あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

Neverwinter Nights - Deekin in Halkeginia-15


「ではミスタ・グランドプレ、前へ。
 私が固定化をかけた石を錬金できないということを確かめてみてください。
 それから……、ミスタ・グラモン。あなたは、こちらの石に固定化を。
 それに対して、私が同じように錬金をした場合には―――――」
「…………………」

キュルケの親友であるところの蒼い髪の少女、『雪風』のタバサは、机の下で本を開いて読み耽っていた。
ちょっと見ると下を向いて熱心に勉強しているようだが、実は開いているのは教科書ではなく、授業とは関係のない本である。
この程度の基礎的な講義の内容はとうの昔に全て知っており、教科書を開いているよりも新しい知識を仕入れる方がよほど勉強になると思っているのだ。
それゆえ時折顔を上げて授業の進行具合や実演の様子を観察する以外、講義は聞き流している。

タバサは本を読みつつ、授業内容ではなく別の考え事に注意を払っていた。
言うまでもなく、ルイズの使い魔であるところの亜人、もしくは竜に関してである。

あの使い魔が只者ではないのは確かだ。
先程自分の主人も含め教室中の意見を上手く誘導して大事なく事を収めた手並み、あれはもはや偶然とは思えない。
外見や話し方からして小さな子どもだとばかり思っていたが、あの手練手管を見るとそうではないのかもしれない。

だが、それが分かったからと言って、こちらの目的に何か進展があったかと言われると結局何も進展はしていないと言わざるを得ない。
只者ではないからといってイコール竜だと決まるわけでもないし、むしろ騒ぎに乗じて目立たずに接触しようという当てが外れてしまったのが痛い。

しかしまあ、今更ぼやいていても仕方ない。
目立ちたくはなかったが、こうなれば授業後に張り付いてヴァリエールのいない隙を見計らい、あの使い魔を捕まえて話をすることにしよう。
幼生とはいえ自分の使い魔は風韻竜、その翼で用事を終えて戻って来るまでにそう掛かるはずもないのだし、のんびりと好機を待ってもいられない。

(……おそらくもう、街にはついた筈)

今自分の使い魔がどのあたりにいるのか気になったタバサは、感覚の共有を試みた。
もし早々に買い物を終えて戻って来そうなら、なおさら急がなくてはならない。

(……――――――)

そっと目を閉じて意識を集中すると、脳裏に現在イルククゥの見ている光景と聞いている音がぼんやりと浮かんできた。


……イルククゥの耳に、トリステインの街の雑踏が聞こえている。
通りゆく人々の談笑、店の呼び込み、聖歌隊のパレードの笛の音色……。

彼女は人間の街が珍しいのか、あちこちをきょろきょろと眺めているらしく、光景が頻繁に切り替わる。
あちこちの店の陳列品に、大道芸人の行うジャグリングの芸に、聖歌隊の行進に………。
ふらふらとさ迷い歩いているうちに、目的の店とはまるで違う方向に移動していく。

そのうちに、イルククゥ自身のつぶやきが聞こえてきた。

『………ここどこなのね?』


タバサは誰にも気づかれないほど小さく溜息を吐くと、感覚共有を打ち切った。

どうやらあの子は油を売っているようだ、おまけに道に迷ったらしい。
仮にも伝説の韻竜だというのに、まったく子どもっぽいにもほどがある。

呆れたものだ……が、まあ今は好都合だ。
もしスムーズに買い物が済んでしまっていたならこの授業を理由をつけて抜け出し、窓の外にいるヴァリエールの使い魔と接触しようかとも考えていた。
だが、この分ならまだ余裕がありそうだし、そこまで強引な手を使って急がなくともいいだろう。

タバサがそう考えてひとまず思案を打ち切り、本の内容に戻ろうとした時。
耳元に囁くような声が聞こえてきた。

『――――アー、アー、ええと……、聞こえる?』
「……?」

今の声は、一体誰だろう。
タバサは怪訝に思ってあまり顔を上げずにそっと周囲を見渡してみたが、それらしい者は見当たらない。
感覚共有は切ったしイルククゥの聞いた声という事もないはずだが……空耳だろうか?

『ええと、聞こえたかな……。
 こちらはルイズの使い魔のディーキンなの。
 授業の邪魔をして申し訳ないけど、聞こえてたら囁き返してくれる?』
「! ………聞こえる」

タバサは驚きにやや目を見開きつつも、周囲の生徒に不審がられないよう顔を伏せながら指示通り小声で囁き返した。
これだけ小さな声で、まして授業中ならば誰にも聞こえる心配はあるまい。

『アア、ちゃんと通じてるみたいだね。よかったの』

囁き返すと、ディーキンの安心したような返事がまた耳元に聞こえてきた。
タバサは困惑しながら、ちらりとディーキンがいるはずの窓の向こうに目をやる。

今は窓の下の方で掃除をしているらしく、小さな角の生えた頭がちらちらと見え隠れしていた。
どう考えても、普通ならば囁き声でやりとりができる距離ではない。

(………これは………、何?)

彼女が困惑した理由は、唐突にディーキンが自分に声を掛けて来た理由を諮りかねたからというだけではない。
勿論それもあるが、それにもまして不思議なことがあった。

タバサはトライアングルクラスという、かなり上位の腕前を持つ風のメイジである。
風のメイジは自分の周囲で起こる風の動きに敏感であり、優秀な使い手ならばその動きで、目を閉じていても周囲で動くものの様子をある程度察知できる。
タバサの知る限り、声を遠くへ届かせるのは風の呪文である。先程ディーキンに声を送った自分の呪文もそうだ。
亜人が用いる先住の魔法といえども、系統魔法と同じく地水火風の四属性に分類されるのだから、それは変わらない。
そして、たとえ先住の風魔法であろうと、周囲で風の自然ならざる動きがあれば見逃すはずがないという自信が彼女にはあった。

なのに、ディーキンが声を掛けてきた時には、風の動きを全く感じなかった。
それどころか、注意深く気を配っている今でさえ、何ら不自然なものは感じ取れない。
どんな呪文かは分からないが、明らかに魔法によって声を届けているはずなのに……。

僅かに眉根を寄せて考え込むタバサをよそに、ディーキンは話を続ける。

『ええと、ディーキンは今、少しあんたと話しても大丈夫かな?』
「………大丈夫。でも、何故」
『ウーン、なんていうか、ディーキンの勝手な勘違いかも知れないけど……。
 さっきあんたが声を掛けてくれた時、もしかしてディーキンに何か話があるのかなって思ったの』
「………。どうして、そう思った?」
『いや……、その、そんな顔っていうか、感じっていうか。そう見えたの。
 けど、普通に話しかけてこないから、何か他の人に聞かれたら困る事かなって思ったんだけど……』
「………、そう……」

タバサは表情こそ殆ど変えなかったが、内心かなり驚いていた。

自分は、感情を態度や顔に出さない。
それは今までに経験してきたことからそうならざるを得なかったためであり、また、意識してそのように訓練してきたためでもある。
この学院の中で自分の表情や態度の僅かな変化から感情を読めるのは、親友のキュルケくらいのものだ。
なのにあの使い魔はほとんど初対面で何も知らない間柄の自分の感情を見抜いた。
そしてその理由までも洞察し、わざわざ気を使って他人に知られないように声を掛けてきてくれたというのか。

一方、ディーキンの側からすれば、それはなんら不思議な事ではない。

なにせ幼少期から気まぐれで暴力的なドラゴンを主人として傍に仕えていた身である。
主人の機嫌や思惑を的確に読んで不機嫌な時は傍に寄らない、もしくは上手く機嫌を取る術を学ばねば、命に関わったのだ。
相手が異種族であろうが、表情の変化に乏しかろうが、やるしかなかった。

冒険者となった後も、ドロウやイリシッド、そしてデヴィルなどの策略の達人として知られる様々な相手と渡り合ってきて、更に技量は高まっているのだ。
連中とやり合うのに比べれば、ほんの2、3年ばかり感情を隠す術を磨いた程度の少女の悩んだ様子に気が付く事など難しくもなんともない。
先程周囲の意見を誘導して、上手く自分の望む方向に持って行ったことも然りだ。
あの程度の状況を何とかできないような<交渉>や<真意看破>の技量では、暗黒世界や九層地獄では全く通用しないだろう。

『アア、でももし違ってたら、勝手な思い込みで迷惑を掛けてゴメンなの。
 もしそうなら、お詫びして話は止めることにするよ』
「……違わない、あなたの考えは正しい」
『オオ、それならよかったよ。
 ウーン、じゃあ、今ならその事を話してもらって大丈夫かな?
 だけど今は授業の最中だね……、終わってから、どこかで話してもらってもいい?』
「今、話したい。あなたが大丈夫なら。わざわざ気を使ってくれて、感謝する」

まさか向こうから、人目に付かないような形で接触を図ってきてくれるとは。
タバサにとっては実際願ってもない話で、感謝したくもなる。

『ンー……、そう? じゃあ、今話してもらうことにするね。
 ああ、ディーキンは自分が気になったから話しただけで、感謝されるような事じゃないの。』

ディーキンは窓の縁に掴まりながら、少し首を傾げてそう返事を返した。

実際、わざわざ授業中に呪文まで使って声を掛けた理由としては、面識もない少女が何故自分と話をしたいのかが単純に気になったからだ。
ついでに言えば、その少女が勉強中の学生メイジにしては妙に戦い慣れしているような気配をまとっているのも、関心を強めるのに一役買っていた。

『ところで、ディーキンはコボルドのバードで冒険者、鱗を持つ歌い手だけど、あんたはなんていう名前なの?
 ディーキンはまだ、それを聞いてないよ』
「タバサ。『雪風』のタバサ」
『ウーン……、雪風のタバサ……だね、ディーキンは覚えたよ。
 よろしくなの、タバサ』
「こちらこそ」

ディーキンはタバサと挨拶を交わしつつも、他の学生とはなんだか名前の感じが違うなあと首を捻った。
タバサというと、どこだかの古い言葉で何か、草原に棲む動物を指すのだったような気がする。

(もしかして、偽名とか?)

あるいはその事も、自分と密かに接触したがった理由に関係しているのかも知れない……、というのは、穿ち過ぎだろうか。
まあ今の段階でそんなことまで考えていても仕方がないだろうが。

『それで、ええと……、タバサは、ディーキンにどんな用事があるの?』

タバサはそこで、少し逡巡する。
果たして、この得体の知れない使い魔に、自分の使い魔の事をどこまで伝えてよいものか……。

「私の使い魔は風竜、それが昨夜からあなたに関心を持っている。
 あなたが、自分と同じドラゴンだと思っているらしい。
 ……それが本当かを、聞きたい」

タバサは結局、ひとまず韻竜であるという事は伏せて、端的に用件を告げることにした。

『……え? ドラゴンが、ディーキンにそんなことを言ったの?』

ディーキンは窓の外でやや驚いたような声を上げる。

フェイルーンではコボルドはドラゴンを敬い、忠実に仕えようとするが、残念ながらドラゴンの方が惨めで脆弱な遠い親類に興味を持つことは稀だ。
昔の主人もコボルドは同族と認めるには弱すぎると言って歯牙にもかけず、機嫌が悪い時には平気で殺していた。
まあ、自分だけは少し特別扱いしてくれたが。

『ええと……、うーん、それは……、多分本当だよ。
 コボルドはドラゴンの血を引いてるからね、きっとそのせいだと思うの』
「コボルドがドラゴンの血を引いているなんて、聞いたことがない。
 それに、あなたはコボルドには見えない」
『アア、それは昨日ルイズ達にも説明したけど……』

ディーキンは自分が遠く離れた地から来た亜人で、その地ではハルケギニアとは名称が同じでも別種の生物であるものが多いらしい、と説明していく。

『ディーキンが昨日ちょっと本を読んで調べた感じではコボルドもそうだし、ここで見た感じだとサラマンダーやバグベアーなんかも違ってるね。
 それから、ええと………』

ディーキンは“ルイズと正規の契約をしていない”と言う部分だけは約束なので伏せたが、これまで分かった事の多くを正直に伝えていった。
彼女は教室の他の生徒達と比べて段違いに鋭そうな雰囲気を纏っており、深い意味もなく無闇に多くの事を伏せても勘ぐられるだけで逆効果だと思える。
それにタバサはキュルケの親友だという事だし、『隠し事はありそうだが信頼できる人、かなりの大物かも?』というのがディーキンの見立てであった。
ごく直観的な判断ではあるが、駆け出し時代のボスを一目で偉大な英雄だと見抜いた自分の目、特に大物を見抜く目は確かだと自負している。

「……………」

それに興味深く耳を傾けていたタバサは、話が一区切りつくとじっと考え込む。

まるで聞いた事もないような話ばかりで、普通なら非常に疑わしい……、まず信じられないような内容ではあった。
だがタバサは、結局それらはみな本当の話であろうと判断した。

彼女とて数々の困難な任務を潜り抜け、裏切りや策謀にも常に注意を払ってきた身なのだ。
信頼できる相手かどうかを見抜く目、嘘を見抜く目は、相応に身に付けているという自信がある。
彼には嘘をついているようなそぶりは全く感じられなかったし、間違いなく只者ではないにせよ悪意のある人物とは思えない。

(……彼の故郷、フェイルーンと呼ばれる地では今も韻竜が当たり前に存在している。
 その地では稀に韻竜が他種族の姿に身を変えてその種族との間に子を成すことがあり、竜の血を引く者が時折見受けられる。
 特にフェイルーンのコボルドは種族全体が竜の血を引いていて、竜に奉仕している。
 彼は以前に韻竜の主人に詩人として仕えていて、竜の力を引き出すための訓練も積んでいる……)

その話が本当であるなら、彼は韻竜である自分の使い魔の話し相手として、これ以上ないほどに相応しいだろう。
おそらくこちらの立場を理解して、秘密を守ってくれそうな人物にも思える。
しかし………。

『アー、それで、タバサの使い魔さんがディーキンに興味を持ってるのは分かったけど。
 つまり……、あんたはディーキンに、一体何をして欲しいの?』
「……その前に、お願いがある。
 これからする話は、あなたの主人には伝えないでほしい。
 ルイズの害になるような話でないことは、誓う」

タバサは窓の向こうの話し相手には見えないことを承知で、小さく頭を下げた。
他人の使い魔に対して主人に隠し事をしてくれなどと要求するのは非常識な事だが、こればかりはどうしようもない。

『つまり、タバサはディーキンが約束すれば、それを信じて大事な秘密を話してくれるってことなの……?
 オオ……、ディーキンはすごく嬉しいの、あんたの期待を裏切らないようにするよ』
「……? 頼んでいるのは、私の方。どうして、あなたが感謝するの」
『ンー……? だって、ちっぽけなコボルドを信じて大事な秘密を話してくれるなんて、滅多に無い事だよ。
 そんな風に扱ってもらえることに感謝するのは、当然だと思うの。
 信頼されるって、コボルドには滅多に無い事だし、そうでなくても誰にとっても大事な事じゃない?』
「………」

タバサはなんとなく、キュルケがこの使い魔を高く評価していたことに得心がいった。
色々と行きがかりはあったが、彼女もまた、無口で愛想の欠片もない自分の事を最後には信頼できる親友として認めてくれた人だったのだから。

同時に、この使い魔の事は全面的に信頼してよいだろう、と結論を出した。

「―――そうかもしれない。
 ……じゃあ、話す。まず、私の使い魔は風韻竜で……」


「ただいまなの、ルイズ」

ちょうど授業が終了した直後に、ディーキンは窓の外から戻ってきた。
教室を出ていくシュヴルーズに軽く挨拶してからルイズの元へと戻る。

「お帰り……、随分時間が掛かってたわね。その……、そんなに汚れてた?」
「アア、いや、それほどでもなかったの。
 けど、始めたら色々細かいところが気になって、関係ないとこまで片付けてたから時間が掛かったの」

ディーキンはにこやかにそう答えて、詫びるように軽く頭を下げた。

まあ、嘘ではない。
確かに『タバサとの話』というルイズとは関係のない事で、細かいところをしっかりと詰めていたら時間が掛かってしまったのだから。

「ふうん。……そういえば、随分機嫌良さそうな感じね。
 そんなに掃除が好きなの? 出ていく前に掃除の達人だとか言ってたわね」

ディーキンがにこにこしているのは、言うまでもなく授業時間中目いっぱい頑張って万事上手くやりおおせた達成感からである。
ルイズは何やら勘違いをしているようだが、まあディーキンがタバサと話をしていたなどとは分かるわけもないし、無理もない事である。

あの後ディーキンはタバサと話を続け、彼女の使い魔である風韻竜の話し相手となる事、その正体をルイズを含め他の者には伏せることを承諾した。
正直に言えばドラゴンは未だに少し怖い相手だが、『自分に相応しい自信と勇敢さ』を持つことをボスも望んでくれていたし。
それにタバサが言うには彼女は子どもっぽい竜で、怖れることはないらしい。
何よりも、初対面の自分に全面的な信頼を寄せてくれたタバサの願いなら是非もない。

ルイズに使い魔の正体がばれないかという事に関してはタバサがかなり心配していたので慎重に話し合った。
彼女はディーキンが話さないという事は疑っていないようだったが、使い魔の感覚共有で露見する事を危惧していたのだ。

ディーキンはまず、ルイズも信頼できる人物であり知らせても秘密を守ってくれると請け負ったのだが。
タバサはそれでも当面は伏せたいと主張した。曰く、

『あなたの主人は名誉を守る人物で、信頼はできると思う。
 けど、未熟なところがあるし、感情的になりすぎるから何かのはずみで誤って漏らしてしまうかもしれない。
 それに私はキュルケの友人、彼女はキュルケと不仲』

……ということらしい。
ディーキンとしても確かにそう言う面はあるかもしれないと思ったので、それ以上無理に説得しようとはしなかった。

実際のところ、正規の契約は行っていないので感覚共有で露見する心配は一切ないが、それをタバサに伝えるわけにはいかない。
ディーキンはタバサは信頼できる人物で話しても問題ないと信じているが、だからといって勝手に話せばルイズや学院長らの信頼を裏切ることになる。

したがって、なるべく人のいないところで話すとか、会話には竜語を使うとか……。
仮に感覚共有があったとしてもまず問題ないようなやり方を詰めておく必要があり、それに余計な時間が掛かってしまったのだ。

また、密談に使った《伝言(メッセージ)》の呪文についても色々と聞かれた。
どうやらタバサは風のメイジであり、この呪文がハルケギニアの類似の呪文と違って風を使っていないことに気付いたらしい。
そのような事に鋭敏に気付くあたり、やはり彼女は相当優秀な人物なのだろう。

ディーキンは自分の魔法はバードという職業の者が使う歌の魔法であってハルケギニアの亜人が使う先住魔法とは別物である事、
どちらかと言えば系統魔法の仲間であり、他の存在に頼るのではなく自分の内にある力を用いる魔法である事などを簡単に説明してやった。
タバサはそれを聞くとより関心を深めたようで機会があればより詳しく聞かせて欲しいと言って来たので、
代わりにこちらも系統魔法について本では分からないあたりを教えてほしいと求めると、お互いに同意が得られた。

その後壁面に書き取った授業のメモを羊皮紙にまとめ直したり色々と後片付けを済ませると、ちょうど授業の終了時間だった。

「じゃあ、また私の横に座りなさい。次の授業があるからね。
 ……その、さっきはありがとう。
 でも今度は、あんな目立つことはしないでちょうだい……恥ずかしいから」

顔を赤くして俯きつつ、周囲の視線を気にしながらもごもごとそういうルイズを見て。
ディーキンは少し首を傾げると、素直に隣に座った。

「ンー……、バードは目立つのも仕事の内なの。
 でもルイズがそういうなら、ディーキンは……ええと、善処するよ」


それからルイズとディーキンは、そろって午前中の残りの授業を受けた。

ディーキンは一時間目のように派手に名乗りを上げたり演説をしたりと目立つようなことはせず、大人しく熱心に授業を聞いてメモを取っていた。
いずれの授業の教師もルイズの事を既に知っていて指名しようとはしなかったし、使い魔に言及するのも避けたので、特に騒ぎも無かったのだが。
ルイズもまたそんな使い魔に恥じないように熱心に集中し、とても誇らしく充実した気分で午前の授業を過ごした。

一方、タバサの方の機嫌はよろしくなかった。

「……ねえタバサ、あなたどうかしたの? 
 さっきから何だか機嫌が悪そうじゃない、途中まではむしろ機嫌は良さそうな感じだったのに」
「別に、何でもない」

2時間目まではディーキンとの実りある会話の一件もあって、キュルケが言うように機嫌はかなりよかったのだが。
3時間目の途中でイルククゥがそろそろ戻って来るかと再度感覚を共有してみたところ、本の代金を使い込んで買い食いをしていることが判明したのである。
こっちは大切な使い魔のためにあれこれ便宜を図り、先住の名前では目立つだろうと人間向けの偽名まで考えてやったりしているのに……。

(……帰ってきたら、ただじゃおかない)

ちらりとディーキンの方を見れば、彼は主のルイズと並んで、仲良く熱心に勉強している。
やっぱりあの子みたいな使い魔がよかったと、タバサは内心で深い溜息を吐いた。


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