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ゼロのドリフターズ-25



「午後より本戦を行う戦士たちに盛大な拍手を!!」
選手達は出てきた順番に退場していく。
「賭けは午前で一度締め切られますが、時間には余裕があるので焦らなくても大丈夫!!
 受付に対戦表の書かれた札が立っていますが、その前に――」

 『土くれ』のフーケもといマチルダ・オブ・サウスゴータ。
彼女はウェールズの言葉を聞きながら、人知れず憂鬱な最中にあった。
確かに釈放された。王家への忠誠と奉仕を約束したが・・・・・・何故こんなことに――
されどもう考えることをやめる。あらゆることに対して覚悟していたことだ。

「――エキジビションマッチ!!」
テンションが最高潮のウェールズが正直鬱陶しい。余興に出させられるのも億劫だ。
しかし文句一つ、愚痴一つも零せないのが今の立場。もう開き直るしかない。
それに・・・・・・多数の好奇の目に晒されるのは、盗賊時代に慣れてはいる。
ただ恐怖し慌てふためくそれではなく、自分達への興奮と情熱に置き換わるだけ。

「そのエキジビションマッチを務めるは、とある凄腕メイジのマチルダ!!
 そしてぇ・・・・・・このわたし、ウェールズ・テューダー!!」
ウェールズはそう叫ぶと観客の大歓声と共に、実況席から『飛行』で華麗に闘技舞台へと降り立つ。
マチルダはバチッと頬を両手で叩いて活を入れる。

(あの子達も見に来てることだしね・・・・・・)
よりにもよってあのシャルロットが言い出した。
特にティファニアに、外の世界を見せたいという気持ちはわからないでもない。
人が多ければ多いほどにそれだけ紛れるし、気に留まらないものだ――と、連れ出して来た。
確かに、いつまでも村の中だけの世界に閉じこめておくわけにもいくまい。
いつかはどうにかして外を体験させてやりたいと思っていたし、これもまた良い機会だと許した。
新しく居候になったあの使い魔の小僧も、頼りないながらもいる。

 マチルダは闘技舞台へと歩き出す。テファや子供達の、期待込めて喜んでいた顔ときたら――
そんなこんなで引き受けてしまった。もう後戻りは出来ないのであれば・・・・・・――

「精々盛り上げてやろうじゃないか!」


 "タバサ"もとい"シャルロット"は客席からエキジビションマッチを眺める。
誰か知人と合流しようとも思ったが、変装している上に大勢の客席から見つけるのは大変である。
本選出場者と共にいれば、それこそ諸々のトラブルが出てしまいかねない。
出場者は既に対戦順と相手を知っている。次にあの上に立つのは最後から二番目。
時間的にたっぷりと余裕はあるが、今はじっくりと観察することが肝要だ。
実際にルールとのすり合わせを確認し、戦法を練って、勝ちを狙いに行く。

 ――まずは普通の地上剣戟。マチルダとウェールズは互いに木剣をぶつけ合う。
次に『飛行』による空中機動戦へと発展した。
恐らくそこまでは決められた中での動き。観客を魅せる為の殺陣である。
そして僅かにだが空気が――雰囲気が変わる。恐らくは真剣勝負へと移行したのであろう。
決着と勝敗まで含めての段取りでないのは、武人ウェールズの気質ゆえか。
互いに一歩も引かない本気の攻防が繰り返される。マチルダもノリノリのようだった。

 闘争者としても実力あるトライアングルクラスメイジ同士の対決。
攻撃や防御に魔法を割かない白兵戦だけでも、相当に見応えのあるものであった。
風を完全に味方につけたウェールズに押され気味ではあるが、しかしマチルダもさるもの。
華麗な体術を駆使して、ギリギリのところで追い詰められぬよう喰い下がる。

(持久戦・・・・・・か)
全開のウェールズ相手に競っても押し負けるとマチルダは判断したのか。
消費を抑えて相手の魔力切れ作戦に切り替えたように見受けられた。
柔軟な決断力は、やはり盗賊として活動し続けたフーケなだけあり、見習うべきことは大いにある。
とはいえ――ウェールズも既に勘付いているのだろう。より苛烈に短期決戦へと持ち込もうとしている。
『飛行』以外の魔法は基本的に使わないのだから、精神力総量を考えれば余裕分をそれだけ割ける。

 ――最終的にウェールズが押し切り勝ちをした。やはり風系統はルール上強い。


(まずはアニエスさん・・・・・・)
シャルロットは歓声を浴びる二人を見つめながら、一回戦の相手を思い浮かべる。
自分もお預かり扱いである銃士隊の隊長。以前にも王都で何度か会ったことがある。
魔法を使えないがゆえに、逆にメイジというものをよく調べ、それを討つことに特化している――
いわゆる"メイジ殺し"と呼ばれる類の人間。

 魔法を使えぬと侮れば手痛いしっぺ返しを喰らうことだろう、それが致命に繋がる場合もある。
事実、第一次審査を通り、第二次予選をも勝ち抜いて来たのだから。

 エキジビションマッチが終わると、客がどんどん動き始める。
それにしても自分は運が良い。有力候補達が潰し合うブロックから、見事にはずれてくれた。
後は流れさえ掴めれば意外と良いところまでイケるかも知れないと、シャルロットは心の中で密かに期待した。


 本戦大会は二日に渡って行われる。
1日目の午前に選手紹介と賭けの受付。午後に第一回戦を8戦。
2日目の午前に第二回戦を4戦。午後に準決勝戦と優勝決定戦、そして表彰である。

 既に一日目午後も後半戦へと差し掛かっていた――
第1試合はブッチが一瞬で勝負を決めた。
第2試合はワルドが風メイジの強さを見せつけた。
第3試合はジャックと言う巨漢が、その肉体で圧倒的な勝利を収める。
第4試合はシャルルがあっさりと勝ち進んだ。

 ブッチとシャルルは予想通りで驚くべきことではない。
ワルドも流石は魔法衛士の面目躍如と言ったところであった。
それぞれ相手のメイジはそれなりの実力者であったようだが、歯牙にもかけていなかった。

 しかしジャックがまさに青天の霹靂。魔法を使うことなく、対戦相手を屠り去ったのだ。
あの筋肉の鎧とも言うべき肉体は伊達ではなく、むしろ想像以上。
相手の攻撃を、微動だにせず躰で軽く受け止め、拳を胴体に一撃。
そのまま相手は殴り上げられて空中を舞い、落ちてきたのをジャックが掴んで終わり。
杖を出すこともなく、片腕だけで決着させたその姿は異様に過ぎた。
明日の第二回戦は、正直誰が勝ってもおかしくない。まさに大激戦区の様相を呈している。

 続いて第一回戦の後半戦、第5試合。圧倒的なリーチでドゥドゥーという男が相手を叩き落とした。
長大剣を肩に担いで支点とし、さながら寄る天秤が如く振り下ろした一斬で粉砕。
兄らしい巨漢のジャックですら不釣り合いだろう斬馬剣。
ありえない長さを誇る剣を、持て余すどころかそれでも足らないと思わせるほどの扱い。
ジャックに比べればむしろ貧弱に見えかねないほどの体格。
一体どうやってあれほどの力を捻り出しているのか疑問しか浮かばない。

 メンヌヴィルもそうだったが――やはり世界は広い。未だ見ぬ強者はいくらでもいるのだと感じ入る。
シャルロットは身を震わせつつ、迫る出番の為に既に気持ちを高めつつあった。


「んん・・・・・・」
ジョゼットは改めて相対して思う。ハルケギニアでは地方によって不吉ともされるオッドアイ。
そんな空に浮かぶ双月の色をした月眼であることが、些末に思えるくらいの美形だった。
お父さまの次くらいには――

「こんなに大勢いる人達の前で、ぶっ飛ばすのは気が引けるかな」
「ははっ、ありがとう。確かにぼくの顔に傷がつけば、それは世の女性全てにとっての損失だ。
 けれど今この時、この場において、ぼくの全ては君の為だけにある。気兼ねすることはないさ」
月眼の男ジュリオは、髪をかき上げつつジョゼットを見つめる。

「神官さんを――ってことよ。それと歯の浮くような台詞は、もっと安っぽい女の人に言うことね」
半眼で呆れ顔のジョゼットにジュリオは肩を竦める。学院でもこの手のような軽薄男は何人かいた。
しかも大概がしつこかったので、ウンザリするほどあしらうのは慣れたものである。

「還俗の許可もあるから肩書きを気にすることはない。それで、君は安っぽくないって? ジョゼット」
「気安く名前を呼ばないでね」
ニッコリとジョゼットは満面の笑顔で恫喝する。ジュリオは木剣を持ったまま両手を上げた。
「やれやれ手厳しい、どうしたら認めてもらえるのかな?」
「わたしに勝ったらね」
「了解。試合でも女性に暴力を振るうのは主義じゃないんだが・・・・・・。君は対等に見るとしよう」
ジュリオは不敵な笑みを浮かべる。ジュリオはジュリオで女性の扱い方は手馴れている。
相手が欲していること、何を求め、何を望み、どう扱ってほしいのかをすぐに察し応対する。

「・・・・・・魔法、使えないんでしょ?」
純粋にジョゼットは確認する。魔法を使えない相手に全力を出すのは大人げないというか――躊躇してしまう。
「気後れすることはないさ。ぼくとてこの場に立った男。君に勝って堂々とその名を呼ぶことにしよう」
「・・・・・・そ、じゃあ始めましょうか。ちょっと話し過ぎたしね」
スッとジョゼットは長杖を構え、ジュリオも応じるように木剣を自然体に構える。

 構えがないように見える構え。相手の状況に応じる待ちの姿勢のようである。
(余裕ぶっちゃってさ)
実況のウェールズの声も。今は解説席に座っているウェールズとエキジビションで戦った女の声も。
有象無象の人の声も、自分の世界から切り離される。耳に入らなくなる。
メイジとしてのせめてもの情けだ。一瞬で決める。
それに明日にも試合が控えている以上は、無駄遣いは出来ない。
お父さまやシャルロットのような余裕なんてあるわけない。精神力の配分もまた戦略だ。

 ブワリとジョゼットが螺旋を描くように空中を踊る。
魔法を使えぬジュリオに対して、空中は絶対の安全領域。
さらに考える暇を与えずに、真上の死角から一撃を見舞う、それで終わり――

 ――にはならなかった。
ジュリオは数瞬前にこちらへと見上げて、目が合ったかと思えば・・・・・・皮一枚で躱して斬り上げた。
ギリギリの杖捌きで反射的にカウンターを防御するも、集中力は途切れてしまっていた。
地面を転がりながら距離をとりつつ、ジョゼットは心を落ち着ける。

 しかし起き上がる頃にはジュリオは距離を詰めて二撃目を繰り出し、なんとか競り合いに持ち込む。
こちらは両手、向こうは片手だが、それでも単純な膂力差では互角が限度であった。
「やるね」
ジュリオは僅かばかり滲んだ冷や汗の中に、平静と余裕を装う。
「あなたこそ」
負けじとジョゼットも切り返す。油断はなかったにも拘わらずしてやられた。紛れも無い本物だ。

 ジュリオがすぐさま両手で木剣を握って押し込もうとする瞬間――
ジョゼットは弾かれたように跳んで間合いをとった。
「振り出しか」
そう言ってジュリオは、またも待ちの構えをとった。

「そうでもないわ、わたしには動揺があるもの」
「でも代わりに慎重さが生まれた。どっこいどっこいさ」
あくまで冷静さを崩さないジュリオに、ペースを握られていた。
追いすがって攻め立てられたのに、追撃してこない不自然さ。
背中の方でゾワゾワと嫌な予感がしてきて、ジョゼットは思考を切り替える。
ここは姉――シャルロット流でいくことにする。

「ふ~ん・・・・・・解せないわね。どうして畳み掛けないの? こっちは詠唱完了してるわけじゃないのに」
流れを変える糸口を探す。ゆえに話を交わす。聞こえない観客達には悪いものの、これもまた戦術だ。
ジュリオの気性を利用して、勝つ為に手練手管を行使する。
一旦リセットし、改めてこちらが流れを掌握する。支配する。
「・・・・・・そうだね、でもセオリー通りじゃ勝てない。メイジの想像の範疇になるからね。
 それにぼくにとっては、今のスタイルが一番なのさ。何事も無理するのは良くないことさ」

 なるほど、言いたいことはわかる。確かに予想外のことをするというのは、虚を突く上で重要だ。
だが奇をてらうだけで勝てるわけではない。そこには必ず意味がある筈なのだ。
待ちの状態から魔法を使わせ、相対速度もものともせず、こちらの機動を完璧に読み切ってきた事実。
そして今も同じ構えを繰り返してこちらを待っている。
つまり先ほども奇をてらったわけではなく、あれが本当に彼のスタイルそのもの。

「・・・・・・で、つまりはどういうカラクリ?」
魔法を使えないジュリオの戦い方の全てが理屈には合わない。
白兵戦前提で選択肢が限られるとはいえ、まるで掌の上で転がされたような心地だった。

「そうまで求められちゃ仕方ないな」
ジュリオは唇の端を持ち上げると、あっさりと語り出す。
「色々な生き物に触れているとね・・・・・・その内、何もしなくても呼吸や考えていることがわかってくるんだ」
何を言っているのかはよくわからないが、ジョゼットはとりあえずジュリオの話に聞き入る。
「それらが高じてね。人間だって突き詰めれば同じなんだ。
 個々人独特の呼吸や好む距離、流れというものがある。
 それらを無理なく誘導してやればいい。闘争において考えることなんてたかが知れているしね」

「そう・・・・・・よくわかんないけど、凄いんだ?  わたしもあなたに読まれてると」
「君は割と素直だったよ。空に上がればより限定的だ」
ジョゼットは苦い顔をする。確かに死角を狙うは常套過ぎではあった。
そうは言っても実際に反応するのは難しい。圧倒的な速度差というものがある。
そこをカバーしたのがジュリオの言うところの"読み"なのだろう。

「それとさ――」
ジュリオは途中で言葉を止めて考え込むような仕草を見せる。
「・・・・・・それと?」
問うた瞬間であった。否、問うてるまさにその瞬間――
眼前に迫るジュリオの木剣。無意識の動きだけで、なんとか逸らして受け流す。
「・・・・・・っと、ちょっと遠かったか。まあ今みたいに意識の間隙を突くことも可能ってわけさ」

 危なかった。ただ対応し易くするだけでなく、こちらに洞察させない為の自然体でもあったのだと。
ジョゼットは戦慄を覚えると同時に笑い、「ウィンデ」と呟くと魔力を開放した。
差し当たり問答した甲斐はあった。ギリギリだったが布石は機能し、『飛行』は開放される。

 そして、なれば――もう何も考えない。

 ジュリオは強い。こんな相手は今まで戦ったこともない、ただただ楽しくなってきた。
取り巻くオーラは――魔力は渦巻く気流となって我が身を包み込む。

「ふむ、"言葉の中にルーンを混ぜていた"のかな?」
ジョゼットは首肯し、ジュリオを見据えた。
ジュリオは心の中で焦燥を覚えつつ、心臓の音を大きく一度だけ聞く。
(これはまずいな・・・・・・)
ジョゼットの選んだ次なる一手。そして思わず見惚れてしまった――その決意の込められた一色の笑顔。

 雪でも混じっているかのような冷たい風が肌を撫でていたが、それもすぐに止む。
ジョゼットの周囲に凝縮されて、今にも破裂せんばかりに解放を待っていた。
時間にして数秒程度だろうか。その後に一気に噴き上がった風は、少女の最大戦速を叩き出す。
魔法に身を任せる。そこには呼吸も流れもない。ただ指向を定め自然に放出するだけ。

 圧倒的な能力差によるゴリ押しは、相手を読むジュリオにとって最も恐れるべきこと。
生身では抗しえない領域。動きも反射にもどうしたって限界はある。
彼女自身タイミングなんて考えていない。ただ己のポテンシャルを発揮させるだけ。
溜まり続ける魔力を抑え続け、臨界となり解き放たれるのを待っただけ。
こうなっては回避は至難、防御するのもほぼ不可能だ。なればこそせめて相打ちにと木剣を薙ぐ。

 しかし僅かに杖に触れて軌道をズラすが程度に留まる。
そのまま少女が持つ長杖の、曲がり丸まった太い鈍器部分が左肩口へと炸裂する。
二人は暴風にまとめて吹き飛びながら、場外の客席外壁に激突して轟音を残す。
最後の最後に風がある程度クッションとなってくれたおかげで、ジュリオも何とか気を失わずに済んだ。

 ルール上、場外からすぐに戻ることが出来なければ敗けとされる。
・・・・・・ものの、既に闘争の様相を呈していないことからジョゼットも見下ろして笑うのみ。
審判もすぐに駆け寄って来ると、倒れているジュリオの意識を確認してくる。
「ぼくの負けだ」
剣は既に落ち、まだ動く右手を上げて降参し勝負は決した。

「おーっと、ここでジョゼット選手の勝ォォォ利ィ!! 決め手はやはり・・・・・・?」
「速度差だね」
解説席に収まるマチルダが、簡潔明快に言う。

「強かったわよ、"ジュリオ"」
そう言ってジョゼットは降参の為に上げたジュリオの右手を掴む。
ジュリオは応じるように笑うと力を込めて立ち上がった。
「ありがとう・・・・・・"ジョゼット"」

 それだけで会話は終わり。
互いに認め合った――今はただそれだけで良かった。


「よろしく頼む」
「こちらこそ、お願いします」
アニエスは淡泊に、タバサは声のトーンを変えつつ、互いに礼を交わす。

 アニエス・シュヴァリエ・ド・ミランは、試合が始まる前よりずっと考えていた。
シャルル殿やワルド殿に倣い、あくまで余興として参加してみたつもりだった――
――のだが、まさか本戦まで出場相成るとは思ってもみなかった。
衆人環視に晒されるのはあまり気持ち良いことではない。
同時に己の鍛えた武が認められたような気がして、少なからず嬉しくもある。

 かつて"故郷"が燃やされた。疫病があったとして、ダングルテール地方が標的となった。
幸いにも住む場所を一時的に失うだけに留まり、時間は掛かったものの、王家の方から直接正式に謝罪と賠償があった。
後に女王陛下に調べてもらったことであるが、その真相は新教徒狩りであったと言う。
私欲に目が眩んだ貴族が当時のロマリアからの圧力によって断行したこと。

 その命令の内容が村ごと殲滅と言うのだから、考えるだけで空恐ろしい。
実際に自分自身は死に掛けた。しかし"一人の男"が助けてくれたからこうして生きている。
身を呈して守りながらも、村を燃やす誰かと戦っていたその人物を尊敬した。
結局未だに名前すらわからないし、その姿もうろ覚えだ。今も生きているのかもわからない。

 その者もほぼ間違いなく、村を殲滅する為に来た人間だったのだろう。
けれども件のメイジは、平民である己の生き方に大きく影響した人物となった。
自分も己の力をもって誰かを守れるような、そんな人間でありたいと志した。
そして焼かれた村に手厚く尽くしてくれた、トリステイン王家をその方向性とした。

 ここまで来るのに・・・・・・およそ20年もの歳月を要した。
鍛錬に次ぐ鍛錬。たゆまぬ研鑽の日々は決して楽なものではなかった。
何より平民に過ぎない女が、剣一本で出世していくのは並々ならぬことであった。
それでも子供ながらに抱いた夢というのは存外強固なもので。
運も味方し、こうして生きて、メイジに混じって大観衆見守る舞台にまで立っている。

 オルテとは常に抗争状態にある為に、戦場に困ることはなかった。
敵の大規模遠征軍も殆どなく、死線にありながらも劣勢ということは少なかった。
安定した戦況の中で、少しずつ、確実に、武功を積み重ねた。
途中で剣のみの限界を感じ、発展しつつある銃を使うようにもなった。
それらが功を奏してか、アンリエッタ女王陛下が新設するという『銃士隊』に配属された。

 魔法を使わない武器を扱うこと。よって平民から優先的に選ぶこと。おあつらえ向きであった。
直属親衛隊の立場は畏れ多く、一足飛びな感覚もあって最初こそ不安も覚えたものの――
今は自信をもってここにいる。隊長として、弱味の一つすら見せてはいけない。
より多きに尽くす為には常に十全でなければならない。
常に全力であり続ければ、いずれ実力も追いついてくると。


 試合開始の合図と共に、アニエスは無心となる。メイジを相手にする際に余計な思考はいらない。
魔法が使えない時点で、既に相手にアドバンテージがある。
一瞬の迷いすらもそのまま敗北、戦場であれば死にも直結する。
今大会の直接攻撃魔法の禁止のルールであっても、やることは何一つ変わらない。

 毛ほども感じないくらいの些少な雰囲気の移りに、アニエスは地面を蹴り込む。
対メイジの基本にして奥義。"魔法を使われる前に叩く"。言うは易し、行うは難し。
それが出来れば誰も苦労はしない。詠唱と言ってもルーンを数語、動きながらでも詠唱は可能なのだ。

 時間にすれば本当に僅か。出鼻を挫くその一瞬を、アニエスはやる。
成功率は決して高くはない。銃で牽制を入れたいところではあるが、ルール上は木剣のみ。
詠唱しようとするかしないかという虚を突くからこそ、相手の乱れを誘う。
一度駆け出したならば、それこそ銃から発射された鉛弾のように一直線に突っ込む。

 剣を肉体の陰に隠して間合いを掴ませない。そして切っ先が丁度届く距離で突き気味に振り下ろすだけ。
点の刺突ではなく僅かな線の斬撃。余計なフェイントはいらない。最高のタイミングに、最短距離を、最速で。
木剣の軽さによる腕の振りが速いだけでなく、さらには長めにしていた為にいつもより届くのが速い。
体が覚えている繰り返した動作に、無意識的に修正が加わるだけ。

 普通のメイジであれば、その刃でもって一撃で致命傷を与えなければ反撃を喰らう可能性がある。
しかし大会において攻撃魔法が禁止である以上その心配はない。
とはいえ初撃で痛烈な一発を与えられるか与えられないかでは後々に大きく関わってくる。

 アニエスの渾身の一斬は――タバサの体に触れることはなかった。
体躯を捻りながら左手の短剣で軌道を"逸らされた"のだった。
アニエスは腕をそのまま勢いに逆らわず、剣が地面に当たらぬよう腕を畳む。
さらには軸のブレぬ駒のように一回転し、連続して右手の木剣を横殴りに払った。

 屈んでは避けられない。跳躍には一歩遅く躱せない。絶妙に胴体部を狙う軌道。
なればこそ合わせるように、タバサは横方向へと跳んだ。
アニエスはすぐさま反応すると、追従するように刺突を見舞う。
さらに途中で手首を返し、切り上げるように、タバサの頭部を狙い木刃を滑り込ませた。
流れ舞うような四段攻撃はタバサの髪を掠り、数本切断しただけに留まる。
間一髪間に合った『飛行』の魔法によって――間合いが大きく開かれた。


(・・・・・・参考にならない)
遠間に見据えるその構えと威圧感に、"メイジ殺し"としての凄味をシャルロットは感じ入る。
魔法が使えない劣等感から今まで学んできた、こちらのにわか"メイジ殺し"とは格が違った。
自分のは所詮机上のそれであり、アニエスのは実戦によって積み上げられたそれ。

 絶対的な年季の違い。20年もの研鑽と経験はどうあっても真似出来ない、覆せない。
およそ10年にも及ぶ実力の開きは、魔法によって埋めるしか方法はないようである。
ひとえに倒されなかったのは、魔法を使えないからこそ心身をしっかりと鍛えていたからだ。
地下水の存在にあぐらをかいていたなら――確実に遅れを取っていた。

 アニエスは無駄口を叩くこともなく、澄み切った曇り一つない刃のように睨み続ける。
そこには余計な感情はなく、ただ勝つという一点のみが凝縮された双眸。
"メイジ殺し"のイロハを実地で体感しようと――胸を借りるつもりでいた。
侮っていたわけではないが、所詮試合だと――負けても問題はないと思っていた。
しかしアニエスが瞳にたたえる色は違う。死合と変わらぬ緊張感が宿っている。

 ――学ぶ。それまた重要な武器だ。
戦い方は参考にならないが、その覚悟と勝利への一念を己の内に取り込む。
そして勝ち進めればさらに魅力ある相手とも戦い、学べるのだから。
そもそもアニエスはその気になればいつでも、戦えないこともない相手だ。
武技大会という貴重な機会に、無理する必要はない打算もある。


 ――タバサは無造作に近付きつつ、先刻その身で体感したギリギリの間合いでおもむろに木剣を投げ付けた。
同時にアニエスへ向かって駆け出す。アニエスは己に向かって来る木剣を弾くか避けるか瞬時に選択する。
回避――こちらの動きを誘導させるにしてもたかが知れていると。
それよりも己が剣筋を、縦横無尽に読ませないことをアニエスは優先した。

 タバサにとってはどちらでも構わなかった。本命は次の一手にこそある。
肉体が軋むほどに、アニエスの目前でブレーキをかけながら、タバサは『飛行』を解放する。
魔法はタバサではなく、"投擲した木剣"へと作用してアニエスに再度襲い掛かる。
ルールの隙。相手への直接魔法ではなく、あくまで自分の武器。
そして得物を二本持っているゆえに、片方は最悪捨てても敗北とはならない。

 普通は片方に杖を持つものだが、地下水が杖代わりだからこそ使える荒業。
それでもなお背後に反応したアニエスには驚嘆の言葉を送りたいところである。
されど改めて加速してクロスレンジまで近づいたタバサにまでは、有効な対応は出来ない。

 迫ってきた木剣を、振り返りざまに打ち落として崩れたアニエスの体軸。
タバサは逃さず右手でアニエスの肩を掴んで、地面へと思い切り叩き付ける。
すぐさま首元まで短剣を持って行き、アニエスは完全な死に体となった。
次の瞬間には木剣がタバサの手元まで戻り、隙らしい隙は消える。


「おぉぉぉっとぉぉおおお!! これはーっ!?」
ウェールズが声を挙げる。審判はとりあえず戦闘を一時中断した。
ルールの上では何ら反してはいない。抵触していない以上は反則負けもない。
反則負け宣告されるようなら、正当に抗議するだけの話だった。

 その上で再戦であればそれはそれで良し。今の内に裏技が駄目なのか確認は出来る。
「なるほど、上手いこと穴を突いたもんだね」
解説のマチルダが得心したように口を開く。
「・・・・・・確かに直接的に対戦相手に魔法を使ったわけではありません・・・・・・が、とりあえず審判団の判定を待ちましょう」
副審も出張ってきて協議が開始される。観客席はざわついていた。

「一つ勉強になった、あのように魔法を使うとはな」
横臥したままアニエス自身は判定を審判に任せているようであった。
「・・・・・・普通はあのような使い方はしませんが」
魔法が使えるのならば、わざわざ武器を飛ばすなどと、そんなまどろっこしいことはしない。
さらに体面や在り方を気にする貴族では、まずやらないような野蛮な戦法だ。
それゆえに今この試合場では非常に有効な攻撃法であった。

 軌道制御に集中力はいるものの、自身は守りに徹する。
短剣だけでも十二分に食い下がれる自信あってのもの。
後は飛翔武器を破壊でもされない限り、何がしかの形で相手を崩せる。
ルールに逆らわないままに多対一の状況を作り出せる変則二刀流。

「結果が出たようです。判断は――続行、続行です!!」
「まっ妥当だね、ルールの裏を読むのもまた戦いさ」

 仰向けのアニエスに、ほぼ馬乗りになって短剣を突き付けている形のタバサは問う。
「さて、どうします」
「ふむ・・・・・・あがいてもいいが、実戦と見れば生殺与奪が握られている状況。それに今後も再戦する機会はあろうし――ミス・シャルロット」
投げかけられた名前に動揺することはなく、シャルロットは返す。
「よくわかりましたね、結構自信あったつもりですが・・・・・・」
「これほど近くに顔があれば当然でしょう。それに
顔をきちんと覚えるのも仕事に必要な時があります」
「なるほど。・・・・・・一応秘密でお願いします」
「心得ました、それではまたいずれ」
「はい、いずれまた」

 お見合いのように双方見つめたまま笑う。そうしてアニエスは審判に降参を告げ、勝負は決着した。


 タバサが入場口をくぐると次の試合選手が壁に寄りかかっていて、ふと目が合い話し掛けられる。
「面白いもんだね、魔法ってさ」
「・・・・・・どうも」
――シャナオウ、東方から来たという剣士。エルフの領域のさらに先に存在する、ある意味漂流物ばりに珍しい。

「次に闘うのが楽しみだよ、君のように手段を選ばないのは特にね」
己の勝利を信じて疑わない態度。同時に感じた得体の知れなさに、心の中でさざ波が立つ。
仮面を被って本心を覆い隠し、一段高いところから見下ろし嘲笑うような不気味さ。
「・・・・・・褒め言葉と受け取っておきます」
「もちろん、僕と戦う時も存分にやってくれ」

 シャナオウの浮かべる笑みに嘘の色は窺えない。心底面白がっている風である。
「無論です、東方の人と戦う機会など早々あるわけではないですし、腕にも自信がおありのようですので」
「あっはは、君も楽しみにしていてくれていいよ」
慢心もなさそうであった。つまり状況を冷静に分析した上での自信。
次の第8試合の勝ちを確信し、第二回戦で当たる時までを見据えた会話。
先のジュリオ、アニエス、そしてシャナオウ。
魔法が使えなくとも、皆が皆一筋縄ではいかない実力者達。

「この度は・・・・・・腕試しですか?」
ふと聞いてみる。わざわざ武技大会へ出場した理由。なんとなく富や名声を求めているようには見えなかった。
「あぁ、見極めるのさ。見聞を広めて僕の立場を――僕の新たな生き方をね」
シャルロットはふんふんと頷く。つまりは自分探しの旅なのだろう。
東方から来るとはなかなか気骨がある。サハラを挟んだ外の世界。
いつかは自分も、東方はロバ・アル・カリイエまで行ってみたいと馳せる。


「さぁ――ッ!! では、いよいよ本日最後、第一回戦最終戦!!」

 シャナオウは軽い足取りで入場口から出ていく。タバサは足早に歩を進める。
彼の気質を知れて実りはあった・・・・・・が、同時に時間を喰ってしまった。
次に闘う相手をしっかりと俯瞰出来る位置からしっかりと対策を練る為――
シャルロットは次第に客席まで駆け出していた。



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