あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

暗の使い魔‐06


藁の感触が背中をくすぐる。
がさごそと音を立てながら、官兵衛は敷き詰められた藁のベットで目を覚ました。
ぼんやりと頭を掻きながら、上半身を起こす。
相も変わらず足元に転がる、黒金の相棒によう、と挨拶をすると、官兵衛はのそのそ立ち上がり。
「おい、起きろ」
ベットの上で眠ったままのルイズに声を掛けた。しかし。
「う~ん……」
「オイッ」
官兵衛が声をより一層大きくするも、ルイズは未だ夢の中。
シーツを引っぺがし、肩を揺するも――
「あと5分だけ……」
起き上がる気配は一切ない。
「いいんだな?このまま起きなくて本当にいいんだな?」
官兵衛の唇の端が怪しく持ち上がる。のしのしと部屋の中央に移動し、鉄球にむかって枷を構えると官兵衛は。
「おりゃああああっ!」
ガシンガシン、と枷を鉄球に叩き付けた。
鉄球を通じて振動が屋内に伝わり、まるで地震でも発生したかのごとく部屋が揺れ動く。
『厄当たり』。官兵衛が得意とする技の一つである。
ただ単に鉄球に八つ当たりしているだけであるが、その時生じる凄まじい振動は、十分な威力を周囲に発揮する。
敵味方問わず辺りに影響を及ぼす、何ともはた迷惑な技である。
「ひゃわあっ!何!何なの!」
突如、ベッドごと激しい揺れがルイズを襲い、突然の視界の揺れと騒音にルイズが飛び起きた。
「目が覚めたか?」
「何やってるのよあんたはぁ!」
あまりに強引な起こし方にルイズが怒鳴った。
そんなルイズを見て、官兵衛が満足そうにニヤリと笑った。
「ニヤリじゃないわよ!私の部屋を壊す気!?もう少し穏やかな起こし方があるでしょうが!」
「穏やかに起こして、遅刻したのがこの間だろう」
髪をぐしゃぐしゃに乱したままのルイズに、官兵衛がそう返した。


暗の使い魔 第六話 『微熱のキュルケ』


官兵衛とド・ロレーヌの決闘から、おおよそ一週間が過ぎようとしていた。
官兵衛は相も変わらず、この我侭でプライドの高いお嬢様に、嫌々付き従う日々を送っていた。
あの日から、官兵衛はルイズの身の回りの世話を押し付けられていたのだ。
朝起きてルイズを起こし、着替えを手伝い、掃除、洗濯。
それらをこなすのが官兵衛の日課になっていた。
日ノ本での過去の出来事から、最初はこき使われるのを嫌う官兵衛ではあった。
しかし、やはり日本に帰る手がかりと、彼の衣食住を握られている弱みは大きい。
彼はルイズに渋々従った。
「畜生っ!こんな事なら、穴倉の方が数百倍マシだ!」
本日5枚目のルイズの下着をダメにしながら、官兵衛はひとりごちた。
ただでさえ枷で動きを制限されているのに、この仕打ち。加えて少女の下着を手洗いするという屈辱。
そんな屈辱を味わうたび、官兵衛は朝のような仕返しをルイズに敢行した。
その度に官兵衛は、飯抜きを言い渡されるのだが。
「ところがどっこい。小生には秘密の居場所があるんだな」
官兵衛がそんな事を言いながら鼻歌まじりに向かった先。そこは。
「カンベエさん!」
厨房に入るなり、黒髪の可愛らしいメイドが官兵衛を席へと案内する。
周りで働いてるコック達が手を止め、官兵衛に向き直る。そして。
「来たか!『我らの鉄槌』!」
割腹のいい四十半ばのオヤジが、官兵衛を出迎えた。
トリステイン魔法学院の厨房全てを取り仕切る、コック長のマルトーである。
官兵衛の秘密の場所、それは魔法学院の厨房であった。
「マルトー殿!」
椅子に座った官兵衛が、顔を綻ばせ立ち上がる。
「よせよせ!殿なんてむずがゆい!マルトーでいい!」
「そうもいかない。これほど美味い飯を作れる腕前を持つ人間に、敬称抜きなぞ恐れ多い!」
「何言ってんだ!メイジをコテンパンにのしちまうお前さんが!」
マルトーが官兵衛の肩に腕を回しながら、ガッハッハと笑った。

あれから、官兵衛は平民達の間で英雄となっていた。
恐ろしい力を持つメイジを立て続けに、それも枷をつけたまま打ち倒したのだ。
特に、尊大な態度で有名な、風の名門のメイジ、ド・ロレーヌに怒りの鉄槌を食らわした。
その事実からついた名が、『我らの鉄槌』である。その名を主に呼ぶのはマルトーだったが、平民達の間ではそれで通っていた。
因みに、官兵衛の起こしたあの竜巻は、風のマジックアイテムということで済ますようにルイズに言いくるめられていた。
魔法が使えるだの、先住魔法だの言うと周囲がおおいに混乱するからである。
最悪、王宮からお迎えが来て拘束されかねない。官兵衛もそれを聞くと納得し従っていた。
「さあさあまずは一杯!」
「うおおっ!かたじけない!」
マルトー手ずからワインをグラスに注ぐ。それを飲み干す官兵衛。
その見事な飲みっぷりに、周りから歓声が上がる。
「おいおい何て飲みっぷりだ!ますます気に入ったぞ!」
マルトーが笑う。シエスタがニコニコしながらそれを眺める。
こちらに来て以来初めて過ごす、何よりも楽しいひと時であった。
そんな官兵衛たちの様子を、そっと物陰から赤い影が覗いていた。

この日マルトーの開いた宴は、暗くなるまで続いた。
厨房のコックやらメイドやらがわいわいがやがやと、酒とご馳走を楽しむ。
「貴族だ~れだっ!あ、俺だ!それじゃ二番のおっさんと三番が熱いキス!」
「え!?野郎同士!?」
「古今東西!すかした貴族共の名前!」
「えーっと、ギーシュ、ギトー、ヴィリエ」
「おいおい!魔法が飛んでくるぞ!」
「おっさん達、いつまで飲むのよ……」
絡む酔っ払いに呆れるメイド。思い思いの喧騒が際限なく続く。
そんな中、酒の入ったマルトーが、顔を赤くしながら官兵衛に絡む。
「まったくお前さんには驚かされてばっかだな!
この枷と鉄球を付けたままであいつらに勝っちまうんだからな!」
「本当です!でも前から気になっていたんですけど……官兵衛さんはなぜ手枷を?」
「それは、まあ。元いた所で色々あってな」
シエスタの指摘に、官兵衛は表情を曇らせる。
シエスタが変な事を聞いてしまいましたと、謝る。そんな様子を見て、マルトーは言った。
「わかる!わかるぞ『我らの鉄槌』!俺にはお前が悪いやつなんかにゃ見えねぇ!
大方、タチの悪い貴族に捕まって酷い目にあったんだろうさ!ゆるせねえ!なあ!」
「マルトーさん、飲みすぎですよ」
シエスタが宥めるも、マルトーは止まらない。
「よっしゃ俺も男だ!今度は俺がお前さんの為に、その貴族野郎をコテンパンに叩きのめしてやるよ!
どこのどいつだ?言ってみろ!」
「マルトー殿、確かに飲みすぎだな」
酔っ払ったマルトーの勢いに若干引きながら、官兵衛は言った。
「カンベエさんはお酒お強いですねぇ」
「そうかもな」
シエスタの言葉に官兵衛は頷いた。
確かに、日ノ本の武将達は皆うわばみのごとき酒豪ばかりである。
戦場において、何十とお神酒をたらふく飲んでも、酔うどころかバリバリ戦闘可能である。
それ所か、その内容物をエネルギーに変え、技としてぶっ放す始末。まさに超人である。
そんな武将の一人である官兵衛に付き合った男達の結果はいわずもなが。
「はぁ~もう呑めないよぅ……」
厨房の片隅には、酔いつぶれた男達が死屍累々と倒れていた。
「まいった、ハメを外しすぎたな」
「どうしましょう……」
困ったように酔っ払い達を見るシエスタ。因みにシエスタは最後まで給仕であったため、お酒は飲んでいない。
「とりあえず運ぶか」
官兵衛とシエスタが男達をよいしょと運ぶ。適当な場所に寝かせ、風邪を引かないよう毛布をかける。
そして、全ての作業が終わった時、もうすかり夜は更けていた。

「今日は、大変でしたね。でも楽しかったです」
「ああ、小生もだ。こんなにいい気分なのは久しぶりだった」
シエスタの言葉に、嬉しそうに官兵衛は答えた。二人は、並びながら学院の廊下を歩く。
シエスタは使用人たちが使う部屋へ。官兵衛はルイズの部屋へ向かう途中だった。
窓の外には二つの月が出ており、静かに廊下を照らしていた。
先程までとは打って変わって、静かな時間が二人の間に流れる。と、その時。
「カンベエさん」
向かう道が分かれるあたりで、不意にシエスタが立ち止まった。
なんだ、と振り返りながら官兵衛はシエスタに尋ねる。
「先程は、ごめんなさい。私変な事を聞いてしまって」
恐らくは、先程の枷のことについてだろう。シエスタが申し訳無さそうに、静かに頭を下げた。
「私、どうしても気になって。官兵衛さんみたいな人がどうして……」
シエスタが口を濁した。そんな彼女に、官兵衛は。
「なに、気になることの一つや二つ幾らでも聞いてくれ。お前さん、気を使いすぎだぞ?」
そういって笑った。
「そ、そうですか?ありがとう、ございます」
シエスタが頬を赤らめ、目をそらす。
しばらく俯いていたシエスタであったが、意を決するように顔を上げると、官兵衛を見つめ。
「あの、よかったらいつでも厨房にいらして下さいね。わたし――」
待ってます、と小さく付け加えると、シエスタはそのまま夜の闇の中へと消えていった。

官兵衛がルイズの部屋につく頃、あたりはしんと静まり返っていた。
廊下に並んだ扉からは、人の活動の気配は感じられない。
さすがに遅くなりすぎた、ルイズにどう言い訳するかと官兵衛が考えていたそのとき。
どかんっ!と弾かれるようにルイズの部屋の扉が開いた。
あまりの勢いにびくりと肩をすくませる官兵衛。開きっぱなしの扉がギイィ、と不気味な音を立てている。
ごくり、と唾を飲み込みながら、官兵衛は扉の中を見やった。するとそこには。
「こんばんは、このバカ使い魔」
全身から禍々しいオーラを放ちながら、屹立する桃色の悪魔がいた。
「こんな遅くまで、どこでなにしてたのかしら?」
ニコリと笑いながらこちらを見つめるルイズ。だがどう見ても目は笑っていなかった。
「あんたが居ない間、洗濯も着替えを手伝う従者もいない。部屋も散らかったまま。授業は私一人だけ。どういうことかしら?」
「お、落ち着けお嬢さん。こいつには深い訳が……」
のしりのしりと、こちらに歩みを進めてくるルイズに合わせ、一歩一歩と後ずさりながら官兵衛は答える。
「へぇ~どんな深い深い言い訳があるのかしら?言って御覧なさい」
「ちゅ、厨房で……いや、何でもない」
迫力に圧されつい、厨房で皆とご飯食べてました、などと口走りそうになる官兵衛。しかし彼は思いとどまった。
それを喋れば、彼の生命線ともいうべき厨房への出入りが絶たれるからである。
だらだら汗を流しながら、別の言い訳を考えようとした官兵衛であった。しかしそれは間に合わなかった。
突如、部屋の奥へと引っ込むルイズ。なにやらガサゴソと音が鳴っているのが聞こえた。
何だろう、と官兵衛が恐る恐る近づく。すると、つかつかと戻ってきたルイズがドサリと官兵衛の両腕に何かを乗けてきた。
みるとそれは、官兵衛が寝床にしている藁の束と毛布であった。
「それじゃあおやすみ」
ルイズはそういうと部屋に引っ込み、ばんっと勢いよく扉を閉めた。ガチャリと鍵の掛かる音で、官兵衛は我に返る。
「お、おい!お前さん!」
扉に詰め寄るがもう遅い。
「待て!小生どこで寝たらいいんじゃあ!」
「廊下があるじゃない。そんなにご主人様といるのが嫌ならそうさせてあげるわ」
扉の向こうからそんな声が聞こえてくる。官兵衛は、その場でへなへなと座り込むと、深く深く、ため息をついた。

「うう寒い。畜生あの娘っ子!」
藁の上で毛布に包まりながら、官兵衛は仕方なく一夜を過ごしていた。それと同時に己のうかつさを呪っていた。
マルトーとシエスタ達との宴のことである。
「こんな事なら、断っておくんだったか?いやいやしかし!」
あんなに大っぴらに飲んでくれば、ルイズの雷が落ちるのは目に見えていた。
しかし、他人の好意を無駄にするわけにもいかないではないか。それが、自分を平民の仲間として迎えてくれるなら尚更だ。
「ん!小生は悪くない。悪いのはこの全部この枷だ」
どう考えても官兵衛に非があるが、全てを枷の所為にする。そんな事を呟きながら、彼は一人寂しい時間を過ごしていた。
と、その時である。
「なんだ?」
ギイィと、今度はルイズの部屋とは別の扉が、ひとりでに開いた。
そして中からひょこりと、巨大なサラマンダーが顔を出した。
「お前さんは確か、あの赤毛女の使い魔……フレイムだったか?」
官兵衛の言葉に、きゅるきゅると嬉しそうに喉を鳴らしながら、フレイムは近づいて来た。そして、官兵衛の鎖をくわえると。
「うおおっ!待て引っ張るな!何だ何だ?」
ずりずりと物凄い力で、官兵衛を開いた扉の中に引きずり込んでいった。

部屋の中に入ってみると、そこには真っ暗な空間が広がっていた。ここは確か、あのキュルケの部屋であった筈。
使い魔を遣わせ、自分を(強引に)この部屋に招きいれたのは間違いなくキュルケであろう。一体どういった意図だろうか。
「おい、そこにいるんだろう?どういうつもりだ」
官兵衛は、暗闇の奥に感じる気配に問いかけた。
「フフ、分かるのね。流石だわ」
闇の中から、静かな声色で返答があった。キュルケの声である。
「穴倉でコウモリに教わったからな。気配なら感じていたよ」
「そう。やっぱり面白い人ね、貴方は」
キュルケが楽しそうに笑った。暗闇の中で、そんなキュルケの声を官兵衛は警戒しながら聞いていた。
「扉を閉めて」
声色を変えず、キュルケが言う。言われるがままに、官兵衛が扉を閉める。
すると官兵衛のすぐ横で、蝋燭にふっと火が灯った。次々と室内の蝋燭に火が灯り、街頭のように道を作り出す。
その光の道が照らす奥にキュルケは居た、それも。
「な、何だお前さんその格好は」
何とも悩ましい、ベビードールの姿であった。
ベビードール姿のキュルケが、ベッドに腰掛け、熱い眼差しで官兵衛を見つめていた。予想外の出来事に動揺する官兵衛。
「そんな所に立っていないで、こっちへいらっしゃいな」
色っぽい声色でキュルケが誘う。が、官兵衛は動かない、いや動けないでいた。
「ちょ、ちょっとまて。何企んでるんだ?小生の目はごまかせないぞ」
声を震わせながら、一歩後ずさる。官兵衛は、目の前の光景が夢か罠であるとふんでいた。
なぜなら、彼にとってこんなオイシイ状況はそうそう巡ってこないからである。
あるとすれば、その後にとんでもないしっぺ返しが彼を待っている。彼は確信した、だから。
「ちょっと、どこへ行くの?」
一目散にこの場から逃げようとしていた。くるりとキュルケに背を向け扉へ突っ走る。しかし
「どこでもいいだろう!小生は……ってあれ?開かん!」
ガチャガチャとドアノブを引っ張るも、いつの間にかドアには鍵が掛かっていた。
力いっぱい扉を引くもびくともしない。
「お、おい冗談じゃない!出せ!出してくれ!」
「つれないのね……」
キュルケがゆっくりと立ち上がった。そのまま色っぽい仕草で官兵衛に近づく。
壁際に追い詰められる官兵衛。息も掛かりそうな程近くに寄ると、彼女はそっと官兵衛の手をとった。
ビクリと、官兵衛の背がのけぞる。そのまま官兵衛の手の甲をなぜながら、キュルケは官兵衛の耳元で呟いた。
「あなたは、私をはしたない女だと思うでしょうね」
キュルケの言葉に、ぞくぞくと、足元から感覚が走る。
「でもそう思われてもしかたないわ。私の二つ名は『微熱』。松明みたいに燃え上がりやすいの。
だから貴方をこんな風にお呼びだてしてしまった。いけないことよ。わかってる」
「わかってるなら小生を、ここから出してくれ……」
「それでも貴方は私を許して下さると思うわ」
官兵衛の言葉を聞かずに、言葉を紡ぐキュルケ。もはや彼のペースは完全にキュルケに封じ込まれていた。
「わたし、貴方に恋してるの。恋は全く突然ね」
そういいながら官兵衛の指一本一本をとりながらなでるキュルケ。
カチコチになりながら、官兵衛は後悔していた。不用意に扉を閉めた自分の愚かさを。
大した事は無いだろうと、美人の部屋にホイホイ入り込んだ浅はかさを。
「こりゃマズイ状況だな」
「なにが?」
こうなればはっきり言うしかない。自分はお前のような女と関わる気は無いと。
「しょ、小生は――」
官兵衛がキュルケに対して答えようとした、その時。
「キュルケ!待ち合わせの時間に君がいないから来てみれば」
若い男の声が二人の耳に届いた。
キュルケがバッと振り返る。みるとそこには、窓から恨めしげに部屋を覗く、一人の青年の姿があった。
「ペリッソン!ええと、二時間後に」
「話が違う!」
キュルケが五月蝿そうに杖を振るうと、蝋燭の炎が伸び、窓の男を吹き飛ばす。
炎にあぶられ落ちていく男を唖然と見ながら、官兵衛は静かに口を開いた。
「……おい」
「何かしら?」
「今の男はお友達か?」
官兵衛が窓の外を見ながら言う。
「ええそうよ!全くこんな夜中に無粋な梟ね。で、カンベエ続けて」
「いやいや小生はだな――」
「キュルケ!その男は誰だ!今夜は僕と過ごすんじゃなかったのか!」
別の声に再び二人は振り向く。見ると今度はさっきとは違う青年が窓の外に浮いているではないか。
「スティックス!ええと、四時間後に」
「そいつは誰だ!」
またもめんどくさそうに杖を振るうキュルケ。
先程の青年と同じ末路を辿る彼を見ながら、官兵衛はやっぱりか、と小さく呟いた。
そして今度は、窓の外でひしめきあうこれまた別の青年たち三人。
そんな彼らをフレイムに命じて一掃させると、キュルケは再び官兵衛に向き合い、ひしっとその手を取った。
「何か言いたい事はあるか?」
呆れながら官兵衛が言う。しかし。
「ああ!全く恋は突然ね!フレイムを遣わせて、あなたの様子を窺わせてたのも!全て貴方の所為なのよカンベエ!」
「聞かんかい!」
官兵衛が声を荒げるも、何事もなかったかのように話を続けるキュルケ。何が何でも自分のペースを保ちたいらしい。
まくし立てるように、キュルケは言葉を続けた。
「あなたのその逞しい肩!素敵だわ!お顔も渋いし!」
「そ、そうか?そんなにも小生――って違う違う!」
一瞬気を許しそうになるも、頭を振り打ち払う。
「いいか!小生は!美人とは係わり合いになりたくな――」
「あー!あなたがド・ロレーヌを倒した時のあの勇士!まるで伝説の勇者イーヴァルディみたいで!痺れたわ!
わかってくれる?この気持ち!」
「わからん!わからんから離してくれ!」
ますますヒートアップするキュルケを振り払おうとする官兵衛。しかしがっちり手を掴れ、それも適わない。
もうここまでくればヤケクソである。キュルケは官兵衛の顔を両手で掴んでロックすると。
「カンベエ!とにかく愛してる!」
無理やりにその唇を奪おうとした、そして――
「きゃっ!」
「うおっ!」
どおん!という爆発とともに吹き飛ばされた。
官兵衛とキュルケは、突如起こった謎の爆発で床に投げ出される。
床に倒れたままの姿勢で、官兵衛は振り返った。するとそこには。
「ル、ルイズ……」
片手に杖を握り締め、バチバチと電気を杖先からほとばしらせながら、ルイズがいた。
先程まで扉があった場所には豪快に穴が開いており、そこに彼女は仁王立ちしていた。
周囲には焦げた扉の残骸が転がっている。鍵が掛かった扉を、爆発で吹き飛ばしたようだ。
非常にまずい状況であった。見ると、官兵衛はキュルケを下にして、折り重なるように床に倒れている。
キュルケはといえば危険な露出のベビードール姿。十人がみれば十人が、そういう状況だと思うだろう。
「お前さん!違うぞ小生――むぐっ!」
弁明しようとした官兵衛の唇が何かにふさがれる。キュルケが官兵衛に抱きつき、とうとう強引にその唇を奪ったのだ。
ぐいぐいと唇を押し付けてくるキュルケ。情熱的なキスの味が官兵衛を襲った。
官兵衛は目を見開きながら、されるがままのこの状況をどうやり過ごすか考えていた。
と、突如、官兵衛の横にガランと蝋燭のついたてが転がった。
見ると、ルイズが肩を怒らせ、足で蝋燭を蹴飛ばしながら、こちらに近づいて来ていた。
キュルケが官兵衛を離し、やれやれとルイズを見た。
「取り込み中よ、ヴァリエール」
「ツェルプストー!誰の使い魔に手を出してるのよ!」
キュルケの言葉にルイズが怒鳴った。官兵衛は、助かったと即座に身を起こそうとするも、脚が絡まりその場に倒れ伏した。
床に突っ伏した間抜けな体勢で、官兵衛は二人の少女のやりとりを恐る恐る聞いていた。
「あら、恋と炎はフォン・ツェルプストーの宿命よ。恋の業火に身を焼かれるなら、あたしの家系は本望なの。
あなたが一番ご存知でしょう?」
悪びれた様子もなくキュルケは手を広げてみせた。
「カンベエ!来なさい!」
のそのそと立ち上がった官兵衛を睨むと、ルイズは踵を返した。
官兵衛はこれ幸い、とルイズについていく。しかし、ルイズの背中から尋常でない怒りが感じ取れたので、若干の距離を開けた。
「あら。お戻りになるの?」
キュルケが悲しそうな目でこちらを見る。しかし官兵衛はそれに目もくれなかった。
「お前さんには悪いが、美人と関わると碌な事が無いんでね。さっきも言ったがな」
実際キュルケに関わった男達は、先程の通りであった。
そんな彼らを目の当たりにして、官兵衛はこの場にいる気にはなれなかった。それだけである。
扉だった穴を通り抜けながら、彼はルイズの魔法の威力に身震いした。この先ルイズの怒りは確実に自分に向くであろう。
その時の事を考えてのことである。
「(やっぱりツイていなかったか……)」
官兵衛はここに来て、自分の不運さを酷く実感していた。

官兵衛がルイズの折檻をその身で受けようとしていたその頃であった。
魔法学園からそう遠くない場所に建つ屋敷。そこは、王宮の勅使ジュール・ド・モット伯爵の屋敷である。
屋敷の主モットは、自分の執務室の机で肘をつきながら、魔法学院関連の書類に目を通していた。
先日、トリステイン魔法学園に立ち寄った際の視察の書類である。
「ふむ、こんな所か」
一通り目を通し終え、ため息をつく。と、彼の執務室の扉が静かにノックされた。
モットが許可すると、執事と思わしき初老の男性が入ってきた。
「何かね?」
「旦那様、又しても平民の娘を雇い入れたとか」
「それがどうした?」
表情を変えず、モット伯が言う。
「近頃は各方面への視察も多く、ご多忙であることは承知しております。
その慰労のためにメイドを雇い入れ、身の回りのお世話をさせる事自体は良いでしょう。しかしながら……」
「ふむ」
「流石に近頃の雇い入れの多さは見過ごすわけには参りませぬ。
視察に赴かれては、好き勝手に平民の娘らを自らのお傍に置かれて。
加えてあのような怪しげな品々まで屋敷に持ち込む。私としましてはいかがなものかと。」
初老の執事は口調を強くした。
「そして更に、近頃あたりを賑わすあの盗賊!」
「土くれのフーケか」
「そうです。このような事に現を抜かしていては、いつ狙われるかわかりませぬぞ!」
モットはフンと鼻を鳴らした。
「土くれだか何だか知らぬが。盗賊ひとりに引っ掻き回されるとは、貴族の質も落ちた物よ」
不機嫌そうに執事を睨みつける。
「どの道私には関係あるまい。まさかこの『波濤』のモットの屋敷を狙おうなどあるはずもない。ああそれと――」
モット伯はおぞましい笑みを浮かべ、言葉を続けた。
「平民の雇用は止めぬ。いくらお前とは言え、これ以上私の趣味に口出しするのなら、ただでは済まさん」
そういうと、モット伯は執事の男を下がらせた。男が執務室を後にしたのを確認すると、モット伯は杖を振るった。
すると、傍にあったキセルが、ひゅうと飛んできてモット伯の手に収まった。
煙をふかせながら、一人つぶやく。
「そうだな、そろそろ次の娘を雇い入れる頃合か。全く、魔法学院も良い娘がそろっておる」
先日の視察の際学院内で見かけたメイドを、モット伯は思い出した。
その鮮やかに揺れる黒髪を頭に浮かべながら、彼はより一層邪悪な笑みを強めた。



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