あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

ルイズと無重力巫女さん-60-a





 数十年ほど前までは人が訪れていたであろう、公園と呼ばれていた広い敷地。
 今はベンチすら取り外され、放置された雑木林や雑草がこの地を支配している。

 もうすぐ真夏だというのに何処か薄ら寒い何かを漂わせており、人が近寄らないであろう環境を作り上げている。
 敷地内に吹く風は市街地と比べれば若干涼しいが、その風に揺らされている林や雑草が不気味な音を奏でていく。
 きっと三流劇団が演じるホラー劇よりも怖いと感じてしまうそんな場所のあちこちに、誰かがいた痕跡が色濃く残っていた。
 一見すれば良くわからないが、目を凝らしてみれば目が不自由な人以外にはわかる程の痕が付いている。
 碌に整備すらされず、好き放題に伸びている林の木々には何本もの針が刺さっている。
 放置された自然さが漂う雑木に食い込んだ針は鈍い銀色を放ち、あまりにも不自然すぎる空気を醸し出していた。
 雑草が生い茂っているはずの地面にも不自然で小さなクレーターがいくつも出来ているが、モグラの仕業ではないだろう。
 小さな爆竹を地面に埋め、何らかの方法で爆発させれば作れそうな穴は、どう考えても動物の手で作れる代物ではない。
 何故そう言い切れるのかといえば、答えはすぐにもでも言えるだろう。

 雑木林に針を投げつけ、地面に小さなクレーターを作ったのはたった一人の人間。
 このハルケギニアで異国情緒漂う衣服を身に着け、赤みがかった黒い瞳と黒髪を持つ十代後半の少女。
 右手に持った数本の針で、まだまだ自然を傷つけようとしている者は、博麗霊夢という名を持っていた。


「…よっ!」
 霊夢はその口から小さな掛け声を上げ、右手に持った針を勢いよく投げつける。
 本来は妖怪退治の為に作られた銀色のソレは風や重力に捕らわれる事無く、真っ直ぐに飛んでゆく。
 薄い布きれから硬質的な人外の皮膚まで貫ける先端部分が向かう先には、これまたもう一人の゛霊夢゛がいた。
 そっくりさんというレベルでは例えられない程似すぎているもう一人の霊夢(以降、偽レイム)は、こちらへ向かってくる針に対しその場でしゃがみ込む。
 腰を低くした姿勢になった事で彼女の顔に突き刺さっていたであろう針は標的を刺すことが出来ず、空しくもその頭上を通過した。
 標的に避けられた針は投げられた時と同じスピードのまま、偽レイムの背後にあった雑木に突き刺さる。
 刃物が通る程度の硬い物に刺さった時の様な音が周囲に響いたが、それを投げた霊夢は一向に気にしない。
 それどころか、相手が隙を見せたことを好機だとさえ思っていた。 
 今の彼女は、針を陽動用の囮武器として使っているのだ。一々気にしていたらキリがないのである。
 そして、針を避ける為に腰を低くした偽レイムを叩くための時間を手に入れた彼女は、すぐさま行動に移った。

 ローファーを履いた足で地面を蹴飛ばしつつ二、三メイル程もあった相手との距離を一気に詰める。
 自身の力である『空を飛ぶ程度の能力』でもって地面から数サント程浮き上がり、ホバー移動の要領で偽レイムへと近づく
 その時になって、隙を作ってしまった事に偽者が気づいた直後、既に本物は二回目の攻撃を行う直前であった。
 相手の懐へと入った霊夢はその場で瞬時に着地、次いで息つく暇もなく右足を振り上げる。
 風を切り裂く鋭い音と共に振り上げられた右足の爪先は、偽レイムの顎を打ち砕かんとしていた。

 しかし、甘んじてそれを受け入れる気は無いのか、すれば偽物ではあるが同じ姿を持つ相手の動きを先読みしていたのだろうか。
 偽者は自身の顎に目がけて迫ってくる霊夢の右足を、咄嗟に動かした右手で見事に受け止めたのである。
 本来なら相手の顎を蹴り上げ、そのまま空中で一回転する筈だった霊夢は勢いに任せて左足も上げてしまい、結果…
「わっ!」
 口から素っ頓狂な声を上げて宙に浮いてしまった彼女は、背中から地面に落ちてしまう。
 まだ地面に残っていた雑草がクッションとなったものの、それに気づいたり背中を襲う微かな痛みに苦しむ暇すらない。
 そんな事をしていれば逆に隙を取られてしまったが為に、その隙を逆手に取った相手の反撃が来るからだ。

 彼女の右足を掴んでいる偽レイムは空いている左手で握り拳を作り、それから力を溜めるようにスッと振り上げる。
 直後、その左手が青白く光り始めると同時に只ならぬ気配が周囲に漂い出した。
 そこから漂ってくる気配は霊夢にとって最も知っている力であり、同時にそれが危険だとも理解していた。
(結界で包まれた拳で殴られるとか、冗談でもお断りよ!)
 足を掴まれた彼女は心中で呟きつつも小さな舌打ちをし、偽レイムに掴まれていない方の足に力を入れる。
 ピアノ線で引っ張られているかのように指先を天へ向けた左側のソレを、霊夢は勢いよく動かし始めた。
 まだ動く足がある事に気が付いた偽レイムは攻撃を中断してそちらの方へ目を動かした瞬間、キツイ一撃が彼女のこめかみにヒットした。
「ぐぅ!」
 まさかの攻撃に偽レイムは痛みに悶える声を口から出して、右足を掴んでいた手の力を緩めてしまう。
 とりあえず無茶苦茶に動かした左足が偶然にも相手に直撃し、霊夢の右足は無事解放された。
 一撃をもらった偽者が右のこめかみを両手で押さえながらよろめいている間に、すかさず体勢を整えて距離を取る。
(今のは惜しかったかしらね。もう少しで蹴り飛ばせるところだったけど)
 針やお札が入っている懐に手を伸ばしつつ、次はどう仕掛けようか策を練っていた。

 戦い始めてから既に五分近くが経過したが、偽レイムがどのような戦い方をするのか霊夢は既に把握していた。
 偽者ではあるがお札や針と言った飛び道具を持っていないのか、基本は接近戦を仕掛けてくる。
 使用してくる体術などは霊夢本人が覚えているものである為、先を読んで回避する事自体は容易い。
 しかし、相手の方もこちらと同じなのか先程の様にカウンターを取られてしまうのだ。
 そして霊夢自身も相手にカウンターを仕掛けるので、ちょっとした無限ループになっていた。
 遠距離からお札や針などを投げても簡単に避けられてしまい、今に至るまで決定打を与えられないでいる。
 スペルカードという手もあるが、持ってきている枚数が少ないうえ威力が低めのカードばかりという始末。

 そして偽レイムの回避能力と゛光る左手゛から繰り出される攻撃の威力を直に見ている霊夢は、どう戦おうか慎重に考えていた。

 自分と同じ回避能力を持った相手ならば、今持ってるスペルで弾幕を放っても全て避けられるのはこの目で見なくともわかる。
 ならば近づいてボコボコすれば良いのかもしれないが、今の彼女はそれを行う事にある種の躊躇いを感じていた。
 別に自分と同じ顔だから殴れないし蹴れないというナルシスト的な理由では無く、偽者が持つ゛光る左手゛が原因である。
(何にしてもあの結界包みの手は厄介ね、あんなの一発でも喰らったらただじゃ済まないわ)
 霊夢は相手との距離をジワジワと離しつつ、あの左手から放たれる攻撃の凄さを思い出す。



 それはこの戦いが始まって直後の事。
 突如跳びあがった偽レイムを返り討ちにせんと勢いよく針を投げつけた時であった。
 跳ぶ以前に光っていた左手をサッと胸の前に突き出し、霊夢の放った四本の武器を゛弾いた゛のである。
 普通ならば突き出した手の甲にグッサリと突き刺さっていた針は勢いよく吹き飛び、見失ってしまった。
 飛んで行った針に霊夢がアッという声を上げて軽く驚いた時、偽レイムが彼女の目の前に着地していた。

 そして胸の前に出していた左手を振り上げたのが目に入った瞬間、彼女は反射的に後ろへ下がった。
 青白い光を帯びたその手が勢いよく振り下ろされ、まだ昼方にも関わらず霊夢の身体を青白く照らす。
 下がっていなければ唐竹の如く両断されていたかもしれない霊夢は、直に感じたのである。
 あの手の光は非常に危険だ、下手に当たれば碌な目に遭わない…と。

 そうして下手に近づけず、ただイタズラに針とお札を消費しながら今の現状に至る。
 これからどうしようか。霊夢がそう思った時、ふと相手の様子が都合の良い事になっているのに気が付く。
「う゛っ…あぅ…」
 先程こめかみにキツイ一撃を貰った偽レイムは頭を左手で抱えながらふらついており、回復する様子は無い。
 その姿はまるで大音量のノイズで耳元で聞かされたかのように、うめき声を上げて苦しそうにしている。
 左手の光も水を掛けられた焚き火の様に消えており、 今ならば追撃を行っても返り討ちに会う可能性は少ないだろう。
(これぞ…正に好機、といったところね)
 心の中で嫌な笑みを浮かべつつ、霊夢は懐から一枚のスペルカードを取り出した。
 相手との距離は約五メイル程度、やろうと思えば瞬間移動で後ろから殴りかかる事もできる。
 しかし、後ろへ回った途端に襲い掛かられては元も子もないのでこのままキツイ一撃でトドメを刺すのがベストだと判断した。
 取り出したカードが丁度欲しかったモノだと確認した後、霊夢は軽い深呼吸を行いつつも今に至るこれまでの経緯を軽く思い出す。
 ただルイズと一緒に街へ出かけただけで、このような事態になってしまったのは流石の霊夢も予想していなかったのである。
(今日は色々とあったうえに、その大半が未だ解けぬままなんて納得いかないにも程があるわ)
 自分の身に降りかかった不条理すぎる謎に憤りを感じつつ、自分の偽物へトドメを刺すべくスペルカードを頭上に掲げた。

 まるで断頭台の上に立った処刑人のように振り上げられた腕には、一枚の薄いカード。
 この世界に存在するどのカードよりも特徴的なソレは、正しく姿を変えたギロチンの刃そのもの。
 無数の罪人たちの命をただ無意識に狩り続けた鉄の塊であったそれは、今まさに一人の罪人を裁こうとしている。
 そう、処刑人の立場となった霊夢にとって自分の偽者など罪人として相応しい存在であった。
「このまま放置して下手な事されたら風評被害もいいとこだし、さっさと滅されなさい」
 あの世へ旅立つ罪人へ冷たすぎる言葉を送り、彼女はカードに記された名前を告げる。
 それこそが死刑宣告。本物の処刑人よりも冷たい霊夢の声が、周囲に響き渡った。

「霊符…『夢想妙珠』」
 頭より上にカードを掲げながらそう言った途端、周囲の空気が一変する。
 まるで霊夢の力が体内から外へ排出されたかのように、霊力の波が彼女の周りを包み込む。
 それに気づいてか、まだ頭を押さえている偽レイムがハッとした表情を浮かべてそちらの方へ目を向けた。
 宣言者である巫女を包む不可視のベールはやがて彼女の頭上へと舞い上がると、その姿を作り始める。
 時間にすれば二秒にも満たないあっという間の速さでもって、霊力の塊は数個の色鮮やかな球体へと姿が変化した。
「無駄な時間を割きたくないし、これで終わりにさせて頂戴」
 大小様々なカラーボールとなった霊力を背後に控えさせた霊夢は、ようやく立ち直った偽レイムへと言い放つ。

 その瞬間であった。球状の霊力が偽レイムへの突撃を始めたのは。
 先程まで投げていたお札や針に比べれば速度は遅いものの、そのスケールと威力は明らかに桁違いだろう。
 霊夢が持つスペルカードの中でも比較的接近戦に優れた虹色の光弾で形勢される弾幕は、確実に偽者へと飛んでいく。
 一方の偽レイムは迫りくる光弾に身構えつつもダメージが残っているのか、僅かだが足元がふらついている。
 今の状態なら最初の様な跳躍やできないだろうし、使えたとしても瞬間移動をするには遅すぎる。
 同じくして霊夢も身構えていたのだが、自分の勝利が確実なものになったと感じていた。
 今に至るまで幾つもの戦いを経験してきた彼女がそう思うのも、無理はないだろう。
 だが、事態は突如として彼女が予想していなかった方へ動き出す。

 あと一メイルほどで光弾が当たろうとした瞬間、偽レイムはその両足で地面を蹴った。
 ほんの数分程度の戦いであったが、霊夢が見た限りでは今まで跳躍するときに同じ動作をとっている。
 しかし、窮地に立たされた偽者はバネの様に上へ跳び上がる事はしなかった。
 勢いよく地を蹴った彼女の向かう先には、迫りくる光弾と―――――既に勝ったつもりでいる霊夢の姿。


 そう、偽レイムは地面を蹴って前進したのである。
 自分の命を刈り取ろうとする相手へ目がけて。


「ウソッ!?」
 一体何をするのかと思っていた霊夢は、予想もしていなかった事だけに思わず目を丸くしてしまう。
 そして、その予想もしていなかった偽レイムの行動が、戦局を大いに変えたのだ。

 地面を蹴った時の衝撃を利用して勢いよく前転した瞬間、偽レイムの頭上を色とりどりの光弾が通り過ぎる。
 先頭の巨大な光弾が先程まで偽レイムのいた場所に落ち、盛大な音を立てて爆発した。
 ついで二発目と三発目の光弾も周囲の地面に落ち、最初と同じように爆発する。
 最後尾の方にいた赤く小さな光弾は地面に落ちることはなく、何事も無いかのようにスーッと飛んでいく。

 しかし。何処へと飛んでいくその光弾を、霊夢は見送ることが出来ない。
 何故なら、瞬時に立ち上がった偽レイムが再び左手を光らせて突っ込んできたのだから。
 二人の距離は僅かに一メイル。少し歩けばお互いの鼻が当たってしまう程の至近距離だ。

「ちっ…、中々しつこいじゃないの!」
 一瞬のうちに距離を詰められた霊夢は舌打ちしつつ、地面を蹴って後ろへ下がろうとする。
 本来ならお札や針を取り出していただろうが相手が相手だ、精々悪あがき程度の効き目しかないだろう。
 下手に攻撃をして一瞬で距離を詰められるより距離を取って態勢を整えた方が妥当だと、この時思ったのである。
 しかし…ホバリングや瞬間移動が間に合わないと判断し、跳び上がった事が却って裏目に出てしまう。

 相手が攻撃ではなく様子見を選んだのだと認識した偽レイムは、一気に霊夢との距離を詰めようとする。
 先程と同じように地面を強く蹴の飛ばし、光る左手を突き出した姿勢で突撃してきた。
 まるで剣先の様な形にした指先を向けて飛んでくる姿は、たった一つしか無い命を奪おうとする処刑人の槍。
 その切っ先は赤錆と血でなく、魔はおろか人さえも滅する事の出来るような青白い光に覆われている。
(何よコイツ。さっきの回避といい攻撃方法といい、随分と魔改造されてるわね…!)
 一メイルという短くも長くも無い距離を一瞬で詰めてきた自分の偽者に、霊夢は今になって脅威と感じた。
 自分と同じような弾幕を使えなくとも左手一本で自分を追いつめてくる相手を、彼女は初めて見たのである。
 何処の誰かは知らないが、こんな偽者を送り込んだ奴は余程悪質な人間か格闘好きの脳筋野郎なのだろう。
 もしくは―――――

(今回の異変を起こした黒幕が…ってのなら話が早くて良いんだけど?)

 心の中でそんな事を思った直後、ふと偽レイムの後ろから赤い発光体がやってくるのに気が付いた。
 鞠を二回りほど大きくした様なそれは煌々と輝きながら、物凄い速度でもって二人の方へと突っ込んでくる。
「え?――――げっ…!!」
 発光体の正体が何なのかすぐに気が付いた霊夢は目を見開き、ギョッと驚いてしまう。
 今の霊夢にとってあの発光体は頼もしい存在であったが、あまりにもタイミングが悪すぎた。
「?……あっ」
 彼女の表情を見て偽レイムも気づいたのか、ハッとした表情を浮かべて後ろを振り向いた瞬間――――――



 数十年ほど前までは人が訪れていたであろう、公園と呼ばれていた広い敷地。
 その敷地の一角が突如、小さな爆発音とそれに見合う程の小さな赤い閃光に包まれた。
 霊夢が発動したスペルカード「霊符『夢想妙珠』」によって出現した色とりどりの光弾たち。
 先程偽レイムへと殺到した光弾の中で最後尾にいた赤い光弾が、今になって爆発したのである。
 仕込まれていた追尾機能でもってUターンし、指定された相手の背中のすぐ近くで。
 結果、目標であった偽レイムの近くにいた霊夢自身もその爆発に巻き込まれる事となったが。

(ホント、今日は厄日ね…こんなにも痛い目に遭うなんて)
 偶然とタイミングの悪さが重なった結果、偽者と一緒に吹き飛んだ霊夢はひとり毒づいた。


 ◆


 霊夢が今いる場所とは地対照的なトリスタニアのチクトンネ街で、ルイズと魔理沙は八雲紫と邂逅していた。
 まさかの出会いに二人は霊夢の事を忘れてしまい、知らず知らずの内に足を止めてしまっている。

 軽い会話と喧嘩の後、紫はルイズの方へ向けてとある言葉を送り付けていた。
 それはここで出会ってから初めてになるであろう、かなりの真剣さが滲み出た話題であった。 

「不発弾の様な貴女を、今の霊夢がいる場所へ行かせるのは危険極まりないわ」

 左右を建物に挟まれたそこで、八雲紫はルイズへ向けてそのような事を言った。
 その言葉は彼女との距離がそれ程離れていないルイズの耳にしっかりと入り込んでいる。
「な…ど、どういう意味なのよそれ!」
 敵軍の将兵を爆発する事すらできない不良品と同列に扱われた彼女は、軽い怒りを露わにした。
 霊夢を追っていた二人の前に現れた紫はルイズの態度に良い反応を示しつつ、その言葉に応える。
「言葉通りの意味ですわ。望むときに爆発せず、忘れ去られた時に無関係な人々をその力で八つ裂きにする…無差別な存在」
 それが今の貴女よ。最後にそう付け加え、幻想郷の大妖怪はその目をルイズに向けた。
 先程の様な冷静さとは打って変わって怒りに狼狽える様子を見せ、鳶色の瞳からは憤りの気配を感じられる。
 自分の望む反応を面白いくらいに見せてくれる彼女に対し、紫は心中と顔に笑みを浮かべてしまう。
「…っ何が可笑しいのよ!人が怒ってる最中に笑うなんて!」
「別に?ただ、今の貴女みたいに豹変するような人間は見てて楽しいものがありまして…」
「…っ!?」
 その言葉を聞いた瞬間、ルイズは手に持っている杖を再び紫の方に向けた。
 既に頭の中にまで怒りが浸透し始めている今の彼女は、他人に暴力を振るう事を躊躇しないだろう。
 だが、人形の様に均整の取れた顔を歪ませた少女を前にして、八雲紫は尚も笑みを浮かべ続ける。
 これから起こり得るであろう事態を予測している筈だというのに、他人事のようにルイズをジッと見つめていた。
 一方のルイズも、使えもしない魔法をすぐに放てるようピンク色の綺麗な唇を僅かながらに動かしている。
 並の平民やメイジはともかく、ルイズの事を良く知る者たちならば今の彼女を刺激する様な事は絶対に避けようとするに違いない。

 もはや問答無用。と言わんばかりの空気が辺りを包もうとした時――――

「…あ~…スマン、ちょっと質問よろしいかな?」
 蚊帳の外にいた魔理沙が手に持っていた帽子を頭に被りつつ、その口から言葉を発しする
 誰がどう見ても一触即発と言えた空気の中に横槍が入り、ルイズと紫のふたりは咄嗟にそちらの方へ顔を向ける。
 空気を読めと言われるかもしれない魔理沙であったが、それを気にすることなく紫の方へ視線を向けた。
 それだけで自分に用があると察した大妖怪は、先制を取る様にして魔理沙へ話しかける。
「こんなにも危なっかしい空気の中で私に聞きたいことがあるなんて、きっと余程の事ですわね」
「お前だけが危なっかしいのなら、何があっても私は口を塞ぐ気は無いぜ」
「相変わらず自分勝手な娘ですこと。まぁそういうところはキライじゃ…」
「ちょっとマリサ!何人の間に割り込むような事してるの!」
 唐突な会話が本格的に始まる前に、それを制止するかのようにルイズが叫ぶ。
 少なくともこの場にいる三人の中では気が短い方であろう彼女に対し、魔理沙は落ち着いて対応する。

「ここは落ち着こうじゃないか、これ以上機嫌を損ねて私まで巻き込まれたら大変な事になってしまう」
「何が大変な事よ?人の気も知らないで、ヘラヘラと傍観してる癖に」
「これはヒドイ!…と言いたいところだが…悔しくも図星だな」
「とりあえず形だけでも貴女の心中、察しておきますわね」
 怒りの言葉に苦笑する魔理沙と微笑み続ける紫を尻目に、ルイズは言葉を発し続ける。


「せっかくの休日だっていうのに突然レイムがおかしくなるし、それにそれに…それ…に…」
「――……?それに?」
 怒り狂った牛の群れの如き怒声のラッシュを黒白の魔法使いに浴びせていたルイズの口が、突然その動きを止めた。
 急に喋るのをやめてしまったルイズを見て、他の二人は思わず不思議そうな表情を浮かべてしまう。
 魔理沙に至ってはネジを限界まで巻いたというのに全く動かないカラクリを見たような気分を味わい、首を傾げている。
 それにつられて紫も傾げようとした時、ルイズはその顔にハッとした表情を浮かべた。
 どうした?と彼女以外の二人の内一人が尋ねようとしたとき、一足先にルイズがその口を開けて喋り出す。
 だが彼女が発した言葉の向かう先にいたのは魔法使いではなく、境界を操る程度の人外であった。

「ユカリ、さっきアンタ何て言ったの?」
「……?質問の意味が良くわかりませんわ」
 いきなり閉じてすぐに開いた思えば、出てきたのは即答不可能な質問。
 流石の八雲紫も、これには投げかけられた質問を質問で返すほかなかった。
「ん~と、確か私の魔法がどうたらこうたらっていうところで…」
「えぇと…あぁ」
 相手に杖を向けているルイズの言葉に、紫は何かを思い出したかのようにポン!と手を叩く。
「『望むときに爆発せず、忘れ去られた時に無関係な人々をその力で八つ裂きにする…無差別な存在』―――と言いましたわね」
「…あれ?」
 先程述べた言葉を一字一句間違うことなく喋りなおした紫に対し、ルイズはキョトンとした表情を浮かべる。
 それから五秒もしない内にまた思い出したのか、ハッとした表情を再度浮かべなおしながら口を開く。
「あ…違った。…何だったかしら?その一つ前の言葉…」
 爆発した怒りの所為で一時的に忘れているルイズはそんな事を言いつつ、何とか思い出そうとする。
 だが「一つ前」というキーワードで思い出した魔理沙が、以外にもルイズが忘れていた言葉を口に出した。
「『不発弾なオマエを行かせたら、今の霊夢が大往生』…だったような気がするぜ」
 冗談という名のソースを少し入れた魔法使いの言葉は、ルイズの目を見開かせた。
 もはや紫の言った事とは大分かけ離れているが、それでも忘れていた言葉を思い出させるのに充分だったようだ。
「あ…あぁっ!それよソレ!その言葉だったような気がするわ!」
「良くそれで思い出せましたね。…まぁ思い出せたのなら別に良いのですけど?」
 ようやく思い出せたことに嬉しそうなルイズとは反対の紫はため息をつきつつ、「それで…」と呟き話を続ける。

「その言葉がどうかしたのかしら?」
「…ねぇユカリ。今レイムが何処にいるのか、アンタ知ってるんでしょ?」
「どうして私が全てを知っている。という気でいるのかしらねぇ?」
「だって私たちがこんな所にいるのも、急にレイムがおかしくなって何処かへ行ったからなのよ」
 その言葉を聞いた直後、紫は何気なく目を瞑ると「ふぅ…」と軽いため息をついた。
 季節外れの木枯らしと思ってしまうそのため息を後、彼女の顔に再び笑みが戻ってくる。
 春のそよ風のような柔らかい笑みは、かえってルイズの身構えた体を無意識に強張らせてしまう。
 彼女は知っているからだ。今浮かべている笑みが単なるハリボテだということを。

 このまま三人して無言の状態が続くかと思われた時、ため息をついた紫がその口を開いた。
「確かに私は霊夢が何処へ行ったか、そして今は何をしているのか…ある程度把握はしているつもりよ」
 未だ柔らかい笑みを浮かべてそう行った紫に対し、ルイズは「やっぱり」という言葉で返す。
 折角の休日であるというのに突如左手のルーンが光り出す、ワケもわからず何処かへと消え去った霊夢。
 アルビオンで死の危機に直面した時に見たあの光を再び見ることになったルイズは、今になって思っていた。

 きっと゛何か゛が起こっているのだ。
 自分と魔理沙は気づかず、けれど彼女にだけはわかる゛何か゛に。


「何でそういう事を早く私に教えないのかしら?」
「今の貴女なら教えてあげれそうだけど。さっきの貴女だと怒るのに夢中だから教えないでおこうと思ってたの」
 挑発とも取れる彼女の言葉にルイズは顔を顰めつつ、冷静さを装って言葉を返す。
「…多分傍迷惑な住人二人と喧しい剣が一本いるおかげかもね。昔と比べて、自分が少し柔らかくなったのは自覚してるのよ」
「ちょっと待てぃ。少し聞き捨てならない事を聞いた気がするぜ」
 ルイズがそこまで言った時、後ろにいた魔理沙がストップを掛けてきた。
 どうやら何か言いたい事があるらしく、親切にも彼女はそちらの方へ顔を向けて「何よ?」と聞いてみた。
「傍迷惑で喧しいのは霊夢とデルフだけだろ?レイムはこの前、散々な事をやらかしてたしな。それに比べて私は…」
「何寝ぼけた事言ってんのよ?レイムと一緒に私のクッキー食べてたアンタは立派な共犯者だわ」
 言葉で形勢されたカウンターに「冷たい奴だなぁ」と、一人愚痴を漏らす魔理沙から目を逸らしたルイズは紫との会話を再開する。

「で、アンタがレイムの居場所を知ってるというのなら…話はわかるわよね?」
「まぁ貴女が言いそうな事は、大体予想できるわ。そしてこれからやろうとしている事も…」
 ルイズの質問をすぐに返した紫にルイズは頷き、次に発するであろう言葉を待った。

 しかし…数秒ほどおいて発せられた紫の言葉。
 それは、ある種の期待感を抱いていた彼女の気持ちを裏切るのに十分な威力があった。

「―――だからこそ、今の貴女を霊夢のもとへ行かせるわけにはいきませんのよ?」
 貴女の安全の為にね。言葉の最後にそう付け加えた直後、一陣の風が紫の背中を乱暴に撫でつけた。
 夕闇が着々と迫りつつあるチクトンネ街の風は初夏の香りを漂わせつつ、三人の体を通り過ぎる。

 それはまるで、ルイズに対する警告とも思える程勢いのある風であった。
 本来なら一人の学生として平和に暮らしていたであろう彼女が、非日常の世界へ踏み込まないように。






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