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第四十二話「シャルロットひとり旅」


ウルトラマンゼロの使い魔
第四十二話「シャルロットひとり旅」
古代怪獣ダンガー
古代怪獣キングザウルス三世
怪奇植物スフラン
見習い怪獣ファルマガン 登場



「ねえタバサ、聞いた? トリスタニアでまた、ウルトラマンゼロが怪獣を退治したんだって。
相変わらず、大活躍よね」
 夏季休暇中のトリステイン魔法学院、その女子寮のタバサの部屋。休暇中も学院に留まっている
タバサにつき合っているキュルケが、都から届いた噂話を持ち掛けた。
「今度の怪獣は、何か緑色のぶよぶよした奴だったんだって。それなら、ゼロの勝ちはむしろ当然ってところよね。
彼、あんなに強いんだもの。あたしたち、それをよく見たじゃない」
 しゃべっているのはキュルケばかりで、タバサは本に目を落としたまま、ひと言も返事しない。
しかし、キュルケはお構いなしだ。タバサが無口なのは、今に始まったことではない。
「トリスタニアの人々は、ゼロたちをすっかり崇拝してるみたいね。始祖ブリミルが遣えし守り神だって。
でも、本当のところはどうなのかしら? ゼロたちに、その敵の怪獣、ウチュウ人はどこから来たものなのかしらね。
何だかんだで、あたしたち、彼らのことを何も知らないわ」
 ふと、ゼロたちの出自を気に掛けるキュルケ。ルイズ以外のハルケギニア人は、ゼロたちが
別の宇宙からの来訪者であることなど、少しも知りはしないのだ。
 ここでキュルケは、あることを思い出して、タバサに問いかけた。
「そういえばタバサ、あなた、ウルトラマンゼロが初めてあたしたちの前に現れた時、あんまり
驚いてなかったわよね。いえ、驚いてはいたようだけど、あたしたちのとは何と言うか、
質が違ったような。それはどうして?」
 ハルケギニアでのゼロの最初の戦い、即ちゴメス、ベムラー、アーストロンが学院を襲った時のこと。
あの時は自分も色々と頭がこんがらがっていたから気づかなかったが、思い返すと、キュルケと
シルフィードの上に跨っていたタバサは、ゼロを見て奇妙な反応を示したようだった。いつも無表情な
タバサだが、親友のキュルケには分かる。
 あれは、常識からかけ離れた存在を初めて見た驚きの顔ではない。それに、どういう訳か、
懐かしみを感じているようでもあった。
 そのことを指摘したら、タバサのページをめくる指が、ピクリと固まった。そして告白する。
「……わたしは、以前にウルトラマンを、見たことがある」
「嘘ッ!?」
 衝撃的な内容に、さしものキュルケも口をあんぐり開いた。それはつまり、あの事件以前に、
ウルトラマンが既にハルケギニアにやってきていたということか?
「ゼロが現れたのって、あれが最初じゃなかったの?」
「違う。ゼロとは違うウルトラマン。姿が大きく異なるから。けれど、おおまかな特徴――特に、
胸部の発光体が酷似している。だから、あれはウルトラマンのはず」
「ゼロ以外にも、ウルトラマンっているの……? いえ、それは一旦置いといて」
 疑問の一つを脇にそらしたキュルケは、タバサにずばり聞く。
「それは、一体どこでのこと? ウルトラマンが前にも出現したなんて話、あたしの耳に
入らないはずがないわ。タバサ、詳しく教えてもらってもいい?」
「……」
 一瞬、話してもいいものかと考え込むタバサ。その話は重大な秘密である、彼女のルーツの中の
出来事なのだ。だから、満足の行く説明をするなら、その秘密を語らなければならない。
 しかし、キュルケは既に自分の秘密と、正体を知っている。ならば、話してもいいだろう。
そう判断して、キュルケに語った。三年前まで時間をさかのぼる、彼女とウルトラマンの出会いの物語を……。

 いきなり重大な事実を説明するが、タバサはただのメイジではない。ハルケギニア随一の
魔法大国であるガリア王国の王族、現在のガリア王ジョゼフの姪なのだ。本名はシャルロット・エレーヌ・オルレアン。
ジョゼフの弟であったオルレアン公シャルルを父に持ち、かつては彼と母との三人、大勢の家臣たちとともに幸せな日々を送っていた。
 しかしその幸せは、三年前の先王の崩御とともに終わりを迎えた。後継者は、先王の遺言により
ジョゼフが選ばれたのだが、戴冠式に先立っての狩猟会で、シャルルは暗殺。そして優しかった母も、
ジョゼフの仕掛けた罠からシャルロットを守るために魔法の毒薬をあおって、狂人となってしまった。
更にシャルルに反逆者の濡れ衣が着せられ、オルレアン公家は断絶。シャルロットは瞬く間に、
家族と帰る場所を奪われてしまった。
 更に受難は続く。従姉であり、ジョゼフの戴冠でガリア王女となったイザベラに、当時十二歳という、
若い以前に子供のシャルロットに『ファンガスの森』に巣食う怪物の退治が命ぜられたのだ。
 メイジではあっても、戦いの経験などあるはずがないシャルロットにそんなことが出来るはずがない。
退治の名を借りた処刑だ。しかし、シャルロットに拒否は出来なかった。拒めば、身を挺して自分を救った母が、
本当に殺されてしまうからだ。
 こうして、「タバサ」になる前の無垢な少女は、強制的に処刑場の森へ赴くこととなったのだった。

「ひッ、いッ……!」
 そうしてシャルロットは、『ファンガスの森』で、首が二つもある巨大オオカミの怪物に
追い詰められていた。父の形見の杖を握り締めて、怪物に攻撃しようと考えるも、怪物の上げる
圧倒的な咆哮に気力を根こそぎ奪われ、恐怖にすくんでしまう。今のシャルロットに、
恐怖に立ち向かう勇気は存在しない。そして恐怖に支配された心では、呪文を唱えることも出来なかった。
「グルルルル……!」
 怪物はナイフほどの大きさの牙を剥き出しにして、自分に食らいつこうとしている。後一分もしない内に、
自分は肉を切り裂かれて命を落とすことになるだろう。シャルロットは死を悟った。
「キャンキャンキャンッ!」
 しかし意外にも、そうはならなかった。怪物は突然目線を上にやったかと思ったら、子犬のような
悲鳴を上げてあっという間に森の闇の中に飛び込んでいったからだ。
「え……? 助かった……?」
 一瞬そう考えたが、すぐに間違いだと知ることとなる。背後から途轍もない威圧感を覚えて、
振り返ると、信じられないものがそこにそびえ立っていた。
「キャアキィ!」
「!? きゃあああああああああッ!?」
 自身の後方には、頭の位置が50メイルにも達しようという、一本牙と左右の手に一本きりの鉤爪、
首の周囲にはタテガミのように連なった複数のコブを生やした大怪物が存在していたのだ。
これと比べれば、先ほどのオオカミの怪物など、まさに子犬に等しい。あの大怪物を視界に入れて、
脅えて逃げていったに違いない。
「キイイィ!」
 そして気がつけば、反対方向からは、四つ足で魚のエラのような背ビレと、頭部には長く曲がった
見事な二本角を生やした竜が出現していた。こちらも、先の大怪物と同等の巨体だ。シャルロットの知る生物とは、
身体のサイズがかけ離れすぎている。こんな生物が地上に存在したとは。
 シャルロットの知る由のないことだが、これらの大怪物――怪獣は、どちらもウルトラマンジャックが
交戦した種である。前者はダンガー、後者はキングザウルス三世。異名は両方とも古代怪獣だ。
「キャアキィ! キャアキィ!」
「キイイィ! キイイィ!」
 ダンガーとキングザウルス三世はお互いの存在を認めると、即座に血の気に駆られて、
戦いを始めようと森の木々を押し潰しつつ接近し合う。その間には、シャルロットの姿。
「あ、あああ……!」
 このままでは、怪獣たちの足の裏の下敷きになってしまう。そうなったら死は免れない。
それは分かっていたが、シャルロットはすっかり腰を抜かしてしまい、一歩も動けそうになかった。
 一度は助かったように思ったが、やはり自分はここで死ぬ運命だったのか。既に生存の道を諦め、
シャルロットは固く目をつむった。どうせ、このまま生きていても仕方がないのだ。こんな大怪物たちの
いる森で、怪物退治など出来ようものか。ならばいっそ、このまま死んだ方が――。
「危ない!」
 すっかり諦め切ったシャルロットの身体を、突然何者かが抱え上げ、怪獣たちの進路から離れた。
「キャアキィ!」
 その一瞬後に、シャルロットのいた場所にダンガーの足が振り下ろされ、地面を陥没させた。
「え……!? な、何……!?」
 急な展開に動揺を隠せないシャルロット。自分を助けた者の顔を確かめようとするが、
何故か木肌や葉っぱばかりが見えるだけで、そこにあるはずの顔がよく見えない。
 もっとはっきり確かめようとするのだが、すぐにそんな余裕はなくなった。周囲の木々から
肉厚の葉が伸びてきて、助けた者ごとシャルロットを締めつけたのだ。スフランという吸血植物である。
「きゃあッ!!」
「危ない! 危険! 助けて!」
 助けた者も捕まり、必死にわめいて助けを求めた。するとそれに応じたかのように、どこからか
矢が飛んできて、スフランに突き刺さった。その矢には、先端に火薬束が括りつけられており、
すぐに爆発してスフランを引き裂いた。
「ひッ……!」
 間近で火薬が炸裂したショックで、先ほどから精神をすり減らしていたシャルロットは意識の糸が切れ、
カクンと首が垂れて失神した。
 シャルロットが気絶してから、彼女を助けた者に、矢を放った者が走り寄る。
「全く、気をつけなよ。この辺は人食い植物が生えてるって注意したじゃないか。――その子は?」
「あ、う……」
「いや、説明は後でしてもらうよ。今はここから離れよう。怪物たちの喧嘩に巻き込まれて
圧死なんてごめんだよ」
 爆弾矢の射手は、シャルロットを抱える者を連れて、足早に怪獣たちから離れていった。
「キャアキィ! キャアキィ!」
「キイイィ!」
 怪獣たちの方は、互いに距離を詰めて、とうとう戦闘を開始した。ダンガーとキングザウルス三世の
二大怪獣が正面衝突する――。
「キャアキィ!?」
 と、思いきや、ダンガーの方が一方的に弾かれた。見ると、キングザウルス三世は首を
ユラユラうごめかしつつ二本の角からバリヤーを張っていた。それがダンガーを押し返したのだ。
「キイイィ! キイイィ!」
「キャアキィ!」
 ダンガーはどうにかバリヤーを突破しようとするが、触れるだけでダメージを食らい、
破ることは叶わなかった。ダンガーは肉弾戦のみが武器の怪獣。丸で勝ち目がなかった。
「キイイィ!」
 ダンガーの動きが鈍ったところで、キングザウルス三世は突進。その膝に鋭い角を突き刺した。
「キャアキィ!!」
「キイイィ!」
 甲高い悲鳴を上げて苦しむダンガーに、とどめの熱線を口から放射する。その一撃でダンガーは
バッタリ倒れ、粉々に吹っ飛んだ。
 古代怪獣対決は、キングザウルス三世の完勝で幕を閉じた。
「キイイィ! キイイィ!」
 キングザウルス三世は雄叫びを上げると、ダンガーを倒したことで満足したのか、悠然と
木々を踏み潰しながら『ファンガスの森』の奥地へと立ち去っていった。

「……う、ん……?」
 シャルロットが目を開けると、土壁が一番に目に入った。ゆっくり辺りを見回すと、どうやら
洞窟の中らしいことが分かった。藁を敷き詰めた寝床に、鍋や釜の調理器具。そして立てかけられた弓と、
人間が生活している様子である。
「わたし、どうなって……」
「だ、大丈夫?」
 シャルロットが失神前の記憶をたぐり寄せていると、彼女の視界いっぱいに、怪物の顔が映り込んだ。
全体的な輪郭は人間だが、それは木の幹や葉っぱ、空き瓶や折れた杖などのゴミで出来上がっているのだ。
「いやああああああああああッ!?」
 突然目に飛び込んだ怪物の顔に、シャルロットは思い切り悲鳴を上げて、自身の杖で怪物の頭を
ポカポカ殴り出した。
「いやッ! 来ないで! わたし、美味しくないんだから!」
「い、痛い! 痛い! やめて!」
 タコ殴りにされる怪物は反撃も抵抗もせず、こちらも悲鳴を上げた。すると、シャルロットに
制止の声が掛けられる。振り返ると、野性的な魅力のある若い女が苦笑を浮かべていた。
「やめてあげな。そいつは確かに人間じゃないけど、悪い奴じゃないよ。むしろあんたを助けたんだ。
見たところ貴族のようだけど、それならお礼のひと言でも言うべきなんじゃない?」
「えッ?」
 はたと手を止めたシャルロットは、気絶する寸前のことをよく思い出した。確かに、自分は誰かに
助けられたのだ。あの時は顔がよく見えないと思ったが……あの時見えた木肌が、この怪物の顔だったのだろう。
「ご、ごめんなさい。わたし、気が動転してて……」
「大丈夫……」
 落ち着いたシャルロットは頭を下げて謝罪した。怪物は頭をさすったが、怒ってはいないようだった。
「あたしはジル。この『ファンガスの森』で狩りをしてる者さ」
 シャルロットが落ち着いたところで、女が名乗った。それから、怪物にも促す。
「ほら、あんたも、自己紹介」
「ファ……ファルマガン……」
 木とゴミで出来た怪物は、そう名乗った。言葉を上手くしゃべれないのか、かなりたどたどしい口調だ。
「わたしはシャルロットです……」
 シャルロットも名乗ると、早速ジルが質問をしてきた。
「シャルロット。あんたどうして、この森をほっつき歩いていたんだい? あんただって、
この『ファンガスの森』が、どうなっているんだか知っているんだろう?」
 シャルロットは回答に困る。自分の身の上を話しても、信じてもらえるとも思えない。
「武者修行……」
 ぽつりと嘘を吐くと、ジルはシャルロットを驚老いたように見つめ、それから大笑いした。
「あーっはっはっは! 武者修行だって? おっかしー! あんた、何考えてんのさ! 
この『ファンガスの森』はいまやバケモノの巣なんだよ? 立ち入り禁止の札だって立っているだろうに! 
あんたみたいな子供が武者修行するにゃ、ちょっと荷が勝ちすぎるんじゃないの?」
 ジルの言う通り。『ファンガスの森』にはかつて、魔法生物や「合成獣(キメラ)」を研究する塔があった。
しかし三年ほど前に、作っていた怪物たちが脱走し塔は壊滅。以来森は人を全く寄せつけない、怪物の世界に
なってしまったのだ。
「悪いことは言わないよ。帰りな。この森には、キメラだけじゃない。さっき見たような、
超巨大な怪物も闊歩してるんだ」
「あの巨大怪物は、何でしょうか……? キメラとは、また違うみたいでしたけれど」
「さぁてね、分かんない。塔の跡地で研究ノートを拾ったんだけど、正直眉唾な内容だったよ……。
まぁでも、巨大怪物はまだいいさ。足元の人間には目もくれないし、互いに殺し合って勝手に数を減らす。
昔は何匹もいたんだけど、今となっちゃたった三匹……いや、さっき一匹死んだから、とうとう
二匹だけになったね。それより危険なのが、“キメラドラゴン”って奴だよ」
 キメラドラゴン、その名前をシャルロットは知っている。『ファンガスの森』のキメラの中で
最強最悪な個体で、シャルロットはそれの討伐を言いつけられたのだ。
「ただでさえ強力な火竜に、なんだか知らんが別の生き物を組み合わせて、さらに強力に
したっていうんだから……。そんな奴に出くわしたら、どうしようもない」
 ジルの言葉で、シャルロットは絶望に包まれる。キメラドラゴンなんか、自分に倒せる訳がない。
この任務は遠回しの処刑だ。どうせ死ぬのなら、先ほど死ぬべきだったのではないか。
 そう思い、シャルロットはジルに頼む。
「あの……、お願いです。わたしを、殺してください」
 ジルは静かに、それまで黙っていたファルマガンは驚いて、シャルロットを見つめた。
「何を考えてるんだい? あんた」
「何も……、というか、もう、何も考えたくない。全部、つらいことばっかり。生きていたくない」
 と言うと、ファルマガンが急に、声を荒げて割り込んだ。
「死ぬ、ダメ」
「え……?」
「死ぬ、いけない。つらいことばっかり、違う。生きる、楽しい、ある。きっと、ある」
 たどたどしい口調だが、熱心に説得するファルマガン。しかしシャルロットは、心を動かさない。
「ほっといてよ。わたしのこと、何も知らないくせに。わたしの人生には、もう楽しいことなんて、
ないもの……。ジルさん、お願いです」
 改めてジルに頼むが、ジルは首を横に振った。
「やなこった。人殺しなんかごめんだし、何よりファルマガンが反対してる。こいつはあたしの同居人なんだ。
ファルマガンが嫌と言うなら、あたしも引き受けないよ」
「そんな……!」
「どうしても死にたいって言うのなら、あんたの事情を話してごらんよ。今度はさっきみたいに、
はぐらかさないで。腹を割って話しなよ」
 というジルの要求。てこでも動きそうにない彼女らの様子に、シャルロットは観念して、
自分の素性を打ち明けた。父が殺されたこと、母が心を奪われたこと。母を助ける代わりにと、
キメラドラゴンの討伐を命じられたこと。
「……という訳です。でも、ドラゴンに敵うわけなんかない。でも、あの人たちの思い通りの死に方で
死ぬなんてまっぴら。だから、殺してほしいんです」
 そう説明すると、ファルマガンがまたも口を挟んだ。
「敵うわけなんかない、違う」
「……え?」
「練習。シャルロット、戦う、練習。練習、超える。自分、超える。キメラドラゴン、超える」
 訴えかけるファルマガンは、一拍間を置いて、告げた。
「お母さん、助ける」
 シャルロットは、一瞬、呆然とした。それから、ジルも言う。
「ファルマガンの言う通りだよ。やる前から諦めるなんて、あんた、甘えてるよ。親を殺されて
悔しくないの? 母さんを助けたくないのかい? ここで頑張って、キメラドラゴンを
倒せるようになるのさ」
「そ、そんなこと、出来っこない! 戦いなんてしたことないもん!」
 頑なに首を振るシャルロットに、ジルは言い聞かせる。
「いいや、出来るさ。あんたの事情は、あたしに似てる。平民のあたしが戦えるようになったんだから、
メイジのあんたなら簡単だよ」
「え? 似てるって……?」
「あたしも、家族を殺されたのさ。この森のキメラに、食い殺されて。あたしはそれが納得できない。
キメラどもを全滅させなきゃ、気が収まらないんだ。だからあたしはこの森で戦う練習をして、
キメラを狩ってる。最初はてんでダメだったけど、今じゃ結構やるようになったもんだよ」
 と言って、シャルロットの目を覗き込んだ。
「あんたには、あたしの弓よりも強力な武器がある。その杖だよ。あんたなら、きっと、
いや、絶対出来る。……どう? 何もかも諦めるくらいなら、その可能性に賭けるのも、
悪い話じゃないんじゃない?」
 まっすぐな、力強いジルの瞳を見つめて、シャルロットも遂に心が動いた。杖を握り締め、頷く。
「そうこなくっちゃ」
 ジルがほっと安堵するが、それ以上にファルマガンが安心していた。
「シャルロット、練習、する。よかった。ファルマガンも、練習」
 と言いながら、折れたジルの矢をたぐり寄せ、切り株のテーブルの上に乗せると、それに手をかざした。
「……ファルマガンは何をやってるの?」
「いいから見てな。ファルマガンも練習してるんだよ」
 シャルロットが見ている先で、ファルマガンの手の平から、光が発せられた。その光が矢に当たると、
折れた矢はみるみる内にくっついていく。
「! すご……い?」
 途中で疑問形になるシャルロット。何故なら、矢はまっすぐにくっつかなかったからだ。
くの字に修復されている。これでは使い物になるまい。
「……失敗」
 ファルマガンは矢をまた折り、修復をやり直す。が、次も上手く行かず、四苦八苦している。
 ファルマガンが試行錯誤している間に、ジルが彼のことをシャルロットに教えた。
「ファルマガンも、塔で生み出された怪物の一匹だよ。あたしも、最初に出くわした時は
かなりビビッたものさ。けれど、あいつは他の化け物と違って、優しい性格をしてる。
だから同居してる訳。能力も、物や傷を再生するっていうものさ。見ての通り、下手くそだけどね。
さしずめ、見習いの怪物だよ、あいつは」
 どうにも上手く行かずに頭をかくファルマガンの姿に苦笑するジル。
「でも、あれでも最初の頃よりかは上手くなったもんだよ。自然物だったら、問題なく直せるようになったしね。
出会った頃は、言葉だってあーとかうーとかしかしゃべれなかったんだよ」
「そうなんだ……」
「まだまだつたないけど、練習を重ねて、上手になった。あたしもそうさ。シャルロット、
あんたもそうなるよ」
 ジルの言葉と、諦めないファルマガンの姿勢に、シャルロットの心に元気が湧いてきた。
自分も頑張れば、絶対無理と思っていたキメラドラゴン討伐が出来るかも! そう思えるようになっていた。
 しかし見ている先で、ファルマガンは頭から煙を噴き上げ、とうとう後ろにバタンッ! 
と倒れてしまった。
「あぁッ!? ファルマガン!」
「あ~あ……いいところを見せようと、張り切りすぎだよ」
 倒れたファルマガンを介抱する二人。と、シャルロットはファルマガンの身体の間から、
赤い何かが転がり出たのを目にした。
「これ、何?」
 それは手の平で包み込めるサイズの、赤い球であった。放射状に歪なトゲが生えているので、
実際に包み込んだら痛そうだが。
 それを掴もうとしたら、ファルマガンは無理をしてでも起き上がり、シャルロットより早く赤い球を取った。
「きゃッ!?」
「触る、ダメ!」
 ファルマガンは素早く、球をまた身体の合間に押し込んで隠した。
「これ、危ない。触る、ダメ。シャルロット、壊れる」
「え? どういうこと?」
 訳が分からず目を白黒させるシャルロットに、ジルが説明を入れる。
「そいつは、塔の跡からファルマガンが見つけたものさ。研究ノートに、それのことが書いてあるよ。
読んでみるかい?」
 羊皮紙の束を引っ張り出して、シャルロットに手渡す。シャルロットはその内容にざっと目を通した。
大体、こんなことが書いてあった。
『森の中に転がっていた赤い球は、人の思い描くような生物を召喚する、不思議な力があることが判明した。
我々はその効果で、何匹もの常識を凌駕する生物を召喚することに成功した。これがあれば、キメラの研究が
格段に進む。明日は、もっと凄い生物を多数召喚する実験を行う』
 その明日からの記録が存在しなかった。これを見る限り、その実験に失敗して、塔は壊滅したようだ。
「あたしは、そいつを書いた奴の妄想だと思うけどね。ファルマガンは真に受けて、球を誰にも
触らせないようにしてるのさ。まぁ、万一本当だったとして、自分から化け物を増やすこともないから、
あたしは触ろうと思わないけどね」
 ノートの真偽はともかく、シャルロットもわざわざ赤い球をファルマガンから取り上げようとも考えなかった。
「ともかく、これからしばらくよろしくね、シャルロット。絶対に、キメラドラゴンをぶっ倒して、
あんたのお母さんを助けてやろうじゃないか」
「シャルロット、頑張る。ファルマガンも、頑張る」
「……うん!」
 ジルとファルマガンの二人から温かく迎え入れられて、シャルロットは思わず微笑んで頷いた。
その笑顔は、先王の死去以来、久しく彼女から失われていたものだった。


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