。そして、とうとう館の目前にたどり着いた。
ゴーレムがゆっくりと建物に向けて拳を振りかぶる。ゴーレムの拳が鉄に変化した。
「危ないぞ!クソッタレ!」
官兵衛は全速力で駆けつけるが間に合わない。
ルイズまでの距離は約100メイル以上、遠すぎる。仕方なしにと官兵衛は空中へ飛び上がった。そして官兵衛は鉄球に空中でしがみ付くと、
そのまま球体となって地面を転がった。全速力でルイズの元へ疾走する。
それと同時に、ゴーレムが振りかぶった腕を館の壁に全力で叩き付けた。
「うっ!」
凄まじい衝撃に、ルイズは顔を腕で覆う。
壁が鉄の拳を受けて粉々に粉砕される。攻撃を受けた壁面の窓ガラス全てが、外へと飛び散った。
そしてなんと、窓ガラスの雨が、ゴーレムの傍で杖を振るっていたルイズ目掛けて振りそそごうとしていた。
「ルイズ!」
官兵衛は、球体のままルイズ目掛けて突進した。
咄嗟に頭を庇っていたルイズは、突然の横からの衝撃に吹き飛ばされた。
「あうっ!」
ルイズの華奢な体が投げ出され、地面を転がる。官兵衛はそのままルイズがいた地点を通り過ぎて壁に激突した。
「いたた……って、カンベエ!?」
「大丈夫かゴシュジンサマ」
ビタリと壁に逆さ貼り付けになった体勢の官兵衛が、ルイズに言った。
そしてよたよたと立ち上がり、ルイズに詰め寄る。
「危ないだろう、何考えてやがるっ。ほれ、さっさと逃げるぞっ」
両手で乱暴にルイズの手を引いて、走り出そうとする。しかしその手をルイズは振り払った。
「離して!ゴーレムを止めなきゃ!」
「無茶言うな。少なくともお前さん一人じゃどうにもならん!」
官兵衛が声を荒げる。彼自身、ルイズの魔法の威力は認めている。
しかしそれでも、あれほど巨大なゴーレム相手に渡り合えるほどの物とは到底思えなかった。
「一先ずここは退いて応援を待って――」
官兵衛は冷静に撤退を勧めた。だがルイズは激しく横に首を振る。まるで駄々をこねる子供の様に。
「いやよ!ここでまた退いたら、ゼロだから逃げたって言われるわ!今度こそ私が捕まえてみせる!」
「そんなもん!幾らでも言わしておけばいい!挽回ならいくらでも出来る!」
官兵衛がとうとうルイズの肩を掴んで揺すった。しかしルイズはそれすらも跳ね除けると。
「私は貴族よ!魔法が使える者を貴族と呼ぶんじゃないわ――」
そういってルイズはルーンを唱えて杖を振る。
「敵に後ろを見せない者を貴族と呼ぶのよ!」
その魔法に、激しくゴーレムの頭が爆ぜた。
一瞬ゴーレムの動きが鈍る。
「やったわ!」
しかしすぐに頭を再生させると、ゴーレムはゆっくりと此方を見た。
流石にうっとおしいと思ったのか、至近距離で此方に向き合う。
ゴーレムの拳が持ち上がり、空から降り注がんとする。土塊が鉄に変化するのを見て、官兵衛はルイズを突き飛ばした。
ルイズが悲鳴を上げて、ゴーレムの拳の外へ転がる。
そして、目前数メイルに銀一色の壁が迫る。
ここまでくれば、する事は一つである。
再び官兵衛は鉄球を構えると、先程脚に喰らわせたように鉄球の乱舞を、落ちてくる拳に見舞った。
「オラオラオラオラオラァ!」
眩いほどの火花が散る。ガツンガツン!と鉄同士がぶつかり合う。
そのぶつかる振動は辺りに衝撃を生み出し、周りの物全てを吹き飛ばす。激しい『剣劇』へと変化した。
「きゃああああっ!」
衝撃にルイズがひっくり返る。乱れるスカートを抑えながら、彼女は衝撃の中心地点を見守った。
「負けるか!」
なんと官兵衛は、巨大な拳を前に一歩も引かないでいた。それ所か、徐々に勢いを増し、拳を押し戻し始めたではないか。
ビリビリとゴーレムの体に振動が走り、ぱらぱらと表面の土が崩れる。
官兵衛の足元の地面にミシリとヒビ割れが走った。そして。
「勝ちだ!」
思い切り振り抜いた鉄球が、ゴーレムの手首を彼方へ吹き飛ばした。
鈍い衝撃音が響き渡り、3メイル四方の鉄の塊が、放物線を描いて飛んだ。
そして、ボコオン!と鉄の腕が柵にぶち当たり音を響かせた。
「ゼェ……ゼェ……ど、どうだ?」
肩で息をしながら、官兵衛は吹き飛ばした腕を見る。
しかし、一瞬止まったゴーレムだったが、すぐに先の無い腕を地面に擦りつける。
するとどうであろう。吹き飛ばした腕は綺麗さっぱり元通りになったではないか。
「相棒!無駄だ!こいつは魔力で操られた土の塊。いくらぶっ壊そうがすぐ元に戻っちまう!」
「くそう!とにかく逃げるぞ!」
デルフの言葉に歯噛みしながら、呆然と地面に座り込むルイズに、官兵衛が叫ぶ。
「え……あっ?」
「あ、じゃない!分かったろう!今のお前さんは足手まといだ!ほれ!」
ルイズを無理やり抱え上げると、そのまま一目散に駆け出す。
そんな逃げる二人を、ゴーレムが追いかけてくる。動作はゆっくりで、走る官兵衛とそれ程変わらなかった。
「足手まとい……」
官兵衛の言った言葉がルイズに重くのしかかった。やっぱり自分はダメなのか。
皆が言うとおり、ゼロのままなのだろうか。
努力しても報われず、行動しても上手くいかず、結果は一切ついてこない。
そして、何をやっても上手くいかない所か、邪魔だとすら言われる。
何が貴族だ、メイジだ。情けないにも程がある。
ルイズはこれまでの行動を走馬灯のように思い出していた。
思い出の中の惨めな自分。そんな自分の姿が脳裏に浮かんだ。そしてとうとうルイズは。
「うっ……ぐすっ……!」
「ルイズ?」
官兵衛の肩に担がれたまま、ルイズは堪えきれず涙を流した。
「ど、どうした?」
官兵衛が走りながら尋ねる。しかしルイズは子供のように泣きじゃくる。もう我慢の限界であった。
「うっ!うぅぅぅ……うあぁぁっ……!うわあぁぁぁぁぁっ……!」
顔を歪め、真っ赤になりながら悔し涙を流すルイズ。
走り去る官兵衛の肩で、頬に流れる涙を風で感じながら、彼女は泣き続けたのだった。
そんな彼女の様を、官兵衛は一言も喋らずに黙って聴いていた。
ゴーレムから逃走する最中、ルイズの心からの悔しさを込めた様な泣き声。
それをすぐ耳元で受け止めながら、官兵衛は表情を変えず走り続けた。
と、その時、猛烈な突風が吹きすさんだ。咄嗟に顔を背ける。見ると、竜巻が背後のゴーレムにむかって延びている。
それに続くように、30サント大の炎の弾がいくつもゴーレムの上半身に着弾した。
ふと上空を見上げると、見覚えのある風竜が旋回している。タバサの使い魔、シルフィードであった。
シルフィードの上から、影が手を振る。その影をみてルイズが叫んだ。
「キュルケ!タバサ!」
「ルイズ!ダーリン!無事?」
勢い良く着地したシルフィードの上から、キュルケがひょっこりと顔を出して言った。
タバサは油断無くゴーレムの方向を見据えている。
「な、なんでここに?」
ルイズが戸惑いながら尋ねた。
「私達もギーシュから聞いたのよ、貴方達がモット伯の館に向かったって。
それで急いでタバサのシルフィードで追いかけてきたってわけ。それよりも、これ一体どういうこと?」
「どういう事も何も、フーケの襲撃だ!やっこさんにちょっかいかけたんで、追っかけられてる所だよ!」
官兵衛がゴーレムを顎でしゃくりながら言った。そして彼は、肩に担いだルイズをキュルケに預けると。
「こいつを頼む!小生はちょいと用事を思い出した」
庭園内の、ある場所へと駆け出した。
「ちょっとダーリン!」
咄嗟に追いかけようとしたが、迫ってくるゴーレムを見て、仕方なしに飛び上がるシルフィード。
「カンベエ!」
球体となり、走り去る官兵衛を見てルイズが叫んだ。 

「相棒、何を探してるんだい?」
「いや、アレさえあればと思ってな。ゼェ……確かこの辺りだったか?」
館の入り口近くを、官兵衛は息を切らしながら、探していた。あのとき、この辺りに落とした筈だ、と。
ゴーレムは再び興味を館の方角へと向けている。探すなら今のうちである。そして、官兵衛はようやく目的の物を見つけた。
「やった!あったぞ!しかし探し物が見つかるなんて、不運の前触れじゃないだろうな?」
そうごちりながら、官兵衛は再びゴーレム目掛けて疾走した。
「上手くいけばこれであのデカ物を……」
手には、先程シエスタが転んだ際に落とした筒があった。
「しかし……」
『敵に後ろを見せない者を貴族と呼ぶのよ!』
官兵衛は先程のルイズの言葉を反芻した。彼にとって、貴族のあり方というのは分からない。
正直彼は、これまで貴族というのは力や権力に物をいい威張り散らすような連中ばかりだと思っていた。
魔法という玩具を手に入れた子供のように。しかし、ルイズは違った。
彼女は彼女なりに、貴族としての誇りを持って戦っているのだ。
そして、ルイズにとってその誇りが重く、決して折れてはならない物だという事が、先程の言葉と涙から垣間見れた。
「闇雲に杖を振るってるわけじゃない、か」
そんな言葉がひとりでに口から漏れた。
「(まったく……馬鹿馬鹿しいが――)」
羨ましい、と官兵衛は柄にも無くそう思った。かつて豊臣の精鋭として采配を振るった己。
九州・石垣原の穴倉に追いやられてからは、泥臭く生きるしかなかった官兵衛だが、そんな豊臣での日々を懐かしく思う時もある。
ルイズの誇りは、官兵衛にそんなかつての自分を思い起こさせるのに十分だった。
「(懐かしがることはない、そうだろう小生よ……)」
心の内でひっそりと思いながら、官兵衛はゴーレムに向かって歩みを進めた。

「ダーリン、一体何をしているのかしら?」
上空から、官兵衛があちこちを探しているのを見て、キュルケは疑問符を浮かべた。
「探し物?こんな所でなにを……あっ!なにか見つけたわ!」
官兵衛が地面に転がっていた何かを拾い上げたのが、空からでもはっきりと見えた。
そのまま、館を襲撃しているゴーレムの元へ走る官兵衛を見て、ルイズが身を乗り出した。
「ちょっと!危ないルイズ!」
「カンベエ!なんで逃げないのよ!」
一体何を考えてるのだろう、とルイズは奥歯を噛み締めた。
さっきは散々逃げろとか言っていたくせに、自分は逃げないではないか。あの危険なゴーレムに立ち向かうではないか。
一体どうして、とそこまで考えてルイズはふと、以前官兵衛から言われたある言葉を思い出した。
『小生を呼んだお前さんは、無能なんかじゃあないってこった。今から、そいつを証明してやる』
そうだ、ド・ロレーヌとの決闘の時、官兵衛は自分にそう言った。
思えば、あの時官兵衛は自分のために戦ってくれたのかもしれない。
自分が無能と呼ばれ、俯いたその時、官兵衛は体を張って戦ってくれた。
そして今回もきっと。
「タバサ!レビテーションをお願い!」
「ルイズ!」
突如、ルイズが身を乗り出し、風竜から飛び降りる。
キュルケが引き止めようとするも間に合わず、ルイズは急降下していった。
咄嗟に、タバサが着地の手前でレビテーションを唱える。ルイズはすとんと軽やかに着地すると、官兵衛の元に駆けて行った。
「あの子!一体何する気!?」
「大丈夫」
キュルケの言葉に、タバサが静かに頷く。二人は上空から、そんなルイズの様子をじっと見守っていた。

その頃、館の入り口にて、一人の貴族がゴーレムと対峙していた。
「くそっ!化け物め!よくも私の館を!」
杖先から、水の鞭を操りながら、モット伯は忌々しげにゴーレムを見上げていた。
ゴーレムが再び館を攻撃し始めてから数分。モット伯はようやく現場に駆けつけた。
ゴーレムの暴挙をみるやいなや、憤慨して攻撃を加えるモット伯。
しかし、得意の水魔法を浴びせかけても、その巨体はびくともしない。表面が湿り、少し崩れただけであった。
ゴーレムは魔法を意にも介さず、拳を叩きつける。
そのたび舞い散るガラスの破片や瓦礫に怯みながらも、懸命に魔法を打ち込むモット伯。
しかし、どのメイジにも魔法力に限界は来る。モット伯は、自分の魔力が残り少ないとみるや、館の中へと逃げていった。
「くっ!よもやこの波濤のモットが手も足も出ないとは」
長い廊下を歩きながら、苦々しげにつぶやく。かくなる上はと、彼はある部屋の扉をバンと開け放った。
その部屋は、先程自分と黒ローブの男が対峙していた彼の書斎であった。
息を切らしながら、モット伯は書斎の、ある一角の本棚に駆け寄った。
そしておもむろに本棚の、ある段の、背表紙の書かれていない本に手を沿えた。親指でグイと強くその本を押す。
するとどうであろう。ゴゴゴと重い音を立てながら、本棚が金庫扉の様に手前に開いたではないか。
本棚の奥には漆黒の暗闇と、地下へ下っていく階段が見えた。モット伯はそれを見て、ニヤリと怪しい笑みを浮かべた。
「くくくっ。土くれめ、貴様如きに私の宝は渡さんわ……!」
誰にも知られる事なく、彼は静かにそう呟いた。

モット伯がゴーレム相手に手も足も出ず、逃げ去ってからすぐ後である。
官兵衛が探し物を抱え、ゴーレムの元へと戻ってきたのは。
「相棒は今日は走ってばかりだねぇ」
「いつもこんなもんだよ!」
官兵衛はルイズ達が乗っている筈のシルフィードを探した。
見ると、庭園の中ごろの上空に、ヒラヒラと舞っている青い影が見える。
館入り口にいるゴーレムとの距離は十分である。
「よし、これならこいつをぶっ放しても問題ないな」
そう言うと官兵衛は、筒の蓋を開き、中身を取り出そうとした。しかし。
「だぁ畜生め、やっぱりこの手じゃあ上手く取り出せん!」
きぃと歯噛みしながら、官兵衛はアタフタと筒を上下させた。すると、中身がぽろりと地面に落ちて転がった。
「ああっ!待て待て!」
転がる中身を、必死で追いかける官兵衛。と、そのとき。
「全く、なにやってるのよ」
ひょいと、その中身を拾い上げる者がいた。官兵衛がその人物を確認するなり、声を上げた。
「ルイズ!お前さん何で。」
「主人が使い魔を放って逃げるわけにはいかないでしょ!」
フンと鼻を鳴らしながらルイズが言った。
「私は、主人として、あんたを一人にはさせない!」
ルイズはそう高々に言うと、官兵衛の瞳をぐっと強く見据えた。
「そうかい」
官兵衛は短く、ただ一言そういうと、同じようにルイズを見据えた。
「よし、取り合えずそいつを小生に。」
「うん!でもこれって……」
「説明は後だ!」
官兵衛が急いでルイズから『それ』を受け取る。その瞬間であった。官兵衛の左腕のルーンが力強く輝いたのは。
「何だと!?」
膨大な情報量が自然と頭に流れ込んでくる。官兵衛が手にした『それ』の名前、扱い方、構造、全てが分かる。
官兵衛はしばし、食い入るようにその代物を眺めていた。
「カンベエ!」
ルイズの声にハッと我に返る。見ると、ゴーレムが再びこちらに向かい合っているのが見えた。
「ルイズ!いいか良く聞け!」
「何?」
官兵衛の言葉に、ルイズは答えた。
「前にも言ったが、お前さんは胸を張っていい!失敗や周囲の評価なんて気にするな!だがな!」
強い語調で続ける。
「お前さんがそれでどうしても納得いかないっていうのなら!これから小生が言うとおりに動け!
お前さんの名誉を守ってやる!」
「カンベエ……」
官兵衛がゴーレムに向かって、『それ』を構えた。
動きが制限された手で、器用にその物体を構えながら、官兵衛はゴーレムを見据えた。
その、鉄で出来た鈍色の四角い筒に、取っ手のようなものがついたその物体。それには、彼が良く知る紋が描かれていた。
三つの脚を持つ高貴な神の使いを象った紋。戦国最強の傭兵集団、雑賀衆のヤタガラスの紋であった。
そしてその武器、いや兵器の名は『狙弾 カワセミ』。広範囲の敵を追跡し一掃する、高性能ロケットランチャー。
「ルイズ!ゴーレムの脚に『錬金』をかけろ!」
「え、ええ!」
官兵衛の言葉に、ルイズは即座に杖を構えた。
ゴーレムの足がずしんと地面にめり込む。その勢いに臆する事無く、ルイズは冷静に呪文を唱える。
再びゴーレムが一歩近づく。彼らとゴーレムの距離は100メイルに満たない。
地響きの中、ルイズが短く詠唱を終える。
そしてゴーレムの足が持ち上がった瞬間、支えになっている脚めがけて杖を振り下ろした。
ぼこおん!とゴーレムの脚の一部が抉れて弾けとんだ。
半分ほどの太さになった脚は体重を支えきれず、ゴーレムは前のめりに転倒し、膝をついた。
ゴーレムの上半身が無防備にさらされる。
「今だっ」
照準をゴーレムの胸に合わせる。ピピピッと標準が赤く変わり、全ての弾がロックオンされる。
「伏せていろ!」
官兵衛が叫ぶと、ルイズはその場にうずくまる。
巨大な土塊を見据え、引き金を引いた。
すると、轟音とともに、火のついた無数の弾頭が飛びあがった。木から一斉に飛び立つ鳥の群れのように。
一発一発が強力な爆発を巻き起こす代物である。その群れが、全てが、吸い込まれるようにゴーレムへ着弾した。
瞬間、ずどどどどおん!と巨大な爆発が土の巨像を飲み込んだ。
一発の弾丸がゴーレムを荒く砕き、その破片一つ残らずを、無数の弾丸が追いかけ、破砕する。
モット伯邸の目前に、見るも巨大な火柱が立ち上った。
「きゃあああっ!」
あまりの爆音にルイズは悲鳴を上げた。それは、これまで見た事も聞いたことも無いような光景。
30メイルのゴーレムが一瞬で溶ける、信じ難い光景だった。
「……すごい」
うずくまった体勢のまま、顔を上げると、そこには何も無かった。
ゴーレムの残骸すらなく、あるのはごうごうと燃える炎と、立ち上る煙のみであった。
「……孫市め、こんな危ないもん小生らに向けてるのか」
官兵衛はその威力に身震いしながら、かつての戦場での戦いを思い出していた。

「ダーリンッ!ルイズ!」
上空から、ゴーレムが跡形も無く吹っ飛ぶ様子を見ていたキュルケ達が降りてきた。
シルフィードから降りるやいなや官兵衛に抱きついてくる。
「すごいわダーリン!あのゴーレムをこんな簡単にやっつけちゃうなんて!」
ボリューム満点の胸を押し付けながら、キュルケは官兵衛の首に手を回した。
「ふふん、小生が本気をだせば、お茶の子歳々だ」
「ああん!そんな自信満々なダーリンが大好き!」
そういうとキュルケは官兵衛の頬に熱烈な口付けを始めた。
によによしながらそんな熱い抱擁を受け入れていると、ルイズが声を荒げた。
「ちょっと!今はそれどころじゃないでしょ!官兵衛から離れなさいよツェルプストー!」
仕方無しにと官兵衛から離れると、キュルケは不思議そうな顔をして尋ねた。
「でもダーリン、貴方が使っていたこれって一体何なの?見た事も無い形だけど、ものすごい威力なのね」
官兵衛が持つ『カワセミ』をまじまじとキュルケが見つめた。すると、タバサが唐突に口を開いた。
「破壊の杖」
「え?」
タバサが無表情で『カワセミ』を杖で指しながら言った。
「宝物庫で見た」
「なんだと!?」
官兵衛が声を荒げた。ルイズもキュルケも驚きの声を上げ、それを見やる。
「じゃあこれが盗まれた破壊の杖なの?どうしてフーケに盗まれたのにここに?」
「マズイぞ!」
官兵衛が冷や汗を垂らしながら、そう呟いた。
「マズイって、どうして?」
ルイズが不思議そうに尋ねる。
「小生らはハメられたってことだよ!まんまとこいつを使わせられたってことだ!」
ええっ、とルイズとキュルケが要領を得ない感じで答えた。
そのとき、タバサの視線が鋭く動き、モット伯邸を見据えた。
官兵衛もその様子に気がつき、同じ方向を見やった。と、そこには。
「クッククク……。どうもありがとう御座いました。これでようやくその『杖』を有効活用出来そうですね」
「お前さんは!」
見ると、ゴーレムが殴り壊した壁の二階部分に、男がこちらを見下ろすように立っていた。
先程、館を荒らしていた、黒ローブの男だ。深くフードを被り、そこから銀髪の長い髪が覗く。
その腕には、長く鋭い二本の大鎌を持っている。
一本をだらんと下げた左腕に持ち、そしてもう一本は。
「ひ、ひぃ!助けて……」
縛られ、床に寝かせられたモット伯の喉元に突きつけられていた。
濡れた布で手入れされたかのように、妖しく光る鎌が、伯爵の首の皮を薄く裂いていた。
「その声、聞き覚えがあるぞ……!」
官兵衛が低い声で凄んだ。
「おやおや、これは奇遇ですね。私も貴方の事は良くご存知です。暗の官兵衛殿」
男が穏やかな声で、突如官兵衛の名前を呼んだ。
「えっ!?」
その場の全員が、官兵衛を振り返って見た。そんな様子を気にも留めず、官兵衛は男に向き合った。
「お前さんまでこっちに来ていたとはな!」
男がフードを取った。その中から現れた顔。
それは、鼻と口を異様な黒マスクで覆った、長い銀髪の青年。
官兵衛は息を吸うと、その男の名を叫んだ。
「なぁ、慈眼大師 天海様よ!」

慈眼傍観
     天海
        祈祷



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