あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

第4話『零』


教室に入れば、いつものようにルイズに罵詈雑言が投げかけられる。
罵倒する声が小さいのが、いつもとの違い。

ルイズの隣に座るアセルスが原因だろう。
その事に気を良くしながらも、心に引っかかるのは自分が魔法を使えない事。

ルイズは今朝は夢見が悪く、早起きしたこともあって外に出ていた。
契約の魔法に成功したことで魔法が使えるようになったのではとわずかな期待を持って。
最も、希望はいつも通り魔法が失敗した為に打ち砕かれた。
ルイズが朝に洗濯物を運んだのは、失敗による汚れのついた服を隠すためである。

強大な使い魔を呼んでおきながら、自分は何一つ魔法が使えないまま。
素晴らしい使い魔さえ呼べば『ゼロ』ではなくなると思っていた自分の浅はかさ。
結局、魔法を使えなければ『ゼロ』のままではないか。

ルイズが自己嫌悪で憂鬱になったところに教師がやってきた。
授業が始まる。
ミス・シュヴルーズと名乗る教師は今年からの担任だ。

「皆さん、春の使い魔召喚は大成功のようですわね。
このシュヴルーズ、こうやって春の新学期に、様々な使い魔達を見るのが楽しみなのですよ」
教室を見回すシュヴルーズの視線が、ルイズとアセルスを捕らえる。

「ず、随分と変わっ……いえ、立派な使い魔を召喚したものですね?ミス・ヴァリエール」
空気を読めない失言に、生徒達から非難の視線がシュヴルーズに向けられる。
昨日アセルスによって被害を受けた太り気味の少年にいたっては、脂汗を大量に流している。

教師であるシュヴルーズは誤魔化すように授業を始めた。
アセルスは授業に興味がなかったために、ルイズを横目で眺めている。
何度も読み返したのであろう手垢まみれの教科書、熱心にメモを取る様子。
勤勉な生徒である事は間違いない。

にも関わらず魔法が使えないというのは何故だ?
ここが学校ならば、教師達は失敗の原因を指摘しないのか?

「……土系統呪文の中でも、錬金は土のメイジの力量を測る最も分かりやすい手段と言えるでしょう」
シュヴルーズが呪文を唱えると、小石は金色に形を変える。

「ご、ゴールドですか!?」
輝きを見たキュルケが身を乗り出す。

「いえ、これは真鍮です。金への練成はスクウェアでなければ難しいでしょう。
わたしは……トライアングルですから」
勿体振って答えるシュヴルーズ。
続いて、生徒の中から一人に錬金をさせるために候補者を選ぶ。

「それでは……ミス・ヴァリエール。貴女にも錬金をやってもらいましょう」
シュヴルーズの指名に教室内がざわめく。
アセルスは蔑んでの行動かと思ったが、生徒達は本気で警戒している。

「ミス・シュヴルーズ、危険です!」
キュルケの警告に周りが同意する。
危険の意味が理解できていないのは教室に二人。
使い魔であるアセルスと教師であるシュヴルーズである。

「失敗を恐れていては何もできませんよ。気にしないでやってごらんなさい」
錬金で失敗したところで精々不完全な金属になるか石のままである。
土のトライアングルだけあり、シュヴルーズの錬金への認識は正しい。
危険というのもルイズをからかう為の言葉としか思っていなかった。

「……やります!」
長考の後、ルイズは立ち上がった。
アセルスに魔法が失敗する様を見られるかもしれない不安はある。
だからといって逃げるのはルイズのプライドが許さない。

ルイズが教壇へ向かうと、周りの生徒達は急いで机の下に隠れた。
中には教室から逃げ出す生徒まで現れる始末。
途中キュルケが止めるよう懇願するも逆効果でしかない。
石の前に立つと、集中して呪文を唱えようとする。

「錬金!」
呪文と同時に、教室は爆発により木っ端微塵に吹き飛んだ。



──爆破された教室に残されたのはルイズとアセルスの二人のみ。
ルイズは教室の片付けを命じられ、アセルスはそんな彼女を手伝っていた。
教室内は静寂に包まれている。
先に沈黙を破ったのはルイズだった。

「なんでよ……」
蚊の鳴くような声だったが、アセルスの耳に届いていた。

「なんで、何も言わないのよ……」
アセルスには彼女の言いたい事が分からない。

「見たでしょ!?私は魔法が使えないのよ!どんな魔法でも使えば爆発する!!」
身体を怒りで震わせてアセルスに叫ぶ。
一度堰を切った感情は止まる事なく、流れ続ける。

「貴女は妖魔の君なのに!強力な魔法が使えるのに!
なんで私なんかに従うのよ!?同情でもしてるつもりなの!?
無様だと思っているんでしょう!自分を呼んだ奴がこんな魔法も使えない落ち零れメイジだなんて!!
涼しい顔して腹の中で笑っているんでしょう!!」
支離滅裂な物言い。
ルイズにはもう彼女が妖魔である事も王族である事にも気遣う余裕はない。
憤りはアセルスに向けてのものなのか、自分自身へなのかルイズ自身にも不明だった。
沈黙を貫いていたアセルスが口を開く。

「……君は自分が嫌いなんだね」
アセルスの声色はどこか儚い。
「好きになれる訳ないわよ!こんな……こんな……『ゼロ』なんか……」
俯いて涙を零す。

──認めてしまった。
自分が何一つ出来ない『ゼロ』であることを。
いや、本当はずっと前から分かっていた。
自分が魔法で出来たことといえば、使い魔を呼び出したのみ。
サモン・サーヴァントで呼ばれたのが、強大な使い魔だった事はルイズを却って追い詰めた。

アセルスの両手がルイズの頬を優しく包む。
俯いたまま泣きじゃくるルイズの顔をゆっくり上げ、眼を逸らさせないようにする。

「ごめんなさい、私は一つ嘘をついていた」
アセルスは左手で剣を鞘から取り出すと、自分の右手に突き刺した。

「な、何してるのよ!」
右手からは血が滴り落ちた様子を見て、慌ててルイズはその手を握る。
急いで治療室に連れて行こうとするルイズを制止して、アセルスは剣を右手から引き抜く。

「妖魔の血は青いわ」
「え……でも」
アセルスの手を握ったことで、ルイズの手にも血が付着している。
血は赤と青が均等に混ざったような色鮮やかな紫。
少し悲しそうな表情を浮かべたアセルスが次の言葉を紡ぐ。

「私は元々人間、妖魔の血を受けて半妖として蘇った。
半分人間、半分妖魔というこの世でたった一人の中途半端な存在になった」
アセルスの台詞だけが二人っきりの教室に響いた。



教室の片付けを終わらせ、昼食には間に合った。
アセルスは食堂ではなく、メイドに頼んでいた洗濯が終わったので服を着替えに行っている。
スカートが着慣れずに落ちつかないらしい。

ルイズは食事にも手をつけず、考え事をしていた。
アセルスから聞いたのは、荒唐無稽な御伽噺にすら思える物語。
しかし、今朝見た夢が事実だと確信させた。
夢は一種の感覚の共有ではないかとルイズは仮説を立てていたが、裏付ける証拠は無い。

アセルスは世界でただ一人の存在、半妖。
人間からも妖魔からも忌み嫌われていた中途半端な存在。
この話を聞いたとき、貴族にも平民にも馬鹿にされ続けている自分と重なった。
だから、ルイズは彼女に答えを求めた。

如何にして周囲の敵意を乗り越えたのか?

「もう人間としては生きられないならば、妖魔として生きるだけ。
そのために、私を血を与えた妖魔との決着をつけに城へと戻ったわ」
アセルスの瞳に黒い感情が揺らめいたのをルイズは確かに見た。

「他の妖魔も人間も全て屈服させるだけの力……私にはそれだけの力がある」
ルイズはアセルスの解決策に絶望した。

「……私にそんな力なんてないわ」
魔法が使えないから『ゼロ』だと馬鹿にされているのだ。
この世界における力とは魔法。
貴族が特権階級となっているのも、平民には使えない魔法を使える為なのだから。

「いいえ、力ならあるわ。ただ気付いていないだけ……」
アセルスの声はルイズの心の奥底に眠っていた仄暗いモノを揺り動かす。

「己の苦悩を周りの世界にまき散らしてしまえばいい。
欲望のまま、君を馬鹿にするものを足元にひれ伏せさせるんだ」
16年間、他人からの悪意を受けて塗り固められた黒い感情を……



「ルイズ!」
名前を呼ばれ、意識が食堂に戻る。
いつの間にか隣にキュルケが座っていたのを気がついた。

「何よ?ツェルプストー」
「何よじゃないわよ、さっきからボーっとして」
思考の渦に飲み込まれていたルイズは全く気がつかなかったが、キュルケは先ほどから呼びかけていた。

「別に大した事じゃないわ、考え事してただけ」
ルイズの返答に納得したキュルケが頷く。
「ああ、また派手に教室を爆発させてたわね」
いつものからかうような表情を浮かべるキュルケ。
彼女は知らない。
軽い冗談のつもりである言葉が、ルイズにある負の面を刺激し続けている事に。

『己の苦悩を周りの世界にまき散らしてしまえばいい』
アセルスの言葉が脳裏に浮かぶ。
それを抑制しているのはルイズが持つ貴族としての誇り。
しかし、膨らみ続ける感情が破裂するのは時間の問題だと気付いていない。



ルイズが昼食を取っている頃、アセルスは一人のメイドを連れて着替えを行っていた。

メイドの名はシエスタ。
彼女は妖魔の君だと説明を受けていた為、アセルスへの対応は細心の注意を払う。

アセルスが着替えるために服を脱ぐと、シエスタは緊張も忘れて見惚れてしまった。
女性相手だと言うのに、アセルスのしなやかな裸体は妖しい魅力に溢れている。

「どうしたの?」
アセルスに声を掛けられて、正気に戻る。

「あ、いえ申し訳ありません!何でもないです」
慌てて頭を振るシエスタを見て、様子がおかしい理由は自分にあることを気付いた。
アセルスは魅惑の君と呼ばれるオルロワージュの血を受け継いだ為に、女性に対して虜化妖力が働く。
彼女も妖力に惹かれたのだろう。

そこでアセルスはルイズに虜化妖力が効いていないと気がついた。
アセルスの近くにいる以上は妖力に惹かれてもおかしくないはずだ。
虜化妖力が通用しないのは同等の力を持つか、精神力を強く持ち続けている場合のどちらか。

精神を強く持つのは何も前向きな感情によるものばかりではない。
ルイズのように他人の悪意を受け続ける事で、負の感情に囚われている場合にも当てはまる。

ふと、アセルスはシエスタがルイズに対して悪意を向けていなかったのを思い出す。
魔法が使えない為にルイズに対して使用人という立場の者。
平民ですら彼女を蔑む事実をアセルスは夢で見た。

だが、シエスタには悪意がない。
ルイズの前で目を輝かせた姿は彼女を尊敬すらしていると言っても過言ではないだろう。

「ねえ」
「は、はい」
シエスタの心臓の鼓動が一気に高まる。

「貴女、ルイズに恩か何かあるの?」
「はい。私は以前ルイズ様に一生掛けても返せない恩寵を頂きました」
シエスタはアセルスにかつての出来事を語り出した。



──今から、半年ほど前。
シエスタは夜遅く仕事をしていた最中、階段から足を踏み外して全身を叩きつけてしまった。
助けを呼ぼうにも、怪我で声を上げる事すらできない。
意識はあったものの、身体を動かそうとすれば激痛に襲われる。
見れば右腕はあらぬ方向に曲がっており、足も折れている事が自覚できた。

シエスタが痛みと孤独に押し潰されそうになる中、人影が近づく。
魔法の練習で外に出ていたルイズが倒れているシエスタに気付いたのだ。

「ねえ、大丈夫!?」
慌てた様子で声をかけられ歓喜の表情を浮かべるシエスタだったが、
彼女が『ゼロ』と呼ばれるメイジであることに気がつく。

シエスタは陰口へ積極的に参加しないまでも、周りに話を合わせた事はある。
その際に彼女を悪く言ったのも一度や二度ではない。
自分が悪口を言っていたメイドだと気付かれていたら……と思うとシエスタは絶望した。

貴族が平民を、まして暴言を吐くような平民を相手に助ける事などありえない。
故郷に残した家族の事が走馬灯の様によぎり、シエスタは意識を失っていた。

──シエスタが次に目を覚ましたのは、ベッドの上だった。
多少の痛みは残っているものの、体を動かせないほどではない。
助かったのだと安堵すると、後ろから声を掛けられる。

「起きたみたいですね」
シエスタが意識を取り戻したことで、治療を行っていた老婆のメイジが診断を行う。

「まだ身体は痛むかもしれないけどもう心配ないでしょう」
怪我が治った事を確認するとシエスタに告げた。

「あ、ありがとうございます」
「お礼なら私じゃなくてミス・ヴァリエールにしてあげなさい。
秘薬の代金を出したのは彼女ですから」
そう言い残して立ち去る老婆。
彼女の言葉でシエスタはようやく気付く。

重傷を治療するなら黄金並に高価な水の秘薬が必須だと。
思わず青ざめると、老婆との入れ替わりでルイズがやってきた。

「あ、あのミス・ヴァリエール!危ないところを助けていただきありがとうございます!」
お礼を言えたもののシエスタはこの後、どうしていいか分からずにいた。
一平民であるシエスタには治療費を払う手段はない。

「ねえ、シエスタ。貴女は平民で私は貴族だって事は知っているわよね?」
「は、はい……」
ルイズの言葉を聞いたシエスタに最悪の想定が浮かぶ。
借金と言う形を取れば、暴利を貪られて一生奴隷扱いという可能性もある。
奴隷制度自体はハルケギニアにおいても、とっくに廃止されている。
最も平民と貴族という階級差がある以上、奴隷の様な扱いを受ける平民の話は珍しいものでもない。

やはり貴族とはそういうものなのだと、シエスタは暗鬱としていた。
しかし、次にルイズの口から出てきた言葉はシエスタの予想を遥かに超えるものだった。

「だから心配しないで、治療費なら払う必要はないわ」
「え?」
シエスタは思わず間の抜けた返事を返す。

「困っている平民を助けるのは貴族の責務よ。
まして重傷を負った者を見捨てるなんて人として恥ずべき行いでしょう」
ルイズの言葉は確かに貴族として本来の義務である。
貴族は自らの領民を保護し、代わりに平民は労働力を提供する。
だが、そんな建前を律儀に守る者はいない。

貴族は金と権力を貪り、平民はそんな貴族のご機嫌取りを行い、気分を損ねたものは処刑される。
平民が事故で死のうが言いがかりで処刑されようが、気にする酔狂な貴族なんてものは存在しない。
シエスタを含めた、平民が持つ身分への認識。
それが今目の前の少女によって、あっさり打ち崩された。

「……ヴァリエール様」
「何?」
突然かしこまったシエスタを見て困惑している。
そんな彼女に構わず、ただシエスタは地面に両膝と頭をつけた。
祖父から教わった、相手へ最上級の敬意を示す姿勢。
シエスタが一般的な思想を持つ平民ならば、自らの行いを暴露しようとはしなかっただろう。

「私はヴァリエール様のように高潔なお方の施しを受けるに値する人間ではありません」
ただ、シエスタは自分が許せなかった。

「私は身分の差も省みず、ヴァリエール様を不当に評価しておりました。
魔法も使えないのに、家柄だけで貴族を名乗っていると」
これほど誰よりも貴族であろうとする少女に対して、周りに流されるままに彼女の陰口を叩いてしまった事を。
命を助けてもらうご懇情を賜りながら、感謝もなしに自分本位な思い込みで彼女に失望した己の卑小さ。
ただ自分に許されるのは頭を垂れ、地に伏せる事のみ。

「知っているわ」
シエスタが驚愕で思わず、ルイズの顔を見上げる。

「貴女の黒髪は目立つもの。
気にしてないわよ、別に中傷してたのは貴女だけって訳じゃないんだから」
自嘲気味にルイズは笑う。

シエスタは涙が止まらなかった。
彼女は自分が陰口を叩いた平民だと知りながら、怪我をしていたと言う理由だけで助けてくれたのだ。
シエスタが『初めて見た』の貴族の姿は何より尊かった。

「ヴァリエール様……この受けた大恩、私には返す手段がありません。
せめて貴女に生涯仕える事で、僅かですが返させて下さい」
涙を拭うことなく彼女の手を強く握り締め、再びシエスタは頭を伏せる。

「貴女の名前は?」
「シエスタといいます」
名前を聞いて、ルイズは少し思慮する。

ルイズにとっては、仕える平民にも誹謗されるのなんて日常茶飯事だった。
しかし、本人を前にすれば取り繕う為の方便を口にする。
魔法が使えないとはいえ、貴族相手に侮辱すれば処罰を受けるのは子供でも理解できるから。

このメイドは自らへの罰を覚悟で侮辱の非礼を詫びたのだ。
その上で、魔法も使えない自分に仕えさせて欲しいと懇願している。

「分かったわ、シエスタ。
貴女が私に仕えてくれるというなら、まず顔を上げて頂戴」
ルイズの言葉通りにシエスタは顔を上げる。

「それと私の事は名前で呼ぶ事、いいわね?」
ルイズが学院に来て初めて見せる笑顔。
その表情にシエスタは心奪われた。



こうしてシエスタはルイズの専属メイドとなった。
ただ学院で専属メイドを取れば、周囲がとやかく言うのは容易に想像できる。
なのでルイズが学院にいる間、シエスタは学院メイドとして働きながら仕える様に命じた。

ルイズの提案にシエスタは一も二もなく頷き、今に至る。

「私は本物の貴族というものをルイズ様に出会って、初めて知ったのです」
嬉しそうにルイズとの出会いを語るシエスタを見て、思わずアセルスはジーナの姿を重ねた。
ジーナと話したのは他愛のない話題ばかりだった。
それでも彼女との会話は息の詰まるような針の城で、
妖魔になった現実を受け入れられずにいた自分にどれだけ心の支えになった事か。

きっとルイズにとっても同じなのだろう。
夢では彼女の笑顔を見ることは一度もなかったのだから。

外が騒がしいことに気付いたシエスタが様子を見に、部屋を出て行く。
アセルスもルイズの元へ向かおうとすると、シエスタが血相を変えて戻ってきた。

「ルイズ様が!ミスタ・グラモンと決闘しているそうです!!」


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