あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

ゼロのドリフターズ-13



 サウスゴータ地方はウエストウッドの森。
ウエストウッドの村の中、ティファニアの家には都合四人いた。
家主のティファニア、シャルロット、キッド、無力化されたメンヌヴィル傭兵小隊残党セレスタン。
セレスタンの杖は破壊され、縛られたままに轡まで噛まされて失神したまま床に転がされている。

 "風のルビー"だけでなく、テーブルにはさらに"始祖のオルゴール"までもがあった。
シャルロットはティファニアから聞いた身の上話を頭の中で整理する――

 ――ティファニアの父は現アルビオン王陛下にして、ウェールズの父でもあるジェームズ一世の弟。
つまりはウェールズの従兄妹であり、アンリエッタの従姉妹にもなる。
エルフの血を半分引くハーフでありながら、王家の血をも継ぐのがティファニアなのであった。

 ティファニアの父は国王の弟という立場から、王家の財宝を管理する財務監督官という要職に就いていた。
そのような地位の人物であろうがなかろうが、エルフと交流があるというだけでも大問題になる。
それほどエルフとは恐れられる存在で、深く埋められることのない確執があるのだ。
人の目に触れさせることすら憚られるエルフを愛妾として、母娘共に日陰の中で暮らす日常。
そして父の仕事の関係上、ティファニアはルビーとオルゴールを幼少期から触れていたのだった。

 ティファニアは優しい父母と、不便の中でも幸せに暮らしていたが・・・・・・それは唐突に終わりを告げることになる。
どこからかエルフの女を囲っているという情報が漏れ、事が公に露見する前に処断されることになった。
ティファニアは始祖のルビーと始祖のオルゴールを大層気に入っていて、子供ながらに持ち出してしまっていた。
一時的に逃れた父の部下の貴族の家にいることも、最終的にバレてしまって母は殺された。
ティファニアは幼少時にただ一人生き残ってしまったのだった。
その後は、匿ってくれたその貴族の娘にお世話になりながら、この孤児院代わりの小さな村で生活している――

(――そんな不祥事もまた・・・・・・)
今回貴族派が反乱を起こそうとした理由なのだろうかなどと、シャルロットは考える。
そういった積み重ねが王家の威光を失わせるに至り、取って代わろうという貴族派が動いたのだと。

「勝手に持ってきちゃったのは事実です。でも怖かった・・・・・・。父と離れ離れになったのも、母が死んだことも。
 でもどんなに辛くて、悲しくて、苦しい時でも、オルゴールから流れてくる曲を聞くと不思議と心が安らいだの」

 ティファニアを責めることは出来ない。人は・・・・・・生まれを選ぶことは出来ない。
(私がガリアの血を引くように・・・・・・)
さらにハーフエルフであれば、人間からもエルフからも疎まれる存在となってしまうだろう。
目の前で母親を失い、偏見と差別の中で拠り所をなくした少女の苦悩は・・・・・・いかほどのものであったのだろうか。
そして今も・・・・・・人目を忍ぶように暮らし続けている、恐らくはこの先もずっと――

(でも・・・・・・)
もしかしたらアンリエッタならばきっと歓迎してくれるのではと考えてみる。
アンリエッタにとって従姉妹でもあり、彼女は平民への偏見もない。
きちんと説明し、あくまで個人として――ハーフエルフの彼女を受け入れてくれるかも知れない。
ウェールズ皇太子にしてもそこまで無体なことをするような人物ではないと思う。

 ただしやはり混血でもエルフ。両王が認めても、周囲は認めないだろう。
万が一露見した場合のことを考えれば、両王家にとって非常に憂慮すべき問題になりかねない。


「あの・・・・・・シャルロットさん、あなたのことも聞きたいな」
「そうですね――」
ティファニアにとって、辛い生い立ちの話でも、同年代の子と話すのは貴重で嬉しいことだった。
今まで生きてきて一度もない、夢見ていたこと。他愛無い話でも一向に構わなかった。
シャルロットもそんな気持ちを察して語る。短いながらも今だけはせめてと――

「ガリア王国が滅びたことは知っていますか?」
「えぇ、姉さんからある程度。歴史や読み書き、計算は習ってます」
「なら話は早いです」
シャルロットはそれでも一応わかりやすく語る。ガリアの滅亡と自分達の軌跡――


「――だから私はこの土のルビーを持っているんです。妹が香炉を持っています。
 貴方が持っているそれは、きっと貴方が思っている以上に貴重なものなのです」

 過去を語り、そこから通告しにくい本題へと繋げる。
6000年もの間、受け継がれてきた始祖のルビーと始祖の秘宝。
間違いなく本物であるのならば、始祖にまつわる最も尊い物品であり、決してお金には換算出来ないもの。
「それじゃあ・・・・・・」
悲しそうな顔のティファニアに同情しながらも、シャルロットは宣告する。
「はい、王家の所有物である以上は・・・・・・」
返還せねばなるまい。目零しするにはあまりに貴重なもの。

「そう・・・・・・ですよね・・・・・・仕方ないです。元々勝手に持ち出したものだし・・・・・・」
これ以上ないほどに落ち込むティファニア。シャルロットは思わず尋ねてみる。
「それほどまでに必要ですか?」
「わたしは・・・・・・これのおかげで・・・・・・」
「・・・・・・?」

 ティファニアは少し悩んだ様子を見せたが、意を決するとオルゴールを動かす。
「・・・・・・聞こえますか?」
「いいえ?」
シャルロットはキッドへと目配せする、キッドも同様にかぶりを振った。
「わたしには聞こえるんです、それもこの指輪を嵌めている時だけ」
「はぁ・・・・・・」

 呆けた声をシャルロットは漏らす。あまりにも要領を得ない。
動いてはいるようだったが、単に壊れているだけなのではないのかと。
なにせ大昔のシロモノだ。始祖の香炉もその役割は果たさないし、始祖の祈祷書もかなりくたびれていた。
しかも指輪を着けている時だけに聞こえる? ますますわけがわからない。

「貸してもらえますか?」
頷くティファニアから風のルビーを受け取ると、シャルロットは指に嵌める。
掛けられた魔法によって指輪がピタリとサイズ調整されて、風と土が隣り合わせに並んだ。
しばらく待ってはみたものの・・・・・・やはり曲はおろか音一つ聞こえない。
とりあえず指輪をはずして、ティファニアへと一旦返す。

「この曲を聞いていると安らぐだけじゃなく、歌とルーンが頭の中に浮かぶんです」
「頭の中に浮かぶ? ルーンが・・・・・・ですか」
「それで・・・・・・わたしはそれのおかげで生き延びれたの。その魔法のおかげで、今も平和なんです」
ティファニアはゆっくりと続ける。先程からとても嘘を言っているようには見えなかった。
いやそもそも嘘を吐けるような子にすら見えない。

「その魔法は・・・・・・"記憶を奪う"んです。母が殺され、わたしも殺されそうになった時。
 それまでは歌だけだったんだけど、ルーンも頭の中に浮かんできて・・・・・・それを唱えたの。
 そしたら怖い人達はみんな目的を忘れて去っていった。今も変な人が来たらたまに使ってるんです」

(記憶を奪う・・・・・・?)
シャルロットの頭の中には様々な魔法と効果、ルーンの詠唱呪文が入っている。
それらは当然、自力で魔法を使うことを夢見て昔から詰め込んできたもの。
しかしその中に明確に記憶を奪う魔法なんてものは存在しない。
先住魔法ならば可能なのかも知れないが、その場合はルーン詠唱ではなく口語の呪文になる。

(強いて言うなら・・・・・・)
系統魔法であれば水魔法だろうか。
直接触れて精神操作なりすれば、似たようなことが出来ないこともなさそうである。
『制約』――ギアスと呼ばれる魔法でも、思考を封じて誘導することで近い状態作り出せるだろう。
他にはその道のプロフェッショナルが高度な水の秘薬を作り、惜しまず使えば或いは・・・・・・?
地下水も肉体を乗っ取っている間の記憶を残すかは自由に出来ると言う。

 シャルロットが色々と考えていると、ティファニアは彼女にしか聞こえない旋律に合わせるように唄い出す。

 神の左手ガンダールヴ。勇猛果敢な神の盾。左に握った大剣と、右に掴んだ長槍で、導きし我を守り切る。

 神の右手がヴィンダールヴ。心優しき神の笛。あらゆる獣を操りて、導きし我を運ぶは地海空。

 神の頭脳はミョズニトニルン。知恵のかたまり神の本。あらゆる知識を溜め込みて、導きし我に助言を呈す。

 そして最後にもう一人・・・・・・。記すことさえはばかれる・・・・・・。

 四人の僕を従えて、我はこの地にやってきた・・・・・・――


「ミョズニトニルンだって?」
額にそれを刻むキッドが憶えのある歌詞に突っ込む。
「・・・・・・まぁ始祖の歌のようですからね。もし本物で本当に聞こえるというのなら内容に不思議はありません」
伝説を語る歌に出てくるルーンを宿すキッドとブッチ。
残りの二人はどこにいるのだろうと、シャルロットは思う。
「それで・・・・・・それが聞こえてくる歌、というわけと?」
「うん」

(あーーー・・・・・・思い出した)
ともすると頭の中でデルフリンガーの声が聞こえる。
(何が?)
(今の歌で思い出したよ、"ブリミル"のこと)

 デルフリンガーが口にした"名前"にシャルロットはポカンと口を開けてしまっていた。
「はぁ?」
無意識に声に出してしまって、キッドとティファニアが目を丸くする。
「・・・・・・失礼、ちょっと考え事をさせて下さい」

(またいつものか)
と、地下水。地下水自身もそうだが、インテリジェンス・アイテムに込められた意思は長きを生きる為か、その多くを忘れている。
地下水は適度に暗殺者として働いていたから、そこまででもなかった。
しかしデルフリンガーはかなり大人しくしていた期間があって、いくつかの『特性』も忘れていた。
そしてたまに、ふとした時に思い出すことがある。

(おれぁ昔ブリミルに使われてた)
(・・・・・・?)
(・・・・・・何を言い出すんだコイツ)
シャルロットのみならず地下水まで呆れる。されどデルフリンガーは冷静に話し出す。
(正確にはブリミルの使い魔、"ガンダールヴの盾"だった)
嘘・・・・・・は言っていないようであった。この場でいきなり言い出す意味もない。
地下水はそこまで思うところはないようであったが、シャルロットは驚くしかない。

 つまりデルフリンガーは最低でも6000年の時を生きてきて、しかも伝説中の伝説。
始祖ブリミルの使い魔に使われていたなど、「はいそうですか」と信じられるわけはない。
(まだ明瞭としない部分もあるがね、証明出来るよ。あのおっぱいのでっかいお嬢ちゃんと話させてくれ)

 シャルロットは嘆息をついてナイフを引き抜くと机の上に置いた。とりあえず聞くだけ聞いてみようじゃないかと。
「・・・・・・?」
「意思が込められたインテリジェンスナイフです、名を"デルフリンガー"」
「デルフリンガー? そんな名前だったっけ?」
「いえ、以前に説明した地下水の他にもう一人いるんですよ。
 ・・・・・・キッドさんは触った方が早いかも知れませんね」

 シャルロットに促されてキッドは地下水に触れる。額のルーンが輝くとその性質全てをすぐに理解した。
「ああ、よくわかった」
「まぁ一応秘密なので、そこのところお願いします」
二つの意思があることを知っているのは、家族達とアンリエッタ王女くらいである。
切り札である以上は、おいそれと晒したくない。知る人も最小限に留めておきたい信条。


「おう、娘っ子」
一段落した後に、デルフリンガーはティファニアへと声を掛けた。
「えっ? あ、わたしですね。初めて見まして、その・・・・・・はじめまして」
「おうよろしく。そんでだなあ、お前さんの記憶を消す魔法っての・・・・・・『虚無』だな」

 ティファニアは首を傾げ、シャルロットは静かに聞いていた。
もういちいち驚いていたらキリがなく、突拍子のないことを言い出すのだろうこともわかっていた。
「この世の物ってのは生き物も含めて小さい粒で構成されていて、系統魔法はそこに干渉する。
 んでもって虚無ってのは、粒の中のさらに小さい粒に干渉する――みたいなことを言ってた」

 デルフリンガーは、"誰が"とは言わなかったが、前後から考えれば一人しかいない。
それに虚無を使ったとされるのは、歴史上一人しかいない。偉大なる始祖ブリミルのみだ。

「わたしなんかがそんな・・・・・・何かの間違いですよ」
「そんなに凄いものなのかい?」
何も知らないキッド、さらにティファニアへも含めてシャルロットが解説する。
「虚無はおよそ6000年前の始祖ブリミル。ハルケギニアで最も広く崇拝されているその人が使ったとされる魔法です。
 火・水・風・土のどれにも該当しない。幻の"五番目の系統"――いえ、伝説の始祖たるメイジの虚無系統・・・・・・。
 だから言うなれば"零番目の系統"、ですか。いずれにせよその始祖ブリミル以降は誰も使えたことのない伝説です」

「いーや、ブリミルだけじゃねえよ」
シャルロットの言にデルフリンガーが訂正する。
「表沙汰になってないだけで、時代の中には何人かいた筈だ。潜在的なのも含めてな」
「そんな・・・・・・――」
――わけがないと続けるよりも、実際に見るのが一番早いとシャルロットは判断する。
それはデルフリンガーも考えていたことのようであった。

「娘っ子、魔法見せてやれ。相棒のちっちゃい頭の中にない魔法の筈だからな」
「・・・・・・そうですね、見せてもらえますか? ティファニアさん。丁度いい実験台もいますし」
記憶を"奪う"魔法。地下水の水魔法はあくまで操っている間、精神を眠らせて記憶させないというだけ。
もしくはさながら眠って夢でも見ていたように思わせたりする程度だ。
いずれも操っている間だけのことであり、既に刻まれている記憶をどうにかすることは出来ない。
他の方法にしても、奪うと表現するにはいささか違う。
明確に奪うというのがどういうものなのか。それを見てみないことには始まらない。


 シャルロットはキッドを一瞥し、次いでもう一人の男へと目を移す。
キッドもすぐに察したようで、転がっているセレスタンを何度か蹴飛ばした。
「――っ!?」
意識を取り戻したセレスタンを仰向けにし、キッドは銃を抜いて額へと突き付ける。
肩を足で踏みつけて、もがくのを多少大人しくさせたところで轡をはずしてやった。

「ッッ!! このクソ野郎が!! 殺すなら殺しやがれ!!」
自棄になっているのか、興奮しているのか、気性の荒さか、罵倒が目立つ。
だが本来の傭兵としての冷静さが、暴れながらも周囲を観察しているようだった。
「ここはあの村か・・・・・・よくも木偶で騙しやがって。チッ・・・・・・何とか言えよ!!」
戦慄するほどの強さだったが、だからって人形如きにやられたのが情けなく感じる。
ようやく落ち着き払って、見下ろされている状況を窮屈に感じた時・・・・・・セレスタンは気付いた。

「なっ・・・・・・てめえ!!?」
悠然と五体満足で立つシャルロットの姿。見覚えはある。
遠目ではあったが、確かウェールズ皇太子の影武者らしい者の横で、隊長と相対していた少女だ。
そいつがこの場にいるということは――

「マジ・・・・・・かよ、隊長が・・・・・・負け・・・・・・た?」
あの隊長が獲物を逃がすわけがない。逃したところを見たことはない。
「そう、私が殺した」

少女の言葉。それなりに長い付き合いだった、隊長の強さもよく知っている。
だがこのガキがここにいるということは、肯定の言葉がなかったとしても、つまりそういうことなのだ。

 シャルロットは一枚の紙を取り出すと、書かれた名前を読み上げる。
「・・・・・・ッ!!」
セレスタンは迂闊に喋るようなことはなかったが、表情を見ればわかった。
元々メンヌヴィルが嘘を吐いたとは思ってもいなかったが――ここに書いてあることに間違いはない。
セレスタンは一転して大人しくなる。完全に観念したようであった。
隊長が死んだのならもう自分が助かる可能性もない。自殺することすらままならないと。

「ティファニアさん、お願いします」
乱暴なやり取りに怯えていた少女に声を掛ける。それでも頷いて杖を取り出した。
「えっと・・・・・・」
ティファニアの瞳は「どれを?」と聞いてくる。
「先ほどまでの一連の流れを・・・・・・――可能ですか?」
「うん、大丈夫だと思う」

 ティファニアは深呼吸をすると、その艶やかな唇からルーンが流れ出す。
「ナウシド・イサ・エイワーズ――」
なるほど、確かに聞いたことのないルーンだ。しかもどの系統にも当てはまらないパターン。
もしこれで四系統のどれにも該当しない記憶を奪う魔法とやらが発動したなら、納得するしかないだろう。

 先刻の歌声のように、美しい旋律を奏でるように紡がれ続ける詠唱。
キッドはどこか得も言われぬ気分に身を任せる。
いつまでも聞いていたいと思わせる心地良さを感じた時、詠唱は終わりを告げた。

 『忘却 』――
セレスタンの眼前の空気が歪む。少ししてそれが戻ると、セレスタンは呆けていた。
「成功した、と思います」
しばしそのまま観察する。セレスタンはボーッとした後にみるみる内に生気が戻って来るようだった。
「こんにちは」
タイミングを見計らってシャルロットは挨拶する。まるで今初めて会ったかのように。
「てめえ・・・・・・は・・・・・・?」

 その表情と態度に既知感を覚える――確定だ。
「隊長は!?」
「言わないとわからない?」
「あ・・・・・・あぁ、でも・・・・・・あれ? 隊長は死んだ、だけど本当にお前が殺したのか?」
「えぇ、そうだけど・・・・・・?」
シャルロットは疑問符を浮かべる。忘れてはいるようだったが、どこか齟齬がある感じ。

「あの・・・・・・奪うと言っても消えるわけじゃなくて、大抵別のことで埋まるんです」
「なるほど」
シャルロットはこれ以上の問答は無用と地下水を握り、セレスタンを『眠りの雲』で眠らせた。
具体的に聞かれると面倒だし、乱暴に気絶させてはまたティファニアを怖がらせてしまうだろうと。

「つまり・・・・・・書き換えられるわけですか?」
「はい、当たり障りない感じで・・・・・・すり替えられるみたいです」
「ふむ――」
認めざるを得ない。記憶そのものに干渉してこうもあっさりと任意に改変するとなれば、四系統魔法の域を超えている。
シャルロットが椅子に座ると、キッドとティファニアも同様に座り直した。

「――虚無の担い手・・・・・・、間違いないらしいですね」

 シャルロットは自分自身を言い聞かせるような声音で、そう言った。



新着情報

取得中です。