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世界最強コンビハルケギニアに立つ-幕間



チェルノボーグの監獄。
トリステイン城下でもっとも警備と監視が厳重とされる牢獄の中で、ロングビル――フーケがベッドに寝転がっている。
普段は二つの月が大地を照らしている時間帯であり、牢の中といえど少しは明るい。だが今日は月を雲が覆い隠しているらしく、フーケの周囲は暗い闇に支配されていた。

「まったく、か弱い女一人閉じ込めるのにこの物々しさはどうなのかしらね?」

周囲にあるのは粗末なベッドと木の机、そして木でできた食器のみ。そして壁や鉄格子には魔法障壁が張り巡らされている。
杖はとうの昔に取り上げられているとはいえ、杖があったところでどうにもならないだろうと思わせるほどに堅固な牢の中にフーケは居た。

「はぁ……」

ここに放り込まれてから何度目か、もはや数える気にならないほどに繰り返したため息をもう一度吐き出す。
自分の裁判は来週中にも行われるらしいが、結果は見えている。
国中の貴族の屋敷から宝物を奪い、とことんまでに恥をかかせてきた盗賊に下される判決など良くて島流し、普通に考えれは縛り首といったところだろう。
いずれにしても重い刑だ、執行されればもう二度とハルケギニアの大地を踏むことはないだろう。
しかし、今現在フーケを憂鬱にさせているのは裁判への不安ではない、もっと別なことだ。

「はーあぁ……」

もう一度、今度は先程より大きなため息を吐いたとき、足音が聞こえた。
おそらく牢番ではない、見回りの時間などとうに過ぎているし、そもそも靴音の質が違う。
しかし『一体何者だろう』とは考えない。フーケには心当たりがあるからだ。

「こんな夜更けにお客さんなんて、珍しいわね」

自分の牢の前で立ち止まった影に、やる気のない声をかける。
暗く、顔は見えない。だが背格好はぼんやりと理解することができた。
そこにいるのはおそらく――いや、間違いなく自分の頭痛の種になっている男だ、とフーケは確信する。

「……ずいぶんと早かったじゃないか」
「何、女性を待たせるのは忍びないからね」

楽しそうな男の声。
フーケはその男を知っている。
自分がこんな場所に入ることになった元凶、そう言ってしまって差支えのない男だった。

「あんたにゃ言いたいことが山ほどあるよ」
「賭けの話かな?それに関して文句を言われるのは心外だね、君が自発的に乗ったんじゃないか」

肩をすくめる男に対し、苦虫を噛み潰したかのような表情を向ける。

――よく言う。

少し前のことである、唐突に現れた男はフーケはある『賭け』を持ち掛けた。
『学院から神秘の鎧を盗み出し、追っ手を撃退することができればフーケの勝ち』というもの。
フーケの勝ちならば大金を払うが、もし自分の勝ちならその力を貸してほしい――男はそう言った。
その時点で既にミス・ロングビルとして学院に務めていた自分の事を『土くれ』のフーケと知っていることに彼女は驚いたが、『賭け』に関しては考えるまでもなく断ろうとした。
顔見知りの多い職場で盗みを働くというのはリスクが高いことがまず第一。そして何よりも、男が信用できないというのが第二にして最大の理由であった。
だが、拒否を告げる前に男が発した言葉が、彼女から選択肢を奪う。

『故郷への仕送りも大変だろう?ミス・マチルダ』

フーケは本名をマチルダ・オブ・サウスゴータと言う。
とある事件によって取り潰された、かつてアルビオン王国のサウスゴータ地方を領地に持っていた大貴族。その娘がフーケ――マチルダである。
『土くれ』のフーケとマチルダが同一人物であることを知る者は誰も――アルビオンに暮らす『妹』すらも――いない。彼女は少なくとも今の今までそう思い、信じていた。

――だが目の前にいる男は自分のこと、そしておそらくは『妹』のことも調べ上げ、知っている。

男に対して恐怖に似た感情を抱きながら、フーケは『賭け』を受け入れた。
結果は惨敗、フーケは捕らえられ監獄へと放り込まれることとなった。

「賭けねぇ。どうせこの結果はあんたの予想通りなんだろ?」
「まさか!今回はたまたま私の運が良かっただけさ。まぁ、彼らが出てきた時点で勝ちを確信してはいたがね」

彼ら、とはミス・ヴァリエールの使い魔たちのことだろう。
人間とは思えぬ身のこなしで動き回るボーとかいう筋肉ダルマに、アカツキという男。
どちらもメイジではなく、魔法も使えない平民だという二人。彼らはフーケの目から見ても異常だった。
フーケとて自らの腕には自信がある。これまで多くの平民やメイジを見てきたが、まともに彼女の相手になったものなど誰一人としていない。
だが、彼ら二人は違った。彼女のゴーレムとまともにぶつかり合い、あまつさえ破壊してのけたのだ。
ボーの方はかろうじて何とかなったが、あれは相性によるものだ。仮に彼がゴーレムではなくフーケを狙い攻撃してきた場合、防ぐことはできないだろう。

「……もしかしてあんたは、あの二人を知ってるのかい?」

ふと、疑問が生まれる。
彼ら二人が戦っている姿をフーケが見たのはボーとギーシュの決闘、そして神秘の鎧を盗み出した日に彼らが行っていた訓練の二度だけである。
その時点である程度の強さは認識していたが、少なくともゴーレムを倒せるほどだとは思わなかった。
だが男はそれすら見ていないはずだ。にもかかわらず、二人の参戦によって勝ちを確信したと彼は言う。

「その通り。私は彼らのことも、君たちが『神秘の鎧』と呼ぶモノのことも知っている」

あっさりとした肯定が返ってくる。
やはり彼は二人の強さも、神秘の鎧がどういったものかも知っていた。
だからこそ、あのように奇妙な条件の賭けを持ち掛けてきたのだろう。

「あんたはいったい何者なんだい」

フーケは男がどこから来たのかも、なんという名前なのかも知らない。
どこかの貴族が自分をはめるために送り込んだ刺客だろうかと考えたこともあるが、おそらくそれはないだろう。
貴族というのは大なり小なり汚い仕事を請け負う輩を抱え込んでいる、しかし目の前にいる男がまとっている空気はそんな輩とは別物である。
もちろん貴族のそれでもない。強いて言うならば、アカツキによく似た空気であった。

「私かね?ただの戦争屋さ」

言いながら男は鍵を取り出し、錠前へと差し込んだ。
カチャリ、という音とともに鍵が開く。

「その戦争屋さんが、わたしの力を借りて何しようってんだい」
「世界征服」

即答。
微塵の躊躇もなく発された言葉は、フーケを激しく混乱させた。

「ハルケギニアを統一し、エルフとやらが居座る『聖地』を奪還する。お題目はそんなところだね」

楽しそうに男が笑う。まるで、その表情を見たかったと言わんばかりに。

――この男は正気なのか?

一体どんな感情を男に向ければいいのかわからないまま、フーケは考える。
男が語ったのは、途方もない夢物語だ。おとぎ話として語っても馬鹿にされる、そういう次元の荒唐無稽な話だ。
トリステイン王国、帝政ゲルマニア、故郷のアルビオン王国、そしてガリア王国……。
ハルケギニアを統一するということは、それら大国をすべて飲み込むということだ。
もしかしたら男はどこかの国に属しているのかもしれない。だが、それでも状況は何も変わらない。
何しろハルケギニアは始祖ブリミルの時代以降、一度として一つにまとまったことなどないのだから。
そして『聖地』だ。こちらも無茶苦茶な話である。
はるか東に離れた地に住まっていたエルフに『聖地』が奪われてから幾百年、あまたの国が奪還のための兵を送ってきた。
しかしその結果は、すべて無残な敗北。
強力な魔法使いであり戦士でもあるエルフたちには、同規模の軍勢では絶対に勝てない――それがハルケギニアの王たちがこの幾百年間で学んできた『教訓』だ。

「わたしはハルケギニアの統一なんかにゃ興味がないわ。
 それに『聖地』だってエルフどもがあそこに居たいって言うなら、好きにさせればいいじゃないか」

もっともな意見だ、と頷く男の顔には相変わらず笑みが張り付いている。
腹黒い、悪人の笑みが。

「それでも、君は私に力を貸してくれる」

牢の扉が開き、杖が差し出される。それは間違いなく、捕らえられた時に奪われたフーケの杖であった。

「違うかな?ミス・マチルダ」

選択肢などありはしない。

「……私のことは、フーケって呼びな」

男に『マチルダ・オブ・サウスゴータ』と呼ばれるのは嫌だった。
その感情の大本が男に対する嫌悪なのか、今の自分に対する嫌悪なのか。それはフーケにもわからない。

――少なくとも、目の前にいる男に手を貸している間は『土くれのフーケ』でいよう。

そんなことを考えながらフーケはゆっくりと立ち上がり、差し出された杖へと手を伸ばした。

「それで、あんたは何て名前なんだい」

出会った時男は名を名乗らなかったし、フーケも彼の名を知りたいとは思わなかった。
この男が早くおさらばしたい手合いだというのは今でも変わらない。
しかしこれから不本意とはいえ手を貸すことになったのだ、名を知らないままというわけにもいかないだろう。

「私はラリー、ラリー・マーカスンだ。これからよろしく頼むよ、ミス・フーケ」

胡散臭い笑顔。
この悪人によって導かれた先に待っているのは自由か、さらなる牢獄か。
図らずも他人の手にゆだねることになってしまった自身の運命に不安を覚えながら、フーケは『ラリー・マーカスン』という名を心に刻み込んだ。





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