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第12話『葛藤』


王女からの依頼を受けた夜。
早朝に出かけるべく、ルイズはシエスタにモーニングコールを頼む。
当初はアセルスに頼む事も考えたが、時間の感覚が曖昧だと言うので諦めた。

支度を終えて、眠りについた夜。
ルイズはまたも夢を見ていた──



アセルスが妖魔となって幾ばくか月日が流れる。
針の城では、日も射さない為に昼夜の流れがなくなっていた。

──ああ、だからアセルスは時間が曖昧なのかしら。
ぼんやり考えていると、アセルスが誰かと話しているのに気がつく。

「ねえ」
「は、はい」
アセルスの呼びかけに少女は熱に浮かされたように呆然としている。

「おかしな人だな」
つい呟いてしまった言葉に、アセルスと対話していた少女は明らかに落ち込んでいた。

「おかしな人なんて言ってゴメン。私はアセルス、貴女は?」
アセルスの表情に浮かぶのは少女のあどけなさそのものだ。
ルイズはアセルスの年齢を知らなかったが、夢での姿を見る限り同年代なのかと推測する。

「……ジーナです」
ジーナと呼ばれる少女は城下町のお針子だった。
一般的な平民と言った様子で、アセルスとの初対面には怯えていたようにも見えた。
アセルスの姿は血塗れだったので無理もないのだが。

二人は他愛もない会話を続けていた。
アセルスはかつてキュルケ達とルイズの会話を羨ましいと言っていた。
ジーナを思い出していたのかもしれない。

ルイズが傍観を続けていると、城へ戻ろうとするアセルスを呼び止める者がいた。

「ジーナをお城へ御連れになるのは勘弁してくださいませ」
仕立て屋の主人が頭を下げて懇願する。
アセルスには主人が何を話しているのか分かっていない様子だった。

ただ理解したのは、主人が恐れている事。
アセルスがオルロワージュと名乗る妖魔の血を受け継いで以来、向けられる視線。

嫉妬と羨望、畏怖と陰謀。
平穏を望んでいたアセルスには、妖魔の血も針の城での生活も無用なものでしかない。

アセルスが穏やかな表情を浮かべるのは、二人のみ。
一人はジーナ、もう一人はアセルスの教育係を任された妖魔の白薔薇。
妖魔ながら清廉な微笑を浮かべる彼女を見て、ルイズは次女の姉を重ねた。

ある日、アセルスは焼却炉が城から出口につながっていると教わる。
城からの脱走を計ったアセルスは白薔薇とともに、そのまま炎へ飛び込んだ。

「え!?」
ルイズが突然の出来事に悲鳴を上げるが、二人は一瞬で火に包まれる。
ただルイズがうろたえていると、辺りが雪一面に覆われた白銀に変わっていた。

「白薔薇……」
生まれたままの姿で不安げに呟くアセルス。

「何とか燃え尽きずに済みましたわ、肌や髪も再生いたしました」
アセルスの後ろから、白薔薇が現れる。
炎で服や装飾品は燃え尽きていたが、露になった素肌には火傷跡も残っていない。

「寒い……」
当然だろう、雪山にいるのだから。
そうルイズは思っていたが、どうやら白薔薇は違うようだった。

「それはアセルス様が人間の証拠ですわ、私は何も感じませんもの」
白薔薇とアセルスは、巨大な宮殿に向かう。

迷路のような宮殿にいたのは別の妖魔だった。
オルロワージュのように玉座に座っていることから、位の高い妖魔。
すなわち上級妖魔なのだろうと見ているルイズにも伺えた。

「私、オルロワージュ様に御仕え致しております白薔薇と申します。
こちらの方はオルロワージュ様の血を受けられたアセルス様でございます」
白薔薇が前に出て謁見する。

「ほー、そなたが噂の娘か!
オルロワージュも酔狂なことをする、よほど退屈と見える」
陰気な針の城に比べ、城の雰囲気も妖魔の口調にも陽気さが伝わる。
白薔薇が召し物の下賜を願うと、指輪の君と呼ばれた妖魔は頷いて答えた。

「やはりこの方が良いな。
人間どもなどは裸のほうを好むようだが、理解に苦しむ」
指輪の君が冗談混じりに告げると、アセルスや白薔薇の服が再現された。

「さて……事情を聞かせてもらおうか」
白薔薇がアセルスの身に起きた事を語ると、指輪の君は物珍しそうに語った。

「妖魔のときはゆっくり流れる。
アセルス殿の時は激流のように流れておる、中々楽しめそうだな」
「楽しくなんかない!」
「白薔薇姫、何か望みはあるか?」
アセルスが当然抗議の声を上げるも、指輪の君は無頓着に尋ねる。

「はい、どこか別のリージョンに送ってもらえたらと思います」
「よかろう、ではさらばだ」
白薔薇の望み通り、別の場所に送り届けたのだろう。
ルイズの眼前でアセルスと白薔薇の二人は姿を消した。

城に残されたのはルイズと城主である指輪の君のみ。
神妙な顔つきになると、一人呟いた。

「オルロワージュめ、己の血によって破滅するかも知れん……」
ルイズには指輪の君の言葉が理解できない。
考えようとしたが理解するより早く、意識が離れてしまった。



「う……ん……」
ベッドから身体を起こせば、外はまだ朝靄に包まれていた。
予定より早く起きたが、何より先に夢を反芻する。

永遠の命を持つ存在、妖魔。
ハルゲニアで妖魔と言えば吸血鬼が一般的だが、彼らとて不死という訳ではない。

だが、アセルス達は死なない。
死が存在しないのがどれほど異常な事か。

上級妖魔であるアセルスに死は存在するのか?
不老不死と言えば聞こえはいいが、それは永遠の孤独ではないのか?
だからこそ、アセルスは孤高でいられるのだろうか。

「でも、あの頃のアセルスは……」
妖魔となった絶望、周囲の悪意に傷つく姿。
理由は分からないが、今のアセルスと随分異なって見える。

何がアセルスを変えたのか?
いくら考えてもルイズには見当もつかない。
ルイズの思考を遮るように、部屋にノック音が響く。

「失礼しますルイズ様、お約束の時間になられたのでご連絡に参りました」
扉の前にいるのがシエスタだと気づく。
ルイズが扉を開けると、お日様のように明るい笑みを浮かべるシエスタが立っていた。

「おはようございます、ルイズ様。もう目覚めていらしたんですね」
「おはよう、シエスタ」
ルイズも釣られて笑顔で挨拶を返す。

「アセルス様もおはようございます」
「おはようシエスタ……エルザは?」
眠気を払う為にシエスタが用意した紅茶を手に取りながら尋ねる。

「エルザちゃんは今、馬の準備を整えています」
「悪いけど、後でエルザに剣を持ってくるように伝えておいて」
普段口うるさいだけの存在だが、武器を複数用意するに越した事はない。
最も、デルフを放っといて来たのを今まで忘れていたのだが。

「ああ、いないと思ったら預けてたのね」
買った張本人も言われて、デルフの存在を思い出していた。

「どこに行かれるかは存じませんが、御気をつけて」
王女からの密命である為に、ルイズは詳細を話していない。
また、シエスタも学院での仕事がある為に見送りもできない。

万が一の事に備えて、ルイズは手紙を残していた。
もし自分がひと月経っても戻らぬ場合は、机の引き出しを開けるようにと注釈付きで。

シエスタはルイズが危険な目に遭う可能性を察している。
ルイズもシエスタに心配かけるのは心苦しいが、隠し事はできずに正直に伝えた。

正直に告げられたからこそ、シエスタは止められない。
ルイズが誰より貴族らしくあろうとするのを知っていたから。

「くれぐれも無茶はしないでくださいね」
シエスタの不安。
ルイズが自分自身を犠牲に捧げてしまう予感がしていた。

「アセルス様もルイズ様を御願いします」
「うん」
深々とお願いをするシエスタにアセルスは短いながらも力強く答えた。

「さっ、それじゃ向かいましょう」
準備を整えた二人は馬車へ向かう。
遠のく後ろ姿を見ていたシエスタは祈る。

「始祖ブリミル様、どうかお二人が何事もなく帰ってこれますように」
もし神という者がいたら、底意地の悪い性格であろう。
純粋な少女の願いは叶う事なく、無惨にも引き裂かれるのだから。



「やあ!待っていたよ」
馬車にたどり着く前に現れた一人の生徒。

「ギーシュ……?」
ルイズは唖然と名前を呼ぶしかできない。

決闘で重傷を負ったのは知っていた。
かろうじて一命を取り留めたと言う話も。
そんな彼がここにいる理由、ギーシュの言い分を端的に説明するとこうだ。

昨日姫殿下を廊下で見かけるも、ルイズの部屋に入っていった。
先日の決闘以来、顔を会わせづらかった為に窓の下から使い魔に様子を窺っていた。
(実際はアセルスが怖かったのだろうとルイズは推測していたが)

ルイズへの依頼を盗み聞きして、自分も任務に参加するべく二人の前に姿を現した。

「どうするの?」
「連れて行かないわよ」
呆れた様子のアセルスの問いにルイズが一言で切り捨てた。
アセルスも異論はないので、ギーシュを無視して馬車に乗り込もうとする。

「ぼ、僕はドットメイジとはいえグラモン元帥の息子だ!『ゼロ』の君より……」
ギーシュの迂闊な一言。
アセルスとルイズは同時に武器を首に突きつけた。

「今のは僕の失言だった、謝るよ」
ギーシュは冷や汗を流したまま、素直に詫びた。

「……分かった、条件次第で連れていってあげる」
ルイズは妥協案を出す。
このまま押し問答しても、時間の無駄にしかならない。

「本当かい!」
「いいの?」
喜ぶギーシュと疑問を投げかけるアセルス。

「エルザ、ちょっと来て……この娘と決闘して勝てたら、連れて行ってあげる」
エルザを呼ぶルイズ。
ギーシュを連れて行く気が全くないとアセルスは悟った。

「ハハハッ、いくらなんでも僕を馬鹿にし過ぎじゃないかい?
いや、本当はついて来て欲しいって意味かな」
この場でエルザの正体を知らないのはギーシュのみ。
木の枝を操るエルザに対して、樹木に背を向けた状態で薔薇の造花を構えてしまう。
余裕を見せながら引き受けた決闘は3秒で片付き、ギーシュは再び入院生活に戻った。



出発前に無駄な時間を過ごした。
胸中で愚痴を零しながら、ルイズは馬車に乗り込もうとする。

「ルイズ下がって」
アセルスによって馬に近づくのを制止される。
ルイズがアセルスの視線に釣られて空を見上げると、大型の獣のような影が見えた。

「グリフォン!?」
「おっと、驚かせてしまったようだね」
グリフォンにまたがる人影が、レビテーションの呪文を唱えて地面に降り立つ。

「ワルド様!?」
「久しぶりだね、僕のルイズ」
人影の正体にルイズは更に驚いた。
親同士が許婚としての約束を交わした相手なのだから。

「ど、どうしてこちらに!?」
「昨夜、姫様の指令で君達を護衛するように仰せつかったんだ」
動揺を隠し切れず、どもりながらの質問にワルドは答える。

「貴方は?」
「おっと、これは失礼。
魔法衛士グリフォン隊の隊長、そしてルイズの婚約者のジャン・ジャック・フランシス・ワルドだ」
ワルドは握手を求めるが、アセルスは応じない。

「私はアセルス。今はルイズの使い魔……かな」
アセルスはワルドがどうにも気に入らない。
ルイズとアセルスは似た境遇だったが、決定的な違いが一つある。

それは力の有無。
アセルスは強大な力を持つが故に、力を利用しようとする者も少なくない。

力を奪おうと画策したセアト。
アセルスを利用して、オルロワージュを討ち滅ぼさせたラスタバン。
自らの欲望の為に、人も妖魔も実験材料にしていた生物研究所の所長。
故に、アセルスは上辺だけを取り繕う者に対して否が応にも敏感になっていた。

腐臭を覆い隠す上辺だけの微笑み。
醜悪な雰囲気を、眼前の男から感じ取っていた。

「アセルス……?」
不穏な空気を察したルイズが呼びかけた。
体験もあり、アセルスは人間の悪意が世界で最も醜いものと思っている。

アセルスが愛した人間は過去、ジーナのみ。
ルイズに向けるのは、自身の境遇を重ねた共感。

しかし、アセルスも気付いていない。
その共感は誰かを信じたい心情の表れであることに。

「邪魔にならないなら、ついてきてもいいわ」
自らを受け入れてくれたルイズの前だから、彼女の知人らしき相手に拒絶はしなかった。
この判断を、後まで悔いる事になるとも知らずに。



馬車に乗るのはアセルスと従者のエルザのみ。
ルイズはワルドと共に、グリフォンで乗っているからである。

「追いつけそうにはない?」
「も、申し訳ありません。何分グリフォンは速いもので」
日よけにローブを被ったエルザが萎縮しながら答える。
グリフォンはハルケギニアにおいて、高速で飛行できる幻獣だ。
アセルスに生物的な知識は無かったが、グリフォンの速度だけは良く理解できた。

馬車に乗るアセルス達を置いて、点景になる程に進めているのだから。
同行を許可したものの、アセルスは婚約者という立場を誇示するワルドが気に入らない。

「ねえ、ワルド。
早すぎじゃないかしら、アセルス達がついて来れないわ」
ルイズは振り返りながらワルドに減速を頼む。

「今日までに港に到着しておきたいんだ。
悪いが、ついて来れないようなら置いて行く。」
先行のし過ぎを指摘されてもワルドは聞く耳を持たずにいた。

「置いて行くなんて駄目よ。
彼女は私の使い魔なの、置いて行くなんてメイジのする事じゃないわ」
「やけに彼女の肩を持つね。彼女は妖魔だと聞いていたが」
「ええ」
王族である事実は伏せるよう心に留めておきながら、肯定する。

「あまり思い入れしないほうがいい。
妖魔と人間は本来、相容れないものなんだ」
「……どういう意味?」
ワルドの言葉にルイズの表情が歪む。

「そんなに怖い顔しないでくれ。
人間と妖魔では寿命が違う、主人を失った使い魔が暴れるなんて話も良くあるのさ」
ルイズが思わず俯く。

永遠の命を持つアセルスと人間である自分。
ずっと傍にいると誓ったが、出来るはずが無いのだ。
使い魔の契約はどちらかが死ぬまでしか有効でないのだから。

思案に意識を奪われていたルイズは、飛んでくる矢に気付かなかった。

「ルイズ!危ない!」
ワルドの忠告でようやく何者かに襲撃を受けたと気付く。

「大丈夫かい!」
ワルドが風の魔法で矢を防ぐと同時に、ルイズに呼びかける。

「敵!?」
懐から杖を構えて、ルイズは眼下を見る。
地上にいたアセルス達も崖の上にいる敵影に感づいていた。

軽く舌打ちする。
敵は単なる盗賊の類だろうが、あの男の前で力を披露するのは避けたい。

「エルザ、私が向かう先の敵に先住魔法を使うんだ。いいね?」
「はい、アセルス様」
エルザが頷いたのを確認すると同時に、馬車から飛び出す。

『おお、戦闘か!』
「黙って」
歓喜するデルフを一喝して黙らせる。
飛来する松明や矢を二本の剣で切り払いながら前進する。

突き出た岩を足場に軽々と崖を駆け上る。

「何だと!?」
追いはぎの格好をした一人が叫ぶ。
女性が跳躍で崖を飛び越える等と、誰が予想できるだろうか。

男が剣を構えるより早く、アセルスの剣が男の腕を斬り飛ばす。
別の男が弓を構えるが、腕が動かない。

「あ!?」
自分の腕を見ると、触手の様に伸びた木の枝が掴んでいる。
何が起きたのか理解したときには、男は首を跳ねられていた。

「せ、先住魔法だぁー!」
「妖魔がいるなんて聞いてねえぞ!?」
悲鳴をあげ、襲撃を仕掛けてきた賊は我先にと逃げ出していく。
だが、彼らの行く先を遮るように一匹の竜が降り立った。

「ファイアー・ボール!」
「ウインド・ブレイク」

竜に乗っていた二人が各々呪文を唱える。
風に煽られた火が一気に炎の壁となり賊の逃げ道を塞ぐ。
竜に乗っていた人物はルイズも良く知っている二人だった。

「キュルケ、それにタバサまで!?」
グリフォンの上から身を乗り出すルイズ。
地上にいた敵が一掃されたこともあり、ワルドはグリフォンを降下させた。

「お待たせ」
髪をかきあげながら風竜から降りるキュルケ。

「待ってないわよッ!何でここにいるの!?」
グリフォンから飛び降りたルイズがキュルケに詰め寄る。

「ギーシュが広場に倒れていたから、話を聞いたのよ。
貴方達がアルビオンに行くって言うし、面白そうだから急いで着いてきたのよ」
タバサはまだ寝ていた所を無理やり起こされたのだろう。
寝間着姿のまま眠そうに、風竜の上でうつらうつら舟を漕いでいた。

タバサには少しだけ同情しながらも、ルイズが怒鳴る。

「言っておくけど、これはお忍びの任務なのよ!物見遊山で来られちゃ困るわ!」
「あら?文句ならギーシュに言って頂戴。
彼はお忍びだなんて、言ってなかったわよ。」
ギーシュを口封じしておくべきだった。
ルイズの脳裏に物騒な考えも浮かんだが、既に手遅れである。

「どうして私達を襲ったの?」
口論を続けるルイズ達を放置し、アセルスは縛り上げた盗賊達に尋問する。

「ケッ、盗賊が金以外に襲う理由が他にあるかよ」
縛り上げられたまま盗賊が悪態をつく。

「ぎゃああああああああ!!!」
悪態をついた盗賊が痛みに悲鳴を上げた。
アセルスの手に握られたデルフからは血が滴っている。

切り捨てたのは盗賊の右耳。
縛られた盗賊は血を押さえることもできず、縛られたままでのた打ち回った。

「次は反対側を切り落とすわ。
それでも話さないなら指、手、腕、足の順で切り落とす」
淡々とこれからの行為だけを予告し、剣先を左耳に向ける。

「待て!言うよ、言うからやめてくれ!
金を出すから、この道を通る連中を襲えって依頼されて……」
「誰に?」
「顔は仮面で隠してたから分からねえ……」
アセルスは躊躇なく剣を右手に突き刺すと、盗賊が再びわめき声をあげる。

『うわぁ……相棒容赦ねえな』
デルフが呟くも、アセルスは当然聞き流す。

「わ、分からねえ……本当に分からねえんだ!
貴族や妖魔がいるなんて知ってたら、安請け合いしなかったよ!!」
失意の溜息とともに、アセルスは剣を仕舞った。

「ただの雇われのようだな、これ以上は無駄だろう」
後ろの女性陣に気を使ったワルドが切り上げる。

「……何?」
物言いたげなワルドの視線を察したアセルスが尋ねる。

「レディの前で拷問をやるとは、関心しないね」
アセルスの威圧に負けることなく、ワルドは皮肉混じりに答えた。
最も、アセルスは素知らぬ顔で馬車に戻る。

「盗賊とはいえ、死んだらどうするつもりだ!」
「どうもしないわ」
アセルスの背中越しに叫ぶワルド。
声には明らかな怒気がこめられていた。
アセルスは振り返る事すらなく、言葉を返すと共に馬車に戻った。



──道中、ハプニングはあったが港町が見えてきた。
夕闇が空を覆う中、ルイズはグリフォンの背中から風竜に乗るアセルスを眺める。

「ルイズ、分かっただろう?
妖魔というものは、人の命を虫けらのようにしか見ていない」
ワルドがグリフォンの手綱を握ったまま、忠告する。

「ええ……」
元気のないルイズの返事。
ワルドは肯定と受け取るが、実際は異なる。

ルイズは悩んでいた。
盗賊の襲撃前に考えていた使い魔の契約に関して。
つまり自分が死んだ後、アセルスはまた孤独になるのではないかと。

アセルスは言っていた。
大切な人を失い、後悔したと。
何時か、自分も同じ目に合わせてしまうのか。

それとも、アセルスは単に気紛れに付き合っているだけなのか?
ルイズは彼女が使い魔の契約を結んだ理由を話してくれた時を思い出していた。

『傍にいてくれるだけで良かった』
舞踏会で告げたアセルスの表情は遠く儚い印象を覚えた。

一緒にいて欲しいのはルイズとて同じだ。
妖魔であろうとアセルスに、ルイズは牽かれている。

魔法を使えた証明。
自分を守ってくれた存在。
初めて誰かと苦悩を分かりあえた。
何より思い描いていた、立派な貴族という理想像。

だが、人である自分は必ず先に死ぬ。
彼女が元々妖魔であるのなら、仕方ないと割り切れたかもしれない。

しかし、アセルスは半分は人間だ。
人は一人では生きられないとは誰の言葉だっただろうか。

「私は……どうするべきなのかしら」
誰にも聞こえないか細い声。

「ん、何か言ったかい?ルイズ?」
「ううん、何でもないわ」
ワルドが振り返るも、ルイズは心配かけないよう誤魔化す。

「いろいろあって疲れただろう。
もう町が見えてきたから、そこでゆっくり休むといい」
気がつけば月が昇り、港の点景に火が灯っている。
だが、ルイズは自問への答えをまだ出せそうになかった……



──同じ頃、灯りの僅かな暗闇に包まれた部屋。
二人の人影が存在した。

「首尾はどうかね?」
「上々です、港町までは予定通りに到着しました」
椅子に座る男の質問に仮面を付けた男が答える。

「しかし、『土くれ』の勧誘には失敗したと聞いているが」
「申し訳ありません」
仮面の男が詫びるものの、座ったままの男は一笑した。

「別に責任を追求しているわけではない。
知りたいのだ、どのように土くれが牢獄から脱走したのかを」
「それが…………まるで分からないのです。
見張っていたはずの衛兵達も、牢獄に誰も通らなかったと証言しております」
仮面の男が間を置いて説明する。
無理もない、彼にも如何に脱走したかが検討もつかないのだ。

「杖を隠し持ち、錬金で壁を崩して逃げたのでは?」
「いえ、牢獄は汚れや埃が積もったままでした。
錬金で脱走した後に壁や牢を戻したとしても、汚れや埃までは再現できません」
解けない難問に、座っていた男も首を捻る。

「それでは、私は任務に戻ります」
しばしの沈黙を破り、仮面の男が暗闇に消えるように姿を消した。

「一体どうやって……」
残された男はまだ考えていたが、答えは出そうにもない。
牢獄に白い花弁が落ちている事には、誰も気にも留めずにいたのだから……


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