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第14話『失意』


アセルスが宿についた頃、すでに火は宿を包んでいた。
宿の中からも反撃を試みているようだが、状況は芳しくない。

『相棒!宿の食堂のところにタバサとキュルケの嬢ちゃんがいるぜ!』
目もないのに何故見えているのかは分からないが、デルフが叫んでみせる。

「超風」
街路樹を根こそぎ吹き飛ばす強風に、傭兵達は吹き飛ばされる。
術の中でも浪費が激しい為、使いたくないがこの人数相手では止むを得ないと判断する。

「アセルス、ルイズと一緒じゃなかったの!?」
姿を確認すると同時に、キュルケが叫んだ。
食堂から姿を現したのはタバサとキュルケ、エルザの三人のみ。

「ルイズとあの男は?」
「船着場」
「あの娘の婚約者……ワルドって言ったわね、私たちに囮を任せて向かったのよ」
タバサとキュルケが簡潔に説明する。

「エルザ、君は何故ついていかなかった?」
「も、申し訳ございません。ルイズ様にお二人を援護を命じられたので」
ルイズの名を出され、アセルスはそれ以上の追求を止める。

「なら引き続き、彼女達と共に敵を足止めするんだ」
「かしこまりました」
アセルスの命令に即座に返事する。

「私達は足止め役が決定なのね……」
キュルケが軽く愚痴を零す。
最も、ルイズの任務はトリステイン王女の勅令だ。
他国の出身である自分達が、何時までも同伴する訳にもいかないとキュルケ達は承知している。

援軍の傭兵が松明を灯して、向かっている。
タバサはシルフィードに命じて、崖に待機させている。

感覚の同調で上空からの視界を確認していた。
アセルスが姿を消すのを見届けると、キュルケは傭兵に向けて憂さ晴らししようと杖を構える。

「珍しい」
「足止めが?」
キュルケの返答にタバサは首を振る。

「ルイズの婚約者」
端的すぎて分かりにくいタバサの会話。
キュルケはそれなりに長いつき合いなので、察する。

「ああ、口説かなかったから?」
タバサが無言で頷いて、肯定する。
確かに良い男なら、婚約者だろうと誘うのがキュルケの信条。

ルイズへの配慮などと考えるような性格ではない。
むしろからかうのも兼ねて、進んで誘惑するのが彼女の性格だろう。
にも関わらず、ルイズの婚約者であるワルドにはその気になれなかった。

「何でかしらね?顔は合格だったんだけど」
自分でも不思議そうに首を傾げる。

「お二人とも、その辺に。そろそろ来ます」
エルザが二人の会話を遮る。
吸血鬼の夜目には、敵影を既に捕らえていた。

「そうね……さあ、第二幕の幕開けよ!派手に燃えなさい!!」
少女達は呪文の詠唱を行い、迎撃の準備を始めた……



──その頃、宿から抜け出したワルドとルイズは港近くまで到着していた。

「ワルド大丈夫?」
船着き場の階段を昇りながら、怪我の具合を尋ねる。

「あぁ、彼女達に足止めして貰っているんだ。
今のうちに、僕らは追っ手を振り払わないと……」
傷を抑えながらも、階段を急ごうとするワルドが人影の存在に気づく。

「ルイズ!」
前を見るよう注意を促す。

「え?」
ルイズが正面を向くと、仮面の男が行く手を塞いでいた。
杖を向けると同時に、放たれた火球がルイズを目掛けて飛来する。

「危ない!」
ワルドが風の障壁で反らす。
ルイズも反応が遅れながらも、杖を取り出していた。

「錬金!」
ルイズも爆発しかしない魔法を唱える。
しかし、今では幾度となく練習した爆発の魔法。
狙いの正確さを優先した為に威力は落ちるが、それで十分だった。

乾いた炸裂音と共に、男の足場が欠ける。
しかし、人間がバランスを崩すには十分すぎた。

『うぉ!?』
「よし、エア・カッタ……」
ワルドの呪文詠唱は不完全に終わる。
傷の痛みに詠唱の集中が途絶えてしまったからだ。

「ぐっ……!?」
集中し直そうとするが、既に遅い。
体勢を崩した相手のメイジは詠唱を済ませていた。
メイジは仮面の裏でにやつき、渾身のFLAMEボールを放とうとする。

『あ?』
不意に仮面の男が意味のない呟きを漏らした。

彼にはすぐに理解できなかった。
何故自分が倒れようとしているのか。
次の瞬間、男の視界に移ったのは首が千切られた自分の体。

『お、俺の体ぁ……』
仮面の男の悲鳴は最期の言葉となった。
首は階段下へ転げ落ち、体はその場に倒れる。

「ルイズ、大丈夫?」
「アセルス!」
首を切り飛ばしたのは追いついたアセルスだった。

「ええ、大丈夫」
階段を一気に駆け昇っていたので、呼吸は乱れているが怪我はない。
立ち止まったことで、ふと街に来る前に襲撃してきた傭兵を思い出す。

「崖で襲った傭兵が仮面のメイジに雇われたって言ってたわよね?」
「ああ、おそらく宿で襲ってきた連中もだろう」
ワルドがルイズの意見に同意する。

「最も、本人に確認は出来ないがね」
首と胴体が生き別れになった死体を見ての一言。

「言いたくないが、礼は言っておこう」
「構わないわ、貴方を助けた訳じゃない」
やはり馬が合わないのか、二人は険悪な雰囲気に包まれる。

「先を急ぎましょう」
ルイズが様子を見かねたように、誘導する。
二人は目線を交わすこともなく、ルイズの後を追いかけた。



船の出航予定はなかったが、ワルドが交渉してどうにか発進させた。
積み荷の値段を吊り上げようと渋る船長を、アセルスが脅したりと一悶着はあったが。

「このまま順当に行けば、明日の朝には着くだろう」
燃料代わりに魔法を唱え続けたワルド。
疲労しきった表情で甲板で風に当たっていたルイズの元に近づく。

「うん」
一人でいたい気分故に、素っ気ない返事を交わす。
ワルドはそんなルイズの心情を察せずに、話しかけ続けた。

「緊張しているのかい?」
今度は首だけ振って答える。
任務に緊張していない訳ではないが、今は考えてもいなかった。

「どこか具合でも悪いのかい?」
「ううん、考えごと」
再び否定し、夜空を見上げる。
雲と星しか見えないはずの空に、影が映っていた。

「……何かしら、あれ?」
ルイズに釣られて、ワルドも視線を上に向ける。

「船かな……まさか!」
ワルドが答えると同時に違和感に気づく。
アルビオンが遠のく日に、普通の船が出ているはずがない。

上空から近づいてきた空船が大砲を放った。

「海賊だ!?」
船員の一人が怯えながら叫ぶ。

「アセルス……!アセルスは?」
彼女の姿が見えない。
ルイズの呟きに、ワルドはアセルスが何処に向かったか気付いた。

「まずい!ここで船が落ちたら町に危害が及ぶぞ!!」
空船の操縦は非常に繊細でもある。
操縦士がいなくなれば、船ごと転落しかねない。
もし、アセルスが操縦士を殺してしまったら……

「アセルス!」
最悪の想像にルイズが思わず叫ぶ。
当然、その声はアセルスに届いていなかった。



──その頃、海賊船の内部では一人の男が船長室に向かっていた。

「皇太子様、予定通り船の上に到着しました」
海賊船の個室の扉が叩かれる。

「船にいるときは船長と呼べと言っているだろう」
変装用のつけ髭をつけながら、扉越しに忠告する。

「はっ!申し訳ありません」
「君も甲板に向かえ。私も変装を済ませ次第、すぐ行く」
「はっ!」
短い返事と共に足音が遠のいていったのを確認する。

「ただの海賊じゃないようね」
後ろから聞こえてきた女の声に皇太子と呼ばれた若い男が振り返る。

「何者っ……!」
叫ぼうとするが首を捕まれ、杖をたたき落とされてしまう。
部屋にいたのは宝石のように緑鮮やかな髪をした一人の女性。
しかし、いくら足掻いても微動だにしないほどの腕力で締め上げている。

「詳しく説明して頂戴」
皇太子を掴んでいた女性の正体は、アセルスだった。



「アセルス、良かった!船を落とすんじゃないかと思ってたわ……」
海賊船を制圧し、船から降りてきたアセルスに安堵する。

「その程度の分別はあるわ」
少し拗ねた口調で、ルイズに返す。

「任務も無事終わりそうよ」
「それはどういう意味……?」
アセルスが口にした言葉の意味をルイズが聞くより早く、現れた人物に気を取られる。
姿こそ海賊船の船長のような荒くれた格好をしているが、その顔達には見覚えがあった。

「ウェールズ皇太子!?」
船から降りてきたアルビオンの王子にルイズが驚く。

「君かい、大使というのは?」
ルイズは慌てて手紙とアンリエッタより預かった指輪を差し出す。

「あの……何故、賊のような格好をしているのです?」
ルイズの質問にウェールズは自嘲気味に笑いながら答えた。

アルビオン王族派は既に落城寸前まで追いつめられている。
故に物資を補充するにも、貴族派の運送中に奪わねばならない。
無論、軍の姿で奪う訳にはいかないのでこうして変装していたと簡潔に説明する。

「明後日の早朝、我々は最期の攻撃を仕掛ける。いいタイミングで来てくれた」
懐から王家の紋章が描かれた、小さな皮の袋を取り出す。

「最期って……死ぬおつもりですか!?」
「万に一つも勝ち目はないよ。
貴族派の軍勢は七万以上、我が軍に満足に戦える兵の数は百分の一にも満たないんだ」
包み隠す意味もない為、ウェールズが正直に現状を語る。
皮の袋から指輪を取り出すとルイズから受け取った水のルピーと示し合わせた。

すると、宝石同士の間に色鮮やかな虹が広がる。

「おぉ……!」
感嘆の声を漏らすワルド。

「確かに本物の水のルピーだ、お返ししよう」
指輪を返すと共に、手紙を確認する。
感慨深げに読み進めていたが、内容を知るうちに皇太子が衝撃を受けて固まる。

「アンリエッタが婚約……」
一瞬愕然とした表情を浮かべる皇太子だったが、すぐに切り替えてルイズ達へ振り向く。

「失礼、手紙の件は了承した。
すまないがニューカッスルの城までご足労願いたい。」
ウェールズは部下に命じると、海賊船は雲の中へと消えていった。



アルビオンの城、ニューカッスル。
ルイズ、ワルド、アセルスの三人は客人としての持て成しを受けた。

まずは任務の手紙を受け取るべく、皇太子の部屋に向かう。
途中ルイズはアセルスの襲撃による非礼を詫びたが、彼は笑って返した。

「いや、見事なものだよ。
兵達に気づかれることなく、私の部屋に忍び込んだのだから」
アセルスの空間移動があれば容易いのだが、無論ウェールズは知らない。

「さて、ここだ」
たどり着いた部屋は王族とは思えないほど質素な作りだった。
あるのは机と数枚の羊皮紙、そしてベッドのみ。
机の引き出しを開けると、そこには擦れきった手紙が仕舞ってあった。

「宝物でね」
そう呟くと、名残惜しそうに手紙を読み返した。
しばしの反芻と共に、手紙を折りたたむとルイズに手渡す。

「手紙は確かにお返ししよう。
今日はもう遅い、何もない城だがゆっくり泊まっていってくれ」
ウェールズ皇太子自らが客室へ案内する。
普通ならばありえない役目にルイズは悟った。
夜分遅いのも理由だろうが、アルビオンには使用人すら満足に残っていないのだ。

「戦闘を前に非戦闘員を乗せて、『イーグル』号が出発する予定が明後日の朝だ。
明日は最期の晩餐として、盛大なパーティを開く。君たちにも是非とも出席してほしい」
「パーティ?」
場違いな単語に、ルイズが聞き返す。

「ああ、滅びゆく王国による最期の決意表明さ。
我らはただ死ぬのではない、栄誉ある敗北を成してみせる」
ウェールズにあるのは死の恐怖でも、絶望感でもない。
王族の義務、そして義務に対する決意だけが込められていた。

「殿下……恐れながら、申し上げたいがございます」
今更何を言ったところで、自分には何も出来ないだろう。
質問の答えが分かっていても尋ねようとするのは、アンリエッタへの言い訳か自己欺瞞か。

「姫様の手紙には亡命を勧める一文がありませんでしたか?」
ルイズは自分の声が震えそうになるのを必死に押し隠す。

「いや、一言たりとも書かれていなかったよ」
ウェールズは平然と嘘をついた。
理路整然と考えれば、ルイズにもそう言だろうと分かっていた。

肯定する訳にはいかない。
亡命を進めたと知れたら、アルビオン滅亡後にトリステイン侵略への大義名分が立つ。

愛する者を戦争に巻き込みたくないから、亡命も行わずに滅亡に向かうのだ。

決して結ばれない悲恋。
だからこそ何も言えなくなってしまう。

「失礼致しました……」
必死に搾り出した声はか細く、今にも掻き消えてしまいそうだった。

部屋に案内されるまで、ルイズは無言で歩く。
足音以外、誰も一言も発さずに沈黙だけが支配する。

「ここだ。
何分状況が状況なもので、満足に清掃も出来ていないがご容赦願いたい」
ウェールズが鍵を開ける。
ルイズに知覚する余裕などないが、部屋には埃臭さが充満していた。
おぼつかない足取りで鍵を受け取ると、一度も顔を上げぬまま部屋に入る。

「君の素直さは、我が国の大使には適任だったよ。
もう滅ぶだけの国には、守るべきものは名誉しかないのだから」
扉が閉まる前に告げたウェールズの独白。
ルイズが振り返ると、ウェールズが少し寂しそうに微笑んでいた。
王族としての責務を果たさねばならない彼が見せた、素顔の表情だった。



「貴女もこんな部屋ですまないが、ゆっくりしていって欲しい」
「ええ」
アセルスは短く返し、鍵を受け取って立ち去る。
彼の行動に思う所はあるが本人が決心してる以上、口を挟むつもりも無い。

「殿下、少々よろしいでしょうか?」
鍵を手渡す際、ワルドがウェールズを引き止める。

「何かね?」
「不躾ながら是非お願いしたいが……」
膝を折り、会釈するとワルドは本題を切り出した……

何も考えず眠ってしまいたかったが、ルイズは夢を見る。
衰弱したルイズに追い討ちをかけるように、アセルスの過去が幕を開けた。

針の城の追跡から逃れるべく、傷つきながら白薔薇を守り続けるアセルス。
逃亡生活を続けるアセルスと白薔薇は、激動の日々にお互いの絆を強くしていった。

また逃亡を続けながら、アセルスは多くの人物と関わる事になる。
ヤルートという下卑た化け物のような執政官の基地に囚われてしまう。
女性を侍らせハーレムに耽る姿は、ルイズの嫌う怠惰な貴族連中にも似ていた。

アセルスなら力ずくでの脱出も可能ではないのかとルイズは考える。
出来なかったのはまだ未熟だったからか、力を振るうのに抵抗があったからか。

その両方かもしれない。

基地が襲撃され、アセルスは襲撃した組織の諜報員だった女性に協力。
脱走後も一息つく間もなく、基地から逃れた先で今度は妖魔に襲撃された。

相手は毒を自在に操る下級妖魔。
城の追っ手ではなく、アセルスの力を狙っての凶行だった。
不意を衝き、人間ならば確実に致死量を超える毒に蝕まれたアセルス。

「そんな……どうして毒が効かねえんだ!」
妖魔がうろたえながら、アセルスに突き立てた爪を確認する。
確かに禍々しい黒色の水滴に濡れており、毒が注がれているのが確認できる。

上級妖魔を下級妖魔の力では殺せない。
鍛錬により力の差が埋まる例もあるが、努力を行う妖魔というのはまずいない。
努力と言うものは妖魔にとっては、評価に値しない無価値な物。

それが妖魔の掟であるとアセルスは白薔薇に教わる。

では、上級妖魔がどれ程の力を持つのか?
ルイズはアセルスの強さは知っていても、上級妖魔同士の戦いを見ていない。
そんな彼女の疑問に答えるように、針の城から上級妖魔が追っ手として現れる。

──現れた妖魔は、今までの妖魔とは格が違うとすぐに気付かされる。

針の城に存在する騎士の中でも頂点に立つ者。
オルロワージュの寵姫にして上級妖魔、高潔な騎士を思わせる佇まい。

「金獅子姫様ですね。私、白薔薇と申します。
姉姫様の御噂は耳にしておりました、最も勇敢な寵姫であったと」
「白薔薇姫……貴女は最も優しい姫であったと評判ですよ。
その優しさで、私の剣が止められますかしら。」
挨拶のようなお互いの会話。
けれども、金獅子はオルロワージュの刺客だと告げる。
アセルスは、白薔薇を守るように二人の目線に割り込んだ。

「戦うのは私だ!」
アセルスは既に剣を構えている。
自らや白薔薇を付け狙う輩から身を守る為に、剣の腕は確実に上達していた。

「ふっ、どちらでも。この剣に屈しなかったのはオルロワージュ様ただ一人……参る!」
口上を終えると共に、金獅子がアセルスの突貫する。

「速……!?」
獰猛かつ俊敏な動きは、名の通り獅子のよう。
脇から見ているルイズですら目が追いつかない程。
アセルスは剣を水平に構えると、かろうじて初撃を受け止めた。

「よくぞ止めた!」
剣が止められた事にも動じず、足払いで追撃する。
強い力で蹴り付けられた為、アセルスが背中から倒れ込んだ。

「チッ!」
アセルスが舌打ちすると、体を転がして剣を避ける。
後少し避けるのが遅ければ、金獅子の放った突きに串刺しにされていただろう。

「むっ!」
不利な姿勢のアセルスを庇うように白薔薇が金獅子に剣を向ける。

白薔薇も好んで力を奮う事は少ないが、中級妖魔だ。
故に並大抵の相手であれば、後れを取ると言うのはまずない。

しかし、剣で挑むには余りに分の悪い相手だった。
金獅子はオルロワージュの寵姫の中でも随一の剣捌きを誇る。
アセルスを援護するように放たれた剣は弾かれ、体勢が崩れてしまう。

「はあ!」
かけ声と共に、金獅子が剣を大きく振りかぶる。
姿勢を崩した白薔薇に避ける手段はない。

「白薔薇に手を出すな!」
体勢を立て直したアセルスが、白薔薇への剣戟を防いだ。
アセルスは金獅子を食い止めようとするが、腕の差は明らかだった。

決してアセルスや白薔薇が脆弱な訳ではない。
二人がかり相手を物ともしない、金獅子の強靭さが異常なのだ。
それでも決して戦う意思を衰えさせぬ二人に、金獅子は剣を仕舞った。

「どういうつもりだ」
アセルスが呼吸を荒げながら尋ねる。

「白薔薇姫、貴女の気持ちはよく分かりました。
私もかつて、その気持ちを胸に抱いていた日々がありました」
金獅子は何かを思い出すように白薔薇を見つめた。
アセルス達と長い時間打ち合ったというのに彼女は息一つ乱していない。

「金獅子姉様……」
「アセルス殿、妹姫を頼みますよ」
アセルスは強く頷くと、金獅子は満足げに後にしようとする。

「御待ち下さい。それでは、金獅子姉さまが罰を受けます」
「構いません、あの方に罰していただけるのならば喜んで罰を受けます。さらば!」
白薔薇の制止にも、金獅子は立ち止まらない。
ルイズは、凛々しい母親の姿を金獅子に重ねていた。

「金獅子姫……気持ちの良い人だったね」
アセルスの呟きに白薔薇も同意する。

「ありがとうございます、アセルス様」
「え、何が?白薔薇、どういうこと?」
突然のお礼に、アセルスは狼狽する。
白薔薇の笑顔はとても眩しいものだった……



──金獅子の襲来から数日後。
意外な人物がアセルス達の前に現れた。

「イルドゥン、今度は貴方か!」
アセルスが刺客と判断して身構えるが、彼は追っ手ではないと言う。

「ラスタバンに言われて、嫌々来てやったのだ。
次はセアトが自分で来る、お前を護れと言われた」
イルドゥンは嫌悪感を隠そうともせず、不満そうに告げた。

「誰も頼んじゃいないよ」
「ラスタバンがセアトにやられた」
同じく不満そうにアセルスがそう言うと、イルドゥンは忌々しげに返す。

「ラスタバンが!彼は消滅したのですか?」
驚いた表情で問いかける白薔薇。
「いえ、幸い消滅はしておりません」
アセルスの時とは正反対な態度、丁重に白薔薇に答えてみせる。

「だが、セアトはラスタバンの力を吸収し、今までよりも強くなった。
傷ついたラスタバンの頼みでなければ、誰がお前なぞを護り来るものか」
イルドゥンが説明を終えると、タイミングを見計らったかのようにセアトが姿を見せる。

「俺はラスタバンの力を吸って強くなった。
オルロワージュ様の血を受けた貴様の力を吸収すれば、或いはあの方にも……行くぞ!!」
確かにルイズが以前に見かけた時より外見こそ変化はない。
異なるのは禍々しさとでも言うのか、嫌な重圧が増している。

アセルス達3人は各々の武器を構える。

「来るぞ!」
イルドゥンの警告と共に、セアトが真っ先にアセルスを狙う。

アセルスとて、ここまで伊達に逃げ延びたのではない。
セアトの一撃を弾くとすぐさま、反撃の準備に取りかかる。

「その力をよこせ!」
力を渇望するセアトの叫びに、アセルスは迷うことなく幻魔で斬り返す。

「あれは……」
ルイズに見覚えがあるのは、ワルドとの決闘で見せた攻撃によく似ていたから。

異なるのは、ワルドの時よりも深く何度も斬り付けている。
一撃一撃が急所になってもおかしく無いほどの斬撃だが、セアトは反撃に転じる。

狩人のようにアセルスの心臓に狙い定め、貫く。
セアトの二つ名は猟騎士、名の通り一度狙った獲物を何処までも追って行く。

「ぐっ!」
常人なら致命傷だが、アセルスは傷を気にする様子はない。
それでも膝をついてしまい、体勢を崩すと血が口から零れる。

「アセルス様!」
白薔薇が治癒の為に駆け寄る。

「邪魔をするな!」
追撃しようとしたセアトが、白薔薇に振り払うように翼を羽ばたかせる。
しかし、その翼に背後から剣を突き立てられた。

「おのれ、イルドゥン!!」
「何故ラスタバンを襲った?」
激怒するセアトの口調に対して、イルドゥンは淡々と詰問する。

「隙を見せた方が愚かなだけだ!」
セアトに一言に何か引っかかるものを感じたのかイルドゥンが怪訝そうな表情を浮かべる。
当然、その硬直を逃すような相手ではない。

「ちっ!」
舌打ちと共にイルドゥンが後方に飛び退く。
後一歩遅ければ首と胴が寸断されてもおかしくない程の勢い。
寸前のところで直撃を免れるも、セアトの剣に大きく後ろに弾き飛ばされた。

イルドゥンが離れた為に、セアトはアセルスに再び狙いを定める。

「何故そんなに力を望む!?」
傷は既に白薔薇の術で治っている。
セアトの一撃を受けたアセルスが叫んだ。

「妖魔と言うのは生まれ持った血と力が絶対だ。
単なる気まぐれで、あのお方の力を受け継いだお前には分かるまい。
誰もが渇望しても手に入れられぬ物を手に入れながら、境遇を拒むような半端者め!!」
「黙れ!私は望んで妖魔になりたかった訳じゃない!」

お互いに許せぬ暴言。
激昂した二人は剣を幾度となく打ち合う。
白薔薇は剣での援護ではなく、何やら呪文の詠唱を行う。

「幻夢の一撃」
白薔薇の妖術により生まれた幻獣がセアトに襲いかかる。

「先住魔法……?」
ルイズが呟くも、答えを返す者はいない。
炎や氷による術はルイズにも馴染みがあった。
だが幻獣を呼ぶ魔法となると、彼女の知識にはありえない。

「おのれ!邪魔を……」
するなと叫ぼうとするより、セアトの肩が後ろから引き裂かれる。
注意が白薔薇とアセルスに捕らわれ、背後のイルドゥンまで向いていなかった。

「貴様……!」
イルドゥンを振り払うように大きく剣を振るが、剣をアセルスに弾かれてしまう。

「はぁああああ!!」
アセルスの慟哭と共に、セアトの心臓に剣が突き立てられた。

「うぉ……ぁ……あぁ!」
突き刺さったセアトの体が、まるで影のように薄れていく。
最後には完全に姿を消し、アセルスが突き立てた剣が地面に落ちる。

「消えた……?」
突然の消滅にアセルスは呆然としている。

ルイズも訳が分からずにいた。
アセルスが追っ手の妖魔を討ち倒すのは何度か目撃したが、今回のように消滅する例は初めてだ。

「お前の方がセアトよりも格が上の証拠だ。
お前の意志が、奴を消滅させた。これが上級妖魔の死だ」
初めて目の当たりにする上級妖魔の死。
イルドゥンの説明を受けて、アセルスはじっと自分の手を見つめる。

「それで、みんながあの人を、オルロワージュを恐れるのか?消滅させられるから?」
「妖魔の時は長い、だからこそ永遠の死を恐れるのです」
アセルスの疑問を肯定する白薔薇。

「私にも、その力があると……何故こんな力が」
「妖魔の君に降臨する者は、邪妖狩りの義務があるからです」
「邪妖狩り?」
白薔薇は妖魔の掟について語り始めた。

「妖魔の掟を外れた者もしくは力が衰えた者は邪妖と呼ばれます。
例えば水妖の姫君『人魚姫』は妖魔でありながら、人間になる事を望みました」
「彼女は人間になれたの……?」
話の続きを促すアセルスに、白薔薇は僅かに躊躇する。
その様子を見かねたイルドゥンが答える。

「妖魔がどれほど力や格を落とそうとも人間になどなれん。
邪妖に堕ちたと判断され、妖魔の君達による処罰として水妖の一族は消された」
イルドゥンの説明はアセルスにとって絶望的な事実。
妖魔が人間に戻る手段など無いと、伝えられたのと同然だった。

同時に、ルイズも自分の認識が甘かったと思い知る。
アセルスとセアトはお互いが心臓に剣を突き刺しながら、結果はまるで異なる。

差は鍛錬や実力ではなく、純然たる格差。
単純にして明快、永遠の命を奪う者と奪われる者。
妖魔にとって絶対視されるのは生まれ持った力と、妖魔としての格のみ。

妖魔の階級制度に異常さを感じるのはルイズが人間だからか。
或いは自分達の貴族社会も、このように行き過ぎたものになってしまうのだろうか。

答えを導き出すのに、一人の少女に過ぎないルイズには荷が重すぎた。

アセルスはセアトが消え去った跡に視線を向ける。
しかし、いくら振り返っても塵一つ残されていない。

「とにかく離れよう、また追っ手が来る前に……」
アセルスがその場を離れようとすると、突然目の前に壁が現れる。

「なんだ、何が起こったんだ!」
アセルスが周囲を探ると、見知らぬ場所に飛ばされたように変異していた。

「とうとう、あの方が自ら御出ましになられたのですわ」
白薔薇は悟ったように語る。

『余に逆らう不届き者たちよ、この迷宮で永遠に彷徨い続けよ!』
アセルスも聞き覚えのある声が響き渡った。
そう、アセルスに妖魔の血を与えたオルロワージュ本人の声。

太陽の日も射さぬ闇の迷宮。
アセルスは白薔薇の手を引いて、階段を降りていく。
螺旋状の階段は長く、底無しの闇に続いているのではないかとすら錯覚する。

「ここはオルロワージュ様が産み出した闇の迷宮。
何かを犠牲にしなければ出ることは出来ないと言われています」
白薔薇の説明を受けて、なおも階段を降り続ける。
足が痛みに悲鳴を上げる頃、ようやく小さな広場にたどり着いた。
同時に広場に誰かがいる事に気がつき、警戒しながら歩みを進める。

「おやおや、こんな所にやってくるとは」
広場には赤いカブにも似た植物型の魔物がいた。

「こんなところで何をしているの?」
会話が通じる魔物にアセルスは続いて質問する。

「こんなところだ、何もする事はない」
ふざけた口調の魔物はルイズにお喋りな剣を思い出させる。

「怒るな。ここの扉のどれかが出口だぞ」
赤カブが誘導した先には、確かにいくつか光が見えている。
すると、夢を見ていたルイズとアセルスに同じ疑問が浮かぶ。

「わかってて、なぜ出ないの?」
「一人では出られないからだ、出てみれば分かる」
当然尋ねるが、赤カブは試すように促す。

アセルスが慎重に出口へと歩む。
白薔薇は俯いており、表情が見えない。
そして、アセルスは出口への最後の一歩を踏み出し……外へと抜けた。

「やっと出られた。白薔薇……どこだ?」
アセルスはすぐに気がつく。
手を繋いでいたはずの白薔薇が見当たらない。

『アセルス様、私は迷宮に残ります』
「何を言ってるの?」
白薔薇の言う意味が理解できず、愕然とした表情を浮かべる。

『これが、あの方に逆らった私の償いです。さようなら、アセルス様』
「待って、白薔薇……白薔薇あああーーーー!!!」
別れを告げる白薔薇に、アセルスは彼女の名前を有らん限りの力で叫んだ。

『アセルス様、自由に生きて下さい。貴女は自由です』
それがアセルスが最後に聞いた白薔薇の言葉だった。

膝を突いて崩れ落ち、涙を流す。
だが、いくら流しても、涙を拭う存在……白薔薇はもういない。

「おい、いい加減にしろ。行くぞ」
迷宮から弾き出されていたイルドゥンがアセルスを見つけ呼びかける。

「あああ……白薔薇……」
アセルスは項垂れたまま顔を上げようともしない。

「チッ、ふ抜けが!」
苛立つイルドゥンはアセルスを置いたまま、姿を消した。

場に残ったのはアセルスと、もう一匹。
闇の迷宮にいた赤カブの形をした妖魔である。

「君は行かないのかい?」
「白薔薇姫さんが迷宮に残ったから私が外に出られた。
姫さんと私の立場が入れ替わった。だから、お前さんの側にいるよ。」

「君が白薔薇の代わり?フッ、フハハハ」
失意から苦笑するしかない。

「ワハハハハハ」
赤カブは空気を読まずに笑い声を上げる。

「すっかり打ちひしがれて、かなり打たれ弱いタイプだね。
白薔薇もどうかしてるよ、こんなのを好きになるなんて。」
アセルスの前に現れたのはゾズマだった。
基地の脱出にも気まぐれで協力した以来の再開。

「白薔薇が……」
最もアセルスには彼の姿すら見えていない。
愛しい者の名前だけを、うわ言のように繰り返す。

「オルロワージュ様が、わざわざ自分で出向いてまで白薔薇姫を取り返そうとしたのも
姫が自分から君の許を去ったのも、それが理由だろう。」
ゾズマは落ち込むアセルスに構わず、ずけずけとした物言いを続ける。

「君が打ちひしがれていたのも、君が姫のことを好きだったからだろう」
「……友達だったし、お姉さんだったからだよ。そう」
ルイズもようやく気づく。
アセルスは白薔薇に対して単なる好意以上の感覚を抱いていたと。

「じゃあ、口に出して言ってみな。好きだって」
「そんなの間違ってる。だいたい私はこれでも女よ。半分妖魔になっても、変わってないわ」
アセルスはゾズマの指摘に頭を振って否定する。

「ふん、くだらないことに縛られているんだな。
姫も言ったじゃないか、自由になれってね」
人の倫理感など関係ないゾズマは呆れた表情を浮かべる。

「あれは、オルロワージュから自由になれって言う……」
「もうどうでもいいよ。
君と話していても楽しくない、行こう」
言い訳にも似た言葉を並べるアセルスとの会話を打ち切って、手を牽く。

「どこへ?」
「どこでもいいんだよ。じっとしていても仕方がないだろう?」
ゾズマは強引にアセルスをその場から連れ出す。

アセルスは後ろを振り替える。
まだ、そこにいつも優しい笑顔を浮かべてくれた白薔薇がいるような気がして……


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