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ゼロのドリフターズ-10



「お前達の名が聞きたい」

 近くにいたウェールズが焼かれ、シャルロットは全身で戦慄を感じていた時、敵首領がそう発した。
ウェールズを殺した"つもり"になって、また開戦前の時のように饒舌に語り出すのか。
聞く耳はあまり持ちたくはない・・・・・・が、貴族派の情報を持っている可能性が最も高い人物である。
ここは騙したまま聞き出すのが良いだろうとシャルロットは判断する。

「・・・・・・"タバサ"」
もちろん馬鹿正直に本名を言う気も必要もない。物心ついた頃から持っているお気に入りの人形の名だ。
「嘘だな」
「・・・・・・ッッ」
シャルロットは動揺を内に押し込める。流石に人形の名は怪しすぎたか?
確かに人に付けるような名前ではない。嘘臭いと言えばそうかも知れない。
だけれど――こうもはっきりと間髪入れず、嘘だと断じられるとは思わなかった。

「まあいい、教える気がないならそれでもな。名前も知っていればより確実だったが、もうお前達は"覚えた"」

 そこでメンヌヴィルははたと気付く。"あれはおかしい"と――
まだ生きている連中の周囲に倒れる死体の不自然さに一つの解が浮かぶ。
(チッ・・・・・・)
メンヌヴィルは内心で舌打ちしつつ考え、理解した。最初から"はめられていた"。
途中で入れ替わってないと聞いていた――であるならば、一番初めから"偽物"だったということか。

「セレスタン!! 影武者だッッ!!」
自分の後方で一切動かず、伏せていた最後の部下に向かって大声で叫ぶ。
すぐさまセレスタンが移動するのを"感じた"後に、メンヌヴィルは自嘲を含んだ哄笑をあげた。
「くく・・・・・・くは、ははっハハハハハ!!!」

 笑いと同時に驚愕によって見開かれた瞳のシャルロットはすぐに即応する。
「キッドさん! 父様! 見敵必殺!! 逃さないでっ!!」
キッドとシャルルも言われるまでもなく状況を理解した。
理由はわからない。わからないが、「影武者」と敵首領が叫んだ以上看破されたのだ。

 シャルルとキッドはメンヌヴィルに細心の注意を払いながら走る。
本来なら二人まとめて『飛行』して行きたかった。
しかし二人も飛ばしながら別の魔法を使うのはシャルルでも至難の技。
攻撃されれば危うく、かと言って三人掛かりでもまともに倒そうとすれば、時間を稼がれるだろう。
だからここは防御に専念してまずは射程外へと走って抜く。逃げた敵を追うにはそれが最速だった。

 シャルルの心中としては愛娘が心配であったが、"命令"も含めてここは割り切る。
「奴は『白炎』のメンヌヴィル!! 踏まえて判断するんだ!!」
そう叫んで忠告する。今までの戦い振りと外見の特徴から見ても恐らく間違いないだろう。
戦場では要注意人物として挙げられる、狂った強者の一人だ。

 そんな狂者相手でも"魔法"戦闘ならば"問題はない"。勝てはしないまでも、"負けはない"筈だ。
――半ば確信に近い予想だが、幼少時より何度も試合い、戦い方を教えていた時に気付いたことがある。
幼い子供ながらに地下水の魔力のみでは決して足らないだろう、精神力を発揮したことがあった。
通常のメイジならば当然のように底をついてしまうような魔法を、気絶することなく使ってみせた。

 年齢が10にも満たぬ少女が、スクウェアメイジ顔負けの魔力を保有していたのだ。
今はどうなっているかはわからないし、シャルロット本人が話さない以上は特に深く聞きはしない。
それでも順当に成長したならば、単純な総量では恐らく己すらも超えているのではないかと思う。
そこに地下水が加わるのであれば遅れを取ることはあるまいと。
シャルロットは親の贔屓目を抜きにしても頭が良い。分が悪いと見れば決して無理はしない子だ。


「ふんっ・・・・・・」
メンヌヴィルは追撃しない。自分の名前だけが知られたこともどうでもいい。
「『白炎』のメンヌヴィル・・・・・・その悪名は私も聞いたことがある」
どうせ目の前の少女に邪魔される、無駄なことはしない。

 ハメられた以上ウェールズ暗殺は成っていない。今頃はもうアルビオンにはいない可能性も高い。
任務失敗とあらば、もはや存分に楽しむとしよう。二人がセレスタンを追ったことで体よく決闘の形になった。
セレスタンはいずれ捕まるか殺されるかだろう。あの二人から逃げ切れるとは思えなかった。
しかし腐っても俺の部隊で戦ってきた部下だ。ただでやられもしない筈だ。
充分過ぎる時間は稼いでくれる筈・・・・・・。後は戻って来た二人を改めて殺せばいい。三人同時でなければ問題ない。


「・・・・・・何故、"わかった"の?」
少女の問いにメンヌヴィルは笑いが込み上げて来る。随分と図太いことだと。
「こちらの質問には嘘で返し、自分はのうのうと聞くか」
メンヌヴィルの言うことは尤もであった。なんと都合のいいことだろうか。
しかしシャルロットの苦い表情とは裏腹に、メンヌヴィルはあっさり躊躇なく答える。

「俺はな、視力がないのだよ。・・・・・・これは義眼だ」
そうであることを証明するように、空いた左手で眼球を取り出す。
カラコロと二つの義眼をぶつけて音を立てながら弄ぶ。
空っぽになった眼窩は何もかもを吸い込み、全てを見透かすような深さを帯びていた。

 メンヌヴィルは思ったよりも涼しげな少女の反応を"見て"、つまらないと音を立てて握り潰す。
「――それにしても、貴様のような色々とないまぜになったような感情は初めてかも知れんな」
「・・・・・・温度――」
「頭も悪くない」
盲目・・・・・・それでいて現状を把握するメンヌヴィル。そこからシャルロットは推理した。

 個人差はあるし不得手な者もいる。しかし総じて四系統には傾向がある――
風系統のメイジなら、他の者より空気の流れや音に敏感である。
土系統のメイジは、地面を通して地中の様子や壁の厚みなどを測量したり出来る。
水系統のメイジであれば、触れるだけで水の流れを感知し生体を理解出来ると言う。
火系統のメイジにとって、微細な温度変化を感じるなどお手の物なのだ。

 さらに盲目であることが感覚をより鋭敏にしたのだろう。そういう例は少なくない。
そしてメンヌヴィルは特に異常なのだ。それほどまでに特化しているなら"気付く"ことが出来る。
「俺は今まで老若男女問わず、人も亜人も獣も、メイジも平民も、軍人も民間人も・・・・・・。
 誰もに平等な死を与えてきた。だから知っている。死んだ後の、死に逝く者の温度というものがな」

 ウェールズの温度は"おかしかった"。自分が焼いたものだからなおのこと気付けた。
そこに気付けば、他にも転がっていた"死体と思っていたもの"。
それらも同じようにおかしかったことも感覚的に理解する。
温度変化が希薄で唐突。それはまるで――
「・・・・・・人形のようだった」

 風の『遍在』であれば消えるし、形が残っている以上はマジック・アイテムの類である。
つまりは精巧なガーゴイル。温度や実力まで際限された、スクウェアクラスの土メイジ熟練の技。
だからこそ己ですら騙された。そして黙したままの少女の温度が、その感情が、真実だと告げていた。

「よくわかった。・・・・・・私の名はシャルロット」
「礼儀のつもりか? まあいい、その名は覚えておこう」
「・・・・・・やっぱり、嘘も見破れると」
メンヌヴィルは唇の端が上がる。わざわざ試してくるとは、不思議な少女だ。

 得体の知れないオーラ。乱戦にあって平静を保った胆力。
それでいて影武者ウェールズが炭と化した時には、人間らしい感情も垣間見えた。
戦場に慣れているようで、だけど初めてでもあるような、そんな織り交じったような心理状態。
どんな風に育ち、どういう経験を積んだらこうなるのか。今まで焼いてきた者の中には該当しない。

「そうだ、なまじ目が見えていた頃よりも見えるようになった。あらゆるものを感じることが出来る。
 温度は正直だ、心理を如実に表し、隠すことも出来ない。それもこれも・・・・・・あの男のおかげだ」
「あの男?」
思わず聞き返してしまったことにシャルロットは後悔する。
情報を引き出すにしても、あまりに無関係過ぎた。
「遠慮することはない。こうして語らい合うのもたまには悪くないものだ。
 近しく感じた貴様を焼き、その肉の焼ける香りを嗅ぐことを思えばより一層楽しめる」

(・・・・・・下衆)
シャルロットは心の中で毒づく。記憶にある噂通りの男。歴戦の傭兵。
戦場で名を馳せ、残虐非道を絵に描き、狡猾で強力な炎のメイジ。
偽物のウェールズごと仲間を焼き殺す、情の欠片もない異常者。

(それにしても・・・・・・)
温度から感情を読み、心理まで把握されるなど何ともやりづらいことか。
頭の中までは読めないにしても、ペースを無理やり引きずり込まれてしまう。
闘争において、こちらの出方が――攻撃のタイミングが読まれることがどれほど致命的なことか。
メンヌヴィルの闘争における圧倒的なアドバンテージを覆さねば勝ち目は薄くなる。

(とりあえず・・・・・・開き直る)
考えれば考えるほどドツボに嵌まりかねないと判断。だから今だけは感情に重きを置く。
異常者の考え、心理、経験を知ることは単純に好奇心もある。
メンヌヴィル本人が乗り気になっているし、不意討ちしてくる性格でもないようだ。
時を稼げば父様とキッドも戻って来るだろうし、流れを握られるよりはマシである。

「そう、なら昔話を聞かせて。今のアナタがあるキッカケ・・・・・・」
シャルロットの虚偽のない態度に、メンヌヴィルは上機嫌に語り始める。


「――20年前だ。当時俺は『王立魔法研究所』の実験小隊に所属していた。
 その折、疫病の発生した村を住民ごと焼却処分しろという任務があった」
「・・・・・・新教徒狩り?」
「んっ? 知っているのか、まだ貴様なぞ生まれてもいない頃だろうに」

 シャルロットは記憶の端っこを辿っていく。『アカデミー』実験小隊、聞いたことがある。
王都トリスタニアにある、魔法を研究する施設『王立魔法研究所』。
その機関が、公に出来ない鬼畜な実験をおこなっていた頃に、汚れ仕事を直接的に担当していた部隊。

 凶賊などを相手に、攻撃魔法が人体にどのように効果を与えるのか調べたり。
戦場で範囲魔法を放った際に、一体どれほどの被害が及ぶのか調べたり。
秘密裏に捕えた罪人や、極刑を待つ囚人を相手に拷問に近いことを敢行し、その限界を調べたりしていたそうな。

 そして伯父――ジョゼフ――は、さらに当時のことを語ってくれた。
ロマリアからの圧力で、教義に邪魔な新教徒を抹殺する任務。
賄賂を受け取った地位ある人物が、強引に伝染病が蔓延しつつあるとして村ごと処理しようとした非道な事件。

 そんな中でジョゼフ伯父様を含み、真実を知った数名が最終的に差し止めた。
ついでに国内を蝕む害虫達を吊るし上げて糾弾した。
それは同時に、トリステイン王立魔法研究所変革の時でもあった。
以降は人道に背く実験や研究は行われなくなった・・・・・・と聞いている。

「――あの時はいざ村を焼こうという直前に命令が来てなあ。疫病など誤情報だから中止しろと。
 その隊長ってのがこれまた無骨でな。命令通り中止しようとしたんだが、副長だった俺は抗議した。
 途中で命令が変わることなど今まで前例がなかったからな。その時に俺が隊長に成り代わろうと思った」

 メンヌヴィルは少しずつ体を震わせて語り続ける。
当時の鮮烈な記憶をまるで昨日のことのように。色褪せることなく思い出せた。
「誤情報というその命令が、さらに誤ったものなら実際的な被害が拡大してしまう。
 まあ俺自身は疫病の真偽なんてどうでもよかった。ただ日和った隊長に嫌気が差した。
 もう目の前だってのにつまらないと。命令が遅れたことにして焼いちまえばいいとな。
 ――結果として村は燃えた。隊長と俺の炎でな。それはもう美しかった」

(そう、村は確かに燃えた。でも・・・・・・) 
ジョゼフから聞いた話では奇跡的に――
「――だけどなあ、隊長が部下達に村人の保護と退避を最優先に命令して、全員がそれを聞きやがった。
 もっとも当時の俺ですら一目は置いていた隊長だ。明確に命令を拒否出来るほど合理的な理由もなかったしな。
 後から聞いた話では、その所為で一人も死ななかったらしい。あれだけ燃やし尽くしたってのに・・・・・・。
 そして最終的に俺は、隊長の『炎の蛇』を脳裏の奥まで灼きつけた。それが"最後に目で見た"光景だ」

(炎の・・・・・・蛇?)

「我が身を焼く匂いを嗅ぎながら、俺は半狂乱で炎を放った。その時にガキの声が聞こえた。
 それを庇ったんだろうなあ・・・・・・隊長を焼く匂いをも嗅ぐことが出来た。おかげで逃げ果せた。
 あの戦いと二つの香りで理解した。俺が俺である本質。それを教えてくれた隊長。
 隊長のおかげで俺はさらに強くなった。光を失い、自身を知り、高みへと昇れた。隊長に感謝したい。
 またあの香りを嗅ぎたい。だから俺は決着をつけねばならない。それもまた俺が戦い続けている理由だ」

 シャルロットは素直に、ある意味感心した。人も狂いに狂えばこうまでなれるのかと。
もはや人ではない・・・・・・"化物"だ。"コレ"を人間と呼ぶことはもう不可能だ。
だけどそれもまた一つの到達点なのだ。人を殺すことに何も感じなくなるどころか、喜びを見出す。
死に慣れるどころではない、死そのものをその身に宿している。絶対的強者の在り方。

「今は素晴らしき戦乱の時代だ、戦場には事欠くことがない。本当に様々な場所を巡って殺し続けたものだ。
 各国の連中はもちろん、エルフをも相手にしたこともあったが・・・・・・あれは極上だったなあ。
 ――隊長が未だにどこにいるかはわからない。それらしい人間を方々当たっているがハズレばかり。
 だがなあ、俺も隊長も戦場でしか生きられぬ人間だ。だから必ずどこかにはいる、それを俺は捜し続けている。
 そして同時に、戦場で貴様らのような強き者達を焼くのもまた、俺にとって大きな愉悦のひとときであり目的だ」

 メンヌヴィルは空虚となった瞳で、シャルロットをギョロリと覗き込む。
「だから聞いておこう。まさか貴様まで人形・・・・・・ということはあるまいな?」
魔法まで使えるガーゴイルは聞いたことがない。だが実際に存在した以上は疑う余地はない。
そして魔道具の種類は豊富で効果も様々だ。そんなものがあっても不思議ではない。

「大丈夫、安心して。私は正真の人間で――」
シャルロットは一息置いてから、確固たる意志を込めて言葉を紡ぐ。

「――アナタを殺す"人間"だから」

 このどうしようもない怪物は殺すしかない。手加減して倒せるような相手でもない。
ただ存在するだけで厄災を振り撒く害悪だ。自分の命を守る為にも殺す。
(この化物は・・・・・・私が打ち倒す)
口に出した言葉を、改めて心の中で噛み締め反芻する。生命を奪うということの意味を――

「いいぞ、いい!! 俺も素晴らしい貴様を殺し、戻って来た二人も殺してやろう」
戻って来ないという想定はないのか、改めて杖を構えるメンヌヴィルをシャルロットは睨む。
いざ始める前に聞いておかなければならないことを尋ねる。
「そう・・・・・・殺したら尋問出来ない。だから最初に聞く。依頼者――いえ、アナタが知っている限りの貴族派の名前を教えて」

「本当に筋金入りの度胸をしている・・・・・・いいだろう」
メンヌヴィルは一枚の羊皮紙を取り出すと、器用に極小の火で焦がして名前を書いていく。
依頼された時に会ったわけでもないし、貴族派も代理人を立てて偽装してきた。
しかし傭兵としては雇用主を調べるのは当然であった。使い捨てにされることもしばしばある稼業。
場合によっては謀略に利用され、傭兵そのものが続けられなくなる場合もある。
だからこそ依頼者は正確に把握しておく。そうすることで互いに対等でいられる。

「ここに記したが・・・・・・逃げられても困るのでな」
メンヌヴィルは先刻ウェールズの人形を殺した際の炎で、溶解させて開けた穴に羊皮紙を放り捨てると足で崩して埋める。
「万が一俺を殺せたなら、後で掘り起こすといい」

 メンヌヴィルの「無理だろうがな」という笑み。それをシャルロットは冷ややかに眺めていた。
――いよいよ始まる。手加減の余地なしの絶対強者。さらには一般的な尺度で見れば悪人に相違ない。
初めて殺す相手にしては申し分ない。昂揚感で不思議な気分だった。これならいけると確信めいた意志を灯す。
あの強力で凶悪な炎を使うメンヌヴィルに対する戦術も練り終わっている。

 もはや互いに言葉なく、闘争の火蓋は切られた――


 ――メンヌヴィルは纏っていた炎を増大させ、大業火を放つ。
杖から吹き出続ける火炎が、周囲一帯の酸素を燃焼し尽くさんというほどにシャルロットを襲う。
逃げる隙間もないほどに、最速にして、最短距離を、風も、水も、土も、火そのものすらも、全てを呑み込む獄炎。
阻むものを一切合切焼き尽くし、灰燼に帰する究極にして至高の炎。

 それでも少女はきっと死なないだろう。死んだら己の"眼"は節穴だったということだ。
この極炎ですら減衰させ、せめて重症に留めるか。下手すれば相殺してくるほどの魔法を放つやも。
それほどのオーラを宿していた。それくらいの得体の知れなさを感じ取っていた。
この炎すら上回ってこの俺の方がダメージを受ける――それも良い。
全力をして己を追い詰めるほどの術者こそ燃やしがいがある。

 ――そして、極大火炎が包み込むようにシャルロットを覆った。
(・・・・・・ああ?)
魔法を放った形跡はなかった。耳には聞こえずとも詠唱はしていた筈だが・・・・・・ついぞ開放はしなかった。
まさか間に合わなかったとでも言うのか。

(馬鹿な・・・・・・こんなもので)
節穴どころではない。これでは有象無象の木偶と何も変わらないではないか。
「ふっ――!!」」
メンヌヴィルが感極まって「ふざけるな」と叫ぼうとした怒号が詰まる。

 蛇のように温度を感じる"眼"は、確かに"無傷"のシャルロットを見ていたのだった。



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