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ソーサリー・ゼロ第四部-14

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三〇六

 門をくぐって姿を現したのは、端正な容貌をもつ金髪の青年──ウェールズ皇太子その人だ。
 森の中に身を隠すのに役立ちそうな、深緑色のマントと若草色の胴着を身に着けている。
 アンリエッタ王女の白い頬に血が上り、青い瞳が潤む。
「ウェールズさま!」
 そう叫ぶと、驚きに目を見開く皇太子のもとへと駆け寄る。
「アンリエッタ? まさか?」
「ウェールズさま! ああ、ウェールズさま! お会いしとうございました……」
 君やルイズをはじめ、大勢の者たちに見られているのにも構わず、アンリエッタはウェールズに抱きつき、その胸に顔をうずめてむせび泣く。
「本当にきみなのか、アンリエッタ? カーカバードの妖術が見せた幻ではなく、本物の?」
 ウェールズは喜びと当惑の入り混じった表情を浮かべながらも、アンリエッタの頭を優しく撫でる。
「ああ……間違いない。本物だ。本物のアンリエッタだ」
 そう言って、王女の背中に手を回す。
「なぜきみが、こんな所にいるんだい? この戦乱のアルビオンの、人里離れた山奥などに」
 アンリエッタはウェールズの問いに答えず、泣きじゃくるばかりだ。

 君たち四人は少し離れた所から、再会を果たした恋人たちを見守っている。
「お似合いのふたりじゃないの」
 興味津々の眼差しでふたりを見つめていたキュルケがつぶやく。
「それにしても、姫さまが密航してでもアルビオンに来ようとした気持ち、今ならわかるわぁ。すごくいい男じゃない、
皇太子殿下って」
 いつもならキュルケの茶化すような言葉づかいに文句を言うルイズだが、今はそれどころではない。
「姫さま……よかった……会えて……」
 目の前の光景に感極まって、もらい泣きの涙をこぼしているのだ。
 冷静沈着なアニエスでさえ心動かされたらしく、何も言わずにぼうっと立ちつくしている。
 しばらくの間アンリエッタと抱き合ったままのウェールズだったが、自分たちが注目を集めていることに気づき、
ばつが悪そうに頭を掻く。
「ブレナン卿は居るか? 話がしたい」
 周りを見回したウェールズは君たちの存在に気づき、顔をほころばせる。
「始祖のお導きに感謝を。アンリエッタだけではなく、君たちにもこうして会えるとは。来てくれたのだな、友よ。
ようこそアルビオンへ」

 君たちは、話し合いのために一軒の小屋に集まる。
 粗末なテーブルを囲んで向かい合っているのは、君、ルイズ、キュルケ、アンリエッタ、ウェールズ、
ブレナン──彼は先刻の襲撃を生き延びた──の六人だ。
 最初にブレナンが口を開き、襲撃で多くの兵を失ったこと、敵に場所を知られたからにはこの砦を捨てざるをえないことを、
ウェールズに報告する。
「今月に入って失われた拠点は、これで四つめだ。カーカバードの奴らは勇気も誇りも持たぬ野卑な連中だが、
山狩りだけは得意とみえる」
 ウェールズは溜息をつく。
 その顔は以前に出会った時と比べて少しやつれ、髭がまばらに伸びているが、凛々しい面構えはそのままだ。
 今度はウェールズが、自分たちアルビオン王党派の置かれた状況について説明を始める。
 彼は二百人以上の兵を率いて砦にやって来たが、これが今動かせる兵力のすべてだという。
「さっきも言ったように、我らの拠点は次々と失われ、諸国連合軍の統制も崩壊しつつある。このままでは、
アルビオンが≪レコン・キスタ≫とカーカバードの手に落ちるのは時間の問題であり、ハルケギニア大陸もやがては同じ運命をたどるだろう」
 そこで言葉を切り、君とルイズに視線を投げかける。
「しかし、我らにはまだ希望がある。かつて私の命を救ってくれた頼もしい友人たちが、ふたたび馳せ参じてくれたのだ。
さあ、聞かせてくれ。奴らの≪門≫をどうにかしてしまう方法があるのだろう?」
 期待に満ちた表情のウェールズを前にして、ルイズは悲しげにうつむく。
 黙りこくるルイズに代わって、君が事情を説明する。
 ルイズが伝説の系統≪虚無≫の使い手であり、≪爆発≫の術を用いれば、
ロンディニウム塔に据えられた≪門≫を作り出す装置を破壊できることを知らされると、ウェールズとブレナンは感嘆の声を漏らす。
 しかし、彼らはすぐに落胆の色を浮かべることとなる。
 ルイズは砦を守るために≪爆発≫を使ったが、呪文を唱えている途中で『精神力』を使い果たしてしまい、
術の効果はごく小さなものになってしまったのだ。四二八へ。

四二八

「切り札である≪虚無≫を使おうにも、精神力が足りないのか……」
 ウェールズは眉根を寄せる。
 落胆しているのは明らかだ。
「≪虚無≫の魔法は必要とする精神力が多すぎて、短い間に何度も使ったりはできない仕組みになっているようだな」
 彼の隣に座っていたアンリエッタが、遠慮がちに口を開く。
「なんだか、スクウェア・スペルの≪錬金≫で黄金を作り出すのと似ていますわね。
あらかじめ何週間ぶんもの精神力を蓄えておかなければ、黄金ができ上がる前に精神力を使い果たして、気を失ってしまいます。
ルイズの詠唱が途中で終わってしまうのも、同じような理由なのかしら……」
「そんな!」
 ルイズが悲痛な叫びを上げる。
「敵の言った降伏の期限まであと二日しかないのに、何もせずに精神力が溜まるまで待てるわけ……」
「ないわよね、当然」
 キュルケが低く呟く。
「じゃあ、次善の策でいきましょう」
「次善の策?」
 怪訝な顔をするルイズに、キュルケは微笑みかける。
 魅力的だが、どこか悲壮な覚悟を感じさせる笑みだ。
「あなたが任務に志願する前に立てられていた、最初の計画よ。ロンディニウム塔に潜入し、
≪門≫を作り出している魔法の装置を破壊する。危険だけど、それしか方法はないわ。
もちろん、あたしが行くんだけどね」

 キュルケの大胆不敵な発言に、ルイズとアンリエッタ、そして君までもが声を失う。
「残念だが、それは不可能だ」
 静けさを破ったのはウェールズだ。
 キュルケは目を細め、皇太子をきっと睨みつける。
「殿下、なぜそう言い切られるのですか? 塔の周囲に何万ものカーカバード兵がいるから?
塔の中にも大勢の衛兵がいるから?」
 キュルケの口調は挑戦的だ──相手が王族だろうとお構いなしなのは、自由を愛する心意気の現れだろうか。
「多くの兵隊が居るということは、人や物の流れも多いはず。潜り込む隙は、きっとありますわ」
「そうではないのだよ、フォン・ツェルプストー嬢」
 ウェールズが悲しげにかぶりを振る。
「ひと月ほど前、我々王党派の一部隊が、ロンディニウム塔への潜入に成功した」
 ウェールズの意外な言葉に、一同はどよめく。
「目的は君たちと同じく、装置を破壊することだったが、彼らは任務を果たせなかった。
ロンディニウム塔の最上階に据えられた装置は、カーカバードの未知なる魔法によって護られていたのだ」
 ウェールズは渋面をつくる。
 無念でならないといった表情だ。
「装置は、その周囲を目に見えない壁に覆われていた。魔法を叩き込んでもびくともしない、ほとんど無敵の防壁だったらしい。
部下たちは壁を破る方法を探したが徒労に終わり、やがて衛兵に発見され、塔から逃げ出す羽目になった。
彼らは全員が腕利きのメイジだったが、深傷(ふかで)を負って虫の息の者がひとり帰ってきただけだった。
防壁は今も張り巡らされていることだろう。
これを破れない限り、潜入に成功しても無駄骨に終わってしまうのだ」
 君は、ウェールズの視線が自分に向けられていることに気づく。
「友よ、君の魔法でその壁をどうにかできないか?」
 君は肩をすくめ、自分にも打つ手はないと答える。
 ≪系統魔法≫が通じないようなものを相手に、君の武器や魔法で歯が立つとは思えない。
 テーブルを囲む全員が途方に暮れたかに思えたその時、
「あー、なんとかなるかもしれねえな」と、
どこか気の抜けた声が響く。
 声の出所は、君が持ち込んでいたデルフリンガーだ。
 君は魔剣に、どういう事だと尋ねる。
「壁を作っている魔法を打ち消せばいいんだろ? 手段はあるぜ。≪虚無≫さ」五四二へ。

五四二

 デルフリンガーの思わぬ言葉に、ルイズは眉を吊り上げる。
「あんたねえ。今さっきまで、≪虚無≫を使うには精神力が足りないって言ってたのを聞いてなかったの!?」
「≪虚無≫の魔法はひとつだけじゃねえだろ。確かに≪エクスプロージョン≫は強力だが、精神力の消耗が激しい。
もっと簡単に使えて、しかも目的にぴったりのやつがあるはずだ。祈祷書から探してみな」
 ルイズは鞄から≪始祖の祈祷書≫を引っ張り出す。
 ≪始祖の祈祷書≫は、ルイズが二度と≪虚無≫の魔法を使わぬと誓ったために王宮の宝物庫に戻されていたのだが、
今回の任務にともない、ふたたび彼女の手に預けられたのだ。
 ルイズは祈祷書の頁をたぐる。
「本当にあるんでしょうね?」
「もっと先を開いてみな。必要があるなら読めるはずだ」
 ウェールズが興味津々の様子で覗き込む。
「ほう、それがトリステインの国宝の……しかし、何も書かれてはいないようだが?」
「ルイズには読めるのです」
 アンリエッタが説明する。
「正しい担い手が≪水≫≪風≫≪土≫≪火≫いずれかのルビーを指に嵌めたときのみ、
祈祷書には≪虚無≫の呪文が現れるのだそうです」
「なるほどな」
 ウェールズは、自分の薬指に光る≪風のルビー≫を見つめる。
「この指輪と対になる我が国の秘宝、≪始祖のオルゴール≫は行方知れずだ。ハヴィランド宮殿の宝物庫にはなかったはずだが、
一体どこに行ったのやら」
 やがてルイズの手が止まる。
「……≪ディスペル・マジック≫?」
「そいつだ」
 デルフリンガーが応える。
「効果は名前のとおり、魔法の解除。そいつで防壁を消しちまえば、あとは≪門≫を作り出している装置をぶっ壊すだけだ」
「ずいぶん簡単に言ってくれるじゃないの。装置の周りは、敵の衛兵だらけのはずよ」
 ルイズの表情がこわばる。
「じゃあ、やめるかね? そうしたところで、誰もお前さんを責めたりはしねえよ。危険すぎるからな」
「ばかにしないでよ!」
 顔を赤く染めて、ルイズが叫ぶ。
「学院の寮で言ったでしょ! 絶対に任務を成し遂げてみせるって、みんなを守りたいって!
今でもその気持ちは変わってないわ!」
「その言葉を聞いて安心したぜ」
 デルフリンガーが笑っているかのように鍔を鳴らす。

 ロンディニウム塔に潜入するのは君、ルイズ、キュルケの三人だけと決まる──闘うことが目的ではないのだから、
人数は最小限で済ませるべきなのだ。
 君は、塔の衛兵たちをどう欺くかについての計画を立てる。
 塔は敵にとってもっとも重要な拠点であり、薬草医者や商人を招き入れることなどありはせぬだろう。
 敵の一員、カーカバード軍の兵隊になりすますのが最善の策だと考える。
 筋書きと『配役』を決めたので、ルイズたちへの説明を始める。
 君たちは、カーカバードの将軍へ貢物──若く美しい娘──を届けに来た将校とその部下だ。
 将校を演じるのは当然、アナランドの旅装束をまとった君だ。
 野蛮な連中に捕らえられ彼らの頭目へと差し出される、哀れな美女の役はキュルケ。
「それじゃ、わたしは?」
 期待と不安の入り混じった視線で見つめてくるルイズに、君は告げる。
 ゴブリンの兵士になってもらう、と。
「え?」
 ルイズは首をかしげる。
 君は説明を続ける──武装したゴブリンの死体は砦の周囲にたくさん転がっているから、衣装には困らぬはずだ。
「あのね、冗談はいいから。本当はどうするつもりなのか教えてよ」
 頭を完全に覆い隠せるような兜もあったはずだ、とつけ加える。
「わ、わ、わたしに、不恰好な亜人の兵隊に化けろっていうの? 公爵家の生まれの、このわたしに?」
 やりとりを眺めていたキュルケが、君たちに背を向けて肩を震わせる──笑いをこらえているのだろう。
 君は、やむを得ぬことなのだと説明する。
 将校がたったひとりで、捕虜をふたりも連れ歩くのは不自然だし、キュルケの体型は女らしすぎて、
たとえ鎧を着込んだところでオークのようには見えない。
 その点、ルイズの背格好なら誰が見ようと、ゴブリンであることを疑われはしない、と。
 そこまで言ったところで、ルイズの顔が蒼白になっていることに気づく。
 怒りに全身をわななかせるルイズを前にして、君はたじろぐ。
「ふ、ふ、ふふ……」
 震える声を聞いて、アンリエッタやウェールズさえもが後ずさる。
「ふざけんのも大概にしなさいよぉぉぉ!」
 怒髪天を突いたルイズの叫びが小屋を揺るがし、砦に響き、深夜の山中にこだまする。四二へ。

四二

 君は、夜明けとともに砦を発ち、山を越えてロンディニウム塔へ向かう道を行くつもりだ、とウェールズに語る。
「しかし、数日前に偵察を行った者の報告では、塔の周囲は何万ものカーカバード軍がたむろする野営地と化しているらしい」
 ウェールズは言う。
「たとえ完璧な変装をしていても、そこを無事に通り抜けるには、並外れた機転と幸運が必要となるだろう」
「それでも、わたしたちは行かねばなりません。運を天に任せて」
 ルイズがきっぱりと告げると、ウェールズは笑みを見せる。
「その件で、我々はきみたちを手伝うことができる」
「どういうことですか?」
 当惑するルイズに、ウェールズは説明する。
「つまりは、敵がロンディニウム塔のそばからいなくなればよいのだ。だから、きみたちの進路を開くために、
カーカバード軍をおびき出す……私自身を囮にしてね」
「殿下!」
「ウェールズさま!?」
 ルイズとアンリエッタが、同時に悲鳴じみた声を上げる。
「止めないでくれ、ラ・ヴァリエール嬢。きみのような少女が命を懸けて世界を救おうとしているのに、自分ができることもせず、
どこか安全な場所で吉報を待つなど、私には耐えられないのだよ。それに、きみたちの任務を成功させるためなら、
この命など惜しくはない。なぜなら、クロムウェルの野望を止められなかった場合、ハルケギニアは生きるに値せぬ、
苦痛と絶望に満ちた地に変わり果ててしまうからだ」
 ウェールズの目に決意の炎が燃える。
「私は部下たちを率いて山麓を回り込み、ロンディニウム塔へと進軍する。きみたちは敵が動くのを待って、
潜入を開始してくれたまえ」
「いけません、ウェールズさま!」
 そう言って、アンリエッタがすがりつく。
「ウェールズさまがお連れになった兵は二百人あまりなのでしょう? 敵は何万人もいるのですから、
挑戦の名乗りを上げても相手にされないのではありませんか? それより、
計画どおりすべての敵が向かってきたら……せっかく苦難に耐えて生き延びてこられたのに、
むざむざ死にに行くようなものですわ!」
 王女の瞳が涙に潤む。
「カーカバードの連中は、始祖の血統の価値など知らないだろうが、
このウェールズ・テューダーの名前には惹きつけられるはずだ──クロムウェルは、
ぼくの首に莫大な賞金をかけているからね。奴らはぼくという餌に喰らいつき、ばらばらに噛み砕いてしまうだろう。
それでも、勇敢な友のために何もなさず、座して滅びを待つよりはずっといい」
「ウェールズさま……そんな、せっかくこうしてお会いできたのに……」
「許してくれ、アンリエッタ」
 ウェールズは王女の肩に手をかける。
「ぼくだって、君と離れたくはない。何もかもなげうって、このままふたりで、どこか遠い所まで落ち延びたいくらいだよ。
しかし、それは許されないんだ。王族の誇りにかけて、友を見捨てるわけにはいかない」
 アンリエッタは目を伏せて押し黙っていたが、やがてウェールズを正面から見据え、口を開く。
「わかりましたわ」
 彼女は言う。
「でも、わたくしだって王族です。それに、ルイズたちはかけがえのない大切なお友達。
だから、わたくしもウェールズさまにお供いたします! 一緒に戦わせてください!」九四へ。

九四

「莫迦なことを言って、ぼくを困らせないでおくれ」
 ウェールズはアンリエッタに言い聞かせる。
「これは、生還の望みがほとんどゼロに近い戦いだ。わずか二百という、国王の狩猟の供揃えにも足りない兵力で、
六万は下らないであろう敵軍に正面から挑みかかるのだから。そんな事に、きみを巻き込むわけにはいかない。
きみにもし万一の事があったなら、たとえ戦いを生き延びアルビオンに平和が訪れたとしても、
ぼくは死ぬまで自分を許さないだろう」
「それは、わたくしも同じです!」
 アンリエッタは大声で叫ぶ──物静かで上品な王女の見せた思わぬ態度に、その場にいる全員が目を丸くする。
「ウェールズさまは先ほど、敵に支配された世界は生きるに値せぬものだとおっしゃいました。わたくしにとっては、
ウェールズさまのいない世界こそが、価値なきものなのです! もう、愛しい人の安否を気遣って、やきもきするのは嫌です!
あなたのお側に居させてくださいまし。ともに生き、ともに死なせてくださいまし!」
 そこに居るのは、かつてのおとなしく遠慮がちなアンリエッタ王女ではない。
 この数日間の冒険によって、彼女は生まれ変わったのだ。

 ウェールズやルイズは、なんとかアンリエッタを思いとどまらせようと言葉を尽くすが、彼女の決意はゆるがない。
「わたくしは、けっして足手まといになどなりませんわ。それどころか、最大の戦力にだってなれるはずです
……ウェールズさまと力を合わせれば」
 ウェールズが目を見開く。
「≪ヘクサゴン・スペル≫か!?」
 君にとっては聞き慣れぬ言葉だ。
「そのとおりです」
 アンリエッタがうなずく。
「あなたもわたくしも≪トライアングル≫、そして何より、王家の血筋。きっとうまくいくはず……そうではありませんか、
ウェールズさま?」
 黙って考え込むウェールズだったが、やがて口を開く。
「わかったよ、アンリエッタ。一緒にロンディニウム塔へ向かおう」

 計画は出来上がった──急ごしらえな上に運まかせの作戦だが、今の君たちにはそれ以上のものは考えつかない。
 ウェールズの率いる二百人の兵たちは、森の中を何時間も歩いてきた上に砦を守るため戦ったので、疲れはてている。
 夜明けまでの時間を彼らの休息に充てることになり、皇太子自身も毛布にくるまって、地面に横になる。
 君としては、久々の再会を果たしたウェールズと話したいことがたくさんあるが、長話で彼の休息を邪魔するわけにもいかない。
 それでも、眠る前に少しだけ会話を試みてよい。
 なぜガリア軍との合流を避けていたのかを尋ねるか(二三八へ)?
 ≪ヘクサゴン・スペル≫について知りたいか(一三二へ)?
 それとも、ニューカッスルの城で、彼を臆病者と呼んだことを詫びるか(二九二へ)?

二三八

 君はウェールズに、なぜガリア軍と合流しなかったのかと尋ねる。
 ガリア軍の保護を受けていれば、≪レコン・キスタ≫とカーカバード軍の目を逃れて、
森の中に隠れ潜んでいる必要はなくなっていたはずだ。
「ああ、そのことか」
 ウェールズはうなずく。
「連合軍がアルビオンに上陸したその日、ぼくたちはダータルネスの港から百リーグほど離れた山の中にいた。
すぐにガリア軍と接触し、彼らを解放者として歓迎するつもりだったのだが、
その途中で奇妙なものを目にした……
とても信じてもらえそうにないので、今まで部下たちには黙っていたが、きみになら話してもいいだろう」
 ウェールズは君の目を見つめる。
「とある岩肌に、赤い文字でこう書き付けてあった。
『ガリア王に心せよ。かの者は、この国を己の遊戯盤としか見なしておらぬ。かの者が求めしは破壊と混乱、そして始祖の秘宝なり』
 文の最後には、署名のかわりに奇妙な記号があった。上下を指した矢印だ。読み終えると同時に、
文字は跡形もなく消えてしまった。ぼくは、これは何らかの啓示なのではないかと考え、それに従うことに決めた。
この判断は間違いではなかったと思っている。実際、ガリア軍は間者を放ち、何かを探しているらしい……人ではなく、物をね」
 そう言ったウェールズは、あくびを漏らす。
 君は睡眠の邪魔をしたことを詫び、その場を立ち去る。

 ウェールズが話した内容について考えてみる。
 『上下を指した矢印』は、このハルケギニアでは何の意味も持たぬようだが、君の居た≪タイタン≫では違う
──善と悪の平衡、≪中立≫を象徴する印だ。
 警告の一文を書いたのは、いったい何者なのだろうか?
 答えを思いつかぬまま、君はいつしか眠りにつく。二〇へ。

二〇

 日の出とともに目を覚ます。
 少しは眠れたので、体力点一を加えよ。
 起きてすぐ、砦の周囲に転がった敵兵の死体から服や靴を剥ぎ取る──ルイズが変装するために必要なのだ。
 ひと揃いの衣装を用意できたが、その途中で糊の入った小瓶と、緑の金属の指環が見つかる。
 望むなら君のものにしてよい。

 君が持ってきた衣装を見て、ルイズは鼻に皺を寄せる。
 革の上着、毛皮のマント、長靴──すべてが汚ならしく、異様な匂いがするのだ。
「ねえ」
 ルイズが口を開く。
「本当に、着なきゃだめ? これを」
 君はうなずく。
「すっごく嫌な匂いがするんだけど。こんなの着てたら、塔に着く前に死んじゃうわ。鼻が腐って死んじゃう」
 抗議するルイズに、この悪臭が必要なのだと説明する。
 オークやゴブリンは犬のように鼻が効くので、ただ変装しただけでは、匂いで人間だとばれてしまう。
 しかし、ゴブリンの血や汗の悪臭を放つこれらの衣装を身に纏えば、敵の鼻をごまかせるはずだ、と。
「うう……他にどうしようもないのよね……」
 ルイズは意を決して、黒く汚れた上着を身につける。

 やがて、ルイズの変装が形になる。
 魔法学院の制服であるシャツに上着を重ね着し、その上からぼろぼろに破れた毛皮のマントを羽織り、
細くて白い指は黒ずんだ革の手袋で隠す。
 スカートのかわりに毛織物のズボンを履き、革の長靴──元の持ち主の足が大きかったので、
ルイズは靴の上からそれを履く──で仕上げる。
 ルイズの桃色がかった長い髪は、頭の上に結い上げて纏める。
 それを覆い隠す鉄の兜の用意もできている。
「あはっ! ルイズ、完璧じゃない! どこから見ても立派な亜人の兵隊よ!
肖像画に残してあげたいくらい! あはははは!」
 キュルケが腹を抱えて笑う。
「茶化してんじゃないわよ!」
 ルイズは渋面をつくる。
「あんたはいいわよね。ロープ一本で変装になるんだから」
 キュルケは捕虜を演じるため、ロンディニウム塔の直前まで来た所で、両手を縄で縛る段取りになっているのだ。
「そのかわり、向こうに着いたらどんな目に遭うかわからないけれどもね」
 キュルケは炎のように赤い己の髪を一房つまみ、指先でいじくる。
「カーカバードの亜人たちにも、あたしの色仕掛けが通用すればいいんだけど」
 キュルケの見事な肢体は、オークやゴブリンどもにとっては色気より食い気の対象になるのではないだろうか
──そんな悪趣味な冗談が頭をよぎるが、黙っておく。

 ウェールズと彼の部下たちは急いで出発しなければならぬため、別れの挨拶は簡潔なものとなる。
「任務の成功と、全員の無事を祈っているよ。始祖のご加護があらんことを!」
 ウェールズは君たち三人の手を力強く握る。
 強運点一を加えよ。
「ルイズ……必ず生きて帰ってきてね」
 アンリエッタ王女は涙ぐむ。
「すべてが終わったら、昔みたいにふたりきりでお話をしましょう。お茶とお菓子を用意して、
一晩じゅう語り明かすのよ」
「はい、姫さま!」
 ルイズとアンリエッタは抱き合う──ゴブリンの服から漂う悪臭を気にする様子もなく。
 もし君が傷を負っているのならアンリエッタが癒しの術をかけてくれるので、体力点四を加えてよい。
 君はアニエスに声をかける。
 意外なことに、彼女もロンディニウム塔へ向かい、アンリエッタの護衛を務めるという。
 ウェールズの部下たちは、何人かの重傷者を除いて全員がロンディニウム塔へ向かう作戦に自発的に加わった
──ある者は王家に対する忠誠心から、ある者は命を懸けるに値する任務と知って、またある者は敵に対する復讐心から──が、
アニエスにはそんな義理はないはずだ。
 君がそのことについて問うと、彼女は
「確かに、損得勘定に長けた傭兵としては、ここで手を引くべきだろう」と答える。
「ここ数日の姫殿下のもとでの働きが無駄になってしまうが、命には換えられない。それが正しい判断だ」
 切り揃えた金髪の下で、青い瞳が輝く。
「しかし、正しくなくても構わない。どうせ乗り掛かった船だ。最後までつき合って、
どんな結果に終わるのかをこの目で確かめるのも一興だろう」
 アニエスは屈託のない笑みを浮かべる。二七六へ。

二七六

 君とルイズ、キュルケの三人は砦を発つ。
 岩山の麓を進み、ブレナンに教えてもらった山越えの峠道を目指して歩く。
 数時間にわたり進み続け、それらしき山道を見つけ出す。

 低く垂れ込めた黒雲のせいで、昼も近い時間だというのに周囲は薄暗い。
 道は次第に険しくなり、見えるものといえば、そそり立つ巨岩ばかりとなる。
 生き物もほとんど見かけず、静寂を乱すのは君たち三人の立てる足音だけだ。
 細い道は前方で二つに分かれて、選択を迫る。
 右は急斜面を上っていく道だが、足場が悪そうだ。
 左の道は、深い谷を見下ろしながら進んでいくことになる。
 どちらを選ぶ?
 右へ行くか?・一六〇へ
 左へ行くか?・六六へ

六六

 君たちは深い谷に沿って進む。
 行けども行けども同じような風景だ──右手には切り立った岩壁がそびえ、左には奈落が口を開けている。
 落ちればひとたまりもない高さだが、道幅は大人が五人並んで歩けるほどの余裕があるため、まず心配はいらないだろう。
 緊張のためか、ルイズもキュルケもほとんど口をきかない。

 しばらく進んでいると、ずっと先の方から何かの音が聞こえてくる。
 君は耳を澄ます……武器や鎧ががちゃつく音、大勢の足音……軍隊が迫っているのだ!
「まさか、こんな所に敵が!?」
 ルイズが怯えた声を出す。
 ロンディニウム塔にほど近いこの地に、アルビオン王党派や諸国連合軍の部隊が居るとは思えぬため、
音の主はカーカバード軍に違いない、と君は考える。
「進め、屑ども! もっと速く歩けねえのか!」
 谷間に響き渡る荒々しい叫びが、君の考えが正しかったことの証明となる──声の主はオークか、
その親戚筋の怪物だ。
「ど、どうするの?」
 うろたえるルイズに、キュルケは
「慌てないで」と告げる。
「あなたの変装の出来ばえがどんなものか、あいつらに見てもらいましょう。じっとしてれば、ばれっこないわよ」
 キュルケの言うとおりにするほかない状況だ。
 君たちの立っている道は左右を岩壁と谷に挟まれており、逃げ隠れするような場所はない。
「ぐずどもが、もたもたしてると鞭を喰らわすぞ! しゃんと歩け! 列を乱すな!」
 怒鳴り声と足音は、どんどん近づいてくる。
 ルイズが急いでゴブリンの兜をかぶるかたわら、君はキュルケの両手首を縄で縛る。
 そうしているうちに隊列が近づいてきたので、君たちは道の端に寄り、彼らに進路を譲る。
 先頭を進むのは、武装したオークの一団だ。
 全員がぜいぜいと息を切らしており、君たちに気づいてはいるのだが、足を止めようとはしない。
 さらに、別のオークやゴブリンの集団が君たちの前を通り過ぎるが、連中の放つすさまじい体臭に息が詰まりそうになる。
 長い列の左右には軍曹格の大柄なオークが何人かついており、彼らは時おり鞭を振り下ろす。
「このぐうたらども! 行け! 急げ! 進め!」
 そう叫んでいた軍曹のひとりが、君たちに気づいて足を止め、胴間声を張り上げて隊列の停止を命じる。
 オークの軍曹は君たちを睨んで鼻を鳴らし、
「てめえら、こんな所で何をしてやがる? 脱走か? さっさと答えろ!」と大声で尋ねてくる。
 君は『とっておきの捕虜』を塔まで送り届けに行くところだ、と説明するが、相手の表情はいぶかしげだ。
 賄賂を渡してなだめるか(二〇五へ)、邪魔した事を上官に報告するぞと脅すか(一四一へ)、それとも術を使うか?

 DUD・六五二へ
 ZEM・六九三へ
 FAR・六二一へ
 NAP・七六三へ
 DOL・七三五へ

一四一

 君は相手を怒鳴りつけ、たかが奴隷頭ごときに詰問されるいわれはない、と言う。
 オークの軍曹はぎょっとしてあとずさり、謝罪の言葉をもごもごと呟く。
 もう行ってよいと手を振ると、軍曹は隊列に向かって出発を告げ、そそくさとその場を離れる。
 オークどもの列がふたたび動き出し、やがて最後尾が君たちの前を駆け抜けていく。
「早く行け! 後ろがつかえてるんだ、さっさとしろ!」
 叫び声と鞭の鳴る音、そして足音は、どんどん遠ざかっていく。

「あ、危なかったわね」
 ルイズは大きく息をつく。
 脱いだ兜を掴む両手が、小さく震えている。
「まだ序の口よ」
 キュルケが言う。
「ロンディニウム塔に着いたら、もっと厳しく調べられるはずだわ。ルイズ、くれぐれもぼろを出さないようにね。
自分が貴族であることなんて忘れて、身も心も亜人になりきってちょうだいよ」
「うるさいわね」
 ルイズは眉を吊り上げる。
「あんたこそ、もっと怯えて震え上がりなさいよ。これから怪物どもの巣窟に連れていかれる哀れな犠牲者にしては、
ちょっと堂々としすぎじゃない?」
 言い合うふたりを黙らせ、君は先を急ぐ。八〇へ。



八〇

 新たなオークどもの行軍と出くわすようなこともなく、君たちは順調に歩を進める。
 周囲の風景は険しい岩場からいつしか、ねじくれた灌木や下生えの生い茂る林へと変わっている。
 道は下り勾配になっており、君たちは山の向こう側へと出たようだ。
「もうすぐロンディニウム塔ね。ここから先は敵地……」
 ルイズの呟きに、キュルケはうなずき返す。
「ルイズの言うとおりみたいね。ほら、あっちにその証拠が見えるわ」
 キュルケが指し示した物を見て、ルイズは立ちつくす。
 道の両脇に数本の杭が打ち込まれており、そのてっぺんには生首が刺さっているのだ。
 生首はいずれも人間のものであり、いくつかは半ば腐った状態にある。
「な、なによ、これ……」 
 ルイズは恐怖と嫌悪のうめきを漏らす。
 これらの生首は境界を表す目印なのだろう、と君は考える──ここから先の土地はカーカバード軍のものだということを、
彼らならではの野蛮なやり方で示しているのだ。
 君たちは道をそのまま進み続けるが、歩みは注意深いものとなる。

 それに最初に気づいたのはルイズだ。
「あれを見て! 空に何かいる!」
 彼女が指さした先を見上げた君は、遠い空に、大きな翼を持った生き物の姿を見いだす。
 生き物は君たちの方に向かって飛んできているが、まだこちらに気づいておらぬ様子だ。
 ≪レコン・キスタ≫の竜騎兵か、あるいはカーカバードの鳥人かもしれない。
 慌てて藪陰に隠れるが、生き物を見つめていたキュルケは
「あれってもしかして……」と呟く。
「タバサのシルフィードじゃない? 羽ばたきかたが似てるわ」
 タバサたちが、トリステインやガリアから遠く離れたこのアルビオンに居るとは考えにくいが、
ジョゼフ王に任務を与えられてやって来たという可能性も、ありえなくはない。
 生き物に合図を送って呼び寄せてもよいが、相手が敵だった場合は、非常に厄介なことになるだろう。
 空飛ぶ生き物にこちらの存在を知らせるか(一四六へ)、それとも隠れて行き過ぎるのを待つか(一七へ)?

一四六

 キュルケは杖を頭上高く掲げると、呪文を唱える。
 杖の先から大きな火の玉が放たれ、真上に飛び上がると、空中で炸裂して火の粉を散らす。
 翼をもつ生き物はキュルケの打ち上げた『花火』に気づいたらしく、高度を下げてこちらに向かってくる。
 大きな翼をはばたかせて舞い降りてきたのは、二十フィートほどの大きさの青い竜だ。
 君たちの姿を見て、きゅいきゅい、と嬉しげにさえずる。
「シルフィード! やっぱりあなただったのね!」
 キュルケは喜びの声を上げ、親友であるタバサの≪使い魔≫に駆け寄るが、その背中に誰の姿もないのを見て、眉をひそめる。
「タバサは? あなたのご主人様はどこにいるの?」
 シルフィードは大きな眼を細め、長い首を左右に振る──表情も言葉もないが、妙に悲しそうな仕草だ。
「はぐれちゃったのかしら。無事だといいけど」
「それより、なんであの子たちがアルビオンに来てるのよ? それも、よりによってこんな危険な場所に」
 『危険な場所』……ルイズの何気ないひとことに、君ははっとする。
 ここはロンディニウム塔から十マイルと離れておらぬ、カーカバード軍が支配する土地だ。
 ということは、敵兵が周辺一帯を見回っているかもしれない──もしそうなら、先ほどの『花火』を見て調べにくるはずだ!
 君はルイズとキュルケに、シルフィードを連れてすぐにどこかへ隠れようと言う。
 しかし、もう遅いかもしれない。

 サイコロ一個を振れ。
 出目が一か二なら二六六へ。
 三か四なら一〇一へ。
 五か六なら三九二へ。

三九二

 君の心配は杞憂に終わり、敵は誰ひとりとしてやって来ない。
 君は知らぬが、この辺りを見回っていた敵兵の一団は、少し前に、ある者の手で全滅させられているのだ。

 君たち三人と一頭は道から離れ、林の奥へと入り込む。
 敵の目を避けられそうな大きな岩陰を見つけたので、そこで足を止める。
「タバサに何があったのか、尋ねたいところだけど……」
 キュルケはシルフィードの青い瞳をじっと見つめる。
「いくら竜が頭のいい幻獣だといっても、口をきいたりはできないんだから、どうしようもないわよね」
 ルイズが溜息をつく。
「ねえ、あんたの魔法でなんとかなんないの? 心を読んだりとか」
 そう言われた君は、ルイズとキュルケにシルフィードの秘密を打ち明けるべきかと悩む。
 シルフィードの正体は、人間の言葉を喋り≪先住の魔法≫さえ使いこなす、『韻竜』と呼ばれる特別な種族なのだが、
タバサはその事を隠している──それを知っているのは君だけだ。
 シルフィードが『韻竜』であることを口外しないという、タバサとの約束は守りたいが、
彼女の身に危険が及んでいるのだとすれば、秘密を守るためとはいえ悠長な事はしていられない。
 そう考えた君が口を開こうとしたところで、デルフリンガーが先に声を上げる。
「なあ、韻竜よ。今は非常事態だぜ。主人の言いつけなんて無視しちまいな」
 シルフィードの秘密を知るのは、タバサと君だけではなかった──シルフィードが喋った時、
デルフリンガーを持ち歩いていたことを忘れていた!
 シルフィードは大きくかぶりを振るが、その目には焦りの色が浮かんでいる。
「韻竜ですって!?」
 ルイズが眉を吊り上げる。
「まさか。ずっと昔に絶滅したはずよ」
「少なくとも一頭は生き残ってるぜ、目の前にな。あの竜が喋れることを知ってるのは、俺だけじゃねえ。そうだろう、相棒?」
 君はうなずき、観念して正体を明かせとシルフィードに呼びかける。
「ああ、もう!」
 竜の牙の間から、若い女の声がほとばしる。
「ひどい剣と人間なのね! お姉さまとの約束やぶった! シルフィの正体を秘密にするって約束やぶった! きゅい!」
「確かに、相棒は青髪の娘っ子と約束してたな。だが、俺は約束なんてしてねえんだから、何を話そうと勝手だろ?」
 デルフリンガーの言葉に、シルフィードはがっくりと肩を落とす。
「うう、そんなの屁理屈なのね。詭弁なのね……きゅい」
「シルフィード、あなた韻竜だったのね。すごいじゃない!」
 キュルケがシルフィードの鼻面を撫でる。
「それで、タバサはどうしたの? どうしてあなたたちが、アルビオンにいるのよ?」
 ルイズがそう尋ねると、シルフィードは大きく溜息をつき、語りだす。一八五へ。

一八五

 シルフィードは、タバサがガリア王国の騎士であることから話しはじめ、さまざまな困難な任務を成し遂げてきたことを語る。
 親友の意外な一面を知ったキュルケは無言で考えこみ、ルイズも黙って耳を傾ける。
 タバサのもとに新たな任務が届けられたのは十日ほど前のことだったが、彼女は、その内容について何も教えてくれなかった、
とシルフィードは言う。
 シルフィードは、主人に命ぜられるがままにアルビオンに向かって飛び、
ガリア軍が占領しているダータルネスの港へと降り立った。
 その後、タバサは聞き込みを繰り返しながら(ここでもシルフィードは蚊帳の外だった)内陸部に向かって進んでいたのだが、
昨夜遅くに、謎めいた敵と闘って負けてしまったのだという。
「あいつら、人間に似てたけど、ひょろひょろに痩せてたのね」
 シルフィードは言う。
「それで、どんな人間よりも性悪な奴ら! お姉さまに下品な言葉を投げかけてきて、お姉さまは魔法で追い払おうとしたけど、
あいつらは不思議な力に護られてて、お姉さまの魔法は発動しなくって……」
 ルイズがあっと声を上げる。
「それって、ロサイスの時と同じ……」
 君はルイズを身振りで黙らせ、シルフィードに話を続けるよううながす。
「あいつらはお姉さまのことを笑うと、それまでずっとつぶってた眼を見開いたのね。そしたら……」
 シルフィードの声が恐怖に震える。
「……眼の中に、真っ赤な火が燃えてて……そこから出た火がお姉さまの胸に……きゅい! かわいそうなお姉さま!」
「それで、タバサはどうなったの!?」
 キュルケのこめかみを、一筋の汗がつたう。
 親友の安否を気遣うその表情は、真剣そのものだ。
「大丈夫、生きてるのね。あいつらのひとりが、こう言ってたの。『殺すんじゃねえぞ。青頭は男も女も生かしたまま連れて帰れ、
ってご命令を忘れたか?』って。それで、お姉さまはあいつらに連れて行かれちゃったのね。
シルフィはお姉さまの言いつけを守って隠れてたんだけど、とっても怖くて、助けに行けなかったの。
空の上から、後をつけることしかできなくて……」
「連れて行かれたって、どこへ?」
「ここから北に行った所にある、城壁に囲まれた大きな塔。周りには軍隊がいっぱい、何万人もいて、焚火の煙で真っ黒だったのね」
「それってまさか……」
 ルイズの言葉に君はうなずく。
 タバサが囚われているのは、君たちの目的地であるロンディニウム塔だ。三四四へ。


三四四

「本当にタバサはその塔の中へ連れて行かれたの? 確かなんでしょうね?」
 ルイズの問いに、シルフィードは大きくうなずく。
「あいつらがお姉さまを連れて門をくぐるところを、きっちり見届けたのね。でもその後で、メイジが乗った竜に見つかっちゃって、
さんざん追い回されたのね。それで、なんとか振り切ったけど、お姉さまを助けるにはどうすればいいのか考えてたら、
あなたたちと出会ったの。≪大いなる意思≫に感謝なのね。あ、そういえば……」
 シルフィードは首をかしげる。
「あなたたちは、どうしてここにいるの?」
 君は任務について手短に説明し、明日にもロンディニウム塔へ潜入するつもりなのだと語る。
 シルフィードはじっと君たちを見つめる。
 その大きな瞳は、涙に潤んでいる。
「頼れるのはあなたたちだけなの。お願い、お姉さまを助けて!」
「任せなさい」
 シルフィードの懇願に、なんのためらいもなく答えたのはキュルケだ。
「安心して、シルフィード。あたしたちが必ず、あなたのご主人さまを救い出してみせるわ」
「ちょっと、キュルケ……」
 ルイズがためらいがちな声を上げる。
「親友を助けたい気持ちはわかるし、わたしだってあの子の身は心配よ。でも……」
「ああ、大丈夫よ」
 キュルケはひらひらと手を振る。
「≪門≫を作る装置とタバサの入れられた牢屋は、どっちも同じ塔の中にあるんでしょ? それなら、
ついでに片付けられる用事ってことじゃない。きっとなんとかなるわ」
「よく、そんなに楽観的になれるわね」
 ルイズがあきれたように言うと、キュルケは微笑む。
「だって、あたしたちには伝説の≪虚無≫があるんだもの」
「な、なによ。皮肉のつもり?」
「本気よ」
 キュルケは真顔で言う。
「あたしは信じてるわ。あなたなら≪虚無≫を使って、奇跡だって起こせるってね」
「な、なに言い出すのよ。急に……」
 ルイズは顔を赤らめる。四九八へ。

四九八

 君たちがタバサを救いに行くと知ったシルフィードは、大喜びで
「ありがとうなのね! それじゃさっそく、塔までひとっ飛びなのね! さあ、乗って乗って!」と言い、
たたんでいた翼を拡げる。
「ありがたいけど、遠慮しとくわ」
 キュルケは苦笑いを浮かべる。
「敵の見張りの目を避けるためには、隠れる場所がない空を行くよりも、地上を歩いたほうが安全なのよ」
「歩くのはいいけど、シルフィードはどうするの? 目立ちすぎるから、連れて行けないわよ」
 ルイズの言うとおりだ。
 二十フィートもある巨体の竜を連れていては、変装している意味がなくなってしまう。
「それなら心配ご無用なのね」
 シルフィードはそう言うと、呪文を唱える。
「我をまといし風よ。我の姿を変えよ」と。
 渦巻く風がシルフィードの体を包み、その姿をかき消す。
 やがて渦が消えると、青い鱗に覆われた竜はどこにもおらず、かわりに、若く美しいひとりの女が現れる。
 女は、タバサと同じような色合いの青い髪を腰まで伸ばしており、驚いたことに、一糸まとわぬ裸体をさらしている。
「これで目立たないでしょ? 精霊の力を借りれば簡単なのね」
 女──変化(へんげ)の術を使ったシルフィードはそう言って、得意げに胸を張る。
「≪先住の魔法≫ってすごいのね」
 キュルケが感嘆の声を上げる。
「でも、裸でいるわけにはいかないでしょ。これを着てなさい」
 そう言うと、シルフィードに自分のマントを差し出す。
「え~、ごわごわしてやだ。きゅい」
 渋るシルフィードだが、キュルケは有無を言わせぬ態度でマントを巻きつける。
「いいから着なさい。裸の女の子を連れて歩くわけにはいかないのよ」
「やだやだ~!」
 目の前で繰り広げられる奇妙なやりとりに、ルイズは笑みを漏らす。
「まったく。敵の本拠地のすぐそばまで来てるってのに、緊張感がないんだから」

 シルフィードを加えて四人連れとなった君たちは、林を抜け出て、ロンディニウム塔へと向かう道に戻る。
 しばらく歩いて小さな空き地に出たところで、すさまじい光景を目にして立ちすくむ。
 十人ほどのオークが、死体となって地面に転がっている──いや、べったりと地面に貼りついている!
 どのオークも、四十フィートは下らぬ巨大な相手に叩き潰されたらしく、
頭上から大岩を落とされたかのように、ぺしゃんこになっているのだ。
「ひ、ひどい……」
 ルイズは凄惨なありさまから目をそむけ、口許を押さえる。
「これって、ゴーレムがやったのかしらね? それっぽい足跡が続いているわ」
 キュルケが見つけた足跡を目でたどった君は、踏み荒らされた藪や、へし折られた木々を見出す。
 オークを叩き潰した巨大な何者かは、林の奥へと姿を消したらしい。
「ねえ、後を追ってみましょうよ」
 キュルケが提案する。
「これをやったのがゴーレムだとしたら、きっと腕利きの≪土≫メイジが近くにいるはずよ。どんな相手なのか、気にならない?」
「わたしはイヤだからね。悪い亜人が相手とはいっても、こんなむごい事をするような奴と関わりあいになりたくないわ」
 ルイズが反対すると、シルフィードも
「シルフィもそう思うのね。怖い! きゅい!」と言って、
身震いする。
 君も意見を述べることにする。
 足跡を追って林に踏み込むか(三一二へ)、それとも、危険を避けて先を急ぐか(一七五へ)?

三一二

 何かが通った跡をたどって林の奥へと入った君は、新たなオークの死体を見つける。
 死体は苦悶の表情を浮かべている。
 胸と腹が押し潰されており、とてつもなく巨大な万力に挟まれたかのようだ。
 足跡はここで途絶えており、死体のそばには、土を小高く盛った塚がある。
 塚に近づいた君は、それが震えているのを見て足を止める。
 土の塊が動きだし、形をとっていく。
 みるみるうちにそれは、人間めいた姿へと変わる──四十フィートを越す巨体の、土ゴーレムに!
 土ゴーレムは、大木のように太くて長い腕を振り上げる。
 君のことを虫のように叩き潰すつもりだ!
 どうすべきか、すぐに決めねばならない。
 飛びすさって土ゴーレムの拳をかわすか(一五七へ)、呼びかけて、敵意のないことを伝えるか(三七九へ)?
 それとも術を使うか?

 ZIP・七五八へ
 HUF・六〇五へ
 BIG・七九〇へ
 WOK・七〇七へ
 KIN・六四七へ


三七九

 オークどもを叩き潰したのはこの土ゴーレムだと思って、まず間違いないだろう。
 土ゴーレムを操る魔法使いが、君たちと同じようにカーカバードを敵とする者だとすれば、争う理由はないはずだ。
 君は大声で叫ぶ──我々はカーカバードの者ではない、闘うつもりはない、と。
 どうやら相手に聞こえたらしく、土ゴーレムは振り上げた拳を止める。
 その様子を見て、君の後ろに控えていたルイズたちが進み出る。
「わたしたちはトリステインから来たのよ! こんな格好だけど、敵じゃないわ!」
 ルイズがそう叫ぶと、キュルケとシルフィードもそれぞれ
「ねえ、姿を見せてくれないかしら? あなたがカーカバードの奴らと闘っているのだとしたら、あたしたちは味方よ」
「きゅいきゅい! これからみんなで、お姉さまを助けにいくところなのね!」と言う。
 呼びかけに対する応えはないが、土ゴーレムは振りかぶった腕をゆっくり下ろす。
 やがて、藪陰から背の高い人影が現れる。
 濃緑色の長衣に身を包み、頭巾を目深にかぶっているため、顔はわからない。
「奇遇ね。まさか、こんな所で会うなんて」
 若い女の落ち着き払った声が響く。
 君たちは目を丸くする──忘れようにも忘れられぬ声だ。
「な、なんで、あんたがここに居るのよ!?」
 ルイズが驚きのあえぎを漏らすと、女は頭巾を脱ぐ。
 白く透き通った肌、つややかな緑色の髪、鋭い光を湛えた切れ長の眼……
「ミス・ロングビル……いえ、≪土塊のフーケ≫と呼んだほうがいいかしら?」
 キュルケはそう言いながら、腰に手を回す。
 そこに杖を隠し持っているのだ。
「フーケで結構よ。久しぶりじゃないの、ミス・ヴァリエールにミス・ツェルプストー。それに≪使い魔≫さんも」
 君たちとフーケは、互いに警戒の視線をぶつけ合う。
「わたしたちは敵じゃない、味方同士……さっき、そう言ってたわよね」
 フーケは微笑む。
「その言葉が本当なら、杖をしまって話し合おうじゃない」
 そう言って杖を下ろすと、土ゴーレムはその場で土煙を上げて崩れ去る。
 後に残ったのは、最初に見たのと同じような形の小高い塚だ。
「そうね。お互いに、事情を説明し合ったほうがいいみたい」
 そう言ってキュルケはうなずき、ルイズも同意を示す。
「とりあえず、場所を変えましょう。わたしについて来て」
 フーケは下生えを踏みしだいて、木立の中へと進んでいく。
 君たちは、それに従うことにする。五六五へ。

五六五

 フーケの後について藪を掻き分けながら進むうちに、干上がった小川らしき深い溝に行き当たる。
 フーケは、
「あそこなら、敵に見つかる心配をせずに話ができるんじゃない?」と言う。
 しかし、ルイズたちは溝の中へ下りようとしない──相手は、トリステイン全土にその名を轟かせた悪辣な盗賊なのだから、
気を許そうとせぬのは当然だ。
「心配しなくても、罠にかけたりなんかしないわよ。ただでさえ敵だらけなのに、これ以上増やそうだなんて」
 フーケは疲れたようにかぶりを振ると、塹壕めいた溝の中に飛び下りる。
「墓穴にならなきゃいいんだけど」
 キュルケが下りたのを見て、ルイズとシルフィードもそれに続く。

 見張り役を買って出た君が周囲を見回している間、キュルケは、自分たちがなぜここに居るのかを説明する。
 彼女は、親友のタバサがロンディニウム塔に囚われているので、助けに向かっているところなのだと語る──賢明にも、
≪門≫を破壊する任務については口にしない。
 耳を傾けていたフーケは、あきれ果てたといわんばかりの顔をする。
「知ってるだろうけど、あの塔は今じゃカーカバード軍の本拠地よ? 遠い異国の邪悪な亜人と蛮族が、何万と集まっている。
そこに潜入しようだなんて、命を捨てにいくようなものね」
 そう言って、ルイズたちの顔を順番に眺める。
「でも、あんたたちの意志が固いのもわかる。わたしが何を言ったところで、諦めさせたりはできないでしょうね。
手伝う気はないけど、邪魔をするつもりもないから。幸運を祈ってるわ」
 フーケは立ち去ろうとするが、ルイズがそれを引き止める。
「待ちなさいよ。こっちにだけ喋らせて、自分からは何も教えないつもり?」
「あんたたちとはかかわりのない、つまらない話なんだけどねえ」
「たとえそうでも、聞かせてくれたっていいでしょ?」
 ルイズは食い下がる。
「簡単に言うなら、あんたたちと似たり寄ったりの事情」
 フーケは肩をすくめる。
「家族が……妹が、カーカバードの奴らにさらわれたのよ」
 そう言った瞬間、眼に怒りの炎が生じる。
「わたしが村に戻った時にはもう、連れ去られた後だった。それから不眠不休で奴らの足跡を追って、ここまで来たのよ。
邪魔をする奴は、みんな始末してやったわ」
「あの、ひどい姿の死体のことね」
 ルイズは凄惨な光景を思い出し、眉間に皺を寄せる。
「生き残った奴を締め上げて、連れ去られた人たちがロンディニウム塔のすぐ近く、
カーカバード軍の野営地に集められていることを聞き出した。何百という人間が、羊みたいに柵の中に押し込められているんだって」
「何のためにそんな事を?」
 キュルケが尋ねる。
「健康な者は、奴隷として奴らの国に連れ帰る。そうじゃないのは……」
 フーケは口ごもる。
「どうなるの?」
「……あの亜人が口にしたままに言うと、『切り刻まれて、スープに浮かぶことになる』だってさ」
「そ、そんな……」
 ルイズは息を呑む。
「ひどいことするのね! きゅい!」
 シルフィードの顔が青ざめる。

「それで、どうするの? ロンディニウム塔へ行くつもり?」
 キュルケがそう尋ねると、フーケは力なく笑う。
「まさか。あんたたちみたいな無鉄砲な子供じゃあるまいし、そんな無謀なことするわけないでしょ」
「で、でも」
 震える声でルイズは言う。
「ここまで来たのに、妹さんのことを諦めるっていうの?」
「無駄死にしたくはないからね。人さらいどもに途中で追いついていれば、助けることもできたけど、
こうなってしまっては、もうどうにもならないわ」
「だけど……」
「じゃあどうするの? あんたが妹を助けてくれるとでもいうの? どうなの、ミス・ヴァリエール!」
 フーケは荒っぽい声とともに立ち上がり、ルイズに詰め寄る。
 やりとりを眺めていた君は、フーケの態度になにか演技めいたものを感じる。
 妹を助け出すために、君たちを何らかの形で利用するつもりなのかもしれない。
 話を切り上げてフーケと別れるか(一六一へ)、協力を申し出るか(九へ)、それとも、
ウェールズたち王党派の襲撃について教えるか(二五七へ)?

二五七

 早ければ明日の朝にも、アルビオン王党派がロンディニウム塔に襲撃をかけるはずだ──君のひとことに、フーケは顔色を変える。
「本当に? 今までずっと森の中に潜み隠れていたあいつらが、どうして今ごろ?」
 君はしらを切る──たまたま耳にした話なので、王党派の意図まではわからぬ、と。
 諸国連合軍が敗走し勝利の希望が潰えた今、貴族らしく華々しく討ち死にするつもりなのではないか、と出まかせを口にする。
 フーケは首を横に振る。
「立派に戦って滅びるつもりなら、とっくにニューカッスルでやってるはずよ。恥も外聞も捨てて何ヶ月も逃げ回っていたあいつらが、
今になって無謀な突撃をするなんて信じられない……まさか、わたしを担ごうってんじゃないでしょうね?」
 そう言って、君の顔を見据える。
 君は視線を逸らさずに、信じようと信じまいと、自分たちはこの情報に基づいて動くつもりだ、と告げる。
 王党派の攻撃による混乱に乗じて塔に潜入する、と。
「あなたも便乗してみたら?」
 キュルケが口を挟む。
「カーカバードの奴らは襲撃に気を取られて、捕虜なんかに構っていられなくなるはずよ。その機会を活かせばきっと、
捕まっている人たちを助け出せるわ」
「なるほど。あんたたちの魂胆が読めたよ」
 フーケは唇の端を吊り上げる。
「王党派の部隊とわたしのゴーレムが同時に野営地を襲えば、騒ぎは倍以上に大きくなる。そうなれば、塔まで楽にたどり着ける。
貴族どもだけじゃなくて、このわたしまで利用しようとは、とんだ悪党ね」
「あなたに何かをやらせようだなんて、考えてもいなかったわよ」
 キュルケはとぼける。
「あたしたちは当初の予定どおりに動くだけ。大事な相手を助け出そうという気持ちは、あなたと同じくらい強いんだから」
「ふん。とりあえず、貴重な情報には感謝しておくよ」
 フーケは立ち上がる。
「ね、ねえ。一緒に来ないの?」
 ためらいがちにルイズがそう言うと、フーケは苦笑いを浮かべる。
「あんたたちとひと晩一緒に過ごすだなんて、ぞっとしないね。ひとりでいたほうが、ずっと気楽よ」
 身軽に跳び上がり、溝の淵に立つ。
「ちょっと待ちなさいよ」
 ルイズがフーケを呼び止める。
「まだ何か用?」
「妹さんの名前と特徴を教えてちょうだい。塔の中に連れ込まれているかもしれないでしょ」
「ありえる話ね」
 キュルケはうなずく。
「若くて綺麗な女の子なら、将校の個人的な『私物』にされているかもしれないわ」
 キュルケの演じる役回りが、まさにそれ──将校に献上される美女──だ。
「ああ、あの子はとくに目立つからね」
 フーケの表情が曇る。
「身内の贔屓を別にしても、人の目を惹きつける容姿なのは間違いないわ」
 不安に満ちた声を出す。
「妹の名前は、ティファニア。ウエストウッド村のティファニアよ。歳はあんたたちと同じくらい。流れるような金髪に青い瞳、
それから……」
「それから?」
「……耳……いや、胸……とにかく、もし見つけたなら、その時はよろしく頼むわ」
 フーケはそう言うと、長衣の頭巾をかぶり、足早にその場を後にする。
「耳と胸……病気か何かかしら?」
 フーケの背中を見つめながら、ルイズは首をかしげる。四六二へ。

四六二

 フーケと別れた君たちは、ロンディニウム塔へ向かって歩きだす。
 木々の間を通り抜ける細い道をたどるうちに日没が迫り、曇っていた空はより暗さを増す。
 しばらく進むと、小高い丘の向こうに目的のものを見いだす。
 夕陽に浮かび上がるロンディニウム塔の姿は、不吉で恐ろしげなものだ。
 塔は角張った形をしており、その頂上は平べったく飾り気のないもので、城塞というより石碑を思わせる。
「あそこ! あの塔の中に、お姉さまは連れて行かれちゃったのね!」
 シルフィードが塔を指さす。
「あれが……」
 キュルケは感慨深げにつぶやく。
「なんだか趣味の悪い、不気味な建物ね。何百年も牢屋として使われていたんだっけ?」
 キュルケに訊かれ、ルイズはうなずく。
「建てられて八百年余り、誰ひとり脱獄できなかった監獄として名高い、難攻不落の要塞よ」
 ルイズはじっと塔を見つめる。
「そんな所に潜入して装置を破壊し、さらにはタバサまで助け出そうだなんて……本当にわたしたちにできるのかしら?
今になって無謀に思えてきたわ」
「無謀でもなんでも、正しいと信じたことを成すのが貴族というものでしょ。そうよね、ルイズ?」
「わ、わかってるわよ」
 ルイズは眉を吊り上げる。
「ここまで来て、泣き言なんて言わないわ。さあ、先に進みましょう」
「それでこそラ・ヴァリエールよ」
 キュルケは笑みを浮かべる。

 君たちは丘の頂上に立つ。
 ここは見晴らしがよく、ロンディニウム塔とその周辺一帯を見渡せる。
 塔そのものは、険しい岩山の頂上に建てられている。
 円形の城壁に囲まれており、ひとつしかない門をくぐるためには、細く急な坂道を上らなければならない
──ハルケギニアでもっとも堅固な砦と呼ばれているのも、うなずける。
 岩山の麓には無数の天幕と小屋が建ち並んでおり、そこから、やはり無数の煙が上がっている。
 煙の源である焚火や松明の灯がちらつくさまは、星空さながらだ。
「あれが全部、カーカバード軍だなんて……」
 ルイズは放心したようにつぶやく。
「早くタバサを助けに行きたいけど……いくら変装しているからって、あれを突っ切るのは無理みたい」
 キュルケが溜息をつく。
「ウェールズ殿下が奴らを引き寄せてくれるのを、待つしかないわね」
「きゅい。お姉さま、どうかご無事で……」
 シルフィードはそう言うと、祈るように両手を組む。

 今夜はここに野宿することに決める。
 朝になってから野営地のすぐそばまで移動し、そこでウェールズたちが現れるのを待つのだ。
「ああ、もう! いやな匂いが全身にしみついちゃったわ!」
 ルイズはゴブリンの服を脱ぎ捨て、草の上に横たわる──気を張り詰めたまま一日じゅう歩き続けたため、
疲れきっているのだろう。
「その匂いのおかげで、変装がばれなかったんじゃない。感謝しなきゃ」
 キュルケは岩に腰かけ、長靴を脱ぐ。
「ねえ、ダーリン。脚の筋がこわばっちゃったの。揉みほぐしてくださらない?」
 そう言って、見事な脚線美を見せつける。
 ルイズはむくりと起き上がる。
「あんたねえ、時と場所を考えなさいよ……」
 キュルケを睨みながら、力なくつぶやく。
「ふふっ、冗談よ、冗談。食事にしましょう」
 キュルケはいたずらっぽく笑うと、雑嚢から干し肉やパンを取り出す。
 食事をとったので、体力点二を加えよ。

 その夜の君たちの眠りは、落ち着かぬものとなる。
 風に乗って聞こえてくる、カーカバードの太鼓や角笛の音の影響かもしれない。
 明日には、君たちの──そしてハルケギニアの──命運が決せられるのだ。二〇〇へ。

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