あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

るろうに使い魔外伝-01


 春風が吹く季節も佳境に入り、段々と新緑の夏の匂いが色めき始めるこの頃。
 ここトリステイン魔法学院も、遂に一週間後には待ちに待った『夏休み』が来ようとしていた。
 殆どの学生たちは、皆久しぶりの実家帰りや企画を持ち込んでの大冒険を模索し賑わせる中、一人の少女は変わらない無表情で廊下を歩いていた。
 少女の名はタバサ。その昔、大国ガリアの正統なる王女の血筋を引く者だったのだが、『不慮の事故』で父を亡くし、その上謀殺されたように母親も心を奪われ、自身は過酷な環境に身をおかされて日々生き死にをかける人生を送っていた。
 幼い頃は明るかったその顔も、今はすっかり人形のようなものへと変貌してしまい、常に突き放すかな様な雰囲気をその身に纏わせていた。
 これは、そんな彼女に起こった、ある一つの物語である。


     外伝第一幕 『タバサと人形』



 タバサは廊下を抜け、外庭へと出ると、いつもの場所へと向かっていった。
 そこはヴァストリ広場。かつてギーシュとルイズの使い魔である彼…緋村剣心が決闘をした場所でもあった。
 思えば、これが全ての始まりだった。彼の実力を目の当たりにしたのは…。
 タバサは目を閉じ、静かに一人瞑想する。ギーシュの作り出した銅像を、余すことなく回避していた彼を、頭に浮かべて思い出していた。
 次に出てくるのは、フーケの時の戦い。彼女とは二度に渡って戦ったことがあったが、その両方において、彼はフーケを圧倒していた。その時の動き、飛天御剣流の動きを正確に思い起こす。
 そして、最後のアルビオンでの戦い…スクウェアクラスのワルドが呼び出す『偏在』を、彼は全然ものともしなかった。
 そして、ワルドに止めを刺した、あの技…抜刀術の構え。それを鮮明に思い描きながら、タバサは杖を構え…。

「こんな薄暗いところで一人で、一体何やってんのね」

 その言葉に、タバサは瞑想を中断する。ふと顔をあげればそこには、彼女の唯一の使い魔、風竜のシルフィードが呆れた様子でタバサを見つめていた。
「お姉さま最近ヘンなのね。前は本ばっかり読んでいたのに、近頃は外に出てそんな寂しいところで一人馬鹿なことして…正直言って見てらんないのね!」
 子供のように怒りながら、シルフィードはきゅいきゅい喚いた。当たり前のように人語を話していることから分かるとおり、この使い魔も只の風竜ではなかった。
 タバサの使い魔、シルフィードは竜達の中でも高度な能力を持った珍しい『韻竜』の幼生である。
 高い知能を持ち、人語を解し先住魔法をも操れる韻竜は、この世界では滅多に見ない幻の存在でもあった。
 故に、その正体を知るのは今のところはタバサ一人。もしこの事が明るみに出たら、色んな機関の連中に狙われるかもしれない。だからこそタバサはシルフィードとの会話も徹底していた。
 今は誰も周りにいる気配がないので、特に問題はなさそうなのではあるが。

「ねえ聞いてるの? おいこらちびすけ、お前のことなのね。そんな独り遊びをこれ以上続ける気なら、もう思い切って使い魔をやめることも辞さないのね」
 そう言ってシルフィードはタバサの頭をカプカプ噛んだ。噛むといっても甘噛み程度なのだが、端から見れば本当に食われているようにも見えた。
「今日はちょっと違う」
 シルフィードの甘噛みから逃れたタバサが、そう言いながら懐から何かを取り出す。
 それを見たシルフィードは、疑問符を浮かべてタバサに尋ねた。
「それって、『スキルニル』?」
 タバサが手に持っているのは、小さな人形を象ったマジックアイテム『スキルニル』だった。
 この人形に血を吸わせると、吸わせた人間と瓜二つの姿に変化することができる。その者の能力や特技も正確に、である。

「この前の任務の時に、そのまま持ってきた」
「ああ、あれね。あの時も大変だったのね」
 シルフィードはそう言いながら、遠い目で空を見た。
 とある引きこもりの坊やを引きずり出して欲しい。そう依頼された時のことを思い出したのだ。
 結果的に、この『スキルニル』を使って見事任務達成と相成ったのではあるが、どうやらタバサはそのまま拝借して使っているようだった。
「アネットさんとわがまま坊や、今頃元気してるのかなぁ…ってお姉さま!! 何してるのね!!?」
 ふとタバサの方を見たシルフィードが、慌てて叫んだ。
 何とタバサは、小さなナイフで自分の指を傷つけ、溢れた血をスキルニルに一滴垂らしたのだ。

「お馬鹿!! それ使ったらどうなるか、お姉さまだって知ってるはずじゃ…―――」
 そう言うシルフィードを他所に、スキルニルは徐々に形を変えていく。
 やがて変化が止まると、タバサの前にはもう一人の『人形のタバサ』が向き合うように並んだ。
 スキルニルのタバサは、ゆっくりと杖を構える。シルフィードも見慣れた、魔法詠唱に特化したいつものタバサの構えだった。
 対する本物のタバサも、杖をスキルニルに向ける。だがこうして見ると本物の方は随分と型が違っていた。
 まるで居合を放つかのように、腰をため、一気に襲いかかるような姿勢で構えているのだった。
「お姉さま、一体何を…?」
 訳が分からない、そういう目でシルフィードは訴えるが、タバサの視線は既に、目の前の人形以外見えていないようだった。
 一瞬の拮抗、動いたのは同時だった。
 何度も瞑想して、思い起こした抜刀術を、タバサは人形目掛けて放つ。対する人形のタバサは、それを後ろに飛ぶことで回避し、素早く呪文を唱える。
 『ウインディ・アイシクル』。あまねく氷の矢が、タバサに向かって殺到していく。タバサは、素早く杖を返すように振りながら呪文を唱える。
 『エア・ハンマー』の呪文が、視界に映る氷の軍勢を全て叩き落とした。
 その強力な風は、思わずシルフィードも目をつむってしまう程強かった。

(お姉さま、本当に何がしたいのね…?)

 シルフィードも召喚されてから日が短いとはいえ、それでもタバサがどういった人間なのかは大体分かっていた。
 無口で無愛想で根暗で本の虫で時々食事を忘れたりもする薄情者だけど、本当の心は優しくって強くって、それでいて格好いい。シルフィードもタバサの事を本物の姉妹のように親しく、とても気に入っていた。
 ただ、時々だけど…それでも彼女の事が一瞬分からなくなる時がある。
 その時の彼女の目は、本当に…本当に怖くって、二つ名の『雪風』が可愛くおもえるような、鋭く、深く、恐ろしいものになるのだ。
 思わずシルフィードもゾクリと背筋が凍るような、あの視線。
 今戦っているタバサは、徐々に、だが確実に、あの目へと変貌していった。


 タバサは素早く自身の風の魔法を回避する。だが完全に避けきれなかったのか頬に軽く傷がついた。
 それでも構わず、タバサは自身に風の魔法をかける事で疾走し、そこから杖を刀のように振り回しながら、風の魔法を撃っていた。
 人形の取っている行動は、あくまでもタバサのそれまでの戦い方だった。隙を見つけて風や氷で牽制しながら、大きく距離を保ち魔法で攻める。
 それと比べると、本物のタバサの動きはまるで違っていた。攻め方までは一緒だ。隙を見つけて相手の出方を伺う、暗殺者のような動き。
 ただ、距離を保って魔法のみで戦う人形と違い、タバサはひたすら接近戦を挑んでいるのだった。
 人形が飛び退いて距離をとったかと思えば、それを機と見てタバサもすかさず距離を詰める。そして追撃するように魔法を放つ。
 それは、タバサがずっと頭の中で思い描いた、彼の動きそのものだった。

(なあお嬢さん、『北花壇騎士』って知ってるか? お前達花壇騎士とは違って陽の当たらねえ場所を歩く、騎士とは言えねえ騎士さ…。その中で『化物』が現れたそうだぜ)

 タバサは冷静に、人形の唱える氷の矢を絶妙な体捌きで回避する。そして冷淡な瞳で、人形の隙を伺った。

(俺も元、その北花壇騎士の一人だったさ。けどよ、俺なんか弱い方だぜ。噂じゃ最近入ったその化物は、俺みたいな炎の使い手でな、阻むもの全て跡形もなく焼き尽くしてきたみたいだったぜ)

 吹き荒れる風や舞い散っていく氷の破片をもろともせず、タバサは突っ込んでいく。虚をつかれたことに反応が鈍ったのか、一瞬人形の動きが止まる。

(しかも笑っちまうことによ。噂じゃそいつ…メイジじゃねえらしいんだ。可笑しいだろ? 只の平民が『シュヴァリエ』で化物と来たもんだ。北花壇騎士ってのは、そういう奴らばっかりさ、それに比べればお前なんて…―――)

(――――…知ってる)

 その先をかき消すかのように、タバサは『ウィンド・ブレイク』を唱える。
 防御の間に合わなかった人形は、そのまま吹き飛ばされ、壁に叩きつけられる。その隙を逃さず、タバサは畳み掛ける。
 腰を落とし、杖を後ろにして座す『抜刀術』の構え。準備が整うと、タバサは素早く地面を蹴って駆けた。


(『所詮この世は弱肉強食。強ければ生き、弱ければ…―――)


 タバサは杖に『ブレイド』を唱え、そこから一閃を放つ。剣心との決闘からさらに研ぎ澄まされ、洗練された一撃だった。
 人形は、後退する場所がないため、やむなく杖で攻撃を受ける。杖で防がれた攻撃は、暫く鍔迫り合いとなって激しく拮抗した。
 だが、それを狙うかのようにタバサは第二撃を放つ。
 振り抜いた杖に隠れた氷の刃―――『ジャベリン』で創り研ぎ澄ませた鋭い刀の氷像は、杖での防御をすり抜け人形を横から真っ二つにした。


「――――…死ぬ』」


「お姉さま……」
 魔力が尽き、元の人形の姿に戻ったスキルニルを拾い上げるタバサを見て、シルフィードはぽつりとそう呟いた。
 本当に…時々お姉さまが分からなくなる。何をそんなに生き急いでいるのか。理由は知っているつもりだけど、最近特にそう思うようになった。
 スキルニルを懐にしまいこみながら、タバサはゆっくりとこちらにやって来る。その目は、やっぱりシルフィードにとって少し怖い目をしていた。

「お姉さま、あのね…」
 何か言おうとして、シルフィードは口を開いた……その時。
 突然、場違いな腹の音がシルフィードの耳に届いた。タバサは自分のお腹をさすりながら呟いた。

「お腹すいた」

 どうやら過度な練習ですっかり空腹になってしまったようだった。
 その様子を見たシルフィードは、ぷっと吹き出す。余りにも可笑しくて無意識に体を震わせていた。
「…これから大事なことを言おうとした矢先に…空気読めなのね」
「何か言った?」
「何でもないのね!! シルフィもお腹すいたのね! だから一緒に食べに行こうなのね!!」
 怒りとも笑いともつかないような声を上げながら、シルフィードは叫んだ。タバサは杖でそんなシルフィードを軽く小突く。
「痛い、痛いのね」
「うるさい。静かに」
 いつもの表情、いつもの無愛想な声で、タバサはそう言った。それだけでシルフィードは少し安心するのだ。やっぱりお姉さまはまだこっちの方がいい。
 シルフィードはそのままタバサを乗せると、大空へ向けて飛び出した。心地よい風をその身に受けながら、シルフィードは本を読むタバサに向かって声をかける。



「ねえ、お姉さま」
 返事はなく、ただ本をめくる音だけをタバサは返す。別にこれ自体いつものことなのでシルフィードは構わず続けた。
「お姉さまは、これ以上変わったりしないよね?」
「…どう言う意味?」
 本に視線をうつしながらも、今度はタバサも口にしてシルフィードに聞き返した。
 シルフィードは、しどろもどろな口調ながらもタバサに言った。

「何ていうか…お姉さま、時々怖い目をするのね。自分で気づいてるのか分からないけど、それがシルフィすっごい嫌なのね。本当に、わたしの知ってるお姉さまが、どっか遠くへいなくなっちゃう様で…だから改善して欲しいのね」

 ここでタバサは、本から視線を外してシルフィードの方を向いた。怖い…? いつそんな目をしたのだろう…? タバサは全然覚えがなかった。
 でもシルフィードがそう言うのなら、恐らくそんな感じの目をしていたのだろう。タバサはそう思った。
「善処する」
 取り敢えず、シルフィードにはそのように返しておいた。それですっかり安心して上機嫌になったのか、シルフィードは鼻歌交じりで街へと飛んでいった。


 しかしそれは、これから始まる戦いの序章に過ぎなかった。


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