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三重の異界の使い魔たち-14


~第14話 新たなる出会い~

「うーん……」
 ムジュラの仮面の言葉に従い、怪し気な黒装束を試着してみたものの、姿見に映った我が身の
有様に才人は呻いた。
「やっぱ、すげー悪役風だぞ、これ……」
 袖に手が隠れた腕を掲げながら、眉をしかめた自分の顔を見る。
「あら、悪くないと思うけど?」
「髪の色と合ってる」
 その一方で、キュルケとタバサが称賛の声を掛けてきた。褒められるのは悪くないが、こんな
物々しい服が似合うといわれても素直に喜べない。しかも、タバサは同じデザインの服を大量に
買いはじめた。つまり、他の着替えもこれらしい。
 ちなみに、最初に出された物体――あれを服と呼ぶ気にはなれなかった――はあれ自体の他に
ないらしかった。理由は聞いていないが、売れないものを幾つも作る必要がないからに相違あるまい。

「魔法の世界来て、魔法使いの使い魔になって、妖精と魔族の同僚ができて、悪者な衣装が普段着に
なる、か……わけわかんねーな」
 頭を掻きながらぼやくと、ムジュラの仮面が顔に覆い被さってくる。
「そうくさってばかりいるなよ、やはりオレは気に入ったぞ」
 ヒャハハ、と甲高く笑ったムジュラの仮面の裏で、才人は溜息をついた。
「まあ、お前もある種ワルモンだしな」
 苦笑いとともに、ムジュラの仮面を外す。そこで、さっきの店員がドレスの掛かったハンガー
ラックを運んできた。
「お嬢様方、お待たせいたしました」
 会釈する店員を一瞥すると、キュルケとタバサはハンガーラックに近づく。正確には、タバサの
方はキュルケに手を引かれていっただけだが。
「へえ、なかなかのものが揃ってるじゃない」
 早速ドレスに夢中になったキュルケが、夢見心地で言った。色とりどりの礼装を見比べながら、
満面の笑みを浮かべている。

「ほら、タバサもつったってないで、ちゃんと好みのドレスをお探しなさいな」
 そして、隣で退屈そうにしているタバサに気付き、叱責めいた声を掛けた。それに対し、タバサが
無表情で首を横に振る。
「私はいい」
「何言ってるのよ。来週のユルにはフリッグの舞踏会なのよ?」
「ドレスならもうある」
 無感動な調子でタバサが言えば、キュルケの方はやれやれとばかりに頭を振った。
「あのねえ、タバサ? もう着る服を決めていても、当日になるまで着るドレスを選び続けるのが
淑女としての正しい舞踏会までの過ごし方よ?」
 諭す様な口調ながら、傍で聞いていてかなり自分勝手な持論である。それから、赤毛の少女は
命令口調になって続けた。
「だから、タバサもちゃんとドレス選びに参加なさい。あ、これなんて貴女に似合いそうよ」
 それから、青いドレスと赤いドレスを1着ずつ選ぶと、キュルケはタバサを連れて試着室へと
行ってしまう。それを見ていたナビィが、呆れと愉快さが混ざった様な調子で言った。
「タバサ様、意思が強そうな雰囲気なのに」
「身内には流されやすいのかもな、逆らうのが面倒なだけかも知れんが」
「意外な一面だよな、キュルケも無駄に押しつえーし」
「きゅるきゅる」
 それにムジュラの仮面、才人、フレイムが続き、使い魔4名は笑い合う。

 それから数分後、とりあえず試着室の傍まで来た才人たちが談笑していると、試着室のカーテンが
開かれた。
「おおっ!」
 そこから現れたキュルケの姿に、才人は驚嘆の声を上げる。その正直な反応にキュルケは
満足そうに笑うと、その豊かな髪を掻き上げて見せた。
「ふふ、驚いていないで、何か仰ってくださらない? ジェントルマン」
 冗談めかして、かつ妖艶な笑みでキュルケにいわれ、才人はどぎまぎする。
「う、うん。すげー似合ってる、綺麗だ」
 どぎまぎの結果、出てきたのはそんな言葉だった。月並みすぎる台詞に己がボキャブラリーの
乏しさが恨めしくなるが、しかし、それは才人の本心だ。それだけ、ドレスアップしたキュルケは
綺麗だった。

 デザインそのものはオーソドックスなホルターネックドレスだが、胸元を強調する様な形が
彼女のグラマラスな肢体を浮き彫りにしている。裾は、172センチある才人とほとんど変わらない
身長のキュルケが着ても床に着きそうな程長く、しかし、腰近くまで入れられたスリットから
すらりとした脚が覗き、胸元と相まって暴力的なまでの色香を醸(かも)し出していた。カラー
リングの方はワインレッド一色で飾り気がなく見えるものの、それがキュルケの褐色の肌と燃える
様な赤毛に調和し、見事に映えている。
 全体的に露出が多いながらも、それにセクシーながら不思議な気品を以って着こなすキュルケに、
才人は見たまま以外の言葉が見つけられなかった。
 一方、コメントを受けたキュルケはというと、何やらシニカルな笑みを返してくる。
「あら、ありがとう。でも、そんな感想しか出てこない様じゃ、男として未熟と言っている様な
ものですわよ?」
 その言葉と悪戯っぽい笑い方に、才人は顔が熱くなるのを感じた。自分の語彙(ごい)不足
を自覚したばかりな上に、異性に真正面から指摘されてはかなり口惜しい。

 胸の内で、悔しがっていると、やがてキュルケの隣の試着室に掛けられていたカーテンが開かれた。
「わあ、タバサ様素敵!」
 ナビィの嬉しそうな声から一拍遅れ、才人は試着室のタバサの方へ目を向ける。
 瞬間、時が止まったかのように思えた。
 ネイビーブルーを基調にした、ノースリーブのドレス。肩や首回りは露出され、胴部は胸元から
下を隠す様な筒型になっている。代わりに、水色をしたシースルーのショールがケープの様に
して肩周りに巻かれ、銀細工のブローチで留められていた。腕には肘まで覆うオープンフィンガー
タイプの白い手袋が嵌められ、タバサのほっそりと伸びた腕や指をよく引き立てている。スカート
部分は足許まで覆い隠し、チューリップの花冠の様に幾重にも重なり合っているようだった。
 愛らしく、それでいて大人びた印象も与える、可憐なドレス。それを纏ったタバサは、まるで
童話に出てくる様な姫君の様に見えた。あどけないながらも実は美しい顔立ちの彼女が着飾った
姿は、この上なく魅力的だった。
 主となった少女の新たに知った一面に、才人は目を奪われてしまう。

 しかし、一瞬の後に才人は慌てて自分の感想を否定しはじめた。
――お、落ち着け、俺! タバサにドキドキしたりしたら、もう人間として終わるぞ! っつーか、
捕まるぞ! 確かに、今のタバサすげー綺麗だけど……いやいや、だからそれじゃまずいだろ!
「また始まったか」
「何がきっかけではじまるんだろ、この首振り」
 必死になって頭(かぶり)を振り続ける才人に、ナビィとムジュラの仮面が呆れた風に呟く。
そんな同僚たちの言葉も耳に入らず、自らの思考を否定していると、不意に思い至った。
――いや、でも一昨日の朝だか起きた時、まだ寝てたタバサの顔見て、なんかクるもん感じて
なかったっけ……?
 そのことを思い出した瞬間、才人は膝から崩れ落ち、うなだれる。
「なんだか知らんが、挫折したぞ」
「どうしたのかな?」
 顔を見合わせるナビィ達を他所に、才人は絶望していった。
――駄目だ、もう俺人間失格だよ、ホモ・サピエンスとして駄目だよ、ニッポニア・ロリコンに
改訂だよ……
「大丈夫、サイト?」
 一人どんどん陰を背負っていくと、ナビィが心配気に尋ねてくる。
「いや、大丈夫だよ……俺なんて所詮ニワトリだから、学名ニッポニア・ロリコンなやばい種類の
ニワトリだから……トキと違って絶滅の心配はまずありません……」
「何言ってんだ?」
 まるで意味不明な言葉を聞いたかのごとく尋ねてくるムジュラの仮面を見た瞬間、頭に一筋の
考えが閃いた。
「ムジュラ!」
 そして、才人は同僚の魔族へと掴み掛かる。
「いきなり復活したか、今度はなんだ?」
「俺を叱りつけてくれ! このロリコンどもめっつって、俺の正気繋ぎとめてくれ! お前、あの
バグベアーとかって目玉に似てるから、多分その台詞似合う!」
「相変わらず何言ってるんだか知らないが、とりあえずオレをあれと似た者扱いするなよ」
 呆れた風に言われながらも、才人はムジュラの仮面を揺さぶり続け、結果としてその場の全員から
呆れた顔をされたのだった。

 そして、キュルケとタバサはそれから何度か試着をしてから最初のドレスを購入し、一行は
服屋を後にした。
「結局、タバサにろくな感想言わなかったわね、サイトったら」
 再び大通りを進む中、心底失望した風なキュルケに睨まれ、才人は小さくなる。
「いや、ちょっと自分の学名を懸けた葛藤があって」
「学名?」
 横に並んだタバサに不思議な顔をされ、才人は思わず視線を逸らす。
「な、なんでもないよ」
「なんでもないことに、主への賛美を忘れるわけかお前は?」
 嘲りをたっぷり含んだムジュラの仮面の言葉に、才人は誤魔化す笑みを浮かべることしか
できなかった。
――今度タバサがあれ着た時は、ちゃんと感想言わないとな
 とりあえず、そう心に決めてはおく。
「それで、この後の予定はあるの?」
 そのキュルケの問いで、才人はタバサに視線を戻す。それに対し、タバサはいつもの無表情で
答えた。
「武器屋に行く」
「は? 武器屋?」
 予想していなかっただろう単語に、キュルケは不思議そうだ。
「ルーンの事を調べる」
「どういうこと?」
 続けられた言葉も合点がいくものではなかったらしく、キュルケの形のいい眉がひそめられる。
才人は1つ苦笑し、補足を入れた。

「ほら、この間俺決闘したじゃん?」
「ああ、あのがむしゃらなやつね」
 はっきりと言われ、才人は少しグサリとくる。気を取り直して、才人はルーンの刻まれた左手を
掲げた。
「そ、その時にさ、剣持ったらなんかルーンがぼんやり光って、よく判んない力が湧いてきたんだ」
「ルーンが?」
 軽く驚いて、キュルケは考えるような顔をみせる。
「猫の使い魔とかがルーンの影響で喋るようになることがあるらしいけど、それと似た様なもの
かしら?」
「多分、そう」
 キュルケの考えを静かに肯定し、タバサが言葉を続けた。
「そもそも、彼は色々と前例のない使い魔の1人。何が起きても、おかしくない」
 平坦ながらも、その声は真剣さが滲んでいた。
「だから、ルーンと剣の関係をしっかり調べておくべき」
「そういうわけらしいから、武器屋に行ってみようってことになったんだ」
 やっと納得したらしく、キュルケが小さく頷く。

「聞いたことない話だけど、剣を持ったら強くなるなんて、随分高級な特典ね」
 感心してキュルケが言う一方で、タバサの表情は明るくない。
「プラスなだけとは限らない」
 言って、タバサが才人を見据えてくる。その碧い瞳が真っ直ぐ向けられ、才人は不覚にもまた
ドキリとしてしまった。
「恩恵が強力というのなら、その分マイナスも大きいかもしれない」
 しかし、続けられた言葉に、また振り出しそうになった首が止まる。
「まじ?」
「判らない、可能性があるというだけ」
 つまり、あるかもしれないし、ないかもしれないということだ。その不確かな状況に、才人は
冷や汗が浮かぶのを感じる。
「なんか、ただ使い魔やってりゃいいってわけじゃなさそうだなー」
 楽天家といわれることの多い才人であるが、体のこととなると流石に不安も湧く。ただの
使い魔の印というだけではすまないらしいものが自身に刻まれていることに、才人は溜息をついた。
「ルーンとやら以前に」
 そこで、ムジュラの仮面が話に入ってくる。
「1番の問題は、そもそもオレたちがなんでこの世界に召喚されたのかが今一つ解せないことじゃ
ないのか?」

 言われ、全員の視線がムジュラの仮面に集中する。
「本来、サモン・サーヴァントとやらはこの世界の生き物を呼び出す呪文なのだろう? そのルールを
曲げてまで、わざわざ3つもの異界からオレたちを連れてくる等、ただのイレギュラーで済ませて
いいものかな?」
「絶対にそうとは限らないんじゃないか? フレイムみたいな幻獣はともかく、鳥や犬猫なんかは
俺たちの世界のどれかから来てる奴もいるかもしれないぞ。ほら、単に主人たちが気付いてないって
だけでさ」
 才人が言うと、ナビィが体ごと首を横に振る。
「それはないと思う。ワタシ、他の使い魔の皆とも色々話してるけど、少なくとも学院の中には
別の世界から来たってヒトはいなそうだったよ」
「そっか。じゃあ、やっぱ俺たちが特別なんだな」
 才人が相槌を打てば、ナビィは話を続けた。
「でも、ムジュラの言う通りね」
 考えるように間をおき、再び言葉が発せられる。
「ただのイレギュラーにしては、ワタシたちの召喚は他の使い魔たちと違いすぎる。それなら、それ
相応の理由があるって考えた方が自然だわ」
「で? その理由とは?」
 ムジュラの仮面の質問を受け、ナビィは少し考えてみせる。

「多分、この世界に働く何らかの意思が、何かをワタシたちに求めているんだと思う」
「ふうん? まあ、考え方としては判るが」
 ナビィの答えを聞いても、ムジュラの仮面が納得いかない風な眼を見せた。

「その何かとはなんだ? それがオレたちに関わりがあるというのか?」
「それは……」
「大体、オレたちである理由はなんだ? この世界にいない種族である魔族(オレ)や妖精(おまえ)は
まだしも」
 そこで、ムジュラの仮面の視線が才人に移る。
「人間(こいつ)をわざわざ異界から呼び寄せる意味などあるのか?」
 言われ、才人もおかしく思った。自分と同じ人間ならば、この世界にだって大勢いる。何故
わざわざ地球からこの世界へ召喚するのか、理由が見えない。
「判らないわ、今はまだ情報が少なすぎるし」
 ただ、と付け加えて、ナビィは続ける。
「少なくとも、才人にしかできない何かがここにあるかもしれないって、そうは思うよ」
 ナビィの推測を聞き、才人は改めて自分の左手に刻まれたルーンをみつめた。3つの文字の
様なものからなる、奇妙な文様。ナビィの羽にも、ムジュラの仮面の触手にも、3字と2字の
違いはあるがよく似たものが刻まれている。
 あの決闘で、このルーンは確かに自分に力を貸してくれた。しかし、それはナビィの言う通り、
このルーンが自分に、否、“自分たち”に何かを求めているからなのだろうか。自分たちを必要と
しているからこそ、このルーンは自分たちに力を貸し、そして何かをさせたがっているのだろうか。
 今はまだ何も判らない。ただ、自分が担うことになった“タバサの使い魔”という立場が、
決して安易なものでないということだけは、漠然とながら感じはじめていた。

 幅5メートルほどと大通りというには狭いブルドンネ街から、一行は裏通りに入る。汚物が
道端に打ち捨てられている汚さにうんざりしていると、剣の形をした銅製の看板を提げた建物が
見えてくる。先の服屋に比べると規模は小さく、普通の一軒屋より少し大きいといったところか。
「あれが武器屋?」
「そう」
「じゃあ、早速入りましょ」



 槍や戦斧等が立てられた籠や、剣やナイフ等が置かれた棚、服の代わりに甲冑が掛けられた
ハンガー等がそこかしこに置かれた店内で、武器屋の店主はパイプを吹かしていた。客の来訪を
待つとも待たずともいえる心持で、50代の中年の店主はカウンターに頬杖をついている。
 そこへ、店の入り口の羽扉が擦れるような音を立てたのが聞こえ、そちらに目をやった。まず
目に入ったのは、赤毛の美女だ。その次に、身の丈より長い杖を持った青い髪の少女が入って
くる。それに続くのは、怪しげな黒装束の少年と、ホタルらしき光る虫、宙に浮く不気味な仮面、
虎程もある大きな火トカゲだった。
 はっきりいって、意味不明な集団だ。しかし、店主は少女たち2人の羽織ったマントと、それを
留める五芒星が刻まれたピンを見て、少女たちが貴族であると判断した。

「貴族のお嬢様方、うちは真っ当な商売をしてまさあ。お上の方々に面倒をお掛けする様な
ことは、これっぽっちもしちゃいませんぜ」
 面倒な心境で、店主は釈明する。この街には悪徳な徴税官がいるため、商売人たちの多くが
貴族の、というよりは役人の眼を警戒しているのだ。正直なところ、あこぎな真似は身に覚えが
ある自分は余計にしている方かもしれない。
 しかし、赤毛の少女はシニカルな笑みを浮かべるとあっさり言い放つ。
「客よ」
「客? こりゃおったまげた、貴族が剣をお振りになるんで?」
 素直に驚きを露にする。「魔法が王道、武器は邪道」と信じている貴族たちが、杖でなく武器を
買い求めるとは思えなかったのだ。
「勿論、使うのはあたしたちじゃないわ。そこの彼よ」
 言うなり、少女は黒装束の少年の方を向く。その少年はといえば、棚の上や壁に掛けられて
いる武具を、興味津々な眼差しで見回していた。
「そちらの方が、剣をお使いになるんで?」
 片眉を上げながら、店主は少年を見据える。格好はともかく、顔つきは平凡、そして平和そうな
少年だ。服の上からでは判り難いが、体もそれほど鍛えられているとは思えない。剣を与えると
いうからには護衛なのだろうと思うが、それにしては頼りなさ気に思えた。

 しかし、それは好都合ではないかという打算が働く。どう考えても、この集団は剣に関しては
素人のはず。刀剣の相場など知らないだろうし、精々高く売るのが得策だろう。
 この様な考えが必要以上に貴族を警戒する原因になっているのだが、商人たる者は常に利益を
生む行動を取らなければならない。
 愛想笑いを浮かべながら剣を一振り用意し、世間話を装って話し出す。
「そういえば、近頃貴族の方々は護衛に剣を持たせるのが流行っておりましたね」
「あら、どうして?」
 さり気なく言った言葉に、案の定赤毛の貴族は反応する。“流行り”という言葉は、気位の高い
貴族には見過ごせない単語のはずだからだ。
「近頃、“土くれのフーケ”とか言うメイジの盗賊がよく出没するそうでして、それで貴族の方々も
護衛を武装させてるそうなんですよ」
 事務的な、しかし愛想のいい調子で言いながらも、内心ではこの話が貴族のプライドをくすぐる
ことを期待する。他の貴族がやっていることをやっていないのいうことは、負けず嫌いな貴族に
とっては一種の屈辱に繋がるのだ。そして、上手くすれば他の貴族たちよりもいい剣を買おうと
して、大金で買い取ってくれるかもしれない。

「メイジの盗賊って、なんで貴族が泥棒なんてするんだ?」
 期待感を必死で抑えていると、少年が不可解そうに言う。顔を見れば、本気で疑問に思って
いるようだ。その世間知らずぶりに呆れながらも説明してやろうとするが、それよりも早く青い
髪の少女が口を開く。
「メイジが全て貴族というわけではない。実家から勘当されたり、家が没落したりで、貴族の
位を失ったメイジも大勢いる」
「なるほど、そういう連中が盗賊にまで身をやつすことがあるのか」
 そこで、新たに男とも女ともつかない声が聞こえてきた。そちらの方を見やると、どうやら
あの宙に浮く仮面の声らしい。仮面が喋ったことに一瞬目を見開くが、相手はメイジと一緒に
いる存在だ。浮いている時点でおかしいのだし、驚くこともないのだろう。それに、本来喋る
はずがない喋る物体なら、“身近にいる”ことだし。

 気を取り直し、店主はカウンターに剣を置いて紹介する。
「その1番人気になっているのが、このレイピアです」
 細長い、刃渡り60サントの装飾的な剣を見せると、その傍に青い光のホタルが寄ってきた。
「うーん、これ完全な刺突剣だね」
 どうやら、このホタルも喋れるらしい。まさかと思い、赤毛の少女の傍で控えるサラマンダーに
目を向けるが、きゅるきゅると鳴いているところを見るとこいつは喋れないようだ。微妙に
残念なのは何故だろう。
「突くにはいいけど、斬ったり薙いだりとかの汎用性は低そう。それに、飾りが多くて実用的じゃ
ないよ」
 益体のないことを考えているうちに、そのホタルは出されたレイピアをそう評価する。それに
対し、内心で苦虫を噛み潰した気持ちになった。どうやら、このホタルは剣の常識を多少なり
理解しているようだ。それでは、期待していた儲けには至らないかもしれない。

 こっそりと落胆していると、黒装束の少年は笑顔でレイピアに手を伸ばす。
「まあ、いいじゃん。使える剣を買うのだけが目的じゃないんだし」
 その言葉に、怪訝とする。武器屋で武器を買う意外に、どんな目的があるというのか。疑問に
思っている間に少年が剣を握り、すると少年の左手が淡く光りだす。
「ん……やっぱり剣握ると反応するみたいだな」
「どんな感じ?」
 青い髪の少女の問いに、少年は誰もいない方へ剣を構えることで応える。その動きに、店主は
少し驚いた。一見無造作だが、隙なく堂に入った動きでレイピアが構えられる。商売上、様々な
剣士の試し振りを見てきたが、明らかに少年の構えはそれらの上位に食い込むものだ。
 素人とばかり思っていたが、どうやら評価を改めなければいけないらしい。
「前の時と同じで、力が湧いてくる。動き方も、どうするのが1番か自然に判る、っていうか
できるよ。まるでルーンに引っ張られてるみたいな感じだ」
「そう」
 しかし、少年が何を言っているのかが判らない。青い髪の少女の方も、少年の言葉を聞くなり
黙考をはじめてしまった。気にはなるが貴族の事情などに首を突っ込んでもろくなことはないため、
気にしないでおく。

「おでれーた! ただのひよっこかと思ったら、おめ、いい構え方するじゃねーか!」
「え? そうかな」
 そこへ、男の声で歓声が上がった。褒められたのが嬉しかったのか、少年が口許を緩めてその
第三者の方を向くが、店主の方は頭を抱えたくなってくる。
「あれ? 誰もいない」
 少年、そして少女たちが不思議そうにきょろきょろと見回していると、再度男の声が響いた。
「おめえの目は節穴か!」
 そこで、やっと少年たちは何が喋っているのかに気付いたらしい。彼らの視線の先には、棚に
置かれた一振りの大剣があった。
「剣が喋ってるのか?」
 喋る仮面と一緒にいるからか、あまり驚いた風もなく少年は剣に近づいていく。
「おうよ、デルフリンガー様だ! 覚えておきな!」
 歩み寄ってくる少年に対し、言葉を話すその大剣“デルフリンガー”は鍔元(つばもと)の金具を
カチャカチャと鳴らしながら高らかに名乗る。

「あれ、インテリジェンスソード?」
 その様子を見ながら、赤毛の少女が店主に問い掛けてくる。
「その通りでさ、意思を持つ魔剣、インテリジェンスソード。一体どこのメイジ様が始められ
たんでしょうかね、剣を喋らそうなんて。あいつはやたら口が悪いし、お客様に喧嘩は売るしで、
扱いに困ってるんでさ」
 ふーん、と赤毛の少女は相槌を打つ。

「それにしても、立派な名前の割には酷い見た目ね」
「仰る通りで」
 貴族の少女の言葉に、店主は素直に同意する。デルフリンガーの外見は、全長150サントほどの、
比較的薄手で無骨な片刃の大剣だ。それだけならばまだしも、刀身にびっしりと錆(さび)が浮き、
ぼろぼろである。そんな見た目である上に、自分が気に入らない客は遠慮なく貶すため、これまで
一向に買い手がつかずに売れ残っているのである。

「デルフリンガーか、なんか格好いい名前だな!」
「おうよ! もっと褒めていいぜ!」
「お前、喋る以外なんかないのか? こう、特殊機能みたいなのとか」
「知らね、忘れた」
「なんだそりゃ、自分のことだろ?」
「おりゃあ、長く生きてるかんね。どうでもいいこた忘れちまうのさ」
 しかし、そんな売れ残りな剣を相手に、少年はあっさりと談笑を始めた。邪教の神官の様な
服装の少年と錆びまみれの大剣が会話している様子は、傍目にはかなり異様である。
 なんともいえない表情で店主がその2名を眺めていると、浮かぶ仮面が両者に近づいていった。
「ヒラガ、たかだか喋るだけの剣など相手にしているな。ルーンの事を調べるんだろう」
「あ、悪い」
 軽い謝罪とともに少年が踵を返そうとすると、デルフリンガーが険しい声を出す。
「なんだよテメエ」
 刺のあるどころではない声音に、その仮面もまた険悪な雰囲気を出した。
「銘はムジュラの仮面。この小僧の同僚だ、それがどうかしたか?」
 温度の低い声での返答に、デルフリンガーはやはり険しい態度を崩さない。
「テメエ、なんか気に喰わねえな」
 明らかな喧嘩腰に、聞いている店主は困惑する。確かにデルフリンガーはしょっちゅう客に
喧嘩を売りはするが、ここまでどすの利いた声を出すことはざらになかったためだ。一方、その声を
受けたムジュラの仮面というらしい仮面は、どこか納得したように言う。

「なるほど、精霊力を感じるが、どうやら妖精とはまた違った形で精霊の眷属にあたるらしいな」
 どうりでオレに突っ掛かってくるわけだ、とムジュラの仮面は苛立たし気に呟いた。
「まあ、動けぬ者が幾らわめいたところで滑稽なだけだがな」
「ふん、フラフラ飛び回って落ち着きのねえ奴が何言ってやがる。空飛びたがる奴は、空も逃げ場に
したい臆病者ってのが相場だぜ」
 その言葉に、ムジュラの仮面が激昂する。
「言ったな、錆まみれのナマクラ刀が!」
「言ったがどうした、刺付きのゲテモン面(づら)!」
 その叫びを皮切りに、両者は凄まじい勢いで互いを罵りはじめた。自然と、周囲はそれを微妙な
表情で見守ることになる。
「剣と仮面が口喧嘩……」
「どんな光景だ、おい……」
「両者劣らぬ益荒男(ますらお)ぶり」
「いや、ただの子どもの喧嘩でしょ、これ……」

「いいだろう、ならば我が力思い知らせてくれる!」

 10分ばかりにもなる罵詈雑言の応酬の後、ムジュラの仮面が叫んだ。すると、ムジュラの
仮面の表面に雷電のようなものが瞬き始め、デルリンガーが夕焼け色の光に包まれていく。
「お、おいムジュラ! 何する気だよ!」
 少年が慌てた声を投げ掛けるが、ムジュラの仮面は取り合わない。
「やかましい! こんなナマクラ、バケツにでも変えて水汲みに使ってやるのがお似合いだ!」
 高らかな叫びが響いた瞬間、眩くも何処か暗い奇妙な閃光が店内で爆ぜた。突然の光に全員が
思わず目を覆い、光が収まるのを待つ。

 そして、光が収まった後には――

「一体、なんなんだよ」

 先程と変わらない様子で、悪態をついているデルフリンガーの姿があった。
「なっ、莫迦な!?」
 それにムジュラの仮面が驚きを露わにし、少年がムジュラの仮面に問い掛ける。
「ムジュラ、お前今こいつに魔法掛けたんだよな」
「あ、ああ、バケツになるよう呪いを掛けた……」
「いや、店の売り物勝手に呪うなよ」
「弁償しなきゃいけなくなっちゃうでしょ」
呆れたようにたしなめてくる少年とホタルを無視し、ムジュラの仮面は瞳を強く光らせてまた
デルフリンガーを怪しい光で包みこむ。
「ハッ!」
 気合の籠った叫びとともにまた閃光が瞬くが、やはりデルフリンガーに変化はなかった。
「おのれええぇぇっ!」
 そして、それがますます癪に障ったらしく、ムジュラの仮面は何度も同じ行動を繰り返す。
状況が理解できていない店主はそれを止めることもできず、とりあえず推移を見ていることしか
できなかった。

 そして、異形の仮面の挑戦が30回に達したところで、とうとう挑戦者は諦めたらしい。悪態を
つきながら、対戦相手に背を向ける。
「くっ、このオレの魔法が、あんなナマクラに通じぬとは……!」
「へっ、一昨日来やがれってんだ!」
 悔し気に呟くムジュラの仮面に、デルフリンガーは自信満々に勝利宣言をした。一方、それを
見ていた少年は感心したようにデルフリンガーを手に取る。
「ムジュラの魔法に耐えきるなんて、お前すごいな。なんか魔法に耐性とかあんのか?」
「んん? ちょっと待て……」
 少年からの質問に、デルフリンガーは何か考え込む。
「おお、そうだ! 確かに、おりゃあ魔法吸い込んだりする力あったんだよ、いやあ、ここ数十年、
下手すりゃあ何百年もやってなかったからな、すっかり忘れてたぜ!」

 その発言に、店主と貴族の少女2人、計3名が固まった。後者は自分たちの力たる魔法に対する
脅威を感じたため、そして前者は一応の所有者でありながらその事実を知らなかったためだ。
「ちょ、ちょっと待て、デル公! お前、そんなことできたのか!?」
 今まで店に置いていたが、そんなとんでもない機能が付いているとは初耳だった。それが
本当なら、この見た目がぼろぼろの剣はとんでもない大金で売れることになる。
「おうよ、おれも忘れちまってたんだがな。ま、その辺のつまらねえ奴に使わせてやる力じゃ
ねえがね」
 そう言って笑うデルフリンガーに、店主は肩を落とした。見た目もさることながら、この性格が
災いして売れ残っていた大剣である。どれだけ凄い力を持っていたとしても、やはり売れ残る運命に
あるのだろう。捨てるにしても、真の力を知った今となっては惜しすぎる。色々とがっくりきて
いる店主を余所に、デルフリンガーは言葉を続ける。

「に、しても坊主、おめ、もしかして“使い手”か? ……にしちゃあ、なんか弱弱しいな?」
「使い手? なんだそれ?」
「何って、うーん、忘れた」
 恐らくこれから先も売れ残っていくだろう大剣とそれを手にしている少年の会話を、どうでも
いい気分で聞く。しかし、次にデルフリンガーが言った言葉に、目を丸くした。

「それより、おめ、おれを買え」
 本日何度目かの驚きだ。この無駄に偏屈な大剣が自分から「買え」などと言うとは。
「買った」
 そして、それに少年が答えるより早く、青い髪の少女が言い放つ。かと思えば、少年から
デルフリンガーをひったくると、店主へ差し出してきた。
「幾ら?」
「へ、へえ、こいつは……」
 そこまで言って、店主は言い淀む。本来なら厄介払いだと100エキューでいいところだが、
魔法を吸い込むなんて力がある以上それでは安い気がする。しかし、これから先このぼろぼろの
剣にそんな力があると宣伝しても眉唾としか受け取られないだろうし、下手に高い値を提示して
買う気を失わされたらもう2度と買い手はつかないだろう。
「200エキューでさ」
 なので、無難に100だけ値上げするに留めた。すると、少女は無言で財布を取り出し、大量の
金貨をカウンターへばら撒く。店主はそこから手早く200枚数え、残りを少女へと返した。
それから店主は一旦店の奥へ行き、鞘を持って戻ってくる。
「デル公のやつは、こいつに入れておけば喋らなくなりますんで」
 言いながら少女に鞘を手渡すと、さっそく少女は喋る大剣を鞘に収めた。そして、無表情に
デルフリンガーを少年に手渡す。
「サンキュー、タバサ」
 それに対し少年が礼を言うも、少女の表情はやはり動かなかった。心なしか、微かに頬が赤く
なっている気はしたが。
「でも、タバサ。随分あっさり決めたな? 衝動買いってわけじゃないだろ?」
 少年の言葉に、タバサと呼ばれた少女が頷く。
「魔法を吸収できる力、本当なら役立つ」
「そうだな」
 その言葉に少年が納得した顔を見せるが、尚も少女の言葉は続いた。
「それと、牽制用」
「牽制? 何の?」
 少女は言葉にする代わりに、杖の先をムジュラの仮面に向けることで答えた。それに対し、
少年は呆れた顔で言う。
「タバサ、実はムジュラのこと信用してないだろ……」

 そして、奇妙な買い物客たちは帰って行った。ここまで騒がしい客は、久しぶりだった。そのため、
去った後の静寂を嫌でも意識させられてしまう。
「デル公の奴も、行っちまったからな……」
 口に出すと、少し実感した。これまで商売の邪魔にしかならなかったが、同時に寂寥感の欠片も
与えなかった同居人が、いなくなったことを。
 それから、店主はまたパイプを吹かし、来るかどうか判らない次の客を待つ。その時飲んだ
煙の味は、何処かいつもより苦い気がした。



 こうして、才人は新たな武器を手にし、一行に新たな仲間が加わった。そして、この日片や
伝説の呪物、片や伝説の魔剣という物々しい肩書を持つ両者が最初の激突を果たしたのだが、
そのことを当人たちが知るのはもうしばらく後のことである。

 ハルケギニア中東部、ガリア王国と帝政ゲルマニアという大国2つに挟まれたアルデラ地方。
ここに、両国から“黒い森”と呼び習わされるアルデンの森が広がっている。
 エギンハイム村は、その森から伐(き)り倒した木材で生計を立てる、人口200人程の小さな
村だ。国境沿いという土地柄、掲げるべき国旗はガリアとゲルマニアが交互に入れ替わるこの
村は、今現在怒りの念で満ちていた。
「あの、くそったれどもめ!」
 村人の1人が、憤怒も露わに叫ぶ。それに追随し、そこかしこで怒号が上がった。
「森に巣くったあの連中のせいで、木材の調達は大打撃だ!」
「あいつら、俺たちを干からびさせる気か!?」
 険しい表情で叫ぶ男たちは、それぞれ樵(きこり)らしい屈強な体つきをしている。それが、
今にも暴れ出さんばかりの表情をしているのだから、場の空気の険悪さは尋常でない。
「領主様は奴らを退治してくれる騎士を派遣してくれるって言うが、言うだけで全然来やしねえ」
「これ以上待って来なけりゃ、俺達でやるしかねえな」
 穏やかでないことを言い合いながら、男たちは銘々斧や鉈等の得物を振り回す素振りをする。

「み、皆、待ってくれよ!」
 そこへ、委縮気味の声が1つ上がった。すぐさま男たちの眼が声の主、線の細い少年へと向く。
「木が取り難くなったのは、翼人たちのせいじゃないよ!」
 声を張り上げ、痩せた少年は自分よりずっと大柄な男たちへ訴えた。
 翼人とは、ハルケギニアに何種か存在する人間以外の知恵ある種族、亜人の一種だ。姿形は
ほとんど人間と変わらないが、大きな相違点として背から鳥の様な羽を生やし、それで空を飛ぶ
ことができる。
「だから、翼人と争うような真似は止めてくれよ!」
 必死な様子で少年は言うが、しかし、男たちはその言葉にますます顔を険しくする。
「何莫迦言ってやがる!」
「そうだ! あいつらじゃなきゃ、誰が原因だってんだ!?」
 鋭い声で言い返され、少年は言葉に詰まった。そんな少年から男たちはつまらなそうに視線を
外すと、再び翼人に対する怒りを口にしはじめる。その様子を、少年は悔し気に見つめていた。

 一方、森の中でも喧々囂々(けんけんごうごう)とした議論が展開されている。太く育った
頑丈な樹木、ライカ欅(けやき)の頂上に建てられた建造物、翼人たちが“巣”と呼ぶ住居の中で、
数人の翼人たちがテーブルを挟んで話しあっていた。
「人間どもは、また我らに攻撃を仕掛けてくるつもりではないか?」
「地面を這うだけの虫どもが、調子に乗りおって!」
 1人の翼人が、人間に対する侮蔑と敵意を明け透けに叫ぶ。
「迎え撃つしかないのではないか?」
 他の翼人が鋭い声で言うと、1人の少女が立ち上がる。
「そんな乱暴な!」
 亜麻色の髪と翼を持つ美しい翼人の少女は、哀し気な瞳でその場の全員を見回す。
「争い合うなんて莫迦げてる! 彼らに危害を加えれば、その時はもっと強い戦士が私たちを
襲いにやってくるわ!」
 感情と理屈を半々に、少女は叫ぶ。その言葉にその場の面々は難しそうに顔を見合わせ合うが、
内1人が言葉を返した。
「それでは、奴らが攻めてきたらどうしろと仰るのですか?」
 そう言われれば、少女は押し黙ってしまう。結局、彼女も効果的な解決案があるわけではない
様だった。しばし沈黙が流れ、再び会議は再開される。重たい空気を纏ったまま。

 2つの勢力が、アルデンの森という舞台で敵対している。自分たちの生活のため、自らと違う
存在に対する拒絶感のため、互いに睨み合っている。
 そんな様子を無視するかの様に、あるいは嘲笑うかのように、“それ”は地の底を掘り続ける。

~続く~

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