あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

ゼロのドリフターズ-06



 シャルロットは両手で"地下水"を大きく振りかぶる――
唱えたルーンが魔法として形を為し、ナイフの刀身に絡みついた。それはそれは"長大な水の刃"。
メイジならば殆どが使えるであろう。火・水・風・土の四系統を属性として、その特徴を刃として纏う『ブレイド』の魔法。
されど大きさが規格外。普通ならば1メイル前後のもの、熟達者でも数メイルといったところ。
しかしシャルロットの"それ"は軽く10メイルにも及ぶ、さながら"水龍"が如くであった。

 重力に身を任せてシャルロットは大上段からゴーレムへと"ブレイド"を見舞う。
"水流"はその勢いを以て剣となる。鉄をも断ち切る"流水の刃"。
一直線にゴーレムを叩き斬らんとする"水龍"をフーケは反応出来ない。反応出来てもどうしようもない。
土ゴーレム相手に『土』では効果が薄い。『火』や単純な範囲魔法では周囲への被害が懸念。
『風』では鋭過ぎて修復されやすいだろう。よって『水』系統がおあつらえ向きであった。

 水龍は容赦なく、ゴーレムの頭部から真下方向へと、鞭剣のようにあっさりと切断していく。
ゴーレムの2/3程度まで両断したところで、水龍はただの水へと戻るとそのまま凍りついた。

 大きく削り裂けた断面を接合修復することも出来ず、さらに凍結によって動きにも制限が加わった。
シャルロットは『浮遊』をギリギリで唱えて受け身をとりながら地面を転がり、無事着地終えたところで叫ぶ。
「今です!! キッドさん!!」
「ああ!!」
ガトリング銃のリロードは完了していた。キッドはあまりの光景に驚くよりもまずクランクを回す。
否――狼狽えるのも馬鹿らしいほどの、驚愕の連続だった。今更だ。

 上半身が二つに分かたれた上に凍ってしまっては、修復・再生も不可能。
脆くなったゴーレムに駄目押し二度目のガトリング掃射を耐えることは当然無理であった。
瞬く間に巨人は崩壊し、咄嗟に魔法で減速して地に立つフーケをブッチがすぐさま回り込む。
銃で後頭部を殴り、抵抗する暇を与えず気絶させ――全てが終わった。


「まだまだ系統魔法の使えないお姉ちゃんにとって、"地下水"は魔法を使える道具と同時に"切り札"なんですよ」
崩れ落ちて原型が完全になくなり、ちょっとした盛り土の丘と化したゴーレム。
そんな残骸のすぐ傍に佇むシャルロットを妹は見つめる。
呆然とするアンリエッタをそのままに、ジョゼットは話し続けた。

 ――シャルロットだけが地下水を"最大有効活用"出来るその理由。
それは普通のメイジとは違う特異体質に起因する。
通常メイジの魔力は、個人と力量にもよるがおおよそ平均的な限界というものがある。
ドットよりはライン、ラインよりはトライアングル、トライアングルよりはスクウェア。
魔法の種類によっては、そのメイジの実力、その精神力によって、同じ魔法でもより強力に放つことが可能となる。

 地下水の『特性』の一つとして、これと近い性質がある。
所有者の魔力を地下水にプラスすることで、より強力な魔法を放てること。
この"特性"をシャルロットの"特異性"と併せることによって凄まじい作用を及ぼす――

 通常は精神力を消耗すれば消耗した分だけ、寝るなどして休まないと回復しない。
逆に言えば、休みさえすればまた元通り全開で魔法を使えるようになる。
しかしシャルロットは違う。魔力の容量が普通のメイジと比べて文字通り桁が違うのだ。
延々と注がれる器。だだっ広いプールに手桶でひたすら水を溜めるが如く、終わりが見えない特殊な器。
それほどの精神力――魔力をどこに溜めているのかはわからない。されどいくら寝ても全快することがないのである。

 そして年単位で貯めた魔力を地下水に足すと、一体どうなるのか。
歴戦のスクウェアメイジが使うよりも、強力な魔法を撃つことが可能となる。
貯めてある精神力を振り切ることで、通常の何倍、何十倍と威力を叩き出せるのだ。
魔力切れを起こす心配がまず無い上に、大容量の魔力は圧倒的な火力と継戦能力を実現する――


「――とまぁ、大体そんな感じです。実際に目にしたからわかるかと思いますが・・・・・・」
「そう・・・・・・ですね、信を置いていた理由はわかりました。そして、救われました」
「んっと、その・・・・・・終わったようですし、とりあえずみんなのところまで下りましょうか」
「えぇ、そうしましょう」
「他に"諸々"詳しいことはシャルロットから聞いて下さい。それと・・・・・・なにとぞ温情をお願いします。
 シャルロットにとって・・・・・・例えるなら"幼馴染"のような存在でもあって、かけがえのないものだから――」

「"幼馴染"・・・・・・ですか」
視界に映るシャルロットの他に、もう一人いる少女へと自然とアンリエッタは目がいった。
かけがえのない彼女もまた、自分の為にあのゴーレムに向かっていったのだろう。
無事であることに心底喜ぶ。まさに半身が裂かれるような思いであった。

「大丈夫です、悪いようにはいたしませんわ」
アンリエッタの表情が和らぐ。
つまりはシャルロットにとってその地下水とやらの存在は、わたしにとってのルイズのようなもの。
切っても切れない仲を引き裂くなど・・・・・・。それも恩人を相手に無下に出来るわけもなかった。
むしろその力は王家に、国に、民にとって大きな力となってくれるかも知れない。

「ありがとうございます」
本当に大丈夫だろうと、ジョゼットは様子を見て確信する。
(う~ん・・・・・・よかったよかった)
やむにやまれぬ状況だったとはいえ、自分が暴露した所為で姉が悲しむハメになったら悔やみきれない。
場合によってはあの手この手で交渉しようとも思ったが、王女さまは存外あっさり受け入れてくれた。

(それにしても・・・・・・久々に見たけどやっぱ凄いな~)
シャルロットが放った猛威。馬鹿みたいな威力で放つのを見るのは、もう何年振りだろうか。
これまで魔法が使えず――練習はしてるものの――魔力だけがひたすらに有り余るシャルロット。
そして魔法が使えない者でも、魔法を使うことが出来るようになる地下水だからこそ為し得る最高の相性。
それこそが"最強の攻撃力"と、"無敵の防御力"を有するに至るお姉ちゃん。

 今回の一件で"ある程度"バレてしまったが――
このことはお父さまもお母さまも、伯父さまも伯母さまもイザベラお姉ちゃんもみんな知らない。
わたし以外の家族のみんなは、"地下水の効果"によって"魔法が使える"ということしか知らない。
ずっと傍で一緒に育ってきたわたしだけが知っていた。わたし達と地下水達だけが知るお姉ちゃんの秘密。

(うんうん、やっぱり――)

 シャルロットは――格好良くて、頭が良くて、とっても強い――わたしの最高のお姉ちゃんだ。


「オイオイ聞いてねーぞ!! 何だ今の!?」
「魔法・・・・・・使えたんだ?」
ここまで来たら二人・・・・・・いや三人には話さねばならぬとシャルロットは事情を話す。
魔力のこと、地下水のこと、切り札として隠していたこと。
一切合切を語った――


「――そう・・・・・・だったんだ」
事情を知り沈んだ表情を隠し切れないルイズ。
今のルイズの気持ちは慮れない。魔法を使えない者同士で意気投合をしたのに、まがりなりにも魔法が使えるなど。
「ごめんなさいルイズ・・・・・・。でも私は道具に頼らなければ貴方と何も変わらない」
言い出せなかった、ルイズと仲が良くなるほどに。
地下水そのものの危険性も含めて。いざという時の切り札として。誰にも知られずという気質の所為で。

「・・・・・・ん~ん、違う。わたしじゃ何も出来なかった。力があったとしても・・・・・・恐くて・・・・・・情けない」
そうだ、シャルロットだからこそ物怖じせずに、冷静に対処出来た。
魔法が使えない同士は単なるキッカケであり、少し悲しくもあるがシャルロットの気持ちは理解出来る。
「それにシャルロットはわたしなんて・・・・・・てんで及ばないくらい努力してるの、知ってるもの」
自己嫌悪に陥るルイズに、シャルロットがどう言おうか悩んでいるとブッチが口を開く。

「ガキなんだから恐くて当たり前だろ、肝が据わってるコイツがおかしいんだよ」
数ある死闘を繰り返してきて、ガンダールヴを刻むブッチですら物怖じしたのだ。
今まで平々凡々と過ごしてきた少女一人が恐怖したとて、誰が責められようというもの。

 まさかのフォローにルイズのみならずシャルロットとキッドも驚く。
ルイズに代わってフーケに喧嘩を売ったことといい、少しだけ心境の変化が垣間見えた。
「んなことよりもアレだアレ」
ブッチが、フーケが盗もうとしていた物を指差す。

「ああ、そうそう何で"ガトリング銃"が・・・・・・勝手に使っちゃったけど」
ついつい使ってしまったものの、漂流者の二人にとって疑問は多い。
「緊急でしたし仕方ないかと・・・・・・。それにしてもなるほど、あれが話に聞いたガトリングでしたか」
ワイルドバンチがいた異世界の話の中で出てきた連発銃の話をシャルロット思い出す。
恐るべき威力であった。あんなものが戦場に投入されたらと思うとどうなることか。

「まぁお二人と同じで、きっと"漂流物"でしょう。物品が単独で流れてくることも、ままあると聞きます」
それが何らかの形で学院へと保管されるに至ったのだろう。
20メイル以上の高さから落下しても壊れなかったのは、『固定化』や『硬化』が掛けられていたからだろうと説明する。
「ははぁ~」
「なるほどね」

 話が一段落したところで、風竜が地上まで降下してきて、ジョゼットとアンリエッタが皆の前に立つ。
「姫さま!! ご無事で!?」
「えぇルイズ、あなたこそ大丈夫?」
「はい。・・・・・・三人が助けてくれましたので」

 シャルロットはジョゼットをチラリと見る。
(ごめん、シャルロット。ナイフのこととか話しちゃった)
ジョゼットは口パクとジェスチャーで、諸々話したことを伝える。
(ん・・・・・・しょうがない)
シャルロットは表情と頷きで返す。ジョゼットが話したと言うなら、話さざるを得ない状況だったということだ。

 ルイズの無事を確認し、アンリエッタはシャルロット達の方へと向く。
「ありがとう、シャルロット、キャシディ殿、キッド殿」
「はい」
「おう」
「ああ」
まずは純粋な感謝の言葉。三者三様の返事。
次いでアンリエッタは神妙な面持ちでシャルロットを見つめる。

「シャルロット、お話は聞きました」
「・・・・・・はい」
どうにも反応しづらい。騙していたわけではないが、黙っていた。
どうあっても後ろめたさがある。地下水の存在も放置しておくには危険だろう。

「・・・・・・地下水、危険なもののようですね」
「王家の命令であれば、すぐにでも封印に応じましょう。ですが・・・・・・破壊だけはしないで欲しいのです」
インテリジェンスナイフ――意思を持つ武器。
途方もない時間を生きてきた存在で、幼い頃から私を支えてきてくれた。
困ったり悩んだ時には相談役にもなってくれた。情がある。絆がある。
それを破壊するなど――殺すことなど・・・・・・とても耐えられない。
「いいえ」
アンリエッタはまるで肉親を失うかのような表情を浮かべるシャルロットの手を取る。
「シャルロット、あなたの想いはしかと受け取りました。それにわたくしに出来ることは感謝以外にありません」

 シャルロットと地下水がいなければ、ゴーレムは倒せなかったし、フーケを捕えることも出来なかっただろう。
そうなれば誰かを失っていたかも知れない。そんなことは絶対に忌避すべき事態であった。
既に信頼は証明されている。感謝こそすれ、咎めることはない。魔道具に関しても彼女の管理下であれば大丈夫だ。
近く国家をあずかるものとして甘いかも知れない。
それでも自分が認めた友すら信用出来ない"女王"に一体何が出来るというか。

「これからもその力を、あなたと、あなたの周りと、そして出来うることならば・・・・・・国の為にも使って下さい」
シャルロットは感極まる。まさかそんな言葉を掛けられるとは思ってもみなかった。
目尻に涙が溜まる。握られた手から温もりを感じる。

「わたくしはシャルロットを信頼していますから」
アンリエッタは「彼女のようにね」と付け加えるように、ジョゼットへとチラリと目を向けてすぐに戻す。
シスコンであることに気恥ずかしさを覚えて、ジョゼットの顔がにわかに紅潮した。

 昨夜話していた時に幾度も見た――王女殿下の屈託の無い笑み。
この段に至って、お礼や謝罪はもう不要であった。

「はい、アンリエッタ様」


「あ~・・・・・・報酬はまだかよ。焦らすなあ、お姫さんもよ」
"『土くれ』のフーケ"『破壊の杖』盗難未遂事件。この一件はアンリエッタの裁量で一部改竄される形となった。
幸い精細な目撃者もいなかったので、問題なく落着した。

 内部犯"ロングビル"こと本名を"マチルダ・オブ・サウスゴータ"。
元はアルビオン王国のサウスゴータ地方を治めていた貴族の娘。
お家が没落してからは盗賊に身をやつし、ただのマチルダから名を変えてフーケとして活動。

 フーケはロングビルとして学院に潜り込み、王女殿下と護衛部隊の情報をもとに盗難を決行した。
襲撃によって学院が混乱の最中、二人の従者が未然に強奪を防いだという事件概要。
漂流者で使い魔である従者二人が、盗まれそうになった漂流物――"破壊の杖"――を使用した。
またジョゼットの援護もあって撃退。ロングビルもとい土くれのフーケは投獄された。

 ロングビルをロクに調べることもなく、秘書として採用していたオスマンは軽度の処罰で済んだ。
また学院の警備体制や危機管理が一度見直されることになる。
そして今回の事件を解決した三人のメイジ及び二人と一匹の使い魔には、報酬が送られるとのことである。

 アンリエッタは風当たりが多少悪くなった。
結果的に捕えたとあっても、私事によって事件が起こったのが事実。
されど・・・・・・それでも何か決心することがあったのか。
以前よりも精力的に、強い意志で事に励むようになった。
――と、父や伯父伝いに噂に聞いたシャルロットは、ルイズにも伝えて互いに一安心する。

「私とブッチさんとキッドさんは、立場や所属がややこしいですからね」
「まっ・・・・・・気長に待つかあ」
別段不都合は今のところない。忘れられては困るが、そうでなければ焦ることもなかった。
ブッチはふんぞりかえって部屋の天井を見る。ふと左手を上げて甲に刻まれたルーンを眺めた。
「微妙に不便だよな・・・・・・コレ」
『ガンダールヴ』。思わぬ授かりもの。
武器を目的として作られた物を持つことで、身体能力が著しく向上する。

「常日頃から発動しないのがな」
もう何度も実感しているその効果。しかしあくまで武器として作られたものでしか反応しない。
身につけておくだけじゃなく、しっかり握り持たないといけない。

「でも日常ずっと超人的だったらそれはそれで困ると思いますよ」
「あ~・・・・・・まあそりゃそうだが」
今のところ手加減しようと思って出来るものではない。
慣れるかどうかもわからないし、ウッカリした時に惨事になりかねない。
女一人抱くのにすら必要以上に気を遣い張ってなくちゃいけないなんて面倒過ぎる。

「だけどもうちょっと融通利いてもいいと思うんだよな。仮に俺が今キッドと決闘しても有利にゃ働かねえ」
「・・・・・・何故だ?」
「早撃ちじゃ勝てねーんだよ、銃を握るまでは凡人だ。先手とられたらまず負ける。
 俺よりも先に素早く抜いてかつ正確に当てられたら、発動して避けきる前にやられる」

 ガンダールヴはあくまで武器を持つことで初めて発動する。
キッドが銃を抜いて弾を当てるまでに、握り、発動させ、回避行動の為の動きをするまでには撃たれてしまう。
「でもこっちでの銃士同士の決闘なら問題ないと思いますよ、まず銃の性能が違います」
そう――ハルケギニアでは所詮火打ち式だ。その上で練度も違う。
しかもガンダールヴで最速で確実に照準をつけられるのであれば、メイジ相手であっても遅れをとることはない。
「そうだけどよ、論点がズレた。要するに不意打ちにも弱いんだよ。発動前に終わっちまう。
 常に武器握ってるわけじゃねえし、いざって時に能力発揮出来ずに死んじまう。もったいねえ」

「なるほど」
キッドが相槌を打つ。神の左手『ガンダールヴ』。ひとたび武器を持たば超人化、されど持たざれば常人と。
確かにもったいない、もったいないが――
「そりゃ贅沢だ」
「求めたらキリないのはわかってるがよ」
結果論で言えば召喚から契約までメリットしかなかった。
言語も通じるし、生活も保障され、便利なルーン付き。至れり尽くせりと言える。

「・・・・・・この力が前の世界にあればな」
あのクソッタレなボリビア騎兵隊すらものともしなかっただろう。
馬を走らせつつ通常の射程外から狙撃してもいい。
隊伍を組んで弾幕を張られる前に引っ掻き回して暴れるのも良し。
少人数相手なら銃弾を避けるのも難しいことではない。撃って奪ってを繰り返していくらでも逃げ切れる。

「『ミョズニトニルン』は・・・・・・あっちじゃ役に立たないな」
見えはしないが、なんとなくキッドは額を覗くように目を上に向ける。
こっちの世界から元の世界へと、道具を持ち込みでもしない限りどうしようもない。


 シャルロットは二人をよそに独りごちる。"決闘"――それ自体はメイジ同士でもなくはない。
素早い詠唱で華麗に決める者もいれば、まずは防御に専念してじっくり決める場合もある。
機動力や火力、系統の相性も大きく関わり、その展開は多種多様である。

(私は・・・・・・)
詠唱速度も静音性も、何より魔力にも自信はある。
けれどもし実際に決闘の段になった時、力を発揮出来るかは甚だ疑問であった。
ついこの前・・・・・・一度しかない実戦――否、あんなものを経験として数えていいのか。

 それこそ横合いから非生物の巨大な的を相手に、思い切り不意打ちしたに過ぎない。
自分自身が命のやり取りをしたわけではない。まともに相対することもなく一方的に薙ぎ払っただけだ。
いざ向かい合って相手の敵意の渦中で実力を出し切れるのか。相手に呑まれたりはしないだろうか。
決闘に限らず、今後あらゆる状況で戦っていく上でそれは大きな問題だ。

 人の命を奪う行為への躊躇い。状況によっても変わってくるだろう。
興奮状態で何の感慨もなく殺せるのか。運良く平静に対処し得るのか。
頭を回し過ぎてその隙を突かれて呆気なく死ぬのか。あらゆる重圧に何一つ出来ずに終わるのか。

 "死"そのものすら間近に体験したことはない。
幸いにも生まれてこのかた何不自由なく生きてきた。
魔法が使えなかった程度のことなどは、不自由の内には入らない。
五体満足に家族皆が平穏に暮らせてこれたのだから、それ以上望むべくもない。

 だからこそ頭の中の知識にしか過ぎない"死"が怖い。
実際に体験してこそ、本当の意味で蓄積されることは誰もが知っている。
自分の膨大な魔力を全て、回復の水魔法に注ぎ込んでもどうしようもない。
ひとたび失えば、決して取り返しのつかないこと。生き返らせることは誰にも不可能だ。
昔からやたらと考え込んでしまう性格だからこそ、いつも悩み続けていること。

 頭を空っぽにでも出来れば――開き直れるのならなんと楽なことだろうか。
(ジョゼットなら・・・・・・)
妹ならきっと悩みながらも適度に抜いて柔軟に折り合いをつけるに違いない。
キュルケなんかは割り切って考えるタイプだ。ルイズは・・・・・・よくわからない。

(そして・・・・・・)
――人は慣れる生き物だ。肉体鍛錬も最初は苦痛だった。
それでも次第に慣れてきて、今では日課としていつものことだと思う程度。
魔法を使えない劣等感も、正直に言えばかなり慣れていた部分があった。
地下水の存在のおかげも当然ながらあったが、それ以上に心が何も思わなくなっていった。
侮蔑でも同情でも、様々な視線で見られることをまるで気にしなくなった。

 それは精神が安定を求めるからなのか。本能として環境に適応しようとするからなのか。
何度も経験として蓄えられることによって順化していく。無意識の内に何も感じなくなっていく。
いずれは人を殺すことそのものにも何一つ感じなくなるのかと思うと、それもまた恐ろしかった。

(そう・・・・・・目の前の――)
キッドとブッチ。前の世界では金、物、命さえも奪ってきたワイルドバンチの二人のように。
(それに父様も・・・・・・)
父も職業柄、何人もの命を奪っている。伯父だって昔は多分――
(地下水もそうだし・・・・・・)
地下水は元々凄腕の暗殺者だ。廻り巡ってガリアに落ち着き、"北花壇騎士"として年季あった人殺しだ。
"地下水"の名もその頃に付けられたもので、本名は本人も忘れている。
インテリジェンス・アイテムの意思はそれこそ人間とはちょっと違うものの――
本人は過去に大勢もの人間を殺してきたと言っていた。それこそ善人悪人問わず。


 いつかは通る道、ゆえにこそ――
(最初はせめて死なず・・・・・・)
死んだら元も子もない。全力を尽くして死ぬのならまだしも、出し切れずに死ぬのは歯痒い。
なまじ強いからなおのことだ。十全に戦えるようになるまで死にたくない。
自分が死ぬことも怖いし、誰かが死ぬのも怖い。残された家族や友人を悲しませたくもない。

(叶うなら誰かを守る為に・・・・・・)
守る――自分の命でも、他者の命でも。
何かしらの大義名分があれば、理由付けがあればいくらかは精神的に楽だ。

(欲を言えば同情の余地すら一切感じないような相手・・・・・・)
戦争時など命令に従うだけの敵兵などではなく、いわゆる純粋な悪人。
死んで然るべき人間が相手であれば、罪悪を感じなくて済む。

 そしてなるべく意義を見出したい。可能な限りい、相手の死だろうと単なる無駄にしたくない。
所詮は自己満足だけれど、そうやって我が道を征きたい。

(それでも・・・・・・慣れたくはない)
同時に思う。殺すようなことに慣れたくはない。
誰もがそうなのだと、諦めるのは簡単だ。経験を積み、慣れることで得られるメリットもあるだろう。
だけど否定する。他者の持つ権利を奪うこと。向き合わなくちゃいけないことから逃げてはいけない。
"諦めることに慣れてはいけない"から。

 『あきらめ』が人を殺す――諦めとは終わりであり、終わりとは"死"に通じる。
諦めることに慣れていくということは、いずれ死ぬこと・・・・・生きることを諦めてしまう。
ここぞという時に、踏ん張らなくちゃならない時に・・・・・・よぎってしまう。

 死ねばそこで終わりだ、何も残らない。生きている間にこうして考えてることも全て露と消える。
その前に何を為したのかも、その後にどうなるかも。そこからあがこうとしても、関知の埒外である。
だからこそ"いつだって死には抗ってなきゃならない"。決して終わらせない、何事も諦めてはいけない。
そこから新しく生まれることもあるかも知れない。その気概が可能性を切り拓くかもわからない。
――"『あきらめ』を拒絶した時、人間は人道を踏破する権利人となる"。

 もう今は覚えていない・・・・・・いつだったかどこかで感銘を受けたこと。
思考の飛躍であり、極論かも知れない。時には矛盾することもある。ままならない人の心。
だがいずれにせよ――
(常に考え続けることが大事だから)
いつだって思考を止めてはいけない。いつもの結論。
たとえ意識とは無関係に慣れてしまっても、常に自覚することで見えてくるものもあるだろう。

 憂鬱な気分を振り払ったその時、ドタバタと階段を登ってくる音が聞こえてくる。
デジャヴュを感じる三人、一瞬嫌な予感が走った。
されど遠慮なしにドカッと扉を開けて入ってくるルイズの表情は、実に晴れやかなものであった。

「はぁ・・・・・・はぁ・・・・・・姫さまから手紙が届いたわよ!!」



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