あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

るろうに使い魔-40


 さて、ルイズのささやかな幸せは、その次の日のうちに見事打ち砕かれたのだった。
 翌日の夜、『魅惑の妖精』亭が繁盛する中、ルイズはげんなりしながら昨夜と同じように給仕に勤しんでいた。
 この二日で、大体ルイズを見て反応する酔っ払いの客達には大まかに二通りあった。
 まず、こんな小さなガキをこの店で使っているのか、と憤る連中。そう言ったお客様には、ワインを『壜』ごと飲ませ、サービスして差し上げる事にしているのだ。
 次には、そう言う趣味・趣向がある持ち主のお客達。ルイズはバカみたいに容姿は整っているおかげで、その筋の人達にはウケがいい。
 ただ、こういう類の連中も、黙っていれば大人しそうに『見える』ルイズをナめ、決まって尻やら太ももやらを撫でようとしてくる。そのお客様にルイズは、平手、もしくは怪鳥蹴りを無料でご提供することにしたのだ。
 一部では『ありがとうございます!!』などと言ってくれる特別趣向なお客様もいるにはいるが、そんなものは極少数だ。
 お愛想の一つも言えないルイズに、寄ってくる客がいる筈なく、当然チップの一枚も貰えずにいた。
 そんなわけで、今日も何人かの客を怒らせたルイズは、スカロンに呼ばれ、「ここで他の子達のやり方を見物なさい」と隅っこで立たされてしまった。
「なによ…もう! 何がいけないってのよ!!」
 ぶつくさ言いながらも仕方なく、ルイズは他の給仕の女の子達の動きを追った。成程みんな巧みであった。何をされ、何を言われても無料スマイルを崩さない。
すいすいと上手に会話をすすめ、愚痴があったら聞き入ってあげ、時に男たちを褒めてあげて…しかし触ろうとする手を優しく握って触らせない。
すると男たちは、そんな娘達の気をひこうとしてチップを奮発するのだ。
(じょ…冗談じゃないわ!)
 とルイズは心の中で叫んだ。貴族である私が…公爵家である私が…あんな真似出来るわけないじゃない!!!
メイジは貴族のこの世界、生まれはヴァリエール、恐れ多くも公爵家、領地に帰ればお姫様! のルイズである。
明日世界が終わると言われても、あんな愛想はかませられない。
しかもこんな恥ずかしい格好で…。
「格好…?」
 そうだ、と言わんばかりにルイズは今着ている自分の服装を見やる。際どいミニスカートのキャミソール姿。ルイズは、ふと隣にあった鏡で自分の格好を確かめた。
 そりゃあ、中身は自分でもダメダメだという自覚はある。けど外見なら…かなりの線いってるんじゃなかろうか。
 鏡の前で、ルイズは何度かポーズを取ってみる。うん、恥ずかしいカッコですけど、わたし可愛い。
 腐っても貴族、溢れ出る高貴さには、ここにいる女の子の誰だって敵わない…わよね? きっと、いやそうよ。
(これだったら、ケンシンも見とれてくれるんじゃないかしら…)
 そう思い込んだ所で、ルイズの思考は現実に引き戻される。そうだ…あのバカ使い魔は、今はここにはいないのだ。
どんなに格好良くても、見てくれないんじゃ話にならない。ルイズは思わず唇を噛んだ。



「ケンシン…? どこ!!?」
夕方頃、やっと目を覚ましたルイズは、いつの間にか隣にいるはずだった剣心がいないことに気付いた。
慌てて飛び起きスカロンに事情を話すと、そこで彼から剣心とは働く時間が別々になるということをスカロンから告げられたのだ。
「ケンシンくんの頼みでね。彼は今後、別時間の仕込みや部屋の掃除、それから開店の下準備等を主に手伝ってもらう代わりに、夜の時間は空けて置いてあげることにしたのよ」
「え、…なによそれ…」 
それを聞いたとき、ルイズは信じられないといったような表情をした。
何の連絡もなく?勝手にそんな事決めたの? 主人であるわたしに話もなしに?
「何よそれ!! ふざけんじゃないわよ!!」
 怒り心頭で顔を真っ赤にし、どういうことか直接会って剣心に訳を聞きたかったが、丁度開店前だったためにそれも叶わず、こうして夜の仕事へと駆り出された次第である。
(ホントにもう…どこ行ったのよあのバカ犬…)
 さっきまで、その鬱憤をお客様方に発散していたところであるが、こうやって冷静になってくると、怒りより寂しさの方が強く押し寄せてきた。
 考えてみれば、剣心が隣にいない時、いつも彼の事ばかり頭に浮かんでくる。何ていうか…もう一緒にいて当たり前のような錯覚を感じているのだ。
 だから、こうやって剣心と離れ離れになってしまうと、そういった感情がルイズの心の中にどっと流れ込んでくる。それは、自分でも制御出来ない、抗うことのできない強い力を持っていた。

(アイツと私は、何もないのに…主人と使い魔以上のものはないのに…)
だがそう思えば思う程、この力はもっと抉るように心に突き立ててくる。
「ケンシン…あんた今何しているのよ………」
 任務の事を分かっているのだろうか、今の状況を把握できているのだろうか。
 自分が今、どんな想いでこの仕事に徹しているのか、ちゃんと理解してくれているのだろうか…。
「帰ってきてくれるよね…」
ルイズの胸中には、その不安だけで押しつぶされそうになっていた。



          第四十幕 『すれ違う気持ち』



 その同時刻。
 夕日も沈み、真っ黒な帳が空を覆う中、トリスタニアでは店の明かりやら酒場に繰り出している連中の喧騒やらで、昼にはない賑やかさを呈していた。
 その中に紛れて、男が一人悠々と歩いていく。
 平民と思わせるような風体に、一括りに纏めた緋色の髪。腰には刀を携えた男は、頬にある十字傷を湿布のようなもので覆い隠し、各地の酒場で情報を集めて回っていた。
 その男――緋村剣心は、かれこれ十件目になる酒場から出た後、一息つくために中央の噴水広場へと赴き、段差に腰を下ろした。

「流石にこれ以上有益な情報となると、そうそう無いものでござるな」
「まあ、ここいらの聞き込みだけじゃ、限界があるわな」
 剣心の言葉に、後ろで担いでいるデルフがカチカチと鍔を鳴らす。
 あれから幾度も聞き込みを続けてはいたが、大体がもう聞いた噂や情報ばかりで、要領の得ないものばかりなのであった。
 曰く、そいつはアルビオンが雇った刺客だとか、メイジじゃなく亜人やエルフの類だとか、実は逃げ出した『土くれのフーケ』が起こした復讐劇だとか、そんな様なものだ。

 ついでに、この国の事や女王アンリエッタの事も、それとなく聞き込んでいた。
 それについて、一般の平民や人々は「この国の聖女」、「戦場に勝利をもたらす女神」とはやし立てる一方、傭兵や穿った考えを持つ人は、「世間知らずのお嬢様」、「結局戦争や政治というものをまるで分かってない」と、辛口の批評をするのだった。
 タルブでの戦勝の威光も、時が経つにつれ段々と薄れつつあるようだった。巷では「アルビオンに治めてもらったほうが良い」等といったものや、「軍隊を強化してアルビオンへ攻め込むつもりなんだ」という意見や話まで出る始末だった。
「姫殿には辛い話でござるな」
「まあ、若いしその分苦労してるんだろうなぁ」
 と、剣心とデルフはアンリエッタの事を思い出しながら夜空を眺めた。こうなるなら…あの時行かせてあげた方が良かったのかもしれない。そんな考えを一瞬だけでもしてしまう程だった。
 けど、その場で正しい正しくないかというものは、無理矢理に当てはめるものではない。ただ自分は、その時に判断したことに後悔がないように、心に決めて行動するだけだ。
 少なくとも、あの時のアンリエッタの表情と声は、そう決めさせる何かを含んでいた。だから立ち向かった。それだけなのだ。

「んで、どうすんだ? まさかずっとこんな調子で行くわけにもいかねえだろ?」
 そう剣心が物思いに耽っている中、デルフの声が聞こえてきたおかげで剣心は現実へと帰ってきた。
 剣心は少し考え込んだ後、こう答える。
「まだ何か出てくるかもしれないから、もう少しだけ情報を集めて…纏まったところで一度姫殿に報告するでござるよ」
「まあそれはいいんだけどよ、娘っ子はどうするつもりなんだ?」
 それを聞いた剣心は押し黙ってしまった。
「いつまでも蚊帳の外にしておくわけにもいかねえだろ。あの娘っ子が虚無の使い手である以上、そして相棒がその使い魔である以上はな」
「……虚無の担い手であろうと、ルイズ殿はルイズ殿でござるよ。戦いなんて、知らずに済むならそれで良いでござる」
 何処か影のある微笑みをしながら、剣心はそう答えた。それに遅れて、デルフが再び口を開いた。
「相棒の言いたいことは分かるさ。娘っ子を巻き込みたくねえってんだろ? けどよ、そこに娘っ子の気持ちはどこにある。あの時俺が話したこと、覚えているか?」
 諭すように、デルフは続ける。
「『ガンダールウ』ってのはな、主人を守ろうとするときに一番強い力というのを発揮するんだ。それは主人の長い詠唱を守るため、無防備な状態から敵を阻むためだ。けど今の相棒は、その守ること事態に過剰になっているように見えるんだ」
 確かにそうだ。この街に来てからというもの、まるで拒絶するかのように、剣心はルイズと距離を置いているのだった。
「相棒程腕が立つなら、大抵のやつには負けねえだろ。なのに何で、そこまで過保護になるかね。一体何が、相棒をそこまで追い詰める?」
 剣心達の間に、沈黙が流れる。暫く耳の中には賑やかそうな人々の声が響いてきた。
「それでも…」
といった感じで剣心は再び口を開く。
「…戦いに絶対なんてものはない。もしそうならアルビオンで、拙者はウェールズ殿を助けられたはずでござろう。それに………」
 剣心は、昔の過去を思い出す。一生忘れはしないだろう。あの二つの記憶。

 雪の中、自分を庇って剣を受けた一人の女性。

 白梅香の辿る道筋の中、剣を突き立てられ崩れ落ちていた一人の少女。

 力はあった、なのに守れなかった……これだけは今でも鮮明に蘇る。自らの罪が招いた悲劇。
 あんなことはもう、二度と引き起こしてはならない。
(他にも、もう一つ…)
 剣心は、左手に刻まれたガンダールヴのルーンを見た。あくまで懸念の域を出ないが、もし自分の推測通りだとすると…。




       (―――俺は今一度『人斬り』に戻るさ)




 夢の中で…確かにそう呟いた自分を思い出し、無意識に左手を握り込む。
 もしそうなら、益々自分がルイズと一緒にいるのは危ない気がしたのだ。
「身近にいる誰かが、また死んだり傷ついたりするのは嫌なだけでござる」
 本当に…本当にやるせなさそうな声で、剣心は呟いた。
その声も、言葉も、人々の喧騒の中へと紛れて消えた。

 その後、もう何件か店や情報屋を回って、それらしい話はないか探していたが、結局収穫はゼロ。仕方なく剣心は一旦『魅惑の妖精』亭へと帰っていった。
 勿論、尾行がつけられているかどうか細心の注意を払い、人目につかないようこっそりと裏口から入るつもりだ。
コンコン、とドアをノックすると、声が向こう側から聞こえてきた。
「誰?」
「拙者、剣心でござる」
改めて誰もいないか確認したあと、剣心もそう返した。
ガチャッ、と音の後に、扉が開かれる。
そこにはジェシカがいた。
細目で睨みながらも、どこか好奇心で瞳を輝かせながら、ジェシカは尋ねる。
「あらこんばんわ。こんな裏口から何の用? どこまで行ってきたの?」
「家庭の事情でござる」
 一応彼女も、剣心が昼の時間帯に働くことも、夜は自由時間にさせておくことも知っていた。
 ただ、あんまり詮索をしないスカロンに対し、この娘は自重というものを知らない。こんな遅くまで何をやっていたのか、知りたくてウズウズしているようだった。
「あんたとルイズは、兄妹じゃないのは分かったとして、あの子本当は貴族じゃないの?」
「家庭の事情でござる」
「そんであんたは、あの子の雇われ傭兵だとか。見た目はアレだけどアンタ、相当出来るでしょ。大体分かるのよねぇ、雰囲気や身のこなしから。そんで、あの貴族の娘と一緒に何を企んでいるの?」
「家庭の事情でござる」
 あれこれと質問や推測を突きつけるジェシカに対し、剣心は一辺倒の答えしか返さない。
 しかし、これが逆にジェシカの「興味」という名の火をさらに強くしたようだった。
 目をキラキラさせながら、ズイッと剣心の前に顔を近づける。
「えー? なにそれ、やばい橋渡っているの? 面白そうじゃない!!」
 どうやらもう彼女の好奇心は留まることを知らないらしい。結局最後に剣心がとった行動は「無視」だった。
 何も言わずにジェシカの隣を通り過ぎようとしたとき、今度はガラスの割れるような音と客の怒号が店側の方から轟いた。
「てめえ、何しやがんだ!!」
「あああんたこそ、そそそこになおりなさい!! いいい加減にしないと」
「はいごめんなさぁぁぁぁぁぁい!!!」
 後はコントのように、呻くような男の悲鳴と騒ぎ立てる客の声が剣心達の耳に届いた。
 隣では、ジェシカがやれやれといった仕草をしていた。
「全く困ってんのよねぇ…あの子全然仕事覚えないしさ。チップ一つ満足にもらえてないのよ」
「……おろろ…」
「もうすぐ『チップレース』も近いからさ。あの子にはガンガン稼いでもらわないとねえ。請求料だってホラ、こんなにもう」
 そう言って、ジェシカはポケットから一枚の紙を剣心に手渡した。嫌な予感は覚えつつも、恐る恐るその紙に目を通して、そして剣心は唖然とした。
「………おろ!!!?」
 何と、最初に渡された請求書より、倍の額に増えていたからだ。一体何人の客を怒らせたのだろうか、想像もつかなかった。
(本当に、こんな事で大丈夫だろうか……?) 
剣心は今、そんな不安を抱えていた。





 さて、そんなこんながありながらも、気が付けば一週間程の時間が流れていた。
 ここトリステイン魔法学院でも、大多数の生徒達が帰省や旅行でいなくなっている中、二人の貴族が退屈を持て余していた。キュルケとタバサである。
 タバサの部屋の中、キュルケはあられもない格好でベットにグッタリと横たわっている。そんな彼女に文句を言う風でもなく、タバサは一冊の本のページをめくっていた。
「ねえタバサ、お願いよ。さっきみたいに風を吹かせて頂戴」
 タバサは本から目を離さずに、杖を振る。直後小さく吹き荒れる風には、氷の粒が混じっており、さながらクーラーの如く快適な涼風を送っていた。
「あー、気持ちいぃ」
 キュルケはとうとう、シャツを脱ぎ捨てた。世の男共が見れば鼻血を吹いて卒倒すること間違いなしの魅惑のラインが、そこに現れた。
 そんな事を気にせずに、キュルケはじっと小さな友人を見つめた。汗一つかかずに本に夢中になっているタバサを見て、キュルケは尋ねる。
「ねえ雪風。あなたってば新教徒みたいに本が好きなのね。それってまさか連中が夢中になって唱えている『実践教義』ってやつ?」
『実践教義』。それは今ロマリアにて盛んに行われている運動の一つで、始祖ブリミルの偉業とその教えの記した『始祖の祈祷書』の解釈を忠実に行うべし、と唱える一派でもあった。
 余りにも本に夢中になっているタバサを見て、何となく気になってそう言ったキュルケだったのだが、それを聞いたタバサは、ゆっくりと本を閉じて、そのタイトルをキュルケに見せた。
「…なにこれ、『剣術指南書』?」
「読んでるだけ」
 まあ、別にタバサが新教徒なわけないとは思っていたが、流石にその本の内容にはキュルケも怪訝な表情をした。
 剣術なんて、魔法を使えない傭兵や、騎士が基礎技術を固める程度に習うものだ。メイジがそんなに率先して読むような書物じゃない。いわば平民用の本である。
 ページをめくってみれば、そこには簡単な剣術の仕方、剣の握り方や構え、振り下ろし方等、基本的な事しか書かれておらず、結局キュルケはページをぱらぱらめくるだけで飽きてしまった。
 けど、キュルケにはタバサがなぜこんなものを読むのかだけはピンと来た。
「あなた、まさか飛天御剣流でも学ぶつもりなの?」
「断られた」
 あっさりとそう言うタバサを見て、キュルケはまた少し驚いた。この本といい、結構彼女は本気なのかもしれない。
 ふとキュルケは、あの夜を思い出す。剣心とまではいかないが、それでも速い身のこなしで動きながら、杖を使って接近戦をしていたタバサの姿を…。
「まあ、あれを会得できたら確かに鬼に金棒よね…でもあんまり無理しないでよ。わたしの可愛いシャルロット…」
 キュルケは、タバサを優しくその手に抱いた。彼女の素性を知っているキュルケは、どうしてそこまで力を求めているのかが、何となくわかるからだ。
 だからこそ、無茶はしないで欲しい。そう思いを込めてキュルケは言ったのだった。
 しばらくそうしていた後、タバサからはなれたキュルケが話題を変えるように口を開いた。
「…しっかし暑いわねぇ。ほんとにもう、こんな蒸し風呂みたいな寮に残っているのなんて、あたしたちぐらいよね―――」
 その時、きゃああああ、と悲鳴が、キュルケとタバサの耳に届いた。
丁度この階の下だ。
 二人は顔を見合わせると、がばっと立ち上がり、キュルケはシャツを着て、タバサは杖をとって部屋から飛び出した。
 そして素早く階段を降りて、悲鳴の聞こえた部屋…モンモランシーの部屋の扉の前へとやって来たキュルケ達は、ゆっくりとドアの端に立って身を構えた。
 暫くの沈黙の後、キュルケが勢い良くドアを開け、そこに杖を突き出す。
しかし、部屋にあったのは………。
「何だ、取り込み中だったの」
 ギーシュが、モンモランシーを押し倒してお楽しみをしている最中だった。

 バカみたい、というような表情を隠そうともせずに、キュルケは二人を見つめた。
「良かったじゃない。ちゃんと治ったようでさ」
 惚れ薬の一件を思い出したキュルケは、冷ややかにそう言った。今ここにいるギーシュは、確かにいつもの通りのギーシュであった。
ここでようやく思考が追いついたギーシュ達は、跳ねるように起き上がった。
「いや、モンモランシーのシャツの乱れを……、直しておりまして」
「押し倒して?」
「直しておりまして」
 慌てて取り繕うギーシュに、モンモランシーが冷たい声で言った。
「もういい加減にしてよ!! 頭の中はそればっかりじゃない!!」
 二人のやり取りを見て、キュルケがやれやれといった調子で首を振る。
「あなたたち、随分とやっすい恋人ね。何もこんな暑苦しい寮なんかでしなくてもさ…」
「なんもしてないわよ! てかあんたたちこそ何してんのよ。今は夏期休暇よ」
「帰るのが面倒なだけよ。国境越えるの大変だしね。じゃああなたたちは何してたのよ?」
 モンモランシーは少し恥ずかしそうにモジモジした後、小さく答えた。
「…魔法の研究よ」
「…また変なことになっても助けないからね」
 あれだけの騒動が起こったというのに、まだ懲りてはないようだった。
まあ、キュルケにとっては別にどうでもいいらしく、折角集まったことだしと、改めてギーシュたちにこう提案した。
「じゃあさ、街にでも出かけましょうよ。休暇も長いんだし、居残り同士仲良くやりましょ」
 確かに、今は太陽がこれでもかと照りつけている。ギーシュ達も、涼めるところで冷たいものが飲みたかった。
「まあいいわ。で、そこのおちびさんはどうするの?」
 と、モンモランシーはタバサの方を指さした。キュルケは彼女の顔を軽く一瞥すると、それだけでわかるようだった。
「行くってさ」
「………そんなんでわかるもんなの?」
 氷のように冷たい無表情のタバサを見て、モンモランシーがそう尋ねた。恐らくタバサの感情が分かるのは、キュルケ位しかいないであろう。
 その後、タバサの使い魔、風竜のシルフィードに連れられて、一行はトリスタニアの城下町へと向かった。



 トリスタニアのチクトンネ街へとやって来たキュルケ達は、そこでどの店に入ろうかを決めようとしていた。
 トリスタニアには二つの顔があり、ブルドンネ街が表の顔なら、ここチクトンネ街はまさに裏の顔。うっすらと夕暮れに差し掛かる街に、魔法の明かりを灯した街火が彩りを添えていく。それは人々を無意識に楽しませるような、そんな幻想的な美しさを誇っていた。
 既にこの地も行き交う人の波で溢れ、酒場や賭博場では熱気で賑わっている。その中で一行は、一つの店の前で止まった。
 そこは、あのルイズ達が働いている『魅惑の妖精』亭だった。
「一度行ってみたいと思ってたんだ」
 ここを提案したギーシュが、ニヤけた表情を隠そうともせずにそう言った。何でもこの店は、女の子が可愛らしい格好でお酒を運んでくれるのだとか。
 それを聞いたモンモランシー、すかさずギーシュに拳を繰り出す。
「何よ、やっぱりヘンな店じゃないのよ!!」
「へえ、面白そうじゃないの!」
 しかし、キュルケは逆に興味が沸いたようだった。ギーシュとはまた別のニヤニヤした表情を浮かべながら、入ってみましょうよと催促した。
「えぇ…よしましょうよ! 平民に酌させる店なんて…」
モンモランシーは最後まで渋ったが…、どうにも止まらなさそうなので観念したように後をついていく。

 と、ここでぐぅ~…とみっともないような腹の音が一行の間に聞こえてきた。
「誰よ、今の食いしん坊が鳴らしたような腹の音は?」
 キュルケが三人の方を見るが、全員自分じゃないと首を振るばかり。
じゃあ一体誰が…と辺りを見回すと、そこに一人、いや正確には一匹か…に目を向けた。
「…シルフィード、あんた?」
 見れば、タバサの愛竜シルフィードが、これまたキュルケ達にも分かるような、不満そうな目でタバサを睨んでいた。
どうやら自分達だけ美味しいものにありつけるのが許せないらしい。
 タバサは少しの間、シルフィードをじっと見つめると、相変わらずの無表情でキュルケ達に言った。
「…先に行ってて」
「大変ねぇ、あんたも」
 キュルケが苦笑いしながらそう言うと、ギーシュとモンモランシーに先に入るよう促した。
「じゃあ先に料理とか頼んでおくから、早く来なさいよ」
 キュルケは手を振ると、ギーシュ達と同じように店の中へと入っていった。





 さて、一人と一匹取り残されたタバサは、まず人気がなさそうな路地にシルフィードを招き入れた。
 そこで、改めて誰も見ていないか確認したあと、タバサは頷いた。
「化けて」
 シルフィードは渋々といった表情をしたが、やがて目を瞑ると、朗々とした声で呪文を唱えた。
「我をまといし風よ。我の姿を変えよ」
 その瞬間、ゴウッと風がシルフィードの身体を覆い、青い渦となって包み込む。
 渦が消えると、そこには風竜ではなく…タバサと同じく青く長い髪を持つ若い女性が姿を現した。
 『変化』と呼ばれる、メイジとは根本的に違う『先住魔法』の一つだ。
「う~~~、やっぱりこの体嫌い。きゅいきゅい」
 一糸まとわぬ生まれたままの状態で、シルフィードは呻いた。こんなこともあろうかとタバサは、あらかじめ用意してあった服をシルフィードに差し出した。
渋々とだったが、言われるがままにシルフィードは服を着る。
「うぅ…ごわごわするのね」
「それで、何?」
無表情な顔でするタバサの質問に、ここでシルフィードは思いっきりジト目でタバサを睨みつけ、そして叫んだ。

「お、な、か、す、い、た、の、ね!!!」

 何とも流暢な言葉だが、内容そのものは幼稚としか言いようがなかった。
 実を言うとシルフィードは、風竜なんかではなく、言語や魔法を操る特殊な種族『韻竜』だった。
 だが、その秘密を知る者は召喚したタバサ一人のみ。韻竜はハルケギニアにとっても希少種といえる存在であり、もしこれが公言されたら『アカデミー』の研究対象にされてしまうかもしれないからだった。
 実際、それに見合うだけの魅力がシルフィードにはあるわけだが、精神年齢の方は子供のように無邪気なところがあった。

「何なのね、お姉さま一人だけ美味しいものばっか、シルフィだって一緒に食べたいのね!!」
 路地裏から出た後、シルフィードは人目もはばからずにそう叫んだ。
「後で」
「嫌なのね! 口を開けば後で後で!! そうやっていっつもお姉さまはご飯を忘れるのね。だから今言うのね、お腹すいたお腹すいた!!」
 シルフィードはとにかく喚き散らした。今まで溜まっていた鬱憤が爆発しているかのようだった。
 さて、そんな道行く人々の目を引く行動を見て、誰かがタバサ達の前に現れた。
「おろ、タバサ殿?」
 タバサに声をかけたのは、丁度空き時間となって外に出た剣心だった。


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