あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

第6話『苦悩』


悩みというのは多かれ少なかれ誰もが持っているものだ。
このトリステイン魔法学院にも多くいる。

一人目は憂鬱げにため息をついたまま、闇夜にたたずむ褐色肌の少女。
雲の切れ目から、朧げな月明かりが彼女のいる広場を照らす。

光に映し出された少女の名はキュルケ・アウグスタ・フレデリカ・フォン・アンハルツ・ツェルプストー。
普段の彼女なら、この時間は言い寄ってくる男と一時の微熱を楽しむ頃だ。

それがキュルケの日課となっていたが、今宵は一人きりでいたかった。
今彼女がいるのは、ほんの半日前にルイズとギーシュの決闘が行われた広場。

地べたに座るのは躊躇われたので、練金で作られたベンチに座っている。
自身の生活に当たり前だと思われていた魔法。
彼女の悩みは、その魔法が使えない隣室の少女について。

『貴女も私が家柄だけの『ゼロ』だって言いたい訳?』
普段のルイズからは想像もできない冷淡な一言。
それが何時までもキュルケの心に突き刺さっていた。
決闘騒ぎになったのは、確かにギーシュの失言が原因だろう。
だが、あそこまで彼女を追い込んだ一人が自分だとキュルケは考えていた。

キュルケはルイズに悪い感情を抱いていない。
むしろルイズは認めていなくても友人のように思っていた。
しかし、こちらが一方的に思うだけでは何の意味もないのだ。
ルイズに対して、遊び半分で彼女の嫌う『ゼロ』の呼び名を使った事は何度もある。

誰よりも貴族らしくあろうとする彼女。
卑語くらいでは傷つかないだろうという身勝手な思い込み。
こちらは冗談のつもりでも、彼女の心を傷つけていたのだと気付かされた。

彼女との溝を深さを埋める方法は簡単である、謝ってしまえばいい。
できない理由は二つ。
キュルケ自身の性格と、プライド。
素直にごめんなさいと言えるほど、可愛い女ではないと自覚していた。

プライドに関しては頭を下げるのに抵抗がある訳ではない。
こちらが真剣に詫びれば、許してくれるだろう。
だが、傷つけてしまったお詫びを口だけの謝罪で済ませる。
そんな事はキュルケが自分を許せそうにない。

彼女にお詫びをしつつ、またいつもの関係に戻れる方法。
答えのでない難題に頭を悩ませていると、頬に冷たい瓶が当たった。
小さく驚きの声をあげて振り返る。
コップとワイン瓶を持ったキュルケとは対照的な体格の青髪の少女──タバサがいた。

「飲む?」
感情を滅多に出さないタバサ。
キュルケには長い付き合いから心配してくれているのだと分かった。

「うん、ありがとう」
親友の気遣いにお礼を言うキュルケ。
この素直さをルイズに少しでも向けていれば、事態は複雑になっていない。



タバサも悩みを抱えている人物の一人。
彼女の悩みは吸血鬼の退治と言う困難な依頼。
依頼を断れず、誰にも話せない理由がある故に助けを求める事もできない。

詳細は不明だが、従姉妹がわざと情報を寄越さないのだろうと推測する。

吸血鬼というのは熟達したメイジにとっても最悪の敵だ。
先住魔法を使い、普段は人と区別もできない為に妖魔と呼ばれ恐れられている。

タバサは目の前の親友が悩む主因、『ゼロ』と呼ばれるルイズが妖魔を呼び出した事を思い出す。
もし彼女の協力が得られれば──と考えるも、使い魔でもあるために彼女はルイズに付きっきりだ。
協力を得ようとすれば、ルイズにも説明する必要が出てくる。

自分の真意に、誰かを巻き込むつもりはなかった。
親友であるキュルケにでさえ、話していないのだから。
タバサは親友に気づかれないように心中でため息をついた。



──同じ頃、ルイズも自室でため息をついていた。
アセルスと並ぶのに恥じない貴族になってみせよう。
意気込んだルイズだったが、決闘という規則を破った為に罰が下される。

『明日の朝、学院長の元へ来るように』
秘書から言付けを預かっており、最低でも自室謹慎は免れないだろう。

魔法を使おうとすれば、爆発が起きる。
爆発を行使する抵抗感こそはなくなったが、室内で練習をする訳にはいかない。
もとより座学に関してはトップになるほど勤勉な彼女である。
教本の類は読み尽くしていたし、図書館は本を取るのにフライが必須だ。

フライがなければ利用できない図書館は、欠陥建築ではないだろうか?
平民だけで清掃を行えないので、わざわざ司書のメイジに頼まねばならない。

制服がスカートなのも女学生は困る。
上段の高さまで飛ぶと、下からはスカートの中が丸見えになる。
以前、ツェルプストーの友人であるタバサにその事を教えた時はお互い気まずかった。

話が逸れたので元に戻す。

このままだと謹慎期間中、無為に時間を過ごさねばならなくなる。
充実した気力が空回りするのは耐えられない。

明日は虚無の曜日、謹慎期間を受けるとしたら明後日から。
魔法に関する参考書を外で買い溜めして、謹慎期間中に読む事にしよう。
アセルスの服も替えがないままだ。
いずれは城下町へ買いに行く必要があった。
朝、アセルスが戻ってきたなら出かける事を伝えよう。

明日の予定は決めた。
次に今日やるべき事を思い起こす。
決闘での感覚を忘れないうちに復習しておきたかった。

爆発を思い通りに制御する。
アセルスの手助けなしでも、出来るようにならなければいけない。
使い魔に頼り続けるようでは、主人とは言えないのだから。

決意を胸に日課となっている魔法の練習を行うべく、外へ向かった。



──ルイズが魔法の練習をしている頃、彼女の使い魔について悩む者もいた。
学院長のオールド・オスマンである。
水パイプを取り出そうとして……念力で取り上げられた。

「一服くらい見逃してくれんかのう、ミス・ロングビル」
「何度目だと思ってるんですか、いくら何でも吸いすぎです」
オールド・オスマンの秘書──ミス・ロングビルに咎められる。

「そうは言ってものう、水パイプでも吸わんとやってられんよ」
「例の使い魔の事ですか?」
秘書である以上、起きたトラブルについては把握している。
使い魔の主であるヴァリエール家の三女と、元帥の四男との決闘について。
教師が匙を投げたルイズの爆発を、使い魔が制御したという話も確認している。
事後処理も面倒になりそうだが、もっと気にかかる事をオールド・オスマンに尋ねた。

「強い力を持っていると噂くらいは聞いてますが、どれほどなのです?」
ミス・ロングビルの質問は自分の目的による打算からだ。

「さあ?」
打算はオールド・オスマンの呆気ない一言で打ち砕かれた。
ロングビルが思わず転びそうになるものの、慌てて姿勢を戻す。

「さあ?ってなんですか」
「そう言われてものう、お主とて自分の考えの及ばぬものを評価はできんじゃろう?」
最もな意見だが、答えが曖昧すぎて簡単には納得できない。

「基準を持って比較するとか、例えば……エルフ」
「エルフ程度じゃ間違いなく太刀打ちできんじゃろ」
あっけらかんとした発言に衝撃を受ける。
エルフといえば、一流のメイジ十倍を用意して五分になる戦力の目安。
オールド・オスマンはエルフ『程度』と言い、全く太刀打ちできないと評した。

「なるほど、学院長のため息の理由がわかりました」
納得するとロングビルは立ち上がり、何かを蹴り飛ばす。
放物線を描いて宙を舞うのは、オールド・オスマンの使い魔である白い鼠。

「……ですが、それとこれとは話が別です。何か言い訳はありますか?」
彼女は座っていた椅子を右手で持ち上げる。
金属製の椅子は相当な重量なのだが、羽毛のように軽々と扱っていた。

「軽い気晴らしのつもりじゃった、反省はしてない」
言葉通り微塵も反省していない姿に、ミス・ロングビルは椅子を振り下ろした。

椅子を何度も振り下ろしているミス・ロングビルにも悩みはある。
セクハラを働くオールド・オスマンもだが、彼女の正体は貴族から宝を狙う盗賊『土くれのフーケ』。
この学院に秘書として働いているのは宝物庫を狙ったためだ。

彼女の誤算は二つ。
宝物庫の壁が想像より強固だった事。
生徒の使い魔に強力な妖魔が呼び出されてしまった事。
オールド・オスマン曰く、エルフが相手にならない程だ。

二つの問題を解決する手段を考えなければならない。

(エルフといい妖魔といい、私の人生はなんで良く亜人と関わるのかねえ?)
胸中でハーフエルフの妹を思い出して、郷愁にかられる。
セクハラを働いたオールド・オスマンへの暴行は止めていない。



教師達の問題になっていた妖魔、アセルスにも悩みはあった。
自身の『食事』について。

最初は主としてルイズが血を差し出そうとしたが、アセルスは拒んだ。
理由と問うルイズに血を吸ってしまえば、虜化妖力でアセルスの従属になってしまうと教えた。
渋々納得してくれたが、ルイズが不貞腐れたのも悩みの一つ。

虜化に関してはアセルスは嘘をついている。
肌から直に血を飲まねば虜化妖力は働かないからだ。
かつてジーナはワインに自分の血を混ぜて、アセルスの吸血衝動を抑えた。
ルイズの血を吸うのは、彼女が自分の隣に立つほど成長してからだと決めている。

いくら抑えても、吸血衝動がなくなる訳ではない。
人間を相手に吸血すれば、契約を結ぶルイズの立場が悪化する。
やむを得ないので妖魔の気配を探し当て、そちらで飢えを満たそうとしていた。

従属になるようなら吸血の問題は解決する、敵対されたしてもしばらくの間は空腹を満たせる。

長距離の空間移動を苦手にするアセルスは、細かく距離を刻む。
それでもハルケギニアで最速とされる風竜より早くたどり着けるのだが。

一時間ほど移動して、妖魔の気配がある村が見えてきた。

悩みというのは多かれ少なかれ誰もが持っているものだ。
それぞれの悩みがお互いに関わるとは、この時点で誰も思っていない。



事態はアセルスから動く。
アセルスが村に着いたのは、子夜過ぎ。
相手の妖魔も、アセルスの存在に気付いた。

妖魔の名前はエルザ。
外見こそ愛らしい幼子の姿だが、並の人間より遙かに長い時を生きている吸血鬼。
現在は孤児の振りをして、村の人間達を狡猾に狩っている。

同じ妖魔でも相手の前には、自分など塵に等しいと気づかされる力量。
例えるなら、同じ四足動物でも兎と獅子ほど差がある。
無礼を働かないよう謁見を試みたのだが、彼女はこの選択が間違いだと気づく。

近づいてきた事を察した時点で、逃げるべきだった。
エルザにそう後悔させるほどの威圧、なのに彼女から目を離せない魅了。

「お初に目にかかります高貴なお方。
私はエルザと申します、こんな辺境の村に何の御用でしょう?」
表向きだけでも平静を装えたのは、上出来と自賛したくなる。

「恐れなくていい、何も君を捕って食おうって訳じゃない」
アセルスは警戒させないように告げる。
エルザからしてみれば、胸中を見透かされたようで却って緊張を深めた。

「申し訳ありません、何分弱輩者ですので。
高貴な妖魔と接するのは初めてでございます」
アセルスは見定めるように彼女を眺める。

器量は幼いが悪くない、最低限の礼節もわきまえている。
見窄らしい服をまとっているのは、おそらく孤児を装う為か。
身嗜みを整えれば、それなりに栄える姿になるだろう。

容姿の次に、アセルスは彼女の性質を見極めようとする。

「君はこの村の者を『食事』に暮らしているかい?」
「はい。辺鄙な場所ですが、私のような吸血鬼には都合がよいものですから」
アセルスに妖魔が人間を食料として扱う事への嫌悪感はない。
何も知らない少女の頃ならいざ知らず、人間の負の面を見過ぎた。

「村の者に感づかれていないか?」
「吸血鬼の存在は知っておりますが、私が吸血鬼とは思っておりません。」
エルザはアセルスの真意がつかめずに、ただ村の現状を答える。

「馬鹿者」
短い叱責だったが、エルザは身を竦める。

「村人が吸血鬼の存在を知っているのは何故だ?」
アセルスの口調にほんの僅かな苛立ちが混ざる。
稚児の我侭を戒める程度の怒りだが、エルザを怯えさせるには十分過ぎた。

「村の者に死体を発見されたからです。
その後は騎士が二度派遣されましたが、どちらも返り討ちにしております」
エルザの答えを聞いて、アセルスは苛立ちをますます強める。
理由が分からないエルザはただ震えるしかなかった。

「何か……私が失礼を働いたでしょうか?」
恐る恐る尋ねるエルザを見て、アセルスは溜息をつく。

「いずれ正体が気付かれる」
アセルスは吸血鬼として露呈するのを、時間の問題だと思っている。
その懸念はエルザにもあったので、自らの計画を明かす。

「私の正体を隠すべく、スケープゴートも用意しております」
エルザがこの村で人間を狩る為の論理的手段を明かした。

村の離れに暮らす老婆。
老婆は一人では身体を起こす事すらままならない病人である。
その一人息子のアレクサンドル。
彼を自分の配下となる屍人鬼にしており、老婆を吸血鬼に仕立て上げる計画を告げた。

「茶番だ」
説明を受けたアセルスは一蹴する。

「は……?」
思わず生返事を返してしまうエルザ。
アセルスはエルザの根源にあるものを見抜いていた。

「村人に吸血鬼と思われている老婆が死んだ後はどうする?」
「この村も吸血鬼騒動で人が離れつつあります。村人の伝手で別の村へ……」
アセルスは手の平を向け、エルザにそれ以上は口を開かないよう促した。

「そこでも同じ手を使えば、必ず気付かれる」
繰り返しの作業はいつしか単調になり、必ず綻びが出るものだ。
人間と言うのは目敏い。
危機感を持っていない相手ならともかく、命に関わる以上必ず綻びを見つけるだろう。

「これ以上、人間に手をかけるな」
本性を明かさないエルザにわずらわしくなったアセルスは命令を投げかける。
エルザにもようやくアセルスの本旨が伝わった。

「なぜです!?私が人間を餌にする事と、人間が食べ物を口にする……は同じ……」
声を荒げたエルザの声が詰まる。
アセルスの鋭い目線が反論を許さなかった。
無論、アセルスは人間を食料にする事を責めているのではない。

「『食事』が欲しいだけなら、村人の死体を残す必要はないはずよ」
吸血鬼がいると村人が認識している原因はエルザが死体を残したからだ。
食事だけならば、死体を隠蔽すればいい。
この村には森も山岳地帯もあるのだから姿を消しても、事故にあったと言い訳がつく。

「わざわざ吸血鬼騒ぎを起こして人間を襲ったのは何故?」
「それは……血がより上質になるからです」
エルザの答えに嘘偽りは無い。
彼女にとって、人間の血は恐怖を与えた方が美味に感じられるのだ。

「そうだ、君はただ快楽の為に人間を殺しただけ。
知らず知らず、自らを追い詰めていると気付かずに」
アセルスが見抜いたエルザの本質。
一般的な妖魔にありがちな快楽主義者。
長い刻を生きる妖魔にとって、快楽と言うものは必要不可欠なものである。

ある妖魔は病気を好んで無免許医と言う仕事を行う。
また別の妖魔は人間に興味を持ち、人間の所属する組織で働く。
自らの研究に没頭する者もいる。
ただこう言った例は大抵妖魔の枠から外れた者、人間で言うなら変人の類だ。

共通しているのはどのように己の退屈を潰すか。
人並み以上の力を持った妖魔は、エルザのように安易な殺傷行為へ走る場合が多い。
必要も無いのに正体を知られる危険性を増やし、己の快楽を満たす。

だからこそ、アセルスはエルザを従えやすいと判断した。
自分との力の差を前に、怯えるだけの吸血鬼に優しく手を差し伸べる。

「私はね、君のことを心配しているんだ」
心にもない一言。
しかし、エルザにとって極上の蜂蜜酒のように甘く蕩けそうな台詞。

「このまま破滅を待つか、私に仕えるかは君が選ぶといい」
存在だけで女性を虜にする妖艶さを持つアセルス。
魅了に抗うだけの強さはエルザにない。
ただ炎の灯りに誘われた虫のように揺ら揺らとアセルスの元へ吸い込まれていく。

「いい子だ」
エルザの頭を子供をあやす様に撫でた。
二人の体格差もあって、傍から見ていると姉妹のようにも見える。
アセルスは屈むと、月光に照らされて光る首筋に口を近づけ牙を向けた。

「あっ……!」
嬌声が漏れる。
エルザが感じてきた中でも、比類のしようが無い悦楽。
どのような人間の血を奪っても、これほどの快感は決して味わえないだろう。
しばらくすると、『食事』に満足したアセルスが牙を放す。

「エルザ、君は私のものだ。いいね?」
「……はい」
未だ余韻から抜けられないエルザの姿に満足する。

「まず君に、村でやってもらうことがある」
アセルスは最初の命令をエルザに下した。



──この日、村を騒がしていた吸血鬼は討伐される。

深夜、エルザの悲鳴と共に村人達は飛び起きた。
村人が武器を手にエルザを探すと、身体から血を流したエルザが村の大男アレクサンドルに担がれていた。

武器を手にした若者達は、エルザを助けようとする。
アレクサンドルは自宅の小屋に戻ると、扉を固く閉めた。

恐慌に駆られた誰かが松明を投げ、家の周りに置かれた油瓶に引火。
家は炎に包まれ、焼け焦げた遺体が大小二つ。
小さい方の遺体は身体が切断されてしまっていた。

死体の大きさからアレクサンドルとエルザと判断する。
老婆の死体は見つかっていないものの、村人達は安堵していた。
吸血鬼の死体は、一般的に溶けて消えてしまうと伝承されている。
村で吸血鬼が現れる事は二度となかった為、村人達は歓喜に沸いた。

娘同然の存在、エルザを失った村長以外は……

以上がサビエラ村における、吸血鬼騒動の顛末とされていた。



当然、エルザは殺されてなどいない。
小さい死体の正体は、アレクサンドルの母である老婆。
エルザは自分と同じ大きさになるよう、死体の寸詰めを行った。
余った部分はグールに山へ捨てさせ、死体を事前に焼き尽くしておく。
最後に小屋の藁や油を燃えやすい場所へ配置し、自作自演による芝居を始めた。

松明は村人が投げたものではなく、エルザが念力で放ったのだ。
村は警戒の為に、松明をずっと灯していた。
屋敷が炎に包まれたのを崖の上から確認し、村を後にする。

小屋はいとも容易く燃え落ち、死体の検分も不可能な状態。
仮に替え玉に気付かれたとしても、もう村に吸血鬼はいない。

「君には侍女として仕えてもらおう、いいね?」
「はい、ご主人様」
そこに人間に恐れられた吸血鬼の姿はない。
いるのはアセルスに血を奪われる陶酔に囚われた一人の少女のみ。

返事に満足している彼女は知らない。
自分が忌み嫌った魅惑の君と同じ手段でエルザを従えている事。
彼女を連れ帰ることで、拗ねていた主の機嫌が更に損なわれると……


新着情報

取得中です。