あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

Mission 32 <己の立つべき場所>



(スパーダさんがこんな顔をするなんて……)
ティファニアはスパーダが無念の顔を浮かべていることに驚いていた。
きっと、さっきのあの悪魔から守ろうとしていたのが守りきれなかったのだろう。それを後悔しているのだ。
そして、彼自身の手ではルイズの命を救うことができないことに。
ティファニアは自分の指に嵌められている指輪をじっと見つめた。
母は生前自分に言った。困っている人を見たら助けてあげなさい、と。
その時のためを思ったのか、母は自分にこの指輪を残してくれた。
そして今、自分の目の前で苦境に立たされている人がいる。その人達を救うために自分がすべきことは……。
(母さん……力を貸して)
意を決したティファニアは指輪を外すと、それを手にルイズの傍へと歩み寄り屈みこんだ。
「スパーダさん。ルイズさんを横にしてあげてください」
毅然とティファニアが告げると、スパーダは訝しそうにしながらも従った。
蘇生はできなくとも、せめて体に付けられた傷だけでも癒してやろうとバイタルスターを使おうとしたのだが……。
ティファニアは手にする指輪を横たえられたルイズの胸の上でかざし、意識を集中させる。

「その指輪……」
スパーダはティファニアが手にする指輪の宝玉から、強い魔力を感じ取っていた。
「旧き水の力よ……この者に流れる水と共に、この者を癒したまえ……」
まるでこれから起こるべき事象を読み上げるように静かに呟く。透き通るように澄んだ声も相まって、本物の妖精が詠っているように神秘的であった。
ティファニアの呟きと共に指輪の宝玉が仄かな光を発し始めた。宝玉から大粒の雫のような光が漏れ出し、ポタリとルイズの胸に滴り落ちる。
その雫を中心に光が広がり、ルイズの全身を包み込んでいった。
ネヴァンの稲妻で焼き焦がされ、炭化していた手の傷も、首から恐らく全身にまで走っているであろう帯状の火傷も、まるで絵の具で塗り潰すかのように癒えていく。
ものの数秒で、ルイズの全身に刻まれていた全ての傷は跡形もなく消え去っていた。
虚ろであった目は癒しと共に瞼が閉じられ、まるで眠っているかのような安らかな顔を浮かべている。
胸は小さく上下し、止まっていたはずのルイズの呼吸と心臓が再び動き始めたことを示していた。
(旧い水の力……先住魔法か)
ティファニアの指輪が水の先住魔法が封じられている代物であることを知り、スパーダは驚嘆していた。
ほとんど死んでいたに等しいルイズを一瞬にして蘇生し、傷さえも治してしまったのだ。
スパーダがティファニアを見やると指輪を嵌め直しながらにこりと嬉しそうに微笑んでいた。

「おい、大丈夫か!」
気絶から立ち直ったアニエスがアラストルを手にして起き上がるとあの悪魔の姿は消え、舞台にはルイズの体を抱き上げているスパーダと修道女のティファニアの姿がそこにあった。
「奴はどこへ行った!?」
「心配はいらん。もう終わった」
スパーダは興奮しているアニエスの方を振り向き、毅然と結果を返していた。
どうやら、少し気を失っている間にスパーダがあの悪魔を仕留めてしまったらしい。
一息を吐いて己を落ち着かせたアニエスはアラストルを鞘に収めて背負い、スパーダ達の元へと歩み寄っていく。
「何だ。いつのまに来ていたんだ?」
「あ、ご、ごめんなさい……。皆さんのことが心配で……」
目を丸くしたアニエスにじろりと睨まれ、ティファニアは思わず詫びいっていた。
「そう言うな、アニエス。彼女のおかげでミス・ヴァリエールは救われた」
スパーダは片腕でぐったりとしているルイズの体を抱えたまま、ティファニアの頭をヴェールの上から撫でてやった。
優しく撫でられていたティファニアは横目でちらりとスパーダの顔を見上げてみる。
先ほどまで冷徹な悪魔のような顔、深刻な苦い顔を浮かべていたのが嘘のように、僅かながらも笑みを綻ばせていた。
(良かった。……スパーダさんの役に立てて)
ティファニアはスパーダにこうして彼に触れてもらうことで彼の持つ父性をその身ではっきりと感じていた。

アニエスは事情はよく分からないが、スパーダがこうまで彼女に謝意を示していることから大方、このティファニアもメイジか何かなのだろうということで納得をしていた。
「……そうか。しかし、ヴァリエール殿も無茶をしたものだな」
このヴァリエールという少女はいかにメイジといっても実戦経験がほとんどなかったのだろう。だからあんな無茶を起こしてしまったのだ。
おまけにあんな挑発にまで乗ってしまって。
だが魔法学院の生徒であり、まだ子供である以上、あのような無謀な行動を取ってしまうのも致し方なかったかもしれない。
それをフォローするのが、自分達のような戦いの経験者なのだ。
「だが、お前もずいぶんと手傷を負わされたようだ」
言いながらスパーダは懐からバイタルスターを取り出しアニエスに投げ渡す。
「悪いな」
アニエスは渡されたバイタルスターを自分の胸に当てると、体中に負っていた傷を治していく。
再びルイズの体を両手で抱えたスパーダはもはや長居は無用と言わんばかりに歩き出し、ボロボロになってしまった悪魔の店を後にした。


酒場の外からチクトンネ街の通りへ出るとそこに現れたのは街を警備している警邏達であった。
「アニエス! 何があったのだ?」
市民の誰かが通報したことで派遣されたようだが、スパーダ達と一緒にいるアニエスの姿を見るなり何事かと問いただしてきたのである。
どうやらアニエスとは顔見知りらしいので、彼女は任せろと言わんばかりに頷いて現場で起きた出来事を告げた。
最近、密かに発生していた怪事件とその調査、そして犯人である悪魔をスパーダと共に撃退したことなどありとあらゆる内容をだ。
話を聞かされた巡邏達は呆気に取られた様子でスパーダを見つめていた。
ついこの間、汚職で捕まったチュレンヌを叩きのめしたという噂の異国の貴族が悪魔をも打ち倒してしまうなど……信じがたい話であった。
魔法を使うメイジならまだしも、彼は剣を使うのだから。
「今回もすまんな、スパーダ。礼を言う」
「気にすることはない、後は任せるぞ。行こう」
そう短く言葉を交わし、盟友の化身を預けた戦士と別れたスパーダは気を失ったままのルイズを抱えたままティファニアと共に通りを進んでいった。
気を失っているルイズを抱えているためか、道行く人達はちらちらとスパーダに怪訝な視線を向けてきていたが、それを無視する。

「その指輪はマジックアイテムだな」
「はい。これは母の形見なんです」
未だ騒ぎの燻りが続く街中をティファニアと並んで歩き、話しかけると即座に肯定していた。
愛おしそうに指輪を撫で、じっと見つめるティファニア。
ティファニアの母はエルフ。つまり、エルフの宝というわけだ。
「母は言っていました。〝困っている人を見つけたら、助けてあげなさい〟って。本当に助けることになるなんて、思ってもみなかったけど……」
ティファニアは目を細め、心底安心したような表情を浮かべた。
「スパーダさん達のお役に立てたなんて……嘘みたいです。わたしなんか、邪魔になるんじゃないかって思っていたのに」
もちろん、戦闘能力を持たないティファニアが戦いの場にいれば足手纏いになっていたのは間違いないだろう。
だが、それは彼女が救ったルイズにも同じことが言えたことだ。結果として手痛い目に遭ったのだから。
「君には君で、自分にできる役目というものがある。それを充分に果たした。それだけのことだ」
スパーダはティファニアとその指輪を見やった。
「ミス・ヴァリエールを救ってくれたことには心から感謝する」
「い、いえ。わたし、当たり前のことをしただけです。ただ、母の言い付けに従っただけで……」
恭しいスパーダからの謝辞にティファニアは慌てて謙遜する。
スパーダは素直にティファニアのとった行動には感服していた。
スパーダも他者に救いの手を差し伸べるがほとんどは戦いによって敵から守ることがほとんどだ。
ティファニアのように傷つき果ては命の灯火が尽きた人間を救うというのはさすがのスパーダとて至難の業である。
窮地に立たされた者に救いの手を差し伸べるのは当たり前のこと。たとえそれが戦いによるものでなくとも、この少女はそれを当然のこととして認識している。
そして、その心がけを彼女の母は娘に教えたのだ。
「……良い母親だったのだな。名は何と言う?」
「シャジャルと言います」
「シャジャル……か」
思えば何故、エルフがアルビオンにいたのかが分からない。エルフは砂漠の民であり、人間達の領土であるハルケギニアにはよほどのことが無ければ干渉などしないはずである。
だが何にせよ、そのシャジャルというエルフは人間と異種族間を越えた愛を育み、この少女に己の宝と意志を授けたのだ。
……だからこそ惜しまれる。そのような者が既にこの世にいないとは。
「ティファニア。母親からの教えは大切にしておけ。君には君でできる救いの術がある。……無論、無理はするな」
「は、はいっ。……その、スパーダさんもルイズさんも無茶はしないでくださいね」
逆にティファニアからもそのようなに心配され、スパーダは苦笑した。
自分はまだしもルイズにはこれからそれを伝えてやらねばなるまい。
「ルイズさんはこれからどうするんです?」
「一晩は休ませる」
トリスタニアへは学院の馬で来ている。このまま帰ってもいいが、やはり宿でルイズを休ませておいた方が良いだろう。
宿屋はどこでも構わないがせっかくだからスカロンの店にでも厄介になるとしよう。
ネヴァンの作った店が潰れた以上、再びチクトンネ街は活気を取り戻すことになるだろう。
「だが、その前に君を送ってやろう。……何かあったら、君の姉に申し訳が立たん」
「……そういえば、さっきのあの女の人の悪魔ですけど」
姉代わりであるマチルダがスパーダのことを思っているのはティファニアも知っている。スパーダ自身はまるで興味がなさそうだったが、ティファニアも息を呑む
美貌を備えていたあの悪魔がスパーダに串刺しにされつつも妙に馴れ馴れしくしていたので、複雑な気分であった。
「スパーダさんとどういう関係なんですか?」
「ただの腐れ縁だ」
つまらなさそうに、そして疲れたような溜め息が吐き出されていた。


(……あ、れ……?)
一体、ここはどこなのだろう。確か、自分はスパーダやアニエスと共にあの淫乱な悪魔と戦っていたはずである。
バースト(炸裂)の魔法を悪魔に叩き込んでやろうとした途端、そこから突如として意識が吹き飛んでしまったのだ。
それからどうなったのか、自分が今どこにいるのかすら分からない。
……しかし、確かめようにも体が動かない。
いや、全く動かないのではなく体に力が入らないせいで思うように動かせないのだ。
手も、足も、腰も、華奢な体の全てが完全に萎えてしまっている。
まるで何十日も飲まず食わずで歩きに歩き続けたせいで、疲労が溜まってしまったような脱力感が体全体を支配している。
瞼が重いせいで上手く目を開けられない。薄っすらと僅かに目を開けようにも、すぐに閉じられてしまう。
(……ベッ、ドの……う、え……?)
かろうじて、自分がベッドの上で寝かされていることはその身に受ける感触で理解することができた。毛布もちゃんとかけられているようである。
魔法学院の寮のベッドと比べれば寝心地は良くなかったが。
ということは、ここはどこかの宿だろうか?
だが、どうして自分がそんな場所にいるのか分からない。そもそも、スパーダはどこに?

コンコン、と扉か何かを叩く音が聞こえた。
ルイズは精一杯の力を振り絞って首を動かし、音のした方を向こうとする。せめて、片目だけででも確認をしようと瞼を必死に上げ、目を開けようとした。
「ごめんなさぁい。お休みの所、失礼するわよん」
震えながらも首を動かし、薄っすらと目を開けると覚えのある気持ち悪い男の声を耳にした。
(ス、パー、ダ……)
ルイズの視界に微かに飛び込んできたのは、自分の横で椅子に腰掛けながら眠りについていたスパーダの姿だった。
かけがえのないパートナーが傍にいてくれたことに安心し、手を伸ばそうにももはやルイズにはこれ以上、体を動かす力は残っていなかった。
「ぁ……ぅ……」
彼の名を呼ぼうにも虫の息のように弱々しく漏れるだけで、どうしてもはっきりとした声が喉の奥から出てこない。
「無理はするな」
腰を上げたスパーダはその消え入りそうな声が聞こえていたのか、労わりの声をかけてくれた。
「……ス、パ……ダ……ま、て……」
そのまま背を向け扉の方へ向かっていくスパーダに、ルイズは必死に呼びかけようとした。だが、その弱った体ではまともな言葉を発することはできない。
「大人しくしてな、娘っ子。下手に動いてもどうにもなんねえぜ?」
視界には入らないが、デルフの諌める声が聞こえてきた。

「ルイズちゃんの具合はいかがかしら? 軽ぅ~くだけど、朝ご飯をお持ちしてあげようと思うんだけど。もちろん、スパーダ君の分もね」
「そうだな。頼む」
現れたスカロンの提言にスパーダは即座に同意する。
昨晩、ティファニアを修道院へ送った後、この魅惑の妖精亭へとやってきたスパーダは部屋を一つ借りて運んできたルイズを寝かせていた。
いくら蘇生したとはいえ、肉体そのものは衰弱した状態であるため、ゆっくりと休ませてやる必要があったのだ。
バイタルスターで体力を回復させようにも、衰弱した状態から一気に正常に戻してしまっては反動に耐えられない恐れがある。
よってまずは一晩眠らせてある程度、自然に回復させた上でバイタルスターを使って正常にしてやるつもりだった。
「トレビアン。それじゃあ、すぐにお持ちしてあげるからねん。待っていてちょうだぁ~い」
ルンルンとした気分でスカロンは体をくねらせながら一階へと下りていった。
扉を閉めて振り返ったスパーダは再び椅子に腰掛け、懐からバイタルスターを取り出した。
魔力の純度は下位のものであるが、今のルイズの状態ではこれが妥当であろう。
ルイズは今、まだ弱っている体を必死に動かそうとしている。これ以上、それを続けさせてしまうのも忍びない。

「……ここ、どこ?」
バイタルスターで体力が少し回復し、とりあえず体は起こせるようになった。
まだ少し脱力感は残るもののつい先ほどまでとは天国と地獄もの差があり、快適だった。
「スカロンの店だ。一晩泊めさせてもらった」
部屋を見回しながら尋ねるルイズにスパーダは答える。
「っていうか、何でこんな所に……それより、あの悪魔は!?」
「心配はいらん。既に片は付いた」
淡々と結果を告げるスパーダに、ルイズは目を丸くする。あれから一体何があったのか、もっと知りたかった。
ルイズが尋ねようとしたその時、再び扉がノックされた後、スカロンが入ってきた。
「お待たせぇ~ん。あら、お目覚めのご様子ね? それじゃあ、ごゆっくりと――」
言いながらスカロンは部屋に備えられているテーブルに盆を二つ置いていき、退室していく。
朝食のメニューはシチューのようだ。今のルイズにはちょうど良い。
スパーダは皿が乗った盆をルイズの膝に置き、自分もテーブルについたまま食し始める。

だが、ルイズはスプーンを握ったまま呆けており、動かない。
「どうしたよ? さっさと食わねえと冷めちまうぜ」
声を上げるデルフの篭手はベッドの傍の小さなチェストの上にルイズのマントと共に置かれていた。
「お前さんはあの世に行く寸前だったんだからな。少しでも体力つけねえと身が持たないぜ?」
「……ちょっ! 死ぬ寸前ってどういうこと! スパーダ! 一体、何があったのよ!?」
デルフが口にしたとんでもない発言に、ルイズは黙々と食事を続けるスパーダに食ってかかる。
顔を向けないスパーダは食事を続けつつ、ネヴァンとの戦いで起きたことを話してくれた。

ルイズがネヴァンの稲妻に打たれた後、ネヴァンはスパーダの手によって倒されたこと。

稲妻に打たれたルイズは死んでいたに等しい状態であったがそこに付いてきたティファニアが現れ、マジックアイテムで蘇生させてくれたこと。

「あの子が、わたしを……?」
「その娘には感謝しな。貴重なマジックアイテムを惜しみなく使って、相棒ができねえことをやってくれたんだからな」
話を聞かされたルイズは愕然としていた。あのティファニアに、そんなことができただなんて。
そして、はたと気付く。自分の服やマントが所々に焦げ跡が刻まれてボロボロになっていることを。
ルイズはあの時、自分の身に何が起こったのかが分からなかった。その結果を知らされ、息を呑んだ。
悪魔の力は、メイジの力などよりも遥かに恐ろしいかを改めて認識させられる。
「とにかく無事でなによりだ。……む」
「何しやがるんでぃ!」
突然、ルイズがデルフの篭手を掴んでスパーダに投げつけてきたのだ。
スパーダは左手を動かし、それを掴みとるとルイズの方を振り向いた。
彼女は不満を露にしたように顔を顰め、スパーダを睨みつけていた。
「何であたしを守らなかったのよ! あなたはあたしのパートナーでしょ!?」
突然癇癪を上げるルイズを、スパーダは素っ気なさそうに見つめる。
「スパーダ! パートナーを守るのが、あなたの役目でしょう!? それなのにあんな役立たずの平民に任せるだなんて!」
全てを聞かされたルイズは昨日の出来事を何もかも思い出した。
スパーダは悪魔の討伐をルイズには任せず、あのアニエスとかいう平民の女剣士に倒させようとしたのだ。
それがどうにも許せなかったのだ。パートナーではなく、平民の方を信頼するだなんて。
「パートナー一人も守れないだなんて、何が伝説の魔剣士よ!」
「おいおい、娘っ子。俺は相棒の中から昨日の戦いを拝見させてもらったんだがよ……いくら何でもありゃないぜ?」
テーブルの上に置かれたデルフが呆れたように呟いていた。
「何がよ!」
「あのアニエスとかいう女はな、確かに魔法は使えねぇ。だが、悪魔どもとの戦いはかなり場数を踏んでいることは確かだ。
だからお前さんと違って、正面からガチで戦ってもまず大丈夫ってわけよ」
「あたしだって! あんな悪魔くらい、正面からやったって!」
「そうやって死にかけたのはどこの誰だっけか?」
ぐっ、とルイズは言葉を詰まらせる。そして、スパーダを睨みつけた。

「スパーダがあたしを守らないからよ! パートナーはお互いに助け合って行動すべきなのに!」
「……はっきり言うがな。足を引っ張ってたのはお前さんだよ、娘っ子」
「な……!」
冷淡な声で答えたデルフにルイズは目を見開く。
「相棒は相棒でちゃんと考えがあったのに、お前さんはそれを無視して前に出てきて無謀なことをしちまった。
いくら相棒でも、そんなことする奴のフォローなんて難しいもんだぜ? アニエスが平民だからって経験者であることにゃ変わりねえ。
それを無碍にしたら命がいくつあっても足りねえ」
「あたしは……あたしは……!」
自分は役立たずなんかじゃない。そう言い返そうとした時だった。
「もう良い。デルフ」
ようやく喋りだしたスパーダは空になった皿にスプーンを置いた。
ちらりと、ルイズの方へ視線を向けてきた。いつもと変わらぬ冷徹な瞳だった。
「結果的に私がミス・ヴァリエールの身を守れなかったことに変わりない。それについては詫びよう」
「スパーダ」
「だがこれだけは言っておきたい」
体ごと正面に向けてきたスパーダは両脚と腕を組んでいた。
「今の君が立つべき場所は、決して修羅場の中などではない」
「どういうことよ」
「つまりだな。今の娘っ子はまだ悪魔どもと戦うには経験も何もかもが不足してるってことだ。だから戦いの最前線に出る必要なんてないのさ」
デルフからの言葉に、ルイズは顔を伏せた。
前線に出ないということは、自ら敵とは戦わないことになる。それでは自分は役立たずに……。
「君は決して役立たずなどではない」
目を伏せ、スパーダは静かに言葉を続けた。
「君には君で、己の立つべき場所がある。アニエスにも、私にも、そしてティファニアにも、それがあるのだ」
「立つべき……場所?」
「私やアニエスは見た通り、敵を前に剣を振るうことが役目だ。ティファニアは戦う力こそないが、人の命を救うという役目を果たした。
そして君の今の役目は……私達のサポートだ」
スパーダは立ち上がり、立て掛けてあった閻魔刀を手に取り部屋を後にしようとする。
「それだけは自覚してもらいたい。己が立つべき場所を決して見失うな。……次に見失ったら、私では尻拭いをしきれん」
言い残し、スパーダは部屋から去っていった。
一人残されたルイズはぼんやりとしたまま、扉を見つめていた。
(あたしの……役目……)
「お前さんのその爆発の魔法はな。一見派手だが、せいぜい相手を吹き飛ばして怯ませるのが限界なんだよ」
テーブルに置きっぱなしにされたデルフがルイズに語りかけてきた。
「倒せるのは土メイジの雑魚ゴーレムとか、ガーゴイルとかその程度だぜ? ましてや、あんな悪魔なんかこけおどしにしかならねえ。
どちらかっていうと敵を倒すよりゃあ、相棒が言ったように前線で戦う相棒をサポートする方に向いてるのさ」
せっかく新しい魔法として特訓を続けているものが、その程度の力しかない? ルイズは顔を顰めた。
「六千年生きてきた俺からも言わせてもらうぜ。お前さんの立ち位置は敵に突っ込むことじゃねえ。
それは相棒に任せれば良い。相棒だけじゃねえ。アニエスみたいに平民だろうと、場数を踏んでいる奴も同じことさ。
今のお前さんは相棒達の戦いをサポートして、相棒はお前さんを守る。そして平民だからって侮っちゃあいけねえ。それを忘れるなって、相棒は言いたかったわけよ」
まるでスパーダの思いを代弁するデルフからの言葉にルイズは己の手を見つめた。
スパーダがアニエスとかいう平民を信頼するのは身分などではなく、その目で彼女の力量を見極めていたから。
そして、自分にサポートを任せようとしていたのもルイズ自身の力がどのようなものかを知っているから。
……それが分からなかったのは、自分だけ。なんとも情けない結果ではないか。
パートナーのことを信頼していなかったのは、自分の方だったのだ。
それが結果としてパートナーと、共に行動する者達の足を引っ張ることになってしまった。
ルイズは己の晒した醜態に歯噛みした。それこそ自分が〝ゼロ〟のルイズだと示しているものだ……。

「それが分かったなら、さっさとその飯食っておきな」
デルフに促され、激しく落ち込んでいたルイズはぼんやりとしたままスプーンを再び手にし、細々とシチューを口にしていた。


「……しっかし、ルーンも封印されていて運が良かったよなぁ」
ぽつりと、誰にも聞こえない声でデルフは囁いた。
スパーダの左手に刻まれた〝ガンダールヴ〟のルーン。あれは今、スパーダの力によって封印されていわば仮死状態となっている。
本来、主人か使い魔のどちらかの命の灯火が消えた時、契約は途切れルーンも使い魔から消え去るという。
だが、スパーダに刻まれていたルーンは仮死状態であったがためにそのことに気が付かなかった。
故に、未だ彼の左手には刻まれたままだった。



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