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第13話『擦れ違い』


人の心は一度壊れると元に戻すのは不可能だ。
その事をルイズは、同年代の誰よりも良く知っている。
夢の中で見たアセルスの姿は共感を覚えると同時に、心に突き刺さった……



針の城を抜け出したアセルスは片田舎にいた。
どこに向かうか尋ねる白薔薇に、アセルスはシップの発着場へ向かう。

ルイズにはシップやリージョンは分からない。
風石で飛ぶ船と似たようなものなのだろうと自分の想像を置き換えていた。

アセルス達が着いたのは、オウミと呼ばれた湖のある街。
河川に花びらが浮かんでいるのを見て、アセルスが足を止める。

「花びらが……」
ルイズも花びらに目を向けると、違和感に気付く。
波に揺られているようにも見えるが、花びらが時々波に逆らって動いているのだ。

「花文字ですわ……水妖が仲間を探しているようです」
尋ねるアセルスに、白薔薇が水妖について説明する。
水の中で暮らす下級妖魔で、人前には滅多に姿を現さない種族らしい。

「仲間が行方知れずか、かわいそうに」
この時、アセルスはまだ自分がその水妖に出会うとは思ってもいなかった。

アセルスが水妖と出会う切っ掛けとなったのは町で話されていた噂。
オウミの領主が傷ついた水妖を手当てしていると町の人から聞き、館に向かう。

領主の男に尋ねると、激昂してアセルス達を追い出そうとする。
だが二人が水妖に関して手がかりを持っていると分かると、力なく項垂れた。

「私はどうしたらいいんだ。
早く湖に戻したほうがいいのは分かっている。でも、私は……私は……」

話をする為に水妖がいる客室へと案内されるアセルスと白薔薇。
水妖は口を閉ざしたままで、領主とも一度も会話すらしていないと言う。

席を外すよう白薔薇が願うと、領主は渋々頷いた。
領主が出て行った後に、水妖がアセルスに問いかける。

「高貴な妖魔の匂いがする……人間なのになぜ?」
水妖の疑問にアセルスの表情が曇る。

「気に障ることを言ってしまいましたか?」
「いいや、君は本当のことを言っただけさ。
私は半分人間、半分妖魔という、この世でたった一人の中途半端な存在」
アセルスは水妖の気遣いを否定して、自嘲気味に告げる。

「御名前を御教えください、高貴な方」
「アセルス」
「アセルス様……気高い響き……」
アセルスが名乗ると、水妖の頬が上気する。

「アセルス様は、オルロワージュ様の血を頂いたのよ」
「妖魔の君オルロワージュ様!?御許しください、御無礼を御許しください!!」
名前を聞いた途端、惚けていた水妖はひれ伏しながら許しを請う。
ルイズやアセルスからしてみれば、何故これ程に怯えるのか理解できない。

「なぜ怯えるの?」
「妖魔の君の怒りに触れましたら、下賎な身の私など消滅してしまいます」
妖魔にとって、身分の差と言うものは絶対らしい。
ハルケギニアにも貴族がいる以上、階級制度は馴染み深い。

だからルイズはアセルスの存在が浮くのを知っている。
上級妖魔の血を与えられた、人間でも妖魔でもないアセルス。
公爵家の三女なのに、貴族なら出来て当然の魔法が使えない自分。
孤立した者同士ならばこそ、夢を見る毎にルイズはアセルスの数奇な運命にのめり込んでいく。

「大丈夫だよ、私はあの人じゃないから。君のことを教えてよ、その為に来たんだ」
アセルスは穏やかに水妖に語りかける。

「私はメサルティム、オウミの湖に住んでいます」
水妖も緊張を解しながら、身の上を説明し始めた……



水妖達はシップの発着場が出来る前、オウミの湖付近を住処にしていた。
地元の漁師も水神を崇めている為に、住処には近づかずに漁を行うのが日課だった。

しかし発着場が出来た所為で、水妖も居場所を変えざるを得ない。
メサルティムも湖を移動していたところ、漁師の網に掛かって捕らわれてしまったという。

「ケガしているのを治療してくれたのではないですか?」
「大事にしてくれているのは分かるんです。
けれど、人間の臭いは嫌いです。息が詰まる……帰りたい……」
白薔薇の質問にも、メサルティムは俯くだけだった。

「行こう!居たくも無い所に居る必要はない」
彼女の様子を見かねたアセルスが腕を引く。
アセルスの台詞はルイズに聞き覚えがあった。
学院という孤独に束縛されていた、自分を連れ出した時と同じ言葉。

「あの領主は、この水妖をあ……い……」
「望んでもいない物を押し付けて縛り付ける。そんな権利は無い」
白薔薇の発言は最後まで紡がれなかった。
アセルスは自身の運命をメサルティムと重ねているのだろうとルイズは察する。

契約を結んでくれているのも、自分と似た境遇に対する感情移入だろうか。
あの頃の自分がアセルスにどう映っていたのだろうかがルイズには気になった。



脱出の方法を考えていたアセルスは、館に地下に向かう階段があった事を思い出す。
領主を騙し、近くを連れ歩くと言ってアセルス達はメサルティムを逃がすべく地下室へ向かった。

大イカに襲撃される危機はあったが一同は協力して館から逃げ出し、湖にたどり着く。

「ああ、湖の匂いがする!さようならアセルス様、ありがとうございます」
メサルティムは嬉しそうにお礼を言うと、湖へと還っていった。

「さよなら、メサルティム……どうしたの、白薔薇?」
お別れの挨拶を笑顔で交わす。
白薔薇の表情はアセルスとは対照的に沈んでいる。

「あの若者の気持ちを考えると、素直に喜べないのです」
白薔薇の言い分も確かだ。
単に親切心から治療するだけならば、客室を与える必要は無い。

少なからず好意以上の感情を抱いていたのだろう。
アセルスの行為が正しいのか間違っているのか、ルイズには判断できない。
他人を思いやれるからこそ、白薔薇は領主への罪悪感から素直に喜べないと言う。

「人間と妖魔が幸せになれるわけない!」
人から妖魔になったアセルスの、まるで自分に言い聞かせるような叫びだった。

街の領主は水妖を愛していた。
だが、メサルティムは館にいたくなかった。
湖で暮らしたいメサルティム、地上でしか生きられない人間。

そもそもの根底が異なるのだ。
ルイズが長く抱き続けていた苦悩にも置き換えれる。
魔法が使えないという劣等感は、誰にも理解されなかった。

無理もない。
貴族は魔法が使えるのが当然なのだから。

偉大な魔法使いの母親。
生徒を教える立場の教師。
300年生きてきたとされるオールド・オスマンさえも、苦悩への答えを返してくれなかった。

異なりはルイズとアセルスにも当てはまる。
人間と妖魔──決して超えられぬ異種族の壁。

──人間と妖魔は幸福にはなれない。
アセルスの叫びは、ルイズの心中に木霊する。

『人間と妖魔は受け入れられない存在なんだ』
ワルドの警告がルイズの脳裏をよぎる。

そんなはずはない。
アセルスは人間なんだと言い聞かせるルイズに、夢は追い討ちをかける……



「シュライクへ行って、おばさんの家があるの」
オウミを離れたアセルスが向かったのは自分の故郷でもあるリージョン。
ルイズからしてみれば、オウミより発展した近代的な街並みは理解の範疇を超えていた。

ハルケギニアには存在しない技術の数々。
馬より早く走る鋼鉄製の車。
魔法でも建築は不可能だと判断できる一面ガラス張りの高層ビル。
全てがそういう訳でもなく、針の城のようにルイズにも馴染みのある建造物などもあった。

まるで異なる世界が一つになっているような錯覚を覚える。
ルイズが混乱している中、アセルスは一軒の家を見つけると駆け足で近づく。

「おばさん!」
庭にいた中年の女性に嬉しそうに声をかける。

彼女の姿はルイズにも見覚えがあった。
最初の夢でアセルスと一緒にいた本屋の店員。
働いていた姿より老けてみえるのは、アセルスがいなくなった心労からだろうか。

「あなた……誰?」
振り返った女性は、困惑しているようだった。

「アセルスだよ、髪の色が違うから分からなかったんだね」
自分の髪を弄りながら陽気に答えるアセルスだったが、伯母と呼ばれた女性はただ震えていた。

「どうしたの?」
青い顔した伯母の態度を、アセルスも疑問に思う。

「幽霊なの?いなくなった時の年格好のままで……やっぱりアセルスは死んだんだね」
「何を言ってるの?死んでなんかないよ、本人だよ」
一体伯母が何を言っているのか、アセルスには真意が掴めない。

「私をたぶらかす妖怪かい?
12年も前のアセルスの姿で現れるなんて!?誰か、助けて!!」
伯母は助けを求めながら絶叫して、家に隠れる。
強く閉められた扉の音と共に、アセルスもようやく真実が分かった。

「12年……私があの人の馬車に轢かれ、ファシナトゥールに連れ去られて12年……
どうして教えてくれなかったの、白薔薇……」
アセルスの表情には絶望が色濃く見える。

「ファシナトゥールにいる限り、時の流れは意味を持ちません。
それに、アセルス様にショックを与えたくなかったのです」
責めるようなアセルスの問いかけにも、白薔薇は正直に答えた。

「やっぱり、私は化け物なんだ……12年も年を取らないなんて……」
おぼつかない足取りで、焦点の合わぬ瞳のまま虚空を見上げる。

「そんな物の言い方をしてはいけません」
「ほっといてよ!!」
白薔薇の戒めにも、今のアセルスは聞く耳を持たない。
逃げるように、伯母の家から走り去ったアセルスは人気の無い街道に座り込む。

追いついた白薔薇が近寄るも、アセルスは顔を伏せたままだった。
白薔薇が声をかけようとしたが、それより早くどこからとも無く声が聞こえてくる。

『白薔薇姫様、針の城に御戻り下さい。
オルロワージュ様に逆らうおつもりですか?』
アセルスが顔を上げる。
ルイズも周囲を見渡すが、道は猫一匹すらいない無人だ。

「そんな。オルロワージュ様に逆らうだなんて、誤解です」
白薔薇だけが、何かに語りかけるように首を振る。

「言い訳は、御帰りになってからにしていただきましょう」
燃える炎のように赤い甲冑に白い翼が生えた妖魔が姿を現す。

「ダメだ、白薔薇!白薔薇に触れるな!」
アセルスは発狂したように喚く。
右手にはファシナトゥールで手に入れた幻魔を携える。

「邪魔する者は殺して良いと言われております」
慣れた手つきで剣を抜き、アセルスに刃を向けた。
アセルスもルイズも知らない事だが、この妖魔──炎の従騎士はセアトの放った刺客。
炎の従騎士は先陣を任されただけあり、中級妖魔に近い力を持つ。

ルイズは夢を見てきたから知っている。
アセルスは剣を持っているが、実戦では数える程度しか剣を使っていない。

「アセルス様!」
白薔薇の制止も構わず、アセルスは怯むことなく剣を構えて突進する。

力量の差は明確であった。
掠りもしないアセルスの剣に対し、炎の従騎士の刃は熱を伴ってアセルスの身体を刻んでいく。

「当たれ!当たれ!!」
如何なる力があれども、当たらねば意味がない。
手馴れた騎士と実戦経験の無いアセルス。
妖力で見るならアセルスが上だが、圧倒的に経験が不足していた。

「くっ……ぁ!」
炎の従騎士が翼を羽ばたかせ、アセルスに強襲する。
剣で正面から受け止めてしまい、衝撃に耐えられずに後ろに吹き飛ばされた。

オルロワージュが命じたのは二つ。
白薔薇を連れ戻す。
その際、邪魔する者は殺しても構わないと。

従騎士は忠実に二つの任務を遂行する。
すなわち、アセルスを殺そうと剣を構えた。

「アセルス!」
見かねたルイズが思わず叫ぶ。
だが彼女には何も出来ない、これはあくまで夢の中なのだから。

アセルスも姿勢を崩した事で気付いた。
炎の従騎士が羽で宙に浮いている妖魔であると。
足場が固定されていない以上、至近距離では剣を振っても深手を負わせにくい。

更に今アセルスは体勢を崩して、身体を伏せるような体勢になっている。

──止めを刺そうとするなら、剣を突いてくるはず。
突き下ろしてきた相手の剣に対して、アセルスは切り払う事を閃く。
例え経験の差があれど、予測通り動くなら一太刀くらいは浴びせれる。

アセルスと炎の従騎士が交錯する。
先に血を流したのはアセルスだった。
しかし刺されると同時に剣を切り払い、幻魔を相手の心臓に突き立てる。

剣で打ち合ったのは、ほんの2~3分の間。
呼吸を荒げ、刺された箇所を擦ると血で咽返る。

立っているのが精一杯な程に疲労困憊だった。
動く気配を見せない炎の従騎士に安堵して、剣を仕舞う。

「あぁ……あのお方に逆らうなんて……」
アセルスが従騎士を討ったのを喜ぶでもなく、白薔薇は怯えていた。

「白薔薇、どこにも行かないで……
私を本当に分かってくれるのは貴女しかいないんだから」
血で汚れた手を伸ばし、白薔薇の腕を掴む。
ドレスが汚れるのも気遣う暇もなく、捨てられた子供のように懇願するアセルス。

彼女を心優しき白薔薇が見捨てれるはずもない。

「アセルス様……」
妖魔の君であるオルロワージュとその血を継ぐアセルス。
二人の間で板挟みになる白薔薇は名を呟くしかできなかった……



ルイズが夢から覚める。
宿は港町でも上等なもので、それ故一人で眠るには少々広すぎた。

「そういえば、一緒に寝るのが当たり前になってたわよね……」
アセルスもだが、ルイズも孤独な生活を送ってきた。
学院でルイズが心許せる相手といえば、シエスタくらいだ。
彼女相手にも貴族の見栄があった為、弱音を吐くことは出来なかった。

誰かと一緒に眠るだけで、安らげる。
長い間、一人でいたルイズにはアセルスと寄り添って眠る感覚は心地良いものだった。

だが何時までも眠ってはいられない。
任務の為に起きると、同室者だったワルドがいない。
ルイズが部屋を見回していると、外から大きな声が響いた。

「君に決闘を申し込む!」



ルイズより少し前、アセルスも眠りから覚めていた。
この世界に来て馴染んだルイズの部屋ではなく、見慣れぬ天井。

「またか……」
アセルスが気だるそうに、独り愚痴る。
最近アセルスが見る、己の半生を振り返った夢。
妖魔の血を受け継いだ時から始まり、白薔薇を守る為に追っ手と戦っていた頃。

「白薔薇……何処に消えてしまったの」
憂鬱な感傷とやり場のない怒り。
感傷を振り払おうとアセルスは扉を開けて食堂へ降りる。

「おや、起きていたのかい」
アセルスの眉間にあった皺が深くなる。
夢に加えて会いたくない相手に朝から出会い、苛立ちを募らせた。

「何?」
ワルドを階段の上から見下ろす。
アセルスがルイズと同じ部屋にいないのは、この男が原因だ。
昨日大切な話があるとルイズに言い、拒否できなかった彼女と同室になってた。

「君と少し話したくてね」
「私に話す事はない」
会話を一方的に打ち切り、アセルスは階段を降りる。

「主人以外を信じない頑なさは、流石ガンダールヴと言ったところかな」
聞き覚えのない単語にアセルスは歩みを止めた。

「君の契約のルーン、かつて始祖が率いた伝説ガンダールヴ。
1000人の軍隊をも相手にしたという力が君の正体だ、違うかい?」
ワルドが自信ありげに説明するが、アセルスは自身のルーンを知らない。

彼女は他者に興味がないのだ。
あるのは呼び寄せたルイズへの関心のみ。
だからこそ、自らを必要としたルイズに付き添っている。

「……本当に知らないのか?」
ワルドが間の抜けた声で尋ねた。
自信満々に断言したことが外れていれば、彼でなくても滑稽である。

「話す事はないと言ったでしょう」
アセルスは再び会話を打ち切ると、立ち去ろうとする。

「待ちたまえ」
ワルドの制止も、アセルスは振り返ろうともしない。

「君に決闘を申し込む!」
アセルスが足を止めて、振り返る。
ただし、瞳には何の感情も宿ってはいない。

「何故?」
至極当然なアセルスの疑問。

「太古から貴族というのは、つまらない理由で決闘を行ったものさ」
ワルドは理由をはぐらかすのみで、答えなかった。

「ちょっと!ワルド!?」
ルイズが部屋の扉を開け、慌てて制止する。
マントを羽織ってはいるが、下は寝間着姿のままだ。
決闘の申し出に着替える暇もなく、飛び出してきたのが分かる。

「何考えているのよ!仲間同士で決闘だなんて!!」
「仲間か……生憎、彼女は僕をそう思ってくれていないようだがね」
アセルスとワルドはお互いにらみ合ったままだ。

「悪いが僕もだ。君の使い魔とはいえ、人の命を粗末に扱う妖魔を信用できない」
「それは……」
アセルスが元は人間だと知っているのはルイズのみ。
ルイズでさえ、アセルスが変わってしまった理由は断片的にしか分からない。

「だからって決闘だなんて……!」
「すまないが、君の忠告でも聞けそうにない」
なおも縋るルイズに、ワルドは首を振って否定した。

「僕が勝った場合、この旅では僕の指示に従ってもらう。
例え盗賊や敵相手でも、むやみに命を奪うのは止めて貰おうか」
アセルスに向き直ったワルドが強い口調で宣告する。

「貴方が負けたら?」
「君の好きにするといい」
アセルスの問いにワルドは即答した。

「……いいわ、場所は?」
アセルスが引き受けた理由は実に分かりやすかった。
募らせた苛立ちを発散したかっただけの八つ当たりに近い。

彼女の返答の意図など露知らないワルドは、満足してついて来るよう促した。



ワルドが決闘に選んだのは、遺跡の広場。
かつて貴族達が多くの決闘を行った場所としても知られている。
立会人として呼ばれたルイズ以外にも、話を聞きつけたキュルケとタバサ。
アセルスの従者であるエルザも来ていた。

「何考えてるのよ、もう」
「婚約者の前でいい格好を見せたいんじゃない?」
やり場のない憤りを覚えるルイズに、キュルケが軽口を叩く。

「ふざけないで。
いくらワルドがスクウェア級のメイジでも勝てる訳ないわ……」
ルイズの意見にはタバサも同意だった。
妖魔というだけでも、厄介なのにアセルスは戦い慣れしている。
それでもタバサが見に来たのは、スクウェアどの程度通用するかの指標になると判断したから。

──様々な思惑を秘めた決闘が始まる。

「エア・カッター!」
呪文の詠唱と共に、ワルドが先手を仕掛ける。
対するアセルスは剣を突き出すように構えると突進した。

メイジとの戦闘の定石は距離を詰めること。
重々承知しているワルドも、レイピアを構えて迎え撃つ。

「グリフォン隊の隊長を甘く見てもらっては困る。
魔法だけではなく、剣の腕も一流でなくては勤まらないのだよ」
アセルスの剣を受け止め、呪文詠唱の時間を稼ぐ。
一太刀目を受け止められたアセルスは、腰のデルフを左手で引き抜く。

「例え二刀流だろうと……」
ワルドはアセルスの二刀流がただの奇策だと判断した。

理由はアセルスが持つ幻魔もデルフリンガーも長剣である事。
ハルケギニアにも二刀流の概念はあるが、通常は長短二つの剣を用いる。

しかし、アセルスは2本の剣どちらも攻撃に使う。
身を守るよりもアセルスが望んだのは、敵を討ち滅ぼす一点のみ。

端から見ていたルイズは今朝見た夢を思い出す。
アセルスの剣が素人目に見ても、格段に上達していた。

「うぉ……!?」
嵐のような猛攻。
しのぐワルドに余裕はない。

『相棒、すげえけど攻撃に偏りすぎだ!このままだと……』
デルフの忠告は、一手遅かった。
攻撃の隙をついたワルドがレイピアでカウンターで肩を突き刺す。

刺された以上、攻撃が緩む。
ワルドはその隙を呪文と剣で同時に攻撃するつもりだった。
怯むどころか、アセルスの剣に突き上げられてワルドは宙を舞う。

「ぐはっ……!?」
幻魔はただの剣ではない。
妖魔の職人はある特性をこの剣に与えた。

相手から攻撃を受けた時、自動的に反撃を行う。
例え、剣の持ち主が気絶していようと死のうと必ず発動する。
ワルドを上空に跳ね上げると、アセルスも追いかけるように大きく跳躍した。

まるで走馬燈のように、ワルドの視界が緩やかに過ぎる。

(フライで離れるか!?
いや、無理だ。間に合わん!ならば……)
早さこそが風の魔法の特性。
ワルドも多分に漏れず、詠唱の早さには自信がある。

「エア・ハンマー!」
訓練や実戦で幾度となく繰り返した詠唱を行う。
相手も跳躍した以上、防ぐ手段はないと判断して。

その刹那、ワルドには硝子が割れるような音が聞こえた。
エア・ハンマーはアセルスに当たり前に壁にぶつかったようにかき消されてしまう。

「何だと!?」
ワルドにはただ驚くしかできない。
詠唱を行っていたのはワルドだけではなく、アセルスもだった。
異なるのは魔法ではなく術、硝子の盾と呼ばれる術は攻撃から一度だけ身を守る。

アセルスは剣を大きく振り構える。
ワルドにもう打つ手は残されていない。

「アセルス、駄目!」
ルイズの制止にもアセルスは止まらなかった。

否、止められないのだ。
幻魔という武器の性質上、最低でも一度の反撃が返される。

ワルドの体は袈裟掛けに斬り裂かれる。

「がっ……」
地面に突き落とされたワルドがせき込むように血を吐き出す。

「ワルド!」
ルイズがコロシアムの塀を越えて飛び出す。
ワルドの元に近寄るも、あふれ出す血を止める手段はルイズにはない。

「誰か……タバサ!」
タバサも呼ばれた理由を察して、すぐに向かう。
ルイズは治療をタバサに任せ、アセルスのほうを向く。

「やり過ぎよ、アセルス!」
いつもより強い口調でアセルスに詰め寄る。

「決闘を望んだのは彼よ」
「だからってここまでしなくてもいいじゃない!」

幻魔の特性について、ルイズは知らない。
アセルスも説明する気がなかった為、お互いにすれ違いを生んでしまう。
止めようにも無理なのだが、ルイズには自らの意志で傷つけたようにしか見えない。

「どうして平然としていられるのよ……まるで心が無いみたいじゃない!」
「……心なんて持っていても、苦しむだけだもの」
感情こそ出さないが、自嘲するようなアセルスの言葉。

ワルドとの決闘について、謝る気はないが言い分は分かる。
自分の知人が傷つく姿を見たい者など、よほどの変質者であろう。

だから向けられた叱責もアセルスは受け入れる気だった。
しかし、ルイズは今にも泣き叫びそうな表情を浮かべるのみ。

(おかしいな……悲しませたかった訳じゃないのに)
責めるでもなく、何か言うでもなく、ただ悲痛な顔でこちらを見るルイズに居た堪れなくなる。

「ゴメン」
ルイズにだけ聞こえるか細い声でそう伝えると、アセルスは逃げるように場を去った。

「アセルス!」
ルイズが呼びかけた時、既にアセルスの姿は消えていた……



「ぐっ!?」
痛みにワルドが目を覚ますと、そこは見慣れぬ部屋だった。
まず視界に写ったのは、心配そうな表情を浮かべる桃色髪の少女の姿。

「よかった、目を覚ましたのね!」
「ここは?」
状況が飲み込めないワルドがルイズに説明を求める。

「宿の医務室よ。
あまりにも目を覚まさないようなら、病院に連れていこうかとも思ったけど」
「そうか……僕は負けたんだな」
ワルドも昼の決闘を思い出す。
外を見るとすっかり夜更けになっていた。

「どうしてあんな無謀な真似したのよ!」
困惑した表情を浮かべるルイズにワルドが口を開く。

「言っただろう、妖魔を信用しない方がいいと」
「……それだけで決闘を?」
ルイズの質問に短く首を振って否定する。

「昔の話さ。僕がグリフォン隊に入った頃、同期の親友がいた……」
ワルドは自らの過去を語って聞かせる。

「今時、珍しいくらい人の良い貴族でね。
グリフォン隊に入って、僕らはすぐに打ち解けた。
ある時、任務でオークの討伐を命じられて共に向かったんだ」
友人のことを懐かしむように、ワルドは窓から空を仰ぐ。

「オークが出ると言われる近くにたどり着いた時、洞窟を見つけた。
オークの巣じゃないかと、僕らは警戒して進むとそこには幼い兄妹がいた」
「どうしてそんなところに?」
ルイズの疑問に、ワルドの表情がわずかに歪む。

「彼らは両親を亡くし、残された家で過ごしていたらしい。
しかしオークが現れたせいで家も壊され、行く宛てもなく洞窟に逃げ込んだと」
哀れな兄妹の話にルイズの表情が陰る。

「話を聞いて、彼は『もう安心していい、僕らが君達兄妹を守る』と言った。
僕は正直反対した、まず彼らを安全な場所に連れていくべきではないかと考えたんだ」
ワルドが水差しを取ろうと手を伸ばす。

「はい……それでどうしたの?」
ルイズが水を注いで手渡すと、ワルドは一気に飲み干す。

「既に日が沈んでいたから、オーク退治は翌日に回した。
森から離れたくないと言う兄妹の意見を尊重して、彼らと共に洞窟で一晩過ごしたんだ」
ルイズはコップを持つワルドの手が振るえているのに気づく。

「僕はあの時気づくべきだったんだ!
あんな洞窟にいる幼い兄妹の不自然さに!!」
ワルドがコップごと、小さい机に拳を叩きつける。

「ど、どうしたの?」
「兄妹は吸血鬼だったんだ!オークは彼らの屍人鬼だった!
夜の妖魔相手に僕らはなすすべなく、蹂躙された。僕は幸運にも一命を取り留めたが、彼は……!」
怒りに身を震わせるワルドにルイズは恐る恐る問いかける。

「死んだの……?」
「それも可能な限り残忍なやり方でだ!
皮膚は剥がされ、肉をえぐり、骨を砕き……僕は体を拘束されて、彼の拷問する様を見せられた!!」
ワルドはルイズと反比例するように声を荒げて叫ぶ。

「恥も外聞もなく、彼だけでも救ってほしいと懇願した。
だが、妖魔はそんな僕の姿を見てあざ笑いながら彼をなぶり続けたよ……」
うなだれるようにワルドの体から力が抜ける。

「喉が裂ける程に叫んで、僕は意識を失い気づけば病院にいた。
彼の家族が遺体を見たとき、凄惨な状態に嘆くより先に嘔吐した程だ……」
心の積もりを全て吐き出すように、ワルドの声が擦れていく。

「その後、吸血鬼はどうしたの?」
「討伐されたよ、彼は殉職で二階級特進した」
思わず安堵するルイズ。
彼女の様子を見て、ワルドは話を続ける。

「妖魔と言うのはそういう連中なんだ。
分かりあうなんて不可能でしかない、根底から人とは異なる連中なのだから」
「でもアセルスは……」
人間だと言おうとして、声が詰まる。
アセルスを人として扱う者は誰一人いない。

……だから彼女は心を失ったのだろうか。
頼る者もなく力や追っ手に狙われ続ければ、いつか心の平衡が崩れるだろう。

ルイズとて、気が狂いそうになる日々を過ごしてきた。
もし、アセルスが呼べなかったのなら……
退学となり周囲の嘲笑に晒され続けたなら……
想像するだけで、心臓を鷲掴みされたような感覚を思える。

「本当は旅が終わってから言うつもりだったが、今言おう。
ルイズ……僕と結婚してくれないか」
「えっ……」
ルイズの思考を遮るワルドのプロポーズ。
許嫁とはいえ、唐突なアプローチにルイズは困惑する。
ワルドは構わずに身を乗り出し、ルイズの手を握ると情熱的に語り続ける。

「今はっきりと分かったんだ、僕は君を失いたくない。
使い魔とはいえ、妖魔に入れ込む君を見ていると不安なんだ」
「い、いきなり言われても困るわ。私まだ学生の身分だもの……」
しどろもどろになりながらの返答。
ワルドは気落ちしたように、ルイズの手を離す。

「すまない、君の気持ちも考えず性急過ぎた。
だが、僕が本気だと言うのは覚えておいてほしい」
ルイズはどうしていいか、分からなかった。
外から聞こえる喧噪のように、感情が入り乱れるだけで答えが見いだせずにいた。



ワルドが目覚めるより、少し前。
アセルスは一人で町外れの崖にいた。

『なあ相棒』
デルフの呼びかけにもアセルスは何ら反応を示さない。

『どうしてあんな嘘をついたんだい』
いつもなら引き下がるところだが、デルフは強引に質問を続けた。

「嘘?」
心当たりのない単語に、アセルスが尋ねる。

『心を無くしたなんて言ってたじゃないか』
「嘘じゃない。
人として生きられないなら、妖魔として生きる。
妖魔になるのに人の心なんて持っていても、苦しむだけだもの。」
アセルスが思い出すのは、かつてルイズにも告げた台詞。

『無くしちまったつもりだろうが、相棒には確かに心があるよ。
単に心の一部が欠けちまっただけさ』
「二度と元に戻らないなら同じよ」
言葉遊びにつきあうつもりはないと言わんばかりに、アセルスは切り捨てる。

『無くしたものは取り戻せないが、壊れただけならまた治せるんだぜ』
「言われなくても知っている」
デルフの一言は、アセルスの感情を逆撫でるものだった。
無くした者が二度と取り戻せないのを、誰よりも知っているつもりだ。

使い手の感情を察したデルフはこれ以上は追求せず、代わりに別の疑問をアセルスに尋ねた。

『だったら嬢ちゃんには、なんでつきあうんだい?』
「さあ?何故かな……」
はぐらかしたようにも聞こえるが、デルフは彼女の感情を正確に把握していた。

本当に分からないのだ。
自身にも不明なら、真意は誰にも掴めない。

大切な人を失った絶望。
かつての自分を重ねる境遇。
アセルスの過去には、思い出したくもない苦痛の記憶だけが渦巻く。

ふと、アセルスが背後を振り返る。
辺りは日が落ちているのに、明かりを感じたからだ。

『街が……!?』
デルフが驚いたような声をあげる。
明かりの正体は街の一部に火が燃え広がっていたからだ。

『あの方角って確か嬢ちゃん達の……』
デルフが言う通り、昨晩アセルス達が泊まった宿が燃えていた。

アセルスは駆け出していた。
何故、ルイズに連れ添うのか?
浮かんだ疑問が心に引っかかったまま……


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