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ウルトラ5番目の使い魔、第二部-85


 第八十五話
 ヤプール総攻撃! ネフテス首都アディール炎上!

 貝獣 ゴーガ
 古代超獣 スフィンクス
 さぼてん超獣 改造サボテンダー
 高原竜 ヒドラ
 友好巨鳥 リドリアス 登場!


 その日は、いつもと変わらないように始まった。

 人間の住まう地ハルケギニアからはるか東方、広大な砂漠地帯サハラに存在するエルフの国、ネフテスの首都アディール。
 およそ、生命の存在を拒み続ける熱と乾燥の大地に、エルフたちは優れた魔法と技術によって高い文明社会を築いてきた。
 ひとつひとつのオアシスを拠点にし、精霊の加護によって太陽の熱波から身を守ることで、砂漠の中にまるで島のように
都市や村を築き上げる。それらを空中船や幻獣を巧みに使って有機的に結合することにより、彼らは高度なネットワーク社会を
形成し、閉鎖的なハルケギニアの貴族社会をはるかに超える合理的な社会体制を育ててきた。投票により統領を選出することを
代表として、彼らの体制はむしろ地球に近いといえるだろう。

 アディールは、まさにその象徴というべき大都市であった。

 砂漠と海が交わり、青とクリーム色の二原色の風景の中間に、同心円状の広大な埋立地がいくつも作られている。それらが
集合して、海上に蓮の葉の群れのような直径数リーグにも及ぶ巨大な人工島を形成しているのが、アディールであった。
 その上にそびえるのは、高さ数十メイルから数百メイルの石造建築群。全体が日光を反射する白色の不思議な石材で
出来ていて、むしろ地球の高層ビルに相当すると呼んで過言ではないだろう。ニューヨークのマンハッタン島のビルディングを、
白色化したようなものと呼べば近いか。ともあれ、中世の様相を色濃く映すハルケギニアを圧倒的にしのぐエルフの力を
なによりも表す、エルフの誇りと自信をそのまま形にした大都市なのである。
 数万人のエルフがここに居住し、水路でつながれた区画はそれぞれ人間の街では考えられないほど整然と整えられて、
絵画の理想郷のような美しさが常に保たれていた。
 むろん、アディールには大都市たるべき理由と役割が備わっている。国境という概念を持たないエルフたちは、多くの部族に
分かれて砂漠の都市や集落に分散しているが、そこから代表となる議員を選出してアディールの最高評議会に送り込み、
話し合いによって政治運営をおこなっている。そのため、軍事・経済いずれにおいても中心となるアディールには多数の人口が
自然と集中して、ここを事実上世界最大の巨大都市へと成長させたのだ。

 ただ、いくら人とエルフの違いはあっても、そこに生きる普通の人々の営みにはなんらの変わるところはない。
 砂漠の各地から集められてきた様々な食物を売る市場、公園や街路には花壇が作られて、行きかう人々の目を楽しませる。
役所や騎士の詰め所、子供の通う学校から若者の集う大学まで、それらの中で様々な生活や商業がいとなまれていた。

 繁栄とはまさに、アディールのためにあると言っても過言ではないだろう。
 サハラのあちこちの都市が怪獣に襲われ、竜の巣で水軍と空軍が甚大な被害をこうむったことも、この街の住人からすれば
よその国の出来事のようなものだった。海には水軍の艦隊が停泊し、空軍の主力艦隊が呼べばいつでも来援してくれる。
エルフの最大の軍事力、すなわち世界最強の軍事力に守られたアディールにはまだ一度も怪獣が襲来したことはなく、住人も、
エルフの最高意思決定機関たる評議会議員たちでさえも、アディールを神聖不可侵と信じて疑っていなかった。


 だが……そんな美と力と繁栄の女神に愛されているようなこの都市に、悪夢のような一日が訪れようとは誰が想像したであろうか。


 いつもどおりの日……朝起きて、仕事や学校に出て、昼休みに昼食をとって歓談する、そんな特別とは縁遠い時間帯。
 日常という、ささやかな幸福を送るエルフたちを見下ろす高い建物の屋上の空間が歪み、人ひとり通れるくらいの異次元ゲートが
開いた。その中から姿を現す二体の宇宙人、一体は緑色の複眼と鋭いハサミになった手を持ち、もう一体は金色のマスクに
真っ赤な目を持っており、その手にはリング状の刃物を掴んでいた。

「ここがアディールとやらか……ククク、いるいる。うじゃうじゃとエサどもがな」
「へっへっへっへ。おいおい、なんだこの小汚ねえ街は? こんなもんをつぶすのにヤプールは俺さまの手を借りたいってのか? 
宇宙の海賊と恐れられる俺さまも、ずいぶんと安く見られたもんだなあ、おい」

 現れた星人のうち、緑色の複眼を持ったほうは街を行く人々を舌なめずりするように見下ろし、赤い目を持つ金顔のほうは
荒々しく乱暴な口調で街を見渡している。二体とも、かつて人類やウルトラ兄弟を苦しめた宇宙人の同族で、緑眼のほうは
ヤプール直属のエージェント、赤眼のほうはヤプールに雇われてきた傭兵の宇宙人だった。
「ふぅむ、総攻撃の予定がこんなに早まるとは驚いたが、ここはなかなかいいエサ場だ。牧場にするには悪くない」
「おい、無視ぶっこいてんじゃねえぞ。俺はてめえと違ってヤプールのしもべじゃねえんだ。つまらねえ仕事だってなら帰らせてもらうぜ」
「クク、まあそう慌てるな。武を誇るお前たち一族からしたら、暴れたくてしょうがないのだろうが、目的はただ破壊することだけではない。
それよりも、まずはこの街のエルフどもののんきな顔を拝んでおいたらどうだ? 恐怖に震える顔も、そう変わる前を知っていると
知らないとでは味も変わってこようて」
「へーへ、相変わらずてめえらの趣味の悪さは宇宙一だな。俺は暴れられれば楽しいんだが、まあ確かにこののんきにしてる連中を
ぶっ潰すと思うとわくわくしてくるぜ。ヒヒッ」
 異次元空間を通って、白昼堂々と街中に侵入を果たした二体の宇宙人。彼らは、しばらく安穏と過ごすエルフたちを冷たい
眼差しで見下ろしていたが、やがて飽きたのか赤眼のほうが投げやりな口調で言った。
「へっ、今や世界中で怪獣が暴れてるってのにいい気なもんだな。よっぽど守りに自信があるんだろうが、異次元空間を使えば
そんなものなんの役にも立ちゃしねえ。んで、どうするよ? てめえらご自慢の超獣軍団を出さなくとも、こんな街くらい俺さまだけで
ぶっ潰せるぜ」
「フ、焦るな。一気につぶさずに、じわじわと痛めつけてやれという命令なのだ。そうでなくてはマイナスエネルギーの収集効率が
悪いのでな。それに、楽しみはできるだけ長いほうがいいだろう?」
「まあそりゃそうだが、んじゃどうすんだ?」
「まずは挨拶としよう。ちょうど、この街には先人がおもしろいものを残してあるようだ」
 緑眼のほうはそう言うと、ハサミになっている手の先で、ある壮麗な建物を指して見せた。
「なんだい? あの四角い建物は」
「古美術館だ。エルフどもは芸術に優れていることを誇りにして、ああも大げさな建物を作って見せびらかしている。我々の感性からしたら、
形が奇妙なだけで役にも立たんガラクタをありがたがる気持ちは理解できんが、さらにこっけいなのは、その中身が災いの種だということも
知らずに、すばらしいとかぬかして拝むことだな」
「ふーん、だいたい読めてきたぜ。さっさとやれよ、俺は待つのは嫌いなんだ」
 赤い眼の星人は、緑色の複眼のヤプールのしもべをせかすように手に持った武器を振り回した。
 この星人は言動の荒々しさからもわかるとおり、知略をめぐらせるよりは実力行使を好むタイプである。だが、かといって武人タイプ
というわけではなく、不意打ちや弱い者への攻撃も平然とおこなう。要は性質が凶暴なのであって、それゆえに他の宇宙人からは
『無軌道』『無目的』『無計画』と三拍子揃ってありがたくない称号をたまわっている。が、反面そうした単純な凶悪さこそが、ヤプールの
気に入ったとも言えなくない。むろん、ほかにもこの星人を利用しようと思った理由はあるが、現在はまだそれを必要とはしていない。
 おもちゃをもらうのを待ちわびた子供のようにせかす星人に、緑眼のヤプールのしもべはなだめるように手を振ると、手のハサミを
開いて口先を古美術館に向けた。

「今、眠れるお前に力を与えてやろう。六千年の眠りから覚めて、大暴れするがいい! ハアッ!」

 ハサミの先から、目には見えない特殊なエネルギー放射線が放たれる。その放射線は美術館の壁をすり抜けて、ある一室に
安置されていた古い木彫りの像に吸い込まれていった。
「フフ、これでいい。さあ、目覚めて動きだせ!」
 台座の上に置かれた像、それは一見なんの変哲もない古い木像であったが、背中の部分にはエルフの古代文字でこう書かれていた。
『我らの子孫に継ぐ、ゴーガの眠りを決して覚ますことなかれ。我らの呪いの一端をこの身に封ず。災厄を忘れおごるとき、
六千年の呪いは蘇って、地はまた炎に包まれてゴーガとともに没すであろう』
 それは現在では古代人の迷信の類として、像はただの古美術品のひとつとして展示されていた。

 だが、伝説は本当であった。

 地震でもないのに、木像がコトコトと動いて、台座から落ちて真っ二つに割れた。その破片の中から這い出てくる、人の
拳ほどの大きさの奇妙な生き物。サザエのような殻を持ち、軟体の体の先には二本の角と、その先端に鈍く光る目がついている。
 床をうごめく不気味なカタツムリ……平日の昼間なので、人の気配もほとんどない美術館の中をそいつは無音のまま動き回る。
このままだったら、この気味の悪いカタツムリはすぐにやってくる誰かに見つかって、捕獲なり処分なりされただろうが、ヤプールの
エネルギーの込められた放射線を浴びせられたことで急激な体質変化が起きていた。
 ほんの数分後、その展示室に訪れた警備のエルフは、いつもとは違う部屋の様子に首をかしげた。
「おかしいな? こんなところに壁があったか、な……?」
 部屋をふさいでいるおかしな壁を見回して、最後に上を見上げた彼は絶句した。そこには、部屋を埋め尽くすほどに巨大な
カタツムリが粘液で覆われた首を持ち上げて、二つの目でこちらを見下ろしていたのだ。
 ありえない光景への茫然自失、そのとき巨大カタツムリの目から白色の溶解液が光線のように放たれた。カウンターで
身を守る暇もなく、短い悲鳴を最期に不運なエルフは一瞬で服だけを残して消滅してしまった。
 さらに、巨大カタツムリは全長五メートルほどの姿からさらに膨れ上がっていく。それに増して重量も増えていって、
美術館の天井は突き破られ、床は抜け落ちて石造りの壮麗な建物が轟音を立てて崩れ落ちていく。
「なんだ!? あ……なんだあれは!」
 突如として崩落した美術館の惨状に、近くにいたエルフたちは足を止めて美術館をみやった。
 厳選された真珠石でできた美しい建物は無残に崩れ去り、瓦礫の山へと変わってしまっている。
 だが、生き埋めにされた人を助けようとか、役所に飛んでいこうとかいう思考は一秒で消滅した。瓦礫の山を押し分けて、
街路に這いずり出てくる、山のように巨大なカタツムリ。その不気味でおぞましい光景に、人々は悲鳴をあげて逃げ惑い始め、
悲鳴を聞きつけて窓に駆け寄った近隣の建物のエルフたちも、ガラスの向こうに見えるこの世のものとも思えない生き物に
驚愕して、ある者は同じように悲鳴を上げ、ある者は腰を抜かし、ある者は目を疑い、ある者は一目散に逃げ出した。
 この中で、もっとも懸命だったのは即座に逃げ出した者であったのはいうまでもないだろう。ごく一部の者の中には
魔法を使って攻撃を試みた、腕に自信のあるエルフもいたが、二十メートルもの巨体を持つカタツムリの強固な殻はもとより、
粘液で覆われた軟体の体は攻撃をまるで受け付けずに、目から放たれる強酸溶解液でさらに数名が消滅させられてしまった。
 なにげない日常に突如乱入した異形の怪物は、邪魔になるものをその巨体と溶解液でつぶしながら突き進んでいく。

「きゃああーっ! なにあれっ!」
「逃げろ! うわぁぁっ!」
「軍はなにやってんだ! こ、こっちに来るなぁっ!!」

 エルフといえど、一般人の戦闘力はそう高くはない。増して街中には女子供や老人も多くいる。急いで逃げようとする者、
空を飛んで逃げようとする者、反撃を試みようとする無謀な者、逃げ遅れてほかの邪魔になる者がごっちゃになって、
とても統制の取れた避難行動はとれていなかった。
 無理もない……アディールの歴史開闢以来、この都市が敵襲を受けたことなどは一度たりとてなかったがために、
避難訓練はおろか、その意識さえも一切なかった。混乱が混乱を呼び、パニックの中で出なくていい怪我人が増えていく。
 好きなように暴れまわる巨大カタツムリ、その前進とエルフたちの狼狽ぶりを二人の宇宙人は愉快そうに眺めていた。
「あっひゃっはっはは! こりゃなかなかおもしろい見世物じゃねえか。なんだい、あの怪獣はよ?」
「貝獣ゴーガ、かつて地球でも暴れたことのある怪獣だよ。いずれこの街を攻め滅ぼすための内偵中に、偶然同種族が
封じられている像があるのを見つけてな。小型の怪獣だが、なかなかおもしろいだろう?」
 緑の複眼のほうが得意げに説明した。
 貝獣ゴーガ、それは緑眼のほうが言ったとおり、地球にも出現したことのある怪獣である。
 アウト・オブ・ドキュメント、すなわちウルトラマンが地球に来る以前の事例に記録があり、少なくとも二体の存在が
確認されている。一体目は六千年前に栄えた古代アランカ帝国を一夜にして滅ぼし、二体目はその別個体がアランカ帝国の
遺物である『ゴーガの像』の中に封じ込められていたものが復活し、東京に多大な被害を与えている。
 性質は凶暴で、進路上の邪魔になるものは容赦なく破壊して進む。しかし本来の伝説では、『街に悪がはびこり、
人々が心を失うときゴーガは蘇る』と伝えられるとおり、ゴーガが復活するのはもっと未来であったかもしれないのだが、
悪魔に利用されて蘇ったゴーガに容赦はない。首を振り回し、巨大なドリルにもなる殻で建物を破壊しながら、ゴーガは
我が物顔でアディールを暴れまわった。
 が、街中に突如怪獣が出現するという非常事態に不意を打たれたものの、首都防衛の使命を受けた軍は動き出した。
「おうおう、ようやくとおでましのようだな。お手並み拝見といきますかい」
 建物の屋上のへりに腰掛けて、赤い眼の星人は頭の上を飛んでいくエルフの竜騎士を見送った。彼らはゴーガに
気をとられているようで、白昼隠れてもいない星人に気がついた様子はない。

 首都防衛部隊に属する二十騎ほどのエルフの竜騎士たちは、愛騎の風竜たちにまたがって、暴れまわるゴーガを見下ろした。
「あれだな、化け物め。いったいどこからやってきたか知らんが、俺たちが来たからにはもう好きにはさせんぞ」
「隊長、相手はノロマです。全員の一斉攻撃でやっちゃいましょう!」
「待て! 街中で下手にでかい武器は使えん。私の合図とともに集中攻撃をおこなう。殻に攻撃は無駄だ、首を狙え!」
 壮齢に近づいた、歴戦の隊長の指示で竜騎士の部隊は散開した。
 空中でダンスを踊るような見事な隊列を組んでの編隊飛行。彼らはゴーガが街路の比較的広い場所に出るまで
チャンスを待ち、チャンスが到来した瞬間に迷わず攻撃に移った。
「今だ、全騎突撃!」
 一列縦隊を組んでの急降下攻撃、それは首都防衛を背負った彼らの使命感の強さと錬度の高さを如実に表すものであった。
 様々な魔法が威力を集約してゴーガの首に連続して叩き込まれる。いかに粘液質と軟体で打撃を吸収してしまうゴーガの
皮膚もその限界を超えて、千切れ飛んで体液が零れ落ちた。
「第二次攻撃、用意」
 苦しむゴーガへ向けて、彼らは快哉のひとつもなく再度攻撃に移った。敵を完全に倒すまでは決して気を許すことなかれ、
その一点においてのみを見ても、彼らが軍人として非凡であることがうかがえるであろう。
 だが、ゴーガもやられっぱなしなわけがなかった。ほこりをかぶった電球のように不気味に光るふたつの目の先から、
小型時よりも強化された溶解液を放射して竜騎士隊を狙い打ってきた。ジェット戦闘機すらピンポイントで狙える溶解液が
竜騎士を襲い、一瞬で次々に消滅させていく。
「ぬわーっ!」
「編隊を崩すな! 攻撃を続けろ」
 ゴーガの攻撃に仲間を失いつつも、エルフたちはゴーガを狙い続けた。攻撃を受けるごとにゴーガは怒り、巨体をのたうたせて
周辺の建物をなぎ倒していく。ゴーガは全長二十メートルと、ほかの怪獣に比べたら半分程度の大きさしかないが、それでも
街を破壊するには十分なパワーと二万トンの重量を持ち合わせている。
 攻撃を加え続け、しだいにダメージが蓄積していったゴーガは殻の中に首を引っ込めて、転がって移動をはじめた。
鉄筋コンクリートのビルでさえ一撃で粉々にする体当たりがアディールの市街を荒らしていく。エルフたちは止めようと
魔法を浴びせるが、水爆でも破壊不可能といわれるゴーガの殻はびくともしない。
「くそっ! このままじゃアディールが全滅してしまうぞ」
「空軍の艦隊が応援に来るまでにはまだ時間がかかるし、隊長!」
「ぬぅぅぅ」
 ゴーガは転がりながら、狭い水路くらいは乗り越えて区画から区画へと破壊の手を伸ばしていく。今のところは、誰にも
それを止めることは不可能であった。
 だが、彼らは転がり続けるゴーガを観察するうちに、あることに気がついた。ゴーガは一見、無秩序に転がりまわって
いるように見えるけれども、つぶされた家屋から火の手があがったところに戻ってこようとすると例外なく方向転換して
元来た方向に転がったりしていることに。
「あいつまさか、火が怖いのか? ならば、打つ手はある!」
 隊長は意を決して作戦を作成した。残余の部隊の中で、火の扱いの得意なものでゴーガの進行方向に火を放って行く先を
強制的に変更させ、すでに破壊されつくした地区に本隊が大規模な火炎の罠を組んで待ち伏せる。
 彼らはこれに賭けて実行に移した。むろん、すでに壊された場所とはいえ、エルフの建築技術が人間をはるかに凌駕
するといっても、自らの街に火を放つのは心苦しい。しかし、時には心を鬼にして取捨選択しなければいけないこともある。
日本の江戸時代の火消しは火災の延焼を防ぐためにまだ燃えてない家屋を壊して大火災になるのを防いだ。
 住民は避難している。建物はまた作り直せばいい。
 街の被害を覚悟の上で、エルフたちはゴーガを罠の張ってある地点へと誘導した。
「ようし今だ! 着火しろ!」
 ゴーガのポイント到達と同時に、仕掛けられていた油にいっせいに火が放たれた。同時にゴーガにも空中から油が散布され、
ゴーガはまるで焚き火にくべられた紙くずも同然に燃え上がった。
 全身に火が回ったゴーガはもだえ苦しみ、なんとか炎の圏内から逃げ出そうと転がるが、そこは風を操ることを得意とする
者が炎をあおって押しとどめ、ドリル状の殻で地底に潜ろうとすれば土を操れる者が食い止める。
 ゴーガの伝説にいわく、『アランカは罪と共に没す。ゴーガは火と共に消える』とある。ゴーガの弱点は高熱、かつての
ゴーガも自衛隊の火炎放射攻撃の前に敗れ去っていた。ゴーガの殻は頑強そのものだが、それ自体燃えてしまうのである。
 エルフとゴーガの必死の攻防は、ほんの一分にも満たなかっただろうが、彼らにとっては数時間にも匹敵した。
 ついに熱さに耐えられなくなったゴーガは殻から出て全身を焼け爛れさせて崩れ落ち、殻も激しく燃え上がった後に爆発四散した。
「や、やった……」
 ゴーガの最期に、エルフたちは気が抜けたように竜の上にへたり込んだ。
 まさに悪魔のような相手だった。少なからぬ仲間を失って、街にも甚大な被害を出してしまった。幸いこうして撃滅できたから
よかったようなものの、一匹でこの脅威……これが怪獣か、正直二度と戦いたい相手ではない。

 しかし、ゴーガなどは真の悪魔たちが動き出す前の、ほんのデモンストレーションに過ぎなかったのを彼らは知らない。

 ゴーガの爆発を見て、逆に快哉を叫んでいた者たちがいた。
「はっははは! やっと倒しやがったかよ。ずいぶんと待たせてくれたなあ、んでどうするよ? あの怪獣倒されたぜ」
「あんなもの、いてもいなくてもなんの変わりもない。それに、あの程度の怪獣すらどうこうできないようでは、あまりにも
張り合いがなさすぎるというものだ。赤子の手をひねるにしても、抵抗もしないのではむしろこちらが苦痛でしかない」
 赤子の手をひねることが楽しみと、緑眼の星人は平然と言い、赤眼のほうもそのとおりだとうなずいた。
 確かに、ゴーガはそんなに強い怪獣ではない。弱点さえつけば非常にもろく、もしウルトラマンと戦ったとしたら
スペシウム光線で簡単に焼却されただろうし、現在のCREW GUYSならば通常攻撃で問題なく勝てるレベルだ。
 単に、いたから使っただけ。強いて言うならば、エルフの軍事力のレベルを知りたかったからとでも言うべきか。もっとも、
すでに竜の巣で必要なデータはとれているから、余剰といえばそうでしかないのだが、とりあえずは無駄なあがきをして
楽しませてくれるだけの力は持っているらしくて助かった。
「さて、ではそろそろエルフどもを終わらない悪夢に招待しようか。あんな古代の残りかすとは違う、本物の悪魔をお目にかけよう」
「やっとかい。おい、俺も暴れていいのか?」
「もう少し待て、お前には後でやってもらうことがある。それまではまあ、私の手並みでも見物しているがいい」
 またお預けかよと舌打ちし、面杖をついて座り込んでしまった赤眼の星人を尻目に、緑色の複眼が冷たい光を放った。

「破壊と殺戮のショーの開幕だ。ヤプールが手塩にかけて生み出した悪魔の軍団、今こそ白昼のもとにお披露目しよう。
まずは先兵として、現れろ! 超獣サボテンダー! さらに、超獣スフィンクスよ!」

 天に稲妻が鳴り、アディールの市街に巨大な異形がふたつ姿を現した。
 ひとつは緑色の全身に鋭いとげを無数に生やした超獣、さぼてん超獣サボテンダー。
 しかしこれはただのサボテンダーではない。以前ウルトラマンジャスティスに粉砕されたサボテンダーの残留エネルギーを元に
強化再生させた、改造サボテンダーだ。地球攻撃に使用されたときは囮としての役割を担い、ウルトラ兄弟と戦うこともなく
回収されていたが、今回は本気である。
 そしてもう一体は、エジプトのピラミッドを守る人面獣身の魔物を模した怪物、古代超獣スフィンクス。
 ツタンカーメン王のマスクに似た顔と、頭部に生えたコブラのような触角に、黄金に彩られた全身は数千年の眠りについた
ファラオが悪霊と化して蘇ったかのようだ。かつて地球に出現した個体は古代星人オリオン星人に操られていたが、
今回はそのときのスフィンクスのデータを元にして再現した、一種のコピーである。ヤプールは以前にも、自身とは直接
関係のない満月超獣ルナチクスを再現してGUYSと戦わせている。
 むろん、再生体とコピー品とはいえ、その破壊力にいささかの手抜きも入ってはいない。

「ここからが本番だ。やれ! 存分に破壊せよ」
 市街地に出現した二体の超獣は、住民が驚く時間も与えずに破壊活動を開始した。
 サボテンダーのとげだらけの腕がビルのような建物を粉砕し、スフィンクスの頭部のコブラから高熱火炎が放たれて街を焼く。
 ゴーガの脅威からやっと解放されて、浮かれたりほっとしていたエルフたちの顔が再び引きつる。口からは怒号と悲鳴だけが
吐き出されて、街の壊れる音とシェイクされてパニックという名の不味いカクテルがぶちまけられた。
「なんなんだありゃあ! た、助けてくれぇ!」
「いゃあ熱い! 水、水はどこ!」
「精霊の、わぁぁっ!」
 それはハルケギニアの街々で繰り返された惨劇と、一切の変わりのないものだった。エルフといえど、本格的に戦闘の
訓練を受けたものはわずかである。延々と人間世界と戦争をしてきたとはいえ、生まれて今まで人間を見たことすらない者など
ざらであり、ただの商人や職人、学者などがいくら精霊の力を使えても戦えるかどうかは別のことだ。
 サボテンダーのとげがミサイルのように放たれて高層建築物を爆破し、スフィンクスの蛇になっている二本の尻尾の先端が
瓦礫を銜えて無差別に投げ捨てる。
 なにか目的があっての破壊ではなく、破壊のための破壊。生物兵器として作られた超獣の本領、それが存分に発揮されている。
ゴーガを倒したばかりで消耗している軍隊もおっとりがたなで駆けつけてきて戦うが、ゴーガより数段強い二匹の超獣には
まるで歯が立たない。
 人々の悲鳴を聞き、さらに力を増す超獣と、喜びの声をあげる宇宙人たち。
 しかし、絶望のさなかにあってなお、ヤプールを不快にさせる要素は残っていた。
「火中に取り残された人たちを助け出せ!」
 彼らは軍隊ではなかった。人間世界で言えば、衛士隊や自警団。地球風にもっと噛み砕いて言えば、警察や消防、
町内会や消防団に当たるような小規模な組織の人々だった。
 彼らは、軍隊が必死に超獣の気を引いている隙に、逃げ道を失って右往左往している市民を救おうと動き出していた。
「石に宿る精霊の力よ。我の命によりて動き、道を開けたまえ」
「我が契約せし水の精霊よ、水面より舞い上がりて雨となり、たける炎を鎮めたまえ」
「お前たち! 慌てずに水路まで行ったら水竜が待ってるから乗せてもらえ! ただし下手に飛んで逃げるな。狙い撃ちにされるぞ!」
 我が身を省みず、危急存亡のときに勇気を出した人たちによって、パニックの拡大は防がれて、エルフたちは超獣から逃げ延びていった。
 だが彼らは決して、特別なエルフではなく、人間社会にもどこにでもいる普通の町人たちだった。違うところといえば、彼らは
精霊魔法を使って瓦礫を動かし、火災を消火し、怪我人を治療したりしていたくらいである。どんな災害のときでも、無様に
うろたえるだけの者もいれば、普段目立たないのに勇者のようにふるまう者もいる。たとえその数は少なくとも、彼らに救われた
者たちは決してその恩を忘れない。
 暴れまわる超獣に対しての、ささやかな抵抗。が、それは確かに悪魔たちの愉快をそいでいた。
「ちっ、予定よりマイナスエネルギーの収集率が悪い。くだらんかばいあいなどをしおって」
 緑眼が、つまらなさそうに足元の石材を踏み潰した。組織的な行動ならば、その組織を乱せば抵抗も止まるが自発的な
行動であるならその全員を始末しなくては止まらない。平和ボケした連中しかいない街と見て、あっさりと絶望に染まるものと
見たのはいくらなんでも虫が良すぎたか。
 それに、緒戦は奇襲で一方的な戦いを演じられたが、エルフの軍も増援を得て組織的な抵抗を復活させつつある。
人間よりもはるかに竜の扱いに長け、強力な魔法武器を多数持つエルフの軍事力は人間のそれの数倍から、十数倍に
匹敵する。なによりも、アディールを守ろうとする彼らの使命感は平和ボケとは裏腹の位置にあった。
 しかし、それらの勇気ある行動は確かに悪魔どもの不興を買いはしたが、それ以上を得る力は持ち合わせなかった。

「所詮は、時間の問題だ」

 複眼の奥で冷酷な光が瞬く。
 暴れまわる超獣二体に対して、エルフどもの抵抗は意外にも粘り強かったのは認めてもいいだろう。けれども、いくら
水をやっても枯れる花をまた咲かすことはできない。狼を前に羊の群れがいくらわめいても、うるさい以上に狼は感じない。
 鋭い風の槍もスフィンクスの皮膚を通すことはできず、スフィンクスファイヤーが空をなぎはらって竜騎士たちを焼き払う。
 十数人の手だれの行使手が五十メートルほどもある、コンクリートビルそっくりな建物を宙に持ち上げてサボテンダーに
投げつけた。が、サボテンダーはすぐさま球形サボテンの形態に変形して転がりかわしてしまう。全体がとげに覆われた、
重量五万トンの球体が転がる破壊力はゴーガの比ではなく、固定化に近い魔法で補強された建物もひとたまりもなく
粉砕されてしまう。もちろん、中に逃げ遅れた人がいるかどうかなどは関係ない。

 我が身を省みないエルフたちの英雄的行動は超獣の進撃を遅らせ、多くの非力な市民を逃がすことに成功した。
 水路からは満載の船がどんどんと出て行き、逆に水軍に飼われている水竜たちが海中から集結してくる。

 それらは一見すると、ドラマチックなシーンに見えて、詩人や劇作家からしたら筆が進むといえよう。しかし、これは
そのままハッピーエンドにつながるクライマックスではなく、単なるつなぎのシーン、主演俳優たちが舞台に上がってさえ
いない序章なのである。
 そして、この劇に脚本化がつけた題名は『絶望』。
 誰一人希望を得ることなく、暗黒のふちに消え行く悲劇。
 英雄もなく、救世主もなく、悪魔が主役で始まって悪魔が主役で幕を閉じるように書かれたシナリオ。
 この劇の閉幕を飾るのは歓声と拍手ではなく、街が焼け落ちる音と断末魔の悲鳴。
 その変更は脇役ごときのアドリブで揺るぐことはない。

 ゴーガの出現で平和を破り、スフィンクスとサボテンダーの出現で安息の消滅を告げた序幕は、ようやくアディール上空に
駆けつけてきたネフテス空軍艦隊の出現によって、次のステージへの移動を決めた。

「さて、向こうの役者も揃ってきたな……そろそろ連中のささやかな希望もつみとってやるとするか。お前たちがわずかに
すがって待っていたボロ船がいかに頼りないかを見て、せいぜい絶望するがいい。この地に眠れる古代の怪物どもよ、
今こそ力を与えてやる!」

 ヤプールの邪悪な思念が、砂の中に潜んでいた巨大な生命を呼び起こす。
 はるかな地底から浮上してきて、砂中からアディールに急行する空軍艦隊を狙う何者か。砂は流砂となって水のように
渦巻きを作り出し、その中心から黒々とした甲殻が姿を現す。

 さらに、緑眼は空軍艦隊から目を離し、その複眼をアディールの別箇所に映した。
 空間を隔てて地上を見ることの出来る複眼が、ゴーガにも二大超獣にもまだ被害を受けていない場所にある、
エルフたちの学校を見下ろした。そこはトリステイン魔法学院などと同じく、幼年のエルフたちが集まって指導を
受ける学び舎である。
 生徒たちは戦場からは遠いここに集まって、迎えの船が来るのをじっと待っていた。
 しかし、安全なように見えたこの場所に集うエルフたちの足元に、新たな悪魔が忍び寄っている。
「くくっ、いるいる。良質なエサどもがたくさんいる」
 実年齢もルイズや才人たちとさして変わらないエルフの少年少女たち。その中の少女たちを、品定めをするように見渡す
冷酷な眼が空にあることを、彼女たちは知らない。

 壊滅への一本道を驀進しつつあるアディール。エルフたちの大半は、まだ事態がそこまで深刻だとは気づいていない。
 だが、唯一その破滅のシナリオに黒インキをぶちまけてやれるかもしれない船が、南から急速にアディールに近づきつつあった。

 渇きの大地から、一路アディールに向けて北進する東方号。大気を貫き、雲を引き裂いて飛ぶ鋼鉄の女王が、
砂漠に巨影をほんの一瞬だけかけては、音のような速さで通り過ぎていく。
 すさまじい速さ、現在の東方号の速度はゼロ戦をも超えてハルケギニアの乗り物で最速と呼んで間違いない。
 が、確かに東方号の機関はフル稼働し、プロペラは限界の回転を搾り出しているが、この加速は東方号の出力によって
生み出されたものではなかった。
「ミスタ・コルベール! 翼がミシミシ言い出してるわよ。この船、耐えられるの?」
「君もこの船を作った一人だろう、ミス・エレオノール? 作者が自分の作品を信頼しないでどうするね? それに、これでも
遅いくらいなのだ。あの二匹が力を貸してくれなくては、とうてい間に合わないところなのだからな……」
 コルベールはため息をつくと、艦橋の窓から艦首方向を見た。そこには、普通の生物では不可能な速度で飛ぶ二匹の
鳥怪獣の姿があった。
 ヒドラとリドリアス、ガランを倒したこの二頭は、一度はアディール方向へ向けて飛び去ったが、東方号がアディール方面へ
向けて飛び立つと、しばらくして戻ってきた。そのころ、東方号は全速力で飛行しても、アディールが攻撃されるまでには
絶対に間に合わないことに総勢焦っていたのだけれど、そこで彼らはまたしても奇跡を見ることになった。

 窓外に現れた、二匹の怪獣の巨大な姿。その威容に、エレオノールは「きゃっ!」と、少女のように飛び上がったが、
二匹は襲ってくる様子はなかった。
 そのまま二匹は東方号と並走して飛び、くちばしで東方号の艦首付近をしきりに指し示しているようなしぐさを見せてくる。
「なにかを、我々に伝えようとしてるのか?」
「まさか、相手は怪獣よ」
 二匹の訴えるようなしぐさをいぶかしむエレオノール。しかしビダーシャルは、そんな彼女の姿勢をとがめるようにかぶりをふった。
「待て、お前たちの狭い知識で結論を急ぐな」
「な、なんですって! よ、よりにもよってこの私に向かって、この私をバカにする気!」
「落ち着け、蛮人の学者。お前たちが蛮人とあざけられる訳のひとつが、その大いなる意志への理解の低さだ。言葉が
話せなければ知恵なきものだとでも思っているのか? お前たちのうちでも、知恵ある獣・韻獣の知識くらいあろう。
まして相手は神話の時代の生き残りだぞ」
 ビダーシャルの言いようが筋が通っていたので、エレオノールは歯軋りしながらも納得せざるを得なかった。
「やれやれ、ルクシャナを相手に先輩ぶりたいならば、もう少し柔軟な考え方をできるように心がけることだな。うかうかしていると、
あの子のことだ、あっという間に抜かれるぞ」
「う、うるさいわね! その涼しげな顔がなんとも憎らしいわ……で! あの二匹はなんて言ってるのよ」
「さあな、私には怪獣の言葉はわからん」
「なによ! 人にさんざん偉そうに言っておいて」
「お前、それでも学者か? わからなければ想像力を働かせてみろ。蛮人の学者とは、書物の丸暗記しか能がない歩く紙切れか? 
少なくとも、私の姪はそうするぞ」
 ビダーシャルの、試しているような目がエレオノールを直視した。学者とはいかなるものなのか、それを暗記した知識ではなく
実力で示してみろという眼差しが、エレオノールのプライドを刺激する。
 考えろ……考えろとエレオノールは自分を叱咤する。あの二匹の怪獣の考えていることを考える。怪獣としてではなく、
自分たち人間と同じだけの知能を有しているものとして……あの二匹がこの船にこだわる訳は? くちばしの指し示す先には
なにがある? ぐずぐずしていたら、ルクシャナに先を越されるぞ。
「もしかして……伝声管を借りるわね! 誰か、錨鎖庫に行って!」
 自分の思い付き、いいやひらめきを信じてエレオノールは叫んだ。錨鎖庫、つまり船の錨の上げ下げをコントロールする
部屋へ行くように伝えられて、ただでさえ人手が足りない艦内は困惑した。しかし、エレオノール女史こと先生の言うことを
聞かなくては後が怖いので、比較的余裕がある中から数人が抽出されて錨鎖庫に向かった。
 だがいったいなにを? 少年数人が息を切らして艦首の錨鎖庫にたどり着いたとき、エレオノールの声が響いた。
「錨を降ろして、長さ五十メイルで急いで!」
 奇妙奇天烈な命令だった。高速で飛んでいるときに錨を出せば、振り回されて危険なことになるのは目に見えているのにだ。
だが、エレオノールの眼鏡の奥の切れ長の瞳が、負けず嫌いと自信を適量にカクテルにした光を放っている。彼女は正気だ。
 東方号の艦首両方から、太い鎖でつながった錨が轟音をあげて降りていく。
「私の考えが正しければ……これで!」
 伸びていく錨の先を凝視する。すると、風に流されてたなびいていた錨をヒドラとリドリアスがくわえ上げた。
 さらにそのまま二匹は錨を引っ張って速度を上げた。すると、鎖でつながっている東方号も引っ張られて、しだいに速度を
増していくではないか。
「うおぉっ! は、速い。これはすごいな」
「やっぱり! あの二匹が私たちの味方なら、私たちをアディールに連れて行ってくれる。非現実的だけど、間違ってなかった」
 自分の中の固定観念をこそ疑え。すなわち、怪獣は未知のもの、未知のものは危険という固定観念。しかし、怪獣が敵だと
辞書にでも書いてあるならともかく、自分の頭の中に殴り書いたメモの記述などあてになるものではない。
 怪獣も味方になりうる。ドラゴンやグリフォンと家族同然になる人間だっているのだ。ならば、人間と共存できる怪獣がいても
不思議なわけはない。第一、自分たちは絶対に仲良くできるわけがないと言われてきたエルフと和睦しに来たのだ。怪獣と
和睦するなど、それに比べたらなにほどのことがあるか。
 どうだ、見たかと言わんばかりに胸を張るエレオノールを、コルベールは感心して、ビダーシャルは無感動ながらもうなづいて答えた。
「蛮人、いや人間も少しはやるな。どうだ? 声なき声に耳を傾けた感想は」
「別に、竜騎士なんかはみんなやってることじゃない。けど……学者が学ぶべきことはどこにだってある。それはわかったわ、ありがとう」
「礼を言われる筋ではない。しかし、これで間に合うだろうかな……?」
「今は祈るしかないわ。ヤプールが先か、私たちが先か……祈るしか、ないじゃない」
 遠い空のかなたには、まだなんの変化も現れない。それでも行くしか道はないのだ、苦悩も後悔も今は何の役にも立たない。
ただ、当たって砕けるのみである。コルベールとテュリュークも、息を呑んで前をのみ見つめる。
 ヒドラとリドリアスに引かれて、東方号は猛烈な勢いで風を切って進む。
 艦内では、銃士隊と水精霊騎士隊が忙しく駆け回り、エルフたちも客人に甘んじているわけにはいかないと、屈辱を押し殺して
彼らを手伝っていた。
 ギーシュがワルキューレで石炭をくべ、足りない石炭をギムリや手伝いのエルフたちが石炭庫から運んでくる。
 女子たちも、モンモランシーやラシーナが食事を作り運んでいく。
 ルクシャナはひとり、遺跡で得た情報の解析にあたっていた。
「船が加速したわ。どうやら、うまくいったみたいね。意見具申しようと思ったけど、エレオノール先輩に先を越されちゃったわ。
さて、得た情報は私の頭の中にしっかり叩き込んであるけど……この仮説が本当だとすれば……ね」
 自室にひとり閉じこもり、婚約者のアリィーもうるさいからと締め出して、ルクシャナは持ち込んだ資料の山に埋もれて考えた。
これまでのことから想像するに、大厄災の再現はもう目前にまで迫っているといえる。しかし、六千年のあいだに伝承が
歪められて伝えられたところを修正していくと……
「もしかしたら、私たちはとんでもなく愚かなことをしてたのかも、しれないわね」
 天井をあおいでつぶやいたルクシャナの表情には、落胆と希望へのまなざしが等価で交じり合っていた。

 そして、ゼロ戦とともに一人で戦いの支度をしていた才人の下へも、彼を思うひとりの娘がやってきていた。
「姉さん……どうしたんですか? 用事があるなら、呼んでくれたらおれのほうから出向いたのに」
「いや、わたしの個人的な用事さ。サイト、これから戦いが始まるな。その前に、お前と少し話がしたいんだけど、いいかな?」
 切なげに尋ねてきたミシェルに、才人は思わずどきりとした。言葉で答えはせず、コクピットから降りてゼロ戦の翼の前に
ミシェルといっしょに立った。機械油に汚れた才人の男くさい臭いと、戦塵にまみれながらもほのかな花のような香りの残る
ミシェルの匂いが、それぞれの鼻腔をくすぐる。
 広大な格納庫にふたりだけ……戦いに望む前の短い時間に、言葉と思いが交差する。

 北へ、北へ、ひたすら北へ。
 アディールは、まだ見えない。


 続く



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