あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

ゼロのドリフターズ-18



 ブッチと別れて、シャルロットが次に向かった目的地は――巨大な塔であった。
階層にして30にも及ぶそれは、首都においても王女住まう城に負けぬほどの威容を内包している。
そこはトリステイン王立魔法研究所。通称"アカデミー"。

 元々は研究と言っても神学のようなもので、実用性よりも純粋に魔法を探求する機関であった。
その中には非人道的実験もあったが、20年前の"変革"によりその有り様が変わる。
体制が一新されてより実践的な研究も盛んに行われるようになり、人道に背くようなことも行われなくなったと言う。

 シャルロットはアポイントをとるとすぐに通される。
かつて――自力で魔法を使うことが出来ず、己の進路に迷い続けた日々で興味を持ったのがココがあった。
幼き頃から何度も足を運んでいたし、自分の往く道を決めた後も通っていたのでもはや馴染みであった。
監視や案内もなく、慣れ親しんでいる塔内を軽い足取りで歩いていく。
風石を利用した昇降装置を使い、規定の階で降りると目的の研究室の扉をノックして入った。

「こんにちは、ジョゼフ伯父様」
「おぉ! シャルロット、久し振りだな我が姪よ」
己が父シャルルの兄にして、従姉イザベラの父親。
髭をたくわえてシャルルよりも渋みを増した、これまたワイルドな美形。

「少々散らかっているが、好きなところへ座るといい。何か飲むか?」
「大丈夫」
シャルロットは首を横に振り、適当な椅子に座るとジョゼフの作業が落ち着くのを待った。


 ジョゼフはシャルルと比べれば、魔法の才能にはさほど恵まれていなかった。
昔は多少なりとシャルルと共に戦場にいたこともあったそうだが、本人が合わないと若くして研究員となった。
そうしてジョゼフの資質は、何よりも研究分野でこそ存分に発揮された。
その発想力と実現力でメキメキと頭角を現し、すぐに主席研究員へと上り詰めるに至る。

 20年前の事件の時には主導者の一人として動き、"変革"を起こした立役者でもある。
アカデミーの"一新された意思決定機関"。評議会員候補にも推薦されるほどの古株で信頼も厚い。
ジョゼフは元ガリア王族という立場を考え、また本人も日がな研究することが好きだった為、これを断る。
結果として今も一研究員としてアカデミーに勤め、その才覚を存分に奮っていた。

 シャルロットにとって、ジョゼフはある意味最も頼れる相談相手だった。
伯父と姪っ子の関係は、適度に近く適度に遠い。
考え方も似ている――というよりはジョゼフに大きく影響された、と言っても過言ではない。
博識で合理的な伯父は、特に実際的な指針や具体的な答えが欲しい時に助言を求めたものだった。
またジョゼフの持つ人脈や権力にも、助けてもらうことが多かった。
シャルロットの武装の殆どはジョゼフのツテで手に入れた物でもある。

「シャルルから聞いたぞ、大活躍だったそうじゃないか」
「うん・・・・・・、初めて人を殺した」
「俺の言葉が必要で来た・・・・・・ようには見えんな」
「既に私の中で答えは出ているから。そっちは問題ない」
いつだって考え続けると――決めている。ジョゼフは姪っ子の様子に「うむ」と頷いた。

「『白炎』か、大物をよく倒したな」
「地下水とデルフリンガーのおかげ。・・・・・・それはそうと『白炎』のメンヌヴィル、20年前の――」
「ん? ・・・・・・あぁ――そういえば20年前に実験小隊を脱走した男だったな。本人が話したか?」
シャルロットはコクリと頷きながら答える。
「ベラベラと。それで・・・・・・その時メンヌヴィルと争って、村を焼いた隊長を知ってる?」

 ジョゼフは美髯を弄りながら考えた。なにぶんかなり前のことで正確に覚えているとは限らなかった。
「確か・・・・・・コルベール、二つ名は『炎蛇』だったか。詳しく調べるか?」
「その名だけで充分」
ジョゼフは疑問符を浮かべてシャルロットは一人で納得する。
"『炎蛇』のコルベール"とまで言われたなら間違いはないだろう。

「アレが変革期の発端でもあったからな。小隊は解体され、今はどこにいるのやら」
「・・・・・・今は、学院で教師をやっている」
「なんとっ!! それで聞いたわけか。当時はかなり評判の男だった筈だが」

 忠実に命令だけを確実にこなす。軍属であればまさに鑑のような男。
実力も折り紙付きで、実験小隊の中にあってもその優秀さは評価が高かったという。
「今は温和で生徒にも慕われている・・・・・・良い教師」
「なるほど、人は変われば変わるものだな」

 一つの疑問が氷解したところで、シャルロットは本題へと入る。
右腰から引き抜いた物を、無言で机の上に置いた。ジョゼフは"それ"を手に持って観察する。
「"これ"は、銃か・・・・・・」
「以前に手紙で書いたから知っていると思うけど、ひょんなことから漂流者を使い魔にして・・・・・・。
 その人から譲り受けたのがそれ。異世界のその国、その時代では主流らしい連発式の銃」

「ふぅむ・・・・・・」
「似たようなものとか、見たことは?」
「漂流物そのものが非常に珍しいものだからな、しかも壊れていない現存品はなおのこと。
 価値のわからん者が知らず・・・・・・なんてことも少なくないだろう。とりあえず俺は初めて見た」

 シャルロットは弾薬をベルトから抜くと、ジョゼフへと投げて見せる。
「それが弾丸――正確には起爆薬と、発射薬と、弾丸を、金属の筒で一体化させた物」

 ――シャルロットはジョゼフの目の前で、実際に撃って見せる以外のことを実演しつつ説明した。
輪胴弾倉に弾薬を入れて、六連発も出来る機構だということ。
弾薬の底を撃鉄で叩く衝撃で雷管を起爆させ、それが発射薬を爆発させて弾丸が飛んでいくということ。
他にもガトリング銃のことなど、自分が見聞きした限りのことを話す――

「凄いものだな」
ジョゼフはただただ感嘆の声を上げる。ジョゼフはメイジでもある研究者だが偏見はない。
魔法であってもそうでなくとも、一歩引いた視点で観察し、そこから新たな発想が生まれると知っている。

「どう? 生産とか」
その言葉にジョゼフは銃と弾薬を触りつつ考え込み――しばらくしてから否定した。
「難しいな」
「やっぱり、無理・・・・・・か」
「あぁ。技術的課題も多くあるが、公にこれほどの物の量産体制を整えるには、各所から反発が大き過ぎる。
 旧い貴族はやはりまだまだ多いからな。ここアカデミーも未だにやっかみとの戦い・・・・・・頭が痛いものだ」

 神の御業たる魔法に手を加えようとすること、また蔑ろにするような研究は異端とされる。
20年前にある程度緩和され、アンリエッタ王女の意向も含め、かなり研究の幅は広がっている。
それでも漂流物を端とした、いわゆる"科学技術"の研究であれば、評議会に通さざるを得ない。
協議して承認を得るにしては規模も大きく、貴族全体の考えとして実現するのはほぼ不可能に近い。
ロマリアの一部では、漂流物そのものを異端として排斥しようとする活動もあると聞くほど。

「――だが個人で、秘密裏にやる分には問題ないだろうな」
「・・・・・・そう、わかった。ありがとう」
銃を機構的に再現し、その生産は可能だろう。
しかし大っぴらに開発出来なければ、以後の進化は見込めない。
発展させられないのであれば、今持っている銃だけでも十分過ぎる。個人で製作する必要はない。
しかし少なくとも、弾薬は消耗品である以上は生産する必要がある。

「この雷管とやらの成分は調べておこう」
ジョゼフがシャルロットの考えを察してそう言った。別の研究に役立てる意図もあるのだろう。
「お願いしとく。そういった解析は不得手だから・・・・・・」
シャルロットはガンベルトに挿してある弾薬をいくつか抜くと、ジョゼフへと手渡した。

「それと・・・・・・話は変わるけど、この銃を持っていた漂流者の話――」
シャルロットはそこまで言って迷ったが、意を決して言葉にする。
昨夜の段階ではテンション上がっていたが、一晩経つとやはり不安になる。
時間を置いて考え始めると頭が冷えてきていたのだった。

「――『ミョズニトニルン』」
「ミョズニトニルン? ・・・・・・"虚無の使い魔"か」
「そう。私が召喚して、私がそのルーンを刻んだ」
「ほうそれは初耳だ・・・・・・、男だったな?」
「男性だけど、そういうんじゃない。歳の差あるし」
色気づくことでもあったかと、少しからかってやろうと思った伯父は姪に先んじて釘を刺される。

「――つまり自分が"虚無の担い手"なのではないかと、そういうことか?」
皆まで言わずともわかってくれるから、ジョゼフとの会話は楽だった。
いちいち説明する手間がいらない。むしろ逆にこちらが説明されてしまうこともあるくらいだ。

「・・・・・・ありえるかもな」
「っ!? えっ?」
シャルロットは目を丸くする。何故ありえるとジョゼフはあっさりと言い得たのか。
まだ己の持っている情報を全て吐き出したわけでもなく、話せないことも多いというのに。

「自分で言い出しておいて何をそんなに驚く?」
「いや・・・・・・その、虚無は伝説だから」
「確かに伝説ではある。が、歴史を紐解けば該当すると思しき人物はいる」

「・・・・・・そうなんだ」
シャルロットの知識などは所詮市井にある書物ばかりだ。
ジョゼフの持つ本物の知識とは比較にならない。だからこそジョゼフは頼れるのである。
そして――今最も欲してやまぬ回答でもあった。

「確かトリステイン王家の秘宝の中に、既存の系統に囚われず、まるで"虚無を凝縮させたような物"があった筈だ」
「それを昔の虚無の使い手が作ったと・・・・・・?」
「だろうな、ブリミル本人の手による物の可能性もないとは言えんが」
「・・・・・・それで、虚無を発現する人物の共通点とかって――?」

 シャルロットの喉が渇いてくる。既に"虚無の担い手"が二人いることはわかっている。
共通点も多くある。その上でさらに考察要素が増えるのならば・・・・・・。

「そこまではわからん。なにせ資料そのものが少ない・・・・・・すまないな」
「いえ・・・・・・――」
シャルロットはどう切り出そうか迷う。ルイズとテファのことを言うわけにはいかない。
デルフリンガーが語る虚無のことも・・・・・・あまり深く話せば、伯父には感付かれるかも知れない。
もちろん知った上で、察して黙ってくれるとは思うものの、いまいち踏み出せない。


 シャルロットが悩んでいるのをジョゼフは静かに待ち続けていると、ノックが部屋に鳴り響いた。
「む・・・・・・」
「私のことはお構いなく」
「すまんな、少しだけはずすぞ」
ジョゼフは扉の前まで行くと、来訪者と話し出す。シャルロットは思考を続けながらも、会話を耳の端に捉えていた。

「――"例の件"でミセス・ワルドが・・・・・・。それでロマリアとの――」
「あぁ・・・・・・すまんが明日以降では駄目か?」
ジョゼフは話の内容に慌てて止める。部外者がいるところで話すこと内容ではなかった。
「立て込んでおいでで?」
「客人がいるのでな」
ヒョイッと来訪者が部屋の中のシャルロットを覗き込む。
眼鏡を掛けた凛々しい女性であった。会釈に対してシャルロットも返す。

「流石に親子水入らずを邪魔するわけにはいきませんね」
来訪者は髪色を見て判断する。彼女自身の妹と近い年頃の娘がいると、聞いたことがあったからであった。
「俺の娘ではないがな・・・・・・弟の娘だ。可愛い姪っ子だよ」
「あら、そうでしたの」

 シャルロットは思考を中断して立ち上がると、二人の元へと行く。
折角だから顔見知りとして、コネを作っておくのも悪くないと。
昔から通っていたおかげで、特に古株の人達から娘や孫のように可愛がられていた。
しかし引退した人も多く、比較的若年な人達とは所詮部外者である以上、なかなかお近付きにはなれていない。
研究室は個々で独立していて基本排他的である為、出会う機会がそもそもない。
今みたいにジョゼフを間に挟むことで作られる貴重な交友関係だ。

「初めまして、シャルロットと申します」
最大限の礼節を込めた優雅な所作で挨拶をする。
「これはご丁寧に。エレオノール・アルベルティーヌ・ル・ブラン・ド・ラ・ブロワ・ド・ラ・ヴァリエールよ」

(――ラ・ヴァリエールって・・・・・・)
トリステインでその家名を持つのは――ルイズと友人になったばかりの頃の話を思い出す。
彼女が話していた家族関係。目の前にいるのはきっと特徴から判断すれば三姉妹の長女なのだろう。
なるほどそう思い出してから見れば、確かに似ていた。金髪ではあるが、眼鏡の下のキリっとした目元など特に。

「ルイズの・・・・・・姉君ですよね?」
「あら、不肖の妹を知っているの?」
シャルロットは表情には出さずに少しだけムッとする。

 家族だからこその関係で言えることもあろうが、わざわざ"不肖"の妹と他人の前で言うのは如何なものかと。
それに今のルイズは伝説の虚無の担い手であり、不肖とは程遠い。
もちろんそんなことを知らないのだから仕方ないのではあるが、それでもままならぬ感情。

「同級生で、友達です」
「おお、そういえば以前にそんなことを言っていたな。はっはっは、貴族の世間は本当に狭いものだ」
「そうだったの、あの子ったら本当に――」
――と、エレオノールは言いかけてやめる。今は二人を邪魔するわけにはいかないと。

「失礼、すぐに退散しますわ。ルイズとよろしくやってあげてちょうだい」
流石にアカデミーに属しているだけはあった。ルイズと違って空気は読める。
そして口ではああ言いつつも、お節介焼きな姉ならではな部分をエレオノールに感じた。


 エレオノールは書類だけを渡して部屋を去る。ジョゼフはすぐにそれを机の奥へとしまいつつ言った。
「彼女は土系統専攻の主席研究員でな。たまにああして俺に聞きにくる」
それ自体は特に珍しいことではなかった。研究員は研究員同士で相互に助け合うこともあるからだ。

「どことなく似てる。気が強そうなところとか」
いやむしろあの姉にして今のルイズがあるのか。ある程度聞き及んでいたが実際に会うと印象が違う。

「――そういえば・・・・・・"ロマリア"とも交流が?」
ついつい耳まで届いてことを質問してみる。
ロマリアはオルテを挟んで向こう側だ。共同で何かをするにはかなり不都合が多いだろう。
それにアカデミーでやっている内容は、ロマリアでは異端と判断されそうなものも多い。
アルビオンやゲルマニアの小国家ならともかく、ロマリアと通じているというのは些か引っ掛かった。

「聞こえていたか・・・・・・まあロマリアも一枚岩ではない。時には組む時もあるさ」
なんとなく、なんとなくではあるがシャルロットは察した。
伯父の表情や声音。態度に含まれる、装うような不吉な匂いを敏感に感じ取る。
踏み込んではいけない境界線、単純に自分如きが知ってはいけないようなほどの予感が走った。
「・・・・・・わかった、それじゃあロマリアに用が出来た時は、渡りでもつけてもらうことにする」
「あぁ良かろう。だがあまり期待はするなよ、公の付き合いではないのでな」

 こちらが訝しんだこともジョゼフは気付いて、そこはかとなく釘を刺してきたこともシャルロットは受け入れる。
アカデミーには優秀な人材が集まっていて、国家機密クラスですら扱っていてもおかしくない機関だ。
非人道的なことはやっていなかったとしても、裏でどれだけのものが渦巻いているかはわかったものではない。
主席研究員どころか、所属すらもしていない私に教えられる情報などあるわけもなし。


「――さて、考えはまとまったか?」
「え? あぁ、・・・・・・ん。――実はとある情報筋から虚無の条件を聞いて・・・・・・」
シャルロットは中断されていた話を戻す。
弾薬の件もあったが、もう一つの理由は相談する為に来たのに相違ない。
どれだけ話すことを悩もうと今更無駄だと、シャルロットは語ることを決める。

「情報源は明かせない、と」
「ごめんなさい。――それでその条件というのが、才能ある者が"始祖のルビー"と"始祖の秘宝"を持つこと・・・・・・」
「珍しく土のルビーを着けていたのはそういうことか」
ジョゼフはシャルロットの指に光る"始祖のルビー"へと目をやる。本来は嵌めて持ち歩くなど畏れ多いものだ。

「そして"必要な時"来たれば、秘宝が呪文を教えて目覚めさせてくれるということ・・・・・・」
「お前がそこまで言うほどだ。よほど確かな情報なのだろうな」

 されどその"必要な時"というのが問題であった。あまりにも漠然としている。
地下水を持つ自分に『爆発』や『忘却』を覚えるに迫られる状況が来るのか。
だからと言って今更地下水は手放せるようなものでもない。
危機的状況に、甘んじて身を投げるのも憚られる。
重大な秘密を然るべき人間に暴露して、わざと『忘却』を覚えようとするなんてことも出来るわけがない。

 自分が虚無の担い手である絶対の確証は存在しない。
さらに自分から状況を作り出しておいて、覚えられるとも限らない。
「だから伯父様――呪文について知らないかと」
「んむ、先刻話した"虚無を凝縮したらしい魔道具"というのが、確か人の大きさ程もある姿見でな。
 それが二つあって、そこを潜ることによって遠く離れている土地でも互いを行き来可能なもの、だったか」

「サモン・サーヴァントのようなもの?」
「似ているが違う。互いを自由に行き来出来るわけだからな」

(そんなものがあるのなら――)
ウェールズ王子とアンリエッタ王女は、互いの国にいたとしても何不自由なく逢瀬を楽しめるだろう。
浮遊大陸アルビオンという、トリステインと離れている上に独立した土地。

 互いに離れて暮らさざるを得ないというのは、二人の婚姻に当たってネックの一つであった。
単なる政略なら良いが、二人は愛し合っている男女で、立場が立場。
されどそんな魔道具があるのであれば、いとも簡単に解消される。
まさかとは思うが・・・・・・そこまで計算済みで結婚し同盟を組もうとしたのならば、少々やり手と言わざるを得ない。

「つまるところ"ゲート"のような魔法・・・・・・」
「そうだな。他には覚えがないが、そこら辺も俺の可能な範囲で調べておこう」
「ありがとう。それと・・・・・・言うのも難だけど、"始祖の香炉"は本物?」

 もう一つ確認しておきたかった素朴な疑問。根本的に秘宝が贋物であったら意味がない。
土のルビーの方は、本物である水や風のルビーと意匠が共通している以上、本物で間違いないだろう。

「流石にそれは、俺もまだまだガキだった頃で何とも言えんなあ。ただ由緒ある物ではあった筈だ。
 ガリアが滅亡寸前にして、宝物庫に眠る数ある物品の中から、わざわざ持ち出して来た物の一つだからな」
「そっか」
仮に贋物だったとしても、本物がどこにあるかわからなければ意味がない。
そういう意味では、確実な祈祷書やオルゴールを借りるのが一番ではあるのだが。

「そうそう、そういえば――」
「そういえば?」
「んむ、確か虚無は"王家に宿る"と聞いたことがある」
シャルロットの目が見開かれる。ティファニアはアルビオン王家の血が半分、ルイズのラ・ヴァリエールもトリステイン王家と近しい血筋。
自分に至っては滅亡したガリアの直系。であるのならば、虚無の条件としてはこれ以上ないだろう。

「親父がそんなようなことを俺達に言っていた」
「お祖父様が?」
「そうだ、王家に密かに語り継がれる話だったか・・・・・・」
シャルロット達の祖父にあたり、ジョゼフ達の父。
直接に会ったことはない。まだ自分達が生まれる前に亡くなってしまった。
ジョゼフやシャルルとは別にガリアから脱出し、その後に再会したらしいが程なくして逝ってしまったと聞いていた。
秘密としてわざわざ語ったことであれば、信憑性もあるだろう。


「――・・・・・・虚無が必要か? シャルロット」
突然そう問い掛けるジョゼフの双眸は真剣味を帯びていた。
伯父のそんな表情はいつ以来だったか、シャルロットは戸惑う。
「えっ・・・・・・はぁ、まぁ・・・・・・」
「はっきりと言えるのか? 伝説が欲しいと」

(あぁ・・・・・・そういうことか)
シャルロットは少しだけ考えて、ジョゼフが何が言いたいのかを理解した。
このジョゼフの真剣味は、かつて進路について話した時と一緒だった。

 虚無はただの魔法とは違う。それがどういうことを意味するのか。
始祖ブリミルの使ったとされる伝説。それを扱うことでさらに複雑になる立場。
強大な力を誰かに利用されるかも知れない。宗教的に祭り上げられるか、もしくは不遜だとして抹殺されるやも。

「俺はな、イザベラも、ジョゼットも、そしてシャルロット・・・・・・お前も――
 普通に育ってくれれば良いとも思っている。魔法もいらぬ、人も殺す必要もない」
「・・・・・・うん」
「お前達がどれだけ成長しようと、親にとってはいつまでも経とうとも子供なのだ。
 害意があるなら俺達大人が振り払う。お前達がわざわざ戦う必要はない、まして虚無など――」

 持て余しかねない力。無理に使う必要などないかも知れない。
だが虚無のことは別としても、少なくとも戦うことに関してはもう決めたことだ。
父のようになりたい。私も何かを守りたい。
国の為に、友の為に、家族の為に――全てが繋がっている。オルテに、黒王軍と、脅威が絶えぬのだから。

 ――だが、果たして『虚無』が必要なのだろうか。
少なくとも自分には地下水がある。今のままでも不都合はない。
自分自身で魔法が使えるようになりたいというのも、所詮は自己満足だ。

(だけど・・・・・・)
ルイズも言ってたように、力とは使い方次第だ。
本当に欲した時に力がなくて後悔するようなことだけは・・・・・・したくないのだ。
感情論かも知れない――けれどそれもまた自分が立つ場所だ。
(うん・・・・・・)

 伯父様は家族という立場から、素のままの心情を敢えて言葉にして煽り、揺さぶっている。
私が安易にではなく、信念をもって虚無を得ようとしているのかを、確かめようとしている。
だから真っ直ぐに答えよう。私は私の決意と覚悟を以てここにいるのだと。

「――私は、"虚無の担い手"になります」
「そうか、ならば楽しみにしていよう」
ジョゼフはフッと笑う――あくまで可能性としての話だったのを、確信をもって言い切った私に。
伯父が先程までのやりとりの中でどこまで察し、理解しているのかはわからない。
だけど私が相応の情報と、何かしらの根拠を携えているということに――その覚悟に対して笑った。
虚無の覚醒、強引にでも関連付けた状況証拠だけでも充分。
そもそもその真偽すら実のところ関係ない。

 今まで通り・・・・・・私は諦めずに、我が道を踏破し続けるだけ。
それが虚無であっても、四系統であっても、所詮ついてくる結果に過ぎない。

「えぇ、楽しみにしてて」
改めてシャルロットの中に掛かっていた心の霧が晴れていく。
「んむ、そうやって晴れやかに笑っているほうが美しいぞ」
「っ・・・・・・うぅ」
ついつい見せた油断を突っつかれてシャルロットは気恥ずかしさに俯き、ジョゼフは豪快に笑う。

「――さて、シャルロット。時間はあるのか?」
「・・・・・・? まぁ後は家に帰るだけ。その時にまた――」
「お前の話を聞き、諸々頼まれてやったんだ。俺の話も聞いていけ。
 イザベラやジョゼットも、学院に通い始めてからなかなか会えんのでな。
 それに聡明なお前だからこそ、俺も気兼ねなく話せることもある」

「ん、付き合う。私にとっても貴重な時間――」
ジョゼフとの会話は楽しいし、アカデミーと研究室には浪漫が詰まっている。
一時はアカデミーへの進路も考えたくらいだったし、知識欲は尽きることがない。

「――でも姉さんとも、たまには語り合うことも約束」
「・・・・・・イザベラと? あいつはこうしてやって来ることもないからなあ」
シャルロットは溜息を吐く。頭は良いが、時に身近な人相手のことほど心の機微に疎い。

「娘心がわかってない、イザベラ姉さんは私やジョゼットがいたから、年長として育ってきた。
 思春期や反抗期でもない。半ば諦めと、恥ずかしがっているだけで、親に甘えたくない娘なんていない。
 別にここでじゃなくてもいい。多忙とは思うけど・・・・・・休日にでも都合つけて、街にでも連れて行ってあげて」

 押しを強く訴えるシャルロットのジョゼフはタジタジになる。
昔から割とそうであったが、年を重ねるに連れ、とみに立派になっていく。
物怖じせずにズバズバと――本当にいつの間にか大きく成長しているものなのだと。

「ぜ・・・・・・善処しよう」
「善処じゃ駄目。お膳立てくらいはしてあげる」
「ん、んむ。わかった、その時は情けないが頼もう。だがひとまずはお前との時間だ。
 我がアイデアに思うところあれば忌憚ない意見を聞かせてくれ。お前は意表を突くことがあるからな」

 おもちゃ箱さながら、乱雑に置いてある試作品や草案を次々と語り合う。
時に愚痴を零しながら久々に互いに話し、時間はいつの間にか過ぎていった。


 ――熱くなり過ぎて二人揃って夕餉の時間に遅れ、母と伯母に窘められる伯父を――
父と共に微笑ましく眺めて笑ったのは・・・・・・また別のお話。



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