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牙狼~黄金の遣い魔 第2話

           ~GARO 黄金の遣い魔~

光あるところに、漆黒の闇ありき。
古の時代より、人類は闇を恐れた。
しかし、暗黒を断ち切る騎士の剣によって、
人類は希望の光を得たのだ。

行け 疾風のごとく
宿命の戦士よ 異界の大地を
何故戦うのか それは剣に聞け
か弱き命守るため 俺は駈け続ける
闇に生まれ 闇に忍び 闇を切り裂く
遥かな 運命の果て巡り合う 二人だから
行け!疾風の如く 魔戒の剣士よ
異界の双月の下 金色になれ
雄雄しき姿の 孤高の剣士よ
魂を込めた 正義の刃 叩きつけて
気高く吠えろ 牙狼!
第2話 双月
小さい頃の私は、両親の叱責に怯え、泣いてばかりいる子供だった。
優秀な二人の姉の成績と比較されて、物覚えが悪いと叱られた私には決まって行く場所があった。
ラ・ヴァリエール領の屋敷の中庭、その中央に満々と水をたたえる池があった。その池を望む小さな東屋が私の安息の場所だった。
東屋の中に入ると、決まって私はある絵本を取り出す。
勇者―イーヴァルディと呼ばれる者を主人公としたその物語のあらすじは大体決まっている。
彼らは皆、己の信念に従い悪を砕き、竜を殺し、魔王を倒してお姫様を助け出すのだ。
そんな他愛もないお話が、自分にとって唯一の慰めだった。
きっと、いつか、自分にとっての勇者が現われ救ってくれると―。
けれどある時、ふと疑問に思ってしまったのだ。
彼ら勇者は皆、大いなる目的を持って立ち上がった。
では、その目的が果たされた後、彼らは何をすれば良いのだろうか?
倒すべき魔王もなく、救出するべき姫も居ない世界で、彼らは何処へ行けば良かったのだろうか?

カーテンの隙間から射す朝日に、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールは眼を覚ました。
トリスタイン学園女子寮の、自分の部屋である。
見上げれば視界に入る天蓋付きのベッドも、自分が選んだ若草色のカーテンの柄もおなじみのものである。
そのことを自覚しながら、顔を横に向ける。板張りの床の上には、当然誰もいない。チェストの陰にも、ベッドに横たわる自分の隣にも何もあるはずがなかった。
そのことに安堵と、それと同じくらいの落胆を味わいながら伏せていた上体を持ち上げる。
大きく伸びをして、聴こえるともなしに呟いた。
「起きて、学校に行かなきゃあ」
一人だけの室内に、声だけが響いた。

前日酌んでいた水を洗面器に空けて、顔を洗い、ネグリジェを脱いで下着を着ける。吊るしてあった制服に着替えて髪を整えて―。
彼女は部屋のドアを開けた。
廊下には人の気配はない。ゆっくりと見回し、隣室―ヴァリエール家とは仇敵の関係にあるツェルプストー家の娘の部屋だ―とは反対側の部屋へ眼を向けた。
どうやら留守の様だ。ドア越しにうかがうが人の気配はない。掌を挙げ、ドアを叩きかけて再度断念して、うつむいてため息と共に身を翻そうとして―。
そこで初めて、青年が自分を見つめているのに気がついた。
「……ッく!」
昨晩言っていたように、一晩中この学院の中を巡回(まわ)っていたらしい。召喚されたときそのままの黒のスーツに白のロングコート姿だった。この大陸では比較的地味な暗い色合いの瞳のはずが、今は自分の感情の全てを見透かしてくるようでいたたまれない感じにさせる。心に浮かぶ苛立ちをそのままに声に乗せて彼女は叫んだ。
「なによ!遣い魔のくせに何処をうろつきまくってたのよっ!」
そして青年の名前を呼ぶ。
「コウガ!」

ようやく太陽がその姿を没した常緑の森を背に、昇り始めた二つの月に照らされながら青年は「俺の名は、『冴島鋼牙』だ」と名乗った。
異様に大きな月の光は、さすがに真昼ほどではないが相対する者の顔を容易に見させる。端正だが鋼の硬さを漂わせた横顔に、さらに険しさを増しながら鋼牙はルイズを睨みつけた。
「いったい、どういうつもりだ!?」
左腕を持ち上げ、ルーンを刻まれた手の甲を見せる。ソレはなぜか脈動するように、濃くなったり薄くなったりしていた。
『鋼牙、こいつァ、ヒトの精神を縛る術だ』
左中指の魔導輪《ザルバ》が、呆れたように呟く。
『魔戒騎士の精神(こころ)を術で縛ろうたあ、ずい分無謀な真似を』
次第に薄くなりつつあるルーンを、ルイズはただ唖然と見ていた。
「なんで……《コントラクト・サーヴァント》を拒否しようとするのよ!」
留年の危機が心にあったからだろう。思わず大声を張り上げるルイズに鋼牙はぶっきらぼうに告げた。
「俺には使命がある。ホラーを狩り、人を守るという、魔戒騎士としての使命が……お前たちの悪ふざけに付き合っている暇はない」
「なによそれっ!」
この段階で、ルイズのただでさえ乏しい忍耐心は欠壊してしまった。
「信じらんないっ!ホラーだの、魔戒騎士だのさっきから分けわかんない事ばっかり言って!あんた、頭おかしいんじゃあないの?平民のくせにっ」
「平民だと?」
聴き慣れない言い回しに鋼牙が眉をひそめる。
「何を言ってる?こいつは」
『鋼牙。ちょっと良いか?』
ソレに対し答えたのは、魔導輪《ザルバ》。
『さっきから周囲を探ってるんだが、どーも様子がおかしい。ここは、俺たちの世界じゃあないかもしれないな』
「世界が違う!?」
鋼牙自身、魔界と人界、二つの世界を行き来する魔戒騎士である。常識では計り知れない経験を積んできた。複数の異なる世界が存在するかもしれない、と言うザルバの指摘は受け入れる事ができた。
『だとすりゃあ、元の世界に戻る算段を建てなきゃあなあ』
「…だが、シャックスと《グレンデルの託卵》を回収する事が先だ」
きっぱりと、鋼牙は言い放った。
「もしも卵が孵り、《グレンデルの息子》達が…」
『ああ、下手すりゃあホラーが…』
「なにブツブツ一人で話してるの?もしかして頭打った?だいじょうぶ?」
そんな二人?に無遠慮に声がかけられた。腰に両手を当てて、少し呆れたような顔で見上げてくる。ルイズはぼやき交じりに呟いた。
「もしかして最初は騎士様―なんて思ったけど、ほんとはあんまりおつむの調子が良くないヒトを召喚しちゃったかしら?」
『そりゃないぜ。お嬢ちゃん。俺様も鋼牙もまともに真面目だぜ』
《ザルバ》が顎をガクガク揺らしながら反論すると、ルイズの眼が驚きでみ開かれた。
「指輪がしゃべった!もしかしてインテリジェンス系のアイテム?」
『ん~んん~ちょっとばかり違うんだがなあ。こちらの世界にも、俺様みたいな存在が居るっていうのかい?そいつは興味あるねえ』
そんな風に喧々諤々に言い合う三人に向かって、遠慮がちな声がかけられた。
「え~と、ミス・ヴァリエール…その、《コントラクト・サーヴァアント》は無事済んだかねえ?」
「ミスタ・コルベール」
黒のローブに杖を持った、中年男性が立っていた。どうやら全力でこちらに駆けてきたらしく、禿げ上がった頭から盛大に湯気が舞い上がっていた。
「ふん」
鋼牙は鼻を鳴らすと、「ミスタ・コルベール」と呼ばれた相手に向き直った。
「ようやく、話が通じそうな相手が出てきたな」
そして、未だ呼吸も荒い相手に詰め寄るとこう、告げた。
「お前たちの最高責任者に会わせろ。さもなければ、大勢が死ぬ事になる」

トリステイン魔法学院の学院長室は、本塔の最上階にある。最高責任者への会見を要求した鋼牙は、その場所まで導かれた。
「貴方が、オールド・オスマンか?」
開けた扉の正面のデスクに、まっ白な髪とまっ白な髭に包まれた一人の老爺が座していた。年齢は分からない。何百年もそびえた古木のような雰囲気を漂わせている。その隣には細い眼鏡をかけた妙齢の女性が控えていた。
「俺の名は冴島鋼牙。ホラーを狩る魔戒騎士だ」
一応の礼を示し、自分から名乗りを上げた。だが再び顔を上げた鋼牙の眼は、相手を正面から見据えていた。
「不本意ながら、こちらの世界に来てしまった。どうやら俺は、そこのルイズという娘の『遣い魔』とやらにさせられそうになっているらしいな」
炯炯と光る眼差しが、好々爺然とした老人をねめつける。
「だが断る。下らないことに、この俺を巻き込むな」
「―!―」
なにやら背後でルイズが言いたそうに口を開くが、声を発する前にコルベールに押し留められた。
「……ふむ……」
ややあって、オールド・オスマンは小さくうなった。まっ白な髭を指先で弄り、ようやく目線を鋼牙にあわせる。
「これは、困ったことじゃのう」
眉と髭の間に隠された眼が狡知な輝きを放つ。
「困った?」
「ふむ。さよう」
オールド・オスマンは後ろ手を組み、窓へと歩んでいった。宙天に達した月を見上げつつ、呟くように言う。
「お前さんが異世界から来たという話は、おそらく本当じゃろう。身にまとう……そう、雰囲気と言うか気配と言うか、これはあきらかにハルケギニアのモノではない。おぬしも
そう思うじゃろう?コルベール君。“炎蛇”の二つ名は伊達ではあるまい?」
「は!」
オスマンの言葉に、ミスタ・コルベールはしゃちほこばって同意した。
「この者を最初に見たとき、あきらかに違和感を感じました。して言うならば、全く別のパズルの1ピースが紛れ込んだような…」
「そういうわけじゃよ。だからおぬしの話も信じられる。第一、『ほらー』とか言うたかの?あのような奇妙な幻獣は今まで見たことがない」
『そこまで理解できてるなら、話は早い。俺たちは奴らを狩るための存在だ。そこのお嬢ちゃんの召使いなんて務まるわけがない』
すかさず《ザルバ》が言い返すと。
「そうじゃ、そこなのじゃ」
オスマンは一指し指を立てると、「チッチッチッ」と言いながら振った。
「春の遣い魔召喚は、メイジにとって重要な儀式じゃ。召喚される遣い魔によって、メイジの属性が決まり、今後の専門課程が決まる。それが決まらん限りは…」
「そうですな。いつまで経っても、ミス・ヴァリエールは進級できないまま、留年と言う事になるでしょう」
オスマンの後を引き継いで告げたコルベールの言葉に、「本当か?」とルイズの方を見る鋼牙。ルイズは唇を噛み締め、コクン!とうなづいた。目頭にじわじわと熱いものがこみ上げてくるのが見て取れた。
…本来、彼女はこうした性格ではない。通常ならば、遣い魔になる事を拒絶する鋼牙にいろいろと文句をまくし立てるところだっただろう。だがあきらかに目上の者の前であり、しかもその相手が自分の言いたいことを言葉にしてくれる。そのことに召喚の儀式からずうっと緊張尽くしだった彼女の心の涙腺が緩んでしまったのだ。
「……」
あきらかに泣く寸前の少女の雰囲気に、ひるむ様子を鋼牙が見せた。その様を見て取ったオスマンがすかさず口を挟む。
「なあ、お若い騎士殿。そなたが使命とやらを果たす間だけでも、この子の遣い魔の振りをしてやってはくれんかのぅ?」

…結局、鋼牙は不承不承ルイズの遣い魔の『振りをする』ことに同意した。とは言え、遣い魔の機能である『主人の目となり耳となる』ことは言わずもがな、『主人の望むものを見つける』ことさえ鋼牙はできそうになかった(実際断固として拒否された)。
従って残る唯一の機能『主人を守る』ことに望みをかけられたが、鋼牙はそれすらもあっさりと断った。
「言っただろう?俺の使命はホラーを狩ること。お前の護衛をやってる時間なんてない」
そうして、自室に帰ろうとするルイズに告げた。
「お前は一人で帰れ」
すでに時刻は夜半を過ぎ、人々のほとんどが寝入っている。動く者の気配のない寮の入り口で、ルイズはギョッと鋼牙を見上げた。
「ど、どこに行こうっていうのよ?オールド・オスマンがちゃんと部屋を用意してくれるって約束したじゃない」
今頃は寮付きの使用人が、ルイズの隣の部屋を片付けているはずだった。
「まさか、この世界から…」
「何度も言ったはずだ。俺はホラーを狩る」
うんざりした顔で鋼牙は告げた。
「ホラーの活動は、闇の中に限られる。今の時間帯が、一番奴らが現われやすい。当然ソレを追う俺も今からが忙しい。そういうことだ。言っておくが、今日からしばらく、夜の間は外出するな」
そうして背を向け、闇の中に消えてゆく鋼牙。ルイズは、その後姿をギュッと唇を噛み締めて見送る事しかできなかった。

そうして、まんじりとせぬ夜が明けて今に至る。ルイズの「もう帰ってこないんじゃあ」という危惧はなんとか回避されたようだが、問題はまだ続いていた。
「一緒には、行けない?」
遣い魔として、主人の傍にはべるようにとのルイズの要求は無論即座に断られた。
「俺は疲れているんだ。眠い。子供の遊びに付き合ってなんかいられない」
そう言って、用意された自分の部屋のかぎを開けようとする。
その背中越しに聞こえてきたのは、低い嗚咽の声だった。
『おい鋼牙』
かまわずノブを回そうとする鋼牙を《ザルバ》が引き止めた。
『あんまりお嬢ちゃんを泣かせるもんじゃあない』
「…ならどうしろと言うんだ?」
ルイズに背を向けたまま、魔導輪を口元に寄せる。
「俺たちは異邦人だ。あまりこちらの世界の事情に立ち入るべきじゃあない。ホラーを倒した後は去る、それだけのことだろう」
『…情を移さないようにってか?それはお前の優しさかもしれないが、時として逆の結果を招くぜ。見てみろよ。お嬢ちゃんを』
言われて背中越しに視線を向ける。少女はうつむいて肩を落とし、スカートの端を握り締めて震えていた。
「なぜ泣く?」
ため息をつき、向き直った鋼牙にルイズはモゴモゴと呟いた。
「だって…やっと召喚した…遣い魔…誰にも馬鹿にされずに済むって、思ったのに…」
言葉どおり捉えれば、単純にミエのためだけに鋼牙を必要としているように思える。実際鋼牙も始めそう受け止めたが、《ザルバ》の説得で思い直した。
《ザルバ》は言った。
『このお嬢ちゃんのこだわり、何かあるんじゃあないかな?鋼牙。まだ俺たちはこの世界の事知らなすぎる。ちょ~とばかり付き合ってやっても、いいんじゃあないかね?』
「勝手にしろ」
鋼牙はルイズの方を向き直り、無愛想に告げた。
「そう言えば、朝食がまだだったな。俺を連れてゆけ」

結果として、ルイズの目的は果たされた。『アルヴィーズの食堂』に入った鋼牙とルイズに向けられた視線は、常日頃の侮蔑の感情を含んだものではなかった。むしろ日常に割り込んだ異物に対して、遠巻きに眺めて近寄らないようにしようとしている印象のほうが強い。
まあ、それも無理もないとは言える。いきなり召喚の魔方陣から現われ、悪魔と一戦やらかした挙句契約を拒んだのだ。そのような厄介な相手とは、あまり近づきになりたくないだろう。
オールド・オスマンの計らいで、ルイズと鋼牙並べて供された朝食のテーブルの周りには、人一人分の空白ができていた。
その中で黙々と朝食を口に運ぶ鋼牙。時折顔を上に挙げれば、目線が合わないよう逆に生徒達が顔を伏せる光景が目立った。
そしてルイズ自身は…。
(これが、アタシが望んだものなのかな?)
パンをもそもそと噛みながら、彼女は自問自答した。
確かに鋼牙という得体の知れない騎士を連れていれば、誰からも馬鹿にする様な視線を受けずに済む。だがこうした畏怖の眼差しもまた、自分の望むものではなかった。
彼女自身はただ、普通のメイジが受けるだけの眼差しと取り扱いを期待していたに過ぎないのだ。『ゼロ』と後ろ口を叩かれ、侮蔑の視線を受ける事がないような境遇に憧れていただけだった。
だが今受けている待遇はベクトルこそ違え、コレまで受けてきたものと本質的に違いがないように思える。
隣を見れば、遣い魔のはずの魔戒騎士は無愛想に食堂じゅうをねめつけていた。
こうして、遣い魔召喚後初めての食事の時間が過ぎた。
そして、次の始めての授業で鋼牙はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールのはらんでいる問題と、この世界に有る歪みを目の当たりにすることとなる。

教室の中は、奇妙な静寂に満ちていた。
遣い魔召喚の儀式の翌日である。
通常ならば、皆おのれの召喚した遣い魔たちの自慢話でにぎわうはずである。
だが、扉を開けてルイズが入ってきたことで、一気に静寂が広がった。
皆、ルイズを…正確には背後に立つ青年騎士を見ている。一部の隙もない動作でルイズに付き従う(ように見える)鋼牙は、まるでギャングの用心棒のようだ。
まあ、この世界にギャングがいるとは思えないが、ソレに似た存在は居るだろう。
鋼牙は、教室のあちこちに眼を遣った。皆、彼が居た世界にはいなかった様々な動物達をつれている。巨大なトカゲの類ならばまだ良いが、目玉だけが空中に浮いているのを見ると思わず牙狼剣を取り出しそうになる。
アレがホラーではなく、一般の生物として受け入れられる世界ならば、コルベールやオスマンの反応が鈍い事もうなづける。彼らにとっては、ホラーでさえも召喚の儀式で呼び出される幻獣と変わらないのだろう。
『全く、妙な世界に来ちまったな』
《ザルバ》のため息混じりの声が、今の鋼牙の心境を良く語ってくれている。
やがて教室の扉が開いて、一人の年配の女性が姿を現した。
「皆さん。春の遣い魔召喚は、大成功のようですわね。このシュヴルーズ、こうやって春の新学期に、様々な遣い魔たちをみるのが楽しみなのですよ」
紫色のローブをまとった、ふくよかな女性が教室のあちこちに眼を向ける。やがてその目線は、ルイズのところで留まった。
「おやおや、変わった遣いm…」
途中まで何か言いかけたが、壁に背をもたれさせた鋼牙が顔を上げた瞬間、声を詰まらせた。
「さ、さあ授業を始めましょう」
ヤバイ、アレハヤバイ。
抜き身の刃を突きつけられたような感覚に、ミセス・シュヴルーズは慌てて開いた教科書に顔を伏せた。

こうして、淡々と授業は開始された。
ミセス・シュヴルーズの語る授業内容を、鋼牙は興味を持って聞いていた。
ミセス・シュヴルーズによると以下の通り。
魔法には『火』『水』『土』『風』の四系統があり、それと喪われた『虚無』も加えると五系統となること。その内『土』は主として錬金の魔法で産業の根幹を支えている事…。
「…」
鋼牙は誤解していた。
ルイズを始めとしたメイジたちを、己の世界でもっぱら術を専門とする魔戎法師のようなものであると認識したのだ。それゆえに誤って、ホラーを召喚してしまったのだろうと。
実は、魔戒法師がホラーを魔界から召喚することは稀にだがある。例えば鋼牙と共に居る魔導輪《ザルバ》は、友好的なホラーが指輪に契約封印されたものだし、愛馬《轟天》も遠い過去、魔戒獣だったものを法師たちが御することに成功した存在である。
従って、ルイズが起こした現象を魔戒法師見習いのミスであったと考えてしまったのである。
理由のもう一つは、彼らの装束やまとった雰囲気だった。トリステイン学院の制服である、肩から羽織ったマントや杖、さらにあちこちに配された護符などが、魔戒法師のソレと良く似ていたからである。そう言えば、彼が召喚された草原や森はかって自分がレギュレイスと戦った《閑岱(かんたい)》の風景に良く似ている。

魔法が、ずい分生活に密着した技術であるか知って、鋼牙は失望のため息を漏らした。
どうやらこれでは、ホラーを追うのにメイジの力はあまり当てにならない。
いわゆる物理的な能力の行使では、ホラーにダメージを与える事はあまり有効ではないのだ。結界など、ある種空間と精神に作用を及ぼす術のほうがホラーへのダメージとなる。唯一例外なのは、魔戒剣による一撃である。『ソウルメタル』と呼ばれる物質で作られた剣は、ホラーを存在ごと打ち砕く事が可能である。
(まあいい)
鋼牙は、心の中で呟いた。
(動くのは自分だけでいい。今晩じゅうに片をつける)

授業はいつの間にか、『錬金』の実修へと移行していた。
「どなたか、私と同じように、ここにある石ころを望む金属に変えて御覧なさい」
石を真鍮に変えて、ミセス・シュヴルーズが見回した。
そのころには授業に興味を失った鋼牙は、顔をそらしていたため脅威にはならなかった。むしろ、先ほどの恫喝(と彼女はとっていた)を恨みに思う気持ちの方が強かったのだろう。懸命に耳を傾けていたルイズを見、彼女は名前を呼んだ。
「ミス・ヴァリエール」
「は、はい!」
「この錬金、貴女にやってもらいましょう」
「え、アタシ?」
ルイズは立ち上がらず、困ったように椅子の上で身じろぐだけだった
「ミス・ヴァリエール!どうしたのですか?」
「は、はあ」
ままよ!と言った表情で立ち上がる。通路側に出た後、背後の鋼牙の方へ一度振り向きかけ―ようとしてそのまま前へと進んでいった。
鋼牙はその間、何もせず腕を組み眺めていた。
『なんだか、流れが妙な事になってきてやしないか?』
前席の生徒が、ミセス・シュヴルーズにやめさせるよう説得しているのを見て、《ザルバ》が言った。
『まさか、またとんでもないことが起きるんじゃあ、ないだろうな?』
そして冗談めかした口調で付け加える。
『また、ホラーを召喚したりしたりしてな』
「冗談でも、そういうことは言うな」
腕組をして、正面を見つめて鋼牙。周囲の学生達が、次々と自分の机の下に隠れてゆく。ソレを認めて、《ザルバ》は声を震わせた。
『だがな、鋼牙。昨日今日思い返しても、お嬢ちゃんが魔法を使ってるのを見たことがないんだよ。それとゼロの二つ名。この世界はアレだろ?自分の特性に関連する事柄が二つ名になる。するとゼロの二つ名は…』
「ミス・ヴァリエール。錬金したい金属を、強く心に思い浮かべるのです」
シュヴルーズの言葉に、ルイズはこくりとうなづいた。唇を軽くへの字に曲げ、真剣な眼差しで呪文を唱え始める。
ソレを見たあちこちから「ひぎィ!」だの「ら、らめえ!」だのと悲鳴が上がる。
そして、ルイズは眼をつむり、短くルーンを唱え、杖を振り下ろした。
次の瞬間、二つのことが生じた。
まず、机ごと石ころが破裂した。中心部から青白い閃光を放ちながら、膨張した石の表面に亀裂が走り、さらに極小の欠片となって飛び散ってゆく。それらのある物は余りの高速のため、空中で加熱し燃え尽きていった。ここで0.75秒。
周囲に爆発的に広がる超高温のガスが、シュヴルーズとルイズに到達しようとする。ここで1.05秒。
一方、爆発を眼にした瞬間、壁にもたれていた鋼牙は身を起こした。全身を捻り、足に力を込めて床を蹴りつける。ここで爆発後0.86秒。
学生達がもぐりこんだ机の上を跳び、未だ杖を振りぬいた動作のままのルイズの前に着地、身を翻してルイズをコートでくるむようにする。ここで爆発後1.38秒。
さらに右腕でルイズの頭部を保護し、残る左腕を脇の下から後方へ突き出して叫ぶ。
「《ザルバ》!」
爆発後1.42秒で衝撃波と熱波が押し寄せ、鋼牙とルイズへと到達する。
凄まじい爆風にコートの裾が翻弄される。だが、本来ながらバラバラに引き千切れるはずのコートは鋼牙とルイズを良く守った。
そして―。
『kKKAAAaaaaッッ』
奇怪な唸り声を上げながら、《ザルバ》はその顎を開いた。すると、鋼牙とルイズに押し寄せた衝撃波が吸い込まれるように消えて行く。普通ならば人を撃ち、肉を削ぎ、燃やし尽くすであろう熱波はたちまち雲散霧消して果ててしまった。ここで1.55秒。
教室の中は静まりかえり、誰も身動き一つしようとしない。
「…ぁ」
ここで何が起きたかようやく気付いたルイズが、鋼牙の腕の中で身じろぎした。小さく眼を瞠り、自分をかばうように立つ青年騎士を見上げる。
(アタシを、助けてくれた)
『プファァ』
そんな緊張感を台無しにするような声が、鋼牙の左掌から聞こえてきた。
『すごい爆発だったあ。まあだ腹の中がゴロゴロするぜ。お嬢ちゃん。あんたすごい魔法使いだったんだなあ』
開いた口の中からゲップとともに煙を吐き出しながら、《ザルバ》は告げた。
そして、これにより緊張から開放された教室が一挙に沸き立った。
「だから言ったのよ!あいつにやらせるなって!」
「もうっ!ヴァリエールは退学にしてくれよ!」
「また失敗か!魔法の成功確立ゼロのルイズ!」
口々にまくし立てるクラスメイト。その言葉が放たれるたびに、腕の中のルイズの身体が震えるのを鋼牙は感じていた。
(魔法の成功確率、ゼロか―)
爆発の直前、《ザルバ》が言っていたことを思い出す。
(もう、いい加減にしろ)
未だ一方的に放たれる、罵詈雑言の集中砲火に鋼牙が切れかけたときだった。
腕の中の少女の震えが止んだ。ついで頭をもたげ、昂然と胸を張る。両腕に力を込めて鋼牙から身を放すと、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールははっきりとした口調で言った。
「なによ!ちょっと魔法を失敗しただけじゃないっ!」
「お前の場合、ちょっとじゃあ、ないだろうっ!」
またもや放たれる罵詈雑言に、ルイズは挑みかかるように顔を上げ続けた。いつまでも、いつまでも上げ続けた。
『ところで鋼牙、先生はどこに行った?』
「ん?」
見回せば、教卓を挟んで反対側。《ザルバ》による爆炎吸収ができなかった方向に黒焦げのミセス・シュヴルーズは倒れ、小刻みに痙攣を繰り返していた。

夕刻の薄闇の中を、二騎の馬はだく脚で駆けていた。
ラ・ロシェールの森の中である。
休日に当たる“虚無の曜日”ともなればトリステイン市民が集う観光地だが、平日の夕暮れともなると訪れる者は誰もいない。せいぜい、おおっぴらに逢引できない男女くらいか。
この二騎もご多分に漏れず一方に少年、もう一騎に少女を乗せていた。
その内少年の方、黒のマントを羽織った金髪の少年が呼びかける。
「ほら!もうすぐだよ!あれが黒石の塔だ!」
少年が指差す方向には、高い尖塔がそびえ立っている。高さは10メイルほど、先端が尖っており、底側に行くほど広がる四角い台状になっている。漆黒の素材で造られ、表面は鏡のように磨き上げられていた。
すなわち、無垢の黒曜石を磨き造られた、オベリスク型の尖塔である。
いったい、いつ造られたのか、誰がここに置いたのかは誰にもわからない。ただ、森の最深奥にある塔の周りに近づく者は、滅多にいない。それゆえに、逢引の場所としては絶好の場所であると少年は踏んでいた。
まあ、ぶっちゃけ言うならば、あまり雰囲気の良くない場所ゆえに少女が心細さを増し、自分に対する密着度合いが増すというただそれだけのことなのだが。
ちなみにこれは気の弱い相手にのみ効く手段で、気が強い相手の場合は「何この場所、センス悪いわね。最悪よ。じゃあまたね」とさっさとこの場所から離れていってしまったが。
だからこそ、今回は人選を慎重に行なったのだ。
「あ、あの、ギーシュ様」
茶色のマントに茶色の髪の少女は、心細そうに寄り添った。
「ここが、本当に良いところなのですか。少し、怖いのですけど」
「大丈夫。心配いらないよ。僕がついている。それにこれだから良いんじゃあないか」
「え?」
「ここなら、だあれも来ないよ。ずっと、ずうっと二人きりだ」
ギーシュと呼ばれた少年は、震える少女の身体に腕を回し、引き寄せた。
「あ」
背中と、背後の微妙なところを掌で包まれて、下級生の少女がうろたえた声を上げる。
「僕に全部任せるんだ。力を抜いて。ねえ。誰だって、初めては怖いものさ」
そう言いつつスカートの裾をたくし上げ、指を侵入させてゆく。
「大丈夫。僕の心の中に住んでいるのは、君だけだよ」
その言葉がとどめとなったのか、少女の身体から力が抜け、少年に身を任せた。
その様子にほくそえみ、柔らかな草の褥に少女を、彼―ギーシュ・ド・グラモン―は組み敷いた。

ようやく昇り始めた月の下に、二人の男女が横たわっている。
草いきれに包まれたその身体は、あちことがしどけなくはだかれていた。
その内少年のほうが上半身を起こし、月明かりに照らされた相方を見る。
「…」
いとおしむような眼差しとは裏腹に、心中ひそやかにほくそえむ。
(やあっぱり、新入生の子は初心で言いネエ。これが一年の間になんであんなにスレまくるのやら)
自分の周囲に居る女子生徒を思い出し、心の中で嘆く。
(淫乱やら冷血やら凶暴女やらゼロやら、ひょ~として僕の年代は大はずれだったのかもしれない)
クラスの中の誰彼の顔を思い浮かべ、思わず苦笑いする。
「ギーシュ様?」
気付けば、隣で寝ていたはずの女子生徒が顔を上げていた。
「何をお笑いですの?何か可笑しな事がありましたかしら?」
そこでハッ!と気付いたように。
「まさか私、涎とか歯軋りとか…あのあの、下品な事しちゃいました?」
「違うよ」
笑みを深くしながらギーシュ。
「思い出し笑いさ…昨日の召喚の儀式のね」
微妙に苦笑した理由をすり替えつつ、傍らに寄り添う。
「昨日、“平民”を召喚した奴が居てね。一年でも有名だろう?魔法の成功確率ゼロの…」
「ヴァリエール様のことでしょうか?なんでも騎士様を召喚したとか」
「騎士なのかねえ、アレが。僕が見るところ、どこかの傭兵をゼロのルイズが連れてきてごまかしたとしか考えられないよ。あらかじめ魔方陣の辺りに忍ばせていたんだろう」
相手の声に微妙に賞賛の響きが混じってるたことに気付き、ギーシュは声を荒げた。
「ギーシュ様、何をお怒りになってますの?」
「え、いや、まあ」
少女になだめられて、ギーシュは気を取り直す。
「私、お花畑に行ってきますわ」
ギーシュの様子にクスリと笑みを漏らすと、少女は立ち上がった。股の間がこすれるのが痛いかのような、微妙な歩き方だったが。
その背中を眺めながら、ギーシュは(放尿プレイなんて…いいかも)などと考えていた。
だが―。
「!」
背後のオベリスクから物音が聞こえて、ギーシュは表情を一変させた。
「そこ、誰かいるのかい?」
『…』
当然、返事はない。だが闇の中、確かに“ナニか”の気配は居る。
けしからん、とギーシュは思った。覗き目的の誰かだろう。それに先ほどからの少女との一部始終を見られたのだ。誇り高きグラモン家の息子が、情事を覗かれていた。これほどの恥辱はない。
「貴族の睦みごとを覗こうなんて、ずい分と呆れた奴だ」
すでに怒りは沸点を越えて、体内を熱く焦がしている。
『gi…』
月明かりに照らされて、オベリスクの台座から長く影が尾を引いている。気配の主はそこに居ると、ギーシュは見当をつけていた。
「これは、罰を与えないといけないねえ」
杖を掲げ、おのれの得意な『錬金』のルーンを唱えようとして―。
いきなり、影が立ち上がった。
「ひ?」
まるで膨張するように、足元の影から腕が伸びて彼の脚を捕まえる。強い力で引かれて、思い切りその場に倒れ込んだ。
「な!」
ギーシュは、慌ててその場所から逃れようとした。倒れた体勢のまま、腕を振り回して抵抗する。だがその腕に、脚に、腹に、胸に、首に、顔にオベリスクの影から伸びた幾つもの幾つものが腕が絡みつき、影の方向へ引きずりこもうとした。
―生白い、表面に無数の刺青が描かれた女の腕に。
「くそっ!馬鹿なっ!こんなっ!」
……もはや、杖を振る余裕もルーンを唱える時間もありそうになかった。
「誰か!ダレカ!だれか!」
涙を浮かべながら、ギーシュは顔を上げて―。
『GYaaaRuufaa』
おのれを覗き込む、『悪魔』の顔を見た。
「う、わああああああああっ!」
もはや、恥も外聞もなかった。おのれを襲う理不尽に悲鳴を上げ、助けを求めようとする。
だが叫び声は、唐突に遮られて停まった。
「か…あ…」
闇の中持ち上げられた自分の身体。複数の腕に拘束されたソレを貫くモノ。
悪魔の臀部から伸びた尻尾が前へと回り、ギーシュの身体を股間からまっ直ぐ垂直に貫いていたのだ。
『AaaaYuuuuuR aaa』
自分と向かい合った、『悪魔』の顔がニタリと笑う。悪魔が顔を近づけるのを見ながら、ギーシュの意識は闇に包まれた。

「あら?」
離れた森の影で用を足した少女は、オベリスクの近くまで来て足を停めた。
その場所で待っているはずの相手が何処にも居ない。
「ギーシュ、様?」
いぶかしみつつ、さらに足を一歩踏み出しかけて。
「やあ」
「きゃあ!」
オベリスクの向こう側から現われた人影に悲鳴をあげた。
「あ、ああ……ギーシュ様!ん、もう!ひどいです!驚かすなんて!」
涙目になりながら、少女は想い人のところまで駆けてゆく。
「ごめんごめん。僕もちょっとばかり用があってね」
「何ですの?ソレは」
見れば奇妙な円筒状の物体を小脇に抱えている。漆黒の、禍々しいレリーフが描かれたソレに引き気味の少女に、ギーシュは「たいしたものじゃあ、ないよ」と告げた。
そして円筒を脇に置いて再び腰を下ろし、「おいで」と少女を招く。
「え…もう一度?」
顔をまっ紅にする少女に、うなづき返すギーシュ。
「うん。君が欲しいんだ」
うながされ、恥じらいつつも少女は傍らに侍る。再び抱きしめられ、ゆっくり押し倒されつつ彼女は眼を閉じた。
だから、わからなかった。
少女の上に身を乗り出したギーシュの眼が、獣のような光を放っていることを。
顔をまっ赤にして、眼をつむったまま唇を突き出した少女の上に、かぎ爪を生やしたギーシュの腕が伸び―。
振り下ろされた。
宙天より傾き始めた双月の下。
ラ・ロシェールの森の奥で小さくくぐもった悲鳴が上がり、やがてそれは肉を引き千切るような音へと変わっていった。

                               第2話 双月 終了


流れ落ちる涙 抑えきれずに
君は素顔の弱さを 初めて見せた
悲しみはいつか消せるはず
僕はあきらめず 愛を伝えてゆく
全てをなくしたこころが もう一度
夢を見ることができるように
僕が愛を伝えてゆく

~予告~
ザルバ『決闘って言うのは、古来から騎士同士の神聖なる権利だったらしいな。だが相手がホラーじゃあちいっとばかり勝手が違う。むろん、我らが魔戒騎士は臆したりしない。次回『決闘』。鋼牙、メイジの力に気をつけろ!』

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