あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

ツェルプシュトー嬢の狂気

 休日のその日、キュルケは女子寮の共用スペースで音楽鑑賞をしているうちいつの間にか眠りについていた。
「……あら、キュルケ?」
 そこにルイズが通りかかって声をかけたが、キュルケは目を覚まさない。
「そんな所で寝たら風邪ひくわよ?」
 と再度声をかけたところで、ルイズはテーブルの上に置かれている小箱に目を止めた。
「これって、確か……」
 それは元々学院の宝物庫にあったという奇妙なオルゴールだった。
 普通のオルゴールは柱時計程の大きさがあるのだが、これは片手で持てる程度の大きさと相応の軽さだ。
 さらに流れる音色もオルゴールのそれとは思えない程、多様な楽器の音が組合わせられている。
 小箱の傍に置かれている5枚の円盤は普通の物同様オルゴールに設置して演奏する円盤だが、設置用の物以外穴が開いていない点も変わっている。
「この曲は初めて聞くわね」
 円盤は全6枚。ルイズが聞いた事のある5枚には、いずれも運命の悪戯や心の弱さで自分のみならず他者の人生をも狂わせた者達を歌った歌が刻まれていた。
 緑の円盤には、遊び人の夫に悩んだ末彼に毒薬を「よく眠れる薬」と偽って渡した事をきっかけに町1つをゴーストタウンに変えて自殺した女医の歌。
 黄色の円盤には、悪政で国民を苦しめた上自身の嫉妬から軍を他国へ侵攻させ、反乱軍によって処刑された王女の歌。
 桃色の円盤には、ある男への片想いから自分が彼と恋人ないし夫婦だという妄想にとり憑かれ、浮気相手だと邪推した男の妻と娘ばかりか男をも殺害した仕立屋の歌。
 赤の円盤には、この世の美食を極めた末人肉食に走り、最後には自分自身を食い尽くした美食家の歌。
 青の円盤には、娘の足を治すために必要な金を得るべく賄賂次第で有罪無罪を左右し、ある悪辣な将軍への無罪判決を発端とする内乱で自宅を焼き討ちされて死んだ裁判官の歌。
 そして現在かかっているこの紫の円盤には……。

(満たされないわ……)
 少女の柔肌に舌を這わせながら、ツェルプシュトー嬢と呼ばれる少女はぼんやりそう感じていた。
 だがそれはまだ無意識の領域を出ない程度の感情であり、大した違和感も感じる事の無いまま欲望に任せた彼女の行為は続く。
 今抱いてる少女の名前は忘れてしまった。
 確か元々はどこかの修道女だった。始祖に捧げる純潔とやらはどこへやら……。
(まあそれも仕方無いわね)
 少女の喘ぎを聞きながら令嬢はほくそ笑んだ。
(あたしに堕ちない女なんて、いやしないんだから……)
 ツェルプシュトーの言葉は決して自惚れ等ではない。
 事実彼女には女を魅了してやまぬ不思議な力があった。
「人を魅入る悪魔のような美しさだ」
 彼女の虜となる娘達を見て、国の男達は陰でそう噂した。
 事実この少女もそうだった。
 彼女がヴィンドボナを散歩して屋敷へ帰ってくると、恐らく後を追ってきたようですぐにこの少女が訪ねてきて玄関で修道服を脱ぎ捨てたのだ。
 その潔さを気に入られて少女は迎え入れられる事となった。キュルケの屋敷の地下室に広がる狂気のハーレムに……。


――今日もまた美しい女があたしの元訪れる 微笑みを浮かべる貴女は新しい妻となる
禁断の悪魔との契約手に入れたこの力 あたしを見た全ての女は魅了され堕ちていく
女性を魅了する力を手に入れた 女は1人住む屋敷の地下室に
気に入った女を次々と連れ込み ハーレムを作り上げた――

 ツェルプシュトー家令嬢・キュルケの裏の顔、それは召喚した魔剣に宿った悪魔と契約した色欲魔。
 ヴィンドボナの噂は図らずも真実に近かった。
 魔を宿したその瞳はハルケギニア中の女を惑わし、キュルケは気に入った女を地下室へ閉じ込める。
 そのため巷では連続女性失踪事件が話題になっていたが、キュルケと事件を結び付ける証拠は何一つ挙がっていなかった。

 元修道女の部屋を出て、キュルケは緩慢な足取りで自室へ戻る。
 自室に入ると、ベッド脇に座り込んでいた少女が振り返った。
 キュルケの赤い髪とよく映える美しい桃色の髪に、力強い光を持つ大きな瞳。
「ルイズ、起きてたの?」
 乱れた髪を手櫛で掻き上げつつキュルケは何でもない事のように尋ねた。
 彼女はキュルケの自室へ自由に出入りする事を許された唯一の存在、ルイズ・ヴァリエール。キュルケの幼馴染みで今では愛妾の1人だった。
「待ってたのよ! ずっと!」
 髪同様鮮やかな桃色に染まった自身の爪に向けていた視線を上げて、ルイズは不機嫌そうに答えた。
 ルイズを含めてこの屋敷にいる女達は皆キュルケの瞳に捕らわれた囚人。彼女に怒りを覚える事があるとすれば、愛するが故の嫉妬・独占欲からだけだ。
 今は夜明け頃、カーテン越しに白んだ光が射し込み始めている。
 その光がルイズのうっすら隈の浮かんだ顔を照らしていた。
 おもむろにキュルケはルイズの両頬を手で挟み込むと、そのまま自分の顔に接近させる。
「隈ができてるわ。寝なさい」
 そう言ってルイズをベッドの端に座らせる。
 しかめ面で自分を見上げるルイズを見下ろしキュルケは言う。
「『どんな事があっても、その顔は可愛いままでいて』って言ったと思ったけど?」
「……そうだったわね。部屋に戻って寝るわ。……おやすみ」
 言葉と共に立ち上がりベビードールの裾を整えるルイズの腕を引いて抱き寄せ、華奢な体を腕の中に収めてそのまま深くキスをする。
「んっ……」
 腕の中で小さく震えたルイズからそっと唇を放し、銀糸を舌で絡め取る。
「やっぱりここで寝て。あたしも今から寝るから」
 キュルケの言葉にルイズは打って変わって笑みを浮かべる。

 見慣れた屋敷の庭でキュルケは蹲っていた。
 子供の甲高い声が辺りに充満して目眩がする。
 金髪の少女が一際甲高い声で叫ぶ。
「あんたみたいな不細工と結婚させられる男性は可哀想ね! そう思わない、ルイズ?」
 呼ばれた名前にキュルケがびくっと身を震わせて恐る恐る顔を上げると、その視界に綺麗な桃色の髪を弄る悪戯っぽい大きな瞳の少女が入る。
「そうね、キュルケと結婚する男だったら……」
 そこでルイズはキュルケの目を見てくすりと笑う。
「私だったら死んじゃうわね!」

「きゃああああ!!」
 過去の自分の悲痛な叫びにキュルケは飛び起きた。
 太陽は既に高く昇り、カーテンの隙間から強い日差しが射し込んでいる。
 キュルケは震える手でそっと顔を撫でる。
(大丈夫よ、今のあたしはあの頃とは違う)
 忘れた筈の過去の醜い自分。
(幼い頃の屈辱を晴らすため悪魔と契約までして、今の姿と生活を手に入れて生まれ変わったっていうのに……。やっぱり一緒に寝ない方が良かったかしら……)
 傍で眠るルイズに視線を落とすと、安らかに寝息を立てている事に安堵して髪を撫でそっと額にキスをする。
 着替えると眠るルイズをそのままにキュルケは部屋を出た。
「あらキュルケ様、お顔の色が優れないようだけどどうなさったの?」
 廊下で女に見咎められ、キュルケは内心溜め息を吐く。
「何でもないわ。少し寝苦しかっただけよ」
 適当に答えると女はくすくす笑う。
「お可哀想。私なら夜も気持ちよく眠らせて差し上げられますのに」
 そう言って頬に啄むようなキスをすると女は、
「気分が良くなるおまじないです」
 と微笑みその場を立ち去った。
「大丈夫よ。今のあたしには愛される力があるから……」
 女のキスの跡をそっと撫でてキュルケは呟いた。

――燃やされた昔の肖像画捨て去った過去のあたし 誰しもが嘲り笑ったあの顔は忘れたい
傍らの可愛い女を抱き寄せてキスをする 彼女がそうかつてあたしの事馬鹿にした幼馴染み――

 昼下がりのヴェルサルテイル宮殿で、人目を避けるように暗い場所で話をする2人の人間がいた。
「……本当にやるのですか? 相手はゲルマニア貴族ですよ。もし勘違いだったりしたら……」
「勘違いなものか! あやつに抱かれて屋敷に入っていくイザベラを見た人間がいるのだ! イザベラはあの悪魔に誑かされたのだよ!」
 心配そうに声をかけた弟を振り返る事も無く、その人影は答えた。
 その手元では何かが怪しげに光っている。
「だからと言って、外国の貴族相手にもし失敗したら……」
 弟の手を振り払い、彼は静かに自らの固い決意を述べる。
「イザベラさえ帰ってくるのであれば、私の命などいくらでもくれてやろう! ……そのために大枚はたいて用意したのだ。だからもう口出しは無用だ!」

――ある日を境にして国中の女が いつしか次々と行方をくらませた
ある者は女房ある者は娘を 失い途方に暮れた――

 その日、キュルケは書斎で本を読んでいた。
 元々今日は特に予定は無かった。新たな少女を物色でもしようかと思ったがそんな気分でもなくなってしまった。
 小説・歴史書・芸術評論……。様々な本を棚から抜き出し気になる項を読んで戻す。そんな事で時間を潰した。
(後でまた地下へ戻ろうかしら。ルイズが起きたかもしれないし……)
 ページを繰りつつそう考えていると、呼び鈴の音が響いた。
 キュルケが対応に出ると、そこには女性が1人立っていた。
 きっちり編み上げた焦げ茶色の髪に深い海を思わせる青い瞳。胸の前で手を合わせたまま女性がおずおず口を開く。
「初めまして、お嬢……様」
 美しいハスキーボイスにキュルケはにやりと笑う。
「いらっしゃい、美しい人……」
 腕を広げて接近してくる少女を抱き締める。
(ほら、こんな事だって今のあたしには訳無い事――)
 微笑んだ瞬間、胸に激痛が走った。
「――な……っ!」
 抱き締めた少女を見ると、先程までの清楚な雰囲気は無くこちらを見てにやりと笑っている。
「さようなら、お嬢様」
 そう言いつつ腕を振り払ったのは、「女性」ではなかった。
 青い髪と瞳の男が崩れ落ちたキュルケを見下ろしせせら笑う。
 右手の赤く濡れたナイフと左手のウィッグに気付いた時、キュルケは床に倒れ込んでいた。
「女性達にとって貴女がどれ程魅力的かは私の知った事ではないがね、人の物を盗るからそのような目に遭うのだ!」
 そう言い残し男性は屋敷の奥へ進んでいった。
「ぐ……っ、あ……」
 何とか立ち上がろうとするが、どこにどう力を込めればいいのかすらわからなくなっていた。
 ただ鼓動に合わせて流れ出る血液は自分の命の欠片のようで、流れる程に命の終わりを冷淡に伝えてくる。
 血と汗が混ざった赤にまみれ、キュルケは力無く倒れ伏した。
 それとほぼ同時に、屋敷内がにわかに騒がしくなった。地下の娘達に解放の時が訪れたのだ。

――消えた娘を探してた父親 居場所を突き止めた悪魔の住む屋敷
父親は女装して悪魔に近付いた 懐の刀を悪魔に突き刺した――

 あまりの騒がしさにルイズは目を覚ました。
 頭がかつて無い程すっきりしている。まるで憑き物が落ちたかのようだ。
 ベッドを抜け出し部屋の扉をわずかに開けて、ルイズは目を丸くした。
 廊下を何人もの女が駆けている。ある者は泣きながら、ある者は愛しい人の名を叫びながら。
 訳がわからないままにルイズも引き寄せられるようにその走列に加わった。
 開け放たれたままの玄関まで来ると、その前に倒れたままの赤い少女の姿があった。
「キュルケ……?」
 ルイズの口から幼馴染みの名がこぼれる。
 赤い流れるような長髪には確かに見覚えがあった。
 女達の後を追い玄関をくぐってちらりと振り返ったが、そこに倒れていたのは血と汗にまみれ声にならない叫びを上げる見知らぬ少女だった。
(あれは助からないわね……。可哀想に)
 ふいと顔を背けルイズはそのまま屋敷を後にする。
 そして全ての者を見送ったとでもいうように、屋敷の扉がゆっくり閉まる。

(待って、待ってよ)
 動かない体でキュルケは必死で叫んだが、声にはならず空気の漏れるような音がするだけだった。
 キュルケの両脇を女達が脇目もふらず駆け抜けていく。まるで彼女など視界に入っていないようにただ一様に出口だけを求めて。
(待ってよ、1人は嫌よ。誰か……)
 キュルケの声が聞こえたのか否か、彼女の横をすり抜けたルイズが振り返る。
(ル……イズ……)
 愛しいその名を呼ぼうとするも、ヒューヒューという空気の音しか出てこない。
「(待ってよ、ずっと言いたかった事があったの。あなたに釣り合う女になれたら言おうって、ずっと思っていた事があるのよ。嫌よ、こんなはずじゃなかったわ。どうして? まだあなたに何も言えてない。こんなはずじゃない、こんなつもりじゃなかったわ。あたしはただ……、あなたに振り向いてもらいたかっただけだったのに……)ル、イズ……」
 再度呼びかけたがその声は届かず、ルイズは表情も変えずに前へ向き直ってそのまま屋敷を後にした。
「ああああ!!」
 声にならない叫びは閉ざされた屋敷の中へ消えていく。
 キュルケは残り少ない力で必死で持ち上げていた顔と左手から力を抜いた。その瞳はもう何も映していない。
 薄れゆく意識の中、覚束無い思考の中でキュルケは自らの色欲を呪った。
(何て馬鹿だったのかしら……。ほんとに愛する人に思いを伝えられずに、紛い物の愛でたくさんの人を傷付けた……。それでも求めずにいられなかった……。当たり前よ……、あたしの周りには嘘しか無かった……。だからいつまで経っても満たされないし、自分だって嘘になってた……。あたしは当然の報いを受けたのよ……)

――毒を秘めた刀が刺さりあたしはその場に倒れ込んだ 血と汗は混じり合いやがて真紅の雫へと変わっていく
術の解けた女達は全て我に返り屋敷から逃げ出した あたしの事一瞬だけ見て最後に屋敷から出たのは
あの幼馴染み待ってよまだ貴女に好きだと言ってない――

 どれ程走っただろうか。
 屋敷が見えなくなった辺りでルイズはふらつく足を止めた。
 共に屋敷を出た女達は皆思い思いの方向へ散っていった。愛しい人達の元へと帰っていったのだろう。
 街行く人々がナイトドレスに裸足という出で立ちのルイズを奇異の眼で見ていたが、今の彼女にとっては気にもならない事だ。
「くっ……」
 突然ルイズは頭を押さえて道端に座り込んだ。先程から頭が割れるように痛い。
(もうすぐ家に着くのに……)
 肩で息をしつつルイズは家があるはずの方向に視線を向ける。
 その時、膨大な映像が彼女の脳裏を駆け抜けた。
「いやああ!!」
 ルイズは記憶の渦に巻き込まれ、そのまま意識を失った。

 ヴァリエール邸の門の前に、見覚えのない豪奢な馬車が止まっていた。
 庭の東屋でぼんやりとしていたルイズは訝しげにそれを一瞥したが、特に気にする事も無かった。
「ルイズ!」
 突然名を呼ばれて、ルイズは振り返った。
 振り返ると、仕立ての良い服に身を包んだスタイルのいい少女が立っていた。赤い長髪が風になびいている。
「キュルケ……?」
 ルイズは目を丸くして疎遠となっていた幼馴染みの名を呟いた。
 確かに声も出で立ちも少女はキュルケそっくりだ。しかしルイズが知っている彼女とはまるで別人だった。
「久し振り。元気そうで何よりだわ」
 そう言って手の甲にキスされたため、ルイズは再度面食らった。
「(違うわ。この人は誰……?)あなた、本当にキュルケなの……?」
「もちろんよ」
 おどけて両手を広げる仕草もとても昔のキュルケとは別人のようだった。
「用事で近くに来たから久々に挨拶でもって思ってね。おじ様達に今会ってきたのよ」
 少女はそう言ってにっこり微笑んだ。
「あの馬車……、キュルケのなの?」
「ええ。立派な馬車でしょ?」
 キュルケは誇らしげに答えたが、ルイズは俯いただけだった。
「(キュルケはあんな派手なの好みじゃなかったのに……)キュルケ……、しばらく会わない間に何があったの?」
 地面を見つめたまま恐る恐る問いかけたルイズ。
「特に何も? ……ああ、でもちょっとした心境の変化はあったけどね」
 大した事がないように答え、キュルケは髪をかき上げる。
「それよりルイズ、あたしと一緒に来てくれないかしら?」
「え?」
 突然の言葉に驚いて、ルイズは顔を上げる。
「どういう事よ……?」
「どうもこうも、そのままの意味よ。もちろんいいわよね?」
 優しく頬を包み込まれじっと見つめられて、ルイズはそれきり何も考えられなくなった。

 ルイズが再度目覚めた時、彼女はベッドの上にいた。
 今度こそ懐かしい自分の部屋だった。
 ルイズが目覚めるまで介抱してくれていた下の姉が、街中で倒れていた彼女をたまたま通りがかった通いのメイドが家まで運んでくれたのだと教えてくれた。
「今までどこにいたのか」「巷での連続失踪事件や、行方不明になる直前に屋敷を訪ねてきたツェルプシュトー家令嬢とは何か関連があるのか」等様々な人から質問攻めにあう前に人払いをして、ルイズは丸1日1人自室に籠った。
 意識不明の間に見た夢――いや、取り戻した記憶を整理する時間が欲しかったのだ。
(今頃はあの女達かその親しい者からの通報でキュルケの家に衛兵が乗り込んで、キュルケの亡骸が見つかっている事ね……。あの時、どうしてあれがキュルケだって気付けなかったのかしら……。せめて最期まで一緒にいてあげたかったわ……)
 自室の窓からツェルプシュトー邸があるはずの方向に視線を向ける。
「キュルケ……、あなた馬鹿よ……!」
 一言呟いたルイズの瞳からは光る物が溢れていた。
 自分の容姿に劣等感を持ち続けていたキュルケ。
「(自分は誰からも愛されないって、本気でそう思ってたの……? そのせいでこんな事になるなら、周りの目なんか気にせずに言えばよかったわ……)あんな事しなくても……、私はキュルケの事……っ!」
『キュルケと結婚? ありえない話だけど……。もしそうなったら私、嬉しくて死んじゃうわね!』
(キュルケが本当は優しい子だって……、誰より綺麗な女だって……、私だけがよく知ってるんだもの……)

 気が付いた時、キュルケは女子寮共有スペースの天井を見上げていた。
 横に視線を向けると、音楽を流し続けているオルゴールが視界に入った。
「……あら」
 聞こえてきた声の方向に振り向くと、自分に膝枕をしているルイズの姿があった。
「キュルケ、起きた?」
「……ルイズ?」
「あら、泣いてるの?」
 ルイズの言葉通り、キュルケの両目には涙が浮かんでいた。
 そしてキュルケの頬が赤らむのと共に、涙は見る間に量を増して瞳を潤ませていく。
 次の瞬間、キュルケは勢いよく状態を起こしてルイズに抱きついた。
「!?」
 突然の出来事に声にならない声を上げたルイズだったが、
「ルイズ、好きよ。大好きよ」
「あ、ありがとう?」
 涙ぐみつつ自分に語りかけるキュルケの頭を、困惑の表情を浮かべながらも優しく撫でるのだった……。

「はい、ホットミルクですよ」
 その言葉と共に、シュヴルーズが2人の傍のテーブルにカップを置いた。
「ミス・ツェルプシュトー、凄くうなされていましたよ?」
「ありがとう……」
 シュブルーズに礼を述べたキュルケだったがじっと彼女の胴体を見つめ、
「………」
「何ですか?」
 おもむろにシュヴルーズの胸を鷲づかみにする。
 突然の行動に硬直したルイズ・シュヴルーズなどどこ吹く風といった様子で、キュルケは安堵の表情を浮かべる。
「よかったわ。本物のミセス・シュヴルーズですね」
「本物って何よ?」
「――……っ!!」
 一方シュヴルーズは憤怒の形相となって、キュルケの顔面に平手打ちを浴びせた。
 そしてその場から走り去っていってしまう。
 呆然とそれを見送っていた2人だったがやがてルイズがキュルケに、
「ほら、あんながっしりつかんじゃ痛いじゃない?」
 と声をかけるとキュルケは、
「たー……」
 と呟きつつ頬をさするのだった……。


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