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ゼロのドリフターズ-14



「――虚無の担い手・・・・・・、間違いないらしいですね」

 伝説の系統、まさに今証明された。シャルロットは己が眼で見たものは信じるタチだ。
「わたしも・・・・・・知りませんでした、そんな凄い?  ものだったなんて」
シャルロットはゆっくりと息を吐く。考えてみれば存在しないとは言えない。
なんせ隣には、その伝説の使い魔『ミョズニトニルン』が既にいるのだから。

「それにしても『先住魔法』が使えるエルフが『虚無』を扱うとは・・・・・・皮肉ですかね」

 『先住魔法』。系統魔法とは根源からして違う魔法。人間には使えず、亜人種が主に使う。
吸血鬼やコボルドシャーマン、ジョゼットの使い魔である風韻竜イルククゥも使える魔法。
そして特にエルフ種族が優れていると聞く。杖を必要とせず口語だけで唱える魔法。
系統魔法と同様精神力は消耗するようだが、消費に対して得られる効果は系統魔法の比ではない。
その強力な力によって、数に勝る人類は数千年の長きに渡ってついぞ勝てていない。

 そして始祖ブリミル――ひいてはブリミル教徒にとって、エルフは絶対の敵である。
『系統魔法』を扱う人間種族は、『先住魔法』を扱う大半の亜人とも相容れない。
系統魔法でも伝説とされる虚無と、先住魔法を使える――二つの血が流れるティファニア。
彼女は両種族にとって、どういう立ち位置になるのだろうかと考える。

「でも、あの・・・・・・わたしには使えないんです。やり方も知らないですし、ハーフのわたしに使えるのかどうかも」
「えっ? あぁ、そうなんですか・・・・・・」
やや肩透かしを喰らったシャルロットは、ともすると一つの疑問がかま首をもたげる。
杖と契約し虚無を扱え、先住魔法は使えないハーフエルフの少女。
「普通の四系統魔法は使えますか?」
「う~ん、前に姉さんから教わったんですけど、何故か全然無理でした」
「そうですか・・・・・・」


(デルフ、虚無に必要なものは?)
(あ? そりゃあ才能さね)
(・・・・・・具体的に、どういう?)
(まあメイジであるってこったろうな。詳しくは覚えてねえ、思い出すのはいつも唐突だからなんとも)
デルフリンガーと心の中で会話しつつ、シャルロットは思い直す。

 そもそも自分には始祖のオルゴールの音が聞こえない。
昔は父様からのプレゼントだと土のルビーは四六時中嵌めていたし、始祖の香炉も遊び道具にしていた。
――しかし、役に立った試しはなかった。
それにティファニアがブリミルの――虚無の後継者であるなら、さらに何人も発現することはないのかも知れない。
しかしもう一つ確認しておきたいことがある。

「ティファニアさん、使い魔はいらっしゃいますか?」
「え? いえ・・・・・・いませんけど」
「やり方は?」
「知ってます、試そうと思ったこともあったけどなんだか恐くて・・・・・・」

「今・・・・・・やってみる気は?」
シャルロットは真剣に問うてみる。しかしティファニアは少し考えた後に答えた。
「ごめんなさい」
「・・・・・・いえ、失礼しました。無理強いは出来ません」
当然ながら使い魔は生き物だ。もしも大型の生物でも召喚してしまえば、住む場所や食糧にも困ることになる。
小さな村でそれは憂慮すべき問題となってしまう。生半可な気持ちで出来るものではない。

 伝説の使い魔のルーンが、キッドとブッチに刻まれている。
これでティファニアが召喚した使い魔に、伝説のルーンが刻まれていればと思ったが――
淡い期待に過ぎないことは重々承知している。

 仮に自分達がそうだったとしてもあくまで候補だったに過ぎず、ティファニアが目覚めたから用無しになったなんてことも。
それはそれで諦める理由にはなるのだが――・・・・・・これ以上は確かめようがない。


 それよりも目下考えねばならない重要事項がある。
ティファニアが王族で、ハーフエルフで、虚無の担い手で、ルビーと秘宝を所有している。
そんな複雑に絡み合う現況、その対応をどうするか。
公表はもちろん保護も微妙なライン。指輪と秘宝を預かっても出所を聞かれれば困りモノである。
ティファニアのことを話すには問題が山積みだ。

(現状維持が妥当・・・・・・なのかな)
とりあえずこの件は胸にしまっておく。
ティファニアにとって今の生活が一番幸福なことだと思うから――
残党も記憶を消せば済む。下手すれば血生臭くなるかも知れない状況に、彼女を放り込むわけにはいかない。
まして少女はアルビオン王家による事前処断によって両親を失っているのだ。

「・・・・・・ティファニアさん、つかぬ事をお伺いしますが・・・・・・お金の方はお姉さんお一人で?」
場合によっては多少の援助をしようとも思う。特別銃士としての給与にも余裕がある。
この小さな心に留めておく以上は、村で何かあろうものならティファニアと子供達――
さらにルビーと秘宝の所在までわからなくなってしまう可能性がある。
そうなれば例え隠していたことがバレなかったとしても、自分の責任であることには変わりない。
現状維持で隠し通すのなら、あらゆる面でフォローする必要性があるだろうと考えた。

「はい、マチルダ姉さんが仕送りしてくれてます。ただ最近は連絡もなくてちょっと心配で・・・・・・。
 家を空けることは珍しくないんですが、いつも定期的に手紙を送ってきてくれるのに・・・・・・」
「そうなんですか」
そのマチルダ姉さんとやら、女手一つで孤児院の運営資金を捻出するくらいだ。相当な稼ぎ頭なのだろう。

(・・・・・・うん?)
どうしてだろう、そこまで珍しい名前というほどでもなかろうが何か引っ掛かった。
まるでつい最近聞いたことがあるような気がする・・・・・・。

(――ここって確か・・・・・・)
サウスゴータ地方のウエストウッドの森。ウエストウッド村のティファニアの家。
貴族の娘でティファニアに魔法を教えたのだから、当然その姉さんとやらはメイジ。
マチルダ――サウスゴータ――メイジ――最近連絡がない――
バラバラのピースがシャルロットの脳内で組みあがっていく。

(ぁぁ・・・・・・)
見た目こそ平静に、シャルロットは頭の中だけで、その頭を抱えた。
そうだよ、そうだ。"マチルダ・オブ・サウスゴータ"。
破壊の杖強奪未遂事件の犯人、"『土くれ』のフーケ"こと"ロングビル"の本名ではないか。
ティファニアは私達が捕まえたことどころか、まだマチルダが投獄されたことも知らないのだろう。
いやそもそもフーケの活動そのものを知らないような雰囲気だ。
つまるところ私達が捕えたことで、結果的に孤児院の皆を路頭に迷わせることになってしまう。

(・・・・・・しかしまぁ、何の因果なんだろう)
ある種の出来過ぎた偶然。まるで何か引力のようなもので惹かれ合ったかのような――
フーケは犯罪者だ、同情の余地はない。ましてあれほどのゴーレムを創れる術者であるのなら。
盗賊行為などしなくても稼ぐ方法はいくらでもある筈だ。
強力な土メイジや水メイジはいくらいても困らない。

 特に治癒全般や錬金・ガーゴイル作成などは、ただ魔力が有り余るだけでは意味を為さない。
ゆえにシャルロットの膨大な魔力を地下水が利用したところで限度がある。
重要なのは絶対的なセンスと経験であり、30メイル級のゴーレムをあっさりと創る実力は当然重宝されるレベルだ。

 私達がフーケを捕えたのも正当な防衛行為であり、何一つ負い目を感じる必要はない――
・・・・・・筈なのだが、純真無垢なティファニアを見ていると、どうしようもない罪悪感に駆られる。
(正直に・・・・・・言う?)
シャルロットは自問する。ティファニアとていつまでも甘えていられない年齢だろう。

 遅かれ早かれ知ることになる。姉はもう戻ってこない――帰ってこないと。
今の内に告げておくべきなのだろうと決意しようとした時。
考え込んでいるシャルロットに、ティファニアが上目遣いで覗き込んでくる。

「あの・・・・・・シャルロットさん。その、お友達になってくれませんか?」
(くっ・・・・・・)
ティファニアの精一杯の勇気。シャルロットは声を押し殺して呻く。
どうしようもないくらいに機先を制されてしまった。不意打つ致命の一撃。
「わたし・・・・・・同じくらいのお友達がいなくて、折角会えて・・・・・・」
なんともはや、可愛い生き物なのだろう。子供達だけでなくティファニアもまた在りし日の妹を想起させる。
ジョゼットはもう割とすれてしまっている――もっともそれはそれで可愛いのだが――
ティファニアのそれは、子供のようなそれなのだ。穢れなき乙女のそれ。

 こんなに必死に声を絞り出し、懇願するような瞳を浮かべるの少女。
彼女に残酷な現実を突きつけることなど・・・・・・出来なかった。
「・・・・・・はい、友達になりましょう」
ティファニアの顔がパァッと明るくなる。
「ありがとう!! テファって呼んで。あなたはえぇと、シャルロットだから・・・・・・ろ・・・・・・ロティでいいかしら?」
「えぇテファ」
「やった! ロティ!!」

 う~ん・・・・・・可愛い。本来の美しさも相まって、存在そのものに圧倒される。
こんな彼女は絶対に汚せない。友達として、愛称で呼んでくる彼女の笑顔を曇らせる行為など。
"『キャベツ畑』や『コウノトリ』を信じている可愛い女のコに、無規制の官能娯楽本をつきつける時の様な下卑た快感"。
なんてことは微塵にも思わせないほどの神々しさすら感じ入る。

 ほんの少し前には殺し合いをやっていたから、なおのこと癒されるものであった。
「ついでです・・・・・・キッドさんもお友達になったらどうですか?」
「えっ」
「えっ」
何の気なしの言葉にキッドとテファが揃って驚く、お互いに想像してなかったのだろう。
強盗団だった粗野なオジサンと、村で子供達と平穏に暮らす優しい少女。
さながら対極にいるような二人である。

 元々ティファニアは母を無惨に殺されたことからも、大人の男性に恐怖心を持っていた。
シャルロットが頼んだこととはいえ、残党相手の暴力も間近で見ていた。
簡単に「お友達」と言うにハードルは高かった。
キッドにしても少女と友達なんてガラでもない。

「・・・・・・失礼。それはおいおい慣れてからでいいですね。テファ、何か書くものある?」
ティファニアは頷くとすぐに席を立って紙と筆を持ってくる。
シャルロットはそこに自分の所在地、学院と首都にある家の詳細を書いた。
「私の連絡先。さしあたって手紙のやりとりでも。何か困ったことがあたら遠慮なく言って」
「うん!」
ティファニアもウエストウッド村へのことを書くと互いに交換する。

 シャルロットの心が少しだけ痛む。
"友達"という名分で、常に情報を把握しようとする打算的な行為。
もちろん友人としての交流も含まれているが、それでも計算を含めた行動。
「それで・・・・・・アルビオン王室と始祖のルビーと秘宝のことは、とりあえず預けておくことにする」
「いいの? 本当に?」
「私が判断出来る領分を超えてるし、それにテファも今の生活がいいでしょ」
「うん、子供達がいて、姉さんがいて、それにお友達も出来た。今のままがいい」

 テファの声にはいずれそのままではいられないだろう憂いが含まれていた。
シャルロットとしてはそれだけわかれば十分であった。
「報告しようにも環境が特殊過ぎるから、今はまだ内密にしておく。
 キッドさんも・・・・・・ここは三人の秘密ということでお願い出来ますか?」

「まあ・・・・・・それは全然構わないけど」
キッドの目が「いいのかい?」と言っている。それは多分な意味を含んでいた。
「幸せは――かけがえのないものですから」
己を重ねるように言うシャルロットに、キッドはそれ以上何も言わずに納得してくれたようであった。
今の幸せが崩れることの恐さは、つい先刻に身に沁みていた。
ただでさえ辛く生きてきたであろう新たな友達を、この手で追い詰めるなど出来ない。


(あとは・・・・・・)
マチルダ、捕えられているフーケのことだ。
盗賊行為を繰り返した大犯罪者ではあるが、殺人行為は犯していないと聞く。
あんなゴーレムにまともに相手出来る者など早々いない上に、用意周到だったからそれも当然であった。

 ルイズ、ブッチ、キッドへの殺人未遂行為こそあるのだが――
実際に危害が加わってはいないから、どうあっても絶対に取り返しのつかないことでもない。
それにワイルドバンチの二人も元は凶悪過ぎる無法者。裁かれぬままこちらの世界にやってきている。
シャルロット自身たった今、隠匿行為を行おうとしている。ある種、王家への背信行為にも近い。

(望みは・・・・・・薄くない)
テファに伝えるのは駄目だとわかった時でいい。それまではやれることをする。
あれだけの術者を遊ばせておくのも少し勿体無い。此度の諸々も利用出来る。
考えもまとまったところで、シャルロットは椅子から立ち上がった。

「それじゃ・・・・・・テファ、私達はあの男をなるべく早めに引き渡さなくちゃいけないから」
何よりもウェールズ一行に連絡もしなくてはいけない。

「わかったわ、お手紙出すね」
「えぇ、待ってる。けれどもしかしたら、またここに戻って来ることになるかも――」


 改めてウエストウッドの森そのものの記憶を消したセレスタンを軍馬に乗せる。
シャルロットも乗ると、キッドは引き続き借り受けた老馬の方へと乗った。
首都と港町ロサイスの間にある、シティオブサウスゴータへと馬を走らせる。
ウェールズらに状況報告を終えて判断を仰いだ結果――
残党の処遇に関しては、現王陛下ジェームズに任せれば良いとのことであった。
羊皮紙に羅列された貴族の名も洗い出してくれるそうだ。

(これで一段落か・・・・・・)
シャルロットは馬上で一息つける。考えるべきことは多く後悔すべきことも多い。
シティオブサウスゴータへと到着するまでの時間、ゆったりと悩んでいこうと・・・・・・。

 シャルロットは蒼天を仰いで独りごちた。


「――おう・・・・・・あぁ・・・・・・」
ロサイスにある宿屋の一室のテーブルに両足を投げ出しながら、ブッチはキッドと話していた。
「そっちはいいな、楽しそうで――」
ブッチは笑う。大変な目に遭ったキッドへ向けてだけでなく、自嘲的にも。
正直退屈過ぎた。情報漏洩を防ぐ為にと、ロクに外出も出来ない。
宿屋の一室で酒をあおるしか出来ない。それすらも控えめにと釘を刺されている。
パレードなんて面倒だと分かれたが、こっちも面倒臭さで言えばそこまで大差なかった。

「――あぁ大丈夫だろ、恐らくな」
そう言って次は会話相手がシャルロットに変わる。
「よう・・・・・・――あいよ、了解」
ブッチは立ち上がる。ウェールズへの報告の為に部屋まで行かねばならない。
まるで小間使いのような扱い。一応極秘の特使であったし、今は名目上護衛だ。
雑用も今更と言えば今更であり、渋々ながらも受け入れている。

 しかしキッド達と比べて仕事と言えるのか。あまりにもやり甲斐がない。
僅かに10人ばかし、ウェールズと側近3名、トリステイン特使4名、そしてルイズと自分で10人。
護衛には少なすぎるが、ほんの一日二日程度でも街中で息を潜めるには多すぎる。
隠れる生活はワイルドバンチの頃に慣れていた。今の状況はあらゆる点で杜撰としか言いようがない。
それでも特段進言しようとは考えない。ドンパチともなれば暇潰しにもなるし、報酬にも繋がる。


 通信連絡用携帯魔道具人形を持ったままブッチは部屋を出る。
兎にも角にもようやく動ける時が来たことを喜んだ。鈍って怠くて仕方ない。

 ブッチはウェールズが泊まっている部屋の前に立つと、粗雑にノックする。
「どなたですか?」
「キャシディだ」
『ロック』によって厳重に鍵を掛けられた部屋の解錠を確認するとブッチは中へと入る。

「臨時報告だそうだ、詳しくは本人らから聞いてくれ」
ブッチの横柄な態度に隣にいる側近の一人であるパリーが睨みつけてくるが気にしない。
既にウェールズは認めていることであった為、老メイジも苦言を呈するようなことはなかった。

「臨時? 何かあったのか。すまないがキャシディ殿、それとパリー、皆を集めて来てくれないか?」
「・・・・・・了解」
「わかりました殿下」
ウェールズは投げてよこされた人形を掴むとすぐに話し始める。
ブッチは既に事の仔細を聞いている。ウェールズの驚愕の声を背後に残し、ブッチは部屋を足取り重く部屋を出ていった。


 シャルロットとキッド率いる影武者集団から、遅れて出発した本物のウェールズ一行。
もしも道中で影武者の一団が壊滅するようなことがあれば即応せねばならない。
よって早々に大陸から脱出することもなく、隠れるように、偽物一行からつかず離れ過ぎずを保っていた。

 そうして身を晒すことのないよう、少人数で遠く回りつつ行程を消化していった。
そして昨夜の段階で一足早くロサイスへと到着。影武者達を宿にて待っていた。
はっきり言って、傍から見れば異様な集団以外の何者でもない。
普通人を装いつつも慣れぬ所為か不自然さが目立つ。貴族のくだらないプライドも邪魔しているのだろう。

 平民に擬態しようと努めることが、逆に挙動不審さを際立たせている。
唯一シャルロットの父親であるシャルルだけは、慣れているのかそつなくこなしていたが――
八割を占める怪しい連中が広くもない部屋に集まって、ひっそりと今後のことを会議していた。

 内容はつい数時間前に影武者の一団が壊滅したということ。
首謀者の貴族の名と、捕えた残党は現アルビオン王陛下であるジェームズ一世に任せる。
目下は自分達がこれからどう行動するのかということであった。

 襲撃はいずれ国中に広まる。ならば今は新たな襲撃を恐れた体で、隠れてアルビオンを出るのか。
逆に大手振って危機を乗り越え、ロサイスへやってきたように見せて大々的に喧伝するのか。
どちらに転んでも整合はつけられる。だからこそ話し合うにも時間が掛かった。

 結局は隠れて脱出することに決定する。
ここまで順調に影武者が引き付けてくれた以上、無事脱出するのが肝要であると判断された。
一度出て街へ入り直すには、目撃者にも注意せねばならない。
貴族派に生きていることを知らせてしまえば、また新たな危険が発生しかねない。
噂は遅かれ確実に伝わるのだから無理はしないという判断に落ち着く。
影武者によるパレードのおかげで支持も上げていて、既に必要充分であった。


 陽も落ちかけた頃に臨時に船を出し、一行は無事乗り込んでアルビオンを脱出した。
帰りがけのアルビオン大陸もそれはもう圧巻であった。
今まで自分達が立っていた大地から離れていく姿は、どこか夢心地な気分にさせられる。
「二人は大丈夫かしら」
「そりゃ連絡あったんだから大丈夫に決まってんだろ」
「そうだけど・・・・・・なんとなくよ」
ルイズの引っ掛かりも仕方ないともブッチは思う。

 物事が上手く運びすぎる時、大抵人間というものは逆に不安になる。
光があれば影があるように、幸運・不運はどこかで帳尻を合わせようとするのではと考えてしまう。
(まあ・・・・・・大抵ロクなことにならねえな)
ブッチは経験からそう思った。単純な確率の問題でもあると。

 物事を幸・不幸という大きく二つの両極に切り分けて見れば、それはコインの表と裏と似ている。
連続で表ばかりが出続けること・・・・・・決してありえないとは言えないが、大概どこかで裏目が出るものだ。

(しかもそういう時に限って、それまでの勝ち分が引っくり返るくらいの・・・・・・な)

 そんなことを思いつつ遠くを眺めていると、双月が照らす夜闇の中に何かが映り込んだ。
長年の勘か、嫌な感覚にブッチは銃を握る。
ガンダールヴの力によって強化された視力でよく見れば――それは一隻の船であった。
「おう」
「なによ」
「この船は臨時の特別便だよな・・・・・・?」
「そうね、それがなに?」

 確認するまでもないことではあった。
港でのやりとりは朧げながらも見ていたし、乗っているのも自分達だけだ。
操船もウェールズ付きのメイジ達で必要最低限の航行をしているだけ。
基本的に他国からアルビオンに行く為の船は、大陸が最も近付く時に限定されると言う。
船の動力源たる貴重な『風石』の消費を抑える為だとか。

 当然アルビオンから他国へは、高所から低地への移動の為に消費は抑えられる。
しかしそれでも距離による消費は馬鹿にはならないので、定期船の数は少ない。
結局は王家の支払いということで小型船を一隻買い取っただけで、他の人員はいない。
それなのに自分達が乗る船よりも後方に、船が見えるということの意味。
「遠くに船がいる」
「えっ? それって・・・・・・」
ルイズは続く二の句と共に生唾をゴクリと飲み込むと、ウェールズ達へ知らせに走った。

「ヤベーな、ヤベーよ」
頭が冷徹に現状を把握しながら、ブッチの口から焦燥が漏れ出ていた。



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