ウルトラマンゼロの使い魔
第十六話「SOSタルブ村」
岩石怪獣ゴルゴス 登場
第十六話「SOSタルブ村」
岩石怪獣ゴルゴス 登場
トリステインの一地方にある、数十年前にうち捨てられた開拓村の、廃墟となった寺院。
誰も手入れをしないので荒れに荒れ、かつての壮麗な装いは見る影もない。しかし代わりに、
心を和ませるような牧歌的な雰囲気が漂っている。
だがそれも、寺院の前に岩で出来上がった小山が存在していなければの話だ。しかもその小山は、
あろうことか「自力で動いていた」。そして、二人の少女を追い回していた。
「アッギャーオオオオウ!」
その動く小山の正体は、岩石怪獣ゴルゴス。かつて富士山に出現した怪獣の別個体だ。
この開拓村は、ハルケギニアの怪物であるオーク鬼の群れに乗っ取られて放棄されたのだが、
最近になってゴルゴスが出没し、今度はオーク鬼が追放されて村はゴルゴスのテリトリーになった。
オーク鬼は怪力を誇るモンスターだが、体長40メイルで、全身が岩石で構築されたゴルゴスには、
オーク鬼の怪力でさえ歯が立たなかったのだ。
「『ウィンディ・アイシクル』!」
「『フレイム・ボール』!」
そのゴルゴスに追い回されながら攻撃を加えているのは、タバサとキュルケのコンビ。
二人は氷の槍と火球でゴルゴスの身体の一部を砕くが、ゴルゴスの岩石の身体は本当の肉体ではない。
そのため、以前フーケが差し向けた土ゴーレムのように、砕ける端から地面の岩石を取り込んで
再生してしまうので、まさしく焼石に水というありさまだった。
「アッギャーオオオオウ!」
タバサとキュルケの魔法をものともせず、ゴルゴスは口から蒸気を噴き出しつつ執拗に追いかける。
決して身動きは素早いとはいえないが、如何せん巨体なのと、村の建物を薙ぎ倒して迫るので、
二人ともじりじりと追い詰められていく。もし追いつかれたら、その時は岩石の身体で押し潰されてしまうだろう。
だが二人が危ない時に、ゴルゴスの面前に七体の青銅の戦乙女の像が出現した。隠れているギーシュが
作り出したゴーレムだ。ワルキューレはゴルゴスの顔面に短槍を突き立てる。
「アッギャーオオオオウ!」
だがそれも、ゴルゴスにとってはかすり傷。タバサたちの代わりにワルキューレを潰し、
バラバラにしていく。
しかしこの時、ゴルゴスは気がついていなかった。ワルキューレを破壊していく内に、
大木の側まで近寄っていくこと、そしてその大木の葉の中に才人が隠れていることに。
「だあああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」
才人はゴルゴスが十分に近づくと、叫び声を上げつつその背中の上に飛び乗った!
「アッギャーオオオオウ!」
背中に違和感を覚えたゴルゴスはすぐに才人を振り落とそうとするが、才人は岩肌にしっかりと
しがみついて耐え、目の前の岩の中から覗く、光る球体へにじり寄る。
これがゴルゴスの本体。ゴルゴスは本体である核を中心に、岩石を寄せ集めて動く身体を作り出す怪獣だ。
そのため岩石をどれだけ砕いても無駄。倒すには、背中にある核を破壊する以外にない。
「よしッ、今だ相棒! やっちまいな!」
間合いに入った瞬間に、手の中のデルフリンガーが叫んで、刃が強く輝いた。その合図で意を決した才人は、
脚で岩肌にしがみつきつつ、デルフリンガーを振り上げて刃をゴルゴスの核へ振り下ろした!
見事、核は真っ二つに切り裂かれる。それからすぐにゴルゴスから飛び降りて、全速力で離れた。
「アッギャーオオオオウ!!」
核を断たれたゴルゴスは途端にきりきり舞いして、断末魔を上げるとその場に倒れた。
そしてその身体は、元の単なる岩石へと逆戻りした。
誰も手入れをしないので荒れに荒れ、かつての壮麗な装いは見る影もない。しかし代わりに、
心を和ませるような牧歌的な雰囲気が漂っている。
だがそれも、寺院の前に岩で出来上がった小山が存在していなければの話だ。しかもその小山は、
あろうことか「自力で動いていた」。そして、二人の少女を追い回していた。
「アッギャーオオオオウ!」
その動く小山の正体は、岩石怪獣ゴルゴス。かつて富士山に出現した怪獣の別個体だ。
この開拓村は、ハルケギニアの怪物であるオーク鬼の群れに乗っ取られて放棄されたのだが、
最近になってゴルゴスが出没し、今度はオーク鬼が追放されて村はゴルゴスのテリトリーになった。
オーク鬼は怪力を誇るモンスターだが、体長40メイルで、全身が岩石で構築されたゴルゴスには、
オーク鬼の怪力でさえ歯が立たなかったのだ。
「『ウィンディ・アイシクル』!」
「『フレイム・ボール』!」
そのゴルゴスに追い回されながら攻撃を加えているのは、タバサとキュルケのコンビ。
二人は氷の槍と火球でゴルゴスの身体の一部を砕くが、ゴルゴスの岩石の身体は本当の肉体ではない。
そのため、以前フーケが差し向けた土ゴーレムのように、砕ける端から地面の岩石を取り込んで
再生してしまうので、まさしく焼石に水というありさまだった。
「アッギャーオオオオウ!」
タバサとキュルケの魔法をものともせず、ゴルゴスは口から蒸気を噴き出しつつ執拗に追いかける。
決して身動きは素早いとはいえないが、如何せん巨体なのと、村の建物を薙ぎ倒して迫るので、
二人ともじりじりと追い詰められていく。もし追いつかれたら、その時は岩石の身体で押し潰されてしまうだろう。
だが二人が危ない時に、ゴルゴスの面前に七体の青銅の戦乙女の像が出現した。隠れているギーシュが
作り出したゴーレムだ。ワルキューレはゴルゴスの顔面に短槍を突き立てる。
「アッギャーオオオオウ!」
だがそれも、ゴルゴスにとってはかすり傷。タバサたちの代わりにワルキューレを潰し、
バラバラにしていく。
しかしこの時、ゴルゴスは気がついていなかった。ワルキューレを破壊していく内に、
大木の側まで近寄っていくこと、そしてその大木の葉の中に才人が隠れていることに。
「だあああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」
才人はゴルゴスが十分に近づくと、叫び声を上げつつその背中の上に飛び乗った!
「アッギャーオオオオウ!」
背中に違和感を覚えたゴルゴスはすぐに才人を振り落とそうとするが、才人は岩肌にしっかりと
しがみついて耐え、目の前の岩の中から覗く、光る球体へにじり寄る。
これがゴルゴスの本体。ゴルゴスは本体である核を中心に、岩石を寄せ集めて動く身体を作り出す怪獣だ。
そのため岩石をどれだけ砕いても無駄。倒すには、背中にある核を破壊する以外にない。
「よしッ、今だ相棒! やっちまいな!」
間合いに入った瞬間に、手の中のデルフリンガーが叫んで、刃が強く輝いた。その合図で意を決した才人は、
脚で岩肌にしがみつきつつ、デルフリンガーを振り上げて刃をゴルゴスの核へ振り下ろした!
見事、核は真っ二つに切り裂かれる。それからすぐにゴルゴスから飛び降りて、全速力で離れた。
「アッギャーオオオオウ!!」
核を断たれたゴルゴスは途端にきりきり舞いして、断末魔を上げるとその場に倒れた。
そしてその身体は、元の単なる岩石へと逆戻りした。
ゴルゴスを打倒した夜、才人たちの一行は、安全になった寺院の中庭で焚き火を取り囲んでいた。
誰もかれも、疲れきった顔をしていた。その内に、ギーシュが恨めしそうに口を開いた。
「キュルケ……伝説の秘宝『ブリーシンガメル』とやらはこれかね?」
ギーシュが指差したのは、色あせた装飾品と、汚れた銅貨が数枚。寺院のチェストの中にあったものだ。
それ以外に、目ぼしいものは発見できなかった。
ギーシュはわめいた。
「なあキュルケ、これで七件目だ! 地図をあてにお宝が眠るという場所に苦労して行ってみても、
見つかるのは金貨どころかせいぜい銅貨が数枚! 地図の注釈に書かれた秘宝なんか
カケラもないじゃないか! インチキ地図ばっかりじゃないか!」
「うるさいわね。だから言ったじゃない。〝中〟には本物があるかもしれないって」
「いくらなんでもひどすぎる! 廃墟や洞窟は化け物や猛獣の住処になってるし! 割にあわんこと甚だしい!
今回などは、怪獣が相手だったのだぞ! その結果がこれか!」
「化け物を退治したぐらいで、ほいほいお宝が手に入ったら、誰も苦労しないわ。それにあんたは隠れてたじゃない」
当たり散らすギーシュに、キュルケは冷めた返事をした。タバサは我関せずといった顔で本を読んでいる。
誰もかれも、疲れきった顔をしていた。その内に、ギーシュが恨めしそうに口を開いた。
「キュルケ……伝説の秘宝『ブリーシンガメル』とやらはこれかね?」
ギーシュが指差したのは、色あせた装飾品と、汚れた銅貨が数枚。寺院のチェストの中にあったものだ。
それ以外に、目ぼしいものは発見できなかった。
ギーシュはわめいた。
「なあキュルケ、これで七件目だ! 地図をあてにお宝が眠るという場所に苦労して行ってみても、
見つかるのは金貨どころかせいぜい銅貨が数枚! 地図の注釈に書かれた秘宝なんか
カケラもないじゃないか! インチキ地図ばっかりじゃないか!」
「うるさいわね。だから言ったじゃない。〝中〟には本物があるかもしれないって」
「いくらなんでもひどすぎる! 廃墟や洞窟は化け物や猛獣の住処になってるし! 割にあわんこと甚だしい!
今回などは、怪獣が相手だったのだぞ! その結果がこれか!」
「化け物を退治したぐらいで、ほいほいお宝が手に入ったら、誰も苦労しないわ。それにあんたは隠れてたじゃない」
当たり散らすギーシュに、キュルケは冷めた返事をした。タバサは我関せずといった顔で本を読んでいる。
どうして彼らが今こんな状況になっているか、それはアルビオンから帰還した直後のことから説明をしよう。
才人たちが帰還してから三日後、正式にアンリエッタとゲルマニア皇帝、アルブレヒト三世との婚姻が発表され、
一ヵ月後に式が行われるはこびとなった。それに先立ち軍事同盟が締結され、翌日にはアルビオンの新政府樹立が公布された。
トリステイン、ゲルマニア両国に緊張が走ったが、アルビオン帝国初代皇帝クロムウェルはすぐに不可侵条約を打診してきて、
両国はこれを受けた。いつ破られるかも分からぬ条約だったが、特にトリステインの軍備の整う目途が立たない以上、
受けざるを得なかった。その結果、トリステインには表面上だけの平和が訪れることになった。
だが政治上の問題は、政治家以外には関係のないこと。魔法学院も同じで、才人たちは一応は
平和な日々を過ごしていた。しかし冒険に味を占めたキュルケは、あちこちからかき集めた
怪しい「宝の地図」なるものをひけらかして、親しい者たちを宝探しの旅に誘った。才人は渋ったが、
強引なキュルケやアンリエッタにプレゼントするための秘宝が手に入るかもとそそのかされたギーシュに
引っ張られたことと、年相応の好奇心と冒険心をわずかにもくすぐられたことで、同行を決めた。
だが途中経過は、現状の通りであった。
才人たちが帰還してから三日後、正式にアンリエッタとゲルマニア皇帝、アルブレヒト三世との婚姻が発表され、
一ヵ月後に式が行われるはこびとなった。それに先立ち軍事同盟が締結され、翌日にはアルビオンの新政府樹立が公布された。
トリステイン、ゲルマニア両国に緊張が走ったが、アルビオン帝国初代皇帝クロムウェルはすぐに不可侵条約を打診してきて、
両国はこれを受けた。いつ破られるかも分からぬ条約だったが、特にトリステインの軍備の整う目途が立たない以上、
受けざるを得なかった。その結果、トリステインには表面上だけの平和が訪れることになった。
だが政治上の問題は、政治家以外には関係のないこと。魔法学院も同じで、才人たちは一応は
平和な日々を過ごしていた。しかし冒険に味を占めたキュルケは、あちこちからかき集めた
怪しい「宝の地図」なるものをひけらかして、親しい者たちを宝探しの旅に誘った。才人は渋ったが、
強引なキュルケやアンリエッタにプレゼントするための秘宝が手に入るかもとそそのかされたギーシュに
引っ張られたことと、年相応の好奇心と冒険心をわずかにもくすぐられたことで、同行を決めた。
だが途中経過は、現状の通りであった。
ギーシュの怒りに応じるように、深いため息の音がした。
「馬鹿らしい。やっぱり、あんたが持ってくる宝の地図なんて、本物の訳がなかったわね」
「あら……一番何もしてないのに、口だけは偉そうね、ルイズ」
キュルケに言い返され、何も書かれていない本をめくって、時折何かをブツブツつぶやいているルイズは、
きっと目くじらを立てた。
帰還してから、一番変化のあったのはルイズだ。変化は二つ。まず一つは、才人にやたら優しくなった。
雑用を言い渡すことがなくなり、代わりに自分でやるようになり――まぁこれはルイズがひどく手慣れないので、
結局才人が手を貸すことになったが――テーブルの食事や寝る際にベッドで寝ることを許可したりするようになった。
才人にとっては負担が減るので万々歳のはずだが、急激に態度が軟化したので逆に薄気味悪く感じた。
しかしそれはルイズには秘密だ。
もう一つは、内的な変化ではない。アンリエッタの結婚式が執り行われるにあたって、
伝統により式で祝詞を詠む巫女が選ばれる。そしてその巫女にアンリエッタは、
ルイズを指名したのだ。そのためルイズは、これも伝統により、トリステイン王家の秘宝である
『始祖の祈祷書』を肌身離さず持ち歩き、詠む詔を自分で考えなければならなくなった。
だがルイズは、その詔がちっとも作れないでいた。アンリエッタの結婚が、本人の望んだものではないことを
知っているので気が乗らないし、そもそも詩すらまともに考えたことがないのだ。それでいきなり祝詞を考えろなんて、
無理がある。それで煮詰まっていたところにキュルケの誘いがあって、気晴らしとキュルケが才人に何か
ちょっかいを出さないように見張る目的でついてきた。
が、キュルケの言う通り、ここまでルイズが何か役に立つことをした試しはなかった。
森の中でスフランに襲われた時も、洞窟でグモンガに襲われた時も、今回も、戦いの時は
常に蚊帳の外であった。
「……何よ。何が言いたい訳?」
「別に? あたしは別に、あなたのこと、みょうちきりんな呪文みたいなのをブツブツ唱えて
食事を消費するだけのお荷物だなんて、これっぽっちも思っちゃいないわよ」
キュルケの嫌味で、ルイズは我慢ならずに杖を抜きかけた。それを才人が慌てて押しとどめる。
「や、やめろってルイズ! こんなところで喧嘩は! ほら、シエスタが食事作ってくれたぞ!」
「みなさーん、お食事ですよー!」
非常に険悪な雰囲気になっていたところで、ちょうどよくシエスタが鍋からシチューをよそいつつ明るい声を出した。
このシエスタも、偶然キュルケの話を聞いて、マルトー料理長に頼み込んで旅の同行を申し出た。目的は、
ルイズの後者のものと同じである。
まぁ動機は何であれ、シエスタがいなければ美味しい料理にはありつけなかったので、
才人たちは感謝していた。特に今は、張り詰めた空気を取っ払ってくれたので、才人は深く安堵した。
「これはなんていうシチューなの? ハーブの使い方が独特ね。あと、なんだか見たこともない野菜がたくさん入ってるわ」
「わたしの村の名物で、ヨシェナヴェっていうんです。父から作り方を教わったんです。
その父は、ひいおじいちゃんから教わったそうです」
キュルケとシエスタが話していると、ギーシュが不意に世間話をし出した。
「時に皆、知ってるかい? 最近、この周辺で、奇妙な強盗が出没するそうなんだ」
「奇妙な強盗? 何それ」
ルイズが聞き返すと、待ってましたとばかりにギーシュが説明する。
「貴族や商人がよく山道で襲われて、人死にも出てるそうだが、不思議なことに、その強盗は
金貨や金しか奪っていかず、他の金目のものには一切手をつけないという。それで巷じゃ
「黄金泥棒」と呼ばれてるよ」
「贅沢な強盗ね。金貨も持ってない今のわたしたちは、狙われないでしょうけど」
「生き残った被害者の証言だと、金色の竜を見たということだが、まぁ気が動転してたんだろうし、
どこまで信じられるか分かったものじゃないね」
「そうね。黄金の竜が金を奪っていくなんて、お伽話もいいところだわ」
ルイズは適当に聞き流したが、才人はその話で、ある怪獣を思い出した。だがわざわざ
口に出すことでもないので、特に何も言わなかった。
食事の時は場が和んだが、終わるとキュルケがすぐに宝の地図を広げたので、ギーシュがすっかり辟易した。
「もう諦めて学校に帰ろう」
「あと一件だけ。一件だけよ」
キュルケはギーシュの促しを聞き入れず、一枚の地図を選んで、地面に叩きつけた。
「これ! これよ! これでダメだったら学院に帰ろうじゃないの!」
「なんというお宝だね?」
キュルケは、腕を組んで呟いた。
「『竜の羽衣』」
皆が食事を終えたあと、シチューを食べていたシエスタが、ぶほっ、と吐き出した。
「そ、それホントですか?」
「なによあなた。知ってるの? 場所は、タルブ村の近くね。タルブってどこらへんなの?」
キュルケがそういうと、シエスタは焦った声で呟いた。
「ラ・ロシェールの向こうです。広い草原があって……わたしの故郷なんです」
「馬鹿らしい。やっぱり、あんたが持ってくる宝の地図なんて、本物の訳がなかったわね」
「あら……一番何もしてないのに、口だけは偉そうね、ルイズ」
キュルケに言い返され、何も書かれていない本をめくって、時折何かをブツブツつぶやいているルイズは、
きっと目くじらを立てた。
帰還してから、一番変化のあったのはルイズだ。変化は二つ。まず一つは、才人にやたら優しくなった。
雑用を言い渡すことがなくなり、代わりに自分でやるようになり――まぁこれはルイズがひどく手慣れないので、
結局才人が手を貸すことになったが――テーブルの食事や寝る際にベッドで寝ることを許可したりするようになった。
才人にとっては負担が減るので万々歳のはずだが、急激に態度が軟化したので逆に薄気味悪く感じた。
しかしそれはルイズには秘密だ。
もう一つは、内的な変化ではない。アンリエッタの結婚式が執り行われるにあたって、
伝統により式で祝詞を詠む巫女が選ばれる。そしてその巫女にアンリエッタは、
ルイズを指名したのだ。そのためルイズは、これも伝統により、トリステイン王家の秘宝である
『始祖の祈祷書』を肌身離さず持ち歩き、詠む詔を自分で考えなければならなくなった。
だがルイズは、その詔がちっとも作れないでいた。アンリエッタの結婚が、本人の望んだものではないことを
知っているので気が乗らないし、そもそも詩すらまともに考えたことがないのだ。それでいきなり祝詞を考えろなんて、
無理がある。それで煮詰まっていたところにキュルケの誘いがあって、気晴らしとキュルケが才人に何か
ちょっかいを出さないように見張る目的でついてきた。
が、キュルケの言う通り、ここまでルイズが何か役に立つことをした試しはなかった。
森の中でスフランに襲われた時も、洞窟でグモンガに襲われた時も、今回も、戦いの時は
常に蚊帳の外であった。
「……何よ。何が言いたい訳?」
「別に? あたしは別に、あなたのこと、みょうちきりんな呪文みたいなのをブツブツ唱えて
食事を消費するだけのお荷物だなんて、これっぽっちも思っちゃいないわよ」
キュルケの嫌味で、ルイズは我慢ならずに杖を抜きかけた。それを才人が慌てて押しとどめる。
「や、やめろってルイズ! こんなところで喧嘩は! ほら、シエスタが食事作ってくれたぞ!」
「みなさーん、お食事ですよー!」
非常に険悪な雰囲気になっていたところで、ちょうどよくシエスタが鍋からシチューをよそいつつ明るい声を出した。
このシエスタも、偶然キュルケの話を聞いて、マルトー料理長に頼み込んで旅の同行を申し出た。目的は、
ルイズの後者のものと同じである。
まぁ動機は何であれ、シエスタがいなければ美味しい料理にはありつけなかったので、
才人たちは感謝していた。特に今は、張り詰めた空気を取っ払ってくれたので、才人は深く安堵した。
「これはなんていうシチューなの? ハーブの使い方が独特ね。あと、なんだか見たこともない野菜がたくさん入ってるわ」
「わたしの村の名物で、ヨシェナヴェっていうんです。父から作り方を教わったんです。
その父は、ひいおじいちゃんから教わったそうです」
キュルケとシエスタが話していると、ギーシュが不意に世間話をし出した。
「時に皆、知ってるかい? 最近、この周辺で、奇妙な強盗が出没するそうなんだ」
「奇妙な強盗? 何それ」
ルイズが聞き返すと、待ってましたとばかりにギーシュが説明する。
「貴族や商人がよく山道で襲われて、人死にも出てるそうだが、不思議なことに、その強盗は
金貨や金しか奪っていかず、他の金目のものには一切手をつけないという。それで巷じゃ
「黄金泥棒」と呼ばれてるよ」
「贅沢な強盗ね。金貨も持ってない今のわたしたちは、狙われないでしょうけど」
「生き残った被害者の証言だと、金色の竜を見たということだが、まぁ気が動転してたんだろうし、
どこまで信じられるか分かったものじゃないね」
「そうね。黄金の竜が金を奪っていくなんて、お伽話もいいところだわ」
ルイズは適当に聞き流したが、才人はその話で、ある怪獣を思い出した。だがわざわざ
口に出すことでもないので、特に何も言わなかった。
食事の時は場が和んだが、終わるとキュルケがすぐに宝の地図を広げたので、ギーシュがすっかり辟易した。
「もう諦めて学校に帰ろう」
「あと一件だけ。一件だけよ」
キュルケはギーシュの促しを聞き入れず、一枚の地図を選んで、地面に叩きつけた。
「これ! これよ! これでダメだったら学院に帰ろうじゃないの!」
「なんというお宝だね?」
キュルケは、腕を組んで呟いた。
「『竜の羽衣』」
皆が食事を終えたあと、シチューを食べていたシエスタが、ぶほっ、と吐き出した。
「そ、それホントですか?」
「なによあなた。知ってるの? 場所は、タルブ村の近くね。タルブってどこらへんなの?」
キュルケがそういうと、シエスタは焦った声で呟いた。
「ラ・ロシェールの向こうです。広い草原があって……わたしの故郷なんです」
翌朝、一行はシルフィードの上で、シエスタの説明を受けていた。ただ、あまり要領を得なかった。
とにかく、村の近くに寺院があること。そこの寺院に『竜の羽衣』と呼ばれるモノが
存在していることだけは確かだった。
「どうして『竜の羽衣』って呼ばれてるの?」
キュルケが質問する。
「それを纏ったものは、空を飛べるそうです」
「空を? 『風』系のマジックアイテムかしら?」
「そんな……たいしたものじゃありません」
「どうして?」
シエスタは、困ったようにつぶやいた。
「インチキなんです。いえ、それ以前に……壊れてるんです。ただ、地元の皆はそれでも
ありがたがって……寺院に飾ってあるし、拝んでるおばあちゃんとかいますけど」
それから、恥ずかしそうな口調で言った。
「実は……それの持ち主、わたしのひいおじいちゃんだったんです。ある日、ふらりとわたしの村に、
ひいおじいちゃんはあらわれたそうです。そして、その『竜の羽衣』で、東の地から、
わたしの村にやってきたって、皆に言ったそうです。でもさっきの通り、飛べないから皆信じなくて。
でもわたしの村に住み着いたおじいちゃんは、一生懸命働いてお金を作って、そのお金で貴族にお願いして、
『竜の羽衣』に『固定化』の呪文までかけてもらって、大事に大事にしてました」
話を聞いた才人は、シエスタに指摘する。
「それってようは村の名物なんだろ? そんなの、持ってきたらダメじゃん」
「でも……わたしの家の私物みたいなものだし……サイトさんがもし、欲しいって言うなら、
父にかけあってみます」
才人はそんなインチキな代物いらないと思ったが、キュルケが解決策を打ち出した。
「まあ、インチキならインチキなりの売り方があるわよね。世の中にバカと好事家ははいて捨てるほどいるのよ」
それにルイズは呆れて言った。
「つくづくひどい女ね」
一行を乗せて、シルフィードは一路タルブの村へと羽ばたいた。
とにかく、村の近くに寺院があること。そこの寺院に『竜の羽衣』と呼ばれるモノが
存在していることだけは確かだった。
「どうして『竜の羽衣』って呼ばれてるの?」
キュルケが質問する。
「それを纏ったものは、空を飛べるそうです」
「空を? 『風』系のマジックアイテムかしら?」
「そんな……たいしたものじゃありません」
「どうして?」
シエスタは、困ったようにつぶやいた。
「インチキなんです。いえ、それ以前に……壊れてるんです。ただ、地元の皆はそれでも
ありがたがって……寺院に飾ってあるし、拝んでるおばあちゃんとかいますけど」
それから、恥ずかしそうな口調で言った。
「実は……それの持ち主、わたしのひいおじいちゃんだったんです。ある日、ふらりとわたしの村に、
ひいおじいちゃんはあらわれたそうです。そして、その『竜の羽衣』で、東の地から、
わたしの村にやってきたって、皆に言ったそうです。でもさっきの通り、飛べないから皆信じなくて。
でもわたしの村に住み着いたおじいちゃんは、一生懸命働いてお金を作って、そのお金で貴族にお願いして、
『竜の羽衣』に『固定化』の呪文までかけてもらって、大事に大事にしてました」
話を聞いた才人は、シエスタに指摘する。
「それってようは村の名物なんだろ? そんなの、持ってきたらダメじゃん」
「でも……わたしの家の私物みたいなものだし……サイトさんがもし、欲しいって言うなら、
父にかけあってみます」
才人はそんなインチキな代物いらないと思ったが、キュルケが解決策を打ち出した。
「まあ、インチキならインチキなりの売り方があるわよね。世の中にバカと好事家ははいて捨てるほどいるのよ」
それにルイズは呆れて言った。
「つくづくひどい女ね」
一行を乗せて、シルフィードは一路タルブの村へと羽ばたいた。
「な……な……」
「え……? 嘘……」
空の上からタルブ村を見下ろした一行は、絶句した。地上に降り立った時には、もっと言葉をなくしていた。
タルブ村は、シエスタ曰く、何もない辺鄙な村だが、のどかで平和ないいところだという。
が、今はその面影など微塵も残っていなかった。大地は割れ、畑は無残に荒れ果て、
民家は半壊していない方が少ないありさま。ペシャンコに潰され、黒い煙がくすぶっているところもあった。
まばらにいる村民たちの顔からは、完全に生気が消えて虚ろになっている。
「ど、どういうこと? 大地震でも起きたの?」
大災害に見舞われたとしか思えないような惨状に、ルイズが思わずそうつぶやいた。
そして一行は、シエスタの先導の下、彼女の生家の前へとたどり着く。だがその家も崩壊しかけていて、
家の前には中年男性が切り株の上でうなだれていた。
「お父さん!」
シエスタはその男性を父と呼んだ。シエスタの父親は顔を上げると、シエスタの姿を確かめて驚きを見せた。
「シエスタ……! 帰ってたのか。後ろの人たちは?」
「私が働いてる魔法学院の生徒の方々です」
「要するに、貴族の方という訳か。歓迎したいところですが……すいませんが、とてもじゃないけど
出来る状態じゃありません。どうか、お許し下さい」
見るに堪えない様相のシエスタの父に謝られ、ルイズたちが逆に申し訳ない気持ちになった。
「そ、そんな、気にしないで下さいよ。それより、一体ここで何が起きたんですか? どう見ても、
普通じゃないですよ、これは」
才人が尋ねかけると、シエスタの父はタルブ村を囲む山の一つを指し示しながら、ポツリポツリと語り出した。
「十日ほどばかり前だったか……あの山に、見たこともないほど巨大な黄金色の竜が棲み着きまして、
そいつがこの村を荒らすようになったんですよ。それで、見ての通りのありさまです……」
「り、竜!?」
「いえ、荒らすと言うのはちょっと違いますね。何せ、奴はただ、ここを通り道にしてるだけなんですから……」
シエスタの父の証言に、ルイズたちは絶句した。ハルケギニアには竜が自生し、稀に竜に村を襲われて
潰されるという被害が起こることもあるが、通り道にするだけでこれほどの被害を出す竜の話は
誰もが聞いたことがなかった。一体、どんな竜であれば動くだけで村を壊滅状態にまで追い込めるのか。
しかし才人だけは、黄金色の竜と聞いて、その正体に薄々ながら察しがついた。そのため、
シエスタの父にもっと詳しく問いかける。
「あの、その竜の姿って、もっと具体的に分かりますか!?」
「具体的に……? そういえば、ウチの子が竜の絵を描いてましたね。今持ってきましょう」
シエスタの父は崩れかけている家の中に用心して入り、ほどなくして、一枚の絵を持って出てきた。
「これです。子供の絵だけど、特徴は捉えてますよ。こいつが村を滅茶苦茶に……ここまで荒らされては、
復興は無理だ。そんな金はこの村にはない。タルブ村はおしまいだ……」
「お、お父さん……」
悲嘆に暮れるシエスタの父を置いて、才人は絵を確かめる。その絵に描かれている竜は、
確かに黄金色の皮膚をしていて、首から尻尾までが芋虫のように蛇腹状になっていた。
頭部には、内側に反り返った一本角が生えている。
才人は絵の竜に見覚えがあった。前に怪獣図鑑で見た怪獣の一体と特徴が合致している。
説明文の内容を一読して、何とも贅沢な怪獣だなぁとの感想を抱いた。何せその怪獣は、
「黄金が食料」なのだ。
「こいつは……黄金怪獣ゴルドンだ!」
知らず知らずの内に、名前を口に出していた。
「え……? 嘘……」
空の上からタルブ村を見下ろした一行は、絶句した。地上に降り立った時には、もっと言葉をなくしていた。
タルブ村は、シエスタ曰く、何もない辺鄙な村だが、のどかで平和ないいところだという。
が、今はその面影など微塵も残っていなかった。大地は割れ、畑は無残に荒れ果て、
民家は半壊していない方が少ないありさま。ペシャンコに潰され、黒い煙がくすぶっているところもあった。
まばらにいる村民たちの顔からは、完全に生気が消えて虚ろになっている。
「ど、どういうこと? 大地震でも起きたの?」
大災害に見舞われたとしか思えないような惨状に、ルイズが思わずそうつぶやいた。
そして一行は、シエスタの先導の下、彼女の生家の前へとたどり着く。だがその家も崩壊しかけていて、
家の前には中年男性が切り株の上でうなだれていた。
「お父さん!」
シエスタはその男性を父と呼んだ。シエスタの父親は顔を上げると、シエスタの姿を確かめて驚きを見せた。
「シエスタ……! 帰ってたのか。後ろの人たちは?」
「私が働いてる魔法学院の生徒の方々です」
「要するに、貴族の方という訳か。歓迎したいところですが……すいませんが、とてもじゃないけど
出来る状態じゃありません。どうか、お許し下さい」
見るに堪えない様相のシエスタの父に謝られ、ルイズたちが逆に申し訳ない気持ちになった。
「そ、そんな、気にしないで下さいよ。それより、一体ここで何が起きたんですか? どう見ても、
普通じゃないですよ、これは」
才人が尋ねかけると、シエスタの父はタルブ村を囲む山の一つを指し示しながら、ポツリポツリと語り出した。
「十日ほどばかり前だったか……あの山に、見たこともないほど巨大な黄金色の竜が棲み着きまして、
そいつがこの村を荒らすようになったんですよ。それで、見ての通りのありさまです……」
「り、竜!?」
「いえ、荒らすと言うのはちょっと違いますね。何せ、奴はただ、ここを通り道にしてるだけなんですから……」
シエスタの父の証言に、ルイズたちは絶句した。ハルケギニアには竜が自生し、稀に竜に村を襲われて
潰されるという被害が起こることもあるが、通り道にするだけでこれほどの被害を出す竜の話は
誰もが聞いたことがなかった。一体、どんな竜であれば動くだけで村を壊滅状態にまで追い込めるのか。
しかし才人だけは、黄金色の竜と聞いて、その正体に薄々ながら察しがついた。そのため、
シエスタの父にもっと詳しく問いかける。
「あの、その竜の姿って、もっと具体的に分かりますか!?」
「具体的に……? そういえば、ウチの子が竜の絵を描いてましたね。今持ってきましょう」
シエスタの父は崩れかけている家の中に用心して入り、ほどなくして、一枚の絵を持って出てきた。
「これです。子供の絵だけど、特徴は捉えてますよ。こいつが村を滅茶苦茶に……ここまで荒らされては、
復興は無理だ。そんな金はこの村にはない。タルブ村はおしまいだ……」
「お、お父さん……」
悲嘆に暮れるシエスタの父を置いて、才人は絵を確かめる。その絵に描かれている竜は、
確かに黄金色の皮膚をしていて、首から尻尾までが芋虫のように蛇腹状になっていた。
頭部には、内側に反り返った一本角が生えている。
才人は絵の竜に見覚えがあった。前に怪獣図鑑で見た怪獣の一体と特徴が合致している。
説明文の内容を一読して、何とも贅沢な怪獣だなぁとの感想を抱いた。何せその怪獣は、
「黄金が食料」なのだ。
「こいつは……黄金怪獣ゴルドンだ!」
知らず知らずの内に、名前を口に出していた。
「そ、そんな……草原まで……」
シエスタの父から話を聞いた後、一行はシエスタが宝探しの旅に出る前に、才人に見せたいと語った、
草原の前へと足を運んだ。しかし、その草原もやはり荒れ果てていたため、シエスタは思わず脱力して崩れかけた。
ルイズとキュルケで慌てて支える。
シエスタは草原について、この季節になると地平線まで海のように花が咲き誇り、とても綺麗だと言っていた。
だが今目の前にあるのは、甲羅の模様のようにひび割れた大地だ。土は掘り返され、花は全滅して花びらが
無残に散っている。美しい花園は見る影もなかった。
「だ、大丈夫? ショックなのは分かるけど……」
ルイズがシエスタを気遣うが、彼女は草原の惨状を目の当たりにした衝撃のせいで、まっすぐ
立っていることも出来なかった。仕方なく、その場にゆっくりと座らせる。
「帰ってきたら、是非サイトさんに見てもらいたかったのに……。ああ、始祖ブリミル、
どうして私にこれほどの仕打ちをなさるのですか? 私が何か、悪いことでも……」
そのまま泣き崩れるシエスタ。今は変に気遣うより、そっとしておこうと才人たちは決め、
自分たちの話をすることにする。
「それで、使い魔君、何と言ったかね? この村を滅茶苦茶にしたのは、ええと……」
「ゴルドンだ」
ギーシュの聞き直しに、才人はひと言答えた。
「昨日お前、黄金泥棒の話をしてたよな? きっと、その犯人はゴルドンで間違いない。
本来は金脈を食べる怪獣なんだが、この辺には金脈はないんだってな。だから、
人間の持ってる金を奪って食べてるんだろう。その時の行き帰りでタルブ村を何度も
横切ったせいで、こんなことになっちまったんだな」
「迷惑ってもんじゃない話ね……。でもまさか、黄金泥棒の犯人がほんとに竜……いえ、
怪獣だったなんて。しかも金が食料の生き物なんて、聞いたこともないわ」
「奇想天外な食性」
キュルケたちがゴルドンについてあれこれ話し合っている間に、ルイズは才人の中のゼロにそっと、
しかしきつい口調で問いかけた。
「ゼロ、どうしてタルブ村がこんなになるまでほっといたのよ。怪獣退治のためにハルケギニアに来たんでしょ?」
それにゼロはこう返答した。
『……俺は怪獣が「暴れてる」声を出動の合図にしてる。だがゴルドンは暴れてすらいない。
だからこのタルブ村がこんなことになってるなんて分からなかったんだ。……けど、
それは言い訳でしかないな。俺の見通しが甘かった……』
ゼロが相当反省しているようだったので、ルイズは逆に気が引けた。
「あ……別に責めてる訳じゃないわ。でも分かった以上は、どうかタルブ村を助けてあげて。
これ以上の被害が出るのは見過ごせないわ」
『もちろんそのつもりだ。次にゴルドンが地上に出てきた時には、この手でタルブ村の惨劇を終わらせてやるぜ!』
ゼロが息巻いたが、ちょうどその時に、キュルケがこんなことを言い放った。
「でも黄金を食べるってことは、身体には当然黄金が溜め込まれてるってことよね。……ようし、
あたしたちの手で退治してやろうじゃないの!」
「え、ええええええ!?」
それを耳にして、ルイズや才人が思わず変な声を出した。
「あんた、本気で言ってるの!? 移動するだけで村を一つ壊滅状態に追いやるような奴なのよ!
わたしたちだけで勝てる訳ないじゃないの!」
「そうだ! 怪獣はたかだか俺たち数人で倒せるような相手じゃないんだぞ! 考え直せ!」
「昨日はその怪獣に、あたしたちの力で勝ったじゃない」
キュルケが反論すると、黄金に魅力を感じながらもさすがに脅えているギーシュが指摘する。
「それは使い魔君が怪獣の弱点を知ってたからだろう。それがなければ、勝ち目なんてなかったよ。
ここはその使い魔君の意見に従うべきじゃないかね」
そのギーシュの言葉で、キュルケがふとあることに疑問を抱く。
「……そういえば、ダーリンって怪獣なんて未知の生き物にやたら詳しいわよね。そもそも、
名称もダーリンから広まったものじゃなかったかしら?」
「モット伯の時には、奇妙な武器も使っていた。あれは、何?」
タバサにまで突っ込まれて、才人とルイズは心臓が跳ね上がった。
「そ、それはあれだよ。ええっと……怪獣は、東のロバ・アル何たらの生き物なんだ!
だから色々知ってるんだよ!」
「そ、そうなんですって! 武器もロバ・アル・カリイレ製らしいわよ! だからハルケギニアじゃ
お目に掛かれないのよ!」
才人が異世界の人間だとおおっぴらに言う訳にはいかないので、東方の地、ロバ・アル・カリイレ出身に
していることを持ち出して、ごまかそうとした。
「ふぅ~ん……? エルフの砂漠の向こうは、かなり物騒な世界なのね」
「……」
タバサはまだ疑いを残しているようだったが、キュルケは深く考えることはなかった。
とりあえずごまかせたことで、才人とルイズはほっと息を吐く。
「話がそれたわね。危ないのは分かったけど、やっぱり怪獣探しには行きましょう!
巣も大きいはずだから、すぐに見つかるはずよ」
「って、あんたまだ言うの!? いくら何でも無謀すぎよ! どれだけの黄金も、命には代えられないのよ!」
撤回しないキュルケにルイズが説教するが、反対に説かれることになる。
「けどルイズ、怪獣をどうにかしないことには、この村は救われることがないわよ。それどころか、
もっとひどいことになるのが目に見えてるわ。トリステイン軍はあてになんか出来ないしね」
「うっ……」
キュルケの指摘が正しいので、ルイズは言葉に詰まった。トリステイン軍は立て直しが進むどころか、
魔法衛士隊の一角を担ったワルドの裏切りで余計に混乱を起こしている。それ以前に、
万全の状態であったとしてもタルブ村のような辺境の地のために、多大な危険を冒してはくれまい。
「怪獣を退治しなきゃ、『竜の羽衣』どころじゃないわ。あたしたちの目的のためにも、この村のためにも、
今この場にいるあたしたちが動かなきゃいけないのよ」
「しかしキュルケ、何度も言うが、そもそも僕たちに退治は無理だよ。死にに行くようなものだ」
ギーシュが異を唱えると、キュルケはこう返す。
「退治するのはあたしたちじゃないわよ。ウルトラマンゼロにやってもらうの」
「ええ!?」
「あたしたちで怪獣を地上に誘き出して、ウルトラマンゼロを呼ぶのよ。きっとすぐにやってきて、
怪獣なんかちょちょいのちょいでやっつけてくれるわ。それだったら、出来ないことはないでしょ」
「そんな、ゼロを便利屋みたいに扱うような真似……」
ルイズは顔をしかめたが、
「じゃ、他に何か方法ある?」
と聞かれると、何も答えられなかった。ゼロはもう何もしなくともゴルドンを倒すつもりだと説明しようにも、
それを話すことは自分たちとゼロの関係を話すことにつながるので、出来なかった。
「それじゃ決まりね。善が急げだわ! すぐに行動に移りましょう。タバサ、シルフィードにもうひと働きしてもらって」
空から探す考えのようで、キュルケがタバサに頼み込む。その後ろ姿に目をやったルイズがため息を吐いた。
「キュルケの奴……この間の氷の宇宙人と、岩石怪獣を倒す助けになったからって、調子づいてるんじゃないかしら。
何だか不安だわ……」
『まぁ、そう心配するな。俺がこの通りついてるんだから、マジでやばい事態にはさせないって』
顔を曇らせるルイズに、ゼロが請け負った。そうしていると、一行の話を横で聞いていたシエスタが、
才人に問いかける。
「サイトさん……タルブ村を助けてくれるんですか?」
「えっと……それは……」
「……本当なら、そんな危険なことはしないでほしいです。けれど……もう故郷の苦しむ様子は、見たくありません。
こんな荒れ果てた草原も……。だから、すみませんが、どうかタルブ村を救って下さい……」
旅の間には、才人が危険を冒すことに消極的ながらも反対していたシエスタ。その彼女が
苦渋に満ちた顔で頭を下げたので、迷っていた才人は決心がついた。
「……分かったぜ。俺たちに任せといてくれ。絶対に、これ以上怪獣の好きにはさせないからな」
そのシエスタと才人の姿を見ては、ルイズもこれ以上反対の意見は出せなかった。
シエスタの父から話を聞いた後、一行はシエスタが宝探しの旅に出る前に、才人に見せたいと語った、
草原の前へと足を運んだ。しかし、その草原もやはり荒れ果てていたため、シエスタは思わず脱力して崩れかけた。
ルイズとキュルケで慌てて支える。
シエスタは草原について、この季節になると地平線まで海のように花が咲き誇り、とても綺麗だと言っていた。
だが今目の前にあるのは、甲羅の模様のようにひび割れた大地だ。土は掘り返され、花は全滅して花びらが
無残に散っている。美しい花園は見る影もなかった。
「だ、大丈夫? ショックなのは分かるけど……」
ルイズがシエスタを気遣うが、彼女は草原の惨状を目の当たりにした衝撃のせいで、まっすぐ
立っていることも出来なかった。仕方なく、その場にゆっくりと座らせる。
「帰ってきたら、是非サイトさんに見てもらいたかったのに……。ああ、始祖ブリミル、
どうして私にこれほどの仕打ちをなさるのですか? 私が何か、悪いことでも……」
そのまま泣き崩れるシエスタ。今は変に気遣うより、そっとしておこうと才人たちは決め、
自分たちの話をすることにする。
「それで、使い魔君、何と言ったかね? この村を滅茶苦茶にしたのは、ええと……」
「ゴルドンだ」
ギーシュの聞き直しに、才人はひと言答えた。
「昨日お前、黄金泥棒の話をしてたよな? きっと、その犯人はゴルドンで間違いない。
本来は金脈を食べる怪獣なんだが、この辺には金脈はないんだってな。だから、
人間の持ってる金を奪って食べてるんだろう。その時の行き帰りでタルブ村を何度も
横切ったせいで、こんなことになっちまったんだな」
「迷惑ってもんじゃない話ね……。でもまさか、黄金泥棒の犯人がほんとに竜……いえ、
怪獣だったなんて。しかも金が食料の生き物なんて、聞いたこともないわ」
「奇想天外な食性」
キュルケたちがゴルドンについてあれこれ話し合っている間に、ルイズは才人の中のゼロにそっと、
しかしきつい口調で問いかけた。
「ゼロ、どうしてタルブ村がこんなになるまでほっといたのよ。怪獣退治のためにハルケギニアに来たんでしょ?」
それにゼロはこう返答した。
『……俺は怪獣が「暴れてる」声を出動の合図にしてる。だがゴルドンは暴れてすらいない。
だからこのタルブ村がこんなことになってるなんて分からなかったんだ。……けど、
それは言い訳でしかないな。俺の見通しが甘かった……』
ゼロが相当反省しているようだったので、ルイズは逆に気が引けた。
「あ……別に責めてる訳じゃないわ。でも分かった以上は、どうかタルブ村を助けてあげて。
これ以上の被害が出るのは見過ごせないわ」
『もちろんそのつもりだ。次にゴルドンが地上に出てきた時には、この手でタルブ村の惨劇を終わらせてやるぜ!』
ゼロが息巻いたが、ちょうどその時に、キュルケがこんなことを言い放った。
「でも黄金を食べるってことは、身体には当然黄金が溜め込まれてるってことよね。……ようし、
あたしたちの手で退治してやろうじゃないの!」
「え、ええええええ!?」
それを耳にして、ルイズや才人が思わず変な声を出した。
「あんた、本気で言ってるの!? 移動するだけで村を一つ壊滅状態に追いやるような奴なのよ!
わたしたちだけで勝てる訳ないじゃないの!」
「そうだ! 怪獣はたかだか俺たち数人で倒せるような相手じゃないんだぞ! 考え直せ!」
「昨日はその怪獣に、あたしたちの力で勝ったじゃない」
キュルケが反論すると、黄金に魅力を感じながらもさすがに脅えているギーシュが指摘する。
「それは使い魔君が怪獣の弱点を知ってたからだろう。それがなければ、勝ち目なんてなかったよ。
ここはその使い魔君の意見に従うべきじゃないかね」
そのギーシュの言葉で、キュルケがふとあることに疑問を抱く。
「……そういえば、ダーリンって怪獣なんて未知の生き物にやたら詳しいわよね。そもそも、
名称もダーリンから広まったものじゃなかったかしら?」
「モット伯の時には、奇妙な武器も使っていた。あれは、何?」
タバサにまで突っ込まれて、才人とルイズは心臓が跳ね上がった。
「そ、それはあれだよ。ええっと……怪獣は、東のロバ・アル何たらの生き物なんだ!
だから色々知ってるんだよ!」
「そ、そうなんですって! 武器もロバ・アル・カリイレ製らしいわよ! だからハルケギニアじゃ
お目に掛かれないのよ!」
才人が異世界の人間だとおおっぴらに言う訳にはいかないので、東方の地、ロバ・アル・カリイレ出身に
していることを持ち出して、ごまかそうとした。
「ふぅ~ん……? エルフの砂漠の向こうは、かなり物騒な世界なのね」
「……」
タバサはまだ疑いを残しているようだったが、キュルケは深く考えることはなかった。
とりあえずごまかせたことで、才人とルイズはほっと息を吐く。
「話がそれたわね。危ないのは分かったけど、やっぱり怪獣探しには行きましょう!
巣も大きいはずだから、すぐに見つかるはずよ」
「って、あんたまだ言うの!? いくら何でも無謀すぎよ! どれだけの黄金も、命には代えられないのよ!」
撤回しないキュルケにルイズが説教するが、反対に説かれることになる。
「けどルイズ、怪獣をどうにかしないことには、この村は救われることがないわよ。それどころか、
もっとひどいことになるのが目に見えてるわ。トリステイン軍はあてになんか出来ないしね」
「うっ……」
キュルケの指摘が正しいので、ルイズは言葉に詰まった。トリステイン軍は立て直しが進むどころか、
魔法衛士隊の一角を担ったワルドの裏切りで余計に混乱を起こしている。それ以前に、
万全の状態であったとしてもタルブ村のような辺境の地のために、多大な危険を冒してはくれまい。
「怪獣を退治しなきゃ、『竜の羽衣』どころじゃないわ。あたしたちの目的のためにも、この村のためにも、
今この場にいるあたしたちが動かなきゃいけないのよ」
「しかしキュルケ、何度も言うが、そもそも僕たちに退治は無理だよ。死にに行くようなものだ」
ギーシュが異を唱えると、キュルケはこう返す。
「退治するのはあたしたちじゃないわよ。ウルトラマンゼロにやってもらうの」
「ええ!?」
「あたしたちで怪獣を地上に誘き出して、ウルトラマンゼロを呼ぶのよ。きっとすぐにやってきて、
怪獣なんかちょちょいのちょいでやっつけてくれるわ。それだったら、出来ないことはないでしょ」
「そんな、ゼロを便利屋みたいに扱うような真似……」
ルイズは顔をしかめたが、
「じゃ、他に何か方法ある?」
と聞かれると、何も答えられなかった。ゼロはもう何もしなくともゴルドンを倒すつもりだと説明しようにも、
それを話すことは自分たちとゼロの関係を話すことにつながるので、出来なかった。
「それじゃ決まりね。善が急げだわ! すぐに行動に移りましょう。タバサ、シルフィードにもうひと働きしてもらって」
空から探す考えのようで、キュルケがタバサに頼み込む。その後ろ姿に目をやったルイズがため息を吐いた。
「キュルケの奴……この間の氷の宇宙人と、岩石怪獣を倒す助けになったからって、調子づいてるんじゃないかしら。
何だか不安だわ……」
『まぁ、そう心配するな。俺がこの通りついてるんだから、マジでやばい事態にはさせないって』
顔を曇らせるルイズに、ゼロが請け負った。そうしていると、一行の話を横で聞いていたシエスタが、
才人に問いかける。
「サイトさん……タルブ村を助けてくれるんですか?」
「えっと……それは……」
「……本当なら、そんな危険なことはしないでほしいです。けれど……もう故郷の苦しむ様子は、見たくありません。
こんな荒れ果てた草原も……。だから、すみませんが、どうかタルブ村を救って下さい……」
旅の間には、才人が危険を冒すことに消極的ながらも反対していたシエスタ。その彼女が
苦渋に満ちた顔で頭を下げたので、迷っていた才人は決心がついた。
「……分かったぜ。俺たちに任せといてくれ。絶対に、これ以上怪獣の好きにはさせないからな」
そのシエスタと才人の姿を見ては、ルイズもこれ以上反対の意見は出せなかった。
そしてルイズたち一行はシルフィードに跨って、ゴルドンの巣を探しに山へ向けて飛び立った。