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第35話 黒幕




 「いいか、絶対あいつらを通すな!」
 「スクラム組めっ! 攻撃は火力担当のメイジに任せて、我々は防ぐことに専念しろっ!」

 再びぶつかり合う二つの軍。だが、先とは大きくその様相が変わっていた。
 片方は闇雲に前進するのみ。
 片方は壁を作ってその押し込みを受け止め、時折後方から飛ぶ火や風の魔法で相手を打ち据えようとするのみ。
 圧倒的な大軍の側が壁を作って受けに回っているため、戦線は完全に膠着状態になった。
 その状態を見て取って、小声で何かを言う人物がいた。

 「思ったより立ち直るのが早いわね……これは陛下に、少し予定を早めてもらわないと駄目かもしれないわ」

 戦線の最後方で、この戦いの黒幕ともいえるシェフィールドは、懐から取り出した鏡に向かって二言三言何かを囁き、その答えが返ってくるのを聞いて、にんまりと微笑んだ。

 「さすがは陛下。もう準備は万端ですか。では、いよいよ最終幕の幕開きですわね。なら」

 眼前の死者の軍勢を見て、彼女はいう。

 「派手に戦い、そして華々しく滅んでください……思ったより、こちらの消耗も大きかったみたいですし」

 彼女の視線は、軍勢から手元の指輪に移る。
 神秘の力を秘めていた指輪は、色がくすみ、今にも砕け散りそうな有様であった。







 虚無の魔法は、原則的に極めて詠唱が長い。そしてそれは、呪文の力に比例する。
 ティファニアが唱えていた呪文はそれほど長大なものではなかったが、戦場という環境下では、それはただ唱えるよりも遙かに長い時間を要したように、その場にいた全ての人々に感じられた。
 だが、それでも、終わりの時は来る。
 緊張のあまりたどたどしく、ゆっくりであっても、ティファニアの唱えていた呪文は、膨大な力を練り込みつつ完成した。
 そして最後の、解放のルーンが唱えられる。



 「――ディスペル!」



 解き放たれたのは、『解放(ディスペル)』。四大、先住、その理を問わず、ほぼ全ての魔法を瞬時に消滅させてしまう、対魔法戦絶対の切り札。
 そしてそれは、水の精霊の秘宝の力に対してももちろん有効であった。
 最前線の戦士にとって、それは文字通りの『奇跡』であった。
 不可視の、それでいて何かを感じる『力』が、後方から前方に掛けて広がると同時に、眼前の軍勢が、文字通りに『魂を抜かれて』倒れ伏していった。
 まるで、自分が既に死んでいることを思い出したかのように、呆然とし、そして何かを悟ったかのように、静かに、自然のままに倒れていくのだ。

 「――おお」
 「……奇跡だ!」

 口々に、そんな言葉があふれ出す。
 そしてその力が広がりきった時、眼前の軍勢は、最後方の数十名を除いて、全てが死体に還っていた。
 それを見つめていた兵士達の視線は、自然に自軍の後方へと向かう。
 そこには、『トリステインの虚無』と、その使い魔に支えられて、疲労困憊しつつも立つ、我らが『アルビオンの虚無』の姿があった。
 距離があるため、その姿は豆粒のように小さかったが、光り輝く金の髪と豊かな胸は見て取れた。
 やがて、



 うぉぉぉぉっ!
 我らがアルビオン、我らが虚無!
 始祖の祝福に栄光あれ!
 セント・ティファニア! 我らの姫に栄光あれ!



 爆発的な歓声が広がる。その全ては彼女を肯定する声。
 ティファニアがエルフの血を引くもので有るという事など、もはや完全に忘れ去られているかのようであった。
 そしてティファニアは、

 「ほら、みんながあなたを認めてくれているわ」
 「ここは頑張って、皆さんに答えてあげてください」

 戦場を見渡せるように急ごしらえで設えられた輿の上で、ティファニアは疲労した体を、どうにかルイズとなのはに支えられて立っていた。
 本当ならこのままへたり込んでしまいたい。でも、それが許されないことくらい、さすがにティファニアにも理解出来た。
 全身からなけなしの力を絞り出し、何とか眼下の兵士達に向けて、手を振った。



 ――ティファニア!
 ――ティファニア!
 ――ティファニア!
 ――ティファニア!



 同時にわき上がる、ティファニアコール。三万を超す兵士達の歓声を受けて、さすがにティファニアも限界だった。

 「も、もう駄目です~」

 不死者一万を一撃で消し去ったとは思えない様子でへたり込むティファニア。
 ルイズ達も、そんな彼女を支えつつ、彼女を休ませるように、輿を支えていた兵士達にお願いする。
 そしてそんな一連の流れを見極め、満を持してウェールズは、『拡声』の魔法を併用して全軍に言葉を響かせる。



 「今、精霊の力を悪用し、邪法に身を落とした反逆者の軍勢は、正当なる虚無の力、始祖の祝福によって退けられた! 我々は始祖の栄光を背後に、奪われし首都を、今開放する!」



 その宣言に、再び上がる歓声。



 「隊列を再編せよ! 今再び我らが白の宮は正当なる王家の元に戻る!」

 その言葉を受け、乱れていた軍勢がその陣容を整えはじめる。
 存外に早く陣は整い、一時は大混乱に陥っていた軍勢は、再び秩序ある姿を取り戻した。







 ――その瞬間であった。







 ひゅるるるる、という、何かが風を切る音が頭上に複数響き渡った。
 その直後に巻き起こる、どごおおおんという音。
 それはさんざん聞き慣れた、大砲の炸裂音であった。
 幸いか意図的か、そのいずれもが軍勢の外側に落着し、被害は全くない。
 だが、間違いなく、アルビオン軍は敵の攻撃を受けた。
 しかも今までとは違う、火砲による攻撃。
 眼前の首都には、そのような様相は見られない。
 ならば、どこから。

 ……答えなぞ、一つしか無かった。

 「う、上だ!」
 「……か、艦隊……?」
 「くそっ、下からだと所属旗が見えねえ、どこの軍だ!」

 兵達が混乱する中、さすがに将であるものは、その軍勢の正体に気がついていた。

 「あれは……ガリア両用艦隊! この事件の背後に、ガリアが……あの狂王がいたというのか!」

 ウェールズの口から、魂切るような言葉が漏れる。

 「くっ、やられた……内乱に外憂を考慮するのは当たり前だというのに」

 あまりにも反乱側が優勢すぎたために、うかつにもその可能性を見落としていた。
 普通反乱側に外部の手が加わるのは、反乱側が劣勢の時である。足りない武力や補給を補うために外部と手を結ぶのだ。逆に言うと、反乱側が優勢な時に外部と手を結ぶのは全く理がない。
 せっかく奪い取った政権に外部から干渉されるからだ。なので反乱側優勢の時は、反乱側はむしろ外部からの干渉を防ぐように動く。それが常識である。
 だが、もし――そもそも反乱そのものが、外部からの干渉で起こされたものだったとしたら?
 そう、たとえ反乱側優勢であっても、外部の手が入ることは充分にあり得る。そしてその場合、事実上詰みといっても過言ではない。劣勢だった王党側が巻き返せたのも、友好国であったトリステインの援助という、いわば外部勢力の引き込みに成功していたからだ。
 そして再び優劣が逆転したが故に、全ての黒幕が、今こうして現れたというところであろう。

 そして、首都ロンディニウムと軍勢の、ちょうど中間を占めるように、圧倒的な数の艦隊がこちらを睥睨するかのように布陣した。

 ……勝ち目は、無かった。

 首都攻略、そして平原での戦いという事で、こちらは航空戦力を全く用意していなかった。まさかここでこんな大軍の航空戦力に襲われるなど、全く想定の埒外にあったのだ。
 結果として制空権を完全に抑えられている今、こちらの艦隊が押っ取り刀で駆けつけてきても、その前に上を取られているこちらは全滅を通り越して壊滅する。
 艦隊の砲門が開かれれば、一斉射でこちらの負けが決まるだろう。

 だが、艦隊は不気味なほどに動こうとはしなかった。







 と、わずかにその艦隊に動きが見られた。
 攻撃ではない。
 一隻のフネが、しずしずと降下を始め、こちらの正面を見るかのような位置で停止した。
 そのフネは。



 「ガリア両用艦隊旗艦、シャルル・オルレアン、だと……」

 しかもそのマストに掲げられているのは、間違いなくガリア王旗。
 それは今このフネが御座船……王の座する船であるという事を表している。
 そして、その人物は、その甲板上に、何一つ恐れることなく、堂々とその姿をさらけ出した。

 日に照らされる、ガリアの貴髪たる青い髪をたなびかせて。

 そして、王の言葉が発せられた。







 「ようこそ、この喜ばしい日に。教皇聖下の御出座はこちらとしても予想外であったが、それはむしろうれしい誤算であった。なぜなら」



 そしてアルビオンはさらなる予想外の衝撃を、この狂王と称される人物から叩きつけられる。







 「今ここに、余を含めて、四の虚無が一堂に会したのだからな」








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