あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

Neverwinter Nights - Deekin in Halkeginia-30


「それじゃ、ええと……、ミスタ・エンセリック。
 あなたは私の使ってる爆発は魔法の失敗じゃなくて、その温存魔力特技とかいうものだっていうの?」

ここはトリステイン魔法学院、ルイズの私室。

部屋の主であるルイズは、王都からの帰りにディーキンが「自分より魔法に詳しい人物」として紹介した知性を持つ剣、エンセリックと話し込んでいた。
なおルイズが敬称をつけているのは、彼がただのインテリジェンスソードではなく、魔剣に魂を囚われた元魔術師だと紹介されたからである。

「エンセリックで結構ですよ、御嬢さん。
 あくまでも、あのコボルド君から聞いた話と授業中に拝見した情報とを元にした仮説ですがね。
 実際に確かめてみなくては何とも言えませんね」
「ふうん、ヴァリエールにそんな変わった力があるなんて、興味深い話ね。
 まあ眉唾だとは思うけど、それで、確かめるっていうのは一体どうやるつもりなのかしら?」

ルイズと一緒にエンセリックを囲んで座っているキュルケが口を挟んだ。
隣にはタバサもいて、興味深げにじっと話に耳を傾けている。

もちろんルイズは最初、私の部屋に勝手に入るな、帰れと要求していたのだが、2人ともどこ吹く風であった。
タバサもキュルケも、彼女が新しく召喚したばかりの使い魔に頼めばどうとでもなるだろうということは、既に把握しているのだ。
ぎゃあぎゃあわめく部屋の主を無視してディーキンに頼み、彼がうまく取りなしたことで、結局3人一緒に話を聞くことになった。

なお、ディーキン自身は話をまとめた後、ちょっと中庭へ行くとルイズに断って、デルフを持って出ていった。
エンセリックの仮説は事前にもう聞いていたので、改めて聞くよりもデルフをゆっくりと調べておきたかったからだ。

それに、シエスタとの予定もあった。
ディーキンは彼女の仕事が済んだ後で、夜に話や訓練に付き合うと昼間約束していたのである。
もちろんルイズはそんなことは知らないわけだし、知っていたらきっと不満を漏らしていただろうが。

「ごく簡単なことですよ、美しい御嬢さん。
 温存魔力特技は精神力を消耗しませんし、身振りも呪文の詠唱も、あなた方の持つ杖のような焦点具も必要ありません。
 あなたの爆発にそのような特徴があるかどうか、試してみればいいのです」
「……えーと、要するに?」
「だからどうするっていうのよ。もっと具体的に言いなさいよ!」
「……あー、わかりませんか? つまりですね……」

飲み込みの悪いキュルケとルイズに対して、エンセリックが溜息交じりに答えようとする。
だがそれよりも先に、タバサが口を挟んだ。

「杖は持たず、呪文も唱えず、体も動かさない。
 ……ただ精神を集中して、頭の中で爆発を起こそうとだけ考える」
「……はあ?」
「それでもいつもどおりの爆発が起こったなら。
 それが、あなたの爆発がその温存魔力特技というものだという何よりの証明になる」
「ええ、その通りです。あなたは賢い方ですね」

タバサの説明に満足したように、軽く賞賛の意を表すエンセリック。
しかし、ルイズやキュルケはその方法には納得できていない様子だった。

「ちょっと、何言ってるのよ。
 考えただけで爆発を起こすなんて、そんなことができるわけないわ!」
「そうね、そんなの先住魔法だって無理じゃない?」

それは、ハルケギニアの常識からいえば当然の反応であろう。

系統魔法にはフェイルーンでいう所の焦点具となる各メイジ固有の契約した杖が必須で、それを手に持ち振るって呪文を詠唱することが必要だ。
先住魔法には杖は不要だが、精霊に呼びかけるための身振りと口語の呪文を唱えることはやはり必要であるとされる。
ただ頭で考えただけで呪文のような力を使うなど、あまりにも常識外れであった。

「あなた方の魔法や先住魔法とやらの事はよくは知りませんが、温存魔力特技というのはそういうものですよ。
 ……そもそも、思念だけで超常現象を起こす程度が、さほどに珍しい能力とも思えないのですが。
 この辺りでは、擬似呪文能力やサイオニック能力を使う種族はいないのですか?」

フェイルーンの常識では……、少なくとも、広い世界を見て回った冒険者の常識では、意志だけで発動できる超常能力はそう珍しいものではない。
魔法の使い手が後天的に温存魔力特技という形で取得する以外にも、生来そういった能力を備えている強力な生物は多々存在する。
人間にも、その手の能力を扱える生得の才能に恵まれた者が生まれることは稀にある。

しかし、ハルケギニアの3人の少女は困惑したように顔を見合わせては、首を横に振るばかりだった。

「………何よ、それ。そんなの聞いたことないわ。
 ギジジュモンだとかサイオニックだとか、一体何のことよ?」
「聞き覚えはないわね。
 コボルドの間で使われてる言葉……、ってわけでもなさそうよね、あなたが人間のメイジだったっていうんなら。
 そうなるとディー君とあなたって、一体どんな場所から来たのかしら?」
「私も知らない。気になる」

(……ふうむ)

来訪者や神格がいないだけでも驚きだが、思った以上に勝手が違う世界のようだ。
エンセリックはそう考えながら、さてこの3人に何から説明したものか、どこまで話していいものかと、若干うんざりした気分で思案し始めた。
どうやら、まだまだ話は長くなりそうだ。

まったく、元魔術師とはいえ今の自分は剣であって、こんなことを真剣に考えたところでそれが一体何になるだろう?
一切興味が沸いてこないといえば嘘にはなるが、今の自分の境遇を思い出すとどうしても憂鬱な、やさぐれた気分になってしまう。
ひとつ自分が役立つことを示してやろうかと思ってつい承諾したが、やはりあのコボルドに任せて引き篭もっていればよかったかもしれない。
なにやら彼が新しく買ってきた、あの喋る剣とゆっくり話もしてみたいことだし。

(――――しかし、まあ)

随分と華奢過ぎるというか、フェイルーンの人間とはえらく違った体型と顔立ちではあるが、それでも3人とも結構な美少女なのは間違いない。
それにこうして囲まれて話ができるのなら、面倒を我慢するくらいの役得はある、という見方もあろう。
今の自分には眺める以上の事ができないのが何とも残念だが……。

(余計なことを考えずに、もっとのんびりと楽しみながら説明してやるか。今の自分の境遇を愉しまんとな)

キュルケの胸の谷間を、剣であるがゆえに気付かれる心配もなくじっくりと眺めながら、エンセリックはそう気持ちを切り替えた。

「――――そうですねえ。
 ではまず、私のほうの質問にいくつか答えていただけますか?
 よりよい説明のためには、御嬢さん方の住んでおられるこのハルケギニアという場所についてもう少し知っておきたいので……」





「……なあ、亜人の坊主よお」
「―――ン? 何?」
「さっきからこんなところで俺をいじくり回したり、妙なモン引っ張り出して呪いみてえな事を始めたり……、
 邪魔しちゃ悪いと思って黙ってたが、一体全体何をしてやがんだ、おめえは」
「ああ、いや。ディーキンは、あんたにどんな力があるのかを調べようとしてるんだよ」

ディーキンは中庭のあまり目立たない、しかし見るに困らない程度には月明かりの当たる一角で、先程買ってもらったデルフを詳しく調べていた。
時間をかけて細かく叩いてみたり、こすってみたり、ひっくりかえしてあちこち虫眼鏡で子細に眺めてみたり。
とはいえ、ここまでの調査で判明したのは、デルフの表面に浮いている錆はいくらこすっても落ちないのでやはり偽装だろうと確信できたことくらいだった。

もちろん、並行して魔法的な調査も行っている。
デルフがいぶかしんだ奇妙な行動は、そのためのものだ。
この手の占術には、高価な焦点具や物質構成要素を用意した、時間のかかる儀式が欠かせないのである。
冒険者ならこの手の呪文は自分で唱えるよりマジックアイテムから発動することの方が多いが、その場合でも時間がかかることは変わらない。
結果が出るのには、もう少し時間がかかるだろう。

この呪文は発動後成果が出るまでの間に食事や睡眠などの日常活動を行っていても問題はないので、その間にこうして少しおしゃべりなどをしているわけだ。

「俺の力? うーん、そういわれると何かあった気もするんだが……。
 何せ六千年も生きてきたもんで、忘れた」
「フウン、六千年も? あんたはずいぶん、長生きなんだね」

六千年と言えば、長命なドラゴンでさえ何らかの手段で定命の枠を超えねば生きられないほどの長さだ。
フェイルーンでそれほど昔から存在しているのは、年古い強大なアンデッドや来訪者などの、ごく僅かな存在だけであろう。
それが本当なら、そして、この世界とフェイルーンとは過去には関係があったという、以前の考えが正しければ……。
彼は2つの世界の交流が断たれる前、もしくはその直後に、今では失われてしまった太古の技術によって作られたのかもしれない。

「ええと、じゃあ……、大昔の英雄のお話とかは、覚えてないの?
 あんたを持ってた人のこととかは?」

デルフリンガーはディーキンのやや期待を込めたその問いに対して、しばし考え込むように押し黙った。

「…………悪いが、もうあんまりよく覚えてねえな。
 最後にまともな使い手の手に納まれたのも、もう随分と昔のことなんでな」
「そうなの? ンー、それは、なんだか気の毒だね……。
 じゃあ、今ディーキンが調べてみてるので何かわかったら教えてあげるよ。そうしたら、思い出せるかもしれないでしょ?」
「そりゃあありがてえが……、調べるったって、なあ。
 俺をいじり回したり、そんな呪いみてえなことをしたりしてわかるような話でもねえだろ」
「フフン? ディーキンはそうでもないと思うの。賭けてもいいよ」
「そうかあ……? まあ、俺もそのうちまた何か思い出したら話してやるけどな……。
 まあ、とりあえずそんなことよりもだ、坊主」

デルフリンガーは、ひとつ咳払いをして、話題を変えた。

「うん……、何?」
「……俺の力がどうとか言う以前によ、そもそもおめえ、俺を買って、これからどうする気なんだ?
 そりゃあおめえが強えのは確かだし、なんか知らんが気になることもあったし、買うっていうから何となくついて来ちまったがよ……。
 剣として使われもしねえで、あれこれ調べ回して後は仕舞いっぱなしなんてのはご免だぜ。
 まさか、転売しようなんて腹でもねえだろうが……、おめえのそのナリで、何か俺を使う方策でもあんのか?」
「アア、そのことなんだけどね、」

ディーキンがデルフの疑問に答えようとした時、別の方から声がかけられる。

「――――先生、遅くなってすみません!」

声の方を見れば、シエスタが本塔の方からこちらへ小走りにやってくるところだった。
頬をほんのりと上気させ、息を切らせている所からすると、仕事が終わると同時に急いで駆けて来たのだろう。

「オオ、シエスタ、いらっしゃい。ディーキンもついさっき来たところだよ」

ディーキンは立ち上がると、小さな体をうーんと伸び上がらせるようにしながら、そちらに向かって大きく手を振った。

「んっ? ……なんだ、あの娘っ子はおめえの知り合いか?
 てめ、昼間の貴族の嬢ちゃんの3人組といい、トカゲの亜人の割にゃあ、やけに人間の娘っ子にモテてんな!」
「そうなの。イヒヒ、ディーキンはこう見えても人気のバードだからね!
 ちょうどよかったの。あの女の人はシエスタっていって、これからあんたを使ってもらおうと思ってるんだよ」
「ほう。………って、何だと!?」


「―――――ってことなんだよ」

ディーキンは、デルフリンガーを手に入れた経緯と、これをシエスタに稽古などで使ってほしい旨をかいつまんで説明した。

シエスタはといえば、ディーキンからの贈り物だというので、ぱあっと顔を輝かせたり。
かと思ったらそれが錆びた剣で、なんだか微妙な気分になったり。
しかし話を聞いて、それが本心から良かれと思って用意してくれた品物なのだとわかって気を取り直したり、していた。

「どう、シエスタ。この剣を使ってみてくれないかな?」
「その……、先生がそこまで気を使ってくださって、うれしいです。
 はい、私にうまく扱えるかはわかりませんけど、喜んで……」

「……ちょ、ちょっと待ておめーら! 勝手に決めんな!」

この流れにいささか面食らっていたのか、それまで黙って話を聞いていたデルフが慌てて割って入った。

「おいこら、坊主! 俺はおめーが買ったからついてきたんだぜ。
 そのメイドの娘っ子に使われるなんて話は聞いてねえ! つまらねえ使い手には、もううんざりしてんだ!」
「……え? あ、ええと、その、すみません……」
「ちょっとデルフ、それは聞き捨てならないの。
 シエスタは、きっとすごい英雄になれる人なんだよ!」
「そ、そんな! 私のような平民が、英雄になんて……」

デルフの文句と、それに対して恐縮するシエスタと、抗議するディーキン。
そしてディーキンの言葉に、ますます恐縮するシエスタ。

ひたすら恐縮し通しのシエスタの様子を見て、デルフはふてくされたような声を上げた。

「けっ、その縮こまったお行儀のよさそうな娘っ子が英雄になるだあ……?
 寝言いうんじゃねえよ、坊主!」
「ンー……、この辺ではそういう冗談が流行ってるの?
 ディーキンは別に、何も冗談はいってないの。
 ディーキンには見る目があるの。特に、英雄を見る目には自信があるんだ!」

ディーキンはそういって、得意気に胸を張った。
冗談を言っているような様子もなく、本当に自信満々でそう確信しているらしい。

「……ふん? まあいいぜ、俺も買われた手前があるし、そこまでいうんならちょいと試してみてやらあ。
 おい、そこの娘っ子!」
「え? ……あ、は、はいっ!?」
「畏まってねえで、俺をちょっと構えて、素振りしてみな。できるんなら、だけどな!」

どうしていいものか困った様子で畏まっていたシエスタは、デルフにそう指示されて、慌てて彼を掴み上げた。
そうして、やや不慣れな様子で緊張しながらも、真剣な面持ちでぐっと正眼に構え、数度、角度を変えながら素振りをする。

数千年の経験を蓄えた魔剣は、手に持たれた時に伝わってきた感覚や、その構え方、振り方などから、シエスタの力量を吟味していった。

「―――ほお、まったくの素人じゃあねえな? まだ若い割にゃあ、なかなかだぜ。
 坊主のいうことも、まるっきりデタラメってわけでもねえようだ」
「あ、いいえ、そんな、たいしたことはないですけど……。
 いえ、先生が嘘つきって訳じゃなくて……、ええと、その。あ、ありがとうございます」

構え方、振り方は、少なくともド素人のものではない。
真剣を手に持っている時のぐっと引き締まった気迫、精神性もなかなかに思える。
身体能力も見た目の割にはかなり高く、並みの男にひけは取らないだろう。

今でもそこらの二流三流の傭兵となら十分戦えそうだし、多少鍛えればすぐに、そんな連中よりもずっと上に行けるだろう。
頑張って鍛えれば、そして機会に恵まれれば、確かに英雄と呼ばれるような人物にもなり得るかもしれない。

―――しかし、だ。

「……まあ、ちょいと見損なってたってのは確かだがな。
 こう言っちゃ悪いが、だからといって別に、おどれーたってほどでもねえぜ。
 ましてや、そこの坊主と比べりゃあな」

先程武器屋でディーキンに持たれた時に彼から感じた、驚異的な身体能力、技量、魔力、そして潜在力。

それは、シエスタから感じるものとはまるで比較にならないほどだった。
シエスタはあくまでも常人の範疇では優秀だという程度であり、たとえて言うならばドラゴンと子猫の勝負といったところだ。
将来は優れた英雄になるとディーキンはいうが、見たところ彼自身も年齢的にはシエスタと大差ない程度であろう。
それでこれだけ能力の差があるのなら、将来性の面でもシエスタがディーキンに勝るとはデルフには思えなかった。

「おい坊主、やっぱり、………ん?
 待てよ、なんか魔力を感じるぞ。おめえ、実はメイジ……、いや、違うな。ただの人間じゃねえのか」
「えっ!? な、なんでわかったんですか?」
「俺はな、自分を使うやつのことは大体わかるんだよ。
 なんだか知らねえが人間以外の血が混じってやがるようだな、娘っ子。
 ……ハーフエルフ、じゃねえな。その坊主と同じ亜人の仲間、ってわけでもねえ。
 昔、おめえみてえな感じのやつに会った気がするんだがな―――」

「シエスタは、アアシマールなの」

ディーキンはちらりとシエスタに目を向けて話していいかどうか確認を取ると、なにやら考え込んでいるデルフに簡単に説明していった。
この世界の常識からみて天使の血が混じっているという話を信じるかどうかは疑問であったが、デルフは意外とすんなり納得したようだ。

「―――なるほど、天使の子孫か。最近はみねえが、何千年か前には確かにそんな連中がたまにいたような気がするな。
 ……まあ、あんまりよくは憶えてねえがな」
「フウン、やっぱり昔はディーキンのいたところとあんまり変わらなかったのかな。
 とにかく、チビのコボルドでも英雄になれるのなら、天使と人間の血を引いてるシエスタになれないはずはないの。
 だから、あんたを使うのに相応しくないなんて事はないの」
「……ふん。俺にゃあその娘っ子が、天使だろうが何だろうが関係ねえ。
 俺がその娘っ子に使われてやるかどうかってのは、英雄になれるのなれないのとはまた別の話だぜ?」

デルフは金具を鳴らして不機嫌そうな声を出すと、ディーキンの説得を突っぱねた。

とはいえ、もし武器屋の時点でディーキンではなくシエスタが自分を買おうとしていたのならば、おそらくデルフも承諾していただろう。
彼としては、ディーキンの武器になると思っていたところへ急にシエスタが出てきたのが、非常に気にいらないのだ。
これではまるで、英雄の武器になれると思っていたら、お付きの小姓に下げ渡されたようなものではないか。

無論、シエスタに使われなかったらディーキンに使ってもらえるのかといえば、それは体の大きさの関係上無理だろう。
だから最終的には折れざるを得ないだろうということはデルフだって分かっているが、とにかく気が乗らないのである。
まあ、簡単に言えば、ちょっとスネているのだ。

それにデルフがディーキンについていきたいと思ったのは、ただ単に彼が強いからというだけではない。
彼にかつての『使い手』に通じる何かを―――仮に、彼が使い手そのものではないとしても―――感じたから、というのもあった。

その『使い手』とはなんであるのかは、すっかり遠い記憶の彼方に霞んでしまって、デルフ自身も既によく覚えてはいない。
ただ、自分にとってそれがとても重要な存在だということだけは、はっきりと覚えている。
より正確には、武器屋でディーキンが自分を手に持った時に突然、思い出したのだ。
おそらく『使い手』は自分が作られた意義そのものに関わる存在であり、その存在に共鳴したのかもしれないとデルフは考えていた。

仮にシエスタが英雄と呼ぶに十分な実力を得たとしても、結局は彼女は『使い手』とは無関係な存在だ。
ディーキンと比べたら、デルフにとっての優先度は低いと言わざるを得ない。

困ったような顔で2人のやりとりを聞いていたシエスタが、おずおずと口を挟んだ。

「……あの、先生。その、デルフさんがおいやなのでしたら、私は無理には。
 訓練だけなら私の持っている武器でも、十分できますし……」
「ンー……、でも、シエスタに使ってもらう以外に、ディーキンにはデルフを使う当てはあんまりないの。
 ねえデルフ、あんたは『ガンダールヴ』の武器だったんでしょ?
 それが本当に、立派な英雄になれる人に使われもしないで、ホコリをかぶってる方がいいの?」
「へっ、そうよ! 俺はもともと『使い手』の武器さ。だからこそ、………?」

ディーキンのその発言に反射的に言い返し掛けたデルフが、急に何かに気付いたように喋るのを止めた。
そしてそのままぶつぶつと、何やら独り言を呟きながら考え込みはじめる。

「………『ガンダールヴ』だと? その名前は、どこかで………」

横で聞いていたシエスタが、きょとんとした顔になった。

「それって、もしかして“始祖”ブリミル様の使い魔の名前じゃないですか?」

それを聞いて、デルフがはっとしたように叫ぶ。

「――――お、……おお、そうだ! そうだぜ! 思い出した!!
 『ガンダールヴ』だ! あいつが『使い手』なんだ! 俺は昔、あいつに握られてたんだ!
 すっかり忘れてたぜ、なにせ今から六千年も昔の話だ!!」

シエスタは目を丸くして、わあ……、と感嘆の声を漏らした。
なにせ、伝説の中で語られるような人物が使っていた武器が目の前にあるというのだ。
正直今ひとつ実感が湧いてこない部分もあるが、そりゃあ多少なりと感動もしようというものだ。

一方ディーキンはといえば、楽しげににこにこしてはいるが、特に驚いた様子はない。

「オオ、昔のあんたの持ち主の事を思い出せたの? それは良かったの」
「ああ、懐かしいねえ。まったく、泣けてくるぜ……」

デルフはしばらく、しきりにうんうんと感動したり納得したりしていた。
しかし、ふと我に返ってディーキンに訝しげに問う。

「……けどよ、坊主。思い出させてくれたのはありがてえが……、おめえ、なんで俺が『ガンダールヴ』の武器だってことを知ってたんだ?
 もしかして、最初からそれに気が付いてたから俺を買ったのか?」
「イヤ、買った時は全然知らなかったの。そのことは今さっき知ったばっかりだよ」
「?? そりゃあ、一体どういう――――」

訳が分からないという様子で、不思議そうにディーキンを見つめるデルフとシエスタ。

ディーキンは2人の視線を意識して、得意げに背を伸ばすと悪戯っぽくにんまりと笑って見せた。
観衆を大いに驚嘆させ、喜ばせ、心地よい注目を浴びられたことを喜んでいるのだ。
それこそ、バードとしての本懐である。

「フフ~ン、聞きたい? じゃあ、ディーキンが歌にしてご披露するよ。
 それを聞いたら、デルフももっと思い出せるかもしれないしね」

ディーキンは2人に勿体ぶって御辞儀すると、荷物袋の中から竪琴を取りだし、手近の岩に腰かけて朗々と詩歌を吟じ始めた。
つい先程、完成した《伝説知識(レジェンド・ローア)》の呪文で判明したばかりのそれに、即興のアレンジを加えて仕立てたものを。




遥けき古に、魔法を操る小さき小人あり
彼女の名はガンダールヴ
ひとつの魂を作り、刃に宿し、携えて、己が左手と定めたり

彼女とその主とを護る、神の盾
携えられし彼の名は、デルフリンガー

この永き時を経て、錆びれた刃を見るがいい
くすんだ輝きは、長の年月の間に役目を失い衰えた、その心魂を現すもの
されど再び奮い立つ時が来れば、何千年を経ようとも、刃金は若き輝きを取り戻すだろう

輝ける刃はあらゆる呪文を切り払い、魔法を奪い、蓄える
その様、あたかもかの伝説の剣聖、カイエス=ナインタークが剣の妙義のごとくなり
危機に際しては蓄えし力で主を操りて、その窮地を救うなり

彼は触れし武器を識り、言葉を操り、携えし者の力をも悟る
やがて宿りし鋼の砕ける時、かの魂は、新たな器を求めるであろう

………



新着情報

取得中です。