あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

Neverwinter Nights - Deekin in Halkeginia-14


ディーキンに差しだされた手を取って、ルイズは立ち上がった。

そこで、周囲から拍手が起こった。
最初はまばらに、やがて、教室中から。

「……え?」

ルイズは困惑して周囲を見渡し……、
そこで、やっとここが教室で、周囲に級友がいたことを思い出した。

「………~~!!」

途端に顔を真っ赤にしてぱっとディーキンの手を放すと、慌てて彼から離れた。

よりにもよって衆人環視の元でわめいたり、愚痴ったり、あんな恥ずかしい台詞を交わして、使い魔と見つめ合ったり……、
冷静に考えるともう、恥ずかしくて顔から火が出そうだ。
ルイズは伏し目がちにしながらも、ディーキンを恨めしげに軽く睨んだ。

とはいえ決して、本当に不快というわけではなかった。
これまで嫌な注目や罵声を浴びる事はあっても、好意的な注目や賞賛を浴びたのは初めてだったから。
それに何よりも、先程のディーキンの言葉が嬉しかったからだ。

普段はルイズを馬鹿にしているクラスメートたちだが、トリステインの貴族はこういった、ある意味芝居がかったような場面が大好きなものらしい。
ディーキンの作り出した空気に飲まれ、素直な感情を吐き出したルイズに感情移入して、何時の間にやら大勢が拍手喝采を送っている。
教師のシュヴルーズまでもが一緒になって、にこやかに拍手していた。

勿論全員がそうではなく、この展開を面白くなく思っていたり、白けている者も多少はいるだろう。
だがそういった連中も周囲の雰囲気に流されているか、そうでなくとも、少なくとも口を噤んで大人しくしている。
ルイズを普段侮蔑していた連中の大半は、弱い立場の者を叩いて喜ぶ幼稚な愉しみに浸る子供か、雰囲気に流されてそれに加担していただけの者だ。
そんな輩がこの場であえて周囲に逆らい、ルイズを貶めにかかれるはずもなかった。

一方でディーキンの方はといえば、困惑するでもなく慣れた風に御辞儀をして、にこにこと周囲からの拍手喝采に答えている。

「オオ……、どうもありがとう、ありがとう。
 ディーキンはみんなにお礼を言うよ。これからもみんながルイズを応援してくれると嬉しいの」

あまり目立たないやり方で事を収めることもできなくは無かったが、ディーキンはあえて非常に目立つ上に少々芝居がかった方法を取った。
その理由としては、周囲の教師や生徒らの気質を読んでこういう展開に狙って誘導したという面も無論ある。
だが、第一の理由は単純で、そういうのが好みだからだ。

ディーキンに限らず、バードというのは大抵スポットライトを浴びたがる目立ちたがり屋なのだ。
バードは通常、高い【魅力】を持っている……、つまり個性が強く印象的で、人を動かし惹きつける力に優れている。
冒険者チームのリーダーになることはあまりないが、情報収集、交渉といった社交関連の役目は大抵バードが第一人者として担う。
一行のムードメーカーとなっていることも多い。

結果的には狙い通り誘導した空気に上手く教室中が乗ってくれたようだし、特に問題はない。
ほぼ全員にとって良い結果が得られ、ルイズや自分が賞賛まで浴びられたのだから、いい選択だったといえよう。

ディーキンは御辞儀をしながら、大きな満足感を覚えていた。

昨夜の内に心行くまで話し合い、ルイズの魔法が失敗爆発を起こすことを既に聞き出していたのが、今、この場で幸いしたのだ。
そうでなければ何故皆がルイズを静止したがるのかもわからず説得できなかったか、
もしくは仮に説得できたとしても、ルイズにとっては不満を残すような結果になっていただろう。

そして昨夜の話し合いが成立したのは、ルイズやオスマン、コルベールらが、自分の話を真剣に取り上げてくれたからこそだ。
今この場でも、ディーキンがいくら巧妙に話を持っていこうとしても、ルイズやシュヴルーズらがまともに取り合わなければそれまでだっただろう。

勿論彼女らに話を聞く気にさせたのはディーキンの技能が優れていたからであり、真摯に筋を通して話をしようと心掛けたからでもある。
しかし、それを自分一人の手柄だと思うほどディーキンは自惚れていないし、周囲の人間を軽んじてもいない。
議論は一人ではなく、誠実に対応してくれる相手がいるからこそ実を結ぶ。

仲間たちと協力した積み重ねが実を結んで、良い結果を生んだ。
そのことが、冒険で強い敵を仲間と協力して打ち破ったときと同じように嬉しいのだ。

(………おっと、まだ安心するのは早かったね)

教室の皆はともかく、自分の方は、やりたいことがまだ終わっていないのだ。
それはおそらく、キュルケの隣でじっとこちらを見つめつつ、表情を変えずにルイズに拍手を送っている蒼い髪の少女もだろう。
ディーキンは一通り御辞儀を終えると、教師の方に向き直った。

「ええと、先生。随分時間が掛かってディーキンは悪かったよ。
 窓の外とかが少し汚れたみたいだから、ディーキンはそれを掃除するね。
 もう邪魔はしないから、どうぞ授業の続きをしてほしいの。それにルイズももう、席に戻っていいの?」

声を掛けられたシュヴルーズははっと我に返って少し頬を染め、小さく咳払いをする。

「あ……、そ、そうですね、すみません。
 いえ、汚れでしたら後で誰か使用人をやって綺麗にさせましょう。
 あなたの申し出のお陰で助かりましたし、そんな掃除などはしなくて構いませんよ」

しかしディーキンは首を振って、じっとシュヴルーズの顔を見つめた。

「いや、窓の外でっていったのはディーキンなの。
 ちゃんと片づけをしないと申し訳ないから、ぜひやらせてくれるようお願いするよ」

シュヴルーズは心底感心したようにほうと溜息を吐くと、満面の笑みを浮かべて何度もうんうんと頷いた。

「ミス・ヴァリエールは本当に良い使い魔に恵まれたようで、嬉しい限りです。
 あなたなら必ず将来は立派なメイジになることでしょう、今は分からなくて残念ですが私もあなたの爆発の原因を考えてみます。
 では、あなたに掃除をお願いすることにしましょう。ミス・ヴァリエールは席に戻って……皆さん、お待たせしました、授業の続きを始めますよ」
「あ、ありがとうございます。
 むう……、じゃあ、悪いけど―――頼むわ」

ルイズは教師に会釈するとディーキンの方を見て少し迷ったが、大人しく席に戻る。
掃除を任せるべきか、それとも自分の爆発で汚したのだから協力するべきかと少し悩んだが、授業を放り出して掃除するわけにはいくまい。
おまけにフライもレビテーションも使えない自分では、外の窓や外壁を拭くような作業は面倒だし、危ない。
その点ディーキンは翼を持っているのだから、無責任な気もするがここは任せた方がいいだろう。

「オーケー、ディーキンはこう見えても実は掃除の達人なの。
 ピッカピカにするから、ルイズも勉強を頑張ってね」

ディーキンはひとまず室内に吹き込んできた煤を先程唱えた《奇術(プレスティディジテイション)》の効果を使って綺麗にしていく。
それから、授業を再開した教室内の様子を尻目に、窓を開けて外に出た。


「……ウーン、さて……、残りも上手くいくといいんだけどね」

窓から外に出て人目を逃れると、ディーキンは一息ついて、小声でそうひとりごちた。

別に掃除をする責任を本気で感じていたわけではない。
そもそも自分がいなければ室内がもっと酷い事になっていたはずなのだから、その程度はさすがに免責されてしかるべきだと思う。
かといって人気取りとか、そう言ったことを考えたわけでもない。
自分のやりたかったことの残りを遂行するためには窓の外に出ることが必要だったので、そのための口実として申し出た、というのが本当のところだ。

適当に窓枠や壁のでっぱりに手を掛けて、まず窓や外壁に残った爆発の痕跡に目をやってみた。
壁面にはどうにか取りつける程度の手がかりは十分あったが、万一落下しても自前の翼があるのだから気楽なものである。

教室内の様子からも分かっていたことだが、爆風の当たった範囲には煤の汚れが付着している。
ルイズの失敗魔法が火系統(もしくはフェイルーン的に言うならば[火]の副種別)の呪文であるかどうかは分からないが、高熱を発したことは確かだ。
実質的な有効範囲は……、ディーキンの見積もりでは、おそらく半径10フィートほどか。
教室内で椅子の陰に隠れていたのが前の方の席の生徒だけだったあたりから見ても、規模はおそらく毎回その程度なのだろう。
それ以上遠くには、まばらな煤汚れは付着しているものの、おそらく爆音を除けば大した影響はなかったように思える。
まあ教室内で炸裂すれば、爆音や爆風で仰天した使い魔達がパニックを起こしたりはしたかも知れないが。

続いて、爆風が当たった部分の煤汚れを、《奇術》の効果で落としていってみた。

煤が落ちた後の外壁や窓ガラスを仔細に観察してみるが、爆風の当たった範囲であっても傷はほとんどついていなかった。
爆散した石の微細な破片がぶつかったらしい僅かな傷や痕跡は見られるが、早急に修理や交換をしなくてはならないというほどのことはない。
熱風に晒された痕跡も少々見られるが、石が焼け焦げたり溶けたりするほどではなかったようだ。
爆風で吹き飛ばされたり、不意に受けてショックで昏倒する程度はあるかも知れないが、いずれにせよ明らかに非致傷的なダメージの範疇だろう。
多少距離を置けば、爆風には大した殺傷力はないということだ。
対象が大きい石で破片が大量に飛び散ったりすれば多少は違っていたかもしれないが。

傷は微細とはいえ一応修繕はするべきかとも思ったが、《修理(メンディング)》の呪文で直すには、少々傷ついた範囲が広すぎる。
かといって、自力では唱えられない《完全修理(メイク・ホウル)》の呪文をアイテムを消費してまで使うほどでもあるまい。
ここは汚れを落としておくだけで勘弁してもらおう。

一方で、呪文が直接対象とした小石は粉砕されている。
そのことから見て、直接狙った対象に対しては少なくとも小さな石を砕ける程度の致傷的なダメージは及ぼせると見える。
とすると、あるいは対象に取った小石を砕いたのが主たる効果で、その際に生じる爆風は副産物的なものなのか?

先程ルイズが呪文を唱える際に感知できた魔力のオーラは、使おうとしていた『錬金』と同じ変成術だった。
だがそれは、他の種類の呪文を唱える場合でも同様なのだろうか?

「うーん……」

まあ、ルイズの爆発がいつもこの程度の規模であるのかは分からない。
しかし教室の生徒らの様子を見るに、規模が多少違うことがあるとしても何倍も違うとは思えない。
もしも場合によっては遥かに大規模な、あるいは致命的な爆発が起きるのなら、教室中の生徒がディーキンが進み出る前に逃げ出していたはずだ。
大きな違いはないものと見なし、ひとまずこの爆発を参考に推論を立てても構うまい。

ディーキンはひとまず自分だけでそこまで考えをまとめると、他の意見を拝聴するためにエンセリックを鞘から引き出した。

「ねえエンセリック、見ててくれた?
 あんたはこの爆発についてどう思うか、何か意見を聞かせてくれない?」
「ええ、見ていましたとも。一応ね。
 今の段階では何とも断定はできかねますが、当て推量でよければ多少は」

エンセリックは、珍しくあまり嫌そうな様子もなく話に応じる。
普段は、剣としての仕事以外の話を振っても投げやりな答えしか返ってこない場合が多いのだが……。
昨夜の説得が功を奏したのか、それともルイズの爆発に彼の元魔術師としての関心を引く何かがあったのだろうか。

「ですがその前に、君自身の見解は何か無いのですか?
 彼女は君の……、『主人』なのでしょう? お先に意見をどうぞ、コボルド君」
「ディーキンの? ウーン……そうだね」

ディーキンは聞き返されると、少し首を傾けて考え込む。

なおディーキンは会話しつつもちゃんと汚れを落とす作業を継続し、加えて教室内の授業の様子にもしっかりと注意を向けている。
メモを取りたい内容は《奇術》の着色効果を応用し、ひとまず壁面に書き込んでおく。
一通り作業が済んだら羊皮紙にまとめ直せばいいし、どうせ呪文の効果は1時間で切れるため後で消す必要もないのが便利だ。

「ディーキンが思うに……、この爆発はパイロテクニクスの呪文とかにいくらか似てるかなって思うよ。
 呪文の系統も同じ、変成術みたいだったしね」

《火炎使い(パイロテクニクス)》は変成術の一種であり、火を眩い閃光もしくは濃密な煙幕に変化させる呪文だ。
その際、対象に取った火は消えてしまう……、つまり継続して燃え続ける火のエネルギーを一瞬の閃光や煙に変える効果だといえる。
一見すると互いにあまり共通点の無さそうな呪文だが、ディーキンは変成術でルイズの爆発と類似した魔法はこれだ、と感じたのだ。

一体何が似ているのかといえば、《火炎使い》の呪文が火を変化させるのと同様に石などの呪文の対象となった物体を変化させる、という点だ。
つまり対象に取った小さな物体、ないしは大きな物体の一部分を破壊して、物体の形から高熱を伴う爆発のエネルギーに変える……、
ディーキンは、ルイズの爆発はつまるところそのような呪文なのではないか、と推測したのである。

「ほう……、なるほど? その発想は無かった、面白い着眼点です。
 種別としては確かに、類似点もあるかもしれませんね」

エンセリックは流石に元魔術師というべきか、何故そう考えたのか細かく説明しなくともすぐに理解したようだ。

「では次に私の推測を述べますが、君とは少し別方面の内容になります。
 ……確かに種別としては《火炎使い》と類似した効果であるのかも知れませんが、私はあの御嬢さんの爆発は、そもそも呪文ではない、と見ました」
「………ンン? それって、どういうことなの?」

ディーキンは首を傾げた。
確かに望んだ効果ではなかっただろうが、ルイズは焦点具となる杖を持ち、呪文の動作と詠唱を行い、明らかに魔法的な爆発が起こった。
なのにそれが呪文ではないとは、一体どういう意味なのか?

「ふむ、では順を追って説明しましょう。
 まずあの御嬢さんは、どんな呪文を使っても成功しない、爆発するといっていたと。
 ……昨夜そう聞いたと思いますが、合っていますね?」
「うん、ディーキンはそう聞いてるよ。実際に見たのは今初めてだけどね」
「ということは、あの爆発を起こすのには動作要素も音声要素も実際には関係していないという事です。
 どんな呪文に対応した身振りでも詠唱でも、それとは全く無関係に、同じように爆発が起こる。
 もしあれが呪文であればそのようなことは有り得ない、……そう思いませんか?」
「……あ」

確かに、言われてみればその通りだ。
呪文の様々な構成要素を省略したり別の物に偽装したりする技術はフェイルーンにも存在する。
だが、ルイズがまさか、そのような高度な技術を使っているわけもあるまい。

「ここのメイジがあらゆる呪文の詠唱に必要とするという焦点具……杖は持っていましたが、私はおそらくそれも無くてよいと睨んでいます。
 杖が無くては呪文が発動しないという思い込みがそうさせているだけです。
 実際には、あの御嬢さんの爆発には“呪文”を唱えようという意思さえあればおそらく音声・動作・焦点具、そのすべてが不要でしょう」

エンセリックの推論を聞いて、ディーキンは考え込む。
呪文ではない……、確かに先入観を捨てて状況から判断すれば、そうとしか思えない。
しかし、それでは一体あの爆発は何であるというのだろうか?

「ンンン……、そうなると、あの爆発はなんなのかな?
 ディーキンが口から火を噴くみたいなものかな、それとももしかしてサイオニックとか?」

思いつくままに意見を述べながらも、どうもそうではなさそうだとディーキン自身感じていた。

生まれつき、もしくは努力によって、多少の超常能力ないしは疑似呪文能力を体得している人間はフェイルーンにも時折見られる。
ディーキン自身、訓練によって竜の血を覚醒させることで、ブレス攻撃を行うなどの超常能力を得た身である。
だが、どうもルイズの爆発は……、なんというか、そういうものとはやや違うような感じがするのだ。
もちろん、超常能力の一種には違いないのだろうが。

イリシッド(マインド・フレイヤー)などの種族や超能力者と呼ばれる人々が使う精神の力、サイオニック能力ともおそらく違う。
そもそもサイオニックは、普通はメイジと呼ばれる職業の者が使う力ではない。

「あの御嬢さんが特異な才能の持ち主であることは間違いありませんし、いずれも無いとは言い切れませんね。
 ですが、私の考えでは、おそらくそうではない。
 私の意見としては、あの爆発は一種の温存魔力特技(リザーブ・マジック)か、もしくはそれに類似したものである、と推測します」

それを聞いたディーキンは、きょとんとして首を傾げた。

「……温存魔力特技?
 っていうと……、《炎の爆発(Fiery Burst)》とかの事だよね?」
「そうです。君の言うそれは、もっとも普及した温存魔力特技のひとつですね。
 まあ、私は習得していませんでしたがね」

温存魔力特技とは、術者の体内に内在する呪文のエネルギーを活用して、その呪文自体を消費することなく超常的な効果を発生させるという技術である。
超常能力の一種だが、呪文を力の源としている点でドラゴンのブレスなどとは少し違っている。
ただし、呪文そのものというわけでもない。

例えば、ある術者が《火球(ファイアーボール)》(ハルケギニアの同名のドットスペルではなく、より強力なフェイルーンの呪文)を使えるとする。
この呪文は広範囲を焼いて多数の敵を一気に薙ぎ払える強力なものだが、当然ながら使えば消費されて無くなってしまう。
より強力な敵に出会った時のために呪文を温存しておくべきか、それとも今使うべきかという選択は、メイジにとって常に悩ましいものだ。

『このくりまんじゅう、食べるとうまいけどなくなるだろ。食べないとなくらないけど、うまくないだろ。
 食べてもなくならないようにできないかなあ』

―――どこぞの世界の少年もそういって悩んでいたと言うが、まあそのようなわけだ。
そして、その手の贅沢な悩みに対するひとつの回答となり得るのが《炎の爆発》なのである。

この温存魔力特技によって術者は呪文自体を消費せずに、《火球》よりも小規模ながら爆炎を起こして敵を攻撃することが可能になるのだ。
エンセリックも言うように《炎の爆発》はその優秀さからおそらく最も広く普及した温存魔力特技だが、他にも多くの種類がある。
長距離の瞬間移動呪文を温存することでごく短距離の瞬間移動をしたり、強力な召喚術を温存することで短時間の間弱い精霊を召喚したりといった具合だ。
これらによってウィザードなどの術者の多くが、リソースが切れれば何もできないという難点をある程度克服することができる。

加えて温存魔力特技には、他にもいくつかの呪文に勝る利点がある。
その最たるものは、呪文ではないために『発動に一切の構成要素を必要としない』という事だ。
動作も詠唱も焦点具も物質構成要素も必要なく、猿轡をかまされていようと縛り上げられていようと、ただ精神を集中させるだけで起動できるのだ。
しかも呪文のように相殺や解呪をされることもなく、多くの強力な怪物が備えている呪文抵抗に阻まれることもない。

「ウーン……、でもルイズは魔法が使えないっていうよ?」

温存魔力特技を使うには、その特技に対応したある程度高レベルの呪文、ないしは呪文を扱える力が自分の中に存在していなくてはならない。
駆け出しの、まだ呪文を唱えることすらできないメイジに習得できる物ではないはずだが……。

「あくまで仮説ですが、あの御嬢さんの中には何か強力な呪文の器が既に発動可能な状態で存在しているのです。
 しかし彼女は今のところそれを解放できない―――単純に詠唱を知らないとか、あるいは他の何らかの条件がそろっていないとかでね。
 そしてそのような特異な才能を持つ代わりに、通常のメイジの扱うような呪文の素養は備わっていないため、他の魔法も使えないのでしょう」

ハルケギニアのメイジは、全員が専門家ウィザード(スペシャリスト・メイジ)のように、ひとつの専門系統を持っている。
彼らは後天的にそれを定めるのではなく、生まれつき地水火風の属性が決まっているのだという。
専門系統に特化する度合いは、メイジの才能や現在のランク、努力の度合いなどによって変わるが、自系統以外ほとんど使えないというメイジも多いらしい。

ディーキンはそれらの情報を昨夜本で知り、エンセリックにも伝えていた。
エンセリックはそこから、ルイズは非常に特殊な素質を生まれ持ち、それがゆえにその特化した“何か”以外の系統呪文が扱えないのだと推測したのだ。
フェイルーンにも、先天的・後天的の違いはあれど通常の専門家ウィザードよりも遥かにひとつの専門系統に特化したメイジが存在している。
彼らは真の専門家ウィザード(マスター・スペシャリスト)と呼ばれており、専門系統の驚異的な奥義を使いこなす。
ルイズは彼らと同様、いやそれ以上にひとつの特異な“何か”に専門化した存在であるのかもしれない。
何せ、それ以外の全ての系統を犠牲にしているのだから。

ぶつぶつ文句を言いつつもしっかりと昨夜の話を覚えていて、頭の中で仮説を組み立てていたあたり、流石はウィザードだとディーキンは感心した。
彼の考えが正しいかどうかはまだ分からないが、少なくとも自分には、そんな事は思いつけなかったであろう。

「ウーン、あんたの意見はすごく参考になったよ。ディーキンは感謝するね」

礼を言われたエンセリックの方は、かたかたと笑うように身を震わせた。

「ハッハッ、どういたしまして! 
 感謝してくれるなら私をもっと磨いて、戦いでたくさん使うようにしてくださいね」
「わかったの、ディーキンは善処するよ。
 ……ところで、あんたの事を後でルイズに紹介してもいいかな?」

ディーキンとしては、自分の口から話してもいいがエンセリックを紹介するついでに彼から直接話してもらえればなおいいだろう、と思ったのだ。

「ええ勿論。若い女性に紹介されるのは大好きですからね。
 ……ああそうだ、今度一緒にどこかの街に行くというのはどうですか?
 見てないのですよ、身にほとんど何もまとってない美しい女性を……、んんー…、随分長い間……」

ディーキンはそれを聞いてまた首を傾げると、エンセリックをそっと鞘に戻す。

「えーと……、つまり、ディーキンにそういうのを見せてくれる店とかに入れってこと? 
 まあ、あんたがそうして欲しいっていうならディーキンはそれも考えておくよ。
 ディーキンも、綺麗なウロコのコボルドの女の子が踊りを見せてくれる店とかがもしもあったら、多分行きたいだろうからね。
 でも、そういうことならこれからはルイズが着替えてる時にはあんたを鞘から抜かないようにするの。きっと、彼女に失礼だと思うからね」

それを聞くと、エンセリックはまたかたかたと身を震わせて鞘を鳴らした。

「フン、別に構いませんよ?
 私はああいう……、起伏が足りない感じの幼い娘は好みじゃないのでね!
 まあ、君のような爬虫類に女性の胸部装甲や腰つきの引き起こす感情が理解されるとは思いませんが」

そうして最後にひとつ鼻を鳴らすような音を立てると、それきり静かになった。
もうこれ以上は話が無さそうなのを確認すると、ディーキンはエンセリックを懐にしまい込んで今後の方針を立てる。
ルイズの爆発が本当に温存魔力特技かどうかを確認するのは、おそらくさほど難しくないだろう。

まず温存魔力特技ならば、呪文と違い使用回数に制限が無い。
したがって、いくら爆発を起こしても精神力が枯渇しないはずだ。

杖が無くても爆発を起こせるかどうかを試させてみるのもいいだろう。
通常なら、おそらくできるわけがないと決めつけて試してみようともするまい。
もし仮にやってみても、できないという思い込みから精神の集中が弱まって失敗するだろう。
だが、<交渉>してその気にさせることはディーキンにとっては何でもない。

「ええと、ウーン、後は……、」

「……つまり、固定化を用いれば錬金を始め、より力に劣るメイジからの魔法による影響の多くを遮断できるのです。
 加えて自然な経年による劣化なども防げます。
 錬金と同じく、土系統を建築や生活になくてはならない素晴らしいものとしている呪文のひとつですね。
 例外となるのが強い物理的な打撃で、つまりはやはり土系統の、例えばゴーレムによる直接攻撃などが有効といえますが―――」

ディーキンが色々と案を練って頭をひねっているところへ、教室内のシュヴルーズの講義内容が聞こえてきた。

「……オオ、そうだ。固定化っていうのもあったね」

固定化は呪文の影響を遮断するというが、ルイズの爆発がもし温存魔力特技であれば呪文ではないのだから、遮断できないかもしれない。
となれば、固定化で守られた物体をその影響を受けずに変質や破壊をさせられるかどうか、試してみる価値はあるだろう。
より確実な実験のためには、固定化はより力のあるメイジの呪文には無効らしいので、なるべく高位の土メイジが固定化した物体が欲しいところだ。
見習いメイジであるルイズがそれを簡単に変質させたり破壊したりすることができるなら、信憑性は高くなる。
機会があり次第調達するなり、場合によってはオスマンらに相談してみてもいい。
それにシュヴルーズも協力してくれると言っていたし、トライアングルクラスの土メイジが固定化した物体なら現状でも入手するアテはあるわけだ。

「――――よし、ひとまずはこんなところだね」

ルイズの爆発について今分かることは大体調べたし考えもまとまった、方針も立てた。
これで大方の仕事は済んだが、まだあと最後のひとつが残っている。

ディーキンは窓枠に手を掛けてそっと教室内を覗き込み、視線を落として黙々と本を隠れ読んでいる蒼い髪の少女の方を見つめた……。


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