あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

るろうに使い魔-37a



「流石は伝説の人斬り様だ。噂通り…いや、噂以上だ。僕の思考をこうも的確に読んで、追ってくるなんてね」
 月夜が照らす森の中、ウェールズは不気味に笑って剣心にそう言った。
 人斬り…そう言われた剣心は、ピクリと眉をつり上げる。
「『人斬り』…?」
「そう言えば、ワルドも言ってたわね…人斬りなんとやらって…」
 キュルケとタバサが疑問符を浮かべる中、ルイズはハッとしたような表情をした。
 刹那蘇るのは…封印したかったあの夢の記憶。ルイズにとってトラウマにもなった彼のもう一つの顔…。
 しかし、剣心は気にする風な様子は見せずに、まず一歩前へ出る。
「姫殿は、どうしたでござる?」
 その問いに、ウェールズはガウンを着た人影の方を招き入れた。ガウンを脱いで露わになったその影は、確かにアンリエッタその人だった。
 ここでルイズは気が戻ったのか、アンリエッタを見るなり叫ぶ。
「姫さま!! こちらにいらしてくださいな! その御方はウェールズさまではありません! 『アンドバリの指輪』で蘇った亡霊なのです!!」
 ルイズは悲しみを抑えながらも叫び続ける。こうなった事態を作り出したのは、元はといえば自分の過ち。
 それが今、敬愛なる姫を苦しませていることになっているなんて…ルイズにとってこれはこれ以上ない辛さだった。
 しかし、アンリエッタはウェールズに寄り添い、ただ首を振るばかり。ここでウェールズがおどけるように言った。
「おかしなこと言うね。彼女がついてくるのは、他ならぬ彼女の意思そのものさ。それ以上でも以下でもない。さて、それが分かったなら早速取引といこうじゃないか」



     第三十七幕 『人斬り抜刀斎 前編』



「…取引だと?」
「そうさ。ここで君達とやりあってもいいが、僕たちは馬を失ったからね。明日まで馬を調達しておきたいし、魔法もなるべき温存した――――」
 話している途中、不意にタバサの『ウィンディ・アイシクル』が、ウェールズの全身を余すところなく貫いた。
 しかし、先程の兵士達と同じくウェールズは倒れない。どころか、みるみる内に傷口まで塞がっていった。
「無駄さ。君たちの攻撃じゃあ、僕には傷一つつけられない」
 その様子を見たルイズが、再びアンリエッタに向かって叫んだ。
「見たでしょう! それは最早王子様ではありません! 別の何かですよ、姫さま!」
 ただひたすら必死にアンリエッタに訴えかけるルイズだったが、それでもアンリエッタはルイズの言葉に耳を貸さない、貸したくないようだった。
「…お願いよ、ルイズ。杖をおさめて、わたしたちを行かせて頂戴」
「何を仰るのですか! それはもうウェールズ皇太子ではないのですよ! 姫さまは騙されているのよ!!」
 しかし、アンリエッタはニッコリと笑うだけだった。その笑みには鬼気迫るものがあった。
「ええ…分かっているわ。唇を合わせた時から、そんな事は百も承知よ。でも、それでもわたしは構わない」
 そして、今度は毅然とした表情をしてこう続ける。
「ルイズ、貴方は人を好きになったことがないのね。本気で好きになったら、何もかも捨ててでも、ついて行きたいと思うものよ。
世の中の全てに嘘をついてでも、これだけは…この気持ちにだけは嘘はつけないの」
「姫さま…」
「これは最後の命令よ、ルイズ・フランソワーズ。道を、あけてちょうだい」
 アンリエッタの気迫ある声に、ルイズはすっかり萎縮してしまった。もう、彼女は止められない…。
 自分の声はもう、届かない。
 ただ呆然としているルイズ達を見たアンリエッタは、ウェールズと一緒にゆっくりと先に進もうとした、その時だった。
 その目の前を、剣心が立ち塞がったのだ。
「姫殿には悪いとは思う。だが、このまま行かせるわけにはいかないでござるよ」
 憮然としてそう言い放つ剣心に、アンリエッタは精一杯の威厳を振り絞るかのように口を開く。
「どきなさい。これは命令よ」
「済まないが、この国に忠誠を誓ったわけではござらん。拙者はルイズ殿の使い魔ではあるが、その前にただの『流浪人』でござるからな」
 なおも淡々と告げる剣心を見て、アンリエッタはわなわなと震え、そして叫んだ。
「どうして…どうして邪魔をするの!! 忠誠を誓わない貴方が、わたしの気持ちを知る由もない貴方が、どうして立ち塞がろうとするの、何で行かせてくれないの!!?」
 遣り場のない怒りをぶつけるかのように、アンリエッタはただ叫んでいた。それを見て、剣心は…ルイズ達が初めて見る、どこか物憂げな表情をした。
「わかるでござるよ…大切なものをなくした気持ち。返ってきて欲しいと思う気持ち。それが叶わず絶望する気持ち…けど姫殿、いつまでも過去を振り返っても、それじゃ前には進めない」
「だから…貴方に何が…」
「姫殿は、さっき『自分に嘘はつけない』と言ったでござるな。けど拙者には、無理して自分に言い聞かせているだけにしか見えぬ。
本当に、その言葉に、嘘偽りはないでござるか?」
 アンリエッタは、言葉を詰まらせた。彼の一言一言が、アンリエッタの心を貫いていく。
その時、助け舟を出すかのようにウェールズがアンリエッタを抱き寄せた。
「騙されてはいけないよ、アンリエッタ。この男は冷静な態度でもその実、君を拐かそうとしているんだ。君は僕を信じてくれればそれでいい」
「ウェールズ様…」
 その言葉に、アンリエッタはうっとりとしてウェールズに寄りかかる。そこでウェールズは、唐突に可笑しそうな声で言った。
「全く…面白いものだね。かつて冷徹、無情、無慈悲で冷酷な殺人鬼で名の通った『人斬り』様が、まさか情を語らうとは。それも作戦の内かい?」
ウェールズのその言葉に、とうとう我慢しきれなくなったのか、今度はルイズが食ってかかった。
「何よ、さっきから聞いてれば人の使い魔を人斬りだの殺人鬼だの…そんな風に言わないでよ!!」
「おや? 君は本当に知らないのかい? 主人であるくせに?」
 おどけた様子でウェールズは尋ねた。その顔は邪悪で満ち満ちている。
「あっはっは、これは傑作だ! よもや自分の召喚した使い魔の、本当の素性を知らないとは!! 
…と、そう言えばこの国は人の過去をあまり詮索しないんだっけか」
 愉快に笑うウェールズを見て、ルイズは怒りより先に不安を覚えた。
あの夢が…また脳裏に蘇ってくる…。
「なら、他国の僕が代わりに話してあげようじゃないか。君の知らない、この男のとんでもない一面というのを…」
 その言葉に、ルイズは嫌でも釘付けになってしまう。キュルケも、タバサも、そしてアンリエッタも、興味深そうに耳を傾けていた。
 ウェールズは、以前かわらぬ表情をしている剣心を見て、一度ニヤリとすると、大げさな身振りで話し始めた。
「昔々、ここではない『どこか』…我々が『異世界』と呼ぶべき世界では、かつて戦争がありました。二つの勢力が、我こそが正しいと日々争い、殺しあった時代。そこに男は突然現れました。」

「男は、目に入るもの全ての人を斬り殺しました。闇夜に身を預け、獲物に悟らせず、まるで息をするかの如く人を斬る。それは文字通り鬼のようで修羅とも呼ばれる強さだったといわれてきました。
そこには平和を夢見る、ただの心優しい人間だっていたはずです。しかし、男はそんな人々にも躊躇いなく剣を振るい続けました」

「やがて、動乱が終わると男はひっそりと姿を消しました。幾多の斬り殺した人間の怨念から、まるで逃げるかのように…。最終的に斬った数は、百、千…否、それ以上とも云われています。
その、人を斬った事だけで伝説を謳われた男は、後に人々から畏怖と憎悪を込めてこう呼ばれるようになったのです…」
 ウェールズは一旦、ここで止めて、そして吐き出すかのように言った。



「『 人 斬 り 抜 刀 斎 』と…それが君の呼び出した使い魔の、本当の正体さ」



 話を聞き終えた後、皆一様にして呆然と口を開けていた。その中でルイズは恐る恐る、その視線を剣心へと向けた。

 じゃあ、やっぱり…あの夢は……。

「……ホントなの?」
 震える声で、ルイズは言った。
出来れば、否定して欲しかった。あの夢は現実じゃないと、そう言って欲しかった。
 けど、剣心はルイズを見ると…悲しそうな表情をして言った。
「否定はしない…。全ては奴が今話した通り、それを否定するには…拙者は余りにも罪を重ねすぎた」
「…どうして、言ってくれなかったの?」
 聞かないと決めたのは自分のはずなのに、なぜかルイズの意思に反してそんな言葉が口から出た。
 それでも剣心は、なお優しそうな、それでいて切なそうな笑みを浮かべて言った。

「すまなかったでござるな。拙者は隠す気はなかった。でも…できれば語りたくなかった。それだけでござるよ」

 その剣心の笑みを見て、ルイズはハッとした。
ただ悲しそうで、それでいて優しい目。
 ふとルイズは首にかけたペンダントを見る。そして思い出した。その時のしてくれた彼の表情を…あの時の楽しさを……。
「さて、では戯れもここまでにして、そろそろ本格的にどいてはくれないかな?」
「言ったでござろう…通すわけにはいかぬと」
 相変わらず不気味な笑顔で歩み寄るウェールズに振り返り、剣心はどこまでも憮然とした表情で言った。
「なら仕方ないね…力ずくでも退いていただこう」
 ウェールズは、サッと杖を引き抜いた。それに反応するかのように、剣心も動き出す。鞘から逆刃刀を抜き、一閃を放つ。
しかし、偶然かタイミングが良かったのか、その前を巨大な水の壁が覆った。
「ウェールズさまには指一本触れさせはしないわ!!」
 アンリエッタがそう叫んで、ウェールズの前に水の魔法を放ったのだ。
「くっ…」
剣は水の壁と衝突するが、流石に只の刀に水とは相性が悪い。押し返されそうになるも、剣心は鍔迫り合いに持ち込んで何とか耐える。
 ルイズは、それをしばし呆然と見つめていた。…そして決心したのか、杖を抜き剣心の方へと向けた。
「…ルイズ」
 それを見たアンリエッタは、やっと味方してくれた、そんな安堵の表情を浮かべていた。が、しかし、ルイズが吹き飛ばしたのは、水の壁の方だった。
 ドゴン!! と爆発を起こした水は、飛沫を上げて飛び散っていく。
 それを見たアンリエッタが、表情を一変させて叫んだ。
「どうして、何故貴女まで彼の味方をするの!?」
「…姫さまはご存知ないでしょう…ケンシンに、わたしがどれだけ助けられたか、ケンシンの言葉に、わたしがどれだけ救われたか」
 ポツリポツリと呟くようだったが、そこに確固たる強さを持った声で、ルイズは呟く。
「確かに…昔は人を斬ってきたかもしれない。非情だったのかもしれない…でもそれはもう過去のことでしょう? 私の知っているケンシンは、決して、人斬りなんかじゃない」
 アンリエッタに顔を向け、そしてさらに続ける。その目は打って変わって強い輝きを灯していた。


「わたしが召喚したのは、人斬り抜刀斎なんかじゃないわ。優しくて強いわたしの使い魔、ヒムラ・ケンシンよ!!」


 そして、アンリエッタと同じくらい毅然とした様子で、ルイズは杖を、ウェールズ達に突きつけた。
「そして! いくら姫さまといえども、わたしの使い魔には指一本たりとも触れさせることは許しませんわ!!」
髪の毛を逆立て、ぴりぴりと震える声でルイズは叫ぶ。
「…ルイズ殿……」
それを見た剣心は、どこか、嬉しそうな表情をした。
それに頷くかのように、キュルケやタバサも動き出す。それと同時に、周りを囲んでいた死人の兵隊達も魔法を放ち始める。
戦いが、始まった。



 直ぐ様ここにいる場所が、戦場へと早変わりした。
 飛び交う魔法の呪文、風が唸り、炎が荒れ、水が迸り、土が揺れ動く。
 タバサとキュルケは、素早く動いて回避する。反応が間に合わなかったルイズも、剣心に連れられる形でその場を離れた。
 相手は不死身の兵隊達、斬ろうが叩こうが死ぬことはない。だがたった一つだけ、弱点とされるものがあった。
 それは『炎』。
 キュルケの放つ『ファイアー・ボール』が、一人のメイジに当たって燃え上がると、そのまま起き上がることなく倒れ込んだのだ。
「やった! 炎が効くわ! 燃やせばいいのよ!」
 それを聞いたタバサは、直ぐ様キュルケの援護に回る。キュルケの放つ火の玉は、それから後三人ほど燃やし尽くした。
しかし、この快進撃も長くは続かなかった。
 突如、ポツリポツリと水滴が空から落ちてきたのだ。それは段々多くなり、やがて音を立てて雨が降り出し始めた。
 タバサが、珍しく焦ったように空を見上げると、そこにはいつの間にか巨大な雨雲が発生していた。
 それを見たアンリエッタは快哉の声を上げる。
「見てご覧なさい! 雨よ、雨! 雨の中で『水』に勝てると思っているの? この雨のおかげで、わたしたちの勝利は動かなくなったわ!!」
 嬉々とした表情のアンリエッタを見て、剣心は首をかしげた。
「そんなものでござるか?」
「…まあ、すっごい不利なのは確かね…」
 キュルケが苦い顔をして言った。雨が振る以上、キュルケの火も弱まる。それに相手のアンリエッタはこれで水の鎧を敵方に全員はれることだろう。タバサの風や剣心の刀では相手を傷つけることすら敵わない。
「…どうする、一旦逃げる?」
 伺うような表情で、キュルケは尋ねた。だが実をいえば、それほど絶望視しているわけでもなかった。
 だって、今自分たちの前にいるのは、そんな窮地から何度も救ってきてくれた、あの緋村剣心がいるからだ。
 彼が諦めない限り、自分たちだって全力を尽くす。そう決意しているキュルケ達をよそに、剣心は鋭い目で、ルーンを唱えるアンリエッタを見つめた。
「そうだな…、倒せないのなら無力化するまででござる」
 そう言って、剣心は逆刃刀を一度鞘に納めた。何をするか見当がついたタバサは、それに習って剣心の動向を見やった。



 アンリエッタは悲しい表情でルイズ達を見つめていた。出来れば、彼女達は殺したくない。杖を捨てて道を開けて欲しかった。
 だけど、彼女らはどうやら引くつもりはないようだった。この雨を見れば、誰だって自分たちの勝ちは明白だというのに…。
「……あくまで退くつもりはないようですわね…」
 はぁ…とアンリエッタはため息をついた。ならば仕方ない、この状況がどういう意味か分からせてあげるまで。その内に諦めて逃げてくれることを祈ろう。
 そう思い、まず全員に水のバリアを貼ろうと杖を高々とあげて、ルーンを唱えた、その時だった。

「―――――えっ…?」

 一瞬、本当に一瞬だった。何かがぶつかるような痛みを、高く上げていた手の方から感じた。
 そしてぎょっとする。杖が弾き飛ばされていたのだ。本当にいつの間にか。
「っ…しまった!!」
 慌てて探索するアンリエッタのすぐ横には、抜身となった逆刃刀が深々と突き刺さっていた。



(済まない、姫殿…)
 飛天御剣流 『飛龍閃』にて、アンリエッタの杖を弾き飛ばした後、剣心は心の中で彼女に謝ると、素早く鞘とデルフの柄を握り、敵の一団へと向かっていった。
遅れてタバサが続く。
 すかさず飛んでくる魔法の光を、デルフで全て受けとめると、今度は鞘を使ってメイジの杖のみを的確な動作で弾き飛ばした。
「キュルケ殿、炎!!」
 そう叫ぶ剣心の言葉に、キュルケはピンと来ると、急いで呪文を唱えて小さな炎を作り出し、それを宙に舞う杖めがけて放った。
 ボン! と小気味よい音を立てて杖は燃えた。
(無力化すればいい…たしかにそうだわ!)
いかな不死身とはいえど、杖をなくしたメイジ相手に自分たちが遅れを取る訳がない。成程理には適っている。
 キュルケがそう考えていた頃には、剣心は飛天の剣をもって風の如き速さで一団の隙を縫うように走り、その途中すれ違うメイジたちの杖を全て叩き落としていった。
 魔法はデルフで体よく吸収し、杖の持つ手を鞘で弾き、時には自らデルフで叩き割ったりもしていた。
「ホント、どうやったらあんな動きが出来るのかしら…」
 相変わらず目で追うことも出来ない剣心の動きを見ながら、飛んでった杖を炎で燃やす中、キュルケはふとタバサの方へと視線を移して…そして目を見張った。
 今の彼女の動きは、何ていうか…キュルケの知るタバサの戦い方とは、ちょっと違っていたのだ。

 タバサが、一人のメイジ相手に立ち向かっていく。メイジは、彼女めがけて風の魔法を放つ。
 いつもの彼女なら、ここは無難に避けて様子を見るだろう。
しかし、あろうことかタバサは身を屈ませて、風の刃を前にして突っ込んでいった。
 頬に小さく切り傷をつくるも、魔法を避けたタバサはそのまま接近戦を挑んでいく。
 直ぐに相手側は『ブレイド』の呪文を使ってタバサに切り掛ろうとするが、何と今度はそれを絶妙な体捌きと杖の動きだけで逸らした。
「あの子…あんなにアグレッシブだったかしら…?」
 普段見るタバサのそれとは、全く違うその戦い方。時折剣心の方を向いては、まるでそこから学び取るように動きを変えていた。

 タバサは、そのまま杖を動かしてメイジの杖を持つ手を狙って、思い切り叩いた。宙を舞った杖を振り返らず、タバサは先端の方のみを杖に向けてルーンを詠唱、杖は真っ二つに切り裂かれた。
 余韻に浸る間もなく、次に襲ってくる二人のメイジを、タバサは見据えた。そして…あの構えをとる。
 腰に杖をあて、屈んで待つ抜刀術の構え。しかしタバサは、待ちに徹さず後ろ足を思い切り踏んで地を蹴った。
 呆気にとられている(ように感じる)メイジをよそに、タバサは素早く杖を振る。遅いながらも的確な動作でまず一人の杖が弾き飛ばされる。
 その隙を狙って、もう一人のメイジが呪文を唱えようとするが、今度は『ジャベリン』で作った氷の刃が閃き、もう一人のメイジの杖をそのまま二つに切り飛ばした。
「はは…相変わらずブレないわね、あの二人」
 相手は何度も蘇る不死身の軍隊だというのに、いつもと変わらず無双を続ける二人を見て、キュルケがニヤリと笑った。
「ホント、この二人が味方な時は、何が来ても負ける気がしないわ」
 そう言っている間に、剣心は最後のメイジの杖を叩き潰した。これで全員もれなく弱体化。メイジからただの人間へと成り下がった。
 剣心は、一旦鞘を腰に納め、タバサの方を見た。
「タバサ殿、任せても良いでござるか?」
 タバサは、頷くような仕草をしたあと、すぐさま呪文を唱える。敵全員を吹き飛ばす『ウィンド・ブレイク』を、『龍巻閃』の様に身体を一回転させながら放った。
 ゴウッ!! と暴風が辺りを覆い尽くし、その射程上にいた敵達は、その風の元吹き飛ばされていった。
(あの子の風…また少し強くなったわね…)
 タバサが放った『風』の呪文の威力にそう疑問を感じながら、キュルケはタバサを見た。



(何よ、もう…ケンシンもタバサも…)
 この光景を見て、ルイズは複雑そうな表情をした。
さっきは大見得切ってあんなこと言ったのに、いつの間にかあるべきポジションをタバサに取られていた事に、不服を感じていたのだった。
 本当なら、剣心の隣にいるのは…自分のはずなのに…。
(私だって…戦えるのに…)
 そんな悔しい思いをしながら、じゃあ自分には何ができるだろうか、と考えた。『爆発』以外に…。
「他に何かないの!? 伝説の『虚無』の力はこれだけなの…!?」
 ルイズは、思わず『始祖の祈祷書』を懐から取り出し、ページを捲っていた。
何かないか、何か…そうして捲っている内に、本来真っ白だったところに、新しい文字が光っているのを見つけた。



「…嘘…」
 やっとのことで杖を拾い上げたアンリエッタは、その光景を見て、そして唖然としていた。
 暗かったとはいえ、水晶のように光る杖を見つけるのに、そんなに時間はかけていないはずだ。精々数十秒かそこいらである。
 なのに、杖を拾い上げてそれを向け、呪文を唱えようとしてみれば、その唱えるべき対象はもういない。皆吹き飛ばされて視界から消え失せた後だった。
その雨の中、無表情でこちらを見る剣心とタバサは、未だに疲れどころか息切れ一つしていない。まるで何事もなかったかのように、ただアンリエッタを見つめるだけだった。
 ふと、アンリエッタの脳裏に、オールド・オスマンの言葉が過ぎる。

『飛天御剣流はご存知ですかな? かつてワイバーンから私を救ってくれた恩人が振るっていた流派の一つでしてな。
その強さはメイジの比ではない、あのエルフとも、正面からやりあえると私は思っております』

 嘘じゃなかった…本当に目の前の男は、剣一本だけだというのに…この軍勢を相手にもろともしていない。
 雨が降って、勝利は完全に揺るがないものだと信じていた。なのに、その全てを悉く打ち崩されてしまった。
 緋村剣心という使い魔によって…。
(どうしよう…)
 思わず恐怖で身体を震わせるアンリエッタを、ウェールズが優しく包み込む。
「安心しなさい。僕のアンリエッタ。これが終われば、晴れて僕たちの障害を阻むものはいなくなる。――さあ杖をとって、僕と一緒に詠唱してくれ」
 今のアンリエッタにとって、ウェールズの声だけが心の支えだった。彼が杖を掲げると、アンリエッタもそれに習って杖を掲げる。
 強力な魔力が、二人の間に流れ始めていた。
 『水』、『水』、『水』の三乗に、『風』、『風』、『風』の三乗。それが合わさり、巨大な六芒星を作り出し、そこから水を纏った巨大な竜巻が出現する。
 『トライアングル』同士でも、こうも互いに息が合うのは珍しい。殆どない、と言っても過言ではないだろう。
 王家のみに許された秘術、『へクサゴン・スペル』。
 詠唱は干渉しあい、段々と膨れ上がっていく。
 城でさえ一撃で葬りそうな、その津波と暴風の合わせ技に、大気は唸り、揺れ動いた。


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