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Mission 26 <迷える蒼き馬> 前編



気がつけば見知らぬ場所に立っていた。
そこは遥か昔に駆け回った風景とよく似ていた。緑豊かな大地、彼方に霞んで見える山々……。
何より千数百年ぶりに目にする蒼穹の空が懐かしかった。あれからずっと地の底に封じられた塔の中にいたのだから。
かつては多くの英雄達を乗せて駆け抜けてきた戦場、いつの間にか迷い込んだ魔界などとは違う清々しい空気だった。
肉が焼け焦げる匂いも、咽返りそうな血の匂いもしない。幼き日はこのようなのどかな場所を人間達の世話を受けながら育てられた。
だが、今の己にとってはこのような平和など退屈でしかたがない。
一度味わってしまった血みどろの戦場での空気、熾烈極まる過酷な戦いの日々。
そして、新たな故郷となった魔界の瘴気。それがここにはない。
己が求めるのは、修羅の一刻。戦いの場、力ある強者のみである。
だからこそ、己の力とこの足で探し求めるのだ。

――ヒヒィーンッ!!

精悍な巨体と前足を持ち上げ、一頭の巨馬は力強く嘶いた。
頭上に広がる蒼穹の空よりも蒼ざめた炎を身に纏い、己の巨体に匹敵する馬車を引き、誇り高き勇猛な〝妖蒼馬〟は駆け出した。
己をも超えん、強者を求めて。


魔法学院において、その日の正午はいつになく盛り上がっていた。
正門前から本塔まで続く広場には多くの生徒達が集まっており、これから始まる余興に皆、期待を高まらせている。
生徒達が見守る中、二人の男女は互いに10メイルほど距離を取ったまま向かい合っていた。
その一人、ギーシュ・ド・グラモンは造花の杖から落とした花びらをいつのものように剣に変え、握り締めた。
相対するタバサは愛用の節くれだった杖を手にして静かに棒立ちで佇んでいる。
一年前、この学院に入学した際にも彼女はとある事情により決闘を挑まれたことがあったが、その時は決闘相手だった生徒をほとんど無視するような態度で軽くあしらってやった。
だが、今は違う。相変わらずの無表情ではあるが、視線はその時とは違いしっかりとギーシュを視界に捉えて見つめている。
ギーシュはスパーダに鍛えられたおかげで、相当に剣の腕を上げている。自分と二人がかりだったとはいえ、彼はワルドにある程度善戦したのだ。
タバサとしては自身の力を更に高めるにあたってはギーシュは練習相手として不足はないだろうと判断していた。だからこそ、彼との手合わせを了承したのである。
本来、貴族同士の決闘は禁止されているのだがこれは別に本気の決闘ではない。あくまでもお互いの力試しのようなものだ。
教師達に咎められた際、ギーシュがそのように告げることでこうして手合わせが実現したのである。

二人はちらりと、本塔の入り口の方を見やった。
観戦する生徒達に混じってルイズやキュルケの他、スパーダも腕を組みながらじっと二人を見つめている。
「では、始めようか。タバサ」
ギーシュが剣を斜に構えると、こくりと頷いたタバサも己の杖を構えて臨戦態勢を取る。

「またあの時の顔になってるわねぇ」
キュルケが面白そうにギーシュの顔を見てにやにやと笑みを浮かべていた。
今もまた、ワルドとの戦いの時に見せた戦士としての表情へと変化しているのである。さっきまでスパーダに立会いを頼んでいた時が嘘みたいだ。
「でもモンモランシー、あまり嬉しそうじゃなさそうね」
ルイズはちらっと離れた所にいるモンモラシーを見やるが、彼女はギーシュの表情を見て見惚れるどころか口を手で覆い、顔は真っ青になっていた。
どうやらショックを受けている様子のモンモランシーだが、何故あのようにまで愕然としているのか。
「さぁて、どっちが勝つのかしら? 見ものだわ」
キュルケは無二の親友のタバサが勝つと信じていた。スパーダに剣術を叩き込まれたとはいえタバサだってトライアングルクラスの風メイジであり、
しかもシュヴァリエの称号を授かっているほどの実力の持ち主なのだ。そう簡単に負けるはずもない。
「ねぇ、スパーダ。どっちが勝つと思う?」
「やれば分かる」
ルイズの問いに対し、冷徹な態度で返答するスパーダ。
勝負は時の運でもある。戦いの中の状況次第で戦局はどちらにも傾くものだ。故に総合的な実力は劣るであろうギーシュがタバサに勝つことも不可能とはいえない。
つまりは結果次第なのである。どんなに実力のある戦士でも、時に些細な出来事で力なき者に敗れることはあるのだ。

「いやあっ!」
最初に仕掛けたのはギーシュだった。
タバサに向かって駆け出し一直線に突進するギーシュは腰だめに構えた己の剣を鋭く突き出す。
当然、タバサはあっさりとその初手をひらりとかわし、ギーシュの横に回りこむ。
「せやっ!」
ギーシュは体を反転させつつ剣を大きく薙ぎ払う。エア・ハンマーの呪文を唱えようとしたタバサはそれを中断し、杖で剣を受け止めた。
ガキン、と剣戟の音が響き渡る。
「……っ」
昨晩、スパーダとの手合わせで受けた閻魔刀の一撃に比べれば全然軽いのだが、小柄なタバサにとってはその一撃は意外に重く思わず小さく呻いていた。
悪魔と人間の力は歴然としている。故にスパーダから受けた一撃の重さはあの閻魔刀であっても杖が弾かれそうになったほどだが、人間であるギーシュの一撃も中々に重く手が痺れる。
ギーシュとしては以前よりスパーダから「腕だけで振るな。体の全てで剣を振れ」と言われていたため、その教えに従ったまでである。
「フライ」
剣が受け止められてもギーシュは休まずさらに体を捻って剣を振るってきたため、タバサは一度後ろへ跳んで離脱する。
「まだまだっ!」
「エア・ハンマー」
追い討ちで剣を斜に構えて突進してきたギーシュに対し、瞬時に呪文を完成させていたタバサは真空の槌を放つ。
「ぶっ」
真正面からまともに受けたギーシュの体は呆気なく吹き飛ばされる。
10メイル以上は吹き飛ばされたギーシュであったが、地面に落ちる寸前で受身を取って着地していた。
「おっとっと……」
が、バランスを崩して尻餅をついてしまう。ちょっと決まらなかったな、と内心悔しがる。
「ウィンディ・アイシクル」
「うわわっ!」
そこへタバサが杖を頭上に振りかざし、無数の氷の矢を放ってきた。
襲い掛かる氷の矢を、ギーシュは慌てて体を横へ転がしてかわし、急いで立ち上がる。

「どうした、ギーシュ!」
「ミスタ・スパーダの弟子ならもっと良い所を見せろー!」
ギャラリー達から歓声と共に野次が飛ぶが、今のギーシュはそんな声を聞いている余裕などない。
タバサは容赦なくウインディ・アイシクルによる追撃を続け、タバサの周囲を逃げ回るギーシュを追い詰めていく。
一見すれば追い詰められているギーシュが不利なように見える。
だが、タバサは徐々にギーシュが距離を詰めていることに気がついた。
「離脱」
追撃を一時中断し、フライで飛び上がると周囲を旋回しながら近づいてきていたギーシュの外側へと着地した。
「これはどうかな!」
ギーシュは思い切り剣を横に振りかぶると、薙ぎ払うようにして己の剣を手放した。
風車のように勢いよく回転しながら飛来してきた剣をタバサは己の杖で弾き返す。だが、これで終わりではないことは既に知っている。
投げると同時に造花の杖を手にしていたギーシュはそれを、まるで指揮者が演奏するかのように流れるような動きで振るう。
すると、明後日の方向へ弾き返された自分の剣の軌道が反転し、タバサ目掛けて戻ってきたのだ。
タバサはそれを今度はエア・カッターを放って迎撃する。
「……っ!」
その途端、自分の足を掴むような感触が伝わった。
見ると、タバサの両足は土くれの手ががしりと掴み取っていたのだ。ドットスペルのアースハンドだ。
身軽さが最大の武器であるタバサにとって、この状態は実にまずい。
「たあああぁっ!」
弾かれていた剣を念力によって引き戻したギーシュは動きを封じられているタバサへ向けて一気に駆け出した。
「タバサ! がんばってー!」
キュルケから声援が飛ぶ。
「エア・ハンマー」
ひとまずギーシュを吹き飛ばそうと杖を突き出し魔法を放ったのだが、それを見越していたらしいギーシュは呪文を完成させた瞬間に素早く横へと跳び退っていた。
しっかりと受身を取って着地し、止まることなくタバサとの距離を詰めたギーシュは一気に勝負を決めようとした。
「ストーム」
タバサは頭上に杖を構えると、自分を中心に30メイルにも上る大きさの竜巻を発生させた。
「うっ、うわあぁ!」
勢いあまってその竜巻に吸い込まれてしまったギーシュは一瞬にしてタバサの頭上で高く巻き上げられた。

それでも剣と杖だけは手放さなかったが、自由落下をし始めたギーシュを迎え撃つべくアースハンドの拘束から逃れたタバサが真下で待ち構えていた。
本来ならこの高さから落ちていく以上、自分にレビテーションをかけて地上への激突は避けるのだが、ゆっくりと降下すれば良い的にされる。
……いちかばちかだ。
「でやああああぁぁぁっ!」
ギーシュは落下しながら剣を振り下ろしたのである。スパーダが繰り出す兜割りと同じで、落下の勢いによって相手を叩き潰すのだ。
これだけの高さからならばその勢いと衝撃はかなりのものになるだろう。
……もちろん、決まろうが外れようが地面に激突してしまうので寸前でレビテーションはかけることにするが。

タバサは剣を振り下ろしながら落下してくるギーシュを目にし、迎撃するのをやめてその場から飛び退いた。
レビテーションでゆっくりと着地したギーシュは杖にブレイドの魔法をかけているタバサを見据えながら剣を大上段でゆっくりと振り上げる。
「見ろよ、ギーシュのあの顔」
「あれがギーシュか? いつもと全然、違うじゃないか」
先ほどよりもさらに険しくなったギーシュの戦士としての表情に生徒達は驚嘆していた。
フライの魔法で地面すれすれで飛行し一気に詰めてきたタバサに対し、ギーシュは剣を振り下ろすがツバメのごとく宙返りをされて、空振りとなっていた。

「タバサの勝ちだわ!」
キュルケが歓声を上げると、他の生徒達も同様に沸き返っていた。中には「何で負けてるんだよ!」などと野次が飛んだりもしている。
ギーシュの攻撃を空振りさせたタバサは杖で剣を弾き飛ばすとギーシュの首筋にブレイドの魔法がかけられている杖をピタリと当てていた。
「決まり」
魔力の刃を宿して光る杖を見ながらギーシュは引き攣った顔を浮かべるが、タバサは静かに告げる。
溜め息を吐き、苦笑したギーシュは頭を掻いていた。
「やれやれ、まいったよ。やっぱりまだ君には届かないみたいだな。また今度、相手をしてもらえるかい?」
タバサはギーシュからの要望に一瞬、考え込んでから小さく頷いた。
ギーシュも正直、シュヴァリエであるタバサとあそこまで渡り合えたのは自分でも驚いていたのだ。
自分はドットとはいえメイジである以上、今回は魔法も併用してみたのだが予想以上に効果的だったことが分かった。
何にせよ、今回の組み手は良い経験となったことであろう。ギーシュはいつになく意気揚々として、自分の剣を拾いに行った。
タバサは全てが終わったと言わんばかりに広場を後にしようとする。
「タバサ! あなた、やるじゃないの!」
キュルケが親友の勝利に対して嬉しそうに抱きついていた。

「どうだったかな、スパーダ君。負けてしまったけれど、それなりに戦えたと思うんだ」
「……まあ、合格だな」
真っ先に師匠のスパーダの元へと駆け寄ったギーシュは彼の意見を聞いていた。
スパーダもギーシュの成長ぶりには素直に感心する。まだまだ荒削りではあるが、ギーシュは自分の教え通りに剣を振るえたのだ。
しかも魔法を併用することで戦闘を補助するということまでしてのけた。別に自分が教えたわけでもない。ギーシュ本人が考えて行ったことなのだ。
「モンモランシー! 僕の勇姿はどうだったか……あれ?」
ギーシュは愛する女性からも意見を聞こうと呼びかけるが、どこを見回してもモンモランシーの姿はない。
「モンモランシーなら帰っちゃったわよ」
「ええ! どうしてだい!?」
ルイズがそう告げると、ギーシュは狼狽した。
モンモランシーはギーシュが竜巻で打ち上げられた後、剣を振り下ろして落下してきた辺りから逃げるようにして去ってしまっていた。
彼女はずっとショックを受けた表情のままギーシュの戦いを見続けていたのだが。
「さあ、本人に聞いてみたら?」
「おおーい! モンモランシー! 僕の話を聞いてくれよぉ!」
ギーシュは慌ててモンモランシーに呼びかけながら探し始めていた。

余興は終わったことで、生徒達は各自解散していく。
中にはタバサとギーシュのどちらが勝つかで賭けをしていた者もいたようで、金を巻き上げている生徒の姿もあった。
昼休みはもうすぐ終わり、午後の授業が始まる。ルイズは午前の授業に出られなかったので、午後の授業に出席しなければならない。
スパーダは学院の図書館へと向かっていた。そこで調べるべきことがあったからだ。
このハルケギニアに魔界の悪魔達が現れるのであれば、必ずどこかに魔界とハルケギニアを繋ぐ役目を果たしている何かがあるはずだ。
それこそフォルトゥナに存在していた地獄門のようなものが。
おまけにこの世界は単純に悪魔達が餌を求めて現れるのではなく、明確に最上級悪魔の勢力によって侵略されようとしているのだ。
かつて魔帝が人間界へ侵攻した時に人間達を利用したように、今回も何者かがハルケギニアの人間達を利用している。それで生まれたのがあのレコン・キスタなのだ。
レコン・キスタを操る悪魔の勢力を相手とする前に調査が必要だ。悪魔達に関する資料がこの学院の図書館にあれば良いのだが……。
「何だ……?」
図書館へ足を踏み入れた途端、異様な気配をスパーダは感じ取っていた。
やや遠くからではあるものの、はっきりと感じられる強い闘気。そこらの下級悪魔達はもちろん、中級悪魔でさえ比較にならない魔力である。
その気配を持つ何者かが、この学院へ近づいてきているのが分かる。
踵を返したスパーダは未だ感じ続けている気配を逃さないようにしつつ、足早に図書館を後にした。


午後の授業には参加せず、タバサは学院の正門の前に来ていた。
使い魔のシルフィードを呼び寄せ、これからトリスタニアの町へと向かう。町で必要な本を買うためだ。
本当は昼休みの間に行こうと思ったのだが、先ほどのギーシュとの組み手によってその時間を後に回されたのである。
だがあの組み手はそれなりに良い経験となったことに満足していた。単純に剣だけでなく魔法による補助まで使いこなすようになったギーシュは意外に手強かった。
ギーシュの欠点は突っ込み過ぎる所にあることが分かっていたため、そこを突いたのは正解だっただろう。
だが、やはりもっと強い相手と戦って自分の力をさらに上げてみたい。
その相手に最も相応しいのが、悪魔なのである。
スパーダのような伝説の悪魔はさすがに力の差がありすぎるので、もう少し下級の悪魔程度であれば相手としてはちょうど良いのだが。
「きゅいっ! きゅいっ! お姉さま、お姉さま」
「どうしたの? 喋っちゃだめ」
シルフィードに跨った途端に声を上げだしたため、タバサは怪訝そうな顔をしながら注意する。
「何か近づいてくるのね。精霊達が、怖がって悲鳴を上げているのね……」
他に人がいないためか風韻竜は遠慮なく人語を口にしている。
タバサはシルフィードの言葉を聞くと、地面へ飛び降り杖を構えていた。
その表情はいつになく険しく、何者かの接近に対して気を抜かぬよう神経を研ぎ澄ませていた。
シルフィードの耳には、次々と精霊達の声が聞こえていた。……恐怖に怯える声が。

――コワイヨ、コワイヨ。

――アイツガクル、クルヨ。

「来た」
タバサの耳に微かに聞こえてくるのは、重々しい馬の蹄と馬車が走る音。
徐々にその音は大きくなってくるのだが、肝心の馬と思わしきものの姿が見えない。
「きゅいーっ!」
シルフィードが慌てて飛び上がると、突如タバサの正面の空間が暗く歪みだした。
危険を察したタバサはフライで飛び上がると、空間から巨大な蒼い何かが飛び出し、自分の真下を通り過ぎていった。

――ヒヒィーンッ!!

力強く嘶きながら学院の敷地内へと侵入してきたのは一頭の馬だった。
ただの馬ではない。体高だけでも明らかに3メイル以上にも達する巨馬であった。
後ろに引く馬車もその精悍な巨体に見合うほどの大きさであり、おまけに車輪の中心から鋭いスパイクが外に向かって伸びている。
着地したタバサは巨大な馬車を振り回しながら反転し、振り向いてきた巨馬と相対する。
「蒼い、馬」
この馬の最も特徴的であったのはその体の色だった。蒼い――天に広がる蒼穹の空よりも蒼ざめた体をしているのである。
しかも鬣や蹄までも青白く、さらには青白い炎まで纏っていた。不思議と熱気は感じられず、むしろ氷のような冷気が発せられている。
その姿はどことなく気高く、誇りに満ちているのをタバサは全身で感じ取っていた。
「……悪魔」
同時にこの馬からとてつもない威圧感と闘気を感じ、察していた。
杖を握る手に力が入る。白昼堂々、この学院に悪魔が現れるだなんて思いもしないことだった。
しかも以前より相手をしている下級悪魔達などとはまるで雰囲気や風格が異なる。スパーダまでとはいかずとも、相当な力を持つ悪魔であることをこうして向かい合っただけで理解していた。

巨馬の青白く光る鋭い目がタバサを捉えていた。蹄を強く鳴らし、荒々しく呼吸を続けている。

――ヒヒィーンッ!!

精悍な巨体と前足を高く持ち上げると、巨馬はタバサ目掛けて突進していた。


「何々!? 今のは?」
授業が始まる寸前、教室の生徒達は外から聞こえてきた馬の声にざわめきだしていた。
次々と窓に向かって張り付き、正門の広場を窺いだす。
他の生徒達が一斉に動き出す中、ルイズにキュルケ、そしてギーシュとモンモランシーの四人だけは座席についたままであった。
ルイズは先ほど、午前の授業だけでなく数日間留守にして休んでいたことを他の生徒達に尋ねられたのだが密命を秘密にするべく誤魔化したら
「ゼロのルイズはどうせ大したことはしていない」「ミスタ・スパーダが全部片付けてしまった」などと嫌味を言われてしまったため、少し落ち込んでいたのである。
確かに自分はほとんど何もできなかったことは事実なのだ。そのことがどうにも悔しかった。
パートナーだけが活躍し、自分は役立たずのゼロ……せっかく、スパーダに失敗を活かせるようにしてもらったというのに何もできなかっただなんて。
そんなルイズとは対照的にキュルケは退屈そうに自分の爪に化粧をし、ギーシュは何故か不機嫌なままのモンモランシーを振り向かせるべく必死に言い寄っていた。
この四人は他の生徒達と違って一々、そんなことだけで動じることはなかったのである。
「おい、あれはミス・タバサじゃないか」
「な、何なのあの馬! 幻獣? ユニコーン!?」
「あんな幻獣、見たことないぞ!」
授業に参加しなかったタバサの名前が挙がった時、ルイズとキュルケもようやく席から立ち上がり、急いで窓に張り付いていた。
ギーシュとモンモランシーは相変わらずであったが。
「タバサ!」
「あれは……」
ルイズとキュルケは広場で起きている出来事に吃驚していた。
正門前の広場には激しく駆け回る巨大な蒼い馬の姿があった。
馬車を引き、全身に蒼い炎を纏いながら走るその馬はタバサを追い回しているのである。
しかし、あの馬は何なのだ? 幻獣のような神秘的な姿をしているが、あんな幻獣はハルケギニアでは見たことも聞いたこともない。
(あれはもしかして、悪魔?)
ルイズはあの蒼い馬からスパーダまでといかずとも異様な殺気と威圧が発せられているのを感じ、思わず身震いした。
だが、何故悪魔がこの学院に? 何の目的で?
どちらにしろ、スパーダを呼んで何とかしてもらわなければ。
「あっ、危ない!」
蒼い馬は駆け回るタバサを外壁へと追い詰め、そのまま一直線に突進を仕掛けている。
だが間一髪、フライの魔法で上空へ逃げたために馬はそのまま外壁に激突する――。
「き、消えた!?」
蒼い馬は壁に激突する瞬間、突然空間の中へ飛び込むようにして姿を消してしまったのである。
着地していたタバサは注意深く周囲を見回していたが、やがて別の離れた場所の空間から現れた馬が再びタバサ目掛けて向かってきた。
「行ってみようぜ!」
「何なのかしら、あの馬!」
生徒達は次々と教室から抜け出し、広場に向かっていった。当然、ルイズとキュルケもである。
他の教室でも目撃されたのか、次々と教室の外へと溢れ返るように出てきていた。
「こら、君達! 早く席に――うわっ」
教師達が諌めるも、これだけの数が相手では圧倒されるしかなかった。
「お願いだよ、モンモランシー! 僕の話を聞いておくれよ!」
そんな中、この二人だけは未だ教室に残って片や言い寄り、片や無視を続けていた。


スパーダが広場へ到着した時、感じ取っていた悪魔の気配の主の姿がそこにあった。
青白い炎を纏いながらしつこくタバサを追い回している巨大な馬。
「あいつは……」
見覚えのある蒼ざめた巨体にスパーダは珍しく面食らっていた。
かつてテメンニグルを封じる際に一戦を交えたことのある上級悪魔……。人間界では死を象徴する不吉な存在として恐れられるという。
その悪魔の名は〝妖蒼馬〟ゲリュオン。
元々は遥か古の時代に人間界から魔界に迷い込んできた戦馬であり、魔界を彷徨っている内に強大な悪魔へと変貌したものだ。
人語こそ口にはできないものの、長い年月を経て魔力を得た分、その知能は上級悪魔に相応しく人間を凌駕するほどとなっている。
魔界の戦場に不意に現れては敵味方関係なく次々と悪魔を薙ぎ倒していくほどに荒々しく、悪魔達からも恐れられていた存在だ。
かつてテメンニグルを封じる際にスパーダはゲリュオンと戦ったことがあり、中々に手強い相手だったのを覚えている。
ゲリュオン本人としては人間はおろか悪魔に対して明確な殺意などを抱いているわけではなく単純に戦場を駆け回るか
強い相手と戦いたいだけなのだろうが、それで人間達に被害を出されては堪らないためにテメンニグルと共に封じたのである。
……そう。あの塔の中に封じたはずなのだが、何故このハルケギニアに奴がいるのか。
(やはり、どこかに出入り口があるのだな)
かつて封じたはずの悪魔さえもこのハルケギニアに姿を現した以上、その考えは当たっているはずだ。
「さて、どう相手をするか……」
かつての敵が姿を現したにも関わらずスパーダは落ち着いて腕を組んだまま塔の壁に凭れ掛かっていた。
今、ゲリュオンが戦っているのはタバサだ。そして、タバサは悪魔達との戦いで自分の力を高めようとしていることをスパーダは知っている。
ならば、その敵を相手に一体どう戦うのか。じっくりと見せてもらうことにしよう。
タバサが力を示し、ゲリュオンを負かせばそれで良し。そうでなければ自分が出るまでだ。

雪風のタバサと、妖蒼馬ゲリュオン。
互いに蒼を象徴とする強者達は己の力をぶつけ合っていた。



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