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Mission 29 <禁断の魔法薬> 後編



「スパーダはあたしの使い魔よ! だからあたしのものなの! 秘書のおばさんは黙ってて!」
「誰がおばさんだい! 私はまだ23だよ! ガキのくせして、威張るんじゃないよ!」
夕日は徐々に沈み、宵闇が訪れようとしている中、ルイズとロングビルは互いに罵り合いながら激しく取っ組み合いを始めていた。
ロングビルに至っては理知的な秘書の装いをかなぐり捨て、素の状態を晒しだしている。
ルイズは腕っ節は強いもののそれは同世代のひ弱な生徒達に限る。相手は大人であり、かつては〝土くれ〟のフーケとして修羅場を潜り抜けているロングビルであり、実力差は歴然としていた。
二人とも草地の上を転がり、体を汚しながら自分達が愛したスパーダを巡って争い合う。

(何だこれは)
二人を尻目にスパーダはルイズとロングビルが落として割れていたワイングラスの破片を手にして匂いを嗅いでいる。ルイズ達がおかしくなったのはちょうど、このグラスのワインを飲んでからだ。
そして、ほんの僅かだが破片に残っていたワインの匂いの中に違和感があり、何か別の物が混ざっていることを察していた。
それがグラスに注がれる前から入っていたことはあり得ない。あのグラスおよびワインは元々、モンモランシーが用意したものである。
くるりと、スパーダは座り込んでいるギーシュとモンモランシーの方を振り向いた。
状況が理解できず唖然としているギーシュであったが、モンモランシーはこそこそと地を張ってこの場から離れようとしていた。
「Freeze.(待て)」
スパーダの冷徹な呼びかけに、モンモランシーはびくりと体を竦めて固まった。
まずい、まずい。惚れ薬を作ったことがバレたりしたら……ただではすまない。
モンモランシーの全身からどっと冷や汗が溢れ出る。……恐る恐る、後ろを振り向くと。
「どういうことか、説明してもらおう」
悪魔のように冷徹な視線で見下ろす、スパーダの姿がそこにあった。
視線を浴びせられるだけでも恐ろしい瞳で見つめられ、モンモランシーは震え上がりながらこくりと頷いていた。


本来ならばこの後は夕食の時間であったのだが、スパーダはルイズとロングビルを女子寮のルイズの部屋へと運んでいた。
二人はやたらとスパーダにくっ付いてくる上に「スパーダに触れていいのは自分だけ」などと叫んでは喧嘩を続け、あまりにもやかましいために閻魔刀の鞘と柄による当身で昏倒させることでようやく静かになったのだ。
気絶している二人をベッドの上に預けると、スパーダは腕を組みながらくるりと振り返り、連れてきたモンモランシーを見やる。
「あのワインに何を仕込んだ?」
単刀直入に、スパーダはモンモランシーに問いかける。モンモランシーは青い顔をしながら気まずそうに呟いた。
「ほ、惚れ薬です……」
「惚れ薬って……! モンモランシー! それはご禁制の品じゃないか!」
付いてきていたギーシュが驚き、大声を上げる。
「そんな大声を出さないでよ! バレたりしたらあたし、タダじゃすまないのよ……」
「だったら、何でそんな物を作ったんだね。君の言うとおり、バレれば莫大な罰金か牢獄行きなんだぞ。もしも君がそんなことにでもなれば、僕は……」
詰め寄ってくるギーシュに対し、俯いていたモンモランシーはいたたまれなくなって突然大声で叫びだす。
「……大体、あなたが悪いのよ! ギーシュ!」
「え、ええ?」
唐突に逆上しだしたモンモランシーに、ギーシュは面食らっていた。
きっとギーシュを睨みつけ指差してくる彼女の目元には薄っすらと、涙が浮かび上がっている。
「あなたがミスタ・スパーダとばかり一緒にいるから! あたしのことなんか放って!」
「な、何を言っているんだね。僕は毎日、君の気を引こうと必死だったじゃないか。それにスパーダ君の稽古を受けていたのは、君を守れるように強くなるためで……」
「だからって! あたしはあなたに変わって欲しくなかったのよ! キザで、ナルシストなのが本当のギーシュなのよ! それがミスタ・スパーダから稽古を受けているうちにすっかり変わって……」
嗚咽を漏らしながら号泣するモンモランシーの悲痛の言葉にギーシュは唖然としていた。
「……それで、僕に惚れ薬を飲ませようと?」
「他の女の子に浮気されるのも……ミスタ・スパーダとばかり一緒にいられるのも嫌よ……。あたしの知らないギーシュに変わってしまうのも……。」
ギーシュはモンモランシーを守れるような強い男になるべく魔剣士スパーダから地獄のような特訓を受け続けていた。
その結果、以前と違って自分の力に自信がついたし、己の力量も見極められるようになった。
思えばアルビオンから戻ってきてから他の女子達と付き合ったことなど一度もない。モンモランシー一筋だった。
スパーダと共にいることで、そして彼の影響を受けることでギーシュは以前とは全く違う存在へと変わりつつあった。
「モンモランシー……そんなに僕のことを」
だが、ギーシュはモンモランシーの本当の気持ちに気づいてあげられなかった。彼女は苦しんでいたのだ。愛する人と共にいられない寂しさと、彼女の知らない存在へと変わってしまうのが。
顔を両手で覆って泣き続けるモンモランシーの体を、ギーシュはがばっと抱き締めた。
「ごめんよ。君の気持ちに気づいてあげられなくて。愛する人を悲しませるなんて、僕は貴族失格だ。……だが、信じてくれ。僕は僕だ。
ギーシュ・ド・グラモンという名の一人の人間だよ。決して、君の知らない男になんかなりはしない」
モンモランシーは涙でぐしゃぐしゃになってしまった顔を上げ、間近でギーシュの顔を見つめていた。
「僕はずっと、君の永遠の奉仕者だよ……」
モンモランシーの顎を持ち上げ、ギーシュはその唇に接吻をしようとする。モンモランシーも目を瞑り、自分の唇を重ねようとした。
「……ふげっ!」
バシッという音と共にギーシュは情けない声を上げていた。
スパーダが閻魔刀の鞘でギーシュの頭を小突いたのだった。
「後にしてもらおう」
「……や、野暮天だなぁ。君は」
頭を擦りながらギーシュは渋い顔でモンモランシーの体を押し出してスパーダを見やる。
せっかく良い所だったのに邪魔されたのが不服だったモンモランシーも彼を恨めしそうに睨みつけていた。

「それで、あの二人を元に戻せるのか」
顎で未だ目を覚まさぬルイズとロングビルを指すスパーダ。
対するモンモランシーは困ったように顔を曇らせていた。
「うう……一応、解除薬を作れば何とか。でも、惚れ薬を作るのに希少の材料を全部使っちゃって……」
「それは何だ」
「ラグドリアン湖に住んでいる水の精霊の涙、という秘薬なんだけど……。闇屋であたしが買ったのが最後の物だったのよ……。おまけに入荷がもう絶望的らしくて」
「何故だ」
以前、読んだ本にその水の精霊とやらの説明を見たことがある。そいつは人間よりも遥かに長く生きている存在であり、六千年前、始祖ブリミルが生きていた時代から存在していたという。
水の精霊の涙というのはその精霊の体の一部であり、水のメイジが交渉することによって手に入れるものだという。
「話によると、その水の精霊達と連絡が取れなくなってしまったそうで……」
「それじゃあ解除薬は作れないということじゃないか」
ギーシュはどこか他人事のように言う。下手をすれば自分が飲んでいたというのに呑気な発言だった。
「でも、しばらくすれば元に戻るはずだし、ミスタ・スパーダだって、別にあの二人が相手だったら悪くは……」
「まあ、その道をとるのも悪くはないかもしれん。私は待ってやっても良い」
嘆息しながら言ったスパーダに、モンモランシーも安堵の顔を浮かべる。彼が納得さえしてくれればこちらもこれ以上は……。
「だが、あれだけの効き目だ。他の者達、特に教師達が彼女達の状態を見ればその異常に気づかぬはずはない。とりわけ、オスマンなどはな」
淡々と言葉を口にするスパーダに、モンモランシーはうっと唸った。
あまりに豹変した彼女達が目立ちすぎると、その異常を教師達が調べることであろう。そして、惚れ薬を使われたということが分かれば必ず捜査が入る。
……ずっと隠し通せるとは思えない。
「それでバレても私は知らん」
「……分かったわよ! じゃあ、近いうちにギーシュがラグドリアン湖に行って秘薬を直接、取ってくれば良いんでしょう!」
「お、おい! 僕が行くのかい! 第一、水の精霊は水のメイジの交渉が必要なんだろう?」
突然、自分を指名されてしまったためにギーシュは慌てた。
「あたしは嫌ですからね! 水の精霊って滅多に人前に姿を現さないし、ものすごく強いのよ! 怒らせでもしたらたいへ……」
モンモランシーは言葉を止め、絶句していた。
気づけば、スパーダの手にはいつの間にか一丁の短銃が握られており、その銃口をモンモランシーの顔面に突きつけていたのだ。
「お、おい! やめてくれ! 何をするんだね、スパーダ君!」
思わずギーシュはスパーダの腕を掴み懇願する。
「己の責は自分でとれ」
「はい……」
スパーダは別に怒っているわけではないのだが、モンモランシーは異国の貴族としての威圧感に背筋を震わせた。
観念したモンモランシーは、がっくりと肩を落としていた。スパーダも銃を収める。
「では明朝、出発することにする」
「明朝って……学校はどうするのよ!」
「一日休んだくらいでどうにもなりはせん」
冷たく突き放すスパーダに、モンモランシーは大きな溜め息を吐き、頭を押さえていた。

(本当はこれを使っても良いのだがな)
モンモランシー達が去った後、部屋に残っていたスパーダは懐から二つの青く光る星形の石を取り出す。
ちらりと、まだ目を覚まさない二人とその石を交互に見比べていた。
あらゆる毒を浄化し、肉体を正常な状態に戻すという触れ込みのホーリースターだが、別に毒だけを浄化するというわけではない。
肉体を内側から侵食している存在であれば、それが純粋な毒物でなくても構わない。それこそ、彼女達が飲んでしまった惚れ薬とて同じことだ。
心を操作する力のある魔法の薬であろうと、それさえも浄化できるはずである。
これを今すぐこの二人に使ってやっても良いのだが、この世界における適切な解決手段があるのであれば可能な限りそちらに任せるべきである。
それに、その水の精霊とやらを直接目にする良い機会なので、ちょうど良いきっかけができた。
(交渉次第では使わざるをえんが)
もちろん、水の精霊の涙が手に入らなければ即座にこれを使わせてもらおう。
その時まで、スパーダはこの二つの青い霊石を懐に納めることにした。

「ん……んん」
その時、ベッドの上に横たわっていたルイズが目を覚まし始めた。
先ほどスパーダの閻魔刀の一撃がみぞおちに決められたせいでまだ少し痛む。だが、それは自分がいけない子だからということは分かっている。
むくりと体を起こしたルイズは自分が愛するスパーダが部屋から出て行こうとしているのを目にし、思わず声を上げた。
「……いっちゃだめぇ!」
そのままベッドから飛び下り、スパーダの背中に体当たりしながら抱きつく。
……ああ、まるで父様みたいに大きくて逞しい背中。こうしているだけで、不思議とスパーダが父親のように思えてしまう。
ギーシュが厳しい特訓を通して彼を父親のように思うのと同じように、ルイズもスパーダの父親のような包容力をその身に感じ取っていた。
彼が本当は悪魔であることも、忘れてしまいそうだ。
「あたしを置いていかないでっ。もっとあたしのことを見てよぉ!」
スパーダは夕食をシエスタに頼んで持ってこさせようとしていただけなのだが、目を覚ましたのであればこのまま連れて行っても構わないだろう。
「食堂に行くだけだ。君も来ればいい」
「だめっ! 外に出たら他の女の子と仲良くしちゃうわ! そんなの嫌っ! ずっとここにいるの!」
相当、惚れ薬によって心が変異させられてしまっているようだ。普通の惚れ薬ならここまでの効果はないだろう。水の精霊の涙とやらの力が効いているのだ。
「飢え死にしたければそれでも構わんが」
スパーダは冷徹に一蹴しようとするがルイズも諦めない。
「いいもん。スパーダさえいてくれれば、何もいらないもん」
「……とにかくここで待っていろ。シエスタに頼んで食事を持ってきてやる」
「だめっ! あのメイドの所に行って仲良くするつもりなんでしょ? そんなの許さないんだから」
ぷくっと頬を膨らませたルイズはスパーダの体を抱く腕に力を込め、離れようとしない。
「スパーダはあたしの使い魔だもん。だからご主人様のお相手をしなきゃだめなんだもん」
拗ねた子供のように反抗するルイズに、彼女の本心ではないとはいえいい加減スパーダも辟易としてきた。

「他の女の人なんてどうでもいいの。ご主人様のあたしだけを見て?」
これ以上、付き合っていても埒があかない。スパーダは無視を決め込み、ルイズに抱きつかれたまま部屋を出ようとした。
その時、抱きついていたルイズの腕が突如として離れだし、さらには体もスパーダから引き離されていた。
部屋の中には、コモン・スペルの念力による魔力が感じられるのが分かる。
「きゃああっ! 助けて、スパーダ! 助けて!」
振り向くと、引き離されたルイズは天井付近に浮かばされてじたばたともがいている。
さらに身に着けていたマントがするすると外され、ルイズの体と両手を器用にロープのように縛り付けていた。
「痛いっ!」
「子供はそこで大人しくしてなさい」
いつの間にか目を覚まし、杖を握っていたロングビルが冷たい顔で床に落ちたルイズを睨みつけていた。土くれのフーケとしての本性を現したその表情には秘書としての装いは全くない。
「ふんだ。婚期を逃したおばさんになんてスパーダの相手は勤まらないもん!」
「言ってなさいな。小娘め」
冷笑を浮かべ鼻を鳴らすと、ロングビルはスパーダに近づいていった。
艶かしい顔を浮かべ、そっとスパーダの胸の中に抱きつく。
「さ、あんな子供なんて放っておいて、私達だけで楽しみましょうよ……」
スパーダの頬にロングビルの細い右手が伸び、左手の指先がツツッとスパーダの胸元でなぞられていた。
その姿はさながら妖艶な女悪魔に等しいものであり、並みの男ならばこの誘惑に負けてしまうかもしれない。
同じタイプのキュルケが霞んで見える。
(ネヴァンみたいになってしまったな……)
思わず溜め息を吐くスパーダ。
かつてスパーダが魔界にいた頃、魔帝ムンドゥスの勢力に共に属していた上級悪魔〝妖雷婦〟ネヴァン。
スパーダが戦いを終えると毎度のように誘惑をしてきて迫ってきたあの女。娼婦そのものであるあの女は魔界でも珍しい享楽主義者であった。
一時の強い刺激を味わうのが趣味であるネヴァンは幾度となくスパーダに誘惑を繰り返してきたものだ。
彼女にとっては魔界も人間界もあまり関係がなく、ただ自分の楽しみのためだけに生きている。
スパーダが魔界と決別する際も魔界も人間界も関係なく、ただより強い刺激を味わうためにスパーダと戦い、結果として封じられたのだ。

「だめ! だめよ! スパーダはあたしの使い魔なんだから! あたしだけのものなのよ! 他の女の人は近寄っちゃだめぇ!」
後ろ手に縛られているルイズは喚きながらも暴れ、何とかマントを外そうとしていた。
そんなルイズのことを無視し、ロングビルはスパーダの顔を悩ましげに見上げながら彼の顎に手をやった。
「ねぇ……覚えている? あなたが私のゴーレムをそこの破壊の箱やあなたの剣で粉々にした時のこと……。あの時は本当に痺れちゃったんだからぁ……」
本当にどうでも良いことを引き出して、話題を広げようとしている。
「私はもっと刺激を味わいたいのよぉ……。今夜は私の部屋へいらっしゃって。こんな小娘なんかと朝まで過ごすことなんてないわ……」
「断る」
本心ではない中途半端な感情で、そんなことをされてもスパーダには良い迷惑だ。
身も心も、人生さえも捧げる覚悟もなしに悪魔と契約の契りを交わすなど、御免こうむる。
「ほらやっぱり! 23のおばさんなんかにスパーダが振り向くはずないもん!」
未だ縛られた手を何とかしようと躍起になっているルイズが勝ち誇ったように言った。
「ふん。主人と使い魔の関係でしかスパーダと繋がりを持てないくせに、威張るんじゃないよ」
だが、ロングビルも負けずに余裕の表情で言い返す。
「そんなことないもん! スパーダはあたしのことをちゃんと認めてくれてるもん!」
「あら。何だかうるさい犬がさかり鳴いているようね。……ほら、もう行きましょう。こんなうるさい所にいたって、何にもないわ。今夜は私が付きっきりで相手をしてあげる……」
ルイズを無視しスパーダに寄り添ったままのロングビルは自ら扉を開け、外へと出ていった。
「嫌だぁ! スパーダぁ! そんなおばさんなんかと一緒にいちゃだめぇ!」

その後、女子寮を離れていったスパーダは夕食をルイズの元へと運ぶためにロングビルと共に食堂を訪れていた。
「おいおい……あの秘書さん、ミスタ・スパーダとできてるのか?」
「意外と一緒にいる時が多かったみたいだけど、まさかあそこまで進んでいたのか……」
「あんな大人の女性に寄り添われて……うらやましいなぁ」
普段は決して見せぬ妖艶な大人の魅力を発揮するロングビルがスパーダに寄り添っている姿を、食堂中の人間が唖然としながら見つめていた。
男子達はあんなに美人な大人の女性を傍に置いて引き連れているスパーダをうらやましく思い、スパーダに憧れている女子達はロングビルが殿方に寄り添っているのが悔しくて、嫉妬を露にした表情で睨みつけていた。
そんな様々な思いのこもった視線を受けながらもスパーダは給仕をしている最中のシエスタを見つけて近づく。
「何よぉ。こんな平民の娘なんてどうでも良いじゃない……」
「シエスタ。すまないが、ルイズの元へ食事を運んでやってくれ」
(スパーダさんは……ミス・ロングビルのことが好きなのかな……)
ロングビルを無視して話しかけてきたスパーダを振り向いたシエスタであったが、傍に寄り添っているロングビルを目にすると哀しそうな顔を微かに浮かべていた。
二人とも色々と事情があって正式な貴族ではないのだという。時々、シエスタは二人が一緒にいる所を見届けており、お互いに気が合う様子に悔しさを感じていた。
やはり、元貴族同士の方が良いのだろうか……。シエスタはスパーダがロングビルに惹かれてしまうのではと、いつも不安であった。
そして今、こうして自分の目の前でまるで恋人のような姿を見せつけている……。
「彼女のことは気にするな……」
スパーダはべったりとくっ付いているロングビルに鬱陶しそうな顔で呻いていた。
(あれ? でも、スパーダさんのあの態度じゃ……)
そのスパーダの様子を見て、シエスタはロングビルが一方的に彼にくっ付いているということを察し、安心していた。
自分にもまだまだチャンスはある。
「はい、かしこまりました。スパーダさん達もごゆっくり……」
微かに笑みを浮かべ、シエスタはちらりと冷たい目でロングビルを睨みつけていた。
そしてスパーダに言われたとおりに食事をルイズがいるであろう女子寮へと持っていく。
「わたしも……負けられないっ」
道中、誰ともなく強く意気込むシエスタであった。


ロングビルがこの状況では食堂で夕食をとるわけにもいかないため、教師達のテーブルに用意されていた自分達の食事を持って夜のヴェストリ広場のベンチへと移動していた。
そこでのロングビルは二人分の食事がちゃんとあるというのにスパーダに自分の食事を「ほらぁ。口を開けて。私が食べさせてあげるわ……」などと言って与えようとしたのだ。
スパーダは無視して黙々と自分の食事を口にしていたのだが、ロングビルはあまりにもしつこくスパーダに食いついてきた。
これがもしもネヴァンだったら、容赦なくその身を閻魔刀で貫いて大人しくさせていただろうが、彼女は人間だ。そんなことはできない。
「もぅ……あなたが悪魔だからってそんなに冷たくしないで……。それとも、人間の私なんて興味がないのかしら?」
「さてな」
惚れ薬の効果が出ている状態では何を言っても無駄だ。だからスパーダもよほどのことがなければ生返事しかしないことにした。
「ああ……。明日はどうしようかしら。テファに会いに行くのもいいけど、それじゃあスパーダがあの子になびきそうだし……」
「悪いが、明日は急用ができてしまった。明後日以降に回してもらう」
「どこへ行こうというの……私を一人にしないで。それだったら、私も一緒に行かせてもらうわ。私はいつまでもスパーダと一緒よ……」
(付き合いきれん……)
黙々と食事を続けつつ、スパーダは娼婦のように様々な誘惑の言葉を囁き続けるロングビルをあしらっていた。

食事を終えたスパーダはそのままルイズの部屋に戻るとまた厄介なことになりそうだったので、このまま外で夜を明かそうとしたのだが、ロングビルが本塔の自分の部屋へと連れ込んでいた。
外で構わない、とスパーダが断っても「あなたが一緒に寝てくれないと、安心して眠れないのよ……」と言って無理矢理引っ張っていったのである。
おまけに扉には〝ロック〟の魔法までかけて。
秘書である彼女の自室は平民用の宿舎と似たような質素な部屋であった。小さな机とベッド、そしてチェストがあるのみである。
スパーダはその机に備えられた椅子に腰掛け、閻魔刀を抱えたまま眠りにつこうとしていた。

ロングビルは目の前に男がいるにも関わらず衣服を脱いでいき、やがて生まれたままの姿となった。
「もぅ……そんな所で座ってないで……こちらへいらっしゃいよ……」
ネグリジェに着替えることなく、ベッドの上にしゃがみこむロングビル。胸元をシーツで隠し、まるで焦らすように誘う姿はとても魅力的なのかもしれない。
普通の男ならばこんな状況になりでもしたら、たまらずに抱きついたり押し倒してしまったりするであろうが、そこはスパーダである。
魔界の女悪魔の扱いさえも熟知している彼は相変わらず無視を続けていた。
「ねえったらぁ……」
シーツを体に巻きつけ、スパーダの元へ歩み寄るとロングビルは顔を彼の首筋に近づけ、優しく息を吹きかける。

その時であった。
扉がガチャガチャと乱暴な音を立てて開けられようとしていた。しかし、ロックの魔法がかけられているために力ずくで開けるのは不可能である。
ロングビルは扉の方をちらりと向き、僅かに顔を顰めたがすぐに鼻を鳴らす。
ここはもう二人だけの世界だ。誰にも邪魔はさせない。
「気にしないで……。今夜は私達二人だけで楽しみましょう。そうだわ……ここにいる時は私のこと、マチルダって呼んでちょうだいな……」
無表情のまま瞑目しているスパーダの口元に、ロングビルの唇が触れようとしたその瞬間……。

――ズドンッ!

鋭い炸裂音と共に扉が粉々に吹き飛んだ。
あまりに予想しなかった状況にロングビルは慌てて振り向く。
「スパーダは渡さないわっ!」
杖を構えて立つ、ルイズの姿がそこにあった。

シエスタが夕食を届けに女子寮へ赴いた時、ルイズはようやく縛られていたマントを外すことができた所であった。
現れたシエスタは食事のトレーをルイズに差し出したものの、物凄い剣幕で「スパーダはどこに行ったの!」などと叫んで追求してきたため、思わずシエスタは怯んでしまった。
あの後、スパーダはロングビルと食事を持って食堂とはどこか別の場所へ行ったのだけは確認したがそれ以上は分からなかった。
ルイズは乱暴に食事を奪い取り、部屋に閉じこもると貴族としての慎みなど全くない、やけ食いのような速さと動きで夕食を胃袋につめこみ、スパーダとロングビルを捜し求めて学院中を駆け回っていたのであった。
道中、運悪くルイズと遭遇してしまったギーシュとモンモランシーからもスパーダ達の居場所を聞き出そうとして、杖を突きつけて脅したりもしていた。
その時のルイズの表情は、まるで鬼か悪魔のようなものであったという……。

「ちっ、まったく無粋な小娘だねぇ! 私達の時間を邪魔するだなんて!」
「スパーダはあたしのものなの! 年増のおばさんは一人で寝ていればいいんだわ!」
椅子に腰掛けているスパーダにルイズも抱きついた。
「スパーダ。ご主人様を一人にしないで。あたしと一緒に眠ってよ。使い魔が一緒じゃないと、安心して眠れない」
「ふざけるんじゃないよ! あんたみたいな小娘にスパーダが振り向くものかい!」
ルイズを突き飛ばしたロングビルはスパーダの体にがしりと強く抱きついた。その拍子にシーツが剥がれ、彼女の細くしなやかな裸体が露となる。
尻餅をついたルイズは顔を顰めてロングビルを睨みつけた。
「やったわね! 許さないんだもん!」
ルイズは杖を振り、シーツを念力で浮かべてロングビルの顔を包み込んだ。
「むぐ! むぐ!」
「ファイヤー・ボール!」
そして、間髪入れずにとても小さな爆発の魔法を叩き込み、ロングビルを吹き飛ばす。
威力が抑えられたその一撃では昏倒することはない。
「この小娘め!」
ロングビルも机の上に置いておいた己の杖を手にし、身構える。
「決闘よ! 決闘! どっちがスパーダといっしょに眠る権利が……」

『Shut up.(黙れ)』

突如、微動だにしなかったスパーダが地の底から響くような恐ろしい声で呟いた。
思わず、二人はその声に身を震わせて振り向く。
見ると、スパーダの全身から赤黒いオーラが煙のように吹き出ている。

『Why you can't even sleep in quiet? Foolish scum.(お前達は静かに眠ることもできんのか? 愚か者が)』

悪魔としての本性を露にしたスパーダは瞑目したまま、腕を組んで喋り続ける。その静かな声は明らかに、怒りが込められている。
下手をすれば、抱えている閻魔刀を抜き出すかもしれない威圧感を発していた。

『For me any more, don't wrath.(私をこれ以上、怒らせるな)』

その一言を最後に、スパーダの全身からオーラが静かに消え失せていた。
ロングビルとルイズはごくりと息を呑み、スパーダを見つめていたがやがて互いに睨み合う。
だが、その口からはもうこれ以上、互いを罵る言葉は出なかった。
「……今夜だけよ。ここにいていいのは」
「明日からは、スパーダには指一本触れさせないもん」
床に座り込んだ二人はスパーダの膝に寄りかかったまま、眠りについていた。他の女がスパーダの近くにいるだけで我慢ならなかったが、これ以上暴れればスパーダが本気で怒るので自重する。
二人が愛する男は静かに眠ることを望んでいる。ならば、その願いを叶えるために二人は今にも互いに魔法をぶつけてどかしてやりたいのを必死に抑えていた。




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