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萌え萌えゼロ大戦(略)-53b



(シンさんはMI6にいたわけじゃないはずだけど……)

 エミリーは内心そう思ったが、だからといって諜報活動ができない
わけではない。それでも、今までシンにそういう任務を与えていたのも、
このタイミングで秘密にしていた小隊を白日の下にさらしたのも、
間違いなく目の前のアンリエッタ姫。その理由が、エミリーには理解
できなかった。
 そして、シンはエミリーの質問には完全な答えを出さなかった。
「そのことはノーコメント。でも、ボクが今日この村に到着すると
知らせたから、姫殿下はこうして足を運んでくださったわけで」
「そうなのですか?それではどうしてアニエス隊長にも内密に事を
進めたのですか?」
「後顧の憂いを絶つ絶好の機会だから、ですわ。それに、わたくしの
師であるあかぎさまが目覚めたと聞いてご挨拶にも伺わないとは失礼にも
ほどがあります」
 アンリエッタ姫はそう言って目の前のエルザを納得させる。真の理由を
知るワルドはその滑稽さに思わず笑みを漏らしたが、素性が良いだけに
それすら様になるだけだった。


 アンリエッタ姫がエミリーたちに案内されてシエスタの家に到着した時。
そこにはルーリーとティファニア、チハもいた。アンリエッタ姫到着の
報を聞いて、あかぎは思わず溜息を漏らす。
「……今日はなんだかすごい日ね。はぁ~」
「ずっと眠りに就いていた恩師が目覚めたと聞いて駆けつけない弟子は
おりませんわ」
 アンリエッタ姫が通された食堂には、今この五人しかいない。あかぎの
態度にも動じないアンリエッタ姫に、あかぎは一言釘を刺す。
「私は確かに『女の子の武器はここぞという時には最大限に使いなさい』とは
教えたけれど、だからといってこういうことは感心しないわね」
「今がそのときですわ。あかぎさま。できうるならば、もっと教えを
請いたいと思います」
「それは私に参謀になれ、ということかしら~?」
 ジト目でアンリエッタ姫を見るあかぎ。だが、アンリエッタ姫は信念を
持った目でそれに応えた。
「そうであって欲しいと思っておりますわ。それに……」
 アンリエッタ姫は視線をティファニアに移す。
「はじめましてティファニア。わたくしはアンリエッタ・ド・トリステイン。
あなたの従姉です」
「え?あ、あの……は、はじめまして……」
 アンリエッタ姫の雰囲気に、ティファニアは完全に呑まれてしまっていた。
おどおどと返答をするティファニアに、アンリエッタ姫はにこやかに
微笑んだ。
「わたくしがこの村に急ぎ足を向けた理由は二つ。一つ目はあかぎさまに
ご挨拶すること。そして、もう一つは……」
 アンリエッタ姫はそこでいったん言葉を切る。そして、ティファニアに
向き直った。
「ティファニア。あなたに、王族としての務めを果たしてもらいたいと
思ったからです」
「は、はいっ!?」
 ティファニアはその言葉に心底驚いた。そして、あかぎとルーリーは
その表情に険しさを加える。
「……そういうこと、ね」
 あかぎは一際大きな溜息をつく。だが、ティファニアはその溜息の
意味に気づかず、ただおろおろとするだけ。そこにアンリエッタ姫が
たたみかける。
「ティファニア。あなたのご両親、モード大公とシャジャルどのを粛清した
王家を恨んでいるでしょう。ですが、王家なき今のアルビオンは、
簒奪者どもの手によりこのハルケギニア全土を巻き込む戦乱を企てる
悪しき国となってしまいました。始祖の系統たる王家を復興し、
アルビオンを元の平和な国に戻すには、あなたの力が必要なのです」
 アンリエッタ姫はそう言ってティファニアの手を取る。
「わた、わたし……が?」
「ええ。あなたの従姉として、わたくしが支えます。このタルブに
身を寄せているアルビオンの民を率いて、起ってもらえますか?
正当なアルビオン王家最後の姫であるあなたが旗を掲げれば、彼らは
すぐにあなたの元にはせ参じることでしょう」
「わたしが?アルビオンを……取り戻す?」
 ティファニアはチハとあかぎ、ルーリーに視線を移す。だが、門外漢の
チハはそれに明確な回答を持たず、あかぎとルーリーは無言のまま。
誰も救いの手をさしのべてくれない状況で、ティファニアは下を向いて
思案する。
「……わたしに、そんな資格……あるのかな?だって、わたしは……」
 『まじりものだし』――そう言おうとしたティファニアの唇に、
アンリエッタ姫の指先が触れた。
「あなたはあなた、そうではありませんか?ティファニア?
 誰に恥じることもない。あなたはアルビオン王弟モード大公と、
騎士シャジャルどのの忘れ形見。大きな心ですべてを受け入れ愛した
大公と、勇敢さと優しさを兼ね備えた騎士の娘。
それ以外の何だというのです?」
「アンリ……エッタ……」
 顔を上げるティファニア。その目の前には、優しく微笑むアンリエッタ姫の
顔があった。
「もし……わたくしとあなたの立場が逆であったとしても、わたくしは
王権復興のために立ち上がることでしょう。それが、王家に連なる者の
宿命(さだめ)なのですから」
 そう言って、アンリエッタ姫はティファニアの頭を優しく抱きしめる。
「……本当に、わたしで、いいのかな……こんな、わたしでも」
 そうつぶやいて目を細めるティファニア。その様子にルーリーが
アンリエッタ姫に注進しようとしたまさにそのとき。家の外からこの世界には
未だあり得ない音――レシプロエンジンの高回転ピストン音――が響き渡った。
 それから間を置かず、食堂に三人の女たちが入ってくる。
先頭で息せき切るのはマチルダ、そしてルイズが続き、最後がふがく。
三人の闖入者にティファニアとチハは驚いたが、アンリエッタ姫やあかぎ、
ルーリーは動じなかった。

 ルイズのおかげで遅くなったものの、ふがくに目一杯飛ばしてもらって
タルブの村までやって来たマチルダだが、銃士隊の制止を振り切って
シエスタの家に乗り込んだ時――自分は遅かったのだと知った。
 そこにはアンリエッタ姫と以前魔法学院で出会った魔法衛士が、
あかぎやルーリー、そしてティファニアたちと一緒にいた。ティファニアは
マチルダたちが乗り込んだ時にアンリエッタ姫の手を握って怯えた表情を
見せたが、それがマチルダだと知ってまた驚いた顔を見せた。
「マ、マチルダねえさん?」
「あら?どなたかと思えば……サウスゴータどのではありませんか」
 ティファニアを抱いた姿勢のまましれっと言い放つアンリエッタ姫に、
マチルダは頭にかあっと血が上るのを抑えきれなかった。
 その横で、ルイズは事情が飲み込めずに困惑する。自分が連れて行けと
駄々をこねて出発が遅れたからこうなった?でも、あかぎの家には
アンリエッタ姫とワルド子爵がいて、それにアンリエッタ姫に抱かれるように
怯えた風を見せる見たこともない綺麗な女の子と、どことなく気弱そうな
雰囲気のある、こちらも見たこともない鉄の鎧を身につけた黒髪の少女。
そしてアンリエッタ姫はロングビルに向かって『サウスゴータ』と言った。
ルイズの記憶では、それは四年前にアルビオンで起こった内乱、
『モード大公の叛乱』で逆賊側に付いた貴族の家名だ。思わずマチルダに
視線を移すルイズを横に、マチルダは舌打ちした。
「……やってくれたね。お姫様」
「あらあら?なんのことでしょう?」
 マチルダの貫くような鋭い視線を柳に風と受け流すアンリエッタ姫。
それがいっそうマチルダの激情を呼び覚ます。
「ざけんじゃあないわよ!あんた、テファにいったい何を吹き込んだ!」
「控えよ。ミス・サウスゴータ」
 今にもつかみかからんとするマチルダに、ワルドがそう言って掣肘する。
いつの間にその位置に移動したのか、アンリエッタ姫の後ろに控えていたはずの
ワルドが、後ろからマチルダの肩を掴んでいた。
「な……いつの間に」
「トリステイン王国第一王女アンリエッタ・ド・トリステイン殿下の
御前である。言葉遣いに気をつけたまえ」
 ワルドはそう言ってマチルダに自制を要求する。ルイズには、そんな
ワルドの様子に違和感を覚えた。そしてアンリエッタ姫にもう一度視線を
移して――まだ彼女に抱かれたままのティファニアの耳にようやく目が
行った。
「……エ、エルフぅ~っ!?」
 驚愕に目を見開くルイズ。
だが、そのリアクションはルイズただ一人だけだった。
「……何かおかしな事でもありましたか?」
 と、アンリエッタ姫。
「彼女、ティファニアちゃんはシャジャルちゃんの娘だから~。
別におかしな事はないわよ~」
 と、あかぎが言う。ワルドも、あかぎの横にいるルーリーも、事情を
知っているためか何も言わない。この世界でエルフが人間からどう思われて
いるかなど知らずティファニアと一緒にいたチハは別段驚くことなどなく、
チハと同じくこの世界のエルフのことなど知らないふがくも驚くことはなかった。
 そんな周りの反応に、ルイズは思わず赤面する。自分だけ騒いで
バカみたいと思ったからだ。
 そのルイズの反応を見て、アンリエッタ姫はティファニアの体を離して
椅子から立ち上がった。ワルドが無言でその後ろに従う。
「とりあえずの用事が済みましたから、わたくしは戻ります。ティファニア」
「は、はいっ!?」
 名前を呼ばれて思わずかしこまるティファニア。
その表情に、アンリエッタ姫は笑いかける。
「良い返事を期待していますわ」
 そう言うと、アンリエッタ姫はシエスタの家を後にした。


 ワルドとアンリエッタ姫を乗せた風竜がタルブの村を飛び立ったのは
それからすぐのこと。村長や銃士隊にはアンリエッタ姫が今日ここに
来たことは内密にするよう強く言い含められた。その理由を知っている
シンは別格として、何をするのかを理解したエミリーは小さく溜息を
ついたのは余談だ。
 二人がいなくなったシエスタの家から、ルーリーもまもなく出て行った。
その背中に、あかぎは話しかける。
「ルリちゃんはどうする気?」
「……さあね。アタシももう年だ。けれど……」
 そこでルーリーは立ち止まる。背中を向けたまま、彼女は続けた。
「誰かのために何かがしたい、というなら、まだ手伝えるかもしれないね。
失ったものはどうやっても戻っては来ないがね」
 その言葉に、ティファニアも、マチルダも、揃って言葉が出なかった。
 そうして見えなくなったルーリーのその背中に、明確な返事ができたのは
あかぎだけだった。
「……確かに失ったものは戻ってこないわね。けれど、まだなくして
いないものだったら、取り戻せるかもしれないわ。
 そう思わない?みんな?」
「私には全然話が見えないんだけど」
 あかぎの言葉にふがくがそう答える。そして、チハに視線を向けた。
「日本の鋼の乙女、ね。陸軍?どっかで会ったことなかった?」
 ふがくにそう言葉をかけられて、チハは感極まった。自分が守ろうとして
守れなかったはずの妹。あのときとは雰囲気が少し異なっているけれど、
その姿は忘れようはずもない。
 もしも時間軸が少しずれていれば、南方のどこかでともに戦っていたかも
知れない。だが、チハの知っているふがくは、あの硫黄島で再起動直前の
状態のまま米軍に破壊されたフガクだ。一言も言葉を交わしたこともなければ、
こうして向き合ったこともない。だから、チハはこう答えた。
「そうです。はじめまして。私は大日本帝国陸軍の鋼の乙女、九七式中戦車 チハです」
「チハちゃん……」
 あかぎはチハの言の葉ににじみ出る寂しさを感じ取った。大戦中盤の
ミッドウェイ海戦で戦没したあかぎは、大戦末期の硫黄島の戦いは知らない。
あかぎが知っているのは、終戦の日をその目で見た白田技術大尉から
聞いたことだけでしかない。鋼鉄の暴風と米軍が呼称した凄惨な戦いだった、
とか、日本の鋼の乙女はその戦いでほぼ壊滅した、とか。その程度のことだ。
陸軍の無理解に端を発する作戦の稚拙さからフィリピンで米軍に鹵獲され
連合軍として戦った期間が長かったとはいえ、チハは海軍のゆきかぜと
並んであの大戦を生き残った日本の鋼の乙女だったが、その話を聞く前に
アンリエッタ姫が訪れてしまったのだった。だから、あかぎにはチハが
何故そんな寂しさを感じさせるのか、その理由はうかがい知ることが
できなかった。
 ふがくもチハの雰囲気が変わったことに気づいたが、それが何故なのかは
思い当たらなかった。どこかで会ったような気がする――記憶の片隅に
確かにおぼろげな形が見え隠れするものの、それを肯定する材料がない。
だから、ふがくも努めていつもと変わらない返事をする。
「そう。私はふがく。見てのとおり超重爆撃機型の鋼の乙女よ。
アンタも災難ね。こんなところに飛ばされて」
「確かにそうかも……。でも、そのおかげでテファと出逢えたです」
「チハ……」
 チハはそう言ってにこりと笑う。それを見て、ティファニアもようやく
さっきまでの緊張が解けた気分になった。
「ありがとう。そう言ってもらえると、すごく嬉しい」
「テファは大事なお友達です。テファがそう願ったから、私はテファの
力になることに決めたんです」
 チハのその言葉には、確かな自信が込められていた。そんな二人を見て、
ルイズは疎外感に囚われる。

(――わたしだけ、何も知らないんだ……)

 さっきのアンリエッタ姫のことも、ワルド子爵のことも。
そして、今目の前にいるティファニアという少女とチハという鋼の乙女のことも。
さっきだってロングビル――マチルダの言葉に突っかかって駄々をこねて
ここまで付いてきたけれど、結局何もできないばかりか時間を取らせて
何か取り返しの付かないことになってしまった。
 そんなルイズの思いは、誰にも伝わることはなかった。伝えようとして
いないのだから当然だ。ルイズは、自身のことをさらけ出すことが苦手だった。
それはそうできる相手がカトレアしかいなかったことと、育った環境が
大貴族の三女というものも大きかった。
 しかし、思いは伝わらなかったが、そんなルイズの心の揺らぎを
感じ取った者はいた。あかぎと、ふがくだ。
「……何してるのよ?」
「え?あ……」
「あ、じゃないでしょうが!アンタが駄々こねて無理矢理付いてきたんだから、
何がしたいのかはっきり言えばいいじゃない」
「え……あ……ご、ゴメン……」
 ふがくにそう言われて、ルイズは思わず謝った。そこにふがくが
さらに続ける。
「わかんないことがあるんだったら、聞けばいいでしょうが!
アンタ、まさか自分が何でも知ってるなんて思い上がってるんじゃない
でしょうね?」
「そ、そんなことないわ。だって……さっきの姫様のことだって、
どうしてあんなことになっていたのか全然わからないし」
「それは私も気になったわね。あかぎ、何か知ってる?」
 ふがくにそう問われて、あかぎは小さく溜息をついた。
「そうね。彼女は私の優秀な生徒、ということね。少し優秀すぎたかも
知れないわ」
「どういうこと?」
 次にそう聞いたのはルイズ。あかぎは視線をティファニアに移してから、
続ける。
「ティファニアちゃんのお父様ね、アルビオンのモード大公殿下なの。
ルイズちゃんなら、これで話がつながるかしら?」
「……それって!?」
 あかぎの言うとおり。ルイズにはそれだけで十分だった。
「つまり、姫様は、ウェールズ皇太子様の敵討ちをするおつもりなの……?」
「立派な大義名分ね。モード大公家を滅亡に追いやったテューダー王家が
滅んだ今、ティファニアちゃんは正当な、最後のアルビオン王位継承権を
持つから。ティファニアちゃんを旗頭にして、生き残った王党派を
まとめ上げることができれば、アンリエッタ姫殿下はティファニアちゃんを
支援する名目でアルビオン本土奪還と王権復古に向けて堂々と兵を
向けることができるわ。トリステインにいるアルビオン王家の遠縁を
担ぎ出すよりもよっぽど効果的ね。そもそも、そうする気なら姫殿下
ご自身がテューダー王家の血筋でもあるわね。ただ、そうしてしまうと
今度はトリステインがアルビオンを併合するという余計な詮索を招くかしら。
 ともあれ、そうやって今の共和政府の首魁クロムウェルを打倒する
つもりなのね」
「無茶ね」
 あかぎの溜息交じりの話を聞いて、ふがくは一刀両断した。
「兵力は今度のゲルマニアとの同盟でそっちも引っ張り出せば都合が
付くでしょうけれど、保有兵器に技術差がありすぎるわ。蒸気機関と
施条砲を実用化している国に、今のトリステインじゃ勝ち目はないわね
……私たちが手を貸さない限り」
「内戦でどこまで灰燼に帰してくれたか、というところね。それでも
厳しいわね。……さて」
 そこまで言ってから、あかぎはもう一度ティファニアに向き直る。
「ティファニアちゃん」
「は、はいっ!」
 名前を呼ばれてティファニアは思わず姿勢を正した。あかぎの表情は真剣。
それ故に、ティファニアも思わず息を呑んだ。
「あなたにその覚悟はあるかしら?アンリエッタ姫殿下にどう返事する
つもりなのかしら?」
「え……あ……あの……」
 ティファニアの声には明らかな迷いがある。あかぎも誰も先を促さない。
そうしてしばらく時間が過ぎて――ティファニアは意を決したように
あかぎに告げた。
「わたし、自分にしかそれができないってことだったら、やります。
アンリエッタにも、そう返事します」
「いいのかい?テファ。今聞いただろ?あの姫様、テファを利用する
だけかも知れないんだよ?」
 マチルダはそう言って翻意を促すが、ティファニアは譲らなかった。
「そう。ルリちゃんもあなたがその気になったら手を貸すことを
いとわないでしょうし、あなたも、そうでしょ?」
 それを見て、あかぎはマチルダに視線を送る。マチルダはティファニアの
決断を内心苦々しく思ったが、それを顔に出したのは最小限に留める。
「あの姫様に手引きしたのはスピノザだろうし。あたしらかつての
モード大公家の直臣三家が揃ってテファに手を貸すことは、どうせ織り込み
済みだろうしね。
 ただ、あんたが見てのとおりテファは……」
「それについては心配することはないでしょうね。確か、魔法の中には
偽りの姿を与えるものもあったはずだし、何なら装身具として常に耳当てを
付けていてもそんなに違和感はないわね。姫殿下がそのあたりを見落とす
はずがないもの」
「『フェイス・チェンジ』だね。『水』と『風』のスクウェアスペルだよ……
って、まぁ一国の姫がやる謀ならそれくらいは用意するか。気にくわないねぇ。
何から何まで掌で踊らされている感じだよ」
「それも政よ。とにかく、みんな、今日はうちに泊まって行きなさい。
夜も遅いし、村長と銃士隊には明日の朝、私から話をしておくわ」
「あ、あかぎさん。私とテファは、あのおばあさんのところにご厄介に
なるってことに……」
 チハが申し訳なさそうに言うと、あかぎは思い出したように舌を出す。
「あ、いけない。そういえばルリちゃんがそんなことを言っていたわね。
私もティファニアちゃんにお母さんのことを聞きたかったけれど、
それはまた今度にするわね」
「あたしも一緒に行くよ。少し話したいことがあるからね」
 そう言ってマチルダもティファニアとチハと一緒にシエスタの家を
後にする。それを見送って、ルイズはぽつりとつぶやいた。
「……わけわかんない……どうして姫様がそんなことを……」
「宮廷に上がったことのないルイズちゃんには難しいかも知れないわね。
でも、アンリエッタ姫殿下も考えた上でのことだと思うわ」
 理解できない風のルイズに、あかぎが言う。それを聞いてふがくが続けた。
「確かに。今の神聖アルビオン共和国、だっけ?この前のタルブの村
襲撃にも絡んでたみたいだし、近いうちにしかけてくるでしょうね。
その前に叩く、か……あかぎ、いったいあのお姫様に何を教えたわけ?」
 ふがくの問いかけに、あかぎは目を伏せた。
「……戦略と戦術よ。海軍軍令部で実施していた対米戦に関する数々の
演習問題を、姫殿下は十二才の時にたった一年でものにしたわ。
私が休眠してからも、独学で研鑽を続けたみたいね」
「冗談でしょ?」
「姫殿下も、自分にできることが何か、を真剣に考えているのよ。
ずっと以前からね」
「その演習問題って、何のことなの?」
 ふがくが呆れたような声を出したのに、ルイズが問いかける。
それに答えたのはふがくだ。
「簡単に言えば、自国の十倍の国力を持つ敵国に勝つための方法よ。
最初はこっちを甘く見て油断してるけど、本気になったらこっちの攻撃が
届かない造船所から毎日補助艦艇、毎週準主力艦、毎月主力艦を量産
してくるような国を相手にね」
 それを聞いてルイズは言葉が出なかった。逆を言えば、あかぎやふがくの
いた大日本帝国は、そんな国を相手に戦うための方法を考えなければ
ならなかった、ということになるのだから。


「ふうん。面白いことになってきたわね」
 そう言って、人形のような白い顔の少女は、手にした袋からオブラート
(これもタルブの特産だ。ハルケギニアで祭祀に用いられる無発酵の薄焼き
パンと同名だが、世間には『食べられる紙』として認識されている)に
包まれたキャラメルを一つ取り出して口に含む。銃士隊の出立ちをしているが、
髪は長く、一般の隊員とは違った風体。その鋭い翠眼は、『竜の道』
近くにある庵から離れない。
 そこに後ろから声がかかる。少女が振り向くと、そこにいたのは純白の
マントを纏い、金髪をショートカットにした少年のような風体の銃士――シンだ。
「それにしても、まさかキミがいるとはね。ジャネット」
「たまたまですわ。シン小隊長もお一つどうです?」
「ありがとう」
 ジャネットと呼ばれた銃士は、そう言ってキャラメルの袋をシンに向ける。
シンは袋からキャラメルを一つ取り出すと、ぽいっと口に放り込んだ。
「うん。やっぱりアルビオンのタフィーもいいけど、タルブのキャラメルの
方がボクは好きだな。懐かしい味がする」
「小隊長のお国の味だったんですか?」
「ううん。違うよ。これはチハさんの国のお菓子だからね」
「そうなんですか……」
 そう言って、ジャネットは再び視線を庵に向ける。彼女の興味は
もうシンから離れていた。
 ジャネットと呼ばれたこの少女。彼女はトリステイン王国銃士隊で
諜報活動を担う第八小隊の隊員であると同時に、ガリア王国の非公式
組織であるガリア北花壇警護騎士団でも凄腕で知られる『元素の兄弟』の
末妹でもある――が、それを知る者はここにはいなかった。



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