広場から逃げるときに聞こえた怒声を考えると、今頃ルイズがどうなっているかは想像に難くない。
となると、ルイズの怒りが収まる頃を見計らって部屋に戻るのが一番ベターな選択だろう。
そう判断した上で、双識はそれまで時間を潰す場所を探して、トリステイン魔法学院の中を歩いていた。
ワルキューレの拳を受けた内臓が痛むが、我慢できないほどではない。
となると、ルイズの怒りが収まる頃を見計らって部屋に戻るのが一番ベターな選択だろう。
そう判断した上で、双識はそれまで時間を潰す場所を探して、トリステイン魔法学院の中を歩いていた。
ワルキューレの拳を受けた内臓が痛むが、我慢できないほどではない。
そんなことを考えながら双識が歩いていると、前方に、ピンク色の後頭部が微かに上下しているのが見えた。
「……やばっ!」
ルイズはまだこちらに気づいていないが、悠長にしている場合ではない。
今後ろを振り向かれたら、生徒達から頭一つ分出ている双識は確実に見つかってしまうだろう。
双識は慌てて隠れられそうな場所を探す。
開放されていると思しき部屋を見つけると、扉を開け、急いで中に飛び込んだ。
今後ろを振り向かれたら、生徒達から頭一つ分出ている双識は確実に見つかってしまうだろう。
双識は慌てて隠れられそうな場所を探す。
開放されていると思しき部屋を見つけると、扉を開け、急いで中に飛び込んだ。
「ここは……図書室、か」
視界の至るところに、所狭しと本が並んでいる。構造は普通の図書館と変わりないようだ。
適当なところに腰を下ろすと、双識はもう、何もすることが無くなってしまった。
試しに本棚から本を取ってきたが、書いてある文字が全く読めなかったので、諦めざるをえなかった。
仕方なしに、机に頬杖を突いてぼーっとすること、僅か五分。
早くも退屈になってきた双識は、本から顔を上げてこちらを見ている少女に気がついた。
適当なところに腰を下ろすと、双識はもう、何もすることが無くなってしまった。
試しに本棚から本を取ってきたが、書いてある文字が全く読めなかったので、諦めざるをえなかった。
仕方なしに、机に頬杖を突いてぼーっとすること、僅か五分。
早くも退屈になってきた双識は、本から顔を上げてこちらを見ている少女に気がついた。
青い髪をショートカットにしたその少女は、華奢な体を椅子の上にちょこんと乗っけて、双識を見ていた。
どうやら本を読んでいる途中で双識に気づいたらしく、机の上に本が置きっぱなしになっている。
不躾だとは思ったが、声を抑えつつ、双識は心に浮かんだ疑問をそのまま少女にぶつけてみた。
どうやら本を読んでいる途中で双識に気づいたらしく、机の上に本が置きっぱなしになっている。
不躾だとは思ったが、声を抑えつつ、双識は心に浮かんだ疑問をそのまま少女にぶつけてみた。
「やっぱり、平民の使い魔は有名かな?」
双識の問いに、少女はこっくりと頷く。
「ああ……折角『普通』になれると思ったのになあ……」
言葉の意味を図りかね、不思議そうにしている少女に、双識はわかりやすく噛み砕いて話す。
あからさまに本を広げ直しているこの少女が、双識の話を聞きたがっているかどうかは別として。
あからさまに本を広げ直しているこの少女が、双識の話を聞きたがっているかどうかは別として。
「いいかい?『普通』ということは尖ったところが無い――即ち『人を傷つけない』ということなんだよ。
『普通』から少しでもはみ出てしまえば、きっと誰かを、他人にしろ自分にしろ、傷つけてしまうことになる。
そしたらみんなが幸せになることはできない。みんなが幸せになればこそ、自分も幸せになれるのだよ。
きみ、えーっと……」
『普通』から少しでもはみ出てしまえば、きっと誰かを、他人にしろ自分にしろ、傷つけてしまうことになる。
そしたらみんなが幸せになることはできない。みんなが幸せになればこそ、自分も幸せになれるのだよ。
きみ、えーっと……」
言葉に詰まった双識に、少女は本から顔を上げ、短く答える。
「タバサ」
「――わかったかな、タバサちゃん。『普通』ということは、歓迎するものであって、忌避すべきものではないのだよ。
だから、さっき私は悲しんだんだよ。目立っているということは『普通』からは離れているからね。
だが悲しいことに、私の家族にはそのことをわかっていないのが多くてね。本当に困ったものだ」
だから、さっき私は悲しんだんだよ。目立っているということは『普通』からは離れているからね。
だが悲しいことに、私の家族にはそのことをわかっていないのが多くてね。本当に困ったものだ」
「家族?」
初めてタバサが自分から双識の話に立ち入ったことに気を良くしたのか、双識はここが図書室であるということも忘れて話し始める。
「良くぞ聞いてくれた!私の愛すべき家族はだね――」
こうなると、もう双識の独走状態である。
さながら機関銃のように、双識は自分の家族のことを話し続ける。
さながら機関銃のように、双識は自分の家族のことを話し続ける。
弟が耳に穴を開けて、その穴に金属をぶら下げいてる。親から貰った体を何だと思っているのだ。
弟が髪を染めていてみっともない。脱色するならわかるが、染めるとは何事だ。
弟が顔に刺青をしていてみっともない。恥ずかしいと思わないのか。
弟が髪を染めていてみっともない。脱色するならわかるが、染めるとは何事だ。
弟が顔に刺青をしていてみっともない。恥ずかしいと思わないのか。
とまあほとんどが弟の話ばかりという、はたから聞いているとあまりにも馬鹿らしい話ばかりだった。
そんなのろけ話を満面の笑みで語られても、普通ならば聞き流すだけである。
だが、以外にもタバサは、そんな双識の話を真剣に聞いているようだった。
そんなのろけ話を満面の笑みで語られても、普通ならば聞き流すだけである。
だが、以外にもタバサは、そんな双識の話を真剣に聞いているようだった。
「そうだ、最近出来た私の妹の話をしてあげようか――」
興が乗ってきた双識の家族自慢は、タバサの「あ、」という声によって唐突に打ち切られることになった。
双識がタバサの視線を辿る――と、一番見たくないものが見えた気がした。
双識がタバサの視線を辿る――と、一番見たくないものが見えた気がした。
「あ、あ、あんた……」
仁王立ちのルイズ。その体からは、尋常でないオーラが漂っている。
全身に冷や汗をかきながら、双識はそれでもさも落ち着いたように話す。
全身に冷や汗をかきながら、双識はそれでもさも落ち着いたように話す。
「やあルイズちゃんじゃないか、こんなところで――ひでぶっ!」
有無を言わさずのドロップキックに、双識が垂直に吹き飛ぶ。
派手な音を立てて、双識が本棚に突っ込んだ。
その轟音に安穏を妨げられた生徒達から、冷ややかな視線がルイズに突き刺さる。
だが、気がついているのか、いないのか、構わずにルイズは双識を罵りつつ、蹴る。
派手な音を立てて、双識が本棚に突っ込んだ。
その轟音に安穏を妨げられた生徒達から、冷ややかな視線がルイズに突き刺さる。
だが、気がついているのか、いないのか、構わずにルイズは双識を罵りつつ、蹴る。
「逃げるだけならまだしも、女といちゃついて!この変態!自分の!立場!わかってるの!?」
「痛いっ!痛っ!痛いって!折れる!いやむしろ折れてる!アッー!」
怒りに任せて蹴るルイズに、悲鳴を上げながら逃げる双識。
そんな二人の姿は、まるで――
そんな二人の姿は、まるで――
「……家族」
呟いたタバサの目は、どこか遠くを見ていた。
(雪風のタバサ――試験開始)
(第七話――了)
(第七話――了)