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ルイズと無重力巫女さん-61-b




 チクトンネ街から少し出ると旧市街地の入り口があるが、そこから先は殆ど人気が無い。
 人々が集う飲食店や酒場も無いここは、既に放棄されて久しいと言っても良いくらいの場所であった。
 唯一目につくものと言えば、かつては多くの人を迎えたであろうアーチが立てられた入り口とその真下に作られている一つの台座だ。
 旧市街地へ入ろうとするものを拒むかのような古びたアーチにはどんな事が書かれ、台座の上にはどんな像が置かれていたのだろうか。
 それを知る者はこの場におらず、知っている者もきっとここへ戻ってくることは無いだろう。
 文字通り死した大地とはこの街の事を示すに違いない。今のここは活気を失い、座して滅びを待つ者たちの吹き溜まりだ。
 こんな場所へ何の用事も無しに訪れる者は、きっと余程の変わり者ぐらいであろう。
 しかし、今日は始祖が気まぐれにも救済の手を差し伸べたのか、二人の少女がこの街へ入ろうとしている。
 孤独死を静かに待つ老人の如きそんな場所に、ルイズと魔理沙の二人は佇んでいた。

「レイムの居場所はわかったけど…何でよりにもよって旧市街地に来なきゃいけないのよ」
 魔理沙の後ろにいる彼女はそう呟き、旧市街地の入り口を軽く見回す。
 ルイズの顔には苦虫を踏んでしまったかのような表情が浮かべており、入りたくないというオーラが身体から漂っている。
 ある程度トリスタニアを知っている彼女は、ここがどれ程危険な場所なのか把握していた。
 犯罪者や浮浪者の溜まり場であり、尚且つ崩壊寸前の建物が幾つも放置されているという立ち入り禁止の土地。
 実際は立ち入り自由なのだが、ルイズは意識してこの旧市街地に近寄る事を今の今まで避けていた。

 しかしそんな彼女とは対照的に、ルイズの前にいる魔理沙は楽しげに口を開く。
「へ~…トリスタニアってこんな場所もあるのか。今の今まで知らなかったよ」
 彼女はそう言うと顔を上げ、自分たちよりも十メイル程上にある木造のアーチと、そこに取り付けられている赤錆びた鉄看板を見つめる。
 風雨に晒されるばかりか虫に喰われた箇所が痛々しいアーチは、いつ崩れてもおかしくは無い。
 そしてアーチの上部にある広いスペースに取り付けられている鉄製の看板には、きっと歓迎の言葉が書かれていたのだろう。
 しかし、それもまた数十年の歳月をかけてアーチより更に汚れ、今では屑鉄として処理されるしかないガラクタと化していている。
 一見すればお化け屋敷の入り口だと錯覚してしまうそれを魔理沙は興味津々といった目で見つめ、一方のルイズは嫌悪感たっぷりの瞳で睨みつけていた。

「しっかし相当古い所だよな~。幻想郷にある数多の廃屋が結構まともだと思えてくるぜ」
 上げていた顔を下ろし魔理沙がルイズに向かってそう言うと、すぐにルイズは口を開く。
「ふーん…それほどの良い家ばかりなら是非とも見せてくれない?ここより酷かったらタダじゃ済みませんけど」
 隣の少女へ嫌味を含めて送ったルイズの言葉はしかし、「おっと、そう言われると自身が無くなってしまうな」と呆気なく返される。
 ここで自分の言葉に乗ってくれるかと思っていたルイズは、ムッとした表情を浮かべて魔理沙を見やる。
 そんな自分とは対照的にニヤニヤと嫌らしい笑みを浮かべる魔法使いを見て、彼女は不満気な顔のままため息をついた。

「ユカリのヤツ…まさか適当な事言って、あたし達から今のレイムを引き離してるんじゃないのかしら?」
 ルイズはそう言って、ここへ至るのまでの経緯を軽く思い出そうと脳内で時を巻き戻し始めた。


゛霊夢は今旧市街地にいる。行くというのならできるだけ早く行った方がいいわよ?゛

 ついカッとなったルイズに足を踏まれ続けていた八雲紫は、痛みに耐えながらも二人にそう教えていた。
 当初はルイズがあまり役に立たないという事で、姿を消した霊夢を追いかけるなと警告した大妖怪。
 しかし、戦力外扱いされた本人はそれで見事に憤り、結果自分をけなした妖怪にキツイ一撃を与える事に成功した。
 本当は拳骨をお見舞いしたかったが失敗し、半ば自棄的に足を踏みつけたのが功を成したと言える。
 両者一歩も引かぬ光景を魔理沙が傍観する中、ルイズはこれからの決意を紫に伝えたのだ。

 それを聞いて根負けした…ワケでは無いのかもしれないが、紫は微笑んだのである。
 まるで戦場へ赴く事を決意した我が子を見る母親の様に、優しくも何処か遠い場所を見つめているかのような微笑みであった。
「そこまで言うのなら教えない、と言うワケにはいきませんわね」
 紫はこちらを凝視するルイズに向けてそう言って、今の霊夢がいる場所を教えてくれたのだ。
 いつもと違いやけにあっさり話してくれたことに二人は疑問を持ち、一回だけ魔理沙がその事について尋ねていた。
「珍しいな?いつものお前なら難しい言葉でも出して退散すると思ったんだが」
 黒白の質問に、紫は鼻で笑いつつ丁寧に答えてくれた。
「知ってるかしら?貴女達を含めた周りの者たちが思うほど、私は悪質ではありませんの」
 無論、仏の様に優しくもありませんけどね。最後にそんな言葉を付け加えた後、紫はその口を閉じた。 


 その後、彼女は「少し用事があるから」という理由で自ら開いたスキマを使ってその場を去ってしまった。
 一体何の用事なのかと一時は訝しんだのだが、それを考えるよりも優先すべき事がありすぐに忘れてしまった。
 その優先すべき事を消えたばかりの妖怪から聞いたルイズは魔理沙と一緒に、チクトンネ街からある場所へと向かった。
 日が暮れるにつれて人混みがきつくなっていく通りを抜けた彼女らは、ここ旧市街地までやってきたのである。


 そして時間は戻り、廃墟群の前にたどり着いたルイズと魔理沙が入り口の前で佇む今に至るのであった。


「…まぁ紫の言う事が本当かどうかは知らないが、すごい所が街中にあるもんだな」
 ルイズの言葉にとりあえず肯定の意を示しながらも、魔理沙は旧市街地の入り口周辺を見回している。
 とりあえず応えてみたという魔理沙の言葉に目を細めるが、まぁ彼女が驚くのも無理は無いと感じていた。
 ブルドンネ街やチクトンネ街と比べやや古い空気を残す街並みは、時代に取り残された証拠と言っても過言ではない。
 時と共に増え続ける人口によって不便になる水回りの環境や狭い通りは、人々を新しい街へ移住させるきっかけともなったのだから。

 ハルケギニア大陸の主な国々の首都や王都にも旧市街地はあるが、トリスタニアの様に明らかな廃墟化はしていない。
 ガリアのリュティスは幾年もの工事で平民たちの不満をある程度取り除き、ゲルマニアのヴィンドボナでは家屋を取り壊して工場を作った。
 聖都ロマリアでは最近になって難民たちの生活場所になり、アルビオンのロンディニウムには今も多くの人々が暮らしている。
 そんな中であっという間に過疎化が進み、犯罪者や働く気のない浮浪者たちのたまり場となった場所は、ここトリスタニアだけだ。

 更に旧市街地自体はいまだ原型を保っている事と多くの人が今も出入りしているという理由で、立ち入り禁止の看板さえ立てられない現状。
 碌な整備もされないせいで通りも建物も荒れに荒れた今では、何も知らない異国の人間が見れば驚くのも無理はない。
 何せハルケギニアでも有数の観光名所である王都の中に、場違いとも言える廃墟が存在しているのだから。
 しかし観光客の中にはこういう場所が好きだという人達がいる事を、ルイズは雑学の一つとして知っていた。
(実際に目にするのは初めてだけど、コイツの性格を知ってると墓荒らしの類かと思えてくるわね)
 初めて訪れる旧市街地にワクワクを隠せない魔理沙を見ながら、ルイズはそんな事を思っていた。

 魔理沙が旧市街地をこの街の名所(?)の一つとして見ていたが、その一方でルイズはあまり縁起の良くない場所と思っていた。
 先程呟いた言葉が示すように、今更ながら紫の情報は本当なのかと疑い始めていたのである。
 最初に聞いたときは早く霊夢の所へ行かねばと急いでいたが、ある程度落ち着いた今ではその気持ちも薄らいでいる。
 そして、段々と冷静さを取り戻す彼女はぽつぽつと思い出していた。ここ旧市街地に関するあまり噂の数々を。

 肝試し気分で深夜にここを訪れた若者たちが浮浪者たちに襲われ、そのまま帰らぬ身になったという話。
 地下水道に潜むゴーストや、謎の病原菌が蔓延しているという都市伝説の類。
 当時の王家が隠したという財宝が、今もどこかに隠されているという美味すぎる噂。
 他にもあるかもしれないが、少なくともルイズが知っている旧市街地の噂はそれ程多くは無い。
 だが腰を入れて探そうと思えば…百科辞典一冊分は無いにしても、それなりの情報は手に入れられるだろう。
 それ程までにこの場所は怖ろしいくらいに怪しく、暇つぶしのネタにもってこいの土地であった。
 しかしルイズからして見れば絶、ここは対に近寄りたくない忌み嫌われた場所なのは違いないのだ。

 本当ならば自分の前にいる異世界人にもそれを教えたい所であったが、彼女はそこで悩んでいた。
(どうしよう…コイツに教えたらもうレイムを捜すどころじゃ無くなる気がするわ)
 もしも目の前の相手が魔理沙以外の人間なら、ここの噂を聞いて予想通りの反応を見せていただろう。
 例えば、若者たちが行方不明とかゴーストの話を聞かせれば多少なりとも自分の気持ちを理解してくれるに違いない。
 だが、魔理沙やこの場にいない霊夢の二人にそんな事を話しても、それで怖がるという場面が想像できないのである。
 むしろそれで怖がる自分を馬鹿にしたり、予想よりもずっと斜め上の反応を見せてくれるのではないかと危惧していた。

 霊夢は鼻で笑ってくるだろうし、魔理沙に至っては話を聞き次第本当かどうか確認しに行くだろう。
 実際にそうなるかどうかはわからないが、少なくともルイズはそういう事になるなと予想していた。
 自分の話に斜め上の反応を見せてくれるかもしれない二人の姿を想像し、ルイズは無意識に呟いてしまう。
「言えるワケ無いわよね、面倒事になるのなら…」
「お、面倒事ってなんだ?何やら随分と面白そうな話がありそうじゃないか」
 あまりにも意味深すぎる彼女の言葉に対し魔理沙が反応するのは、必然としか言いようがなかった。
「えっ?――あ、うぅ…」
 まるで子供の様に無邪気な瞳で見つめられるルイズはしまったと後悔しつつ、どう答えようか迷ってしまう。

 思い切ってここの噂を話そうか、もしくは何でもないと言って誤魔化すか。
 正直言ってどちらの方を選んでも良くない事が起こりそうだと、この時の彼女は薄々感じていた。
 仮に噂話を教えてしまうとなると、この黒白が唐突な探検を始める事は碌に考えなくとも予想できる。
 かといって何もないと言えばこちらの根が折れるまで問い詰めてくるだろうし、そうなればここで立ち往生してしまう。
 旧市街地へ来たのはあくまでも霊夢の捜索をする為で、都市伝説の真相を確かめに来たのではないからだ。

 どんな言葉で返そうか迷っている彼女は、ふと先程の出来事を思い返す。
 それは霊夢の様子がおかしくなった直後に、ガンダールヴのルーンが光り出したことであった。
(何でルーンが光ったのかわからない…けど、良くない事が起こりそうな気がするわ)
 彼女は心の中で呟きつつ、自分の心が不安に包まれていくのを感じてしまう。
 契約直後とワルドの魔の手から救ってもらった時以外、あのルーンが光ったところを今まで見たことが無かった。
 不思議に思ったが本人曰く、自分の能力に関係していると言っていたのでそれが答えなのかもしれない。
 しかし契約直後はともかくとしてアルビオンの時にはそれを光らせ、見事な剣術を見せてくれた。
 何であの時にガンダールヴの力が働いたのだろう?あの日から二ヶ月近くも経つが、ルイズは今でも疑問に思っている。
 当の本人にそれを聞いてもわからないと言っていたし、幻想郷に帰った時も答えらしい答えは見つからなかった。

 ただ…異変解決の為に霊夢と一緒に自分の世界へ戻ろうとした直前、紫はこんな事を言っていた。
「この答えは今出てこないが、後で自ずと出てくるかもしれない」と。


(今回の事…もしかして、それが答えに繋がるのかしら?) 

 ほんの少しだけ過去の出来事を思い出していたルイズは、何回か瞬きをしてから現実へと意識を戻す。
 そして後悔する。面白い情報を探り出そうとしている黒白の魔法使いが、すぐ傍にいたことを忘れていたのだ。
「何を黙ってるんだルイズ?黙ってても私は何処へも行かないぜ」
 自分の返事に期待しているであろう魔理沙の言葉に、彼女はため息をつきたくなった。
 知り合いが大変な目に遭ってかもしれないというのに、この魔法使いはくだらぬオカルト話に浮かれている。
 他人との付き合い方も幼少の頃に学ばされたルイズにとって、あまり見過ごしておける人間ではなかった。
(でもここで喰いかかると色々面倒な事になりそうだし…どうしようかしら)
 呆れてはいるものの、答えがみつからない事にルイズが頭を悩ませている時―――゛彼女゛は現れた。

 まるで突風のようにやってきた゛彼女゛は燃え盛る炎の様な髪を揺らし、ルイズへと近づいていく。
 考え事をしているルイズは背後から来る気配に気づかず、ルイズの方へ視線を向けている魔理沙も同様であった。
 人々の活気と雑踏が遠くから聞こえるこの場所で靴音を鳴らし、赤い髪の少女はルイズたちへ近づいていく。
 ルイズと同じデザインのローファーを履いた足で、ある程度近づいた少女はスッと息を吸い込み…ルイズたちに話しかけた。


「あらあら?何かと思えば…ヴァリエールと怪しげな黒白が肝試しの準備をしてるじゃない」


 背後からの声にルイズは驚いた。まるで灼熱の中で踊る炎の女神を連想させる、美しいその声に。
 そして何より、どうして声の主である゛彼女゛がこの様な場所へとやってきたのだろうかという疑問を覚えてしまう。
 ルイズと同じタイミングで気づいた魔理沙も声の主を見てから、意外だと言いたげにアッと声を上げる。
 この世界…というより魔法学院へ来てからというものの、゛彼女゛の赤い髪を忘れたことはなかった。
 それ故に他の生徒たちが呟いていた゛彼女゛の名前と、持っている二つ名もしっかりと覚えている。


「それを羨む事は無いけれど、もう学院に帰らなくて大丈夫かしら?」
 目の前の二人がそれぞれリアクションを見せた所で゛彼女゛こと、キュルケは尋ねてきた。
 浅黒い肌に似合うその美貌、怪しげな微笑を浮かべながら。 
「き…キュルケ!」
「ハロローン、今夜も良い双月が見れそうねヴァリエール」
 急いで振り返ったルイズがその名を呼ぶと、キュルケは右手を軽く上げて挨拶をする。
 驚愕の態度を露わにしている彼女と比べ、余裕綽々といったキュルケの顔には笑みが浮かぶ。
 怪しげな雰囲気を放ちながら何処か他人を小馬鹿にしているような嘲笑にも似たソレを見て、ルイズは顔を顰める。
 ルイズとキュルケ。この二人の仲が悪いという事は、魔法学院の中では知らない者の方が少ないくらいだ。
 何せ先祖代々争ってきたのだ。犬と猿、ウツボとタコの間柄と同じく゛相性の悪い組み合わせ゛なのである。
 それでも新しい世代である二人の仲は何も知れない者が見れば、それ程悪いというものではない。
 どちらかの機嫌が悪くなければ軽く話し合う事はあるし、同じ席でお茶を飲むこともあった。
 少なくとも今の所は、かつてのように恋人を奪い合ったりその果てに殺し合うという事は無くなったのは確かだ。 


 最も、今の状況では殺し合いといかなくても、両者の間で壮絶な口喧嘩が起こりそうな雰囲気があった。
「何しに来たのよ。派手好きなアンタがこんな所に来るなんて」
「別にぃ~?ただチクトンネ街で遊んでたら、眼の色変えた知り合いが旧市街地へ走って行ったからついつい…」
 自分の質問に肩を竦めながらしれっと答えたキュルケに、ルイズは唇を噛みそうになるがそれを堪える。
 ただでさえ厄介な状況に陥っているうえに追い討ちをかけるかの如く現れた今の彼女は、予想外のイレギュラーだ。
 そして彼女の言葉から察するに、どうやら自分と魔理沙を追いかけてここまで来たのだとすぐにわかる。
 軽く驚いた表情を浮かべたままのルイズは、今回の事に彼女が首を突っ込んでくるのではないかと危惧していた。
 魔理沙への返事を一時保留にしつつどう答えようかと思ったその時、後ろから余計な声が聞こえてきた。
「おぉ、誰かと思えばいつもタバサと一緒にいるヤツじゃないか」
「ちょっ…!?あんた!」
 よりにもよってこんな時に空気を読まない魔理沙の発言に、ルイズは血相を変える。
 いくらなんでも自分とキュルケの間に流れる雰囲気を察せれると思っていたが、全くの期待外れであった。
 黒白に「ヤツ」と呼ばれたキュルケは笑みを崩さないものの、その体から発する気配に変化が生じる。
 今まで穏やかだったそれに、弱火の如き僅かな怒りが混じり込む。
 魔法は使えないが、メイジであるが故に相手の魔力を感じられるルイズは思わず舌打ちしたくなる。無論、魔理沙に向けて。
 霊夢が消えたうえにこれから彼女を捜そうという時にキュルケが絡んでしまうと、もはやどうしたら良いか分からなくなってしまう。
 それを避けようとしていた矢先に魔理沙の言葉である。舌打ちどころか鞭打ちでもしてやりたい欲望に駆り立てられる。
 生憎にも鞭を持っていないのでしたくてもできないが、場違いな発言をした黒白に怒鳴る事はできた。

「アンタ、この場の空気も読めないの!?わざとアイツを怒らせるような事言って!」
 今まで堪えていた分も合わせて怒鳴ったルイズであったが、魔理沙は涼しげに対応してくる。
「いやぁー悪い悪い、名前は覚えてたし悪気は無かったんだがなぁ」
「どこが「悪気は無かった」よ?さっき喋った時に嬉しそうな表情浮かべてたじゃない」
 キュルケを「ヤツ」と呼んだ時の彼女の顔を思い出しながら、ルイズは言った。
 痛い所を突かれたと感じたのか、魔理沙は左手で頭を掻きながらその顔に苦笑いを浮かべてしまう。
 しかしそこからは反省の色が全く見えず、ルイズは歯ぎしりしそうになるのを抑えつつ怒鳴り続ける。
「大体ねぇ、今からレイムを捜そうっていう時に何で真面目になろうって思わないの!?」
「それはお前が、ここら辺の面白そうな話を知ってると思ったからさ。実の所霊夢よりも、そっちの方が気になってるんだぜ?」
「…~っ!アンタってヤツはホント…」
 悪びれることもなくそう言い放った魔理沙にキツイ一発でもかましてやろうかという時であった。
 突如二人の間に挟まれるようにして、キュルケが話に割り込んできたのである。

「ねぇねぇ、あの紅白ちゃんが消えたってどういう事かしら?何か気になるんですけど?」

 その言葉に応えようとした瞬間、相手が誰なのか気づいたルイズは目を見開いてサッと口を止めた。
 右手で口を押えたものの直前「あっ…!」と小さな声が漏れてしまい、その様子を見ていたキュルケはニヤニヤと笑う。
 まるで相手の言質を取った悪徳商人が浮かべるようなそれを見せながら、彼女はゆっくりとルイズに近づいていく。
 意味深な笑みを浮かべて近づいてくる同級生にルイズは後退ろうとするが、相手の足の方が速かった。
 後ろへ下がろうとする前にゼロ距離と呼べるほどまでに近づいたキュルケは、ルイズを見下ろすような形で口を開く。
「そういえば…貴女達をチクトンネ街で見た時、あの娘の姿は無かったわね…―――――何かあったの?」
「そ、それをアンタに言う義務が何であるのよ。普通はな、無いでしょうが…!」
 いつも詰め寄られる時とは違いあまりにも距離が狭いため、ルイズは言葉を詰まらせながらもそう答える。
 それに対しキュルケはただただため息をつくと、今度は魔理沙の方へ視線を向けた。


「お、この私に質問かな?」
「まぁ、そうね。普通の子供なら簡単と思える質問だから…正直に答えてくれる?」
「あぁ良いぜ?何でも言ってみな」
 キュルケが質問をする相手を変えた事にルイズは戸惑いを隠しつつ、面倒事にしないで欲しいと心の中で魔理沙に願う。
 ここで今の状況を全部知られてしまえば、赤い髪の同級生はなし崩し的に自分から巻き込んでくるだろう。
 常に面白い事を探求し一日一日を情熱的に生きる彼女なら、絶対的な興味を示すことは間違いない。
 それ程までに自分と霊夢たちが解決するべき゛異変゛は非日常的であり、色んな意味で壮大なのである。 

 しかしルイズからしてみれば、その゛異変゛はできるだけ誰にも知られたくないものであった。
 一部の人間にはある程度話していたが、それでも最低限自分と霊夢たち幻想郷の者たちだけで解決しようと決めていたのである。
 もし異変とは無関係な人間にこの事が知られてしまえば、今以上に面倒な事になるのは目に見えていた。
(素直に教えるとは思えないけど、頼むからキュルケが絡んでくるような事言わないで頂戴…!)
 そんな事を必死に願う彼女を他所に、魔理沙とキュルケの話は続く。

「じゃあ聞くけど、あの紅白ちゃん…もといハクレイレイムは何処に行ったのかしら?」
「別にどうって事無いぜ?ただ昼食先のレストランでルイズと口論した霊夢が勝手にいなくなっただけさ」
 ついに始まったキュルケの質問にしかし、魔理沙はあっさりと嘘をついた。
 どうやらあまり面倒事にしたくないのは彼女も同じらしく、薄い笑みを浮かべて疲れたような表情を作っている。
 しかし、微妙に勘の鋭いキュルケがそんな嘘を簡単に信じる筈もなく、怪訝な表情を浮かべて口を開く。
「本当にタダの喧嘩なのかしら?チクトンネ街を走っていたこの娘は大分必死な顔してましたけど?」
 すぐ傍にいるルイズの頭を指差しながら、尚も質問し続けるキュルケに対し、魔理沙は肩をすくめて言った。
「まぁあの時のコイツも霊夢も相当イラついてたからな、あの後冷静になって怒りすぎたと思って走ってたんだよ」
 同居人である私はその後をついていっただけさ。最後にそんな言葉をつけ加えてから、これで良いかと言わんばかりに肩をすくめる。
 二度の質問をしたキュルケは三度目を行わず、はぁ…と短いため息をついた。 
「そう…じゃあ単なる喧嘩で、貴女達はこんな辺鄙な所へ来たってワケかしら?」
「結果的にはそうなったな。もっとも、こんな所を知らなかった私としては良い勉強になったよ」
 口から出る言葉に落胆の色を隠したキュルケに向けて、魔理沙はキッパリと言い切る。
 二人に挟まれる形でお互いの様子を見ていたルイズはキュルケの方を睨みつつも、心の中で親指を立ていた。
 無論、向ける相手は自分の後ろにいる魔理沙だ。

(ナイスよマリサ!アンタ、やればできるじゃないの)
 口に出せはしないが、うまい事誤魔化してくれた黒白にとりあえずの感謝を述べる。
 色々と面倒事が片付き、学院に帰ったらしつこく聞かれるかもしれないがそれは後で考えればいい。
 今回の異変を解決する霊夢ならどんなに問い詰められようが、真実を教えることはないだろう。
 そして霊夢や自分程とも言えないが、自分のたちの秘密を教えたくないのは魔理沙も同じなのは違いない。
 例えもう一度聞かれたとしても、今の様に誤魔化してくれるだろう。
 先程までならそう思えなかったが、キュルケのやりとりを見た今なら信じられるとルイズは思っていた。
 後は突然のゲストを丁重に返して霊夢を見つければ、事態は収束するに違いない。
 狸の皮算用とも言える脳内での作戦会議に満足していたルイズはふと魔理沙に肩を叩かれた。
 まるで繊細過ぎるガラス細工を扱うかのように叩かれた彼女はどうしたのかと思い、振り返ってみた。

 後ろに控えていた魔理沙は薄らとした笑みを浮かべながら、右目だけを忙しく瞬かせている。。
 金色の瞳に見つめられているルイズは一体何なのかと疑問を覚えたが、それは一瞬で解消されることとなった。
 先程まで魔理沙を見つめていたキュルケは落胆しているせいか、目を瞑ってため息をついている。
 その隙を狙った彼女は瞬きを使い、ルイズにある事を伝えているのだ。
 最初はそれに気づかなかったルイズだが、魔理沙の笑みを見た途端に彼女の言いたいことが分かったのである。
 彼女はある要求をしていたのだ。本人曰く霊夢よりも興味が湧くという゛面白そうな話゛を聞きたいが為に。

 うまくいったら、さっき言ってた噂とやらを教えてもらうからな――――

 言葉を出せぬ今の状況であっても、魔理沙は自分の興味が向くモノに興味津々のようだ。
 無言の眼差しからそれを読み取ったルイズは目を細めながらも、前向きな答えを出してみようかと考えていた。
(まぁ、キュルケを追い払った後で色々と聞かれそうだけど…どうせなら霊夢を捜しながらって条件でも出そうかしら?)
 後ろの魔法使いにどんな返事をよこそうかと思っていた時、絶賛がっかり中のキュルケが話しかけてきた。
「あぁ~あ、期待して損しちゃったわ。アンタらの喧嘩如きでこんな所へ来る羽目になるなんて…」
「…そう思うのなら早く学院に帰ったらどうよ?アタシたちはレイムを見つけたら帰る事にするから」
「アンタとあの紅白の喧嘩は見れるものなら見てみたいですけど…確かに、もう帰らないと夕食を食べ損ねてしまうわね」
 これ幸いと言わんばかりに畳みかけるかの如くルイズが囁く、それに従うかのような彼女は言葉を返す。
 もしかすると「面白そうだからついていくわ」という言葉が出てくるかと思っていたが、そうならなかった事にルイズは安堵する。
 本心はどうなのか知らないが、何かあれば必ずからかってくるいつものキュルケは鳴りを潜めている。
 逆にいつもより大人しい分何を考えているのか不安であったが、それは杞憂で終わって欲しいと願っていた。
 このまますぐに帰ってくれれば、面倒な事がもっと面倒な事態にならないで済むのだから。

「じゃあ私たち、これからレイムを捜しに行くから…ほら行くわよマリサ」
「出来れば置いて帰りたいが、まぁ今回は探検ついでに付き合ってやるぜ」
 いつまでも自分を見続ける同級生にそう言って、ルイズは旧市街地に入ろうとする。
 そして、さっきの瞬きで伝えた約束を忘れるなと言いたげな事を呟きながら魔理沙もそれに続く。
 一方のキュルケは完全に興味を失ったのか、去りゆく二人に向けてただただ左手を振っていた。
 ルイズの考えている通りにいけば、傍迷惑な同級生は真っ直ぐ学院に帰ってくれるだろう。


 しかし、良い事が二度も続けば三度目もまた良い事になるという保証は無い。
 幸運が連続で訪れた時、それを帳消しにするほどの不幸が降ってくるのだ。

 サプライズ的な危機を乗り越え、消えた使い魔を捜しにルイズは旧市街地へと踏み込み―――
 知り合い捜しよりもこの場所を調べつくしたい衝動に駆られた魔理沙もまた、快調な足取りでもってルイズに続き――――
 自分が想像していたものとは違う現実に、一人ガッカリしていたキュルケがさて帰ろうかと踵を返す―――その時であった。


 歩き始めたルイズたちから約五メイル先にある雑貨屋だった建物の入り口である、大きな木造ドア。
 雨風に長年晒され、もう取り換えられる事の無いであろう両開きのそれ。
 ここへ入り込んだルイズと魔理沙にとって、特に目を見張るものでは無い廃墟の一部。

 瞬間――――そのドアが物凄い音を立てて、勢いよく吹き飛んだ。
 まるで上空に浮かぶ戦艦から放たれた大砲の弾が、木の小屋に直撃したかのような轟音が辺りを包み込む。
 突然の事と音に二人は大きく体を震わせてその場で立ち止まり、背中を見せていたキュルケも何事かと振り返る。
 内側から吹き飛んだドアは土煙を上げながら旧市街地の通りを滑り、二メイル程進んだ後にその動きを止めた。
 碌な清掃が行われていない分土煙の勢いはすさまじく、ドアのある場所を中心に空高く舞い上がっていく。
 夕日の所為で赤く見える土煙を凝視しながらも、体が固まったルイズはぎこちない動作で魔理沙に話しかける。
「何よ…?アレ…」
「……さぁ、何なんだろうな?」
 対する魔理沙も驚いているのか、目を丸くしたままじっと佇んでいる。
 全く予想していなかった事に二人の体は動かず、まるで石像になったかのように静止していた。
 しかしそこから離れたところにいたキュルケだけは驚いただけで済んだのか、ルイズたちの方へゆっくりと近づいていく。
 何が起こったのかと言いたげな表情を浮かべて近づく彼女であったが、ふとその足が止まる。
 キュルケだけではない、呆然としていたルイズと魔理沙の二人も、何かに気づいたかのような表情を浮かべる
 あんなに勢いよく舞い上がった土煙はあっという間に薄くなり、旧市街地に静寂が戻り始めていく。
 そんな中、三人は煙越しに人影を見つけたのである。

 地面に倒れたドアの上に尻餅をつくかのような姿勢のまま、人影は動かない。
 すぐ近くにいるルイズたちの目にもぼんやりとしか映らず、誰なのかすらわからないでいる。
 そして二人よりも遠くにいるキュルケの目には単なる黒いシルエットにしか映っていないのだ。
 一体何なのだろうかと彼女は訝しむが、それは以外にも早くわかる事となった。

 突如ドアが吹き飛び、ルイズたちの視界を遮るかのような煙が舞い上がって十秒が経過しただろうか。
 最初は勢いよく舞ったものの、徐々に薄くなっていった砂煙は初夏の風に煽られて一気に消し飛ばされてしまった。
 それによって単なるシルエットにしか見えない人影は姿を隠し切れず、三人の前にその正体を曝け出す。
 直後、ルイズと魔理沙の二人は目を見開きアッと驚いた。 

 人影の正体。それは、一人の少女であった。
 土にまみれても尚華やかさを失わない、赤く大きなリボン。
 汚れてはいるが確かな清々しい白色の袖は、服と別離している。
 黄色のリボンに控えめな白のフリルを飾った赤い服は彼女が巫女である事を示す、証拠の一つ。
 ハルケギニア大陸では滅多にお目にかかれない黒髪は、土を被ってもその艶やかさを保っていた。

 ルイズと魔理沙、そして二人の後ろにいるキュルケは知っていた。
 何せ黒髪の少女の名を、三人はすっかり頭の中に刻み込んでいるのだから。
「……レイム!」
 そして我慢できないと言わんかのように、ルイズがその名を叫んだ。
 少し大きな声であった為か近くにいた魔理沙は勿論、ある程度離れたところにいたキュルケの耳にも入っていた。
「レイム…?じゃあアレって…」
 キュルケはその声を聞きながらもまた歩き始め、ゆっくりと二人の背後へ近づいていく。
 一応気づいてはいたのか、魔理沙は首を少し後ろへ動かして歩いてくるキュルケの方へ視線を向ける。
 自分の方へと目をやった彼女に気づき、少しだけ荒くなった呼吸を整えつつキュルケは話しかけた。
「何だか知らないけど、アンタたちの捜してた紅白ちゃんが見つかったわね」
「私としてはもう少し隠れてもらいたいと思ってたんだがな…?」
 キュルケの問いに対して魔理沙は、知り合いが見つかった喜びよりも、楽しみを奪われたかのような落胆の言葉を返した。
 さぁこれから捜しに行こう、という時にこの展開だ。さしもの魔理沙もこれにはガッカリせざるを得ない。

 そんな二人のやり取りを尻目に、ルイズはもう一度口を開いて声を上げようとした。 
 だがその前に、゛レイム゛と呼ばれた少女は無表情な顔をゆっくりと、彼女たちの方へと向け始める。
 まるで老朽化しつつある歯車のようにゆっくりとした動きに、ルイズは怪訝な表情を浮かべた。
「レイム…?」
 訝しむ声に気づいて他の二人もそちらを見やり、何か様子がおかしい事に気が付く。
 まさか怪我でもしているのか?゛レイム゛を見つけて最初に声を上げたルイズがそう思った時だ。

 ゛レイム゛と呼ばれた少女は、五秒もの時間を使って動かした顔を三人の方へと向け終える。
 夕焼けに黒髪を照らされ、尻餅をついたままの彼女は、間違いなく三人が知る博麗霊夢そのものだ。


 そう、霊夢そのものであった。



 鮮血のような、赤色の瞳を爛々と光らせている以外は。





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