あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

萌え萌えゼロ大戦(略)-53a



「ミスタ・ラルカス?」
 ふがくたち、それに遅れること一日で学院に戻ったコルベールたちから
さらに遅れること一日。魔法学院に戻ったばかりのタバサは、戻るなり
ルイズに捕まった。
「そう。三十年前にガリア王国南薔薇花壇騎士だったって聞いたから。
タバサはガリアの出身でしょ?だからどこにいるか聞いたことがないかな?って……
有名な人だった、って聞いたし」
 ルイズは言葉を選びながらタバサに問いかける。この間のタルブの村の
一件で多少距離が縮まったとはいえ、まだタバサの纏う雰囲気はルイズに
打ち解けてはいない。突き放しはしないが親身でもないその態度は、
ルイズにも緊張を強いる。

 しばしの沈黙。思わず息を呑むルイズに、タバサは静かに告げた。

「……その人に会うのは諦めて」
「え?」
 いきなり何を言い出すの?――そう口にしようとしたルイズに、
タバサはとどめの一言を突きつける。
「……私が……殺したから」


 タルブの村から戻ったコルベールは、自分の研究室に真ん前に鎮座
していた『竜の羽衣』に思わず腰を抜かしそうになった。
それでも事情を聞けば俄然奮発するのは、彼も立派な癈じ……もとい
技術者の一人だと言えるだろう。
 旅装を解くのももどかしく、コルベールは早速『竜の血』ことガソリンの
合成に取りかかった。ルーリーからふがくに手渡された手引き書を元に
手持ちの材料と格闘するその傍らには、ふがくと、そして成り行きで
巻き込まれたギーシュがいた……

 目の前に置かれたグラスに少しだけ入った無色透明な液体。ふがくは
グラスを手で仰いでにおいをかぐと、意を決したようにくいっと中身を
飲み干した。
 そして……顔をしかめる。
「これ……軽油……。少しだけなら発動機の掃除にいいけど……」
「うーん。難しいな。『錬金』の配合がまだ甘かったか……」
 苦々しく顔をゆがめるふがくと、考える仕草のコルベール。
その横から、ギーシュが別のグラスを差し出した。
「これはどうかな?」
 ふがくはグラスを受け取ると……無言で中身を床にぶちまける。
「ああ!何をするんだ!?」
 思わず声を上げるギーシュに、ふがくは怒りの表情をあらわにする。
「アンタねぇ!私を壊す気?何さりげなく廃油なんて出してくるのよ!」
「廃油って……それはさっき僕が作った油なんだけど」
「できばえが廃油だって言ってるの!さっき出してきた重油の方が
まだマシよ!それとも何?こんな短時間で腐るほど足が早いって言う気!?
どっちにしても使えないわよ!」
 それを聞いてうなだれるギーシュ。彼にしてみれば先のフィールドワークに
引き続いて巻き込まれただけ(単位がもらえると言われたのもあるが)なのに、
やってみれば怒りの矛先を向けられるだけ。ドットとはいえ『土』メイジの
端くれとして、『錬金』でここまでけちょんけちょんにのされるのは
凹むどころの話ではない。もっとも、ふがくにしてみれば無茶な油で
壊されるのは真っ平ごめんとばかりに態度が硬化するのも無理はない
ことであるが。
「まあまあ。ミスタ・グラモンも悪気があってやったわけじゃないから」
「悪気があったら困るわよ!」
 コルベールのフォローも役に立たず、ふがくの怒りは収まらない。
混乱の度合いを深める研究室を、モンモランシーとルイズが遠巻きに
見つめていた。
「……何やってるのよギーシュは……」
 思わず額に指を当てて溜息をつくモンモランシー。タルブの村で見た
『竜の羽衣』が自分たちより先に戻っていることは、馬で走る自分たちの
真上を轟音ととも飛び去っていったことで知っていた。ここに一機しか
ないということは、もう一機は見送りだけで引き返したのだろう。
その乗り手がシエスタだということにも驚いたが。
 その横で、ルイズは無言のままだ。モンモランシーがここに来た時には
もうルイズが先にいたが、そのときから一言も言葉を交わしていない。

(わたしにあんなことを聞いてきた時から悪くなってるわね。タバサとも
話していたようだったけど、何かあったのかしらね?)

 ルイズの様子にモンモランシーは内心で小さく溜息をついた。
そして、フィールドワークから戻ってすぐのことを思い出す――


「……それで、話って?」
 旅装を解くのももどかしく、珍しい来客にモンモランシーは秘薬の
原料保存用冷蔵庫から冷えたハーブティーを取り出してルイズに振る舞う。
もっとも、ケティのようにお菓子作りに使うわけでもなく、懐にも厳しいのを
承知で何とか頑張って買った代物だったが、こういうことにも役立つとは
モンモランシー本人が思っていなかったのではあるが。
 ハーブティーのカップを前にして、もじもじと言葉を選ぶルイズ。
急かした割にはそんなに言いにくいことなのだろうか?とモンモランシーは
いぶかったが、とりあえず本人が言い出すまで待つことにする。
それから数分経ってから、ルイズはようやくまともな言葉を口にした。
「あ、あのね。あなたの、おばあさまのことなんだけど……」
「うちのおばあさまが、どうしたの?先に言っておくけど、おばあさまは
もう十年以上前に死んでしまっているわよ」
「うん。それは知ってる。あかぎに聞いたから」
 その名を出されて、モンモランシーはルイズが聞きたいことを悟った。
「……『命を移す秘法』かしら?聞きたいのは?」
 そう言って自分のグラスを指で弾く。澄んだ音が響き、部屋に木霊する。
「う、うん。あなたか、あなたのお母さまが、その技を受け継いで
いないかな?って……」
 虫の良い話だと思っているのだろうか?ルイズの言葉には遠慮ばかりで
全く自信が感じられない。
 モンモランシーはこれ見よがしに溜息をつくと、ルイズにきっぱりと
言い放つ。
「ああ、もう!いったいどうしたのよ?さっきから遠慮っていうか、
煮え切らないわね!」
「ご、ごめんなさい」
 しょげるルイズ。そこにモンモランシーがもう一度溜息をつく。
「……ひょっとして、あなた、わたしがあなたのこと嫌ってるって思ってる?
そう思われているなら心外だわ。
 確かにちょっとからかったことはあるけど、他の娘みたいに公爵家に
喧嘩売った結果も考えずにいじめに回った事なんて一度もないわよ。
 第一、うちはあなたの家に足を向けて眠れないくらいなんだから」
 モンモランシーの言葉を、ルイズは反芻する。そういえば――入学した
ときも、自分の評価が『ゼロ』に定まった後でも、モンモランシーの
態度は一貫して変わっていなかったっけ、と。
 縮こまっていたルイズが顔を上げると、モンモランシーは「しっかり
しなさいよね」と言わんばかりの表情でルイズを見る。そして、言った。
「……ちょっと長くなるけど、いい?先に言っておくけど、昔話。
つまらないかもしれないわよ?」
「え?あ……うん」
 ルイズの返事を聞いてから、モンモランシーは語り出す。
「……実はね。わたしは、小さい頃おばあさまの笑顔が怖かった。
おばあさまはいつも笑っていて……笑うことしかできなくなっていたの」
 モンモランシーはそこで一度言葉を切る。そしてルイズに問いかけた。
「ルイズ、あなたは三十年前にこのハルケギニアで何があったか知ってるわね?
あかぎさんに会ったんだし」
「ええ。『キョウリュウ』って化け物が暴れ回って、たくさんの人が
死んだって。わたしの母さまもあかぎのおかげで助かったって聞いたわ」
「そこまで知っているなら話が早いわ。『キョウリュウ』の毒ってね、
目に見えない空気みたいなものなんだって。生き物の根幹を破壊するもので、
たくさん浴びて吸い込めばすぐに死んでしまうけど、そうでなくても
じわじわと苦しめられて死んでいく……そういう毒。鉛に変えられた
『キョウリュウ』の死体がうずくまる旧クロステルマン伯爵領のその場所は、
今も立ち入りが禁止されているって話よ。心臓から毒が放たれ続けて
危険だからって。
 わたしのおばあさまはあかぎさんからその毒の治療方法を教わったけど、
それは非常に限定的で、施術の難しい術式だった。それにね、平民の
あかぎさんを認めない多くの貴族はおばあさまにだけ目を向けた。
このトリステインだけじゃない。ゲルマニアもそうだったわ――」


 そう。このハルケギニアにおいて、『放射線』というものはまだ理解の
埒外に存在するものだ。それは今でもほとんど変わらない。
 かつてこの世界に召喚された大日本帝国の秘密兵器、試製核動力二足
歩行型超重戦車『キョウリュウ』との戦いにおいて、臨界に達して暴走した
原子炉は大量の放射線をばらまき、この世界に未曾有の被害をもたらした。
急性放射線障害によって多くの人間が苦しめられる中、多少なりとも
その実情を知る鋼の乙女であるあかぎによって、大日本帝国でも
まだ臨床試験の段階にすら達していなかった骨髄移植手術が実施され
重篤な患者が救済されたことは、たちまちハルケギニア中に驚きと称讃を
伴って伝えられた。
 しかし、その際にいずこかの者によって、この世界では平民扱いされる
あかぎの名は伏せられ、トリステインのモンモランシ夫人とガリアの
騎士ラルカスが共同で治療方法を開発したとねじ曲げられた。
 そして、同じく『キョウリュウ』による大きな被害を受けながらも
その治療方法開発において蚊帳の外に置かれていたゲルマニアは、
外交チャネルを通じてガリアに治療方法の提供を要請するが、時の王
ルイ一三世は全く相手にせず、やむを得ずラ・ヴァリエール領近くの
国境においてゆるやかな交戦状態が継続していたトリステインに協力を仰ぐ。
その際、停戦条件としてゲルマニアは数多くの条件を突きつけられることに
なるのだが、それらをすべて丸呑みしてでも国民を救いたいと願う
時の皇帝アルブレヒト一世は、何一つ言い訳もせず事実上の降伏文書とも
いえる停戦文書にサインしたと伝えられている(そしてそれが国内に波紋を
投げかけ、現在のアルブレヒト三世が即位するまでの血を血で洗う凄惨な
お家騒動の元になったのだが……それはここで語られることではない)。
 そのようないきさつもあり、トリステインからモンモランシ夫人を
中心とした医療チームがゲルマニアに派遣される。
だが、今や『命を移す秘法』として知られる骨髄移植手術を施術できるのは
トリステインではあかぎを除けばモンモランシ夫人だけであるため、
他のメンバーは彼女のサポートしかできない有様だった――


「――わたしはおばあさまの日記でしかその状況は知らないけど、
派遣された当日の日記にはたった一言、『地獄(エンフェル)』とだけしか
書かれていなかったわ」
 その言葉にルイズは息を呑む。モンモランシーは続けた。
「その日から、おばあさまの日記には、自分の無力さと絶望ばかり
書かれていた。助けたいのに助けられない。そんな自分を助けてくれる人も
そばにはいない。それでも手を止めるわけにはいかない。治療を旨とする
『水』メイジにとって最悪な状況よね。わたしだったらたぶん折れてる。
そんな状況で、おばあさまは一年間ゲルマニアで治療を続けた――」


 放射線被害の回復に最も貴重なものは時間だ。治療までの時間が延びれば
延びるほど、その患者の生存率は絶望的な数値にまで落ちる。
そんな放射線を知らない、というハルケギニア、そして帝政ゲルマニアの
状況は、その中でも最悪なものとなっていた。
 モンモランシ夫人は、ガリアのサナトリウムで見た光景以上の凄惨な
状況に言葉を失った。だが、それでも、彼女は表向きはその感情を表に
出さず、患者に笑顔と希望を振りまき続けた。奇しくもかつて騎士ラルカスが
してきたことと同じ事を彼女は祖国から遠く離れたこの地ですることになり、
彼女は四六時中休むことなく動き続けた。
 そうして――派遣された一年間で百人ほどの人間を救い、その百倍近い
人間を見送った彼女がトリステインに帰国した時。彼女を見た国王
フィリップ三世は、その変わりように絶句した、と伝えられている。

 祖国に戻ったモンモランシ夫人は、終始笑顔だった。そう。何があろうとも。

 今回のゲルマニアへの人道的派遣で、多くのメイジが心を壊した、
との報告を国王は受けていた。当初より期限を短縮させて一年間で彼女たちを
呼び戻したのも、そういう理由からだ。

 今回の派遣で、トリステインはゲルマニアへの治療方法そのものの
提供を厳に禁じていた。施術は派遣したトリステインのメイジだけで
行い、道具一つもゲルマニアに用意させなかった。

 それが完全に裏目に出た。

 『お客さん』扱いのモンモランシ夫人たちにゲルマニアの対応は
決して親身ということにならず、それが彼女たちの心をすり減らした。
 一人、また一人と心を壊し、最後に残ったのはモンモランシ夫人と
あと一人の若い女メイジだけだった、と記録には残っている。彼女の名は
今に残っていない。アカデミーの将来を有望視された人材だった、とあるが、
この派遣から時を置かずトリステインを出奔してしまったためだ。
その行方は杳として知れない。


 そこまで話してから、モンモランシーは一息つく。そしてすっかり
ぬるくなったグラスでのどをしめらせた。
「帰国してから、おばあさまはその秘術について一言も口にしなくなったわ。
トリスタニアのサナトリウムではまだ毒に苦しむ患者が多くいたし、
フィリップ三世陛下すら、その毒でみまかられたというのにね。とはいえ、
トリステインだとまだあかぎさんがいたから、おばあさまがそんな状態に
なっても何とかなったみたいだけど。
 でもね。その派遣でうちは昔ほどじゃないけど結構盛り返したわ。
転封された領地は戻してもらえなかったけど、傷ついた家格は雪ぐことができた。
 だけど、十年前、おばあさまが死んでしまった後でお父さまが先物で
大失敗して、うちは屋敷も何もかも売り払わなければならなくなりそうになった。
そんなある日の夜、あなたのお母さまが突然従者一人だけ連れて訪ねて
こられたのよ。公爵家の奥方様がそんなのありえないわよね。
しかも、そのときあなたのお母さま、何て言ったと思う?」
 モンモランシーの言葉に、ルイズは小さく首を振った。
その様子に、モンモランシーは一つ釘を刺した。
「……わたしが言ったってこと、絶対に内緒にしてよね?
 あなたのお母さま、うちの両親に『二十年前の手術代をお支払いに
来ました』って、そう言ったのよ。その上で、従者に運ばせていた
トランクいっぱいに詰められた金塊をうちの両親の前に差し出したの。
 そりゃ一ドニエでも欲しい時だもの。うちの両親も驚いたって聞いてる。
それに、うちのおばあさまがラ・ヴァリエール公爵夫人の手術をやった、
なんてそのときまで聞いたこともなかったし。第一、仮にそうだとしても、
ラ・ヴァリエール公爵家ともあろう家がそんなに支払いを滞らせるはず
なんてないわよね。だけど、あなたのお母さま、それ以上のことは言わなかった。
 おかげでうちはクルデンホルフへの借金を完済して、ボロボロだった
屋敷も修理することができた。本当に、感謝してもしきれないくらいなのよ。
うちは」
 モンモランシーはそう言って、ようやくルイズの問いに答える。
「そういういきさつもあって、うちはあなたの家に足を向けて眠れないし、
おばあさまはお母さまやわたしにその秘術を伝えることなく死んでしまったわ。
 道具もほとんど残ってないわね。おばあさまの遺言で壊したから。
それ以外だと……確かトリスタニアの博物館に注射筒が一つあったと思うけど。
あれはギーシュの大伯父さまが作ったものだって聞いてるし」
「そう……なんだ」
「悪いわね。あなたの期待に応えられなくて。
それに、昔話聞かせちゃって、退屈だった?」
「ううん。こっちこそ、あなたの家の恥を無理矢理聞いたみたいになってゴメン」
「いいわよ。それよりも、あなたの身内にあの秘術が必要な人がいるって
いう方が心配よ。もしかして……お姉さま?」
「うん。あかぎもはっきりとは言わなかったんだけど……」
「そう。大変ね」
「今はあかぎの秘薬で落ち着いてるんだけど……。
やっぱり、ちい姉さまに元気になって欲しいって思ったから。
わたしのわがままね」
「そんなことはないわよ。
 ……もし、待っていてもらえるなら……わたし、学院を卒業したら
あかぎさんに師事しようかな?トリスタニアのアカデミーとサナトリウムで
研究が続けられてるって聞いたことがあるけど、おばあさまのこともあるしね」


 ――意外なところで、道、見つけちゃったかな?とモンモランシーは思う。
 あのタルブでの戦いで見た、あかぎの『癒しの抱擁』。
あれを習得できるとは思えないが、ハルケギニアではまだ遠く及ばない
遠い異国の医術を学び、それが活かせるなら、きっと多くの人を救うことが
できるだろう。『水』のメイジとして、それに勝る喜びはない。
祖母の悲劇を繰り返さないためにも、孫である自分が何かできるのであれば、
それは何よりのことだと、モンモランシーは思った。
 モンモランシーがそう思いを固めた時。研究室にマチルダが息せき切って
入ってくる。コルベールが何事かと彼女に駆け寄ると、マチルダは
それを振り払ってふがくに懇願した。
「ふがく!あたしをタルブの村に連れて行って!学院長の許可はもらってるから!」
 うちひしがれるコルベールに目もくれず、マチルダはふがくの両肩を
掴んでそう言った。普段の落ち着いた様子で己を包み隠すことも忘れるほど
焦るその姿に、ふがくはまず落ち着かせようと慎重に言葉を選ぶ。
「落ち着いて!深・呼・吸!それに地が出てるって!」
「そんな暇ないんだよ!アンリエッタ姫より先にタルブに着かないと
あの子が!」
「それ?どういうこと?」
 その声にマチルダがはっと振り返る。そこに立っていたのは、ルイズだ。
「ねぇ?どういうこと?姫さまが、何?」
 ルイズの問いかけに、マチルダは答えられない。ここにはコルベールや
ギーシュ、モンモランシーもいる。そんな中で、言えるはずもない。
 言いよどむマチルダに、ルイズは疑惑の視線を向ける。それは信頼して
いたものを侮辱された目だ。そして、言う。
「わたしも行くわ」と。


 ルイズがそんなことを言い出してマチルダたちのタルブ到着が遅れるのをよそに。
ワルド子爵の駆る風竜は、タルブの村をその視界に捉えていた。
魔法衛士隊の保有する最速の風竜だけあり、通常の風竜の二割増しの
速さで空を駆け抜ける。訓練の際に集合地点の目標にする全長一リーグほどの
『竜の道』を目にした時、ワルドは自分の背中に掴まるアンリエッタ姫に
話しかける。
「ご気分はいかがですか?」
「悪くはありませんわ。でも、かのふがくはこれよりももっと速いのですよね?」
「はい。あの速度……万が一敵に回ったとすれば、その強襲を防ぐ手立ては
今のトリステインにはありません」
「今日のことで、それが現実になってしまうかも知れませんわね」
「ご冗談を」
「そうとも言い切れませんわ。ルイズ・フランソワーズがどう動くか……」
 アンリエッタ姫のその言葉に、ワルドは返す言葉が見つからなかった。

 ワルドがタルブの村の『竜の道』に降り立った時。村の警護を隊長
アニエスから委譲されていた第七小隊小隊長エミリーは突然の来客に
驚きを隠せなかった。
「ひ、姫殿下?」
 その驚きは、エミリーの隣に立つ第一小隊第一分隊長のエルザも同様。
だが、エルザにとって、今日は驚きばかりの日になった。
 最初の驚きは、今朝早くに到着した高速乗合馬車から降りてきた人間だった。
ミス・エンタープライズの知人からの紹介だと名乗ったティファニアという、
同性の自分から見てもはっと息を呑むような雰囲気とスタイルの少女と、
彼女が連れているチハという貧相なんだがすごいのかよく分からない
装備に身を包んだ少女の二人は、数人の幼子たちを連れてこの村にやって来た。
 次の驚かされたのは、ティファニアたちと一緒にやって来たシンが、
実は今まで知らされていなかった銃士隊小隊を率いてやって来たということ。
第八小隊など、隊長のアニエスからは聞かされたこともなかった。
だが、シンはアニエスから『自分付きのゲスト』と紹介されたことが
あったため、アニエスは当然知っていて話さなかったのは明白。
だが、彼女が驚いたのはそれだけではなかった。

(シン小隊長と一緒に来た三人だけでなく、先に一人身分を隠して村に
来ていたというのが、ね……)

 エルザは自分の横にいるシンにちらりと視線を向けてから内心嘆息する。
あのティファニアという少女は、それだけ重要な存在なのだろうか?
帽子を目深にかぶったままで、身体検査もシンがすでにやったと言うことで
省略――妙におどおどした感じで、人慣れていないあの少女が……と
そこまで彼女が考えたところで、ワルドに手を引かれてアンリエッタ姫が
風竜から降り立った。
「みなさん。ご苦労さまです」
 アンリエッタ姫はそう三人に声をかけた。それを受けて、先任のエミリーが
質問する。
「あの、姫殿下?ひょっとして、ここに来たのは誰にも告げずに……
なんてことありませんよね?」
「もちろんです。ワルド子爵しかわたくしがここにいることは知りませんわ」
「やっぱり……」
 苦笑するエミリー。それを聞いてエルザは卒倒しそうになった。
一人シンだけが平然と答える。
「でも、これで王宮の膿が出せますよね。アニエス隊長は今頃大変
でしょうけど」
「王宮の……膿?」
「あーそういうことですか。シンさん、その辺全部知ってますね?」
 困惑するエルザと、地球でのシンの話を聞いたことがあるエミリーは
対照的に諦めたような顔をする。シンは間違いなくアンリエッタ姫が
突然王宮から姿を消したことに関係している。今まで表に出なかった
小隊を率いているということは、そういうことだ。




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