第十九話『裏切りのワルド』
昨夜ルイズと喧嘩別れをしたままミントはニューカッスル城からの脱出準備の為城の中を駆け回っていた。
そう、火事場泥棒だ。
脱出船が出発する時間まではまだまだ余裕がある。それまでにありったけのお宝を回収しなければならないのだ。
(今頃結婚式始めてるのかしらね………風のルビーはルイズがウェールズから預けられるだろうし…ワルドが何か企んでるっぽいのは気になるけど。)
(今頃結婚式始めてるのかしらね………風のルビーはルイズがウェールズから預けられるだろうし…ワルドが何か企んでるっぽいのは気になるけど。)
多少気にはなるが今は時間が無い…今はお宝だ。
___礼拝堂
ルイズは戸惑っていた、今朝方早くにいきなりワルドに起こされ、ここまで連れてこられたのであった。
昨夜のミントの言葉と滅びる王家のショックもあり殆ど眠れていなかったルイズはワルドにこれから結婚式を挙げよう等と突然言われて戸惑い、混乱したまま状況に流されて此処まで来てしまった。
ウェールズの好意で貸し与えられ、ワルドの手によって頭に乗せられたアルビオンの秘宝の一つ『白の花冠』は白の大陸アルビオンを形容する様に魔法の力で瑞々しく咲いた白い花で作られたそれは美しい物だった。いつも身に付けていた黒いマントも今は純白のマントで着飾り、簡易的ではあるがその姿はまさに花嫁以外の何物でも無い…
ウェールズの好意で貸し与えられ、ワルドの手によって頭に乗せられたアルビオンの秘宝の一つ『白の花冠』は白の大陸アルビオンを形容する様に魔法の力で瑞々しく咲いた白い花で作られたそれは美しい物だった。いつも身に付けていた黒いマントも今は純白のマントで着飾り、簡易的ではあるがその姿はまさに花嫁以外の何物でも無い…
ヴァージンロードの先には荘厳なステンドグラスと神々しく聳える始祖ブリミルの像があり、その袂には皇太子としての礼服に身を包んだウェールズが心から祝福しているのだろう…ルイズを暖かく見守っていた。
「さぁ、ルイズ。僕の花嫁。」
そう優しく言ってワルドがルイズの手を優しく引き寄せウェールズと始祖の像へと一礼を行う。
それを確認してウェールズはにっこりと微笑むと祝詞の記された書を朗々と読み上げ始める。
「これより結婚式を始める。子爵、ジャン・ジャック・フランシス・ド・ワルド。汝は始祖ブリミルの名においてこの者を敬い、愛し、そして妻とすることを誓いますか?」
それを確認してウェールズはにっこりと微笑むと祝詞の記された書を朗々と読み上げ始める。
「これより結婚式を始める。子爵、ジャン・ジャック・フランシス・ド・ワルド。汝は始祖ブリミルの名においてこの者を敬い、愛し、そして妻とすることを誓いますか?」
「誓います。」
ワルドの迷い無い誓いの言葉にウェールズは満足そうに笑みを浮かべる。
「新婦ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール、汝は始祖ブリミルの名においてこの者を敬い、愛し、そして夫とすることを誓いますか?」
そのウェールズの問いにルイズはようやく自分が今結婚式を挙げているのだと言う事を理解した。
今自分を見つめている隣のワルドと自分は結婚する…それはイヤでは無い。もともと婚約者でもあるしずっと憧れていた子爵様なのだむしろ嬉しい…だがルイズ自身は今全くどこかこの結婚に納得がいっていないのだ。
今自分を見つめている隣のワルドと自分は結婚する…それはイヤでは無い。もともと婚約者でもあるしずっと憧れていた子爵様なのだむしろ嬉しい…だがルイズ自身は今全くどこかこの結婚に納得がいっていないのだ。
戸惑いの中ルイズはつい後ろを振り返る…当然ながら礼拝堂には誰も居ない。
ここ最近ずっと自分の側に居てくれていたミントは一足先にアルビオンを発っているとワルドから聞いていた…それでも無意識にミントの姿を探してしまった自分は何なのだろうかとルイズは自問自答する。
「新婦?」
ウェールズの声に思考に沈んでいた頭を覚醒させてルイズは慌てて顔を起こす。
「緊張しているのかい?大丈夫さ、君は僕を信じてくれれば。」
ルイズの様子がおかしいと感じたのかワルドが爽やかに言う。
(そうよ…ワルド様を信じれば…)
ワルドの言葉にそこまで流される様に考えたルイズだったが不意に昨夜のミントの言葉が頭をよぎった。
『あんたさ~…ちょっと甘えてんじゃないの?』
途端にルイズは混乱していた自分の思考がクリアになるのを感じる。
確かにここでこのままワルドと結婚すれば後は幸せで安泰な人生がまっているだろう。
だが、それは何かが違う。ルイズ・フランソワーズはまだ自分の力で誰も見返してはいないし何よりミントを元の世界に戻すという責任を果たしていない。
結局このままでは『ルイズ・フランソワーズ』というメイジの存在は否定され『フランシス・ド・ワルドの妻』という人物が生まれるだけだ…
確かにここでこのままワルドと結婚すれば後は幸せで安泰な人生がまっているだろう。
だが、それは何かが違う。ルイズ・フランソワーズはまだ自分の力で誰も見返してはいないし何よりミントを元の世界に戻すという責任を果たしていない。
結局このままでは『ルイズ・フランソワーズ』というメイジの存在は否定され『フランシス・ド・ワルドの妻』という人物が生まれるだけだ…
そんな事、認める訳にはいかない…結局自分の貫く生き方だけは自分で決めねばならないのだ。
心を決めたルイズは先程までの戸惑いを浮かべた表情を一変させてウェールズへと視線を真っ直ぐ向けた。
「誓えません。」
「なっ!?ルイズ??」
「何と?新婦はこの結婚を望まぬか?」
「はい。そのとおりでございます。お二方には、大変失礼をいたすことになりますが、わたくしはこの結婚を望みません。」
ルイズの予想外の答えにワルドは戸惑いを隠せないままルイズへと詰めよりその手を握る。
「どうしたね? ルイズ、気分でも悪いのかい?そうだろ?」
「違うの、ごめんなさい……」
「あぁそうか!!日が悪いなら、改めて……」
「そうじゃない、そうじゃないの。ごめんなさい、今のままの私じゃワルド、あなたとは結婚できない。」
そう伏し目がちに言って首を振るルイズ…
「何と?新婦はこの結婚を望まぬか?」
「はい。そのとおりでございます。お二方には、大変失礼をいたすことになりますが、わたくしはこの結婚を望みません。」
ルイズの予想外の答えにワルドは戸惑いを隠せないままルイズへと詰めよりその手を握る。
「どうしたね? ルイズ、気分でも悪いのかい?そうだろ?」
「違うの、ごめんなさい……」
「あぁそうか!!日が悪いなら、改めて……」
「そうじゃない、そうじゃないの。ごめんなさい、今のままの私じゃワルド、あなたとは結婚できない。」
そう伏し目がちに言って首を振るルイズ…
「何故だ!?言ったじゃ無いか、いつか君は素晴らしいメイジになる。そう、世界だ!!君の力があれば世界を手にする事だって!!」
激昂した様にワルドはルイズの両肩を強く掴む…そのワルドの豹変ぶりにルイズは驚くと同時にまるで悪い夢でも見ている様な強い恐怖を感じた。
激昂した様にワルドはルイズの両肩を強く掴む…そのワルドの豹変ぶりにルイズは驚くと同時にまるで悪い夢でも見ている様な強い恐怖を感じた。
「わ…私は世界なんて欲しくない!痛いわ、離してワルド。」
常日頃から世界征服等という世迷い事をルイズはミントの口から夢なのだと語られている。その大それた夢を語るミントの瞳は今思えば希望に輝き、その野望は聞いている方が元気を貰える様な物だ…
しかしワルドの瞳が映しているのは邪な欲望だ…ルイズは世界を手に入れると声高に語ったそのワルドの瞳を見て確信する。
「ルイズ!!僕の物になるんだっ!!」
叫ぶワルド…それは最早誰が聞いても恫喝の声にしか聞こえぬ恐ろしい声。
しかしワルドの瞳が映しているのは邪な欲望だ…ルイズは世界を手に入れると声高に語ったそのワルドの瞳を見て確信する。
「ルイズ!!僕の物になるんだっ!!」
叫ぶワルド…それは最早誰が聞いても恫喝の声にしか聞こえぬ恐ろしい声。
「嫌よっ!ワルド、今解ったわ。あなたは私を愛してなんかいない…あなたが欲しがっているのは私の中にあるなんて思ってる在りもしない才能……こんな侮辱初めてよ!!」
「子爵!!ヴァリエール嬢を離したまえ。彼女は君との婚姻を望まぬと言い、今はっきりと君を拒んだではないか?残念だがこれ以上は私も見過ごす訳に行かん。」
「子爵!!ヴァリエール嬢を離したまえ。彼女は君との婚姻を望まぬと言い、今はっきりと君を拒んだではないか?残念だがこれ以上は私も見過ごす訳に行かん。」
ルイズがワルドを拒むのと同時にウェールズがワルドの背中に声をかける…
ウェールズもミントとワルドそれぞれが語る『世界』の意味の違いを感じたのだろうか、その片手は自然と腰に下げていた杖に伸ばされていた。
ウェールズもミントとワルドそれぞれが語る『世界』の意味の違いを感じたのだろうか、その片手は自然と腰に下げていた杖に伸ばされていた。
ワルドはその様な状況になってようやくルイズの肩を掴んでいた両手を離す…
あまりに想定外の事態に些か取り乱してしまった様だ…ルイズから向けられる侮蔑と恐怖の込められた視線を受けながらワルドは残念そうに微笑みを取り繕う……
あまりに想定外の事態に些か取り乱してしまった様だ…ルイズから向けられる侮蔑と恐怖の込められた視線を受けながらワルドは残念そうに微笑みを取り繕う……
「こうまで言っても駄目かい?残念だよ…ルイズ。」
「当たり前よ…」
「それでは仕方ない…君の事を手に入れるのは諦めるとしよう。これでも道中君を籠絡させる為に色々と手を回していたんだがね、本当に残念だ。だが、だからこそあと二つの僕の目的は達成させなければ成らない。」
「二つの目的?」
その不気味な物言いにルイズはワルドが何を言っているのかが解らず頭に疑問符を浮かべる…
「二つの目的?」
その不気味な物言いにルイズはワルドが何を言っているのかが解らず頭に疑問符を浮かべる…
「一つは君の持つ王女の手紙の回収さ…尤も君とは依頼主が違うがね。」
そう言った次の瞬間、不穏な気配を感じ取ったウェールズが杖を抜き。だがそれよりも早く風の魔力を纏い光を放つワルドの杖による神速の突きがウェールズの胸を正確に貫いていた…
そう言った次の瞬間、不穏な気配を感じ取ったウェールズが杖を抜き。だがそれよりも早く風の魔力を纏い光を放つワルドの杖による神速の突きがウェールズの胸を正確に貫いていた…
「子…爵…貴様…」
「もう一つは彼の命だよ…ルイズ。」
「もう一つは彼の命だよ…ルイズ。」
「ワルド……まさか……あなた………」
ルイズは目の前の崩れ落ちるウェールズとその胸から杖を引き抜くワルドというその衝撃的な光景を信じる事が出来ず震える様に言葉を紡ぐ…
ルイズは目の前の崩れ落ちるウェールズとその胸から杖を引き抜くワルドというその衝撃的な光景を信じる事が出来ず震える様に言葉を紡ぐ…
「あぁ、そうだよルイズ。…僕はレコンキスタだ……」
そう言って口元を歪めたワルドを前にしてルイズは懐から杖を抜いてワルドへとその先端を咄嗟に向けた…
唱える魔法等何でも良い…ルイズは目の前の『敵』へと精神を集中させる。
そう言って口元を歪めたワルドを前にしてルイズは懐から杖を抜いてワルドへとその先端を咄嗟に向けた…
唱える魔法等何でも良い…ルイズは目の前の『敵』へと精神を集中させる。
「フラ「エアハンマー。」」
ルイズが呪文を唱え始めると同時にワルドも呪文を詠唱する。
それは決定的なメイジとしての力量の差だった。ルイズのコモンマジックがワンスペルで在るにも関わらずワルドの詠唱の完了の方が尚早かった…
それは決定的なメイジとしての力量の差だった。ルイズのコモンマジックがワンスペルで在るにも関わらずワルドの詠唱の完了の方が尚早かった…
瞬間、ルイズの杖を掴んだ右手に凄まじい衝撃が襲いかかる…
杖はその手を離れ遙か後方へと吹き飛ばされていく…
杖はその手を離れ遙か後方へと吹き飛ばされていく…
そして…
ルイズの右腕は肘から先が本来ならば曲がるはずの無い方向へと不自然に曲げられていた…
「いっ……ぁ……ぃゃ…ああぁぁぁぁ!!!…ぅぁ…」
自身にとって初めて感じるであろう形容しがたい激痛にルイズは思わず悲鳴をあげ、折れた腕を押さえる様に反射的に踞る。
(痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛いっ!!)
「フッ…言っただろうルイズ、君には間違いなく素晴らしい才能があるんだ。だから君の爆発の魔法を僕は評価している。しかしだからこそ君に魔法を使わせる訳にはいかないんだ。」
自身にとって初めて感じるであろう形容しがたい激痛にルイズは思わず悲鳴をあげ、折れた腕を押さえる様に反射的に踞る。
(痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛いっ!!)
「フッ…言っただろうルイズ、君には間違いなく素晴らしい才能があるんだ。だから君の爆発の魔法を僕は評価している。しかしだからこそ君に魔法を使わせる訳にはいかないんだ。」
ワルドの声も上手く理解出来ぬ程ルイズの思考は今痛覚によって乱されている。それでも今現在ワルドが自分に止めを刺そうとしているのは何となく理解はできた。
「い、嫌っ…助けて…」
「命乞いかい?だけど残念だ、僕はこれから君を殺す。」
ワルドはそう言って邪悪に笑う。
「助けてよっ…ミントッ!!!」
絶体絶命の窮地の最中、ルイズは無意識に叫んだ。己の使い魔の名前を…
___ニューカッスル城
今、ミントは息が乱れるのも構わず一心不乱に走っていた。
遡る事数分前。
粗方城内に残されていたお宝を回収し終え、ミント主観で価値の高そうなお宝の詰まった荷袋を担いで脱出の為に停留していたイーグル号の乗り込もうとそのタラップに足をかけた瞬間、ミントは自分の左目が妙な光景を映し始めた事に気が付いたのだ…
粗方城内に残されていたお宝を回収し終え、ミント主観で価値の高そうなお宝の詰まった荷袋を担いで脱出の為に停留していたイーグル号の乗り込もうとそのタラップに足をかけた瞬間、ミントは自分の左目が妙な光景を映し始めた事に気が付いたのだ…
(何よこれ……此処は礼拝堂?…ワルドもウェールズも一緒って事はこれもしかしてルイズの見てる光景なの?)
ミントも使い魔と主の視角共有の話は以前ルイズに聞いていた。しかし、問題はそこでは無い。ミントの視界に映るワルドの鬼気迫る表情は明らかにただ事では無く、ルイズの感じている恐怖心なのだろうかミントの胸に言いようのない不快感が襲いかかる。
「まずいっ!!」
あれこれ考えるよりも早くミントはデュアルハーロウを握りしめると礼拝堂に向けてその場から疾風の如く走り出した。
後ろ髪を引かれる思いではあるが回収した金銀宝石類が詰まった荷袋はイーグル号の甲板へ乱暴に放り投げる…
後ろ髪を引かれる思いではあるが回収した金銀宝石類が詰まった荷袋はイーグル号の甲板へ乱暴に放り投げる…
「どうしたよ相棒?急に走り出して、お前さんあの船に乗らなきゃ帰れないんじゃねぇのか?……はは~ん、さてはお前さんもよおし「そぉいっ!!」」
「……………悪かった…」
ミントの全力の投擲によって進行方向にある壁面に深々と突き刺さったデルフリンガーを走り抜ける様に引き抜いてミントは更にひた走る。感情の高ぶりが力を与えているのかそのスピードとスタミナは野生のディグレであろうと悠々と振り払えるであろう程の領域だ。
そして、左目の視界に映るワルドがどこか影を孕んで優しく微笑む…
ミントは通路の窓から大きく跳躍し、柔らかな花壇をクッションに飛び降りると現在地から礼拝堂までの直線を繋ぐ庭園を突き抜ける…
視界に映るワルドが突然に杖を抜いた…
ミントは目の前に聳える邪魔な城壁を睨み『ドリル』の魔法を発動させる…漆黒の螺旋はいとも容易く固定化のかけられた前方の強固な壁に大穴を開けた…
相変わらず左目は見たくも無い嫌な光景を映し続ける……ミントはギリッと唇を噛んだ…
胸を貫かれたウェールズの身体が力無く崩れ落ちる…
胸を貫かれたウェールズの身体が力無く崩れ落ちる…
目の前に礼拝堂が見えた…
次いで左目が映したのは歪に曲がった華奢な右腕…それは間違いなくルイズの物だった…
『助けてよっ…ミントッ!!!』
そうして礼拝堂の大扉を前にしたミント耳にルイズの自分を呼ぶ声が届く…
「ワルドォッ~~~~~~~~~~~~!!!!!!」
暴走した様に早鐘を打つ心臓でミントは跳び蹴りで大扉を蹴破ると同時に怒りの雄叫びを上げた。