あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

ゼロのドリフターズ-15



「――空賊船・・・・・・のように見えますが、偽装の可能性は高そうです」

 シャルルは『遠見』の呪文によって、使途不明船を観察する。
ただし相手からもこちらを同じように『遠見』によってを見られていれば、訝しがられる可能性もある。
あくまで自然体でいながら覗くような形で、詳しい状況の把握に努めていた。

(面倒なことになってきたな、キッド達が失敗したか・・・・・・?)
ブッチはそう思うものの、少なくともあの周到なシャルロットが問題ないと報告してきた以上ヘマはないのではとも考える。
もし下手を打ったならそのことを言うだろうし、可能性が少しでも残れば通告してくる性格だろう。

「――ちょっとした中型軍船並、積んでいる風石もこちらより確実に上ですね。振り切るのは難しいかと」

 僅かに十人。ウェールズの側近とトリステイン特使のみで構成された必要最低限の航行である。
今は風石任せの滑空のような状態だが、操船に専念しても速度はたかが知れている。
船は刻一刻と近付いてきているようであった。時間の猶予はそれほどない。
(チッ・・・・・・まあどっかから漏れても当然か)
徹底して窮屈ではあったものの、おかしな集団が寝泊まりしていれば漏れても不思議はない。

 ブッチは視界の端に見えた"それ"に落胆と諦観の混じった溜息を吐き、シャルルは平静な表情を保ちながら言う。
「あ~あ・・・・・・」
「まずいですね――」
高所にある船の、甲板付近に僅かばかりにはみ出た――
「――"竜"騎兵もいるようです」

 全員に緊張が走る。あまり詳しくないブッチでも、空で竜に襲われればどうなるか――
ジョゼットが駆る竜の姿を品評会で見ていたので想像はつく。
地上ならともかく、狭い船であれを躱し続けるのはまず不可能だろう。反撃も困難を極める。
何より乗っている足場を崩されようものなら、為す術なく落下するしかなくなる。

「貴族派か」
「間違いないでしょうな。ここ最近、竜騎兵を擁する空賊団など聞いておりませぬ」
ウェールズとパリーの確信によって、いよいよもってキナ臭い雰囲気に包まれた。

(ったく、どうせ襲うなら街で来いっての)
暇していたしフラストレーションが溜まっていたのは事実だが、何も今来ることはないだろと。
遮蔽物の多い街中なら、ガンダールヴの独壇場だ。空から来たって迎撃して見せるというもの。

「ウェールズ皇太子、我が竜で速やかに御身を運ぶことを進言致します」
シャルルが苦渋に満ちた表情のウェールズへと提案する。
「なっ・・・・・・おい! 一人だけかよ!?」
「全員乗せられないこともないが、そうなれば重量の分だけ飛行速度は格段に落ちてしまう。
 相手は恐らくプロだろう、それもアルビオン竜騎士。確実に逃げるならば二人が限度だ。
 乗せるのが皇太子だけで速度差が最小限に抑えられるなら、多勢相手でも逃げ切ることは可能だ」

 風魔法で竜を補助すれば速度はさらに出る、それで逃げ切れることが出来れば御の字。
追撃されても速度差がない前提の複数騎が相手程度なら、逆に倒すこともやれないことはない。
「行って下され、殿下」
腹心の老メイジであるパリーが言う。

「・・・・・・しかし」
ウェールズは躊躇する。下手すれば船もろとも――
「ウェールズさま。姫さまが・・・・・・アンリエッタさまが待っています」
ルイズの強い言葉がウェールズの背中を押した。
今この
場において最もかよわく、そして最もアンリエッタに近い少女の言葉。
「・・・・・・それに我々はトリステインの特使です。それは相手方も知るところでしょう。
 名乗った上でウェールズさまがいないと知れば、無理に危害を加えることはないかと思います」

 そんなことをすれば、トリステインと全面戦争にもなりかねない。
むしろ礼を払い、特使には穏便に帰国してもらうのが筋であろう。
今はまだ同盟と婚姻の発表のみで、実際に正式に結んでいるわけではないのだ。
万が一にも単なる空賊であれば身代金を約束してやれば良い。


「・・・・・・わかった。くれぐれも無事に」
ウェールズの言葉に側近とルイズは力強く頷いた。
トリステイン側の正式な特使である文官達は顔色が悪かったが、それが最善であることはわかっている。
ゆえにそれを受け入れるしかなかった。そもそも全員で逃げればそれこそ全滅である。

「おいおいマジかよ」
「アンタも残るのよ、ブッチ」
「すまない、貴公らには必ず報いよう。だから絶対に生き延びてくれ」
そう言われてブッチは渋々納得する。ここでゴネても無駄だ、報酬を約束してくれるなら快く引き受けるよう見せておく。

「皇太子、急ぎましょう。指笛で竜を呼べばすぐに気付かれるでしょうから、最初は『飛行』で船を死角に――」
シャルルは願う――非情な決断だった。シャルロットの友達、"あの"ラ・ヴァリエール家の御息女もここにはいる。
風の『遍在』も、竜であっという間に離れていく距離で維持し続けるのは不可能。ゴーレムにしても同じだ。
感情によって優先事項を違えてはいけない。去りゆくこの場で出来ることは、精々が祈り願うことだけである。

 こういう時にこそ、昔共に戦ったことがある――先代マンティコア隊隊長が羨ましい。
あの『烈風』のような、持て余すほどの膨大で圧倒的な魔力による大火砲。
メイジのメイジたる強さを、トリステイン史上に残した伝説。
己の魔力も決して少なくはないが、遠間の竜騎兵ごと船を薙ぎ払うには到底足りない。
されどもはや賽は投げられる。己のすべきことはウェールズ皇太子を確実にトリステインまで送ること。

 必ず任務を遂行すると心に深く刻んだ後、空を飛びつつ頃合を見て――シャルルは指笛を吹いた。


 とあるアルビオン貴族は焦っていた。貴族派の中に属していて、相応に裏で色々なことをやってきた。
大貴族の指示に従って、到底隠し切れぬことを――その手を汚してきた。
今のまま同盟が締結されれば真っ先に切られ、糾弾され、没落する立場である。
衰えたとはいっても未だ力は残っている王家。同盟で地盤を固めた後に逆らうのは愚の骨頂だ。
ゆえに何人かいる有力な大貴族達とは別に、私的に作り上げた網を張って備えていた。
私設部隊を空賊に扮し、ウェールズ一行が乗ると思しき船は全て落とすようにとも命令していた。
幸いにも荒事に関しては、今までその身を削ってきた分だけ迅速に準備を整えることが出来た。

 他の貴族派から見てもあまりに杜撰でトチ狂った行動ではあった。
しかしそれも結果的に見れば、シャルロットとキッドの活躍によって証拠が掴まれた状況において正解と言えた。
ウェールズを殺し、その勢いのままに他の貴族派を扇動。そこまですれば腰の重い連中も動かざるを得なくなる。
半世紀ほど前にハルケギニア一の大国だったガリアが滅んだことで、我々も続くべしという気運は高まっている。
そして一気呵成に王党派を潰す。電光石火で王都を陥とし、かねてからの議会制の共和国を建国する。


 トリステインと戦争になったとしても構わない。そもそもアルビオンは浮遊大陸という天然の要害である。
保有している空中艦隊とその練度、兵站を含めて地の利も何もかも違い過ぎる。
さらにオルテと黒王軍の両方に予断を許さない小国トリステインなど、何一つ恐れることはないと――
逆に攻め滅ぼして属国にしてやるのも悪くないとすら考えていた。

 私設部隊はただ命令に従い、全てを事故に見せかける。航路上で連絡を絶つのは多くはないものの、なくもない。
さらに空賊を隠れ蓑にしていれば、いざという時に体面上の言い訳にもなる。
その時は私設部隊を切り捨てる形にはなるが、最初からそういうことも含めた連中である。

 ――そして私設部隊は、部隊員のそれではない指笛の音を聞くと、迅速に行動を開始したのであった。


「結局こっちも貧乏クジか」
空に薄く響いた笛の音を聞き、少し後に動きを見せた敵船を遠く見つめながらブッチは独り言を吐く。
「――アンタよく残ったわね」
ルイズが話し掛ける。彼女の中で彼は、無理にでも乗り込みそうな気もしないでもなかったのだった。

「たっぷり報酬をふんだくってやるさ」
即物的でわかりやすい奴だとルイズは改めて呆れる。
しかしそうやって割り切れるのなら、どんなに楽なことだろう。
王子殿下の手前、ああは言ったものの保障なんてあるわけもなく、正直足が震えるくらいに怖い。
貴族としてのプライドを前面に強がっただけに過ぎない。

 ブッチはルイズを他所に歩き出す。使用しても問題なさそうな索を一本探して、それを適当な所に縛って固定した。
「何してるの?」
「前準備くらいはしとかねえとな」
「ふ~ん・・・・・・ねぇ、これからどうなるのかしら・・・・・・」

「そりゃなるようにしかならねえだろ」
さも当然といった風にブッチはのたまう。いつだってそうだった。生まれも、育ちも、牧場を買って潰したのも。
女と恋に落ちたのも、獄中で過ごしたのも、強盗団を結成したのも、無法を尽くしたのも。
延々追われたのも、逃げたボリビアでも詰められ、こっちの世界にやってきて生き延びていることも。
全てそうだ。いつだって明日はなかった。

「ただまあ・・・・・・俺の勘だが、覚悟だけは終えときな。またピーピー泣かれるとウゼェからな」
ルイズは言い返しては来なかった。先のフーケ戦でで、少女なりに学び思うことがあったのかも知れない。
仮に戦闘になっとしても、己を保たなくてはという義務感はある。
そんなルイズの様子の調子が狂う心地を噛み潰しながら、ブッチは右手で銃を抜いた。


 遠く見えるは船から飛び出した三体の竜騎兵。それが二騎と一騎に分かれた。
内二騎セットの方――色からすれば確か風竜――は、こちらに見向きもせずに別方向へ竜を駆る。
既にシャルルとウェールズが竜に乗って逃げているのが捕捉されているのだろう。
障害物ないだだっ広い大空、あっさり見つかるのも無理はない。

 あらゆる場面で最大戦力となり得る航空兵力、竜騎兵。
残った一騎――色からすれば恐らく火竜――は交差ざまに『マジック・アロー』を何本も撃ってくる。
敵の魔法は、予め想定していた他6人のメイジ達によって防がれた。
その問答無用さに、闘争以外の選択肢は消え失せる。『飛行』で逃げても竜相手には"兎狩られ"にしかならない。

 パリーから怒号が喚き散らされる。
わざわざ言われなくても、戦場と化しているのは誰もが理解していた。
そして「トリステイン特使である」と大声で主張するも、敵は案の定まるで聞く耳を持っていない。
貴重な資源の風石でもついでに狙っているのか、船をいきなり破壊してこないことは幸運とでも言えようか。

 とはいえたった一体の竜騎兵に翻弄される。その機動力は無類。船の周囲を旋回しながら攻撃を加え続けられる。
こちらは三人が守り、三人が応戦する。トリステインとアルビオンの共同戦線。付け焼刃ながらも形にはなっていた。

 しかし迎え撃ったところで、縦横無尽に空を飛ぶ竜騎士に命中させることなど不可能であった。
「火竜の"ブレス"を見逃すな!!」
魔法であればある程度は防げるが、火竜が吐く炎は危険過ぎる。その威力はたったの一撃で乗っている船が燃えて墜ちるほど。
その予兆・前兆、予備動作を見逃して対応に遅れれば、確実に全滅に追い込まれてしまう。

 パリーの声を聞きながらブッチは考える。
牽制くらいにはなっているが――いつ敵が標的を船そのものへと変更しないとも限らない。
ブッチは予め用意しておいた索を右手でしっかりと握る。

 ガンダールヴでも生身で空を舞う竜騎兵を相手取るのはきつい。
リロード時間を考えれば無駄弾は撃てない。こんな時に"ガトリング銃"でもあれば――
「――ないものねだりしても仕方ねえな」
自嘲的に呟く。命中・威力・射程全て申し分なしの武器などここにはない。
だが・・・・・・"来る場所がわかるなら"――やってやれないことはない。

 速度や旋回性では風竜に劣るらしい火竜だが、それでも空中では圧倒的。
ブッチは火竜騎兵の挙動を見定め、その動きを予測する。
空に浮かぶ船の上という限定的な状況のおかげで、逆にある程度のパターンが見出だせた。

 船に乗る自分達にとっての死角。死角があるからこそ、そこを竜騎兵は当然利用する。
呪文を詠唱する時間の為。姿を眩ますことで狙いをはずさせる為。さらに様々な方向から奇襲する為。
安全を確保出来る"その場所"を使わない理由はないのだ。
だから敵の姿が消えた時には、必ずその"死角"にいるということになる。

 ブッチは勢いよく船底真下位置へとロープアクションで飛び降りた。
ガンダールヴで強化された握力でブレーキを掛けて速度を調節する。
摩擦によって焦げた手袋の匂いが鼻をつく前に一気に空中へ踊りだす。
そして眼前に見えた竜騎士は――まさに絶好の位置であった。
ブッチは流れるように銃口を定めると同時にトリガーを引いた。


 シャルロットに『固定化』と『硬化』を掛けてもらったパーカッションリボルバー。
そのおかげで圧倒的な耐久力を実現し、結果として諸々の威力強化をも可能とした。
威力と共に反動が上がった銃もガンダールヴならば問題なく扱え、強化された鉛弾は竜騎士の装甲を容易に貫いた。

「ヒャッハァ!」
確かな手応えと共に、コントロールを失った竜は既に死している主人へと追従して落ちていく。
ブッチは竜が戦闘域から離脱するのを見届けた後に、片手の膂力だけで跳ねるように縄を使って甲板へと登った。

「後はあの船だけだ」
「なに!? どういうことだ!!」
パリーが驚愕の声を上げ、敵火竜騎兵に警戒し続けていたメイジ達も呆気にとられる。
「つい今しがた、下に行って忌々しい竜をぶっ殺したってことだよ」
「なんと・・・・・・真<まこと>か!?」

 こうして会話する時間があることが証明であった。そんなことをしている暇すらないほどの猛攻だった。
「おぬしという男を見誤っていたようだな」
「まだ終わったわけじゃねえ」
「ふっはっは! だが希望は見えたぞ。・・・・・・それにしてもどうやって倒したのだ?」

 ブッチは受け答えるのも面倒だったが、無視すると余計面倒なことになりそうだったので説明する。
「この"銃"で撃った」
「ほお・・・・・・見たことのない形だ。しかしなかなかのものだな、銃というのも」
「ふ~ん、てめえはおかしな目で見ないのか」

 "銃"とは平民が使う無粋な道具として、貴族達からは嫌われている。
学院でも漂流者というだけでなく、そういう"野蛮な物"を扱う輩として一線引かれた目で見られていた。
「老いたとはいえこれでも武人ぞ。戦場で使えるものは信頼する、おぬし自身もな」
「あーそうかい」
ウェールズへの不遜な態度の所為か、老メイジにはやたらと邪険にされていた。
しかしこうもあっさり認められると、なんとも言えない気分になる。

「んむ、竜騎士を的確に狙う実力を認めぬわけにはいくまい」
「・・・・・・あ? なんで竜騎士を撃ったと? そこまで言ってねえが」
「当然だ、銃はおろか魔法ですら単発では竜そのものを倒すのは難しい。だから乗り手を狙うのが常套。
 それでも竜を倒す場合には喉元付近の油袋に引火して諸共吹き飛ぶゆえ、距離をとるなどして注意せねばならん」

 そんなパリーの説明にブッチは密かに肝を冷やした。
たまたま竜騎士が絶好の位置にいただけであって、そこに竜の口があったなら銃弾をぶち込んだに違いなかったと。
(まあその程度の幸運はあって然るべき、か)
最悪の不運に今まさに見舞われているのだから――

 と、思った瞬間である。ブッチが戻した視線に飛竜がもう一体覗いていた。
「もう一匹かよ・・・・・・」
「ぬぅ、ここからが正念場だ!!」
同じく悟ったパリーは全員に檄を飛ばす。
されど予備戦力――後詰めとなる風竜騎兵は敵艦の周囲を飛ぶばかり。
出撃してきたものの、すぐに攻撃してくる様子はなかった。

「同じ手は、通用しねえか」
先ほどの様子を魔法かなにかで把握されていたのかも知れない。
(あの二人がいればな・・・・・・)
ガトリング同様、ブッチは心中でまたも"ないものねだり"をする。
まずキッドが隣にいないのが落ち着かない。ミョズニトニルンがあれば単純な戦力も増える。
シャルロットがいれば強力な魔法で、遠間の竜騎兵を丸ごと撃墜してくれるだろう。

 しかし今更連絡しても間に合う筈もなく、通信人形も言わば向こうからの一方通行だ。
相互会話は出来るが、遠い距離を繋ぐにはミョズニトニルンの力が必要であった。


 敵船が確実に近付いてくる時間、集中し続ける時間は酷くゆっくりと感じられた。
双月が照らす夜空でもはっきりと見えるくらいにまで距離が詰まると、敵船は風に沿うかのように向きを変える。
四つもの砲門を目の前に晒され、圧倒的な死の予感が体中を駆け巡る。

「根競べか」
ブッチは周りに聞こえない程度の声音で、意識せず口から言葉に出していた。
鷲の眼のように鋭くなったブッチの瞳と、躰と、銃が同調を開始する。
砲弾が放たれたその一瞬を、見て、動き、撃つ。全て同時が如くの早撃ち。

 砲撃音の直後に空気が揺さぶられる。それは船に炸裂したわけではなく、空間で爆発した音に留まる。
ブッチは妙技とも言えるタイミングで、放たれた砲弾をコルトリボルバーで撃って命中させた。

(一発か・・・・・・)
撃ち終えてから、その頭で理解する。自分が反射的に撃ったのは一発。討たれた砲弾も一発。
もし倍の二発であれば二発、四発全てであれば四発、ガンダールヴならば確実に撃ち抜いていた確信。
腰撃ち100ヤードショットですらまるで苦にしないルーンの力。
静止状態でまともに構えてしっかり照準をつけてやれば、600ヤードでも当てられる自信がある。

 しかし僅かに敵船の一門しか火を噴いていない。
単なる様子見なのか、根本的に大砲をフル稼働させる人数が足りていないのか。
わからない以上は油断は出来ない。

 二発――三発――四発――その時点で動いてる砲門は二門であった。
交互に撃ってくるも、そのことごとくブッチが撃ち砕く。
五発――六発――七発――八発――九発――十発目――
時に同時に撃ってくるが、一切届くことはない。

 僅かな時間の間に空薬莢を一発ずつ捨て、弾薬を装填する作業。
最速で限界六発まで撃つ『ファニングショット』で対応不可能な、七門以上の数であれば問題であった。
しかし敵にも限りがあるのか対抗出来うる。後は弾薬の数と砲弾の数。どちらが尽きるかの勝負。

 本当なら砲口にぶち込んで爆発炎上でもさせたかった。
しかし互いに空中を泳いでいる上に、距離と高度差もあってはガンダールヴでも届かない。
遮蔽物の存在しない空では、跳弾を使って角度を調節することも無理である。
だが敵の砲弾は万が一を考えれば一発とて撃ち漏らしてはならない。
空中間で撃ち落とすのが精一杯な現状にブッチはストレスを溜めていた。

 ――十一発目はやや遅かった。そして爆発することもなかった。
反射的にブッチはその場から飛び退くと、眼前で"鉄球"が小気味良い破砕音を残す。
同時に六度ほど船を貫く音が響いてから理解し、パリーがいち早く命じる。
「ぶどう弾か!? 迎撃態勢!! なんとしても逸らせ!」
「チィッ」
ブッチは心の中で「クソ」と毒づきつつ舌打った。
火薬が詰まった炸裂砲弾でなければ、銃では抗しようがない。
散弾とて人が喰らえば容易に死に至り、数を喰らえば船も墜ちる。

 敵船の切り替えにより、一転して今度はメイジ達の出番となる。
球の一つ一つは通常の鉄の砲弾より小さめの葡萄弾とはいえ、まともには防げない。
ひたすらに軌道をずらして致命損害を避けることしか出来なかった。

 ――同時に敵船から指令が飛んだのか、はたまた痺れを切らしたのか、敵風竜騎兵も動き出す。
そうなれば常に大砲の方に注意を向ける必要は薄まった。味方が射線上にいて撃つ砲手はいない。
さりとて今度ばかりは容赦なく"ブレス"を吐き、それをメイジ達がなんとか防ぐ形になっている。

 風竜のブレスは火竜に比べればかなり劣るものの、空中機動能力は段違い。
さらには、一定間隔毎に竜騎兵は一瞬にして距離を開き、その瞬間に大砲が撃たれる。
竜騎兵へ牽制をいれつつ、炸裂砲弾にも注意を払いながら、対応に追われつつブッチは歯噛みする。

「粘れ!! この段階で竜が出て来たということは、向こうも消耗しているに他ならん!」
パリーの言葉は希望的観測であった。敵が葡萄弾を撃ち続ければ精神力が切れた時点でこちらの負け。
船の性能も操船技術も遅れをとる以上、敵はこちらを蹂躙出来る。
しかし元いた竜騎兵の積載を考えれば砲弾の数は多くないと見積もった。
それゆえの敵船の砲門の少なさであり、今になって竜騎士が連携をかけてきたのだと。

 結論から言えば、パリーの予測は間違いではあった。
私兵団の船には未だ余裕はあった。少なくとも特使一行の臨時便を墜とし切る程度には。
しかし竜騎兵が一騎撃墜されたことと、炸裂砲弾が謎の空中爆発することと・・・・・・。
不可解が重なる焦燥感が、苛烈窮まる猛攻を選ばせたのだった。

 ふと焦げ臭さに船が燃えていることに気付く。
防ぎ切れなかったブレスの炎か、はたまた竜騎士の魔法が命中したのか――
パリーはやむを得ず、トリステイン特使達3人に消火の指示を出す。

 ウェールズ護衛の武人組3人だけでなく、特使達の魔力も既に限界近かった
しかしそれでも捻り出さねば、既に傾きつつある船は燃えて尽きる。

(クソッ考えろ・・・・・・)
どうすればこの場を乗り切ることが出来るのか。完全なジリ貧。
弾薬にはまだ余裕はあるものの、先にメイジ達の精神力が枯渇すれば死が待つ。
ここにきて、ようやくシャルロットが保有するらしい膨大な魔力というものの特異さをブッチは実感した。


「エオルー・スーヌ・フィル・ヤルンサクサ――」

 絶望が頭をよぎったその時だった。耳に届く何故だか心地良い言葉の羅列。
今の今まで何一つとしてリアクションを見せなかった少女のルーン呪文詠唱。
ドクンッと堰を切って溢れ出す濁流のように、ブッチの血液が躰の隅々まで巡る。
鼓動が繰り返される音で全身が震え、力が漲ってくる。

(なん・・・・・・だ?)
肉体に応えるように、精神までもさらなる高揚を見せる。同時に確信する。
今までのガンダールヴの効果ですら、不完全燃焼に過ぎなかったのだと。

 続くルイズの詠唱の波に乗るように、ブッチは駆け出していた。
その鋭い眼光が視界内の全てを推し量る。己の速度と左方にいる敵風竜騎兵の速度。
縮んでいく相対距離に見誤りはない。両脚に全力を込めて船がさらに傾かんばかりに踏み切る。
つま先から頭――髪の毛の先まで、全身をバネのようにしてブッチは空へ向かって飛び出していた。

 まるで夜風を味方につけて飛行でもするかのように、ブッチは竜へと跳び移った――
――中空でコルトリボルバーをしまい、竜の翼の付け根付近に何とか右手を掛けて掴まる。
千切れてバラバラになりそうな重力負荷を強引に抑え込みつつ、全身を一気に引っこ抜いた。

 突然のことにギャーギャー暴れる竜の背に何とか足をつけて、竜騎士に銃を突きつけて恫喝した。
「お前らの船まで運べ」
並々ならぬ増幅された殺意、混乱していた竜はすぐさま大人しくなる。
騎乗していた兵は考えることさえ封殺され、ただ命令に従い手綱を動かした。

 竜は空中で身を反転させて、一直線に敵船へ乗り込もうとした寸前、一帯が明るく"照らされた"。
まるで二つ浮かぶ月のように、太陽までもこっちの世界には二つあったのかと思わせるほどの"閃光"。
敵味方全てを、空間ごと包み込み膨れ上った"光の球"。その光球の中でブッチはどこか悟る。

 長かったのか短かったのかわからない時間の後に、光は収束して消失する。
すると敵船は見た目にはゆっくりと傾き、そのまま墜落していった。

「わけが・・・・・・わからねえ」
ついそう口に出すも、頭のどこかでは理解していた。あの光球を放ったのが一体誰だったのか――
あの土壇場とも言える状況で、敵勢力をただの一発で潰す。
そんな状況を、根底から覆す魔法を使ったのは――あの場で詠唱をしていたのは――

 たった一人しかいない。今まで何の役にも立たなかった・・・・・・あの主人である少女しか――



新着情報

取得中です。