あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

第9話『妖魔』


『破壊の杖、押収いたしました 土くれのフーケ』
壁の痕跡から、犯人がフーケである事は間違いなかった。

「壁の点検係は誰だ!?」
「昨日の当直はどなたです!?」
「衛兵は何をしていた、所詮平民か!?」

魔法学院の宝物庫から宝が盗まれる。
前代未聞な緊急事態に会議が行われていた。
しかし、お互い責任のなすり付け合いで事態が進展する気配はない。

ルイズ達も目撃者となった為に、会議室へ呼ばれている。
アセルスは今すぐにでも目障りな連中を消してしまいたかった。
実行しなかったのは、隣で拳を強く握り締めるルイズの姿が見えたから。

彼女に取っても目の前の光景は、堪え難い苦痛だった。
自身が理想とする貴族は生徒どころか教師にすらいない。
現実をまさに今、ありありと見せつけられた。

タバサはいつもの無表情だが、キュルケも呆れた表情を隠そうともしない。
彼女の二つ名『微熱』など、些かも感じさせない冷めた眼で会議を見ている。

当直だった教師が判明すると、教師達は一斉に矛先を向けた。
堪忍袋の緒が切れかかったルイズだが、彼女より早く叱責する者が現れる。

「みっともない真似はやめんか、馬鹿者」
扉から現れたのは、学院の最高責任者オールド・オスマン。
学院長の到着と同時に、場は水を打ったように静まり返った。

「議題は責任者探しなどではなく、盗まれた宝物をどう取り返すかではないかの?」
オールド・オスマンの問いに誰一人答えようとしない。
しばらくの沈黙の後に、コルベールが口を開いた。

「王宮へ連絡して、討伐隊を派遣してもらうのは?」
「遅すぎる、王宮への連絡までに逃げられてしまうじゃろ」

「討伐隊を結成しても、逃亡先が不明では追いかけようがありませんが……」
二人のやり取りを聞いていた別の教師が意見を述べる。

「お主達はフーケの姿を目撃したとの事。
その時に見た状況を説明してはくれんか?」
オールド・オスマンはルイズ達に状況の説明を求めた。

「街から戻る際に巨大なゴーレムが学院から立ち去る姿が見えました。
アセルス曰く、筒状の『大きな包み』を持ち去って飛び降りたそうです。
残念ながら、人影がどこに逃げたのかまでは分かりません」
ルイズが代表して答弁する。

「なんだ、それでは手がかりにならんではないか」
説明を受けた教師の一人が愚痴を零した。

「……申し訳ありません」
言葉こそ丁寧だが、その口調は心底冷たかった。
キュルケがルイズから向けられた悪意を思い出すほどに。

「よさんか、わざわざご足労じゃった……」
オールド・オスマンが労いの言葉を終える前に、部屋に飛び込んできた人影。

「すみません、遅くなりました!」
「会議はもう始まっておりますぞ、ミス・ロングビル!何をしていたのですかな?」
大量の書類を抱えたロングビルは叱責にもひるむ事なく、調査報告を読み上げる。

「フーケの逃亡先に関して、今朝から調査しておりました」
「ほう、流石仕事が速いのう。して、何か手がかりは掴めたかね?」
オールド・オスマンが続きを促す。

「はい」
ミス・ロングビルの返答に会議室がざわめく。

「西に4時間ほどの小屋付近で黒ローブ姿の男が目撃されました。
長い包みを持っていたという証言から盗まれた『破壊の杖』の特徴とも一致します」
「なんと!?」
コルベールが驚愕の声を上げる。

「道案内は頼めるかね?ミス・ロングビル」
「勿論です」
即座の肯定に、オールド・オスマンは声を響き渡るように軽く咳払いをする。

「ここに土くれフーケの討伐隊を結成する!志願するものは杖を掲げよ!!」
教師達は誰も杖を掲げない。
皆一同に顔を見合わせるだけだった。

「なんじゃ?土くれのフーケを捕まえようという者はおらんのか!」
先程までのざわめきが嘘のように静まり返っている。
やがて、室内の沈黙を破るように一本の杖が掲げられた。

「ミス・ヴァリエール!貴女は生徒ですよ!?」
「第一、君は謹慎処分の最中ではないのかね?」
教師達が次々に非難の声をあげるも、ルイズは声を荒げて反論する。

「誰も杖を掲げないじゃないですか!」
ルイズの正論の前に教師達は押し黙るしかない。
するとルイズの横からもう一人、杖を掲げる者が現れた。

「ミス・ツェルプストー!君まで……」
「ヴァリエールには負けられませんもの」
キュルケが杖を掲げたのを見て、タバサも杖を掲げる。

「タバサ、無理につきあわなくてもいいのよ?」
「心配」
素っ気ない一言だが、親友の心遣いがキュルケには嬉しかった。
教師達は生徒のみである事に不満を漏らすが、決して自ら動こうとしない。
ルイズ達の身を案じている訳ではなく、もしもの時に責任を負いたくないだけなのだ。

オールド・オスマンは、彼らの浅ましき胸中など見抜いている。
タバサがシュバリエの称号を持つ事、キュルケもトライアングルのメイジである事。
そしてルイズの使い魔が妖魔である事を持ち出し、場を説き伏せる。

「諸君らの活躍に期待する」
「杖にかけて!」
こうしてルイズ達による土くれのフーケ討伐隊は結成された。



「でも、どうやってフーケは宝物庫の壁を破ったのかしら?」
馬車に揺られながら、キュルケが疑問を口にした。
手綱は場所を唯一知っているミス・ロングビルが握っている。

「考えられるのは、固定化の老朽」
タバサが本に眼を向けたまま、答える。

「厳重な固定化をかけていたはずだから、フーケでも簡単に崩せるとは思えないものね」
タバサの推測にルイズも同意した。
本人も知らないが、壁を破壊された真因はルイズにある。

ルイズが深夜、魔法の練習を行っていた頃。
狙いが暴発した際、宝物庫の壁に亀裂が入った。
練習のみに集中していたルイズは、暗さもあって傷を見落としていた。

今朝、宝物庫の下見に来ていたロングビルが壁のひび割れを発見。
厄介者だった使い魔もルイズと街へ共に出かけたと聞いて、フーケの本性を現したのだ。

最も、誤算が生じた所為で学院に戻らざるを得なかった。
誤算が更に重なったのは、教師達が誰一人着いてこなかった事。
盗んだ宝の使い方を知りたかったのだが、彼女達生徒が知っている可能性は低い。

教師達がここまで腰抜け揃いだったのも想定外ではあった。

胸中で軽く舌打ちする。
運が向いてきたと思いきや、何かズレている。
こういう時は、得てして何をやってもうまくいかないものだ。

ロングビルは最大の懸念、アセルスへ視線を向ける。
アセルスは無言のまま、ルイズの傍らで剣を二本抱えていた。

「老朽化起きるまで点検してなかったり、宿直サボってたりしっかりして欲しいわ」
キュルケの愚痴に、ルイズは会議室での様相を思い出す。
個人的な好き嫌いは別として、ルイズは教師達に敬意を払っていた。

今では欠片も残されていないが。
責任のなすり付け合いを行う彼らの姿を、ルイズは貴族と思えなかった。

「ルイズ、どうしたのよ?」
ルイズの変調に気づいたのは、やはりキュルケ。
討伐隊の任務を率先して立候補した姿は、まぎれもなく普段通りのルイズだ。

本来ならば必要以上に気負ってしまう性格でもある。
今のルイズはどこか上の空で、気負うどころか緊張感すら伝わらない。

「なんでもないわよ」
「しっかりしなさいよね、こっちはあんたに巻き込まれたんだから」
キュルケがルイズを煽るように、大仰にため息をついてみせる。

ルイズは何も答えず、外を見つめる。
決闘の時のように悪意を向けている訳でも、いつもの様に言い返すでもない。

「ちょっと、本当に大丈夫なの?」
ルイズの反応がない為、心配そうに尋ねてしまう。

「大丈夫よ、思うところがあっただけ」
ルイズが考えていたのは、貴族に関して。

規律を重んじる。
自らと他者の名誉を守る。
この二つが模範的な貴族像と言えるだろう。

家族は間違いなく当てはまる。
母親に関しては鉄の規律として、国内外に知られる厳格な人柄だ。
父や一番上の姉も同様だし、優しい次女の姉も芯は強い人だと分かっている。

では家族以外ではどうか?
ルイズの専属メイドでもあるシエスタから様々な貴族の話を聞いている。
評判のいい貴族と言うものは、彼女の話には存在しない。

以前、シエスタを無理にでも学院から引き抜こうとする貴族がいた。
シエスタを舐め回すような目線、下衆な目的だったのは容易に想像できる。
自分の専属メイドだと告げると、ルイズに媚び諂うように言い訳を述べて去っていった。

家族以外で立派な貴族を見た覚えがない現実。
責任を果たすべき立場の貴族が、責任逃れに終始する姿。
そんな不品行は、世間知らずの少女を落胆させるのに十分すぎた。

「貴族って何なのかしら……」
ルイズは独り言のつもりだったのだが、キュルケには聞こえていた。
彼女が落ち込んでいるのは、先ほどの会議室での教師達が原因だと納得する。

ルイズは貴族としての建前すら厳守する気高い性格だ。
だからこそ、先ほどの教師の醜態に落ち込んでいるのだろう。

「今はフーケの討伐に集中しときなさいよ」
相手はトライアングルのメイジなのだ。
気を抜いたまま、戦闘になればルイズの身が危うい。

「分かってるわよ」
キュルケの言い分も正論だ。
ルイズは請け負った任務、『破壊の杖』奪還に集中した。



──ロングビルの案内で、森を歩いたしばらく後に小屋が見えた。

「あの小屋ですわ」
廃墟らしき建物に、人が住んでいる気配は感じない。

「私が見てくるから、ここで待っていて」
アセルスを振り返った時、すでに姿が消えている。
代わりに小屋の窓から、アセルスの姿が確認できた。

「え?」
ロングビルが間の抜けた声を上げる。

「アセルスは一定の距離なら自由に移動できるそうなんです。
他の妖魔よりは距離が落ちるらしいんですけど」
ルイズが説明すると、一同は驚いた表情を浮かべた。

「メイジにとって、恐ろしい能力ね……」
キュルケの呟きにロングビルは内心で同意した。

戦闘による魔法の優位は、遠距離からの攻撃だ。
呪文を詠唱する隙がなければ、魔法は発動できない。
平民でも至近距離で戦うのなら、メイジに勝てる可能性は高くなる。

別の機会を窺うか。
命あってのもの種だとフーケが諦めかけた時、突如現れたアセルスに驚愕する。

「小屋の中にあったのは、このケースだけ」
アセルスが取り出した、2メイルほどある木箱。
裏に魔法学院のサインがあるので、盗まれた物に違いないだろう。

「中身は?」
「確認してない、何が盗まれたか知らないからね」
アセルスは『破壊の杖』を見ていない。
中身が本物かどうか、判断しようがなかった。

「罠はない」
箱を受け取って、確認していたタバサからの報告。
中身を確認するべきではないかとロングビルの意見に全員が賛同する。

「開けてみるわよ」
学院の宝に興味があったのか、キュルケが率先して箱を開ける。

「……これが破壊の杖?」
キュルケも実物を見たことがない。
だからこそ、杖と言われても判断し損ねた。
彼女には金属質な奇妙なオブジェにしか見えない。

本体は杖というよりは筒に近い。
少なくとも中心部分を手に持つには太すぎる。
重量も相当だ、普段から携帯できる軽さではない。
ディテクト・マジックを試してみたものの、魔力も感知できない。

「ええ、間違いないわ」
ルイズは破壊の杖を閲覧したことがある。
タバサも同様でルイズの言葉に、頷いて肯定する。

「ハイペリオン……」
アセルスの呟く声に、一同が注目する。

「知っているんですか?」
ロングビルが身を乗り出して、質問する。

「杖なんかじゃないわ、陽子ロケットっていう強力な大砲よ」
「大砲……にしては小型過ぎない?」
アセルスの説明に、キュルケが首を傾げる。
国柄ルイズ達よりは火器に詳しい自負があるも、このような大砲は知識にない。

「私が元いた所にあった武器よ……なぜここに?」
アセルスがこの世界にいるのは、ルイズに召喚されたからだ。
同じ方法だとしても、無機物を召喚するなどありえるのか疑問が浮かぶ。

「どうやって使うんです?」
「蓋を外して、引き金を引くだけよ」
不可思議に思考が囚われていたアセルスは簡単に答えてしまう。

「へえ、そうかい」
ロングビルの口調が変わった。
ルイズ達が驚いてロングビルへ顔を向けると、蓋を外した破壊の杖を構えている。

「ミス・ロングビル、一体何を!?」
唐突なロングビルの行動に、ルイズ達の思考が追いつかない。

「……ロングビルが、土くれのフーケ」
状況を理解したタバサが呟く。
ルイズとキュルケがタバサの方を振り返った。

「おっと、杖を向けるんじゃないよ。
そうさ、お宝を盗んだはいいけど使い道が分からなくてねえ」
破壊の杖は、大規模な爆発を巻き起こす噂を聞いていた。
フーケは巻き込まれないよう、ゴーレムを生み出すべく詠唱を行う。

「動くんじゃないよ、特にそこの妖……魔……!!」
声が途切れたのは、妖魔の姿がすでに消えていたからだ。

体中から血の気が失せる。
本能が警鐘を鳴らしていた──今すぐ離れろと。

攻撃を避ける事が出来たのは全くの偶然。
動こうとして、足元の木の枝に躓いたのだ。

近くの木を薙ぎ倒すものの、アセルスの幻魔は宙を斬る。
その間にゴーレムを作り出して、肩からルイズ達を見下ろす。
運に助けられたフーケは、アセルスの空間移動の特性を掴んだ。

「どうやら一瞬で移動できるって訳じゃなく、少し時間がかかるようだねえ!」
大量の冷や汗を流しながらも、フーケは胸を撫で下ろす。

空間移動が、万能ではないと判明した大きな優位。
破壊の杖の使い方を知った今ならば、勝算があると感じていた。

「まとめてあの世にいきな!」
引き金を引くと同時に、轟音が起きる。
放たれた陽子ロケット砲が、ルイズ達を目掛けて飛来した。

アセルスは宙に飛ぶと同時に、ルイズ達をかばうべく剣で砲弾を受け止める。

その刹那、全てを飲み込む爆発が起きる。
ルイズが唱える失敗魔法とは比べ物にならない規模。
その場にいた全員が爆風によって、身体を木や岩に叩きつけられる。
タバサの使い魔である風竜も空から近寄ろうとしていたのだが、熱風に上空へ吹き飛ばされていた。

「きゅい!お姉さま!?」
禁じられていたのだが、つい叫び声をあげてしまう。
声を聞かれる心配はなかった。
炎が爆ぜる音にかき消されてしまったからだ。

「う……」
最初に起きたのはルイズ。
胴体を打ち付けた為に、痛みはあるものの意識ははっきりしていた。

眼前の光景に唖然とする。
焦土と化した大地、炎と黒煙が吹き荒れる景色はまるで戦場のようだった。

「あ……あ……」
体の震えが止まらない。
爆発の直前、アセルスが取った行動を回想する。
彼女は自分達を庇うように……砲弾に飛び込んだ。

「アセルスーーーーーーーー!!!!」
少女の悲鳴に答える者はなく、森に響き渡る。
声で意識を取り戻したのは、皮肉にも土くれのフーケだった。

「ふ……あははは!これほど凄い武器だったとはねえ!」
フーケが思わず笑う。
自らのゴーレムも妖魔も一瞬でかき消された。
まさに破壊の杖の名に相応しい威力と言えるだろう。

空中で爆発が起きたにも関わらず、大地は地獄絵図のような炎で包まれている。
破壊の杖──ハイペリオンと呼ばれる兵器は、太陽に冠する神話から名付けられた。
アセルスのいた世界においても最高峰の火力を誇り、弾丸は熱以外に衝撃を撒き散らす。

もう一度ゴーレムを作る余力は残っている。
再生させるとなれば厳しいが、最大の障害だった妖魔がいなくなった。
残ったのは生徒達も爆風には巻き込まれていた以上、怪我を負っているはずだ。

ゴーレムを生み出して、再び肩に乗る。
炎による熱気が凄まじいが、上空でないと姿が視認できない。

巨大なゴーレムが、炎を踏み分けて前に進む。
足元にいたルイズには、まるで世界の終末に見えた。

いや、終わってしまったのだ。

アセルスに恥じない貴族となる。
生まれて初めて持った目標も希望も、もうルイズにはない。

「フレイムボール!」
ルイズが唱えたのは魔法。
失敗による、爆発が巻き起こる。

「フレイムボール!フレイムボール!!フレイムボール!!!」
自分が抵抗できる唯一の手段。
狙いも定まらない爆発だけだが、それで構わない。
何度か唱えた呪文の一撃は、ゴーレムの表面を抉り取る。

フーケを討つ。
それ以外、ルイズは考えていなかった。

一方、フーケとしても爆発は厄介なものだった。
普段であればゴーレムを再生させるだけだが、残された魔力は少ない。

破壊の杖を使うかと考えるも、大砲なら弾が必要のはず。
盗んだ目的はあくまで金、売りつける事を考えれば無駄撃ちは避けたい。

「仕方ないねえ」
最後の魔力をつぎ込むと、ゴーレムの表面が鉄で覆われる。
そしてルイズに向けて、拳を振り下ろした。

──次に意識を取り戻したのはキュルケだった。

彼女は目覚めてすぐ後悔した。
無謀にもゴーレムに立ちはだかるルイズの姿。
助けようと身体を動かすが、足に力が入らない。
次に叫ぼうとしても喉が涸れて、呻くだけが精一杯だった。
友人と思っていた少女が蹂躙されるのを、見つめるしかない己の無力さ。

始めて気付く。
ルイズはこの何も出来ない絶望感を日々抱いていたのだと。

「ルイズ……!」
血が吐き出されるのも構わず、キュルケは精一杯叫んだ。



ルイズの世界は静かだった、これが走馬灯なのだろうか。
ゴーレムの腕が迫ってきているのに、時間がゆっくりと感じられる。

誰かに呼ばれた気がして視線だけを脇に向ける。
そこには、憎んでいたはずの相手が泣き叫ぶ姿だった。

「なんて表情してるのよ、ツェルプストー」
そう思ったが、声が出ない。
彼女が何故泣いてるかはすぐ理解できた。

──あぁ、そうか。私死んじゃうんだ。

恐怖は一切なく、虚しかった。
煤けた頬に一粒の涙が流れ落ちる。
何者にもなれなかった自分、何も出来なかった人生。
最期ならば、アセルスの姿をもう一度見たいと願った。



「ルイズ、大丈夫かい?」
ルイズの願いは叶う。
ゴーレムは切り崩され、止まっていた少女の刻が元に戻る。

「……アセルス?」
ルイズの前に立っていたのは、確かに彼女だった。

「ゴメン、遅くなった」
ハイペリオンの砲弾と爆発を受けたが、死んでなどいない。
爆風により森の外まで吹き飛ばされた後、アセルスはルイズ達を探していた。

空間移動を使わなかったのは、炎でルイズ達の居場所が掴めなかったから。
少し考えていれば、炎の中心地にいると分かるはずだがアセルスも焦っていた。

爆発魔法を見て、ルイズの無事を確認。
安堵するのと同時に、冷静さを取り戻す。
空間移動を試みて、今ルイズの前に現れたのである。

「化け物……!」
アセルスの存在に驚いたのはルイズだけではない。
フーケも信じられない光景を前にして、腰を抜かす。

戦艦すら落とせるだろう規模の爆発。
最も被害を受けたはずのアセルスが生きていた。
更にゴーレムの一撃を受け止めると、剣で粉々に砕かれた事実。

アセルスはゆっくりと、フーケに歩み寄った。
魔力は先ほどのゴーレムで、使い果たしている。

『エルフ程度じゃ間違いなく太刀打ちできんじゃろ』
オールド・オスマンの言葉が浮かぶ。

──殺される。
嫌だ、私はまだ死ぬ訳にはいかない。

「うあああああああ!!!」
破壊の杖を再び構えると、迷うことなくトリガーを引いた。
距離が近く、爆発が飛び火する危険性があるのだが考える余裕はない。

だが、砲弾は放たれなかった。
カチッという乾いた音を立てたのみ。

「どうして!?」
何度も引き金を引いても、やはり何も起きない。

「弾切れ……」
誰に向けた訳でもない、ルイズの独り言。
破壊の杖、ハイペリオンの装填数はわずか二発。

フーケが撃ったのは一発、残りは前の持ち主が使っていたのだろう。
アセルスだけが事実を認識していたが、彼女にはどうでもいい話でしかない。

「捕らえた」
アセルスの一言は、フーケからすれば死刑宣告にも等しい。
左手で首を掴むと右手の剣を水平に構え、胸の中心部に突き刺す。

「が……あ……あ!」
幻魔を引き抜こうと、フーケは必死に手を伸ばすも空を切る。
アセルスは突き刺したまま力を込めて、身体を引き裂こうとした。

「アセルス、殺してはダメ!」
ルイズが叫ぶと同時に、アセルスの動きが止まる。
剣を引き抜くと、痛みと失血からフーケが意識を手放す。

「ごめん……テファ…………」
フーケの擦れた声が届いたのはアセルスだけだった──


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