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Neverwinter Nights - Deekin in Halkeginia-18


ヴェストリの広場で礼儀を教える……。
それはつまり、形式的には決闘を挑むということ―――実質的には、無礼を働いた平民を決闘という形で打ちのめし、罰を与えるという事を意味していた。

ギーシュは不本意そうな仏頂面で身を翻すと、食堂から去っていった。
何も、こんな展開を望んでいたわけではない。
平民のメイドやルイズの使い魔をとがめたのは、何とか少しでも責任を余所に負わせて、多少なりとも面目を回復したかったため。
決して憂さ晴らしに平民を虐めようとかそんなつもりはなかったし、ましてや相手が女性ならなおさらのことだ。
だが、まさか平民のメイドから非難し返されるなどとは思ってもみなかった。
こうまで体面と名誉を傷つけられては、今更黙って引き下がるわけにはいかない。

彼の友人たちをはじめ、思いがけぬ余興を期待する多くの生徒らがわくわくした顔で立ち上がり、その後を追って行く。
興味を示さず食堂に残った者の中には、馬鹿な真似を、と冷たい蔑みや嘲りの表情を浮かべる者もいれば、シエスタに同情するような目を向ける者もいた。

「せ、先輩……、なんで、あんなことを………」

シエスタと共に給仕をしていた後輩のメイドは、顔を青ざめさせてがたがた震えながらそう言うと、逃げるように走り去っていった。
黙ってそれを見送ったシエスタは、俯いて軽く唇を噛む。
彼女はその後、落ち着いたしっかりした足取りでケーキを配り終えると、準備を整えるために一度自室へ戻ると断って食堂をでていった。

ディーキンは少し離れたところから、じっとその一部始終を見つめていた―――。


「ルイズ、ちょっといい?」
「何よ? ……見てたわよ、あんたと一緒にいたあのメイド、貴族に決闘を挑まれるなんてね。
 大方ギーシュが悪いみたいだけど、平民がメイジと決闘なんかして勝てるはずがないわ。
 あんたも口添えして、謝るようにいってあげればよかったのに……」

ルイズは感心しないといったふうに少し眉を顰めて、近寄ってきたディーキンの方を見た。
一方ディーキンは、その言葉を聞くとまばたきをして首を傾ける。

「ええと……、決闘? あのギーシュって人が何とかの広場へ来いって言ってたのは、その事なの?
 怒ってて、何かシエスタにするつもりみたいなのは分かったけど」
「ああ……、そういえば、あんたには分からなくて当然ね。
 ヴェストリの広場っていうのは『風』と『火』の塔の間にある西の方の中庭よ。日があまり差さなくて広いから、決闘するのにはうってつけの場所ね。
 まあ、決闘は禁止されてるから、実際に使ったことがあるわけじゃないんだけど。
 そんな場所に呼び出すってことは、決闘の名目であの子を嬲りものにしてやろうってつもりでしょ。
 まったく、いくら引っ込みがつかなくなったからって禁止されてる決闘を、それも平民に吹っかけるなんて……」

怒ったような顔でぶつぶつと呟くルイズをよそに、ディーキンは考え込んだ。

「ええと……、もう少し聞いていい?
 その決闘っていうのは、どういうものなのかな。
 ディーキンのいたところでは、メイジの決闘っていうと普通は魔法でするものだと思うんだけど……。
 シエスタは、その、多分……、魔法は使えない、よね?」

フェイルーンでもメイジ同士の決闘は決して珍しいものではない。
メイジは概して己の秘術の力に多大な誇りを持っており、それを誇示するため、あるいはライバルに差をつけるためなど、様々な理由で決闘を行う。
それが素晴らしい力を持つ数々の魔法を華々しくぶつけあう“魔法決闘”だ。

だがシエスタは、まあ……、メイジではないだろうし。
一体メイジと非メイジとの間でどのような勝負をしようというのだろうか?

メイジが戦士などの非メイジと決闘するというのは、フェイルーンではあまり一般的ではない。
もちろん実戦で殺し合う事は頻繁にあるが、公開決闘には見物人を楽しませるという意味も多分にある。
そして戦士とメイジの決闘など、大抵は見ていてあまり面白いものではないのだ。

メイジ同士の決闘ならば、凄まじい魔法が飛び交う、驚嘆すべき戦いが見物人を魅了するだろう。
戦士同士の決闘ならば、人の限界に挑戦するかのような力や芸術的な域にまで高められた技巧のぶつかり合いに、見物人は賞賛の声を送るだろう。
だが戦士とメイジの決闘というのは、どちらが勝つにせよ、往々にしてあっけない一方的な決着になってしまうのだ。
遠距離から魔法で手も足も出せないうちに戦士が倒されるか、懐に潜りこまれたメイジが抵抗する術もなく打ち倒されるか、といった具合に。

そう言う戦いでも楽しめるという者は無論いるだろうが、メイジ同士、戦士同士での決闘と比べると、やはり華に欠ける。
とはいえ周囲の生徒らは随分盛り上がっていたようだし、学生の身では決闘というだけで充分刺激的な見世物なのかもしれないが……。

「そりゃそうよ。貴族崩れでもないただの平民に魔法が使えるわけないでしょ。
 こっちでだってメイジと平民が決闘なんて普通ないわよ、まともな決闘になるわけがないもの。
 ギーシュは多分、あのメイドを少し痛めつけて、謝らせて終わる気じゃないかしら?」
「フウン……、そうなの? それは、確かにあんまりよくないね……」

ディーキンは少し腑に落ちないというように、また少し首を傾げた。

フェイルーンでは、必ずしもメイジと非メイジでは勝負にならないと決まったものでもない。
メイジ側が万全の備えをして、常に最善手を打てば戦士側の勝ち目は薄いだろう。
だが、実戦においては、特に経験や思慮の浅い者では、なかなかそうもいかないものだ。

レベルで大きく勝る戦士がメイジと戦えば普通に戦士が勝つし、実力が近くても、さほどレベルの高くない者同士の勝負では往々にしてそうなる。
高レベルの戦いにおいて呪文の力の有無は致命的に大きいが、生半な腕前ならば戦士がメイジをあっさりと斬り伏せてしまうことも決して珍しくはない。
まあシエスタが戦士といえるかどうかは微妙だし、戦士でもない一般人ではまず勝ち目はない、というのは確かだが。

ともかく、ルイズの考えが正しければ、あのギーシュという少年はシエスタを一方的に叩きのめして力づくで謝罪を引き出そうとしているらしい。
そうであるのならば、やはり放っておくわけにはいかないだろう。

「教えてくれてどうもありがとう、ルイズ。
 それなら、ディーキンはちょっとシエスタのところに行ってくるね」


シエスタは、自室へ戻ると棚からしまっておいた武具の類をひっぱり出していた。

普段から護身と雑用を兼ねて持ち歩いている果物ナイフと、もう少し大きめのダガーが、それぞれ一本ずつ。
主に炊き付けの枝を切ったりするのに使用しているハンドアックスが一本。
帰省などで野外を旅する際に身に帯びる、普段は鉈として使っているククリが一振り。
同じく野外を旅する際に狩猟用に使うライト・クロスボウ1つと、そのボルトが2ダースあまり。
そして油で煮て硬化させた革で作った、レザー・アーマーが一着。

これらが現在、彼女の持つ武具と呼べそうなもののすべてだった。
傭兵でもない一介の平民としては、まあそれなりに備えがある方だと言えよう。

だが、ではこれでメイジ相手に戦えるのかと問われれば……、
相手の技量にもよるが、控えめに言っても『かなり分が悪い』だろう。
シエスタは大概の武器や防具の扱い方は一通り身に付けているが、聖騎士であった祖母や軍人であったという祖父とは違う。
彼女は所詮は一介の使用人であって、戦士ではない。狩りの経験くらいはあるが、そこらの平凡な傭兵と一対一で戦って勝てるかも怪しい。

一方メイジは、腕利きなら一個小隊程度の傭兵を単身で相手取っても勝てるほど強い。
そこそこの技量しかない者であっても、不意を打たれない限り一人や二人の傭兵にはまず負けはしない。

「うう………」

確か、相手のギーシュという少年はド・グラモン家の三男で……、父親は元帥だと聞いている。
それだけ家柄の良い貴族の子息ならば当然それなりに魔法の腕は立つだろうし、実戦経験はさておいても戦い方を学んだことくらいはあるだろう。

おそらく、いや、十中八九、勝てはしない。

「……ど、どうしよう……」

顔が青ざめ、手が震えて鎧を上手く着込めない。
先程の食堂では、義憤に駆られるあまり恐怖を忘れていた。
だが、こうして一人になって興奮が冷め、改めて冷静に考えてみると、とんでもないことになってしまった。

今からでも、謝ろうか?
いや、不正に頭を下げるなど、そんな正しくないことは絶対にできない。
けれど、最後まで謝らずに戦い続けたら……、頭に血が上ったあの少年に、もしかして本当に、殺されてしまうかも……。

「………っ、」

最悪の末路を想像して、シエスタは一瞬気が遠くなった。
鎧を着込みかけたまま体を縮こまらせると、部屋の真ん中でがたがたと震えだす。

その時扉がコンコンとノックされて、シエスタはハッと体を起こした。
あの少年の友人が、早く決闘に来いと急かしに来たのだろうか。

もう、ぐずぐずと嘆いている時ではない。
この上は自分の正当を最後まで主張し、正しい者に神の御加護があることを信じよう。
シエスタはそう、腹をくくった。

「……すぐに行きます、貴族様。
 今準備をしているところですから、あと一分も待って頂ければ―――」

しかし、帰ってきた返事は予想とは違っていた。

「ディーキンは別に貴族じゃないよ」
「……! ディ、ディーキンさん?」

実は食堂にはちゃんとギーシュの友人が一人見張りとして残っていたが、あえてシエスタの後を追おうとはしていなかった。
シエスタが出ていくとき、彼はこのメイドは逃げるか、先に食事を終えて出ていった学院長か誰か責任者に訴えて助けてもらう気だろう、と踏んでいた。
だが食堂でシエスタの怯えず堂々と振る舞う姿を見ているうちに感嘆や同情の念が沸き起こってきて、あえて見逃してやるつもりだったのだ。

勘違いに対する気恥ずかしさと安堵とで、シエスタの少し頬に赤みが戻る。
服を整え直して扉を開けると、そこにはリュートを手にしたディーキンが立っていた。

ディーキンは室内に入ると、シエスタの着かけていた鎧を見つめ、それから床に置かれた武器類を見た。

「アア、準備の邪魔をしたみたいで申し訳ないの。
 ええと、ルイズに聞いたんだけど……、シエスタはこれから、あのギーシュって人と決闘するんだよね?」
「……はい。グラモン様は礼儀を教えてやるといっておられましたが……、たぶん、そうなるかと思います」

ディーキンはそれを聞くとちょっと首を傾げて、シエスタの所持する品々について考えを巡らせた。

手入れはしっかりしてあるようだが、自分が初めてボスについて行った時に持っていたのと大差ないような、貧相な武具の品揃えだ。
いや、自分は主人のタイモファラールに貰った魔法の武具や道具なども少しは持っていたから、むしろそれよりも劣るか。
この程度の備えしかないということは、やはりシエスタは特に戦士として訓練されているわけではなさそうだ。

ハルケギニアではどうか知らないが、フェイルーンでは一般的に腕の立つ戦士は、武装も相応に優れたものを保有している。
ワイヴァーンと一対一で戦えるほどの腕を持つ戦士が、魔法の武器や鎧を全く持っていないなどということは、まず考えられない。
しかるにシエスタが用意している武具は、どれもこれも魔法の武器どころか高品質の武器でさえなく、両手剣などの高価な軍用武器も含まれていない。
実戦で戦うにはいかにも頼りない、不十分極まりない代物だった。

それにフェイルーンの戦士は武器や防具だけではなく、それ以外のマジックアイテム類も多々所有しているのが普通だ。
高レベルの冒険者なら、小国の金庫の中身にすら匹敵しようかというほどの額の装備品を持ち歩いている場合すらある。
なのにシエスタの準備しているものの中には、ポーションの一本すら含まれていないではないか。

「ええと。それで、シエスタはあのギーシュって人に勝てると思うの?」
「……そ、それは……、」

シエスタは口篭もりながら、少し目を逸らした。
やはりシエスタ自身も、決闘をしてもまず勝てないと考えているようだ。

「……ねえシエスタ、よかったらディーキンが代わりにその、決闘っていうのを受けようか?
 これでもディーキンはすごく……、いや割と……、まあたぶん、その、ちょっとは強いと思うからね!」

ディーキンは一応、提案してみた。
それを聞いたシエスタが、はっと顔を上げる。
その表情には、ディーキンの申し出を歓迎したり、安堵したりしている様子は少しもない。
それどころか、先程までは必死に押し隠そうとしていた恐怖の色が、あからさまに浮かんでいた。

「い、いけません、そんなこと! ディーキンさんに、迷惑はかけられません!
 あの方を非難したのは私です、決闘するというのなら私が受けます!
 その、私……、もしディーキンさんが見ていて、応援してくれたら、きっと勝てると思います。
 だからどうか、心配しないでください」

シエスタは必死な様子でそう言うと、無理矢理に笑顔を浮かべた。
その顔をじっと見つめて、ディーキンも笑みを返した。

そもそも彼女は自分を庇うために話に割って入り、そして決闘の申し出を受けたのだ。
今朝知り合ったばかりの、このちっぽけな得体の知れない亜人を。
交代を提案しても、たとえ本当は恐ろしくてたまらないにしても、彼女はきっと受け容れないだろうとは最初から思っていた。

それに自分も、実を言えばこうなってしまった以上は、もうシエスタが戦うのが一番いいかも知れないと考えている。
自分が代わって戦って勝っても、あるいは何とかしてギーシュやシエスタを言いくるめて事を収めても、それではシエスタの『名誉』を守れない。
所詮は平民だ、土壇場で怖気づいて使い魔の亜人に助けてもらったのだ、などと言われて嘲笑されるだろう。

何よりも、彼女のような女性が非もなく嗤いものにされるなど不愉快である。
少なくとも自分はそうだし、ボスだってきっと同じように考えるだろう。
自分の見出した“英雄”の凄さを皆に伝えたい、分かってもらいたいと渇望することは、バードとしても当然の性だ。

「アア、わかったの。決闘を代わって欲しいとは言わないよ。
 確かにそれはシエスタが受けたものだし、ギーシュって人もディーキンが代わるんじゃ納得できないだろうからね。
 だけどディーキンにも、どうか英雄のお手伝いをさせてほしいの。
 それがつまり、ディーキンの本業ってやつだからね」

それを聞いたシエスタはほっと胸を撫で下ろして、次に少し不思議そうに首を傾げた。

「……ええと……、英雄、って?」

ディーキンはきょとんとした様子のシエスタに、笑みを浮かべてウンウンと頷く。

「そうなの、シエスタはすごい英雄になれる人なの。ディーキンにはちゃんとわかるんだよ。
 ディーキンはこれでも、英雄専門のバードだからね」
「え、ええ……? そんな、その、ええと……、ありがとうございます。
 ですけど、私はただの村娘ですから、英雄だなんてことは」

もしかしてお世辞を言われているのだろうか……、などと当惑しながら、反応に困った様子のシエスタ。
ディーキンはそれに対して、ちっちっ、と指を振って見せた。

「じゃあ、シエスタは、英雄っていうのはどんなものだと思ってるの?
「ドラゴンを叩きのめすような人? それとも、神さえ悪魔さえ超えるような、すごーい力の持ち主のこと?」
「え、それは……、その……、」
「どっちも英雄かも知れないね。でも、それだけじゃ一流の英雄とはいえないの。
 ……ねえ、シエスタ。シエスタは最初、あのギーシュって人を怖がって、謝って済ませようとしてたよね。
 でもディーキンが文句を言われそうになったら、割って入って庇ってくれたでしょ?」
「……それは……」
「それに今も、あの人をすごく怖がってるのに、ディーキンが交代しようかっていったら断ったよね。
 安心するどころか、その方がもっと怖い、っていう感じだった」

そう言いながら、ディーキンは満面の笑みを浮かべて真っ直ぐシエスタを見つめる。

「シエスタは知らないの? そういうのが、最高の英雄なんだよ!」

そう熱弁するディーキンの目には、少年らしい憧れの光が輝いていた。
それを見れば誰でも、彼が決してお世辞や建前でいっているのではなく心からそう信じているのだと分かるだろう。

自分自身の身体や名誉が不当に傷つけられることには我慢できるが、他人のそれが不当に傷つけられることには声高に異を唱える者。
自身の身の安全より他人の身の安全を慮り、自身が傷つくこと以上に他者が傷つけられることに恐怖を感じられる者。

それを英雄と言わないのであれば、世界に英雄などいない―――、
少なくとも、ディーキンにとっては。

「ディーキンは食堂でシエスタがあの人に勇気を出して立ち向かっているのを見た時からシエスタの事がもっと大好きになったの。
 シエスタはディーキンの尊敬する人だよ、だから、何か役に立たせてほしいの」

面と向かってそんな事を言われたシエスタは、顔を真っ赤にしていた。

「~~………!
 そそ、そんな、大好きだなんて、あの……、その……」

胸中で恥ずかしさと感動と、その他様々な感情が混ざり合っていて、すぐには言葉が出てこない。

「あ、ありがとう―――ございます。
 ……けど、その、やっぱりそんなことは、ないです。
 英雄だというなら……、ディーキンさんの方が、ずっとそうだと思います」

今度は、ディーキンの方が不思議そうな顔をする番だった。

「ンン……? ディーキンは、何もしてないと思うけど?」

シエスタはぶんぶんと首を振ると、屈み込んでディーキンの手をぎゅっと握る。

「いいえ……、いいえ、そんなことはないです!
 私があなたを庇ったというなら、あなただって最初、私がとがめられていた時に名乗り出て身代わりになってくれようとしたじゃないですか。
 今もこうして、私が怯えているのを見て代わろうかって言ってくれて……。
 それに何より、私、自分のしたことを馬鹿なことじゃないかって……、ディーキンさんが認めてくれてすごく、嬉しかったんです。
 あなたにはわかってないんです、今の私が、あなたがここにいてくれてどんなに心強いか―――」

そう熱弁するシエスタは感動のあまり少し涙ぐんでいて、頬も上気している。
その表情にはこれから厳しい戦いに臨まなければならないことを忘れてしまったかのように、怯えの欠片も残っていなかった。

シエスタからしてみれば、ディーキンは自分と同じことを、自分よりも先にやっている。
それに自分とは違って、貴族が相手でもいささかも怯えたような様子がない。
なのにそれを鼻にかけるどころか気に留めている風もなく、こちらの行動を過剰なほどに褒めてくれて、しかもそこに全然作為や嘘が感じられない。
だから、彼の方がずっと立派だ、ということになるのだ。

今度はディーキンの方が、照れたような笑みを浮かべて恥ずかしがった。

「エヘヘヘ……、そんなこと言われたらディーキンは赤くなっちゃうの、シエスタ。
 ウロコだらけだから、わからないだろうけどね。
 でも、シエスタの方がずっと立派なことを、ディーキンは知ってるの」

自身も確かに似たような事をやってはいるかもしれないが、別にそれは英雄的でも何でもない。
何故ならディーキンには、シエスタと違って特にギーシュを怖れる理由がないからだ。

生まれたその時から陰謀渦巻く社会で生き抜き、数百年の生涯を通じて技量を磨き続けるドロウエルフやデュエルガーなどといった暗黒世界の種族。
定命の人間やコボルドなどには決して得られぬ、偉大な超常の能力を持つ異界の来訪者たち。
見上げるような巨大な体躯を持つ、巨人やドラゴン。
そして恐るべき特殊能力を備えた、メデューサやビホルダー、マインド・フレイヤーなどといった、魔獣や異形の類……。
ディーキンは今まで、仲間たちと共に、そんな敵達と幾度となく戦ってきた。

それに比べて、あの少年には語るに足るような力も凄みも一切感じられない。
自分がこちらの魔法についてまだよく知らないことを差し引いても、全く問題にならない相手だと確信していた。

だが、シエスタにとってはそうではないだろう。

ディーキンからすれば、シエスタは自分が勝てないと思っている相手に対してそんな勇気を示せるからこそ英雄的なのである。
人間がドラゴンに立ち向かうことは、勇気や英雄性の証明となるだろう。
だが、逆にドラゴンが人間をひねりつぶしたところで、それは何の証明にもならないのだ。

「………それで、ええと。
 ディーキンはシエスタのお手伝いをしたいから、まずどんな手伝いができそうかを知りたいの。
 シエスタはどんなことができるの? 戦った経験はあるの?」
「あ……、その、いいえ、狩りとかは少し覚えがありますけど、戦いは……。
 武器や鎧の使い方は、一応、一通りは知っていますけど……」

少し現実に引き戻されて、やや萎縮気にそう答えるシエスタ。
ディーキンはそれを聞いて、うんうんと頷く。

概ね予想通りの答えだった。
戦士としての訓練は受けていなさそうだが、それでもシエスタの“種族”を考えれば、武器や防具の一通りの扱い方には《習熟》していて当然だろう。

「えーと、魔法……は、使えないよね? シエスタはアアシマールみたいだけど」
「え……、ええ、私は平民ですから、魔法は……」

シエスタはそう答えながらも、困惑したように首を傾げた。

「……その、ディーキンさん。ああしまーる、っていうのは、なんですか?」
「アア……、もしかして、こっちではそういう言い方はしないのかも知れないね。
 アアシマールっていうのは、天使の血を引いてる人のことなの。
 ええと、シエスタはちょっと念じるだけで明かりを灯せたり、暗いところでも目が見えたりは、しない?」

それを聞いたシエスタの目が、驚きに見開かれた。

「な、なんでそんなことを知ってるんですか!?
 こっちに来てからは、そんなこと、誰にも話したことはないのに……」
「ンー? なんでっていっても……。
 ディーキンの住んでたところにはそういう人が結構いたからね、見れば分かるよ」

これは嘘でも誇張でもなく、本当の事だ。

ディーキンが召喚前に住んでいたウォーターディープは、フェイルーンでも屈指の巨大交易都市である。
そこには多種多様な人種が住んでおり、アアシマールにも何度も会ったことがある。

シエスタの輝くような肌や瞳、アダマンティンのように艶やかな光沢をもつ黒髪、優しげで親しみやすそうで、どこか高貴さも感じさせる雰囲気……。
それらはすべて、アアシマールの受け継ぐ天上の血がもたらす特徴である。
アアシマールにも、そしてその祖であるセレスチャルにも、幾度となく会ったことのあるディーキンには、容易に識別できるものだ。

それに冒険者仲間のヴァレンも、シエスタと同じプレインタッチトである。
まあ彼はセレスチャルの血を引くアアシマールではなく、フィーンドの血を引くティーフリングだが。

「天使の血を引く人が、大勢住んでいるところ……!?」

シエスタが、更なる驚きに目を丸くした。
一体、この素敵で不思議な亜人の子は、どんなところに住んで、どういう人生を送ってきたのだろうか……?

「そうなの。まあ、コボルドももうちょっと住んでると嬉しかったけどね。
 つまり、シエスタは自分の力とか血筋については、ちゃんと知ってるんだね?」
「あ……、は、はい。
 どうせ本気にしてもらえないでしょうし、必要もないと思って、ここでは誰にも話してないんですけど、」

そう前置きすると、シエスタは自分の血筋について、知っていることを包み隠さずに語り始めた。
それによれば、彼女の血統は随分と奇妙なものであるらしい。

彼女の祖母は数十年前に異世界からハルケギニアの地にやってきた、天使の血を引くパラディン(聖騎士)だった。
そして祖父は、それとはまた別の世界からやってきた軍人だった。
2人は、互いに見知らぬ世界からやってきた異邦者同士、親近感を感じたのか、幾度となく語り合い、慰め合い、やがて、愛を育んだ。
その間に生まれた女の子もやがて成長して、彼女の故郷の村に住む青年と結婚して……、
そうして生まれたのが、シエスタであるという。

つまり、彼女は三重の異界の血を引く者、ということになるらしい。

「……でも、私にはおばあちゃんみたいな凄い力はありませんし、おじいちゃんみたいな軍人でもありません。
 確かに他の人と少し違う力はありますけど、全然大したことはないです。
 もちろん、自分の血筋を誇りには思っていますけど。他には本当に、武器とか鎧の使い方を少し教わっただけで……」

そう言って少し俯くシエスタの肩を、ディーキンがポンポンと叩く。
シエスタが顔を上げると、ディーキンの顔には自信に満ちた笑みが浮かんでいた。

「大丈夫なの、それならシエスタは勝てるよ!」

そう請け負うと、ディーキンはシエスタから聞き出した情報を元にして方策を練り始めた。

怖くて武器を扱うこともできないとかいうことがなく、最低限の能力を備えてさえいれば、シエスタをあの少年に勝たせる手段などいくらでもあろう。
たとえば、自分の持つ武具やアイテム類を一時的にシエスタに貸すというのはどうか?

……いや、村娘に不釣り合いな、あからさまに強力な装備で勝つのはあまり良くないかも知れない。

フェイルーンでは一般的に、強力なマジックアイテムを手に入れられることも強さのうちと見なされる。
したがって実戦はもちろん決闘でも、片方がもう片方より優秀な武装をしていたとかで文句を言われることはあまりない。

しかし、自力で手に入れたものならばともかく……、
借りただけの武装の性能に頼り切って勝つのでは、流石に問題があるだろう。

仮にディーキンがシエスタに、アダマンティン製の剣、透明化の指輪、対魔法の外套、精神耐性の頭巾、俊足の靴、各種ポーション類などを貸したとする。
決闘にはまず間違いなく勝てるだろうが、どう見ても『装備のお陰で勝っただけ』だと言わざるを得ないような状態になるだろう。
それでは、対戦相手のギーシュも、観客たちも、そして戦ったシエスタ自身も、納得できないのではないか。

ここは、多少の『助力』は受けたにせよ、シエスタ自身が勇敢に戦ったのだと、周囲に納得のいくような方法で勝ってもらいたい。
となるとやはり、バードらしい方法が一番だろう。

「……ええと、ディーキンが、その、つまり……、
 バードらしく『歌』でシエスタを応援することを、許してくれたらね!」


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