あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

ゼロの仕立屋

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ルイズがそこに行き着き、困り果てたのは当然といえるだろう。
彼女の使い魔、サイトの事、である。
サイトは現代日本から召喚された。無論、着の身着のままで。
パーカー姿は確かにこの世界では珍しかったが、珍しい以上のものではない。
姫殿下が魔法学院にやってくる、というのを知らされたのは今日の事だ。
しかし急遽だという事で、五日後に設定されたそれは、ルイズを大いに悩ませた。

――サイトをこのまま出すわけにはいかない

貴族の使い魔が人ならば、それ相応に着飾る必要性があるだろう。
しかし、五日。
一から服を仕立てようと思うと、余りに短すぎた。
生憎と魔法で作れるのは建物などであり、服はどの魔法でも作れるものではない。
困り果てたルイズは、各方面に協力を持ちかけたが――どの貴族も首を横に振った。
そんな仕立て屋は知らない、というのである。
だが、希望の一人が見つかった。
――マルトーである。
ルイズがシエスタにまでたずねてきたことで、貴族の鼻を明かせてやれるなら、と一人の男を紹介したのであった。

だが、その男をみてルイズは驚いた。
黒髪に黄色い肌。
まるでサイトと同じような人種ではないか。
だが、その紹介された名前を聞いて、もっとサイトは驚いたのだ。
男の名は、「ユウ・オリベ」
「織部 悠」
紛れも無く、日本人だったのだ。


ルイズはその男を信用した訳ではなかった。
平民であるマルトーが紹介したのは、うらぶれた路地裏の二階。
平民による平民の紹介。
貴族であるルイズからしてみれば、信用できよう筈がないのだ。
だがしかし、背に腹は変えられない。
通常の仕立て屋は手の早い貴族連中に取られたし、既製服では貴族用のモノなど売ってはいない。

――いや、一部高級な店では売っているのだが、しかし、それは合わない、のだ。
豪奢なマントや、服装もいいが、サイトの身長は172サント。
ある程度見栄えのする体躯である。
そんな豪華なものをつけてしまっては、下手をすればルイズより悪目立ちをする。
そういった理由をオリベに伝えると、だがしかし、オリベはコリコリと頭をかいた。

『――マルトーのおやっさんの紹介じゃ、断る訳にはいかねぇか。
だが残り五日だ。時間がねぇ。使い魔、ここで徹夜で借りるぜ』

そういうと、サイトは五日間部屋で缶詰になった。
ルイズも不満げではあったが、五日後の姫殿下の目どおりを考えると仕方の無い事だ。
仮にもラ・ヴァリエール公爵家の三女であるルイズには、仕立てというのがどれほど時間のかかるものかはわかっていた。
故に、何も文句を言わなかったのだ。
果たしてこれが、成り上がり貴族や、軍人であったならば文句を言っただろうが。

『おら起きろ! 仮縫いだ!』

最早サイトにはその言葉が目覚まし代わりだった。
初日こそ、オリベは寸法を取り、資料を目にし、悩んで居たのだが
二日目からは次々に作業を進めていき、仮縫いと言ってはサイトに二時間も睡眠を許さなかった。
段々と眠気で体が崩れていくサイトだが、それをオリベは許さず、時には蹴飛ばしてでも立たせた。

――最初、サイトは乗り気ではなかったのだ。
何せ現代日本の通常家庭の生まれである。
服といえば安売りや、セール。流行によって買うものであり
寸法を取る、などというのは学生服くらいであった。
しかし、今作られていく服はどうだ。
面倒くさかった仮縫いが行われていくたびに、まるで自分に何かをコーティングしていくかのように服が出来上がっていく。

『いいか、幾ら作ったって日本人のお前さんじゃ気取った姿はむしろマイナスだ。
胸を張って突っ立っているだけでいい!』

そういわれたが、受け取った本は分厚く、もし話しかけられた際のお辞儀の仕方や礼の仕方。
貴族の従者に対する居住まいなどが細かく、日本語で書き連ねられていた。
時に様子を見に来るルイズに鞭をぶたれ、オリベに蹴り飛ばされ、ほぼ軟禁状態でそれを読み進めていくサイト。
――何故こんなに熱心なのかといえば、自分の為に作っている服の値段を知ったからなのだが。

『特急料金で金貨千エキュー。と、いいたいが、マルトーのおやっさんの頼みだ。
特別に二百エキューって事にしておいてやる』

――それが、日本円で数百万に値すると知らされた時のサイトの驚きようといえばどういうものか、語らずともわかるというものだろう。
そんなものを出してくれたルイズに、応えなければ男ではない。
あいつめ、俺にほれているんだな、などと勘違いを含みつつも、四日が過ぎ、五日目に――ようやく、一夜漬けの知識と、服が完成したのだった。

品評会の当日が来た。
各々が使い魔を見せ、そこに服を持ってやってきたオリベとサイトが来た。
時々様子を見に来ていたルイズだが、完成二日前までは一切中に入らせてもらえなかった。
気が散る、というのが主な理由だったのだが、貴族である自分も入れないとは、とルイズは不機嫌気味であった。
既に他の使い魔は芸の最終調整に入っている。
だが、結局サイトと何の打ち合わせも出来なかったルイズは、オリベにどうするのかと詰め寄った。

『いいからお嬢ちゃん。
この服を着て、丁寧に礼を尽くすんだ』

とだけ伝え、オリベはベンチに横になってしまったのだ。
サイトも自信を持って頷くため、ルイズは渋々、サイトに着替えて順番を待つように、と伝えたのだった。

タバサのシルフィードを筆頭とした、素晴らしい使い魔達が芸を見せる中、とうとう、最後のルイズの番がやってきた。
ゆったりと歩き、王女たちの前に姿を見せるルイズ。
しかしサイトは、その後ろで何事があろうとも手を差し出せる距離を、確実な歩みでついてきたのだった。
ふむ、と唸る軍人たち。
しかし、それだけだった。

クスクスと笑いを漏らす生徒達。
幾らギーシュに勝利をしたとはいえ、平民の使い魔を王女の前に出す事に笑いを抑える事が出来なかったのだ。
王女も一瞬呆れたような顔をし、その周りの者たちもどう反応すればいいものかと悩んでいた。
流石は平民だ。幾ら着飾ったところで野暮天な服装しか出来ないじゃないか、と声に出すものまで出だす始末だ。
お飾りの拍手をして終わらせようか、そう、皆が考え始めていたところで、ほぅ、と唸るものがいた。
グラモン元帥である。
その元帥が、息子に尋ねた。

「あの服装を見て、どう思う」

だが、その言葉に息子のギーシュは鼻で笑いながら

「貧相に尽きますね。黒い服は従者にぴったりですが、ラ・ヴァリエール家の使い魔と考えると、少し」

だが、その言葉にこそグラモン元帥は失望を感じた。
そして、ポツリポツリとつぶやき始めた。


サイトが着ていたのは、地球で言えば、ジャケットとパンツだった。

『ハルケギニアはどういう訳か、フランス仕立てと日本が混ざり合ってるような世界だ。
ブラウスにシャツは当然だが、貴族の従者ともなれば、相応の豪奢さと威風が要求される。
燕尾服ってのもありだが、この世界じゃまだ燕尾服は確立されてねぇ上に、ありゃ女性をエスコートして初めて魅力出るもんだ』
『みれば時代的には十七世紀に似てる。
するとジャケット。ジュストコールがいいかと思いがちだが、胴長短足気味な日本人に、前開きのジャケットは難しい』

仮縫いの最中、一体どんな服装にするのか不思議に思ったサイトが
どんなものにするのだ、と尋ねると、こういって説明が始まったのだ。

グラモン元帥がゆっくりと、息子のギーシュや、近くにいる上司達に聞こえるようにつぶやいた。
皆が今サイトが着ている服装を改めてよく見る。
黒いフォーマルな生地で作られた服だ。
――サイトがもう少し詳しければ、変型したチュニック・ジャケットだと気付いただろう。
膝丈まである裾は、日本人の特徴である短足を隠し、整いつつも一本筋の通った雰囲気を演出している。
ほっそりとしたシルエットではあるが、しかし背中のデルフリンガーを強調するように見せているため、ひ弱な雰囲気は受けづらい。
更に、デルフリンガーを背負う事によって生じる肩のゆがみや、シルエットのずれを
わざわざデルフリンガーを固定させる場所を指定して、『あらかじめ、修正するようにゆがめてある』
成る程、これならば背丈があり、雰囲気に足りない紳士的なものや、威風も少しは加味されるだろう。
デルフリンガーのような長い刀を背負い、それでもシルエットがゆがんでいない事を気付けば、歴戦の戦士だと思わせる事も可能だ。
だがしかし、足りないものがある。
豪奢さ、である。
悲しいかな、このままでは地味なだけなのだ。
グラモン元帥も最初は、そう思い、見下そうとした。
だが、と。
目を凝らしてよくみれば、ステッチが施されているのだ。
目立たぬように、裾の部分などに施されたものだが、それをよくよくみれば、ラ・ヴァリエール公爵家の紋章ではないか。
金ではなく、銀糸で施されたそれは、黒の中で埋没することなく、しかし裾という部分であるため、自分を主張することなく輝いていた。
確かに、見た目豪華な宝石と違い、地味な銀糸ではある。
だがしかし、ここまで精緻に縫いこまれたステッチで、公爵家の紋章をあらわすとなれば並大抵の仕事ではない。
むしろ、これに気付いた者は宝石よりも豪華な仕事に驚く事だろう。

『気付かなかったとすれば、そりゃ貴族の器が知れるってもんだ』

オリベはそう嘯いて、ニヤリと笑ったのだった。

無論、そんな事をすれば通常は怒るのが貴族というものである。
着る本人には伝えたが、果たして貴族がそれを見抜けるかどうか試したのだ。
元々偏屈な職人なオリベではあるが、流石にこれは喧嘩を売るような真似だった。
しかし――

「素晴らしいですわ。ミス・ヴァリエールとその使い魔」

王女がそういって、服を褒めたのだ。
となれば褒める他ない。
馬鹿にした連中が恥ずかしそうにその場から去っていくのを見て、ルイズは言い知れぬ優越感と、感謝の気持ちを抱いた。


――ベンチで横になるオリベに、声をかける男がいた。
グラモン元帥である。
その姿を確認したオリベは、目隠しにかけてあった本を取り払い、ゆっくりと起き上がる。

「相変わらずだな、ミスタ・オリベ」
「グラモンのだんなかい」

グラモン元帥が腰をベンチに下ろす。
護衛もつけず、オリベの横に座る姿は、まるで数年来の友人を相手にするような姿だった。

「懐かしいものだ。君の師匠が始めて私の礼服を仕立てた時からだから、もう五年にもなるか。
ゲルマニアの錬金装飾師、シュペー卿が自らの呼び出した使い魔を、服飾の師匠と言った時には驚いたものだが」

グラモン元帥が懐かしそうに、目を細める。
そして、ふと疑問に思った事をつぶやいた。

「そういえば、会場中の誰もが服に目を奪われたが、履いていた靴はその中で自己を主張せず、しかし雰囲気を壊さぬ代物だったな」
「……俺の第二の故郷の技術でね。
お目通りをする石畳の会場じゃ、黒い革靴をピッカピカに磨きゃ、むしろ崩れちまう。。
先端だけを磨き、光沢を出して、むしろ全体に統一感を出させるのが心の余裕ってもんだ」

この男め、とグラモン元帥はニヤリと笑う。
最後の最後まで、貴族に対する挑戦を続けるような真似をしたのだ。
恐らくはパンツにも何らかの細工がしてあったのだろうが、果たして自分の息子はそれに気付くかどうか、と笑う。

オリベ・ユウ。
後に、彼の仕立てた服が、ウェールズ皇太子に生への執着を生ませ、アルビオン戦役と言われたレコン・キスタ革命を
生き延びさせ、後の歴史に大きな影響を与えた事を――しかし、知る者は少ない。
しかし、彼を知る者は、その事実を元にこう言うのだ。
王様の仕立て屋――と。

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