あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

ハルケギニアの鬼が島-1

 今年もトリステイン魔法学院の入学式は無事に終了した。途中、学院長のオールド・オスマン氏が派手なパフォーマンスを行おうとして失敗して大怪我を負って、式の行われていたアルヴィーズの食堂は一時騒然としたが、毎年の事なので教師が手早く介抱し、事無きを得た。その後、教師の説明で新入生はソーン、イル、シゲル、とそれぞれ伝説の聖者の名が振られた三つのクラスへと分けられた。自分達のクラスへ向かう途中、ある生徒は隣り合って初めて知り合った者と、またある生徒は以前からの知り合いと、それぞれがこれからの学院生活への展望や夢を語り合っていた。皆の顔は晴れやかで初々しく、生気がみなぎる様子に傍から見守る教師達の表情も柔らかい。

 新一年生を迎えたイルのクラス。そこでは担当の教師が声を張り上げ、生徒達に学院心得を説明しているのだが、何故か皆の反応が薄い。それを奇妙に思った教師は、教壇から訝しげに生徒達の席を見渡すと、ある一角だけが空洞となっていた。そして周りの生徒達はそこに目をやり、ひそひそと話し合っているではないか。何事かとその一角を見ると、教師は「成程」と納得した。服装の統一された一年生ばかりいるこの教室内で、彼女の格好、特にマントの色がおかしい事に気付いたのだろう。さらに彼女のやたら険しい表情で黙りこくる様子に、先程まで脳が天気だった生徒達は、そんな空気の違いに戸惑っているのだ。教師は嘆息すると、この雰囲気の原因となっている、自身も『一年前』からよく見知っているその生徒に声を掛けた。

「あー、ミス。ミス・ヴァリエール。新しいマントは支給されたはずでしょう。一年の始めから団体生活の環を乱すのは感心できない。着替えてきたまえ」

 教師に注意された生徒は、陰鬱な表情で「はい」と答えると、素早く立ち上がり退出した。途端ざわめきだす教室に、教師はうんざりとした表情で教卓を叩いた。その音に一旦は静寂を取り戻したものの、落ち着きの無い貴族の子弟らはまだひそひそと話を続けている。再び教師は嘆息し、彼女――ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールの事を生徒らに説明した。

「彼女のマントの色が違っていたのは留年した生徒だからです。本人はその事をいたく気にしている様なので、決してからかったり、変に同情したりしない事。以上。それでは講義の説明に移ります。まずは――」

 自室へと歩を進めるに従い、段々と教室の喧騒が遠ざかっていく事に、ルイズは疲れた表情で項垂れた。彼女にとって周りは知らない顔ばかり。先程は怪訝な表情をしていた彼らだが、きっと一ヶ月もしないうちに、それは侮蔑と嘲笑に変わるだろう。何故ならルイズは、貴族が貴族足りえる証の魔法を使えない『ゼロ』だから。誰でも成功させるはずの「サモン・サーヴァント」にさえ失敗し、二年への進級を取り下げられた『ゼロのルイズ』だから。その事実に、暗かった彼女の顔はさらにどんよりと曇り、足取りは重くなるのだった。
 ルイズは部屋に戻ると内側から鍵を閉め、ベッドへと身を投げてうつ伏せになった。去年からの一年間、ずっと使ってきた柔らかい高級羽毛枕に顔を埋め、肩を震わせて嗚咽を漏らす。暫くそうしていた彼女だが、段々とそれにも飽きたのか、今度は起き上がって枕を両手に持ち、ベッドにばしばしと叩きつけ始めた。枕に八つ当たりするその姿は滑稽だったが、誰も見ているものはいない為、遠慮など無い。彼女は悔しげに歯を食いしばり、目には涙を浮かべて叫んだ。

「このっ、このっ! 何で私がっ! 誇り高き公爵家のっ、この私がこんな目にぃっ!!」

 ルイズは泣き叫びながら、先日の出来事を思い返していた。ニ週間前、二年生に進級する際に行われる、春の使い魔召喚儀式において、ルイズ・ド・ラ・ヴァリエールは通算百二十九回目の挑戦を行っていた。既に空は朱に染まり、傍にいるのは担当のジャン・コルベール師のみである。彼は既に召喚を終えて、ルイズを嘲笑しながら去る生徒達を見送り、熱心に呪文を唱える彼女を見守り続けていた。しかし、いい加減に儀式の終了を学院に伝えなければならない。彼の報告が終わって初めて、生徒らが二年生に上がることが出来るのだ。たった一人の為にこれ以上の時間を割く事は出来ない。夕焼けに染まるルイズの横顔を見たコルベールは、苦渋の表情で彼女に告げる。今回はもう諦めたまえ。機会はこれだけでは無い、と。

「まだです! きっと成功します! だから、だからもう少しだけ待ってください!」

 涙を流しながら、必死に訴える彼女の表情に、コルベールも良心が痛んだのか、最後の機会を与える事にした。次の一回で使い魔を召喚する事、結果の如何を問わず、それで儀式を終了する事を宣言し、彼は静かに一歩下がる。師の厳しい返答に、ルイズは鼻をすすって目をこすり、両手で頬を張って気合を入れた。次が最後。次で決める。硬く決心した彼女は、大きく深呼吸し目を瞑ると、片手に持った杖に精神を集中させた。そして高らかに呪文を唱える。

「宇宙の果てのどこかにいる私の僕よ! 神聖で美しく、そして強力な使い魔よ!!  私は心より求め、訴えるわ! 我が導きに、答えなさいっっ!!」 」

 広場に響き渡る巨大な爆音。それと共に濛々と広がる大量の『霧』に、ルイズとコルベールの二人は咳き込んだ。続いて轟々と唸りを上げる爆心地に、ルイズははっと目を向けて歓喜した。手応えありだ。間違いなく成功した。召喚を確信したルイズは『霧』が晴れるのを待つ。後ろにいたコルベールは目を丸くしてその様子を見守っている。やがて『霧』は渦を巻き始めて、やがて大きな風を起こして破裂した。その『霧』を含んだ風はやたらに酒臭く、二人は疑問に思ったが、そんな事はどうでもいいと、すぐに意識を爆心地へと向ける。使い魔を確認しなくてはならない。そして目を向けたその中心には――何も無かった。

「は?」
「おや?」

 やたらと派手な現象を起こしたにも関わらず、結局そこには何もいなかった。つまり、召喚は失敗したのだ。呆然として膝をつくルイズに、頭を抱えて天を仰ぐコルベール。そして長い時間、痛い沈黙が辺りを支配した。暫くするとコルベールはルイズへと向き直り、近づいた。その足音にびくりと肩を震わせたルイズは、ゆっくりと彼のいる方向へ振り返る。既にお互いから五歩程度の距離しか離れていなかった。二人は目を合わせる。懇願の意を視線に含める彼女に向かって、彼は目を閉じて首を横に振る。春の使い魔召喚儀式は、これをもって終了したのだ。たった一人の落伍者を出して。

 回想から戻ったルイズは、ベッドから立ち上がり窓を開けた。既に時刻は夕方となっていた。思いのほか長い間、思索に耽っていたらしい。これはいけないと頭を振って気を取り直すと、ルイズは自分に言い聞かせる。公爵家の娘はへこたれない、こんな逆境など屁でもない。既に空には一番星が見える。その星の向こうに、遠くはなれたラ・ヴァリエール公爵領で静養している優しい姉の姿を垣間見たルイズは、拳をぐっと握って誓いを立てる。サモン・サーヴァントは来年の今頃になってしまうが、次こそは絶対に成功してみせると。公爵家の名にこれ以上泥を塗るわけにはいかないのだ。そう硬く心に決めたルイズは、キラキラとした瞳で再び一番星を見上げる。すると今度は優しい姉の横に、自分をいじめる恐ろしい姉の姿も見えてしまい、やる気が一気に萎えた。まだ連絡は無いけれど、留年した事は実家からかなりお叱りを受けるに違いない。げんなりとしたルイズは、溜息をついてこれからの生活を思い、憂鬱になった。

 ベッドに戻って、夕食もとらずに早めの床に着いたルイズは、耳をつく喧騒に顔を顰めて起き上がった。アルヴィーズの食堂から聞こえてくる音だ。彼女が夕食にいかなかったのは空腹ではないからとか、二年にあがった元同級生と顔を合わせるのが嫌だから、という理由ではない。ここ最近、やたらと頻繁に開かれるパーティに嫌気が差していたのだ。
 最初は使い魔召喚に失敗した夜、ルイズを励まそうと怨敵キュルケが残念パーティを主催した。大きなお世話だ、と思いつつも、悪友の心遣いに感謝してグラスを傾けていたルイズだが、時間が経つにつれ場の雰囲気が怪しくなってきた。最初は一クラスだけの立食パーティだったはずが、何故か学年全体、次第に教師も含めた学院全体の大規模なものへと変貌していたのだ。流石に不審に思ったルイズは、キュルケの姿を探し出し、問い詰めた。

「ちょっと、キュルケ……何だってこんなにも人がいるのよ?」
「えぇ~? あんだって~?」

 酷く泥酔した悪友のその様子に、唖然としたルイズ。彼女は果たしてこんなにも酒に弱かったか?そう思い周囲を見渡して、さらにルイズは驚いた。かなり強い酒のボトルが十数本空となっていたのだ。そしてキュルケの隣には、ルイズの知らない青髪の小柄な少女のみ。そして彼女もまた目が座っている事から、相当な量を飲んでいることが伺える。つまり、たったの二人でこれだけの量を飲んだという事か? あっけを取られたルイズを無視して、キュルケ達は千鳥足でその場を去っていった。確かにパーティの初めに、やたらと多く用意された酒があったがこんな事になっていようとは。
 嫌な予感がして、他の人間を見ると、やはり皆泥酔している。酔っ払った貴族の子弟達は、大声で笑いあい、殴り合い、時には泣いて絡み酒。とんでもない大騒ぎだ。最早これは貴族の開くパーティなどではない。下々の平民が酒場などで行う『宴会』だった。主賓のはずのルイズは既に忘れ去られ、酒を飲むことに執心する彼らに、ルイズは呆れて部屋に戻った。もう付き合ってはいられない。

 そしてその三日後である。ちょっと前にパーティを行ったばかりだというのにまたパーティが開かれるというのだ。それは、やはり以前と同じく酒にまみれた凄まじいもの。開催の名目を聞いてみると三年生と二年生の進級パーティだそうだ。実に阿呆らしい。全く関係の無いルイズはその場を離れると、部屋に帰って不貞寝した。さらにその三日後、夕食のために食堂を訪れたルイズは、扉の向こうの喧騒に驚いた。案の定、中では既にその週で三度目のパーティが開かれていた。流石にこれはおかしいと思ったルイズは、忙しく走り回っていたメイドの一人を捕まえて問いかける。これは何の騒ぎか、と。メイドはこう答えた。

「学院長の……その、水虫が完治した記念だそうです」

 あまりと言えばあまりの内容に絶句したルイズを尻目に、忙しさを理由にしてメイドは一礼するとその場を去った。それからは大体において三日、或いは二日置きにパーティは開かれている。最初は「コルベールの額が広がった記念」だの、「ロングビルのお尻に三秒触れた記念」だのと、実にくだらない理由で開かれていた。しかし、既に理由を考えるのも億劫になったのか、最近は何の言い訳も無く、パーティが開かれるようになった。
 これは異常事態と言っても良いのではないだろうか。預かった貴族の実家から多大な出資を受けているこの学院だが、そんなくだらない理由でパーティばかり開いていては、予算などすぐに尽きてしまう。遠からず学院幹部の責任を問われる事となるだろう。そんな事になっては国家の恥となる。なのに、学院長を初め、教師と生徒は何の危機感も覚えていないらしい。三日おきに何かに誘われるように、ふらふらと食堂へ向かう彼らに異常を感じているのは、どうやらルイズ一人のようだ。

 きっと今もパーティは開かれているだろう。しかも今度はちゃんと理由がある。新入生歓迎パーティだ。すぐに新入生達も、三日おきのパーティに疑問を持たないようになるのだろう。解決する術を探そうにも、頼るべき師達は酔っ払い、級友たちも以下同文。現状においてルイズに出来る事は何も無かった。

「はぁ……一体どうしちゃったのかしら、ここは」

 暗い面持ちで耳を塞ぎ、ベッドに潜り込んだルイズは、召喚の呪文と共に現れたモノを思い出していた。全ては使い魔召喚の儀があった日から。やはり、あのやたらに酒臭い霧の様なものが何かに関係しているのではないか、そんな考えを抱きながら、ルイズは段々と微睡み始めていく。

 薄れる意識の中で、ルイズは視界の端に『角の生えた少女』を見たような気がした。

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