あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

ゼロの御使い4

 目を開くと、青空が見えた。
 頭は何か柔らかく、温かな物の上にあり、額の上がひんやりと冷たく心地いい。

「ここは……」

 そう呟いた少年――平賀才人――は、次いで心配そうに自分の顔を覗き込んできた金髪美人の顔に気付いた。

「良かった……気付かれたようですね」

 位置から考えてサイトの額に当てられているのは、目の前の美女の掌だろう。
 心配そうに、それでいて嬉しそうに、覗き込む女性の顔の、その下の方に実るたわわな二つの塊を見上げ、サイトは思わず唾を飲み込んだ。
 この姿勢に、頭の下の感触――間違いない、自分はこの金髪美人に膝枕されているのだ、と……。

「あの、お体の方は大丈夫ですか?」

 衝撃的な事実に慄然とするサイトに、涼やかな、どこか幼さを残した声がそう語りかけ、我に返った少年は、思わずその体を硬直……全身を襲った痛みに、苦鳴を漏らす。

「あんた……」

 そして、その痛みが頭を覆う霧を晴らしたのだろう、サイトは同時に気付いた。
 目の前に突然現れた鏡の様な物に、入ろうか、止めようかと思案していたサイトの背中を押した、まだ若い女性の、優しい声。

「あんた、さっき鏡越しに声をかけてきた……確か、アネメアって」

 今、自分を膝枕してくれている女性の声は、その声に良く似ているように思えた。
 だから、そう問いかけたサイトに、アネメアは頷く。

「はい、先程は本当に申し訳ありませんでした。
 ……貴方の事は、必ず故郷に送り届けますから、今しばらく私と一緒に暮らしてはいただけないでしょうか?」

 形良い眉を愁眉に歪め、そう問いかけけてるアネメアの言葉を、サイトは初め理解できなかった。
 『え、なにそれ、俺どうなったんだっけ』等と思いつつ、サイトはきょときょとと周囲を見回し、自分の体が緑豊かな草原の中に横たわっている事を認識する。
 それでようやく、『ああ、そう言えば、ここは何処なんだろうか』とか思いついたサイトだが、今度はその疑問を口にする事が出来なかった。

「ちょっと、そこのエロイヌ!」

 乱暴な言葉と同時に、少年とアネメアの上に影がさす。

『……え、ピンク?』

 なんだと見上げたサイトの目に最初に映ったのは、豊かな桃色の髪の毛だった。
 白く透き通るような肌と、大きくて良く表情を映す、鳶色の瞳……しかし、明らかに西欧の人種に見える顔立ちに反し、身長は150代の半ばだろうか?

「気が付いたんだったら、さっさとアネメアお姉さまの膝から降りなさいよ!」

 ほそくてうすくてぺったんこな、少年染みた体型の少女は、外見が髣髴とさせる通りの活発さで、アネメアの膝の上に頭を乗せたままのサイトを立ち上がらせようとした。

「あの、ルイズさん、この方は、まだ、体が本調子ではないのですから……」

 流石のアネメアも、それこそ体格さえ良ければサイトの胸倉掴んで持ち上げかねない勢いのルイズには困ったような表情を作り……気付いたように再び少年の顔を見下ろす。

「……ええと、そう言えば、まだお名前も伺っておりませんでしたわね」

 そして、にっこり笑いながらそう尋ねかけるアネメアに、サイトの顔が真っ赤に染まった。
 アネメアは良く見なくても美人だったし、その柔らかな雰囲気の声音は耳にも心地いい。
 その上、サイトの頭は柔らかな膝の上にあって、すぐ上にはもっと柔らかいだろう二つの膨らみがこんもりと盛り上がっているのだ。
 驚きの先行で、今までは実感がなかったが、この嬉し恥しい状況に思春期の青少年が赤面するのも無理はない。

「え、あ、俺は平賀才人」

 そして、恥しげにアネメアの顔と胸とを見比べながら、そう名乗った青少年に、傍らで眺め下ろしていたルイズの口から少々下品な舌打ちが漏れた。

「アネメア姉さま、幾らこのエロイヌがお姉さまの使い魔かもしれないからって、そうやって膝枕までしてあげる必要はないわよ!」

 流石に、目の前の二つの膨らみを凝視していたとあっては反論も出来なかったし、また、目の前の美女にまで軽蔑されたくもない。
 多大な意志の力を動員して、サイトは目の前の魅惑の膨らみから視線を外し、声の主を再び見上げた。
 目の前には、雄雄しくも仁王立ちのルイズ嬢。
 その服装は、前止めのシャツに、少々短すぎる感のあるスカート、ニーソックス、マント。

「……白か」

 反射的に呟いた正直者の、その米神に少女の優美な爪先が叩き込まれたのは、それから0.2秒後の事だった。
 ――ラッキースケベ、本日昇天二度目。
 既に残機は一、もう後は無い。

「……サ、サイトさんッ!?
 だ、大丈夫ですか、サイトさん」

 アネメアは、白目を向いて投げ出されたサイトに駆け寄ると、慌てて少年をその胸に抱え込んだ。
 サイトの米神に出来た瘤を撫でると、まずそこが骨折したりしてない事にまず安堵……氷結術(シュラス)で氷でも出して冷やしてみようかしらなどと、素人療法を色々と頭に浮かべる。
 過去、激しい戦いを生き抜いたアネメアではあるが、彼女の主に使う回復手段――癒核――は、破壊されたメア構造を再組織化する能力を持つ魔力結晶であって、御使い及び、メアの防壁でその身を鎧う『魔法使い』にしか効果が無かった。
 また、イブリースとの戦闘において、メア防壁の完全消失は死と等号で結ばれる事象である為、本格的な傷の手当て等の技術や経験は、そう多いわけではない。
 趣味の関連もあって、薬草等には造詣が深かったが、流石に頭に強い衝撃を受けた時の対処法など良く知りはしなかった。
 『まずは保健室に……けど動かしてよいものかしら』等とただおろおろしながらサイトを抱き抱えているアネメアの姿に、ルイズは苦虫を噛み潰したような顔でこう口を開く。

「アネメア姉さま!
 そんなエロイヌを介抱する必要なんて無いわッ!
 召喚されてまだ一時間たってないのに、アネメア姉さまに抱きつくわ、私のスカートの中を覗くわ……やりたい放題じゃないッ!」

 恐ろしい事に、それら全ては偶然のなせる業で、特に後者は、ルイズが自ら見せたに近い状態だったりするのだが、膨れ上がった乙女の嫉妬と嫌悪は、その程度の事実で阻めるものではなかった。
 こんな平民死んでもいい、いや、むしろ一歩前に進んで、私が殺してアネメア姉さまの不名誉をかけらも残さず消し去ってやる位の勢いで仁王立ちなルイズに、アネメアは思わずサイトを強く抱きかかえる。
 そして、ルイズに頭を蹴られ、意識朦朧としていたサイトが目覚めたのは、まさにその時だった。

『苦しい、痛い、気持ちいい?』

 目を開けると、目前には顔に押し付けられる柔らかな双丘、寒気を感じて視線を動かせば、怒りに髪の毛を逆立てたルイズの、爛々と光る双眸――前門の女神、後門の鬼神となれば、目を覚ましたサイトが女神を頼ろうとするのは当然であろう。

「ヒィッ!」

 目の前のルイズの放つ、殺意の波動に押され……意味もわからずサイトは、ただ幼子の様にぎゅっとアネメアの体を抱きしめ返していた。
 それがルイズの逆鱗を逆なでにし、怒りに膨れ上がった髪の毛は、ゴルゴーン三姉妹の如くゆらゆらと揺れ動く。

「ルイズさん、おやめなさい」

 そんなサイトの抱く腕に力を込め、アネメアはルイズにそう言った。
 静かな、しかし、力の篭もった静止の言葉に、ルイズが纏った怒気が萎む。

「……アネメア姉さま、何でさっきからそのエロイヌの肩ばかり持つのよ……」

 アネメア・グレンデルは、悪意に対して鈍感で、自分の価値に無頓着な――と言うか、酷く過小評価する悪癖を持つ――上に、大抵の事は何とかしてしまえる能力の持ち主と言う、どうにも手の打ち様がない御人好しである。
 また、内向的な性格と、趣味、それに、早くに両親をなくし、周囲にいるのは最上級の能力を持った大人達だけだったという特級に突き抜けた家庭環境から、特に男女関係とかそう言ったものには疎かった。

「ですからルイズさん、それは誤解なんです。
 先程、サイトさんは私に抱きついたのではなく、気絶して倒れこんできただけですし……それにその、私も先程の発言はどうかとは思いますけど、ルイズさんの下着を覗いた事自体は、どう考えても故意ではなく事故でしょう?」

 そして、アネメアのそんなところが、ルイズには恐ろしい。
 育ちが良いせいか、倫理観は確かだし、貞節もきちんとしているのだが、その反面奇妙に無防備で、相手の腕の中に無造作に入り込んでしまう様な所が、アネメアにはあった。
 だからルイズは、自身の魔術の師であり、姉と呼び慕っている女性のそんな所を、自分が守らねばと考えている。
 特に、目の前の男はヤバイ、特級にヤバイ、あれはイヌの目だ。
 どうしようもないエロイヌの目だ。
 あんな男がアネメア姉さまの使い魔になったら、自分の立場を利用して、淫行の限りを尽くそうとするに違いない。
 そんな事を考えながら、ルイズは視線で人が殺せるものなら大量虐殺出来そうな熱視線で、サイトをこのエロイヌがぁ!と睨め付けた。

「………」

 自分を庇うアネメアに強気になったのか、今度はサイトもそんなルイズを睨み返す。
 アネメアはそんな二人を困惑した目で交互に眺め……

「……ああ、ミス・グレンデル。
 時間も押している事だから、そろそろコントラクトサーヴァントを……」

 そして今まで空気だったコルベールが、その混沌とした状態に酷い劇物を投げ込んだ。

「……コントラクトサーヴァント?
 アネメア姉さまがこのエロイヌと?
 反対、反対、絶対反対!」

「いや、しかしだね、ミス・ヴァリエール。
 使い魔召喚の儀式は神聖なものであり、やり直しは聞かないんだ」

 ルイズが叫び、コルベールがなだめる。
 アネメアは少し顔を染め、それは困りましたねと呟くと、サイトに立てますかと尋ねた。
 その言葉に、流石に抱きしめられっぱなしが恥ずかしかったサイトもうんうんと力強く頷き、痛む全身に顔を顰めつつ立ち上がる。

「サイトさん、つかぬ事をお聞きしますが、貴方は動物か、それに準ずる意思ある存在をお持ちではありませんか?」

 そして、続けて尋ねるアネメアに、サイトは首を横に振った。
 正直、サイトには彼女の質問の意味が良く判らなかったが、今の彼の持ち物と言えば、修理されたばかりのノートパソコンくらいしかない。
 自分がそんな特殊なものを持っていない事は明らかだ。

「……なるほど、では、私の術でサイトさんが呼び出された事だけは間違いないわけですね」

 アネメアは、そう誰に言うでもなく呟くと、真顔でサイトを正面から見据える。

「サイトさん、呼び出されたばかりで混乱しているだろう貴方に言う事ではないとは思いますが、今は時間が余りありません。
 すみませんが、私の使い魔になってはいただけませんか?
 変わりに貴方の衣食住は私が保障いたしますし、まだいつになるかはわかりませんが、必ず貴方を、故郷にお送りいたします」

 次いで、かけられた質問の意味も、サイトには理解できなかった。
 サイトは、ちょっと負けず嫌いで好奇心が強いだけの普通の高校生であって、所謂オタクのように、若者向けの小説やらマンガやらに耽溺しているわけではない。
 ハリー・ポッターの映画くらいはテレビで見たが、サイトのファンタジーの知識は『そもそも使い魔って何?』位なレベルでしかなかった。
 だが、そんな理解できないアネメアの言葉に、サイトは無言で頷く。

「……ありがとうございます。
 サイトさん、貴方の事は、私が責任持ってお守ります」

 正直、サイトは今の状況も、彼女の言葉の意味も理解できてはいなかった。
 今の彼に理解出来ているのは、あのルイズとか言う少女が自分を嫌っている事と、その理由位なもので……そこまで考えてサイトは、
自分が自分を嫌っている相手とだけ、自分を嫌っていると言う一点で繋がっているような気がして、少しばかり嫌な気分になったが、まあ、それはこの際どうでもいい。
 とにかくサイトにも、理解できないなりにアネメアが自分に真摯に向き合っている事は判ったし、そんな彼女が信頼できると感じてもいた。
 そして、サイトがアネメアの問いに頷く事が、さっきから彼を睨んでいる少女への意趣返しとなる事は、この上なく理解できている。
 アネメアの提案を、負けず嫌いで思慮が浅く、しかも、好奇心旺盛な平賀才人に受け入れさせるには、ただのそれだけで十分だった。

「お姉さま、止めてください!」

 なんとも心和むルイズの叫び声をバックに、サイトはアネメアを上から下まで眺めてみる。
 柔らかでふわふわとした金髪と、もっと柔らかな雰囲気を湛えた美貌、少々やせ気味だが、出るところは出て、引っ込むところは引っ込んだ肉体……刺激を求め出会い系サイトに登録したりしていた彼だが、
どんな幸運に恵まれたとしても、それでアネメアのような美女と知り合うことは出来なかっただろう。

『そう言えば、さっき、俺はこの人に抱きしめられてたんだよな。
 その前は膝枕だったし……』

 『うぉ、もしかして俺ってラッキー?』と、少年の顔がにやけ掛け、『このエロイヌがぁ!』と睨め付けるルイズの視線に、サイトは慌てて緩んだ口元を抑えた。
 抑えきれぬ激情に、口元がピクピク引き攣っているのはご愛嬌――何とか真面目な顔を作ったサイトの目の前、
アネメアは頬を微かに染めながらその両手を少年の頬へと伸ばした。

「我が名はアネメア・グレンデル」

 そう謳うように唱えるアネメアの手が、サイトの頬に触れる。

「五つの力を司るペンタゴン」

 上がるルイズの悲鳴……サイトが『え、これ何、もしかしてもしかするの』と動転する中、アネメアの顔はゆっくりと、しかし着実に少年の顔へと近付いていった。

「この者に祝福を与え、我が使い魔となせ」

 混乱に目を丸くするサイトの唇と、恥じらいに顔を赤らめるアネメアの唇とがさっと重なり、すぐに離れる。
 ……因みに、直後逆上したルイズに蹴り飛ばされ、このラッキースケベが原作どおりに昏倒した事は言うまでもない。



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