あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

第8話『騒動』


──ルイズが学院長室に呼び出される前の話。
ルイズはベッドの上で、そわそわと忙しなく窓や部屋の外を覗いていた。

「あー、もう!朝までに戻るって言ったのに!!」
彼女を不機嫌にさせる原因、使い魔のアセルスが戻らない事。
時刻はまもなく、学院長室に呼び出される時間になる。

仕方なく一人で向かおうとすると、ルイズの頬に風が触れる。
部屋の窓は閉めたはずだ、ということは……

「アセルス!遅いわ……よ?」
帰ってきたと思って、振り返ると同時に怒鳴ろうとするが声が途切れる。
アセルスの隣に見知らぬメイド服を着た幼子が立っていた。
理解できない光景に唖然してしまう。

「その子、誰?」
ルイズはきょとんとした表情で尋ねた。

「吸血鬼のエルザ、私の身の回りの世話をさせる為に連れてきたの」
アセルスの放った吸血鬼の一言にルイズは固まった。



──ルイズ達が出て行った後、学院長室へ来訪者が現れる。
扉を叩く音に、茫然としていたオールド・オスマンは声を返す。

メイドだが、働くには明らかに幼すぎる外見。
見覚えのない少女は、アセルスの侍女になったエルザと名乗る。
アセルスの元で働くので、使用人として手続きを済ませて欲しいと願い出た。

「君も妖魔なのかね?」
妖魔なら、ただの人間を連れてくるとは考えにくい。
エルザは正直に吸血鬼だと告白する。

件の使い魔が吸血鬼を侍女として連れてきた。
新たな問題にオールド・オスマンは頭を悩ます。
ミスタ・コ……コッパゲみたいに、ストレスで自分の頭皮が禿げないか心配する程に。

「ええい、何で今年はこんなに厄介事が起きるんじゃ」
自らの使い魔『モートソグニル』に愚痴をこぼす。
鼠に答えが出せるはずもなく、暢気にナッツを齧っていた。
ため息つきながら、オールド・オスマンは書類にペンを走らせる。

エルザが吸血鬼だと表沙汰にしないよう、隠蔽工作を急ぐ。
吸血は食材に仕入れる動物の血で済ませるそうだが、信用できるか疑問が残る。
当初、オールド・オスマンは入学などさせるつもりはなかった。
断れなかった理由は、アセルスに『食料』を提供する必要がある事実。

吸血鬼は自らがアセルスの食料だと告げた時、舞い上がっていた。
身を捧げるのを待ちわびる様子は、まるで狂信者の姿。
実際エルザはアセルスに対して、崇拝に近い感情を抱いている。

欲望のまま人間の血を奪う吸血鬼を陶酔させた妖魔。
改めてオールド・オスマンはアセルスの異常さを感じていた。



エルザを連れてきた当事者、アセルスはルイズと共に首都へと辿り着いていた。

「だから、彼女は『食事』を用意するために連れてきただけ」
ハルケギニアの人間なら誰もが恐れる存在、吸血鬼の主となった妖魔の君アセルス。
彼女はルイズに釈明をしている最中だった。

ルイズはエルザを連れてきた事について、不満を漏らしていた。
乗馬の最中にエルザの存在を思い出し、街に着いてもまだ機嫌は戻らない。

妖力で思うがままに、女性を虜化できるアセルス。
文句を言われるという経験など持ち得ない為、どうしていいか対処に困っている。

「だったら最初に連れてくるって言いなさいよ!」
上級妖魔ともなると勝手気ままな性格が多い。
なぜなら、力を持つ彼らを咎めれる者などいる訳がない。
アセルスも「朝までに食事を済ませる」としかルイズに告げていなかった。

「連れてくるのは見てから決めたから……次からは気をつけるよ」
ありきたりな反省をアセルスが口にしたところで、ひとまずルイズも引き下がった。

吸血鬼相手とはいえ、見た目が幼い女の子なのは幸いだ。
男の外見であれば、部屋に入れるのは抵抗がある。
最もアセルス自身は男性の妖魔であれば、従えずに殺すつもりだったのだが。

ルイズはアセルスの性分を知らない。

「ところで、街へ何をしに?」
ルイズの不機嫌さが幾分解消されたのを確認し、アセルスは話題を変える為に尋ねた。

「とりあえずは本とアセルスの服ね。
流石に今の服ほど上質な物は無理でも、替えがないのは不便でしょ?」
肯定して頷くと、アセルスは欲しい物があったのを思い出す。

「街に武器屋はある?」
「裏路地にあったと思うけど……武器はあるじゃない?」
ルイズが指差したのは、アセルスの腰に下がった赤い剣。
『幻魔』と呼ばれる剣はファシナトゥールでも指折りの職人が作った魔剣。
ルイズは由来までは知らないが、剣が上質な物だと知っている。
そんな剣を持ちながら、武器屋へ行きたい理由が思い当たらない。

「戦うときは剣を二本持っていたから」
金獅子を名乗る、勇ましき妖魔が使っていた名剣。
彼女の持っていた剣は幻魔すらを凌駕し、世界中でも並ぶ物のない切れ味を持つ。
召喚された時、所有していなかったので手持ちの武器は幻魔のみとなっている。

「アセルスが持つ剣より凄いのなんて早々ないわよ?
それでも良ければ服の仕立てを待つ間にでも行きましょ」
「うん」
アセルスが針の城にいた頃には、考えもしなかった平穏な会話。
ルイズにとっても少し前までは誰かと買い物に街へ来るなど考えもしなかった。
二人は日常に充実感を得ながら、街の喧騒へと歩を進めた。



──ルイズ達が街に向かって、しばらく経った後の学院。

自室で読書に耽る一人の青い髪をした少女タバサ。
彼女の悩みは吸血鬼の討伐に関して……だったのだが、解消された。

詳細は分からないが、吸血鬼は退治されたらしい。
殴り書きのような書面から、従姉妹がご立腹なのがよく分かる。

「きゅい!吸血鬼なんて相手にせずに終わってラッキーだったのね!」
拍子抜けしたが、使い魔の言う通り危険を冒さずに済んだのは幸運だろう。

任務の取り消しを受け、虚無の曜日でもある本日は趣味の読書に没頭していた。
一人の乱入者が現れるまでは。

「タバサ!……!!」
名前を呼んだ後、声が聞こえなくなったのはサイレントの魔法を唱えたからである。
親友のキュルケだと気づいたが、一瞥もせず本を読み続けていると肩を揺さぶられた。

「虚無の曜日」
渋々、サイレントを解いて告げる。

「分かってるわ、貴女が虚無の曜日にはいつも趣味の読書に没頭するのは。
でもルイズが街に出かけたみたいで、あの子乗馬上手だから馬で後を追っても追いつけないのよ!」
サイレントの解除と同時にまくしたてるキュルケの用件が分かった。
自分の使い魔であるシルフィードを借りたいのだろう。

彼女がルイズに関して、ここ最近悩んでいたのは知っている。
無下に断るというのは躊躇われた。
自分もルイズの使い魔となった妖魔に尋ねたい事があった。

窓を開けて、自分の使い魔を呼ぶ。
青い幼生の風竜がタバサの部屋の窓へやってきた。

「いつ見ても貴女のシルフィードは惚れ惚れするわねえ」
「馬二頭、食べちゃ駄目」
竜は二人の少女を乗せて街の方角へと飛んでいった。



ルイズ達はまず街の仕立て屋に向かっていた。
アセルスの服等を注文するも、予想以上に金がかかってしまう。
原因はルイズが見栄を張って、可能な限り上質な素材で頼んだ為だ。
余分な自尊心は捨てたつもりの彼女だが、長年染み付いた性格は早々には変わらない。

幸いルイズは小遣いを溜め込んでいたので、まだ半分程度は残っている。

「ここから近いし、昼食の前に武器屋行く?」
武器を見るだけなら時間もかからないだろうと思っての提案。
アセルスもルイズが良ければと、武器屋へ向かった。

武器屋があるのは裏路地の方面。
「この辺は汚いからあまり近寄りたくはないのよね……」
悪臭に顔をしかめるルイズは剣の描かれた看板を見つけると、さっさと店内に入った。

「いらっしゃ──これは貴族様、うちはまっとうな商売してやすぜ」
店に入ると、中年の店主らしき男が慌てた様子で出迎える。
「客よ」
監査だとでも思っているのだろう。
店主に自分達が客だとルイズは伝えた。

「こりゃおったまげた!貴族が剣を!?」
驚く店主にアセルスが鞘ごと剣を見せる。

「同じくらいの剣が欲しいんだけど」
「中身をご覧になってもよろしいですかね?」
ルイズの注文に、店主は確認を求める。
アセルスが頷くのと同時に、剣を鞘から取り出した。

「こいつぁ……」
店主が思わず息を呑む。
武器屋として勤めて長いが、これほどの逸品はお目にかかれなかった。

赤い宝玉のよう見える刀身は、一見脆そうだがしなりも強度も十分。
驚くのはかなり使い込んだ形跡があるにも関わらず、刃こぼれが一つもない。
鞘や柄の模様細工も見事の一言に尽きる。
豪華絢爛な装飾で知られるシュペー卿の剣が店にあるが、この前には足元にも及ばないだろう。

剣は武器としても装飾としても、最上級の代物だと断言できた。

「申し訳ありませんが、これほどの名剣はうちにないですぜ。
頑丈さだけなら取り得のやつがいるんですがね……」
店主が素直に頭を下げる。
これほどの剣を持つなら、相当の審美眼と身分がなければ不可能だろう。
そんな相手に下手な代物を売りつければ、どんな処罰を受けるか容易に想像できた。

『頑丈さだけとは何でえ!』
「デル公!大人しくしてろ!!」
店主が無礼を働かないように、慌てて制止する。
声がしたほうをルイズ達が振り返ると、剣がカタカタと震えていた。
どうやら声の主はこの剣らしい。

「インテリジェンス・ソード?」
「おっしゃる通りで。剣を喋らせるなんて悪趣味な真似、一体どこの誰が始めたんですかねえ。
オンボロの癖に、口と態度だけは一人前でして……」
困惑したように尋ねるルイズに店主が肯定する。
アセルスはこちらでは剣を喋らす手段があるのだと、二人の会話から推察した。
目的は全く掴めないが、酔狂な人物はどこにでもいるのだろう。

『このデルフリンガー様を頑丈だけだの、ボロだの好き勝手言いやがって!』
「事実を言って何が悪い!お前が立派なのは名前だけだろうが!」
『なんだと!』
口論する二人(?)を尻目に、アセルスは剣のほうへと近寄る。
確かに見た目は錆だらけだが、刃の無事を確認する。
武器としての性能を優先させたいアセルスとしては、剣としての機能の方が重要だった。

『……おでれーた。おめー何者だ?』
店主との口論を中断して、デルフリンガーが呟く。
アセルスは質問を無視して、店主の方を振り返る。

「これはそんなに頑丈なの?」
「ええ。見ての通り錆も酷くて、口も悪いですが頑丈さだけは保証しやすぜ」
店主の太鼓判。
それを試すために、アセルスは幻魔を手に取る。

『あのー、もしもし?嫌な予感がするんだが、何をするつもり……』
汗などかかないはずの剣が冷や汗を流す。
アセルスは幻魔でデルフリンガーを折らんばかりの勢いで叩きつける。

『痛ええええええええええ!!!!!』
武器屋に悲鳴が木霊する。
思わず耳を塞いだ店主とルイズを見る事なく、アセルスはまず刃を確認した。

『何だその剣!?絶対普通の剣じゃねーだろ!?マジで折れるかと思ったわ!!』
捲し立てて抗議の声を上げるデルフリンガーに傷はない。
幻魔にも傷はないため、ほぼ同様の強度を持っているのだろう。

「これにしよう」
「だから、やるなら先に言ってよね……」
大声に痛む耳を抑えたまま、ルイズが呻く。

「武器なんか分からないからアセルスに任せるけど、いいの?」
ルイズの質問へアセルスは頷いて返す。

「普段は幻魔しか使わないから、見た目は問題ないかな」
『俺様、二番手かよ!?いろいろ凄い能力ある……気がするのに!』
アセルスの無情な宣告にデルフリンガーが再度、抗議する。
様子を伺っていた店主が売りつけるいい機会だと、デルフリンガーの鞘を持ち出す。

「どうしても五月蝿いときはこうやって鞘にしまえば、おとなしくなりまさあ」
「値段はいくらかしら?」
財布を取り出して尋ねる。

「新金貨で100になりますぜ」
「そんなものなの?」
武器の適正価格などルイズは知らないが、想像より安かった為に呆気にとられる。

「性格も見てくれも悪い剣を買う客なんていないもんで、いい厄介払いでさあ」
愛想笑いでそう伝える店主にルイズは代金を手渡す。

「ありがとう」
「べ、別にお礼なんていいわよ!アセルスが万全じゃないと主人の私も困るんだから!」
お礼を告げたアセルスの笑顔が眩しく、ルイズは赤らめた顔を見られないようそっぽ向いて答えた。

「まいどー、精々達者でなデル公よ」
気の締まらない店主の声を背に、二人は店を出て行った。



裏路地から大通りに戻る時、柄の悪い男が道を塞いでナイフを取り出した。

「お嬢ちゃん達。無事帰りたければ、有り金を置いていきな」
実に分かりやすい強盗の台詞。
アセルスが幻魔を抜くと、男の足元に亀裂が走る。

「はした金欲しさに殺されたい?」
アセルスからすれば、冗談程度の怒気。
男にしてみれば脅威以外の何物でもなく、あわてて逃げ出していった。

「本当に殺すのかと思ったわ……」
迷わず剣を抜いたアセルスに、ほっとして告げるルイズ。
「知り合いが見ている前ではまずいでしょう」
小声でルイズにだけ聞こえるように呟く。

「え!?」
思わずルイズが辺りを探ると、大通りの方から知った顔が二人現れる。
キュルケとタバサであった。

「はぁい♪ルイズ」
「ツェルプストー……なんでここにいるのよ」
暴言の一つも出そうになるが、第三者のタバサもいた為に自重する。
憎まれ口を叩きながらも、ルイズとは長い付き合いであるキュルケは気づく。
ルイズが自分にあからさまな敵意を抱いている事を。

「別に偶然よ、あんたが裏路地なんかにいたところが見えたから危ないと思っただけ」
偶然を装いつつも、いつもよりはほんの微かに素直さを出して答える。

本当はキュルケはルイズが教われそうになった様子を見て、助けようとしたのだ。
最もアセルスがいる以上、必要なくタイミングを逃したが。
タバサは妖魔がいるから大丈夫と踏んでいたが、キュルケが飛び出す形で釣られてしまった。

「お生憎様、あんたになんて心配してもらわないでも十分よ」
ルイズはいつも通り、憎まれ口を叩く。
キュルケはむしろ安堵した、拒絶されるよりは遥かに良い。

キュルケがルイズとの関係で悩んだ末に決心した行動。
今までと変わらず接する事。
例えルイズに拒絶されようと、あくまで今まで通り話かける。
ただし、『ゼロ』と言う彼女を傷つける単語を除いて。

「で、これからどこ行こうとしてたのよ?」
「教える義理はないでしょう」
お互い憎まれ口を叩く、いつものやり取り。

「当ててあげましょうか?謹慎処分受けたから街で買い溜めにきたんでしょ?」
「なんで謹慎の事、知ってるのよ!?」
ルイズが図星を指摘され、うろたえた。
自分の失態を憎き相手に見られたのではないかという不安に駆られる。

「あんたね、あんだけ派手な騒動やらかせば謹慎処分くらい察しがつくわよ」
「うぐ……」
キュルケの反論に、ルイズは呻くしかない。
考えてみれば、今日は虚無の曜日だ。
学院長室に立ち寄った生徒なんて、自分だけに決まっている。

「しばらく顔を合わせる機会もないし、昼食くらいなら奢ってあげるわよ♪」
「ツェルプストーに奢ってもらうくらいなら、死んだ方がマシよ!」
彼女達にとってはいつものやり取り。
騒がしい二人をアセルスは後ろから見守っていた。

力を誇示してみせたにも関わらず、話かけてくるキュルケ。
彼女はルイズに悪い感情は抱いていないのだろうとアセルスは推測する。
ルイズを見下していた者は、ギーシュと同じ顛末を迎えまいと近寄ろうとすらしないのだから。

「貴女に頼みたい事がある」
唐突な質問に少女の意図が掴めない。
アセルスに声をかけたのは、キュルケが連れてきたタバサだった。

「何?」
「先住魔法について教えて欲しい、特に呪いの類いを」
先住魔法、貴族が使う魔法より遥かに強力な力を持つ。
使用者はエルフが有名ではあるが、妖魔にも使う者はいる。
無論この世界の妖魔ではない、アセルスは使えないのだが……

「私は知らないけど、先住魔法について知っている者ならいるわ」
先住魔法に関して、アセルスはエルザから聞いていた。
タバサが何を企んでいるか分からない為、曖昧な答えを返す。

「心当たりがいるなら協力して欲しい、見返りは必ず」
決意の秘められたタバサの強い表情。
よほどの事情があるのは、アセルスも感づいた。

「……深夜に、広場で待ってる」
アセルスの言葉にタバサが頷く。
二人が前を見ると、まだルイズとキュルケは言い争いを続けていた。



──結局なし崩し的に4人で食事をとり、食後のデザートを注文していた頃。

「ねえ、タバサ」
デザートを待つルイズがタバサに呼びかけた。
タバサはハシバミ草のサラダを大量に頬張りながら、ルイズの方へ顔を向ける。

「貴女、図書館とかで魔法に関する本をよく読んでいたわよね。
後で戦術関連の本を買いたいんだけど、オススメを教えてくれないかしら?」
「分かった」
本屋へは自分も立ち寄りたいので、特に断る理由もない。

「戦術関連?なんでそんなもの買うのよ」
キュルケが口を挟む。
まだ魔法も使えないのに、なぜ戦術書を買うのか?
口にこそ出していないものの、疑問を察したルイズが少し不機嫌になる。

「関係ないでしょ……と言いたいけど、貴女も火のメイジだしついでに聞くわ。
貴女爆発させる魔法は使える?」
「魔法に失敗するかって話?」
質問を把握してないキュルケに悪意はないのだが、ルイズはむきになって反応する。

「違うわよ!火の魔法で爆発を使った戦術があるでしょ!」
「そんなのあった?」
キュルケの返答に呆れながら、ルイズが教えようとするより先にタバサが口を開く。

「火と土を使った魔法。
土を揮発性の油などに変えて引火、蒸発した油分が爆発を起こす。
戦場以外では、大規模な建物の解体作業などでも利用される」
タバサの説明に感心した声を発していると、ルイズが指摘する。

「男漁りばかりしてないで、たまには勉強もしなさいよ」
実技こそトライアングルと優秀なキュルケだが、座学に関しては二人に劣る。
平均程度ではあるのだが、勉学に励んだルイズや本の虫なタバサとは比べようもない。
キュルケは自らの成績に関して気にしていないので、ルイズの罵倒も右から左へ受け流す。

「仕方ないでしょ、貴女達と違って予習するほどマメじゃないもの」
『先月の授業でやった』わよ!」
優等生二人の息の合った反論に、キュルケは押し黙るしかなかった。



──買い物を終えると、街は夕暮れに染まり黄昏を迎える。
ルイズ達も帰りはタバサの風竜に乗って学院に戻ろうとしていた。
道中、キュルケやタバサからは少し離れた位置に座っていたアセルスの隣にルイズが移動する。

「ねえ」
アセルスがルイズの方へ振り返る。

「……怒ってる?」
「何故?」
ルイズの言うような感情などアセルスは持ち合わせていない。
なのに、どうしてそう感じたのか?

「だって、途中からアセルス何も言わないままだもの」
アセルスは納得する。
途中から沈黙していたのを、ルイズは怒っていると誤解したのだ。

「違う、単に羨ましかっただけ」
アセルスは素直に答えた。

「羨ましい?」
「うん、私はもうあんな風に話せる相手がいないから」
アセルスが虚空を見上げる。
はっとしたルイズは思わず顔を伏せてしまう。

「……が、いる……」
かすかな声は風に流され、聞き取れなかった。
「え?」
「私がいるわ」
答え直したルイズの表情は俯いたままだった。
だが、アセルスの心に暖かさを満たすには十分な一言。

「うん、ありがとう」
妹がいたらこんな感じなのだろうか。
そんな事を考えながら、アセルスはルイズの髪を撫でた。
ルイズの頬が、思わず赤くなる。

「人前では止めてよね……」
気恥ずかしさからくる拒否だったが、ルイズも満更でもない。
すると、風竜が大きく旋回するように突然動きを変えた。

「きゃあ!?」
体制を崩して、思わず悲鳴を上げるルイズ。
アセルスはルイズが落ちないようにと身体を抱き寄せた。

「あ、ありがと……」
ルイズの顔が更に赤みを増す。
何があったのかタバサに尋ねようとする前に、キュルケの唖然とした声が聞こえる。

「何よ、あれ!?」
30メイルはあろうという巨大なゴーレムが学院から立ち去っていく姿。
相当な重量にも関わらず、音がないのはサイレントの魔法を使っているからだろう。

「土くれ」
「土くれって……フーケ!?」
タバサの呟きにキュルケが説明を付け加える。
現在トリステインを賑わす噂の一つ、怪盗『土くれのフーケ』。
ゴーレムの大きさと肩に乗る黒いローブは噂の特徴と一致する。

「なんで学院に……あ、宝物庫!?」
ルイズもフーケの噂を聞いていた。
なので、即座に学院の宝を狙ったのだと勘づいた。

「タバサ、追って!捕らえないと!」
「おそらく事後、追っても後手に終わる」
ルイズがタバサに頼むも、即座に否定された。
タバサの予想通り、近づくより早くゴーレムはただの土塊へと姿を変える。

「フーケの顔は見えなかった?」
ルイズの問いに、アセルスは首を振って答える。

「見えたのは人影が途中で飛び降りたのと、手に何か大きい包みを持っていた事くらいかな」
フーケの逃亡に何もできず、悔しがるルイズ。
この時、事件はまだ始まったばかりだと誰も思ってなかった。


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